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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第三章 第一回イベントに参加しました
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03-01 第一回イベント始まりました

 それは、とある日曜日の昼過ぎの事。アナザーワールド・オンラインは初の大型イベントを迎えた。ログイン者数は過去最多、イベント参加者の数も八割を超えていた。

 ログインしたプレイヤー達は、始まりの町の中央……広大な広場に飛ばされた。どうやらイベント開始までの間、そこで待機する事になるらしい。


 そこに、ジン達も居た。先日のMPKer三人を倒した際に手に入った装備や素材、スキルオーブ。それらを手に入れた事で、地力はかなり上がっただろう。それにイベントまでのこの約一カ月、レベル上げやスキルの修練に費やして来たジン達。レベルやスキル習熟度も上がっており、準備は万端だ。


「ついにイベントでゴザルな」

 ジンは、いつも通りの忍者スタイル。しかしジンは、システム・ウィンドウの中に切り札を隠し持っている。ユージンが完成させた、《壊れた発射機構》を修復した逸品だ。

「あぁ、いよいよだ」

 その傍らに立つヒイロも、これまでとは明らかに違う部分があった。その右腕に装備した、禍々しい籠手である。

 これはユージンが修復した《古代の手》で、ユニークアイテムに匹敵するスキルを宿した特殊な装備である。


「それでは、進むでゴザル!」

「皆、準備はいいかな?」

 並び立つジンとヒイロが声を掛けると、ヒメノとレン・シオンも笑顔で頷く。

「はい、頑張りましょう!」

「ふふっ……ヒメノさん、気合十分ですね」

「お嬢様も楽しそうですね。私も、同じ気持ちでございますが」


 そんな五人は、当然の如く視線を集めていた。

 [フロウド]サーバーを主な活動場所としているプレイヤーは、慣れたものだ。

「おっ、和装集団だ!」

「やっぱ、五人で組むんだな」

「相変わらず、仲が良いわねぇ」

「どうせだし、近くで戦っているところ見たいわね」


 他のサーバーを拠点としているも、掲示板でジン達の事を知るプレイヤーも少なくない。

「初めてナマで見たわ!」

「実際に見ると、結構あの和装イイな……」

「あれが噂の、ヒメノちゃん……!!」

「おぉー、忍者さんも鎧武者さんもイケメン……」


 そして、初めてその存在を目の当たりにするプレイヤー達も、居る。

「和服!? なに、そんなのあった!?」

「に、忍者……? え、ロールプレイなのかな?」

「ってか刀を持ってるけど、アレどうやったら手に入るんだ!?」

「銀髪の娘も、青髪の娘も可愛い……」

「メイドさんハァハァ」


 ……


 そんな中、ジン達の元へと歩み寄る者達が居た。

「ねぇねぇ、そこの君達。ちょっと良いかな?」

 それは、五人組の男性プレイヤーだった。それなりの装備に身を包んでおり、見た目的にはそこそこの実力はありそうな感じである。

「俺達ですか?」

 ヒイロが返答すると、声を掛けてきた男が鼻で笑う。

「男に用はないよ。そこの女の子達さぁ、俺達と組まない? こんなダサいヤツら、放っておいてさ」

 つまるところ、ナンパである。


 しかし、ヒメノ達がそれに応じるはずもなく。

「え、嫌です」

「はい、嫌ですね」

「慎んでお断り申し上げます」

 当然、即答する三人である。五人組の見た目など、どうでも良い。彼女達は見た目でパーティメンバーを変えるような、そんな軽い性格の持ち主ではないのだ。


 しかし、男達は諦める様子は無かった。

「そう言わないでさぁ」

「パーティは最大の八人が良いだろ?」

「そうそう、モンスターの大群なんだ。安全を優先しようよ」

「大丈夫、俺達はこれでもレベル20を越えたベテランなんだ」

「心配いらないよ。俺が、君達を守るから」

 爽やかに微笑みながら、そんな台詞を吐く男達。しかし、その視線はヒメノやレン・シオンを値踏みするような視線だ。


「ヒイロさん、あちらに行きませんか? イベントの前にストレスを溜めたく無いですし」

 ヒイロに寄り添うように近付いて、上目遣いで提案するレン。無論、仕草も言葉もわざとである。

「あ、あぁ……解った、レンさんが言うならそうしよう」

「あっ、ヒイロさん。私の事はレンとお呼び下さいね?」

 男達に親密そうな所を見せ付けるついでに、自分のかねてからの要望を叶えようとするレン。人差し指を口元に当てて、ニッコリする様は実に可愛らしい。

「えっ? あ、あぁ……」

 そんなしたたかな美少女に、ヒイロはタジタジだ。


 とても良い雰囲気なのだが、無視された男達は溜まったものではない。

「いや、あのさぁ……」

 そう言って近寄ろうとする男だが、その前にヒメノも行動を起こす。

「ジンさん、私達も行きましょう?」

 そう言って、ジンの腕に自分の腕を絡めるヒメノ。それは、まるで恋人同士のように見えた。レンがやるなら、自分も……!! みたいな感じである。

「え……う、うん。ソウダネ……」

 ヒメノの唐突な行動に、一瞬頭が真っ白になったジン。なんとか返事をして、ヒメノに引かれるまま歩き出す。


「あ、あのさぁ……!!」

 声を荒げてヒメノの肩に手を伸ばそうとする男。その眼前に、突然盾が現れた。

「お引き取りを。これ以上は迷惑行為として、通報させて頂きます」

 冷め切ったシオンの声色に、男達は押し黙る。しかし、その表情は雄弁に心境を物語っていた。

 通報されるなんて御免だ。しかし、虚仮にされたままでいるのは癪だ……と。


「ちっ、わーったよ……あ、そうそう。君らがピンチになっても、俺達は助けないから」

 そう言い残して、男達は立ち去っていく。

「器の小さい事です。ご安心を……貴方達がピンチになったのを見たならば、お嬢様達は助けて差し上げる事でしょうね」

 そんなシオンの言葉に、男は歯を軋ませた。

「……クソが、目にものを見せてやるぜ」

 逆恨み以外の何物でもないのだが、男達はそんな事に気付けない。


************************************************************


 それから十分後。待機広場の一角で、ジン達はのんびりと寛いでいた。

「やっぱり、レンさんのお茶を飲む姿は仕草が綺麗です」

「そうですか? ありがとうございます、ヒメノさん」

 レジャーシートに座り、シオンの用意したティーセットでお茶を飲んでいる。本気で、全力で、正真正銘に寛いでいた。めちゃくちゃ目立っているのだが、本人達は気にしない。気にしたら負けなのだ。

「シオンさん、これいつも用意してるんですか?」

「無論でございます、ヒイロ様。メイドの嗜みですから」

「メイドさんって、凄い……」


 そんな緊張感の欠片も感じさせない五人の元へ、また歩み寄る者達が居た。その姿を見たギャラリーがどよめいている。

「やっ、相変わらず目立っているね」

 やって来たのは、ケイン達三人だった。顔見知りの登場に、ジン達は笑顔を浮かべる。

「どうも、こんにちは!」


「お三方も如何でしょう? すぐにご用意致しますが」

 ティーセットが五人分だけであるはずがない、フレンドの分プラスアルファくらい用意している。このシオンさんのメイドっぷりよ。

 そんなシオンの誘いに、真っ先にイリスが乗った。

「お言葉に甘えようよ、ケイン。折角だし、ね?」

 そんなイリスの様子に、ケインとゼクスも苦笑いだ。随分と、ジン達が気に入ったらしい。

「まぁそうだね。ゼクスもいいだろ?」

「おう、折角だしな」

 こうして、ケイン達も場違いなお茶会に参加する事にした。


 それを遠巻きに見ているプレイヤー達は、当然のごとく様子を伺っている。

「あそこだけ、戦闘前とは思えない空気なんだけど」

「優雅にお茶会かよ、ピクニックじゃねぇんだぞ」

「いや、お茶会くらいするだろ? メイドが居るんだぞ?」

「何その発想!?」

「レン様とヒメノちゃんカワユス……」

「和風組と中華組がお茶会してると聞いて」

「おぉ、あれが噂の……」

「めっちゃ和やかだな」

「今日もヒメノちゃんが楽しそうで何よりです」

「というか、あの忍者はいつも忍ばないな」

 注目されやすいジン達が、注目を集めるような事をしていたら? 当然、人だかりが出来る。


「いやー、見られてるなぁ」

「拙者はもう、慣れたでゴザルよ……」

「始まりの町とか居ると、絶対に周りの視線が飛んで来るからね……」

「いや、お前らのそれは慣れというより諦めじゃねぇか?」

 男性四人と女性四人、向かい合ってお茶を楽しむ。そんな姿をスクショするプレイヤーも多数居るのだが、ジン達はその事には気付いていないのだった。


 ……


 そうして寛いでいると、上空に変化が起こった。花火が上がったのだ。

『本日も、アナザーワールド・オンラインにログイン頂きまして、誠にありがとうございます』

 いつも脳裏に流れる、あのアナウンスとは違うが聞こえてきた。マイクで拡声された、別の女性の声色だ。

『これより、第一回イベント【始まりの町防衛戦】のルールをご説明致します。皆様、システム・ウィンドウをご覧下さい』

 その声に従い、待機場に集まったプレイヤー達がシステム・ウィンドウを開く。無論、ジン達もそれに倣った。


 システム・ウィンドウには、今回のイベントのルールが見られる画面が用意されている。その内容は、既に知っている内容……そして、初めて明かされる内容が記されていた。


 まず、既知の内容。

 イベントは、始まりの町を含むフィールドマップで行われる。東西南北にある、始まり町から最も近い村までのマップがイベント戦の舞台らしい。該当するのは、平原や草原・丘となっている。

 ちなみに、途中にあるダンジョンには立ち入る事が出来ないらしい。


 事前に告知されたここまでで、ここからは今日初めて明かされる内容だ。

 モンスターは始まりの町に向けて侵攻し、東西南北に存在する門を一箇所でも突破されたらプレイヤー側の敗北。プレイヤー側の勝利条件はモンスターを殲滅するか、門を四時間守り切る事。


 デスペナルティは、イベント期間中はプレイヤーのドロップは無し。ただし一度目のデスペナルティで、全ステータスが25パーセントダウン。二度目は50パーセントダウンで、三度目になるとイベントマップへの復帰リスポーンが不可になるというものだ。

 ちなみにリスポーン場所は、今居る待機広場である。


 そして今回のイベントにのみ発生するモンスターが存在し、それらは特殊な能力を持っているものが多いらしい。その能力は明らかにされていないが、プレイヤーを苦しめるものである事は想像に難くない。


「四時間の防衛戦か」

「腕が鳴るぜ!」

「デスペナのステータスダウンはキツいな」

「三回死んだらアウトって事だな」

「特殊なモンスターか……狙い目はそれかな?」

「イベント限定だものね。もしかしたら、イベントでしか手に入らない素材とかがあるのかも」

 運営からの通達を受け、プレイヤー達はイベントルールについて相談を始める。


 そんなプレイヤーを余所に、運営が残るイベントルールについて言及した。

『尚、当イベントは貢献度が設定されております。プレイヤーの各行為に貢献ポイントが存在し、そのポイントが高いプレイヤーには特別報酬が贈られます』

 特別報酬が与えられるのは、ランキング上位五十名となる。プレイヤー総数が千八百を越える事を考えると、相当に狭き門だ。


「やっぱ、トップはアークになるか?」

「モンスターを倒せば倒すほど、ポイントは貰えるだろうからなぁ」

「攻略最前線って二十人くらいだっけ?」

「確かそうだな。そうすると、残り三十人に入らなきゃいけないわけか」

「上等だ、やってやるぜ!」


 ランキング入りを目指すプレイヤー達は、早く始めろと言わんばかりに戦意を滾らせる。生産職や商売を主とするプレイヤー達は、ランキングに名前が上がるだろうプレイヤー達の予想を始めていた。


 運営からのルール説明も終わり、いよいよイベント開始時刻が迫る。

『それでは、これよりプレイヤーの皆様を門へと転移させます。イベントの仕様上、それぞれの門にプレイヤーを均等に配置しなければなりません。転移はランダムとなりますので、ご注意下さい』

 運営のそんなアナウンスに、プレイヤー達の間に静寂が広がった。


「……今、ランダム配置って言ったか?」

「……言ったな」

「えっ、もしかしてパーティも分断されるのか!?」

「うおい!! それはもっと早く言えよ!!」

「お、お前ら! とりあえず北に集合な!」

 ランダム配置に慌てたプレイヤー達の怒号が響く。運営に文句を言う者、パーティメンバーに集合場所を伝え合う者、様々だ。


 ジン達もまた、ランダム転移という情報を受けて緊張感を滲ませていた。

「ある程度の貢献度を稼いだら、南側に集合しよう。戦況に応じて変更することもあり得るから、その時はメッセージで伝え合うのでどうかな?」

 ヒイロの冷静な言葉に、ジン達が頷く。

「それで行くでゴザル!」

「はい、私も大丈夫です!」

「解りました、ヒイロさん」

「かしこまりました」


 ジン達の会話を聞いていたケイン達は、三人で視線を交わし頷き合う。

「ヒイロ君、今回も共同戦線を張りたいと思うんだが……」

 ジン達のパーティリーダーは、基本的にヒイロが務める事になっている。パーティ中で最高レベルなのはレンだが、彼女はヒイロをリーダーに推したのだ。

 ケイン達は何度か一緒に探索をしているので、その辺りの事情はよく知っていた。だからこそ、ケインはヒイロに共同戦線を申し出たのだ。


 そんなケインの提案は、ジン達にしてみれば願ったり叶ったりだ。

「えぇ、勿論です」

 ヒイロの返答に、ケインは微笑んで頷いた。

「では、パーティ参加申請を送る。今回もどうかよろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 その瞬間、プレイヤー全員の身体が淡い光を放つ。これが、転移の予兆なのだろう。そんな中、ヒメノがジンに視線を送る。

「ジンさん、あの……」

 ヒメノの表情は、どことなく不安そうだ。そんなヒメノに、ジンは微笑んでみせた。

「心配無用。もし離れたとしても、ピンチの時は駆け付けるでゴザル!」

 ジンがそう告げた瞬間、視界が白に染まっていく。いよいよ、転移が開始されたのだ。


「それじゃあ皆、後で会おう!」

 ヒイロの声が響けば、全員の返事が返る。次の瞬間、ジン達は身体が浮き上がる感覚に襲われた。


************************************************************


 気が付くと、ジンは草原の中に立っていた。周囲には、同じくこの場所に転移されたプレイヤー達の姿があった。背後を振り返ると、少し離れた場所に大きな門が見える。黒い門……これは、北側に設置された門だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

【ジン】Lv19

■ステータス

【HP】86/86≪+20≫

【MP】28/28≪+10≫

【STR】10【-50%】≪+10≫

【VIT】10【-50%】≪+10≫

【AGI】56【+80%】≪+32≫

【DEX】10【-50%】≪+12≫

【INT】10【-50%】≪+10≫

【MND】10【-50%】≪+10≫

■スキルスロット(3/3)

【短剣の心得Lv8】

【体捌きの心得Lv7】

【感知の心得Lv6】

■拡張スキルスロット(3/3)

【九尾の狐Lv6】

【刀剣の心得Lv8】

【分身Lv2】

■予備スキルスロット(5/5)

【毒耐性(小)】

【体術の心得Lv3】

【隠密の心得Lv2】

【銃の心得Lv2】

【投擲の心得Lv3】

■未装備スキルオーブ

【採掘の心得Lv1】

■装備

≪闇狐の飾り布≫HP+10、MP+10【自動修復】

≪夜空の衣≫全ステータス+10【自動修復】

≪探索者のポーチ≫収納上限150

≪大狐丸≫AGI+10【自動修復】

≪小狐丸≫AGI+10【自動修復】

≪狩人の投げナイフ≫DEX+2

≪生命の腕輪≫HP+10、【HP自動回復(小)】

≪狩人のチョーカー≫AGI+3

≪狩人のベルト≫AGI+3

■予備装備

≪オートマチックピストル≫

―――――――――――――――――――――――――――――――


「皆はどこに飛ばされたのかな……」

 仲間達の所在を知る術を求めて、ジンはシステム・ウィンドウを開く。パーティメンバーの欄を確認するが、名前が表示されているものの居場所は見られない。

「あ、フレンド一覧を見てみようか」


 サッとフレンド一覧を確認すると、まず同じ北側にパーティメンバーは居ない。しかしフレンドは二人居て、一人はレーナ。そしてもう一人……それはユージンだった。

 東側にはヒイロとレン、ケイン。そしてレーナ達のパーティのミリア。

 シオンとゼクス、イリスは西側。

 そしてヒメノは南側だった。レーナ達のパーティメンバーであるルナとシャインも、南に居る様だ。

 確認していくと、ジンはある事に気付いた。


――あれ、メッセージ画面のボタンが押せなくなっている?


 イベント中は、メッセージが使用出来ないのか? それとも、何かしらの条件をクリアすれば使用出来るようになるのか?

 ともあれ、今は連絡が取り合えない様だ。


 そんな事を考えていると、ジンの耳にプレイヤーの声が届いた。

「来たぞ、モンスターだ!!」

 始まりの町を目指して侵攻するモンスター……その姿が、遠くに見える。サーベルウルフにキラーホーネット、グリズリーラビットなどなど。獣や虫系のモンスター達である。

 その数を数えようとする者は、誰一人として居ない。数え切れないのだ。地平線を埋め尽くすかのように、モンスター達が走って来ている。その光景は、映画のクライマックスシーンの様であった。


「こりゃあ凄い……よし、死なないように頑張ろう」

 序盤のモンスターは、低レベルプレイヤーでも対応出来るレベルのモンスターである。最初の内に貢献度を稼いでおきたい。

「それじゃあ……いざ参る!!」

 忍者ムーブのスイッチが入ったジンは、早速駆け出してモンスターへ向かって行った。


 モンスターは密集している訳では無く、同時に何十匹も相手にする必要性はなさそうだ。しかし一匹のモンスターに手間取っていると、次々と後続が現れる事になる。そうなれば、囲まれてお終いだ。

「【一閃】!!」

 技後硬直もクールタイムも短く、更にはクリティカル発生率が高いスキル【刀剣の心得】。このスキルは武技が【一閃】のみである。代わりにスキルレベルが上がる事で、【一閃】の性能が上がるのだ。威力向上やクリティカル発生率の向上。そして技後硬直時間、クールタイム短縮。


 そんな使いやすい性能を有する【一閃】だが、ジンが放つ時にはただの【一閃】ではなくなっている。

「はっ!!」

 右手の≪大狐丸≫がヒットし、最初のモンスターを屠った直後の事だ。更にジンは、左手の≪小狐丸≫を振るう。すると≪小狐丸≫でも【一閃】が発動、すぐ側に居たモンスターのHPを削り切った。


 両手にそれぞれ武器を持つ場合でも、武技を発動する事は可能だ。しかし一つの武技につき、片方の武器でしか発動は出来ない。

 だが、対となる武器の場合は違う。二本一組の剣等を使用した場合は、一つの武技を発動するとそれぞれの剣で発動できる。右手で一発目、左手で二発目。それで、一つの武技として扱われるのだ。

 ジンの≪大狐丸≫と≪小狐丸≫は、正にそれであった。


 地に伏す二匹のモンスターだが、ジンは更に加速する。

「【一閃】!!」

 スキルレベルを8まで上げた【刀剣の心得】により、ジンの【一閃】は技後硬直0.5秒となっている。元々技後硬直の少ない武技だが、スキルレベルが上がる事で更に短縮されているのだ。

 そしてジンの【一閃】は、クールタイムが2秒だ。武技のクールタイムは、攻撃が終わってからカウントされるのではない。発動した時からカウントされるのだ。つまり、ジンが【一閃】を発動し、両手で攻撃する間にクールタイムが終わるのである。


 ちなみに【一閃】の効果により、発動時にはステータスもアップする。AGI、STR、DEXが対象だ。

 レベル1では5%だった向上率も、レベル8まで上がれば8.5%だ。ただでさえ速いジンの踏み込みが、【一閃】発動時は更に引き上げられるのである。


 電光石火の早業……まさに、そう称するに相応しいジンの攻撃。となれば、周囲からはどう見えるか?

「な、何だあいつ……くっそはえぇ!!」

「クリティカルをバンバン出してんぞ!?」

「おいおい、もうモンスターを五匹……六匹……いや、まだ止まらねぇぞ!?」


 真っ先に突出した、黒衣の少年。その首には紫色のロングマフラー。彼は両手の小太刀を振るって、モンスターを次々と斬り捨てていく。その姿から連想されるのは、勿論忍者だ。

「忍者さん、マジ忍者……!!」

「すげぇ……なんてスピードだ!!」

「忍者さんかっけー!!」

「ってか、忍者なら忍べよ!!」

「忍びなれども忍ばない!!」


 ジンの異常なまでの速さと、繰り出される攻撃。それを目の当たりにし、プレイヤー達の心に火が点いた。

「俺も負けてられないぜ!! 行くぞおぉっ!!」

「忍者さんに続けーっ!!」

「俺の分を残せよ、忍者ーっ!!」

「うおおおおぉぉっ!!」

 ジンに負けじと駆け出して、雄叫びを上げるプレイヤー達。モンスターの群れとプレイヤー達の群れが正面からぶつかり合い、剣戟の音が響き渡る。後方からは矢が、魔法が放たれていく。


 こうして始まりの町防衛戦が、幕を上げた。

ナンパ野郎達をボッコボコにしたかったのですが、そもそも彼らにこの後の出番が一瞬しか無かった。


次回投稿予定:2020/6/20


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局移動したり合流する動きは起こるんだし態々バラバラに転移させる意味あるの? パーティー単位でも大体の均等割り位出来るだろうしリア友とかとしか話せない人見知りとかだって居るだろうか…
[一言] あくまで私の主観なんですがログイン者数が過去最多なのにイベント参加者が1800人って聞くと過疎ってるのかな?って思ってしまったw
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