14-09 お仕置きの時間でした
謎のプレイヤー・ユアンの正体が、生産職の頂点に立つ男・ユージンだった。その事実に衝撃を受けるティマイオス。しかし彼から「お仕置きの時間」と宣言され、その神経を逆撫でされた気分になった。
ユージンが相手でも、勝てる……そう信じているティマイオスは、苛立ちを隠す事なく武器を乱暴に構えた。
「お仕置きだぁ!? ふざけんな、クソが……っ!!」
怒りの形相を浮かべて、威勢よく叫ぶティマイオス。ユージンに向かって駆け出す彼は、短剣を握る手に力を込めた。
――動きは確かに俺より上だが……全くダメージは受けてねぇ! こいつのステータスは、俺より低い!
ゴリ押しして、倒せる相手。彼はそう判断した。
しかし彼は気付いていない……ユージンが【クイックチェンジ】で入れ替えたのは、装備の外見だけではないのだ。
「【クイックステップ】!! 【ラピッドスライサー】!!」
速攻戦術としては、定番の組み合わせ。ティマイオスは、この戦術に並々ならぬ自信を抱いている。
特に第二回イベントでは、多くのトップランカーが使いこなしていた【体捌きの心得】。それを見た観客達は、【体捌きの心得】の有用性に気が付いた。
多くのプレイヤーが、スキル構成に【体捌きの心得】を加えていったのだ。ティマイオスも、その流行に乗った一人である。
しかし。
「【一閃】」
無造作に振るわれた、右手の銃剣≪天竜丸≫。その剣撃は、ティマイオスの短剣……その中心を捉えた。発生するライトエフェクト、そして強い反動。
「はぁ……っ!?」
そして、左手の≪地竜丸≫が振るわれる。銃剣の刀身がティマイオスの身体に触れた瞬間、激しいライトエフェクトが彼の目を眩ませる。
「な……っ!?」
一気に危険域まで低下したHPに、ティマイオスの思考が停止する。低ステータスと侮っていた彼は、クリティカルヒットによる大ダメージで頭が真っ白にさせられた。
先程までの、生産職としての装備……その状態では、確かにDEXが高いだけの状態。その為、ティマイオスにはろくなダメージを与えられない。
しかし、戦闘用の装備を身に纏った今は違う。ユニークアイテムに加え、現時点で最高の状態まで強化された装飾品。それがユージンのステータスを大幅に引き上げ、並のプレイヤーでは太刀打ちできない領域まで押し上げている。
「な、んだと……っ!? て、テメェも何か、不正を……!!」
「君達はいつもそうだね。理解できない事を目の当たりにすると、決まって同じ反応をする。訳が分からないよ」
どこぞの諸悪の根源の様に、淡々とそう言ってみせるユージン。ネタに走るだけの余力があるという事だ。ちなみに、声真似は全然似ていない。
「簡単な事だろう? だって、俺は生産職なんだから。自分の戦闘スタイルに合わせた装備を、自作・強化出来るのさ」
最も、ユニークアイテムは作れないけどね。と笑って付け加えるユージン。
そんな彼の態度が、ティマイオスの神経を逆撫でする。ティマイオスはまるで親の敵でも見るかの様に、憎悪の視線をユージンに向けた。
「そんなでまかせで、誤魔化せると思うなよ!!」
そんなティマイオスに、ユージンはやれやれと首を振って溜息を吐く。
「解った解った、じゃあ企業秘密だが教えてあげよう。俺は……かーなーり、強いんだ」
「ふざけんなぁっ!!」
頭に血が上った様子のティマイオスは、短剣を振り回してユージンを攻め立てる。
その様子を離れた所で見ているミモリとカノンは、同じ事を考えた。
――ユージンさん……煽るの上手いなぁ……。
ユージンはわざとティマイオスを激昂させ、冷静さを失わせている。その証拠に、短剣を振るうティマイオスの動きは単調そのものだ。戦術も読み合いも何も無い、無我夢中で武器を振るだけである。
逆にユージンの動きは、最初から最後までクライマックス。実に冴え渡る、時に大胆であり時に繊細な動きであった。
左右の武器を巧みに使い、ティマイオスの攻撃を躱し、逸らし、捌き、弾き返す。無駄のない、洗練された動きである。
その合間にデコピンしたり、うなじに息を吹きかけたり、膝カックンしたりする。無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きである。
ティマイオスが冷静でも、ユージンに攻撃を当てるのは困難だろう。それは戦闘に不慣れなミモリとカノンでも、見ただけでよく解った。
では何故ユージンは、わざわざティマイオスを煽るのか。その気になればプチッと潰せるというのに。それは……彼の発言から、窺い知れる。
――私達の為に……いや、手段はどうかと少しだけ思うけど。
二人……特にミモリに対する、ティマイオスの蛮行。これは、それに対するお返しだろう。あくまでも正攻法で、ティマイオスを圧倒する。その上で、完膚なきまでに打ちのめす腹積もりだ。
ミモリはユージンの行動の理由を察して、口元を緩めた。
ちなみにユージンが、ティマイオスをコケにするような行動をしている理由……それはミモリが受けた仕打ちが原因だった。
いくら達観しているとはいえ、ミモリはか弱い女性。薬物や劇物で敵を翻弄する事が出来るだけの、か弱い女性なのだ。
そんなミモリを傷付けたティマイオスに、身の程を痛感させるのは言わばオマケ。彼の醜態とあまりにも惨めな姿で、ミモリが受けた屈辱の記憶が何だかどうでも良いものに思わせよう……という意図がある。あとは、彼自身の趣味である。
ティマイオスはかすり傷一つ負わせる事も出来ず、追い詰められていく。怒りで醜く歪んでいたその表情は、次第に翳りを見せていき……現在は、焦り・不安・困惑・恐怖といった感情が、ごちゃ混ぜになった様な表情である。
――な、何だ……? 何で、コイツに当たらないんだ……? 何をしているんだ? 何か、スキルを使っているのか? いや、そんなスキル聞いた事無い……不正か? チート? それとも……。
認めたくない。その一心で、その事を考えない様にしているのに。
――まさか、本当に……何の裏も無い、実力なのか……?
どうしても、その考えに至ってしまう。
ティマイオスの表情に、絶望の色が浮かんだ。それを認めたユージンは、口元を歪ませる。
ここまでは、彼の攻撃を封殺するだけに留めていた。彼がいかに無力なのかを、思い知らせる為に。
では、ここからは?
「そろそろ、こっちも攻撃するけど良いよね? 答えは聞いてない」
「……っ!?」
そう言いながら、ユージンはティマイオスの顔面にハイキックを叩き込んだ。武技でも何でもない、ただの蹴りだ。その衝撃で、ティマイオスは後ろから倒れてしまう。
ユージンは、ティマイオスのHPが危険域になってから……ろくに、攻撃を繰り出していなかったのだ。
「小便は済ませたか? 創世神様にお祈りは? 拠点の隅でガタガタ震えて、命乞いをする心の準備はOK?」
またもネタに走るユージンだが、それに反して底冷えする様な悪寒は更に強まっていく。
ここでようやく、ティマイオスは気が付いた。今この瞬間に至るまで、ユージンは手を抜いていた。
本気では無かった。いつでも自分を屠る事が出来た。自分は、遊ばれていたのだ。自分の存在など、彼にとってはいつでも無慈悲に踏み潰せる……その程度の、存在なのだと。
「回復したいなら、してどうぞ?」
その声を耳にしたティマイオスは、早く身構えなければと身体を起こす。もう、彼を倒そうなどという幻想は抱いていない。せめて、逃亡しなければ。そして、【禁断の果実】に伝えなければならない。
生産職人・ユージンの正体はユアンであり、決して触れてはならない最悪の存在。敵対する事すら許されない、絶望の象徴なのだと。
しかしユージンは、彼に更なる絶望を与える。慈悲など無い、そんなものは蛮族には皆無なのだから。ティマイオスの喉元に、ユージンは銃剣の切っ先を突き付けた。その眼に宿るのは、無の感情。路傍の石を見る様な視線。
「その前に、お前は死ぬ。あぁ、安心したまえ。勿論、ゲーム的な意味での死さ……それとも、そういった物語がお好みかな? アテならば、いくらでもあるぞ」
そう言いながらユージンは、ティマイオスに殺気を向けた。それはありとあらゆる生物に、命の危険を感じさせる強烈な殺気だった。
その視線・声色・言葉の意味合いに、込められているのは絶対零度の殺意。生きとし生ける者の身も心も凍り付かせ、震え上がらせる冷たいものだった。
「あ、あぁ……っ!! うあああぁぁぁっ!!」
尻もちを付いた状態で、ティマイオスは震えて悲鳴を上げる。完全に、心が折れてしまったらしい。
――勝てない……こいつには、勝てない……!! 違う、違う違う違う!! レベルが! 実力が!! 生物としての格が違う!!!
ティマイオスはその恐怖から、立ち上がる事すら忘れて四つん這いで拠点の出口へと向かう。今、彼の脳裏に浮かぶのは恐怖の二文字。
相手は捕食者で、自分は餌以下の塵芥。自分はこれから捕食される。生存本能から逃走を選ぶことしかできない、そんな原始的な思考。
――死にたくない!! 死にたくない!! 助けてくれ!! 嫌だ、恐い!! 助けて!! 死にたくない!! 嫌だ!! 誰か!! 誰でも良い、助けて!!
彼からしたら、ちょっとしたホラーだろう。しかしながら死相すら浮かんで見えるその表情の方が、よっぽどホラーだった。
現に、ミモリとカノンは引き気味である。
そして、もう少しで拠点の出口……という所で、ティマイオスの眼前に刀が突き立てられる。
「ヒィィッ!?」
床板に突き刺さった銃刀を目前にして仰け反った事で、ティマイオスの視線は上を向いた。向いてしまった。
その銃刀に向かって、黒いコートをはためかせて舞い降りるのは……彼だ。
「知らなかったか? 天空王からは逃げられない」
そう言って、音も無く突き刺した銃剣の柄に立つ男……その名は、ユージン。細い足場の上であってなお、彼は微動だにしていない。それが更に、彼の異様さを際立たせる。
「うわぁぁっ!! 来るな!! 来るなぁっ!!」
出口への道を塞がれ、半狂乱になってしまうティマイオス。そして彼は完全に混乱しているのか、ミモリとカノンに向けて叫ぶ。
「助けてくれ!! 殺される!! 殺されるっ!! 悪かった、俺が悪かったから!! 助けてくれぇっ!!」
そんなティマイオスの狂乱っぷりに、ミモリとカノンはドン引きだった。生身の肉体だったならば、涙と鼻水でグチャグチャになっていそうである。
そんなティマイオスの首に、銃剣の刀身が押し当てられた。
「悪かった? そうじゃない、そうじゃないだろう? ティマイオス」
「ひ、ひいぃ……っ!!」
黒い刀身の冷たい感触が、ティマイオスの肝を冷やす。本気で命の危険を感じているようだが……もしこの状態で首を斬られたら、ショック死でもしてしまうのではなかろうか。
「悪かった? 上から目線か、このヤロー。シャー、コノヤロー!! ほれ、悪い事をしたらどーするんだ? ほら、幼稚園で先生に習わなかったか? ほれ、何て言うんだ?」
「ご、ごめんなさい……!!」
「俺にじゃねぇよ、バカ。テメーが傷付けた相手くらい、覚えとけ」
そう言って、ユージンは更に殺気を強める。
「ほら、誰に謝るんだ? それとも死ぬか?」
「ヒッ!? ご、ごめんなさい!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしませんっ!!許して下さい何でもしますどうか命だけはなにとぞなにとぞごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいぃぃぃっ!!」
地面に這い蹲って、何度も頭を下げるティマイオス。その惨め極まりない姿に、ミモリとカノンの表情は引き攣ってしまう。
謝罪の言葉を口にしながら、平伏するティマイオス。その姿を確認し、ユージンはウンウンと頷いた。
「ん? 今、何でもするって……じゃあ死ね」
見逃す? まっさかぁ~。後頭部に銃弾を撃ち込み、ティマイオスのHPはゼロになった。
「何でエェェェッ!? 誤ったじゃないですかアァァッ!?」
地面に突っ伏しながら、必死になってユージンに訴えかけるティマイオス。しかし、ユージンはどこ吹く風だ。
「漢字が間違ってるぞ? いや、ある意味正解か。お前は誤った、そしてそれを謝った。でもな? 謝って済むなら警察は要らんのだよ、ティマイオス」
饒舌に、そして容赦なく。HPが尽きて尚、トドメを刺そうとユージンは言葉を重ねていく。
「それにここ、僕達の拠点。そして、君は敵だ。そこんとこ、オーケー? 哀しいけど、これPvPなのよね……そりゃあ撃つよ」
徹底的にコケにして、惨めに謝罪させて、容赦無く倒したユージン。しかし、”最後の詰め”はここからだ。
「あぁ、そうだ。ティマイオス君、折角こうして知り合えたんだ。次に会えた時は……こっちで遊んであげようか」
そう言って左手に握った≪地竜丸≫の引き金を引く、ユージン。放たれた銃弾は、ティマイオスの顔の間近で発砲音を響かせた。オートマチックピストルよりも大口径の弾丸らしく、地面が大きく抉れた。それを顔の真横に撃ち込まれたものだから、ティマイオスにはダイレクトに音と衝撃が伝わる。
「ヒイィィィッ!?」
再び半狂乱になるティマイオスだが、戦闘不能なので身動きが取れない。
「うん、良い反応だ。次に会える時を楽しみにしているよ、ティマイオス君。また、遊ぼうじゃないか……その時は、もっと楽しい事になるだろうね」
そんな冷たい口調とは裏腹な台詞を、耳元で囁かれたティマイオス。
「×□◎▲……ッ!?」
声にならない叫びを上げながら……蘇生猶予時間を失い、消滅した。
「こんなモンで、大丈夫だったかな?」
ユージンはにこやかに微笑みながら、ミモリとカノンに問い掛ける。そのギャップはあまりにも激しく、カノンは目を丸くしてプルプルと震えている。
「おっと、カノン君? ダイジョブダヨー、オッサンコワクナイヨー」
「逆効果になりそうなので、ストップ!!……十分です、ユージンさん。ありがとうございます」
苦笑しつつ、そう告げるミモリ。
強がったり無理をしている訳ではない……それを察したユージンは、柔らかい表情を浮かべて頷いた。
「気付くのが遅れて、申し訳なかったね。ここからは僕も参戦するから、安心してくれ」
「はい。でも……あまり、やり過ぎないで下さいね」
「オーケー、前向きに検討するよ」
何処の政治家だろうか。どうやらこの生産大好きおじさん、全く善処する気は無いらしい。
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一方、拠点の外。塀の中に突入して来たプレイヤー達を、迎撃する防衛戦力。
「フンッ!! ここから先へは、行かせん!!」
大盾を構える、初老の男性。更に手に握った大太刀で、プレイヤーを軽々と吹き飛ばす。
「何だ、こいつ!!」
「PACなんだろうが……強えぞ……!!」
一般的なPACは、契約するエリアの適正レベルから育成する事になる。それは、エクストラクエストのボスだったPACも同様だ。
しかし、他のPACとは大きな違いが存在する。それは、スキルである。
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スキル【守護騎士Lv7】
効果:STR・VIT+70、HP+70、【ノックバック耐性(中)】
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元・剣聖だった妻と共に、騎士団の先頭に立つ存在だった老兵・ジョシュア。彼は騎士団において、【守護騎士】の異名で呼ばれた男だ。
PAC契約と共にその異名はスキルとなり、彼の性能を強化しているのだ。
それは、他のPACも同様。
「もう一度行くぞ? 耐えられるかえ?」
後衛プレイヤーが固まる位置に人差し指を突き付ける、妖艶な美女。その指に、緑色の光が灯る。
「また来るぞ!!」
「くそぉっ!! 逃げろぉっ!!」
彼女……カゲツの放つ魔法は、他のPACとはひと味もふた味も違う。それから逃れようと、駆け出すプレイヤー達だが……。
「そうは参りません」
執事青年の放った矢が刺さり、その動きを止められてしまう。
「≪パラライズポーション≫を塗った矢でございます」
前菜について説明するかのような、執事らしい言葉。サポーターとしての役割を、見事に果たして見せるロータス。仕上がりは、上々だ。
そして、メインディッシュ。
「【ウィンドピラー】」
地面から上空に向けて、吹き上がる竜巻。それによって、プレイヤーの身体が浮き上がり天高く飛ばされる。
「うぉぉっ!?」
「高い高い高いぃぃっ!!」
飛ばされた彼等はそのまま、地面に向けて落下。高度からの落下ダメージで、HPが散らされてしまった。
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【魔女Lv7】
効果:INT・MND+70、MP+70、【MP自動回復(中)】
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「こうも存分に斬り合える催しとは、心躍るではないか! さぁ、存分に仕合おうぞ!」
大太刀を片手で振るう、銀髪長身の青年……セツナもまた、獰猛な笑みを浮かべて戦闘を楽しんでいた。
そして速さと強さを兼ね備えたセツナは、防御も上手い。彼のエクストラクエストの仕様上、それは当然の事だ。
「くそっ、当たれば倒せそうなのに!!」
「全部防がれる……何なんだ、あの野郎!!」
そう言いながら、攻めあぐねるプレイヤー達。しかしそんな愚痴をこぼしても、戦況は変わらない。
「おい、魔法職!! さっさと倒せよ!!」
後衛の魔法職に、前衛職が怒鳴り散らす。しかし、その罵声は酷というものだ。何せ……。
「そんな事言ったって、当たっても魔法の威力が半減してるのよ! 無理言わないでよ!!」
そう、それがセツナのもう一つの特性である。
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【剣鬼Lv8】
効果:STR・AGI・DEX+80、【魔法耐性(中)】
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そして、そんなセツナと行動を共にするのは……。
「【展鬼】!!」
【七色の橋】が誇る、鉄壁の要塞。美麗な女性であり、和装メイドな彼女だ。
「む、戦鬼の娘よ。某はまだ斬れるが?」
「高威力魔法では、流石に心許ないでしょう。回復は適宜取らねばなりません」
不満を零すセツナに対し、シオンはいつもの調子で反論しながら≪HPポーション≫を差し出す。
それを受け取ったセツナは、それを一気に煽ると口元をグイと拭った。
「まぁ、より長く斬り合えるとなれば異論は無い。某の主の為に……そして、主等の為に剣を振るおうぞ。では、いざ!!」
セツナの今の台詞を、攻めて来るプレイヤー達はどう捉えるのだろう。好感度が順調に上がった事による、それ故の台詞と考えるだろうか。それとも、プレイヤーとPACが心を通わせた結果の台詞だと思うのだろうか。
少なくとも、シオンは……そして、【七色の橋】のメンバーは後者だ。だから、シオンは頬を緩ませて小さく呟いた。
「えぇ、頼りにしております」
そう告げて、シオンも得物を手に駆け出した。
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一方、少年少女組の片割れ。こちらも、激しい戦いを繰り広げていた。
「食らえっ!! 【スパイラルショット】!!」
「やーだよっ!!」
弓職が放つ矢が狙うは、青髪の少女・センヤ。しかし彼女は臆すること無く、駆け抜ける。獲物を射抜けなかった矢は、空を切ってそのまま飛び……不運にも、突入して来たプレイヤーの肩を抉った。
「どこ撃ってんだ、間抜け!!」
「何だと!?」
言い合いを始める別ギルド同士のプレイヤー達を見て、センヤはニッと不敵な笑みを浮かべる。
「ヒビキ!!」
「うん!!」
阿吽の呼吸で、意思疎通を図る二人。それだけのやり取りで、互いがどう動くのかを理解できた。この以心伝心は、幼馴染であり恋人である二人だからこそだろう。
「「【クイックステップ】!!」」
同時に【クイックステップ】を発動し、プレイヤーの集まりの中へと飛び込む。センヤは居合い抜きの構えを取り、鞘から刀を抜き放った。
「【一閃】!!」
プレイヤーの一人が斬り付けられ、HPが減少する……しかし、相手はまだ健在。倒すには至らなかった。
そして、斬り付けられたプレイヤーの反撃。
「この……っ!!」
小柄なセンヤなので、上から武器を振り降ろす形になる。
それも、センヤは織り込み済みだ。刀を鞘に納めながら、彼女は再び走り出す。プレイヤーの剣は、空を切る……かに見えた。
振り降ろす剣の軌道上には、別のプレイヤーが居たのだ。
「おぉっ!? 危ねえだろうが!! どこ見てやがる!!」
「わ、悪い!!」
そして、ヒビキも。
「そこだっ!!」
突き出されたのは、短槍。その突きを篭手で受ける瞬間に、角度を変えて攻撃を逸らす。
「うぉっ!?」
その先には、別ギルドのプレイヤー。短槍が刺さり、HPが減少する。
「テメェッ!!」
「ち、ちが……っ!!」
相手は寄せ集めのプレイヤー達で、連携も何も無い。そこが、付け入る隙だ。
更にセンヤもヒビキも、小柄な体躯。それを活かして、乱戦の中を駆け巡っては同士討ちを狙っていく。流石に被弾はする……だが決定打は避けている為、五割はHPが残っている。
そこへ、癒やしの天使からの援護が飛ぶ。
「【セイクリッドスフィア】!!」
ヒビキとセンヤを囲む様に、聖女の結界が張られる。敵の攻撃を防ぎ、仲間の傷を癒やす……正に、【癒やしの聖女】に相応しい魔法だろう。
そんなPACであるヒナに、プレイヤー達は視線を向けた。
「回復役だ、アイツを先に倒すぞ!!」
「ヒメノちゃんに似てて、やりにくいけど……!!」
ヒナに向けて、駆け出すプレイヤー達。しかし、ヒナは既に次の詠唱を進めていた。それはすぐに完成し、その効果を発揮する。
「【セラフィムビット】!!」
放たれた、二つの球体。それが、最前線を走るプレイヤーに当たる。すると球体がプレイヤーの周囲を回り始め、彼にダメージを与えた。同時に周囲のプレイヤーも、その球体に当たってダメージを受けてしまう。
第二回イベントで、シアも使用したこの【セラフィムビット】。これは集団戦で、特に効果を発揮する魔法だ。継続して範囲ダメージを出せる、実にこの状況に適した効果を持っていた。
「くそっ! 頭に来たぜ!!」
「そっちばっかで、大丈夫?」
そんな少女の声が、すぐ後ろから聞こえた。そして、次の瞬間。
「【一閃】!!」
複数のプレイヤーを纏めて、センヤの刀が斬り付ける。
「【キック】!! はぁっ!!」
再び戦闘を再開するのは、ヒビキも同様。既に二人のHPは、満タンまで回復している。この短時間で回復が終わるのは、ヒナのステータスやスキルが育っている証拠だ。
またも小柄な体躯を利用し、敵集団を翻弄し始める二人。ヒナはその間に魔法でシールドを張り、防御態勢に移行した。
「この……っ!!」
「ちょこまかと……!!」
同士討ちを嫌って、プレイヤー達は囲むのではなく正面から圧し潰す様に陣形を組む。
それが、二人の狙いと知らずに。
「撃てぇ!!」
本丸の屋根裏から、放たれる砲弾。それが、密集したプレイヤー達を襲った。
「くそぉ……っ!! このガキ……!!」
砲弾の攻撃を、何とか耐えたプレイヤー……【掲示板民の俺達】に潜入した【禁断の果実】のメンバー【フラウ】が、ヒビキを叩き潰そうと斧を振り被る。
しかし、ヒビキの動きの方が速い。
「【ナックル】!!」
斧を振り被った体勢のため、防御が間に合わない。所謂、ボディがガラ空きだぜ状態なのだ。ヒビキの拳が腹に叩き込まれ、彼のHPはゼロに達した。
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そしてもう一方の、少年少女組。こちらも殺到するプレイヤーを、尽く捌き、そして倒していく。
「おらあっ!!」
「死ねぇっ!!」
複数の男達が武器を向ける……そんな光景に、心が竦みそうになるマキナ。しかし自分がここで踏ん張らなければ、背後に居るネオンが傷付けられてしまう。
――それだけは、絶対にさせない!!
心を奮い立たせ、マキナは短槍を握り前に駆け出した。
「はっ!!」
相手に武器を振るわせない様に、短槍を巧みに操ってみせるマキナ。剣を振り下ろそうとするなら、肩の付け根を刺して止める。槍を突き出そうとするなら、脇腹を貫いて止める。
強引に押し通ろうとする者は、足元に短槍を突き刺して引っ掛け転倒させる。
そんなマキナの技巧を助けるのは、応援NPCの援護。そして、後方に控えるネオン達……魔法職による、魔法攻撃の支援だ。
「行きます、【ファイヤーボール】!!」
三人の魔法職で、タイミングをずらしながらの魔法攻撃。重視するのは、魔法攻撃による支援を絶やさない事だ。
「魔法職を狙えぇっ!!」
「させません……【一閃】」
後衛に向けて突撃しようとする者達は、いつの間にか迫って来ていたくノ一に斬られる。クリティカルヒットを受けた彼等は足を止め、そこへ魔法攻撃が飛んでくる。
「こいつ、例のくノ一……!? くそぉっ!! PACって、こんなに強いのかよ!?」
彼女を、通常のPACと一緒にしてはいけない。最速忍者の従者にして、数々の戦いを潜り抜けてきたリン……彼女は既に、プレイヤーに引けを取らない高度な動きも出来るのだ。
そして、前に出てプレイヤーを相手取るマキナ。その動きは冴え渡り、彼がこれまで鍛え上げた技巧を余すところなく発揮していた。
「く……そっ!! つ、強い……!?」
「何だ、こいつ……!! 見た事無い奴だが……!!」
マキナはまだ、加入して日が浅い。故に、知名度はまだ低い。
しかし、そんな彼が公の前で声を上げた事があった。その事件は、後方で援護するネオンと共にいる事から思い出される。
――そうだ、この男!! 見覚えがあると思ったら、あの時……【七色】の偽物が騒いだ時の男だ……!!
そこまで考えて、襲撃に加わったプレイヤー……【三國無双】のメンバーである【リオン】は、違和感を覚える。
――そうだ、偽物……! あれは、明らかに【七色の橋】を貶めようとしていたじゃないか。もし、今回の不正騒動もそうなら……?
誰かが、【七色の橋】を嵌めようとしている。考えてみれば、この包囲作戦もそうだ。
こんなにタイミング良く、【七色の橋】の拠点に異なるギルドが一斉に集まるだろうか? 偶然にしては、出来過ぎている。
――くそっ、踊らされていたのか……俺達は!!
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未だ、拠点防衛を突破出来たのは【天使の抱擁】の五名のみ。そして、彼等も既に戦闘不能。【七色の橋】を襲う寄せ集めの集団は、もう残り僅かに思えた。
しかし、それは最初に集まった者達の話。遅れてやって来たプレイヤー達が、跳ね橋に向けて駆け出していた。
「増援みたいですね……!!」
リリィの言葉に、クベラやコヨミも頷く。
「また、四方から攻める気やな」
「まだ第一陣が残ってるのに……!!」
焦りを感じるのは、応援NPCのダナンも同様だ。
「とりあえず、準備をしねぇと……」
慌てて四人は砲撃準備に入るが、不慣れな為に手間どってしまう。
そんな彼等が居る砲撃室へ、ミモリが上がって来た。
「皆、プランGに移行するわ!」
ミモリの伝達を受けて、クベラ達の表情に安堵の色が浮かび上がる。
「G……という事は!?」
それは事前に取り決めていたプランの中、ある要素が欠けていた為に取れなかったプラン。
「えぇ、ユージンさんが参戦するわよ!」




