14-04 拠点が強化されました
【七色の橋】のギルド拠点で、ヒメノが【暗黒の使徒】を返り討ちにしているその頃。
ギルド【遥かなる旅路】もまた、他のギルド……【獲物ヲ屠ル狩人】との戦闘を繰り広げていた。
布陣は【遥かなる旅路】プレイヤー三名にPAC一名、応援NPC六名の十人。それに対し、【獲物ヲ屠ル狩人】はプレイヤー五名にPAC三名、応援NPCは無し。
「行くぜ、【フェイタルスラッシュ】!!」
「ぐおっ!? くそっ、やはり強い……!!」
戦況は、【遥かなる旅路】が優勢だった。
【獲物ヲ屠ル狩人】はメンバー二十五名で、ギルド名の割にはエンジョイ勢のギルドである。
どれくらいのエンジョイなのかというと、ギルドホームで実況配信者の動画を見て盛り上がったり、買って来た料理を堪能して盛り上がったり、月に一度オフ会をしたりと中々のエンジョイっぷりなのだ。
本格的な狩りやレベリングは、イベント前に集中して行う。新エリア到達も、掲示板などに情報が出揃ってから敢行する。それ以外は、基本的に仲間内でゲームをエンジョイする事を目的としている。
対する【遥かなる旅路】は、戦闘職のみで構成された武闘派ギルドだ。
とはいえ厳しいノルマがあったり、上下関係が厳しいわけではない。彼等はギルドの名の通り、プレイヤー同士の互助を旨としている。
仲間内で誰かが「このクエストに行きたいんだけど、協力してくれないか?」と言えば、それに付き合う。「この素材を集めているんだが、誰か売ってくれないか?」と言われれば、流通している額通りの金額で取引する。こうして仲間同士での交流が多く、それでいて雰囲気も良いギルドとなっているのだ。
そんなギルドになった理由は、割と至極当然の事だったりする。
この【遥かなる旅路】のメンバーの大半は、ギルドマスターとサブマスターを務める二人……カイセンイクラドンとトロロゴハンの世話になり、それに恩義を感じているプレイヤーなのだ。
DKCをプレイしていた二人はAWO開始当初から、初心者の支援を率先して行っていた。見返りを求める事なく、ゲームを楽しむ方法を新人プレイヤー達に教えていたのだ。
そんな二人だから、自然と人が集まり……そうして現在の中規模ギルド、【遥かなる旅路】が誕生したのである。
そんな【遥かなる旅路】で、エースと称されるメンバー……長剣使いのタイチが率いる、遊撃チーム。彼等は順調に、【獲物ヲ屠ル狩人】との戦闘を優位に進めて行く。
「よし! 残り半分!」
タイチが一人のプレイヤーを戦闘不能にすると、【獲物ヲ屠ル狩人】のメンバーが蘇生を試みようとする。
「させないわ」
そんな【獲物ヲ屠ル狩人】のメンバーに、矢を射る黒髪の美女……ルシアの攻撃が命中する。
「くそぉっ! やはり、手ごわいな!」
「これでも、食らえっ!!」
矢を射られた仲間を援護しようと、【獲物ヲ屠ル狩人】の一人がルシアに投げナイフを放つ。しかし、同行する魔法職はそれを見抜いていた。
「させないよ! 【ロックウォール】!」
ルシアの眼前に突如現れる、岩の壁。それによって、投げナイフは阻まれてしまう。
「ありがとうございます、オヴェールさん」
赤茶色の髪がフードから覗く、魔法職プレイヤー・オヴェール。彼女の援護に感謝の言葉を述べつつ、ルシアは岩壁の向こう側に意識を向ける。
「いえいえ! それでは……」
それは、オヴェールも同様だった。既に彼女は詠唱を開始し、この後の戦闘に備えている。そうして二人は一声掛け合うと、岩壁の左右から躍り出る。
「【ワイドショット】!!」
放たれる三本の矢を、食らってなるものかと身を屈める【獲物ヲ屠ル狩人】達。そんな事をしている間に、オヴェールの魔法詠唱が完成する。
「【バーニングアロー】!!」
屈んだプレイヤーに飛来する、炎の矢。その攻撃を受けて、彼等は延焼状態に陥った。
「くっ、≪キュアポーション≫を……!!」
状態異常を回復する……その為にシステム・ウィンドウを開く青年。その眼前に、タイチが迫る。
「【ソニックスラッシュ】!!」
「うおぉっ!?」
ルシアとオヴェールの連携に続き、相手の動きが止まるのを見計らっての急接近。そこからの速攻で、タイチは見事に相手を仕留める事に成功した。
そんな三人を支えるのは、タイチが契約したPAC。名は【ブラスカ】と言い、他に類を見ない巨大ブーメランを得物としている。
「それっ!!」
投擲されたブーメランには刃が付いており、回転しながら【獲物ヲ屠ル狩人】の面々を切り付ける。
「ぬぅ……っ!!」
「何だ、あのPACは!!」
そして投擲したブーメランは、弧を描くようにしてブラスカに向かって戻っていく。それを片手でキャッチしたブラスカは、今度はブーメランを斧のように振り被った。
「それっ!!」
「つ、強い……!!」
遠近に対応する事が可能な、強力なPAC。それがブラスカだった。
そうして順調に攻めていったタイチ達は、敵対者を全員倒す事に成功する。
「よし、勝ったな!!」
剣を担ぐようにするタイチに、ルシア達が駆け寄る。
「お疲れ様、タイチ。消耗は……うん、大丈夫そうね」
「お疲れ様でした!」
ルシアとオヴェールに向き直り、タイチはニッと笑みを浮かべる。
「ルシアは流石って感じだったけど、オヴェールさんも凄かったな。的確な援護、めちゃくちゃ心強かったっす!」
「それは良かった! こんなおばさんでも、役に立てたみたいだねー」
そんな返答を口にするオヴェールだが、タイチとルシアは「またか……」という気持ちになる。
オヴェールは、常々自分をおばさんと言うのだ。しかしながら、見た目は二十代中頃から後半くらいの美人である。おばさんとは言い難い容姿なのだ。
アバターを弄っている可能性はあるが、他のVRMMOと違いそこまで大幅な変更は出来ない。それが、AWOの仕様である。
「ま、まぁ……とりあえずこの先に進もうか。【狩人】の拠点に突撃して、ギルドクリスタル破壊を目指そうぜ」
「それもそうね」
ルシアはそう言うが、内心では別の事を考えている。
――そのギルドクリスタルは、今頃カイトが破壊しているだろうけどね。
ルシアの予測通り、手薄となった【獲物ヲ屠ル狩人】の拠点は落とされていた。
カイト率いる【天使の抱擁】の主力部隊の片方により、ギルドクリスタルが破壊された後であった。
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所変わって、草原地帯。そこでも、ギルド同士の戦いが繰り広げられていた。
「くそ……っ!! こいつらにかち合うとは、運が悪い……っ!!」
そう呟いたのは、見た目は……見た目だけは、イケメンな青年だ。悪態をつきながらも、立つ姿はモデルのポーズっぽい感じである。
彼の名は、ギルド【ベビーフェイス】のギルドマスターであるローウィン……本名【綿瀬 重行】だ。
今回のイベントで、【ベビーフェイス】はプレイヤー五名・PAC五名・応援NPC九十名の布陣で挑んでいる。残念な事に、ギルドメンバーは一切増えていないのである。
そんな彼等は、五人を中心に戦略を組み立てるしかなかった。そこで一人がPACと応援NPCを引き連れ、一チーム二十人体制での行動を開始したのである。
拠点防衛は交代制で、現在はローウィンの番であった。
そんな二十人の前に現れたのは、中華風装備を身に纏ったプレイヤー達だった。
「マスター、もう残る戦力は半分だ!!」
スポーツマン風のイケメンPAC・ルイスにそう言われ、ローウィンは顔を顰める。
「解っている!! くそっ……速い!!」
戦場を駆け抜ける、緑色のカンフー風装備の男。彼が率いるのは銀色のチャイナ服の美女と、眼鏡を掛けた青を基調とした青年。そしてPAC一人と、応援NPC七名だ。
数の有利を引っ繰り返したのは、純粋にステータスとプレイヤースキルの差である。
「遅いっ!! 【ラピッドスラッシュ】!!」
カンフー衣装の青年……ゼクスが武技を発動し、【ベビーフェイス】側の応援NPC達を斬り付ける。しかし彼の攻撃で落ちたのは、五人中二人だけだ。STRが然程高くはないのが、そこからも解る。
「今だ!! 技後硬直を狙え!!」
それは対人戦の常套手段であり、素早いゼクスを倒すには絶好の隙。ローウィンの指示に従い、三名の応援NPCがゼクスに迫る。
「そうはさせないよ」
そこへ駆け寄った、眼鏡を掛けた青年。彼は右手で長剣を握り、それを素早く振るう。
「うぉっ!?」
「なんと……っ!!」
青年……バヴェルの剣に斬られ、応援NPC達は蹈鞴を踏む。
その動きが止まった所へ、【桃園の誓い】側のPACが迫った。
「恨みはないが、仕留めさせて貰うぞ!」
ポニーテールにした黒髪を揺らす美女が【ベビーフェイス】側の応援NPCに接近し、両手で握る棒で強打する。
「くっ……!! このっ!!」
もう一人の応援NPCが反撃しようと剣を振るうが、美女はそれを棒でいなし更に強打する。
彼女はゼクスのPACで、名を【ラウラ】という。元は義賊のNPCで、無実の罪を着せられている所を助ける事で契約できるというNPCだった。
彼女もしっかりと、深緑色のチャイナ服を身に着けている。
応援NPC同士の戦いも、また【桃園の誓い】側が優勢。これは彼等に、バヴェルが予め支援魔法を施していたお陰だ。
「よし、OK……【アジリティアップ】」
バヴェルは左手のタクトをゼクスに向け、支援魔法【アジリティアップ】を発動。ただでさえ速いゼクスのAGIを、更に底上げした。
「サンキュー! っしゃあ、行くぜ!」
再び駆け出したゼクスを見送り、バヴェルは視線をもう一人へ向ける。
そこでは三つ編みにした銀髪を揺らしながら、果敢に攻める美女の姿があった。
「【ソニックウェーブ】……はぁっ!!」
「ぐあぁっ!!」
美女……チナリがくるりと身を翻しながら、その靭やかな脚で繰り出した蹴り技。それがルイスの顔面を捉え、大ダメージを与える。
武技を発動する際は、二つの要素が合さってその効力を発揮する。一つは武技名の宣言、もう一つは身体の動きだ。そうでなくては、武技名を宣言しただけで技が暴発してしまう。
そして武技名を宣言した後、二秒の猶予時間が与えられるのだ。
チナリは、武技を宣言してから二秒溜めて攻撃を放つ。武器を使用した武技の場合、溜めても威力に変化は無い。しかし武器を使用しない【体術の心得】の場合、この溜めによって威力が上がるのだ。
ちなみに、チナリが格闘主体なのは空手の経験があるからである。故にその回し蹴りも、実に綺麗なフォームだった。
ゲームに中途参加の彼女も、既にレベルは50。現実での空手の経験、そして多くの実戦経験を経て立派な戦力となっている。
そして、残りはローウィンと三名の応援NPC……という所へ、どこからともなく【ベビーフェイス】の応援NPCが現れた。
「え、援軍か!? よし、奴等を倒すんだ!!」
ローウィンがそう指示すると、応援NPC達はそれに従い攻撃に加わる。その様子を見て、ローウィンは内心で逆転勝利を確信する。
しかし、彼等が戦う様子を見て違和感を覚える。先程まで共に戦っていた、ローウィンが率いるNPCよりも弱く見えたのだ。
「しまった、まさか……!!」
気付いたローウィンだが、もう遅い。ゼクス率いる【桃園の誓い】チームが、続々と応援NPCを倒していく。
今も、続々と現れる彼等。彼等は果たして、どこから現れたのか。それは戦闘不能になって五分が経過した後の、リスポーンだったのだ。
つまり、ステータス二十五パーセント減の状態。無策で突っ込ませて良い状態では、断じて無い。
「やっと戻れたか……はぁっ!? ローウィン、これは!?」
そして最後に倒されたのだろう、パルスとそのPACであるカールがリスポーンした。
「パルス!! すぐに援護しろ、相手は【桃園】だ!!」
「マジかよ……!! 畜生、ツイてないぜ……!!」
そう言いながら、パルス……本名【奈良 常好】は戦線に参加した。
そんな悪態を吐いているローウィンとパルスだが、戦況を読んで別の手段を講じるべきだった。
例えば応援NPC達にゼクス達を食い止めて貰い、ギルドクリスタルを持って逃走。もしくはどちらかがギルドクリスタルを持ち、PACと数名の応援NPCを連れて逃走。同時に仲間達を帰還させ、ゼクス達を倒すか撤退させた後でギルドクリスタルを拠点に戻す。
しかし、そんな方法を考え付く事が出来ず……。
「ちくしょおおっ!!」
「二度目の戦闘不能かよおぉっ!!」
ローウィンとパルスは、あえなく撃墜されてしまうのだった。
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イベント開始から、二時間。既に各ギルドは戦闘を開始し、それぞれのギルドポイントの変動も活発になっていく。
その中で、【七色の橋】のポイントも更に300ポイントが加算されている。ジンによる単騎攻めは、【天下無敵】を攻めた後に更に三度行われたのだ。相手は女性のみで結成したギルド【ラピュセル】、魔法職のみで集まったギルド【大魔導同盟】、そしてダンジョン探索に力を入れている【ファンタスティック・アドベンチャーズ】である。
これらのギルドを攻めたのは、拠点が手薄だったからである。逆に拠点防衛に力を入れているギルドは、念の為に警戒して場所のみを把握するに留めた。
その頃には、マップも九割方が埋まった状態。主だったギルドの位置も把握でき、最優先の任務を達成したと見て良いだろう。
「ここらで一度、帰還するでゴザルか……では、いざっ!!」
全力疾走で、フィールドを走り始めるジン。目的地は、【七色の橋】の拠点である。今のジンならば、全力疾走すれば十分前後で到着出来るだろう。
そうして走り続けたジンは、拠点に帰還を果たす。その眼前に映るのは、出発した時とは全く違う外観の拠点。
「え、あれ……えぇぇ?」
異なっていました、異なり過ぎかもしれません。異なり過ぎです。
まず目に入るのは、和風の建造物。木造建築だった小屋とは異なり、しっかりとした石垣が土台になっている。そして石造りの塀が建築物を囲み、その上に応援NPCの姿が見えた。恐らく、周囲の警戒要員だろう。
そして塀の周りには、それなりの幅と深さの堀。塀からの攻撃を躱しつつこの堀を突破するのは、恐らく相当に困難を極めるだろう。
「めっちゃ御城でゴザルッ!?」
堀の前で立ち止まったジンに、一人の少年が気が付いた。
「ジンさん! お帰りなさい!」
軽装鎧に篭手を装着した、見た目は美少女な少年……ヒビキである。
「今、橋を渡しますね!!」
「あ、いや。大丈夫でゴザル……【ハイジャンプ】!!」
ジンは武技を発動させ、塀を一気に乗り越えられる高度まで飛び上がる。しかしそれだけでは、届かない。ジンはそのまま【天狐】を発動させ、堀を通過して塀の上……ヒビキの側に着地する。
そんなジンの行動に、ヒビキは「うわぁ……!!」と目を輝かせる。それに対し、ヒビキと共に警戒していた応援NPC達は「うわぁ……」と引いていた。ジンの型破りな性能に、まだ慣れていないせいだ。
「流石、ジンさんですね!」
そんな事を言うヒビキに苦笑しつつ、ジンは本丸にあたる建造物を見る。
「あれ、何事でゴザル? 元の建物は?」
ジンの質問に、ヒビキは視線をスーッと逸らす。そして、小声でポツリポツリと呟き始めた。
「いえ、あれはまぁ……その、拠点を強化するなら納得のいくものにしようと、ユージンさんが……」
どうやら、生産大好きおじさんの本領発揮の結果らしい。それでちょっとした城が出来ているのだから、遊び心どころの話ではない。
「ちなみに、この堀は……」
「これは、魔法職の人達が。【アースクエイク】って魔法で、地割れを作れるじゃないですか。それを活用して作っていました」
「土属性の最強魔法で、堀造りでゴザルかぁ……」
確かに、拠点としては効果がありそうだ。しかし、目立つ。とってもとっても目立つだろう。
「ちなみにユージンさん、拠点の後に”アレ”も作ってました。流石に疲れたのか、今は仮眠中です」
「でゴザルか……」
そんな会話をしていた二人だが、微かな音を耳にして即座に動いた。
「むっ……」
ジンは、自分の頭部を狙ったそれを避ける。
「はっ!!」
ヒビキは篭手≪護国崩城≫で、それを受けた。
二人を狙って放たれたのは、銃弾だった。離れた位置で発生した微かな発砲音を聞き逃さず、二人は見事に対応してみせたのだ。
「銃弾……【魔弾】でしょうか?」
「いや、これを見る限り違うでゴザルよ。【魔弾】の銃は、ウチのと同じユージンさんの作。弾丸もそれに見合った出来だけど……これは、作りが甘いでゴザル」
ジンはハヤテの弾丸製作を手伝う事も多々あるので、ユージンが作った弾丸は見慣れている。彼の言う通り、ヒビキが受け止めた弾丸は不格好である。
「つまり、ユージンさん製ではない銃がある?」
「という事でゴザルな。まぁ、先日の大規模PKでも銃持ちが居たでゴザルし……」
第二回イベントで、銃を製作するのに必要なアイテム……≪壊れた発射機構≫や≪大破した砲塔≫の情報は、広まった。
それを手にしたプレイヤー達が、銃製作をどこかの生産職人に依頼したのだろう。
「ともあれ、敵襲でゴザル。拙者がちょちょっと、行って来るでゴザルよ」
そう言って突撃態勢に入るジンだが、ヒビキがそれに待ったをかける。
「待って下さい、ジンさん。あの、もし良かったら……僕も一緒に行って、良いですか?」
ヒビキのその申し出に、ジンは軽く目を見開く。
これまで実戦のあるイベントに、ヒビキは参加した事が無かった。第一回はAWOを始めておらず、第二回は観戦だったのだ。そして第二回イベントで、彼はジン達の活躍を見て……いつか、隣に並んで戦いたいという思いを抱いていた。
特に【七色の橋】を牽引するジン・ヒイロ・ハヤテ……この三人は、ヒビキにとって憧れの存在と言って差し支えない。
――僕も、ジンさん達みたいに……皆を守れるくらい、強くなる為に……!!
その為にもっと実戦経験を積み、対人戦に慣れたい。これまで磨いて来た技術が、どこまで通用するのか試したい。そんな挑戦者精神が、ヒビキの申し出に繋がっているのだ。
そんなヒビキに対し、ジンはフッと笑みを浮かべる。ヒビキの表情から、彼がどんな思いでそれを口にしたのかを察したのである。
ヒビキへの返答を一時置いて、ジンは側に居た応援現地人に声を掛ける。
「そこの御仁、宜しいでゴザルか?」
「え? あ、俺?」
突然声を掛けられ、応援現地人は面食らう。しかしその困惑に付き合う事無く、ジンは言葉を続けた。
「これより拙者とヒビキの二人で、襲撃者の排除に向かうでゴザル。警戒の引継ぎ……それと念の為、本陣にその事を伝えて欲しいでゴザルよ」
その言葉に、ヒビキは目を更に輝かせた。ジンの言葉は、ヒビキの申し出を受け入れるという意味を含んでいるのだ。
「さて、ヒビキ。拙者の背中、預けるでゴザルよ」
「はいっ!! 頑張ります!!」
二人はそう言うと、塀の縁に足を掛けた。
そこを狙って再び銃弾が放たれるが、そんな馬鹿正直な攻撃に当たる二人では無い。ジンは首を傾げる形で弾を避け、ヒビキは再び≪護国崩城≫で受ける。
「この長距離で……これ、【狙撃】持ちっぽいですね」
「左様……一時の方角でゴザル」
「はい、行けます!」
そうして二人は、塀の上から倒れる様にして堀に飛び込む体勢になり……塀の壁に足を付いた。
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森の中に身を潜め、ジンとヒビキを狙撃した二人。彼等は、新興ギルド【深淵】に所属するプレイヤーだ。
この【深淵】は新興ギルドではあるが、既に二つのギルドの拠点を落としている。その躍進を成し遂げたのは、彼等が手にしている銃というレア装備のお陰だ。
そして【深淵】は、暗殺プレイを好むプレイヤー達によって結成された。狙撃による暗殺戦術……その力で、【クルセイダー・オブ・レジェンド】と【三國無双】を落としたのである。
次の標的は、偶然にも見付けた【七色の橋】……そう意気込んでいたのだ。
しかし初撃はジンには回避され、ヒビキには受けられた。それでも二人は、追撃した。これは、二人を挑発したのだ。
「忍者と可愛い娘ちゃんが、こっちを見ていた。待ち伏せするぞ」
「あぁ、恐らくこの辺りを探りに来るだろう……罠とも知らずに」
狙撃銃を持つのは、二人。しかし、二人だけで行動している訳では無い。その付近から、八名のプレイヤーが姿を現した。
十名のプレイヤーによる、集団暗殺チーム。それが、【七色の橋】を狙った暗殺ギルド【深淵】の総プレイヤー数だ。
「よし、急いで罠を張るぞ」
「忍者の速さは、脅威だからな……草でカムフラージュした、捕獲器は何処に置くか……」
「簡単には、バレないように頼むぜ? そいつで身動きが取れなくなったら、コイツでズドンだ」
獣を捕らえる為の捕獲器を模した、消費アイテム。踏めば、その足を刃物で挟み込むオーソドックスな罠だ。しかし、その刃物には麻痺毒が塗られている。
そして、最後の一人が手にしているのは中折式の散弾銃。超至近距離で撃てば、相当なダメージを受けるだろう。
だが彼等は知らなかった……そして、気付けずにいた。自分達が狩る側ではなく、狩られる側だと。
せめて誰か一人が、見張りを続けていれば間に合ったかもしれない。ジンとヒビキへの警戒を解かなければ、助かっていたかもしれない。
しかし、時既に遅し。
「【狐雷】!!」
上方から降って来た、苦無が地面に突き刺さる。その瞬間、地面を駆け巡る紫電。
「な……っ!?」
「馬鹿な、速い……!?」
麻痺状態に陥った者達が、視線を上に向ける。すると丁度、上空からジンが降下して来る瞬間だった。
そしてギルド拠点の方向から駆けて来る、ヒビキの姿も見えた。ジンだけでなく、ヒビキも速く駆け付けたのだ。
「馬鹿な……どうやっ「【一閃】!!」……ぐぉぉっ!!」
話に付き合うつもりはなく、ジンは無慈悲に刀を振るう。麻痺が解けるまでの時間稼ぎが、見え見えだったのだ。
「【ナックル】!!」
腰の入った、ヒビキの【ナックル】。それが一人のプレイヤーに命中し、他の二人を巻き込んでダウンさせる。
直撃した一人は、一撃で瀕死状態だ。
二人がこれだけ速く駆け付けられたのは、塀の上で跳んだからだ。跳んだといっても、垂直方向ではない……水平に、跳んだのである。
塀の壁面に足を付き、【ハイジャンプ】を発動。これで、二人は堀を越えて一気に森の中へと突入したのである。
これぞ、【ハイジャンプ】のアレンジ第二弾。ジンが思い付き、試し、実用化に漕ぎ着けた技。
その名も【ハイジャンプ〜流星の如く〜】である。サブタイは、デフォだ。
そんな事情など知らない【深淵】の面々は、何とか逃れようともがく。
「くっ……うご、いた!! こいつらっ!!」
「やっちまえ!! 囲めばこっちのもんだ!!」
麻痺状態から復帰した時点で、プレイヤー二名が瀕死状態。そして二名がダウンし、残る六名が慌ててジンとヒビキを囲もうとする。
しかし既に、彼等は詰みの段階に入っていた。
「死ねっ!! 【ラピッドスライサー】!!」
素早さを活かして、一人が毒の塗られた短剣を振るいながらジンに迫る。しかしそれをひらりと躱し、ジンは更に加速する。
「【閃乱】!! 【一閃】!!」
最早、その姿を視界に収めること適わず。男はジンの振るう刃をその身に受け、HPを散らして倒れた。
それでも、ジンは足を止めない……すぐ側にいた女性に向けて接近し、刀を振るった。
「この距離ならっ!! 【アサルトバレット】!!」
散弾銃を構えたプレイヤーによる、ヒビキに対する超至近距離からの接射。
散弾はその特性上、至近距離で最も威力を発揮する。これを喰らえば、余程のVIT特化で無い限り大ダメージは必至。
しかしヒビキは右手の篭手を滑り込ませ、武技を発動する。
「【シールドバッシュ】!!」
【体術の心得】ではなく、【盾の心得】。その武技名を耳にした散弾銃使いは、目を剥いた。
「た、盾だとぉっ!?」
焦るプレイヤーに対し、ヒビキの篭手による強打が入る。これにより、プレイヤーはあっさりとHPを散らした。
ヒビキの篭手≪護国崩城≫は篭手であると同時に、盾。故に銃弾に対する絶対のアドバンテージがあり、果敢に攻める事が出来る。更に新たに製作された軽装鎧≪質実剛健≫によって、防御力を底上げしている。
しかし、ヒビキの真価は装備ではない。これらはあくまで、ヒビキが目指した戦い方を実現する為の補助をするだけなのである。
「こ、のぉっ!!」
「【アッパーカット】!!」
ヒビキの攻撃直後を狙い、短槍を手にしたプレイヤーが迫る。ヒビキはそれに慌てた様子も無く、冷静に攻撃者に向けて拳を振るった。
短槍の切っ先を左腕の篭手でそらし、鋭い踏み込みからの【アッパーカット】。鮮やかに決まったその打撃が、プレイヤーの身体を打ち上げる。それだけでも、ヒビキの拳に込められたSTRが相当なものと判断するのは容易だろう。
そこから跳び上がり、ヒビキはプレイヤーに追撃を加える……相手が、空中に居る内に。
「【ハイアングル】!!」
打ち上げた相手の真上に足を上げ、そこから一気に振り降ろす。所謂、踵落としである。これによりプレイヤーは地面に叩き付けられ、そのまま戦闘不能状態となった。
「こ、こいつ……強いぞ!?」
「こんな可愛い顔して、嘘だろ……!?」
遅れてゲームを始めた事も、ユニークシリーズを持っていない事も関係ない。強くなりたいのは、仲間と肩を並べ戦いたいから。そして、共に楽しみたいから。
だからこそ、試行錯誤を重ねて自分に合った戦い方を考え、鍛え、反復練習を積み重ね、モノにした。それが、ヒビキというプレイヤーの真価である。
ジンのみならず、ヒビキに対しても手も足も出ない。そしてジンの【閃乱一閃】によって、他の仲間達も斬り伏せられた。
その事実が、残る二人に撤退を選択させる。
「ちっ、逃げるぞ!」
「おう!」
地面に≪煙幕玉≫を叩き付け、逃走を図ろうとする。
しかしその瞬間、片方の男の頭部を弓矢が射抜いた。そして同時に、もう片方の男……彼もその頭部に、弾丸を喰らいHPを一瞬で消失した。
「な……に……!?」
「長距離……狙撃!?」
……
「命中ですね!」
「ッスねー! 喧嘩売って、逃げるとかダセェ真似させねッスよ」
弓刀≪大蛇丸≫を構えた、一撃必殺の巫女姫。そしてFAL型≪アサルトライフル≫を手にした、超一流の銃使い。
スキル【狙撃の心得】を持つのは、二人も同様。長距離射撃もお手の物であった。




