14-07 拠点での戦いでした
【忍者ムーブ始めました】をご閲覧の皆様へ。
新年あけましておめでとうございます。
昨年中は大変お世話なりました。本年も何卒、宜しくお願い申し上げます。
新年早々ではございますが……ブチ上げて行くぞ!! 準備は良いか!?
今回のお話は、作者なりのお年玉です!!
ギルド【七色の橋】の拠点。その周囲に、続々とプレイヤー達が集まっていく。
その内の一組……【三國無双】の面々は、視線の先にある物を見て呆気に取られた。
「……城だな」
「あぁ、城だ」
「ちょっとちいせぇが、和風の城だな……」
まず、誰もがその外観を見て同じ事を考える。和風ギルドだからって、そこまで拘るの? と。
内心で呆れながら、彼等は徐々に拠点へと近付いて行き……そこで、ある物に気付く。
「堀があるな」
「あぁ、堀だ」
「結構、本格的だぞ? これは、意外と厄介だな……」
魔法職によって作られた、広く深い堀。これを突破するのは、容易ではないだろう。
堀を越えるのに手間取っていると、すぐに塀の上から攻撃される。上から攻める方が、下から攻めるよりも有利なのは考えるまでもない。
そうなると、矢などを使って跳ね橋をどうにか下ろすのが現実的。しかしそうなったとしても、跳ね橋を渡るという事は一塊になって動く事になる。少人数でそれを敢行しても、跳ね橋の先で囲まれて叩かれて終わりだ。
「和風の城は、伊達や酔狂ではない……か」
「戦国時代じゃねーんだぞ、畜生め」
「だが合理的だ……実際、攻め方が限定される」
どうするべきか。メンバーの内の一人が、何か攻略のヒントが無いかと考え周囲に視線を巡らせる。すると、そこには同じ様に身を潜めている集団の姿があった。
「……ん? おい、他のギルドも居るぞ」
その言葉に、他のメンバーも視線をそちらに向ける。
「あ? マジかよ……」
「【七色】だけでも厄介なのに……」
「いや、待て。ここは一つ、あいつらを利用してはどうだ?」
メンバーの中の一人が、良い事を考えたとばかりにそんな事を口にする。彼こそ、この【三國無双】にスパイとして潜入した【ラングレー】である。
ラングレーの言葉に、仲間は胡乱げな視線を向ける。
「利用? 囮になってもらうのか?」
相手が、自分達の思い通りに動いてくれるか? とても、そうは思えない。しかしラングレーは、それを否定する。
「あいつらと共闘して、【七色】の戦力を削るんだ。その後、ギルドクリスタルを破壊するのは早い者勝ち……これなら、足並みを揃えられると思うんだが」
自分達は、五人しかいない。しかし、それは付近にいる他ギルドも同様だ。
「……確かに、【七色の橋】は異様な力を持つようだからな。不正云々はさて置き、手強いのは間違い無い」
「……あ、あいつらが何かしてるぞ? ハンドサイン?」
「一旦下がって、相談しようって事かな?」
「……よし、応じるぞ」
……
【七色の橋】の拠点を、四方から囲むギルド。それは跳ね橋が四方に設置されているからだ。
その数はどんどん増えていき、結果として二百人程の規模となっている。
四箇所に分かれた彼等は、それでも五十人。寄せ集めとはいえ、大人数での作戦行動となる。
「確認するぞ? あの跳ね橋のロープを、【フレアショット】で焼き切って下ろす」
「その後、盾職でゴリ押しして突入。まずは戦力を削る事を優先だな」
「ギルドクリスタルは、早い者勝ち……フライングした奴から、落とされると思えよ」
「よし……行くぞ!!」
開戦を告げるのは、放たれる矢。武技【フレアショット】の火矢が、跳ね橋のロープに向けて飛んでいく。その内のいくつかが、ロープに火を付けた。
重みと炎で焼き切られたロープ。その支えを失い、跳ね橋が勢い良く下りていく。跳ね橋が降りた事により発生した轟音と共に、砂煙が上がった。
「突撃だ!!」
「っしゃあ!!」
「やってやるぜ!!」
「不正集団を、ブッ潰せ!!」
「大物狩りだぁ!!」
五十人が一斉に跳ね橋へと殺到し、武器を掲げて拠点内へと突入する。
「今や!! 撃てぇっ!!」
それを出迎えたのは、【七色の橋】からの先制攻撃だった。
跳ね橋の終点へと向けて撃たれたのは、大砲。拠点の本陣……城風の建築物の中から、放たれる砲弾だ。
「な……っ!?」
飛んでくる砲弾に、慌てて撤退しようとするプレイヤー達。しかし跳ね橋の終点は狭くなっており、立ち止まったプレイヤー達によって後続が次々と足を止める。そうして、人垣となり即座撤退が困難になっていた。
結果、着弾した砲弾によって発生する爆発。それに巻き込まれ、纏めてノックバックと固定ダメージを食らう。
「うぉぉっ!?」
「くそっ……!!」
この砲撃によって真っ先に倒したかったのは、AGIタイプの速攻性のあるプレイヤー……そして弓職・魔職といった後衛プレイヤーだ。
これらのビルドはVITを重視しないので、大砲の固定ダメージであっさりとHPを散らしてしまった。
その様子を建物の中から見て、砲撃を行った面々が声を上げる。
「うわぁ! 大砲を撃ったの初めてですよ、私!」
「私もそうですね。まぁ、当たり前ですけど……」
四方に配置された跳ね橋を突破して来た、敵勢力。それを狙い撃ちにすべく、跳ね橋終点に砲塔を向けた四門の大砲。
それを操作したのも、当然四人だ。
「二人は、あまり身を乗り出さないようにせんとな。バレてまうで」
「それもそうですね」
「おっと、そうでした!」
そして、もう一人。
「……す、すげぇんだな……あんたら……」
応援NPCの纏め役が、眼下で繰り広げられた先制攻撃の成果に目を丸くしていた。
そして、そんな砲撃で跳ね橋の方へと押し戻されたプレイヤー達。それを確認して、行動を開始するのは……塀の上に潜んでいた、応援NPC達である。
「今だ!! 攻撃開始!!」
「おおーっ!!」
「待ってました!!」
応援NPC達による、頭上からの投石攻撃だ。これによって、プレイヤー達は苛立ちを滲ませる。
この攻撃の本当の狙いは、大砲で倒れたプレイヤー達の回復を阻止する事である。ちなみに投石攻撃をする彼等は、拠点強化を担当していた生産職だ。
「ちっ……!! 予測されていたか!?」
「くそ……っ!! 小癪な真似を……!!」
「落ち着け、大したダメージじゃない!」
「そうだ、無視して突っ込めば……! いや、おい! あれを見ろ!」
一人が拠点の方を指差すと、そこには応援NPCとは異なる風体の者達が姿を見せた。
「行くよーっ!!」
「うん、ここは僕達が守る!!」
「よぉし、援護しますよ!」
活発そうな青髪の美少女と、黒髪の美少女……に見える少年。その後方に控えるは、杖を持った姫君の妹だ。
「さて、出番だな」
「うむ、存分に暴れさせて貰おうぞ!」
「お嬢様のオーダーです、全力を尽くしましょう」
大太刀と大盾を装備した老兵。その後ろに控えるは、黒い和服の妖艶な美女と眼鏡を掛けた執事服の青年だ。
「それじゃあ、行こう」
「はいっ、頑張りますね!!」
「お任せ下さい、私が援護致します」
短槍を両手に備えた青年に、傘を手にした桃色の髪の美少女。そして黒髪ポニーテールの、くノ一衣装の美女。
「では参ろうか、戦鬼の娘よ」
「はい、宜しくお願い致します」
銀髪を後頭部で結った男、和装メイド服の金髪美女。
応援NPCを伴って、拠点前で迎撃の構えを見せる【七色の橋】のメンバー達。その姿を見て、プレイヤー達の内の数名が声を上げた。
「出たぞ!! 不正をした奴等だ!!」
「こんな投石に怯むな! 奴等に突っ込むぞ!!」
それは反【七色の橋】の感情を煽る、【禁断の果実】側の煽動だ。それに反応し、前へと突っ切るべくプレイヤー達が構えてみせる。
「かかれーっ!!」
『うおぉぉっ!!』
号令と共に、一斉に駆け出す包囲軍。それを受けて、【七色の橋】側は応援NPCと共に迎撃を開始した。
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そんな乱戦状態の中で、数名のプレイヤーが跳ね橋の外に集まっていた。
「よし……【ハイド・アンド・シーク】」
パーティ五名が隠密状態になり、慎重に【七色の橋】の拠点へと接近していく。
塀の上に居る応援達は、誰も気付いていない。それに満足する事なく、彼等は跳ね橋を渡り切った。
四箇所で繰り広げられている戦い、その隙間を縫って拠点へと移動。後衛をここで攻撃するのも良いが、それよりもやる事がある。
――ギルドクリスタルを破壊すれば、ギルドポイントが更に増える。【七色の橋】のギルドクリスタル破壊は、ポイントだけでなく意味合いも大きいだろう……。
彼等は【天使の抱擁】に所属する、スパイだ。ギルドメンバーに馴染みながら、彼等がアンジェリカを裏切らない様に監視する。
またこうして影に潜んで事を成すのも、彼らの役割である。
隠密状態でこっそり拠点に入った、【禁断の果実】のスパイ達。そんな彼等は、予想外のダメージを負うことになる。
「……むっ!?」
「【隠密】が……切れた!?」
五人が拠点に立ち入ると、即座に【ハイド・アンド・シーク】が解けてしまう。
「引っ掛かったわね!! カノン!!」
「うんっ……っ!! 【グランインパクト】!!」
待ち受けていたのは、【七色の橋】の調合職人であるミモリ。そして同じく、鍛冶職人であるカノンであった。
この【ハイド・アンド・シーク】による隠密状態……これが解かれる条件は、攻撃を受ける事である。それによってスキル効果が強制終了され、隠密状態が解除する。
そして、【七色の橋】の拠点……その入口には、細い針をいくつも刺してあるのだ。これを踏むだけでも、攻撃を受けたと判定されるのである。たとえダメージが無くても、だ。
姿を現したプレイヤー達に向けて投げられた、カノンのハンマー。それが一人に命中し、そのHPを半減させる。
「このっ……!!」
待ち受けていた二人に対し、威嚇する様に武器を構える残り四人。しかしながら、彼等はもう少し警戒するべきだった。
「たかが生産職、まとめて……うごあぁっ!?」
至近距離で発生した、爆発。それによって、五人のHPが更に減る。カノンが投げたのは、爆弾搭載ハンマーだったのである。
「それっ!!」
更に、追撃の≪パラライズポーション≫。ミモリの得意とする投擲技術により、絶好の位置に投げられたそれが地面に落ちる。割れて飛散した薬液が掛かり、五人中四人が同時に麻痺状態となった。
「【ヘビーインパクト】ッ!!」
再び投げられた、爆弾ハンマー。しかし、麻痺しなかった者が一名居た。その男の名は、【ティマイオス】。短剣使いの斥候職であり、彼は【麻痺耐性(中)】を保有していた。
ティマイオスは麻痺から免れたと察した瞬間、武技を発動する。
「【クイックステップ】!!」
彼は【クイックステップ】で一気に距離を詰め、二人の背後まで駆け抜けた。
その時ハンマーが爆発し、他の四人のHPを全て消し飛ばす。カノンとミモリの意識は、そちらに向いてしまっていた……故に、ティマイオスの接近に対する対応が遅れてしまう。
その隙を見逃さず、ティマイオスは武技名を宣言しながら短剣を振るった。
「【ラピッドスライサー】!!」
「きゃあっ!?」
十度斬り付けられ、カノンのHPが残り四割まで減少してしまった。
その様子を見たミモリが、太腿に巻いたポーションホルダーから試験管風の瓶を抜き取って投げようとする。しかし、それもティマイオスはお見通しだった。
「しゃらくさいっ!!」
ミモリの腹を蹴り、バランスを崩させる。そして、追撃の短剣攻撃。彼は決して、特筆すべき実力の持ち主という訳では無い。だがやはり戦闘を専門にするプレイヤーと、生産を専門にするプレイヤー……その差は、大きい。
ミモリとカノンは、手も足も出せずにHPを削られ続け……そして、ついにゼロに達してしまう。
「……くっ」
「皆……ごめんね……」
倒れる二人を見下して、ティマイオスは忌々し気に鼻を鳴らす。不正をした【七色の橋】……実際は誤解なのだが、彼の中では不正は事実として考えられている。そんなギルドのメンバーが、汚らわしい存在の様に思えたのだ。
そうして、彼は最悪の行動に出た。ギルドクリスタルを破壊するよりもまず、二人に屈辱を与えようと考えたのである。
口元を歪めたティマイオスは、地面に倒れるミモリの腹を蹴り付けた。
「う……っ!?」
うつ伏せに倒れていたミモリは、床を転がされて仰向けの状態になる。それを見下したティマイオスは、彼女の腹を踏み付けた。
戦闘不能になった相手を攻撃する行為……所謂、死体蹴りである。当然ながら、これはマナー違反だ。痛みは感じないが、精神的な衝撃は如何程のものか。
「な、何を……!!」
カノンがその蛮行に驚愕と困惑したが、ティマイオスはそれを見下しながら吐き捨てるように言う。
「フン、不正をしたギルドの人間なんて、ゴミ同然だ。こうされても、文句は言えないだろう?」
得意気に、そして愉悦を滲ませた発言。それを口にしたティマイオスは、空気に酔っていた。
――そうさ、こいつらは不正をしているんだ……なら、何されたって文句は言えない!! これは、粛清だ……!!
ティマイオスがそんな事を考えた、その瞬間。ティマイオスの背筋に、冷たい何かが駆け巡った。
同時に、得体の知れない息苦しさを感じる。更に、心臓を鷲掴みにされたような感覚。アバターという、仮初の肉体である事を忘れさせる。
――な、何だ!? 何が……!?
その思考は、強制的に中断される。彼の襟首を何者かが掴み、そして強引に引っ張ったのだ。
それによって、彼は勢い良く後方に飛ばされて壁に叩き付けられた。
「人が疲れて仮眠を取っている間に、好き勝手してくれるじゃあないか」
その男は、ミモリとカノンの側に寄ると手にしたポーションを振り掛けた。
ハイビスカス柄の甚平に、サングラスを掛けた男……彼は、生産職人の頂点とされるプレイヤーである。
「あ……ありがとう、ございます……」
「済みません、ユージンさん!! ミモリ、大丈夫!?」
人見知りを忘れ、屈辱的な行為を受けた親友を心配するカノン。そんなカノンに、ミモリは力なく微笑む事しか出来ない。
「く……っ!! ユージン、だと!? 何で、生産職のトップが……!!」
ようやく、謎の息苦しさから解放されたティマイオス。彼は短剣を構え直し、ユージンもこの手で始末しようと駆け出そうとする。
だがユージンが、首を動かして横目で自分を見た瞬間……動きを止めてしまう。
――さっきのは、こいつか……!? 何かのスキル!? まさか、チートか!? こいつも【七色】の不正に加担してんのか……!?
ティマイオスは見当違いな事を考えながら、震えて立ち竦む事しか出来ない。
そんな彼に対し、カノンが険しい視線を向けてハンマーを取り出す。怒りのままにそれを投擲しようと、力を込めた時だった。
「え……? ユ、ユージン……さん?」
カノンの動きを制止したのは、ユージンの手だった。
カノンは「止めないで下さい!!」と言おうと口を開きかけるが、その前にユージンの言葉の方が早かった。
「ここは僕に任せて欲しい」
彼はそう言うと、ミモリの髪に手を伸ばし……そして、優しくその頭を撫でた。
「しっかり、お返しをしてみせる。だからカノン君は、ミモリ君を頼むよ」
そう言って、ユージンが立ち上がる。
「は、ハンッ!! 生産職ごときが、戦闘職に勝てると思ってんのか!? ヒゲグラサンがっ!!」
得体の知れない恐怖に抗おうと、虚勢を張るティマイオス。しかし、そんな彼の言葉でどうこう出来る相手ではない。
「まぁそう言わず……付き合ってくれたまえ」
そう言うと、ユージンはティマイオスに向けて駆け出した。
――武器無しで、やろうってか!? 舐めてんじゃねぇ!!
「死ねッ!!」
短剣を振るうティマイオスだが、ユージンは片手を伸ばし短剣を握るティマイオスの手を抑える形で止めてみせた。更にそのまま、ティマイオスの顔面に掌底を繰り出す。
「ぐっ……!? このっ!!」
蹴りを入れようと左足を振り上げると、それに対し戻した右手の肘で止める。そのまま、固く握った右拳を腹にめり込ませた。
更にユージンは、ティマイオスの攻撃を躱しては肉弾戦を仕掛け続ける。
短剣を紙一重で避け、喉に手刀を叩き込む。蹴りを放とうとすれば足の裏で脛を押さえ付け、目潰しを食らわせる。怯んだ所へ、無慈悲に股間を蹴り上げる。更に膝の裏にローキックを食らわせると、体勢を崩してしまったところへ延髄蹴り。
ユージンは普段の優しげな態度を微塵も感じさせず、中々に容赦無い攻撃を浴びせていく。
延髄蹴りを食らったティマイオスは、その勢いのまま地面を転がった。ユージンから距離を取って起き上がると、顔を醜く歪めて彼を睨む。
ユージンは尽く攻撃を躱しては、痛烈な反撃を仕掛けてくる。実力差……それが、嫌でも解らされたのだ。
「こ、このクソオヤジ……ッ!! 舐めた真似しやがって、痛くも痒くもねぇがよぉっ!!」
苛立ちが最高潮に達し、顔を醜く歪めて叫ぶティマイオス。そんな彼に、ユージンは真顔で頷く。
「痛くも痒くも無い……か。今の状態では、そうだろうとも」
それは酷く、冷たい声色。
「だが、君は今ので解っただろう? 痛みはなくとも、心は違う。君の行いによって、ミモリ君は屈辱を受けたんだ」
普段の彼を知る者ならば、それがよく解る。
「さて、一つ君は体験学習が出来たね。自分がされて嫌な事は、他人にしてはならない。これで君は、一つ賢くなったんじゃないかな。では、ここからは……」
そう言うと、ユージンはサングラスを外した。
「【クイックチェンジ】」
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【クイックチェンジ】
効果:装備品・スキル構成を、予備スロットの物と入れ替える。消費MP10。
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ユージンがスキル名を宣言すると、彼のアバターが白く光を放つ。そしてその光が時計回りに回転し、右側へと消えていく。その間、ユージンのアバターは黒く塗り潰された様な姿となっている。
すると今度は左側から白い光が現れ、再びユージンのアバターが白い光に包まれた状態となった。その光が一際輝き……そして、硝子の様に砕け散る。
「な……っ!?」
ティマイオスは、愕然とした。今のユージンの姿に、彼は見覚えがあったのである。
金色の縁取りが施された、黒いコート。その中に着込んでいるシャツも、パンツも漆黒。その腰に下げているのは、銃と刀が融合した異型の装備。
オールバックにしていた髪の毛は下ろされており、少し癖っ毛なのか毛先がはねている。
ティマイオスは、驚きのあまり言葉を失って動けない。そしてユージンは、彼がよく言う台詞を口にした。
「さぁ、お仕置きの時間だ」
……
「あの、ユージンさん……ま、また……お髭が、そのまま……です、よ?」
「え? あっ、いっけね」
カノンに突っ込まれ、ユージンは口元へと手を伸ばす。髭の端っこを摘まむと、ペリペリとそれを剥がした。
剥がされた髭は、付け髭だったらしい。つまり、ユージンの本来のアバター……それは、今のユアンとしての顔が素顔だったという事だ。
「ユ、ユアン……だとぉ!?」
漆黒の装束を身に纏う、謎のプレイヤー。第一回イベントで活躍した男の名と風体は、AWO中に広まっていた。そんな相手が、突然目の前に現れたのだ。ティマイオスの困惑も、無理はない。
「それ、偽名なんだ。悪いね」
悪いといいつつも、ユージンは悪びれた様子を感じさせない。刀と銃を融合させた得物……≪天竜丸≫と≪地竜丸≫を抜き、右手に握った≪天竜丸≫の切っ先をティマイオスに向けた。
「それでは改めて、一般常識のお勉強はここまで……俺の仲間を傷つけた借り、熨斗を付けてお返ししよう」
今度こそ……【漆黒の竜】ユアン改めユージンによる処刑宣告が下される。
「さぁ、お仕置きの時間だ」




