14-08 幕間・十一月二十日
それはユージン・リリィ・クベラが、【七色の橋】のゲストメンバーとして第四回イベントに参加する事が決まった日の事。
「お返しという訳では無いですが……私のステータスを、皆さんに余すところなくお伝えします」
「せやな、ワイも! まぁ、大したステータスちゃうんやけどな」
「それじゃあ、僕も自分の情報を開示しよう」
ゲストメンバー三人への信頼の証として、ジン達は自分達の情報を公開した。それに対し、三人も自分の情報を開示すると口にした時。
「えっ……ユージンさんも、ですか?」
ジンが、そんな事を宣ったのだ。
「うん、そうだよ?」
ユージンは何でもない事の様に言ってのけるが、ジンは困惑の表情を浮かべたままである。
「その……大丈夫なんですか? 公開しちゃって……」
そんなジンの反応に、ユージンはわずかに目を見開き……そして、苦笑した。
「……おや、まさか気付かれていたのかな?」
二人の間だけでしか、その意図が解らない。そんな状態の為、ヒメノがジンに問い掛ける。
「ジンさん、ユージンさん……あの、何の話ですか?」
そんなヒメノの質問に、ジンがどう答えるべきか……そう考えて言い淀んでいると、ユージンが先に答えた。
「ははは、それはつまり……こういう事だよ。【クイックチェンジ】」
ユージンは片手を挙げて、親指と中指を擦り合わせてパチン! という音を鳴らす。同時にスキルの効果を発動させる、スキル名の宣言。
ユージンの身体が白い光に包まれ……そしてユージンが装備している現在の装備やスキルと、予備スロットに収められているアイテム・スキルが入れ替わる。
白い光が収まったそこには、黒衣の青年の姿があった。第一回イベントで邂逅し、第二エリアのエクストラクエストで遭遇、大規模PKでは救援として駆け付けた男。
DEX極振りにしてユニークスキル【漆黒の竜】を保有する、謎のプレイヤーであるユアンである。
ちなみに【クイックチェンジ】による換装は、何も設定していない場合はランダムに行われる。しかし詳細な設定をしているならば、特定のスキルとスキル……装備と装備を入れ替える事が可能だ。
ユージンは後者らしく、詳細な設定をしてある。生産職のスキルと装備を、戦闘用のスキル・装備に一瞬で切り替える事が出来るのだ。
実はこのスキルは本来、ソロプレイヤー向けに生み出されたスキルだったりする。
ソロプレイヤーの場合、前衛職と後衛職の役割を一人で賄わなければならない場面もある。その為に、瞬時換装スキルが用意されていたのだ。
……
呆気に取られているメンバーに、ユージンは苦笑する。
「こういう訳だ、驚いたかな?」
そんなユージンの言葉は、間違いではない。間違いではないのだが……あるモノが、そのままだ。
「ユージンさん、お髭がそのままですけど……」
ヒメノがそう指摘すると、ユージンは「あっ」と声を上げる。
「ははは、実はコレは付け髭なんだ。消耗品の変装用アイテムでねぇ」
そう言ってユージンは、ペリペリと付け髭を外す。取り払われた付け髭は、光の粒子になって消滅していった。
「ともあれ、この通り……ユアンは、僕だよ」
予想だにしなかったカミングアウトに、ヒイロ達は言葉を失う。無理もないと苦笑いを深め、ユージンはジンに視線を向けた。
「でもジン君、よく気が付いたね?」
そんなユージンの言葉に、今度はジンが苦笑する。
「最初に会った、第一回イベントの時……銃を持っていたじゃないですか。あの時点で、銃の情報を持っていたプレイヤーは少ないと思って」
北側の門を防衛する戦いでユージンは、ジンとレーナの即席タッグに接触した。その際に、彼は銃を持っていたのである。その時点で、ジン達が知る限り銃の製法を知っていたのはユージンのみ。そこでジンは、ユアンがユージンの関係者ではないか? と勘付いたらしい。
しかし、それだけだと確証を得るには至らない。確証を得たのは、二度目の邂逅である。
「確信したのは、第二エリアのエクストラクエストの時ですね」
「え、そんな早かったの?」
意外そうな表情をするユージンに、ジンは苦笑しながら指を一本立てた。
「まず、会った時に「他の五人は?」と聞かれたじゃないですか。あの時、まだハヤテやアイネさんはまだ会った事が無かったはずなのに」
その頃はまだ、ハヤテとアイネが加入して間もない時期。だというのに、彼はいつも七人で行動している事を知っていたのだ。
しかしこれだけならば、掲示板を見れば予想は可能。だが、ジンが気付いた要素はまだある。それが、二本目。
「それと、エクストラクエストが先にあると言った時です。「僕達にも縁深い話」……これで、僕とヒメがエクストラクエスト攻略者だって確信しているんだなって」
ジンの言葉に、ユージンは苦笑いを浮かべた。
「ジン君、探偵とか向いてそうじゃないか? そんな細かい所まで、よくもまぁ……」
しかし、これで終わりではない。三本目の指が立てられたのだ。
「で、コントンリュウオウにトドメを刺す時……「君のお姫様」って言っていたじゃないですか」
「僕、口を滑らせ過ぎじゃない?」
当時はまだ、ジンとヒメノが恋人になったばかりの頃だった。二人が明確に恋仲ではないかと知れ渡ったのは、その当日である。更に言うと、その直前……ジン達はユージンの工房を訪れ、彼にお付き合い始めましたと報告をしたのだ。
これらの要因から、ジンは「ユージン=ユアン」と予想したのである。
「隠しているのは、何か事情があるのかなと思っていたんですけど……」
ジンがそう言うと、ユージンは苦笑しながら手を振った。
「ん? 無い無い、深刻な事情なんて何も無いよ」
彼はそう言いながら、システム・ウィンドウを開いてみせる。前言通り、全ての情報を開示するつもりだろう。
「ただ単に表向きは生産職、裏の顔はそれなりの戦闘職っていう……一言でいうと、影の実力者っぽいプレイをしたかっただけでね」
そう言いながら、彼はシステム・ウィンドウを可視化モードにする。
「じゃ、僕の正体を見破ったご褒美をあげないと。今回のイベント、こっちの顔も含めて全面協力する事を約束しよう」
―――――――――――――――――――――――――――――――
■プレイヤーネーム/レベル
【ユージン】Lv60
■所属ギルド
【無し】
■ステータス
【HP】168≪+120≫(合計288)
【MP】69≪+80≫(合計149)
【STR】10【-50%】≪+80≫(合計85)
【VIT】10【-50%】≪+100≫(合計105)
【AGI】10【-50%】≪+60≫(合計65)
【DEX】143【140%】≪+180≫(合計523)
【INT】10【-50%】≪+80≫(合計85)
【MND】10【-50%】≪+100≫(合計105)
【TEC】10【-50%】≪+60≫(合計65)
■スキルスロット(6/6)
【長剣の心得Lv10】【杖の心得Lv10】【回復魔法の心得Lv10】【支援魔法の心得Lv10】【体捌きの心得Lv10】【感知の心得Lv10】
■拡張スキルスロット(5/5)
【漆黒の竜Lv14】【刀剣の心得Lv10】【銃の心得Lv10】【クイックチェンジ】【クレストエンチャントLv5】
■予備スキルスロット(5/5)
【鍛冶の心得Lv10】【調薬の心得Lv10】【料理の心得Lv10】【彫金の心得Lv10】【木工の心得Lv10】
■武器
右手武器 銃刀≪天竜丸・改参≫DEX+60【破壊不能】【玄の衝撃】固定ダメージ20(銃撃時)
左手武器 銃刀≪地竜丸・改参≫DEX+60【破壊不能】【白の狩猟】固定ダメージ30(銃撃時)
■防具
一式装備≪黒竜の衣・改参≫全ステータス+60、HP+60、MP+60【破壊不能】
鞄≪無限鞄≫収納上限無し
■装飾品(5/5)
右腕≪天空の指輪・魔+10≫【魔杖】【詠唱速度-20%】
左腕≪天空の指輪・武+10≫【技後硬直-20%】【溜め時間-20%】
胸元≪天空の首飾り+10≫VIT+20、MND+20、HP+40
右腕≪天空の腕輪・魔+10≫INT+20、MND+20、MP+20【MP自動回復(小)】
左腕≪天空の腕輪・武+10≫STR+20、VIT+20、HP+20【HP自動回復(小)】
■予備装備
≪カノンのピッケル≫採掘レアドロップ率UP(小)
≪カノンの包丁≫料理成功率UP(小)
≪ユージンのハワイアン衣装≫鍛冶成功率UP(小)
≪ユージンのネックレス≫彫金成功率UP(小)
≪ユージンのサングラス≫
―――――――――――――――――――――――――――――――
※備考
黒竜の衣+黒竜の飾り布=黒竜の衣・改
天竜丸+オートマチックピストル=天竜丸・改
地竜丸+リボルバーピストル=地竜丸・改
次回投稿予定日:2022/1/5(本編)
【ヒビキとセンヤの新装備を描いてみた】
≪戦衣・一心碧天≫
(名前の由来:一心(一つの事に専念する事)碧天(晴れ渡った青空))
軽装鎧≪質実剛健≫
(名前の由来:中身が充実して飾り気がなく、心身ともに強くたくましい様)
篭手≪護国崩城≫
(名前の由来:五穀豊穣(穀物等が豊かに実る事)護国(国を護る)崩城(敵の城を崩す))
≪戦衣・天真葉薊≫
(名前の由来:天真(純粋な性格)葉薊(芸術・技巧・巧み))
居合刀≪勇王舞真≫
(名前の由来:勇往邁進(恐れることなく、自分の目的・目標に向かって、ひたすら前進すること))