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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十四章 第四回イベントに参加しました
286/573

14-12 強襲作戦でした

 ギルド拠点をシオン率いる防衛部隊に任せ、ジン達は三手に分かれて行動を開始した。

 ジンとヒメノ、ヒイロとレン、ハヤテとアイネ……三組のカップルによる、強襲作戦である。


************************************************************


「いきますっ!!」

 ヒメノが射る矢は、武技無しでも相当なSTRが込められている。その証拠に、盾も鎧もアバターも尽く貫いていくのだ。

「嘘だろっ!?」

「ば、馬鹿な……!!」

 プレイヤーもPAC(パック)も応援NPCも皆、ヒメノの放つ矢によって倒れていく。


「いざ、疾風の如く!! 【一閃】!!」

 そしてジンが走れば、クリティカルヒットのライトエフェクトが煌めく。次々と発生するその光は、まるで地上の花火の様だ。

「な、何だとぉっ!?」

「動きが、見えなかった……!!」

 その動きを目で追う事は敵わず、赤いダメージエフェクトを刻まれたプレイヤーが地面に転がる。


「つ、つえぇ……」

「速……過ぎる……」

 このプレイヤー二十八名、PACパック五名で構成されたギルド……【異世界ミッドナイト】の拠点は陥落した。この【異世界ミッドナイト】で、二人が陥落させたギルド数は四つ目である。

「では、ヒメ」

「はい!」

 二人は拠点に立ち入ると、ギルドクリスタルを確認。そして、得物を構える。

「「【一閃】!!」」

 同時に放った【一閃】により、ギルドクリスタルは一瞬にして砕け散る。これで、【七色の橋】に更に100ポイントが加算されたのだ。


「くそ……まるで、歩く災害だぜ……」

 そんな言葉を残して、消滅したプレイヤー。そんな捨て台詞に同意しながら、他のプレイヤーも蘇生猶予時間を消化して消えていった。


「では、次でゴザルな」

「はい! 行きましょう!」

 ヒメノをお姫様抱っこの形で抱き上げたジンは、その重みに口元を緩ませながら駆け出す。

 ヒメノが驚かない様に、最初はゆっくり……ジンの中でのゆっくりだが。そして徐々に速度を上げ、やがて全力疾走へ。


 フィールドを徘徊するモンスターは無視し、一直線に目標地点へ向かう。この為に走り回っただけあり、ジンは迷う事なく次のギルド拠点を補足した。

 そこは、ギルド【ヴァンガード】の拠点だ。


「ヒメ、頼むでゴザル」

「任せて下さい! えっと、プレイヤー五、PAC(パック)は無し……応援NPCは、それなりの数です!」

 ヒメノは【狙撃の心得】で習得出来る【ホークアイ】を駆使し、遠く離れた場所から敵情視察を実行していた。


 しかし、それは特別なスキルでは無い。弓使いならば、優先して手に入れたいスキルなのである。取引掲示板にそれを高額出品しても、僅かな時間で売り切れるのだ。


 そして相手ギルドのメンバーである青年も、それを駆使して周囲を警戒していたらしい。ジンとヒメノが居る事に気付き、目を見開いた。


「あ、見つかっちゃいました」

「まぁ、目立つでゴザルからなぁ」


 従来の≪夜天の衣≫をグレードアップさせた、ジンの≪忍衣・疾走夜天≫。

 紫色がメインな為、派手な色合い故に目立つ。なのでデザインは、そこまで奇をてらうモノではない。


 対するヒメノの新衣装である、≪戦衣・桜花爛漫≫……こちらはセンヤのデザインセンスが爆発した逸品である。

 巫女服らしさを残しつつ、ヒメノのボディラインを最大限に生かした意匠。少女と女性の間を行き来する、そんなイメージを見る者に与える装備となっている。


「あれ……? 相手のプレイヤーさん、こっちを見て固まっていますね……」

「……そう」

 この状況では本来ならば、敵勢力の接近に気付いたのだ。すぐにギルドメンバーにそれを伝え、迎撃態勢を整えるべきである。

 なのに何故、相手は固まっているのか? ジンはその理由を察していた。


――ヒメに見惚れるのは、無理もない。けど、許さん。


 本来ならば、ヒメノのこの姿を見せるのすら嫌なのだ。ヒメノが気に入っているから、我慢しているだけで。

 なので不躾な視線や、下心のある視線で見る者はぜってぇ許さねぇ。


「ヒメ、行くでゴザル」

「はいっ! 頑張りますね!」

 崖の上から跳躍し、相手ギルド拠点に向かう。勿論、お得意の忍者ムーブで。

「【天狐】!!」

 空中を駆けるジンの姿に、ようやく相手ギルドのメンバーは声を上げたらしい。拠点の方から、ざわめきが聞こえて来る。


「いざ!!」

「参ります!!」

 旦那に合わせるこの新妻、実にノリノリである。


 ヒメノを射撃に適した場所へ下ろすと、ジンは一気にトップスピードへ。

 真っ先に狙ったのは、弓職や魔法職だ。

「【一閃】!!」

 VITが低い傾向にある後衛職ならば、ジンのステータスでも戦闘不能にしやすい。そして後衛落としは、ヒメノに対する攻撃を阻止する事にもなるのだ。


 その狙いは的中しており、ヒメノは後衛の邪魔なく前衛を相手にしている。防御力に自信有りといった、前衛職の応援NPC達が一撃で蹴散らされていくのだ。

「やっ……はっ……えぃっ!!」

 弛まぬ努力で習得した、新たな射法。そして【クイックドロウ】を駆使し、ヒメノは短い間隔で矢を放っていく。

「ぎゃあぁっ!!」

「なっ……【トニオ】オォッ!!」

 ついでに貫通した矢で、プレイヤーも落ちたらしい。


「【クイックステップ】!!」

 AGIタイプのビルドである女性プレイヤー【レミー】が、武技を駆使してヒメノに接近する。


――死角、頂きっ!! アンジェ様の為の、犠牲になりなさいっ!!


 どうやら彼女、【禁断の果実】のメンバーらしい。その表情には、勝ちを確信した笑みが浮かぶ。

「【フラッシュストローク】!!」

 武技を発動しながら細剣を突き出し、ヒメノの背中を貫こうとするレミー。

 しかしヒメノは、鋭敏な感覚でそれを察知。弓刀≪大蛇丸≫の飾り部分……いや、防具部分でそれを防ぐ。


「……はぁっ!?」

 弓の持ち手部分、その上下にあしらわれた飾り。これはある物を流用した、れっきとした防具である。

 この防具の元となったのは、ヒメノの所有していたユニークアイテム≪八岐具足≫。つまり弓刀≪大蛇丸≫は弓と脇差≪大蛇丸≫だけでなく、≪八岐具足≫をも合成して生まれたのである。


「【一閃】!!」

 そして、反撃の【一閃】。技後硬直中のレミーは、一瞬にしてそのHPを刈り取られてしまう。

「う、嘘……でしょ……」

 地面に倒れ伏しながら、レミーは混乱していく。

 今のヒメノの動きは、後ろに目が付いているのかと言いたくなるような反応だった。そんな事が出来るスキルなど、聞いた事がない。


――ど、どうやって……気付いたの!? まさか、気配を察知したとでもいうの!?


 ギルド【ヴァンガード】の拠点陥落は、それから間もなくだった。


************************************************************


 一方、【七色の橋】の拠点から西側。点在するギルド拠点を襲撃する二人組がいた。

 現在、攻めているのは【サンシャイン】というギルドである。


「【ソニックスラッシュ】!! うぉぉぉっ!!」

「負けてたまるか!! 【ラウンドスラスト】ッ!!」

 同時に繰り出される攻撃を、彼は手にした大盾で受け止める。

「【ストロングガード】」


 防御に成功したのを確認した瞬間、ユニークスキルの効果を発動。装備が瞬時に変化し、大太刀の姿を取った。

「【一閃】!!」

 二人まとめて、一刀両断。更にそこで止まるヒイロではない。上限までスキルレベルを上げた【一閃】の技後硬直は、一瞬だ。


「はっ!!」

 大太刀のリーチを生かし、周囲を囲む敵を牽制する為の薙ぎ払い。それを喰らうのを避ける為、敵プレイヤーは後ろに下がる。

 十分な距離が開いた瞬間に、ヒイロは右手の武器を更に変化させる。その形状は、アイネの装備に似た薙刀だ。

「たぁっ!!」

 前方に突き出した薙刀の刃が、敵プレイヤーの胸に突き刺さる。


「武器が変化するとか、聞いた事ねぇぞ……!!」

「バカ、決闘イベでもやってたろ!! ユニークスキルかもしれん、油断するな!!」

 比較的冷静なプレイヤーが、防御に徹しながらヒイロの行動パターンを把握しようと務める。まるで、ヒイロというボスキャラクターを攻略しようとしているかの様に。


 しかしながら、相手はヒイロ……ユニークスキル【千変万化Lv10】の使い手である。

 変化可能な【武装一式ウェポンパック】は、初期値の三から増加し十二種になっている。その行動パターンを看破するのは、困難を極める。

「【一閃】!!」

 今度は両手の小太刀による、二連【一閃】。彼等は果たして、ヒイロに倒される前に攻略法を見出だせるのだろうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――

武装一式ウェポンパック

≪鎧・阿修羅≫≪打刀・羅刹≫≪小太刀≫≪大太刀≫≪大盾≫≪短刀≫≪薙刀≫≪蛇腹刀≫≪両薙刀≫≪鉄扇≫≪大筒≫≪火縄銃≫

―――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、相手はヒイロだけではない。最初に範囲攻撃魔法で応援NPCを壊滅させ、残るプレイヤー達を翻弄する蒼銀の令嬢がいるのだ。

「【一閃】」

 パチンと魔扇を畳み、≪刀剣≫属性を持たせて振るうレン。魔法を詠唱していたプレイヤーにヒットし、その詠唱を中断させる。


 彼女はそのまま、くるりと舞う様に回転。その間に右手の≪伏龍扇≫を開き、魔技を発動させる。

「【雷陣】」

 展開される雷光の陣、それに触れたプレイヤー達の身体が麻痺状態に陥る。


 レンは【雷陣】展開と同時に詠唱を開始しており、プレイヤー達の状態異常が回復する前に魔法詠唱は完成する。

「【散】・【サンダージャベリン】!!」

 六人のプレイヤーに向けて、通常の【サンダージャベリン】よりも小振りな雷槍が飛ぶ。


 魔法攻撃において、【ボール】【アロー】【ジャベリン】等は同時発動数を増やす事が出来る。しかし同時発動数を稼ぐには、詠唱時間の追加が必須となるのだ。ちなみに、同時発動数はスキルレベルによって上限が設定されている。


 しかし【神獣・麒麟】の魔技である【術式・散】は、追加詠唱無しでも複数の魔法攻撃が可能となるのだ。その代償として、魔法に込められるINTが減少してしまう。

 とはいえ、使い手は全プレイヤー中最高のINT値を誇るレン。それに加えて【術式・陣】で威力を高められた六分の一【サンダージャベリン】は、並のプレイヤーを容易に屠る威力を秘めていた。


「あ、ありえ……ねぇ……」

「ちくしょう……隙がねぇ……!!」

 地面に倒れたプレイヤー達は、優雅に立つレンを凝視する。そんなプレイヤー達に、レンは一声かけた。

「秘匿していた、【術式・散】を使う事になるとは……皆様の連携は、お見事でした。また、よろしくお願いしますね」

 そう言って、レンはヒイロの援護に向けて歩き出す。より豪華になった和服≪法衣・桃源花蓮≫の裾が、一歩踏み出す度に揺れる。姿勢良く歩く後ろ姿は、美しいという表現がぴったり当て嵌まり……彼等は、目を奪われるしか出来ない。


 惜しむらくは、もう蘇生猶予時間の三十秒が迫っている事。レンが次の行動を開始する前に、彼等はフィールドから一時退去するのだった。


……


 ギルドクリスタルを破壊して【サンシャイン】を下した二人は、拠点を後にしながら会話する。

「疲れは大丈夫かい、レン」

 その柔らかい口調と言葉に篭められた、レンへの思い遣りと愛情。それを感じ取り、レンは笑みを浮かべて頷いた。

「はい、問題ありません。ヒイロさんは大丈夫ですか?」

「それは良かった、俺も大丈夫」


 ヒイロは歩きながらマップを開くと、その内容に苦笑した。

「大混戦だな……どうやら、他のギルドも動いているみたいだし」

「ふふっ、そうでなくては困りますけどね。その為に散々、()()()をしたのですから」

 サラリとそう返したレンだが、その言葉の意味する所……それこそ、この状況に至る為の事前準備だった。


「ジンとヒメは、もう六カ所か……流石、速いな」

「本当に。ジンさんとヒメちゃんが味方で良かったと、何度思った事か……」

 AGI極振り忍者と、STR極振り姫様。この二人のタッグは、プレイヤー・モンスター問わずに圧倒出来る。これがもし敵だった場合、脅威以外の何物でもない。


「でも、私達も負けていませんよ? 私とヒイロさんの相性は、最高ですから」

 少し悪戯っぽい笑みを浮かべて言うレンに、ヒイロはちょっと……いや、かなりドキッとさせられた。小悪魔ムーブ状態のレンお嬢様なのに、言う事はヒイロへの素直なデレ。天使が過ぎる。

 そして、同時に考える。自分とレンの相性……これは、確かに最高と言って良いだろう。

 装備切り替えのヒイロと、近距離も遠距離も対応可能なレン。二人はあらゆる状況に対応する事が可能であり、継戦能力も高い。火力については、論ずる必要など無いだろう。【七色の橋】の主砲の一人、それがレンなのだから。


 そして連携において、そして恋人関係において重要な事。それは、心が深く強く通じ合っている事だ。

 同じ方向を向いて、二人三脚で歩いていく。互いに歩幅を合わせて、相手が歩きやすい様に。ヒイロもレンも、自然体でそれが出来る者同士。互いが互いの実力を、十全に発揮させる事が出来るという事だ。


「あぁ、レンの言う通りだ。俺と君の相性は、ジン達にも負けていないさ」

 そう言って、ヒイロはレンの髪を撫でる。サラサラの髪は触り心地が良く、戦闘で高揚した精神をニュートラルに戻してくれる。

 そんなヒイロの顔を見て、レンは少し悪戯心が湧いて来た。

「あ、ヒイロさん。お顔……」

「え、何か付いている?」

 視線を動かしてみるヒイロだが、自分の顔は見えないだろうに。そんなヒイロに苦笑しながら、レンは頬に手を添える。


「ちょっと失礼しますね」

 そう言うと、レンは背伸びをしてヒイロに顔を寄せ……その唇を奪う。

「……ッ!?」

 触れるだけの口付けを済ませたレンは、口元を緩めてニッコリと笑う。

「付いているではなく、付ける……でしたね。今度は、ヒイロさんからお願いしますね?」

 そう言って、クルッと背中を向けて歩き出すレン。ヒイロが衝撃から復帰して、彼女を追い掛けるまで……十五秒程の時間を要した。


************************************************************


 ギルマスコンビがバカップルしているその頃、三組目……ハヤテ・アイネコンビは、ギルド拠点を陥落させた直後だった。

「あっさりと終わっちゃったね?」

「んー、ファンギルドだとこんなもんじゃない?」

 二人が落としたのは、シルフィのファンギルドである【シルフィ応援団】。姐御好きの集いである。


 余談ではあるが、ファンギルドは今も増え続けている。その多くが、女性プレイヤーのファンギルドだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【忍者ふぁんくらぶ】(参加)

【レン様に仕え隊】

【ヒメノちゃんを見守る会】

【シオンさんを守る同盟】

【アイネちゃんに斬られ隊】

【ヒイロアイドル計画本部】

【ハヤテ君に撃たれ隊】

【俺等の女神はイリス様】

【フレイヤさんの舎弟共(非公認)】

【ダイスさんマジ兄貴】

【レーナさんにハートを撃ち抜かれた者達の集い】(参加)

【ジェミーさんに甘え隊】(参加)

【アーク伝説を広める集い】

【シルフィ応援団】(参加)

【アリステラお嬢様の執事になり隊】(参加)

【ルーちゃん好き好き団】

【シンラ万歳】(参加)

【クロード親衛隊】(参加)

ハラショーハレルヤハルちゃん

【聖女シアちゃんを崇め隊】

【アイテルちゃん俺だ結婚してくれ】

【ナイルたん愛好会】

【今日も明日もトロロゴハン】

【カイセンイクラドンさんの養子縁組待機列】

【リリィちゃんファンクラブ】(参加)

―――――――――――――――――――――――――――――――


 正直、彼等の正気を疑うギルド名である。ちなみにこの中でイベントに参加しているのは、僅かである。残るファンギルドの面々は、観覧エリアでイベントを観戦しているのだ。

 余談であるが、【七色の橋】系列ファンギルドは【忍者ふぁんくらぶ】を除き非参加だ。これは最近の騒動で離脱者が多く、戦力が確保できなかった為である。


 尚、唯一ファンギルドが設立されていない有名プレイヤー……それが、アンジェリカである。何故ならば、彼女のギルド【天使の抱擁】は加入に制限を設けていないのである。

 誰でも加入出来る、有名プレイヤーのギルド。それも、話題沸騰中のネットアイドルのギルドだ。人が流れ込むのも、無理はないだろう。


「次はどこにすっかなぁ……東側だと、【聖光】とカチ会いそうだし」

「そうだね……こっち側は? 主要ギルドは無いから、被らないと思うけど」

 アイネが示したのは、【七色の橋】の拠点から見て南側。ここから向かうならば、然程時間は掛からないだろう。


「んー、そだね。こっち行ってみようか」

「うん♪」

 二人は頷き合うと、移動を開始。その歩みに、気負いは感じられない。


……


 徒歩で十分程かけて、ギルド拠点を視界に収めた二人。物陰に隠れ、ハヤテが【ホークアイ】で様子を窺う。

「うん、行けそうッス」

「ギルド【ベビーフェイス】だっけ? 第二回イベント以来だよね」

 はい、三度目の因縁でした。ちなみに【ベビーフェイス】は、ギルドクリスタルを二度破壊されております。割と、ボロッボロです。


「んじゃ、行こうか」

「了解っ!」

 二人は物陰から出て、【ベビーフェイス】の拠点に向けて走り出す。遠巻きに見えるその拠点は、全く強化されている様には見えない。恐らく、建築物の強化は考慮していなかったのだろう。故に、見晴らしは良い。


 突如姿を見せたハヤテとアイネを見て、ローウィンが目を剥いた。

「な……【七色】だっ!! 敵襲、敵襲ーっ!!」

「クソッ、最悪だ!!」

「怯むな、相手はたった二人だぞ!!」

 プレイヤーは五人全員が揃っており、PACパックは四人。そして応援NPCの数は、四十人程だ。残る応援NPCは五十人なのだが、不在らしい。

 余談だが、リッドのPACパックである【シャダ】は元・冒険者のNPCである。そのお陰で採取系のスキルを保有しており、この場に居ない応援NPCを連れて外出中なのである。


「斉射準備!!」

 弓職のファルスが応援NPCを従え、陣形を組む。彼を含めた十人が一斉に、弓に矢をつがえていく。

 ファルス……彼は本名を【佐木谷さきたに 太郎たろう】といい、学生時代は弓道部に所属していた。故に弓には自信があり、負けは無いと確信している。


「魔法職、詠唱開始!! 火属性で攻めるぞ!!」

 同時に魔法職のパルスは、火属性魔法による魔法攻撃支援を指示した。こちらは応援NPC二十人で、同時に魔法を放たれては厄介だろう。


「行くぞ、突撃!!」

「俺に続けぇっ!!」

 更に長剣使いのローウィンと、盾職のヴォイド。ローウィンのPACパックであるルイスと、ヴォイドのPACパックである槍使い【ダイ】。四人の前衛メンバーが、前衛職の応援NPCを従え前進して来る。

 ヴォイドもファルス同様、盾職としての頑強さには自信がある。彼の本名は【稲田いなだ 茂也しげなり】といい、高校までラグビー部に所属していたのだ。格闘球技であるラグビーで培ったタフネスさと、爆発力。それが彼の自信の源だ。


 五十人と二人の戦闘、数の差は歴然である。しかしながら、その数の差を引っ繰り返すだけの戦略は用意してある。


「お近付きの印に、プレゼントッス!!」

 ハヤテはヴォイド目掛けて、消費アイテムを投擲した。その形状は、黒い金属製の球体だ。ヴォイドが盾でそれを受け止めると、球体が爆ぜて爆発が起きる。

「爆弾……だとぉ!?」

 それは、ミモリ特製の≪爆裂玉≫。その効果は抜群で、威力も高く範囲も広い。


「そーれっ!!」

 アイネも≪爆裂玉≫を投擲するが、狙いは後衛。弓職と魔職が控える場所に向けたものだ。

「な……くそっ!!」

「逃げろ、当たったら一溜まりもないぞ!」

 攻撃準備を整えていた彼等は、飛んでくる≪爆裂玉≫から逃げるように距離を取る。それにより、攻撃動作は中断せざるを得ない。それが二人の狙いである。


「はいはい、狙い撃ちッスよ!!」

 そして≪爆裂玉≫に意識を向けて、逃げ惑う応援NPC。その頭を狙い、ハヤテが≪アサルトライフル≫で狙撃する。恐るべきは、その狙撃精度だろう。ハヤテは走りながらの射撃でも、しっかりとヘッドショットを決めていく。それも、前衛を避けてジグザグに走りながら。


 前衛がハヤテを攻撃するのではないか? と思いきや、それは出来ない。何故なら、それどころではない。

「【一閃】!!」

 応援NPCの前衛の腹を、≪聖剣≫属性を持つ薙刀が一刀両断。いや、真っ二つにはならないけど。ハヤテを狙おうとする者から先に、アイネの刃が斬り捨てていく。

「【スラスト】!!」

 スキル効果によって、一瞬で技後硬直が終わる。アイネは更に武技を発動し、応援NPC達を攻撃する。


 強化された≪聖刀・鏡花水月≫の斬れ味たるや、凄まじい。盾職のVITをもってしても、HPの減りが早いのだ。

「調子に乗るなぁっ!! 【シールドバッシュ】!!」

 アイネの武器は長柄装備であり、懐に潜り込めば与しやすい。そう考えたヴォイドは武技を発動、盾を突き出してアイネに突進する。


「【ハイジャンプ】……からのっ!! 【フォールスラスト】!!」

 アイネは軽やかに跳び上がり、ヴォイドの盾をやり過ごす。そして彼の背中が真下に来るタイミングで、武技【フォールスラスト】を発動……ヴォイドを串刺し状態にした。

「な……っ!?」

「【一閃】!!」

 更にアイネは【チェインアーツ】を発動し、ヴォイドを串刺しにしたまま【一閃】を繰り出す。その連続攻撃により、ヴォイドはHPを全て失い膝から崩れ落ちた。


「調子に乗んなよ、お嬢ちゃん!!」

 アイネの技後硬直を狙い、短剣使いのリッドがその敏捷性を駆使して急接近。彼女の柔肌を切り付けようと、短剣を振り被る。

 リッド……本名【河江かわえ 寛成ひろなり】は、その見てくれ通り昔はヤンチャをしていた。今でこそ落ち着いたが、喧嘩が日常茶飯事だった頃もある。故にその敏捷性と勝負勘には、絶対の自信があった。


 しかしアイネは、薙刀を本格的に学んでいた少女だ。我流の喧嘩殺法が、本物の武道に通用するだろうか。

 それを証明するかの様に、アイネは薙刀の柄を巧みに動かした。薙刀の真髄は、柄も交えた攻防だ。迫り来るリッドに向けて、アイネは薙刀の石突部分を突き出した。

「やぁっ!!」

「な……ぐべぇっ!?」

 その石突部が、リッドの顔面にめり込んだ。刃にばかり集中していたリッドは、何が起こったのか理解できていない。


 しかし、これで終わるアイネではない。

「はぁっ!!」

 更に柄を跳ね上げ、リッドに上を向かせるアイネ。そうする事で、アイネは薙刀の正式な構え……脇構えの体勢を取ってみせた。

「【一閃】!!」

 リッドはAGIタイプの為、VITは大して高くない。だからこそ隙を伺っていたのだが……チャンスと思って飛び込んでみたら、呆気無く返り討ちである。これは悲しい。


 その頃、弓職と魔法職の面々。ハヤテの弾丸を受けて、応援NPC達は戦闘不能。夥しい数のNPCが地面に転がっており、銃弾を受けた痕の赤いダメージエフェクトも相俟って見た目大惨事だった。最も実際に、【ベビーフェイス】的には大惨事だ。

 残っているのは魔職のパルスと、弓職のファルス。そしてパルスのPACパックである機弓使いのカールと、ファルスのPACパックである【エル】だけだ。ちなみにエルは調合職人の生産系PACパックであり、戦闘スキルは所有していない。


「くそっ!! カール、撃て!!」

「アイアイサー、【スパイラルショット】!!」

 機弓から放たれた矢が迫るが、ハヤテはそれを難なく避けて≪オートマチックピストル≫の引き金を引く。

「【アサルトバレット】」

 カールの眉間に弾丸が撃ち込まれ、そのHPは枯渇した。慌ててエルが≪ライフポーション≫を取り出すが、それもハヤテは撃ち抜いてみせる。


「お、おのれぇっ!!」

「こうなったら!!」

 ファルスが走り出し、ポーチから消費アイテムを取り出す。自分なりにハヤテの狙いを逸らそうと考えたらしく、真っ直ぐではなく無軌道に走っている。だが、フラフラと見えてしまうので実に滑稽だった。本人は至って真剣なのだが……。


 それを見て、パルスは気が付いた。ファルスは自分の為に、ああやってハヤテの注意を逸らそうとしているのだ。

 魔法職であるパルスは、詠唱をしなければ攻撃できない。詠唱を開始すれば、ハヤテはその隙にパルスの頭を撃ち抜くだろう。

 しかしながら、魔法職には詠唱無しで発動出来る魔法が一つだけある。ハヤテがファルスに銃口を向けるのを見たパルスは、決死の覚悟で駆け出した。


「喰らえぇっ!!」

 同時にファルスが投擲したのは、≪パラライズポーション≫。それを受ければ、ハヤテは麻痺状態に陥るだろう。

「やだよん」

 最もファルスの手から離れた瞬間に、ハヤテがそれを撃ち抜くという行動を起こさなければ。ほぼ自分の手元で割れた≪パラライズポーション≫は、ファルスの右半身を濡らす。当然、麻痺効果が発動する。


「うおおぉぉっ!!」

 パルスはハヤテに駆け寄り、杖を握り締める。

「【マナエ……」

 魔法名を最後まで宣言する前に……ハヤテが右手を銃の形にしながら、パルスに向ける。

「【フライクーゲル】」

 既に魔力チャージは済ませており、パルスを一撃で倒すに足る威力だった。

「……クス……っ!? な……に……っ!」

 HPを全て失い、身体から力が抜けていく。そのままパルスは、仰向けに倒れた。


「パルスゥゥッ!!」

「はい、お疲れ」

 そのまま≪アサルトライフル≫の引き金を引き、ファルスの脳天を撃ち抜く。これで後衛は全滅だ。

 アイネの方はどうかと、視線を向けると……彼女はギルドマスター・ローウィンと一騎討ち中だった。ちなみにローウィンのHP、既に危険域。アイネは無傷とはいかなかった様だが、それでも九割はHPが残っている。

「くそおぉぉっ!! 【ブレイドダンス】!!」

「【クイックステップ】……【一閃】!!」

 ローウィンの破れかぶれな武技発動を、危なげない動きで回避。そしてすぐに距離を詰め直し、抜き胴の【一閃】。これで【ベビーフェイス】の防衛部隊は、全滅である。


「アイ、お疲れ。大丈夫ッスか?」

「お疲れ様! 掠っただけだから、大したダメージじゃないよ!」

 二人は自然体のまま、ギルド拠点へと踏み込み……そして、守る者が居なくなったギルドクリスタルを破壊。次の目的地を目指す事にした。

次回投稿予定日:2022/1/13(幕間)

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― 新着の感想 ―
作戦名:突撃ラブハート
[一言] SSS(好き好きシアちゃん)がなくてよかったよ…… HHHとかあったけど……
[良い点] キスされたヒイロくん、スタン系のデバフを掛けられた時よりも硬直時間長そうですね 3カップルの行動も配信に載っていたら暗黒の使徒への加入者が増えそう気がががが [一言] なかなかカオスなフ…
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