14-03 戦線が拡大しました
イベント開始から、間もなく一時間が経過する頃。【禁断の果実】の主要人物の一人であるアレク。彼は【聖光の騎士団】の参加メンバーに抜擢され、一部隊を任されていた。部隊に参加するのは、アレク含めた十名だ。
「さて、この先に【ナイト・オブ・ナイト】が居る。プレイヤーも応援NPCも、徹底的に叩く」
ギルドクリスタルよりも、まずはプレイヤーや応援NPCを狙う……そう指示するアレクに、反論する者は居ない。
そんな同行者達を見ながら、アレクは更に指示を出す。
「ただし、別のギルドが乱入してきた場合は深追いをするな。乱戦で戦闘不能になったら、ステータスが下がる。ここぞという時に力を発揮できない程、情けないものはないからな」
そう言いつつ、彼は内心で別の事を考えていた。
――アンジェがギルドを引き連れて、【ナイト】の拠点を目指している……俺達で露払いをし、そのまま撤退。アンジェは労せず、ギルドクリスタルを破壊できる……。
これが本当の狙い。内密にジェイクと連絡を取り合い、タイミングを合わせて【ナイト・オブ・ナイト】を落とす算段である。
アレクにとって、【聖光の騎士団】のポイントが増えようと減ろうと構わない。アンジェリカが戦いやすい様に、場を整えるのが本当の目的だ。
その為に、外部SNSである【禁断の果実】……スパイ集団の情報を集めるサイトも、時間加速下で使用可能にしてある。その為にはいくらかの費用と、手間がかかる。
しかし、全てはアンジェリカの為……いや、アンジェリカの一番に自分がなる為。それを考えてみれば、痛くも痒くもない。
そんな事を考えつつ、アレク達はようやく【ナイト・オブ・ナイト】の拠点を補足した。彼等は拠点の強化を図るべく、作業を進めている様だ。
主力メンバーは出掛けているらしく、防衛中のプレイヤーは八名に応援NPC十名と多くない。
そもそも【ナイト・オブ・ナイト】というギルドは、プレイヤー十八名にPAC三名の小規模ギルドだ。
そして【禁断の果実】のメンバーにより、主力メンバーは拠点を離れて他ギルドの哨戒にあたっている。つまり今が、ギルドクリスタルを破壊する絶好の機会なのである。
「よし……弓職と魔法職は全員の準備が整い次第、一斉に相手勢力を遠距離から攻撃。攻撃後、盾職二名の影に隠れて反撃に備える。その後、残りの近接部隊が二手に分かれて突撃だ」
その指示は、ごく一般的な奇襲戦略。しかし相手プレイヤーからすれば、実に鬱陶しい攻め方になるだろう。
そうして、アレクの指示の下で奇襲の準備は整った。
弓職一名と魔法職二名が、既に攻撃態勢に入っている。その両脇にある岩場に、身を潜めている盾職二名。アレクは更にその右翼で、二名を引き連れている。逆側の左翼に、近接職二名だ。
アレクがハンドサインで攻撃開始を指示すると、後衛職の三人が攻撃を開始した。
「【スパイラルショット】!!」
「【ロックジャベリン】!!」
「【バーニングジャベリン】!!」
火魔法【バーニングジャベリン】が【ナイト・オブ・ナイト】の拠点に当たり、【ロックジャベリン】と矢はプレイヤーに命中。
それを目の当たりにした相手ギルドのメンバー達は、慌てて状況を確認し始めた。しかし、それを待つ必要は皆無。
「突撃!!」
アレクの号令を受けて、四人のプレイヤーが物陰から姿を現した。
【ナイト・オブ・ナイト】の遠距離攻撃を可能とするプレイヤー達が、【聖光の騎士団】の後衛職に攻撃をすべく射撃体勢に入る。その前に、盾職二名が岩場から躍り出て盾を構える。
そして近接職はアレク達を迎撃しようと構えるが、陣形を組む暇が無かった為に受け身に回ってしまう。
アレク達の後方から、更に魔法と矢が飛んで来る。それらは応援NPCを狙ったもので、次々とそのHPが削られていく。
八名のプレイヤーも左右からの奇襲により連携が出来ず、更に練度の差もあってあっさりと倒されてしまう。
「くそぉっ!! 負けるかあぁっ!!」
必死に耐える者も居るが、破れかぶれの攻撃なのは見え見えである。その程度、アレクにとっては脅威ではない。
「墜ちろ……【ソニックスラッシュ】!!」
冷静に攻撃を回避し、隙を突いて長剣を振るう。アレクの武技攻撃によって、【ナイト・オブ・ナイト】の最後の一人が落とされた。
そして、そこへ。
「全員、突撃!!」
天使が参戦する。
「はっ!? あ、あれって……」
「アンジェリカちゃん!? 初めて生で見た!!」
「って、これ……アンジェリカちゃんとやり合うのか!?」
前衛後衛問わず、アンジェリカの姿を見て浮き足立つ。そんなプレイヤー達に内心で冷笑しながら、アレクは声を張り上げた。
「相手は俺達より多い、このままでは落とされる!! 撤退だ!! 撤退!!」
そう言って、アレクは真っ先に後衛と合流すべく駆け出した。
「あの装備……【聖光】ですね。アンジェリカさん、追いますか?」
武器を構える【天使の抱擁】のメンバーが、アンジェリカにそう問い掛ける。しかしアンジェリカは首を横に振り、【ナイト・オブ・ナイト】の拠点に視線を向ける。
「プレイヤーを倒しても、ポイントは稼げないからね。拠点のギルドクリスタルを破壊して、次のギルドを探そうか」
ジェイクからのアドバイス通り、それらしい言葉で仲間達に説明するアンジェリカ。彼女のその言葉に対し、反対意見は出ない。
「……確かに。相手は【聖光】です、もしかしたら誘いの可能性もありますね」
「俺達で、戻って来ないか警戒しておきますね」
「そうね。やられた連中が、リスポーンする前に済ませましょう」
こうして、またも【天使の抱擁】はポイントを稼ぐ事に成功したのだった。
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一方その頃、ヒメノは拠点の前でマップを見ていた。この段階で、【七色の橋】のメンバーのマップ開示率は……驚異の三十五パーセントである。
更に、ジンが書き込んだであろうギルド情報も既に十組を超えている。
「ジンさん、流石です……!! ね、コンちゃん♪」
そう口にして、ヒメノは肩に乗るコンに視線を向けた。コンは嬉しそうに一鳴きして、ヒメノの頬に擦り寄る。
今回のイベントにおいて、各ギルドの拠点所在地は最重要事項。
故に【七色の橋】が取った最初の戦略……それが、最速忍者によるマップ開放とギルド拠点の把握である。本格的な作戦開始は、その後だ。
そんな時である。ギルドクリスタルを確認していたリリィ・コヨミのサポートをしていた応援現地人が、拠点の中から顔を覗かせた。
「皆さん! ギルドポイントが加算されました! 【天下無敵】のギルドクリスタルの破壊に成功です!」
ギルドポイントが上がった事は、システム・ウィンドウで確認出来た。しかしそのポイントの上減理由は、ギルドクリスタルでのみ確認が出来るのだ。
「やったか!?」
「フラグにならない方の、やっただね」
ハヤテの発言に、アイネが苦笑交じりにそう返す。彼氏に毒されていないかしら、この娘さん。
そんなやり取りをする二人の後ろには、特にダメージを受けた様子もないカゲツとジョシュア……そして、応援現地人達が居る。
ともあれ、ハヤテとアイネの二人を迎えるヒイロ。二人は周辺探索をしていたはずだが、何故戻って来たのか……その予測は出来ているが、一応は確認が必要だ。
「お帰り、どうだった?」
ヒイロの問い掛けに、ハヤテがニッと笑う。
「こっちに接近している集団を確認ッス」
それはつまり、戦闘準備を促す為の帰還だ。
「数は三十二人で、全員がプレイヤーでした。装備から見て……」
アイネが告げたギルド名を聞き、ヒイロは納得する。そして、彼等が一目散にこちらを目指している理由も。
「あー……あんな恰好、彼ら以外しないもんな……」
「俺もそう思うッス」
ともあれ、開戦の時は刻一刻と迫っている。ヒイロは迎撃の為に、指示を出す。
「シオンさん、探索班に連絡を。俺達だけで行けると思うけど、念の為に挟撃準備。周囲の索敵を重視、伏兵を警戒する様に伝えて下さい」
万が一に備え、探索班による後方からの奇襲を準備させる。これは相手にとって、脅威となるはず。
「畏まりました、ヒイロ様」
シオンがすぐにシステム・ウィンドウで指示出しに入るのを確認し、ヒイロはハヤテとアイネに視線を戻した。
「ハヤテ達も、森の中で彼等をやり過ごしてくれ。逃げようとしたら、そこで一気にケリを付けよう」
それは相手が逃走を選択した場合、逃がさない為の措置。やる以上は、キッチリと片を付ける必要がある。
「あぁ、そりゃ得意分野ッス。カゲっちゃん、皆! こっち付いて来て!」
「では、私達もそのように! おじいちゃん、皆さん! 行きましょう!」
ハヤテ班とアイネ班が森に向かって行くのを確認し、ヒイロは防衛部隊による布陣を考える。
「それじゃあ、まずは俺から……」
ギルドマスターとして、率先して前に出る。そう考えていたのだが……そこで、ヒメノが声を上げた。
「あ、お兄ちゃん。私が行っても良いですか?」
特別好戦的な訳ではない、ヒメノの立候補。これに、ヒイロだけでなくレンも怪訝な表情を浮かべた。
「ヒメ?」
「ヒメちゃん、大丈夫?」
ヒイロとレンが心配してそう言うが、ヒメノはふにゃりと笑って左手に持つ得物を掲げる。
「うん。アレ、試してみたいなって思って」
彼女もジン同様に、イベントに備えて腕を磨いていた。その成果を、試してみたいという思いがあったのだ。それ故の、立候補である。
そんなヒメノの言葉に、ヒイロ・レン・シオンは苦笑いを浮かべた。
「あぁ、アレか……」
「アレですか……」
「アレとなると、相手が気の毒になりますね……」
納得気味の三人だが、共に居る応援現地人のダナンは何の事か解らない。戸惑いを隠せず、ヒイロに問い掛けてしまう。
「な、なぁ? アレって何だ……?」
ダナンの質問に、ヒイロは苦笑気味で簡潔に返した。
「一言で言うと、”弓術の極意”みたいなものかな」
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【???視点】
ついに俺達の、悲願が叶う……積年の恨みを晴らす、絶好の機会だ。
森の中を駆け抜けて、俺達は視線の先にようやくそれを見付けた。一軒の建築物……それを強化している、生産職達。その装いは、現地人まで和装。
間違いない! あれが、あのギルドのハウスね!!
今回はGvG……つまり、相手の了承を得なくても戦える!! 断られたとしても、攻撃してOK!! だってGvGだもん!! やったぜ、合法にPK出来る!!
「行くぞお前達!! リア充に鉄槌を!!」
ギルマス・ダリルさんの宣言に、俺達は一斉に唱和する。
『リア充に鉄槌を!!』
俺は【暗黒の使徒】の幹部、シン。仲間を引き連れて、リア充の筆頭である【七色の橋】に襲撃をかますところだ!!
第二回イベントでは、【森羅万象】に敗れてしまったが……今回は、そうはいかん!! リア充達を、思う存分殴って爆発させるぜ!!
む、あの少女は……!!
「あれは……!!」
俺の言葉に、隣を走るライカが反応してみせた。
「早速、大物ね!! 姫を倒されて悔しがる様が見れるわよ!!」
そう、拠点前で弓を構えて立っているのは……赤と白を基調とした巫女風の和装、銀色の長いロングヘアの美少女。【七色の橋】の姫君・ヒメノだ。
しかし……以前の装備より、更にグレードアップしているな。というか和服の所々から、黒いインナーが見えてるんですけど!?
いや待て、惑わされるな。彼女達は中学生と聞く。十八歳未満のプレイヤーの下着は、見えないのがAWOの仕様だ。つまりアレはアンスコとか、ブルマとか、スパッツとかみたいなモノのはずだ……でも、そんなの関係ねぇ!! くっそ可愛い!!
くそぅ……あんな可愛い天使みたいな娘が、恋人だと……!! やはり忍者は赦せん!!
とは言っても、忍者の姿は見当たらない……あいつは忍なれども忍ばないから、隠れているって事は無いだろう。恐らく今は他の場所に赴き、忍なれどもパーリナイしてるに違いない。
他の面々は……むむっ、大分離れた所にレンやシオンの姿がある。あっちにヒイロか……あいつらも、何だか衣装が豪華で素晴らしいモノになっている。
「こっちに気付いていないのか、全く見当違いの方向を見ている」
「これはチャンスか?」
フォウとギアが言う通り、奴らはこっちに気付いていない様だ。これは各個撃破出来る、千載一遇の好機では?
「ダリル、ここは速攻で行くべきでは?」
そう提案するのは、我等がサブマスターの【ビスマルク】。彼女いない歴イコール年齢の、御年三十六歳だ。
「うむ……そうだな、まずはヒメノ。そこから二手に分かれて攻める事にするぞ。クリスタルは最後だ」
ギルマスの指示を、俺達はよーく頭に叩き込む。ヒメノを落とし、次に二手に分かれてレンとシオン……そしてヒイロを落として、ギルドクリスタル。
よし、見えた!! 勝利のイマジネーション!!
む……ヒメノと視線が合った!! 俺達を確認したらしい彼女は、左手の弓を構える。どうやら、やる気らしいな……その意気や良し!!
「相手は弓職、接近すればこっちのものだ!!」
「ヒイロやレンが応援に来る前に、拠点に突撃してギルドクリスタルを破壊するぞ!!」
『了解、リア充に鉄槌を!!』
すると、ヒメノが弓に矢をつがえる……のだが、あの構えは何だ? 弓を横に寝かせて、矢をつがえている……他の奴らとは、違う構えだぞ?
それにあの弓……何故、持ち手の両脇を布で覆っているんだ? 何かを保護しているのか……それか、見えない様に隠しているのか?
そんな事を考えていると、ヒメノが矢を放った。それなりの速度で迫る矢だが、素直に当たってやると思うなよ!!
「【クイックステップ】!!」
俺達は武技を発動し、射線から離れる。この程度、対人戦に特化した我々にとっては朝飯前だ。
流石にこれで一気に接近は出来ないが、それでも距離は詰められた。次の射撃体勢に入る前に、ヒメノに接近する事は十分可能だろう。
さぁ、その可憐な顔を恐怖に歪めるがいい!! ごめんね、でもこれそういうイベントなんだ。出来るだけ、怖くないように終わらせるから。恨まないでね、ちゃんと優しくするから。
しかし、そう思って見たヒメノの表情は……うわっ、凛々しいのにキュート。そういう顔も可愛いって、本当に忍者が羨ましい。
「【クイックチェンジ】!!」
矢を放ったヒメノは、何らかのスキルを発動させたらしい。彼女の身体が白い光に包まれ、次の瞬間光がガラスの様に砕け散ると……その背中に大きな鉄の塊が背負われていた。ってあれは、イベントの時の大砲か!?
「発射!!」
大砲から放たれた砲弾が、固まって動いている連中に……!! あー、当たっちまったか……不運と踊っちまった。
「【クイックチェンジ】!!」
再び、何らかのスキルを発動させるヒメノ。光と共に大砲が消えて、ヒメノが再びその手に弓を握っている。
しかし俺を含めた数名が、順調に距離を詰めている。矢を矢筒から出し、つがえて狙いを定めて射る……その前に、この手で!!
「【クイックドロー】!!」
ん? ヒメノの手に矢が……? んんん!? どういう事だ!? 矢筒に手を伸ばさず、矢を取り出したのか!?
そして、彼女は流れる様に矢をつがえ……えっえっ!? 待って、速くね!? って、狙いは俺エェッ!?
「当たってたまる……か……って、のおぉ!? 技後硬直!?」
そうしている間に、ヒメノは矢を放ち……うおおおぉ!! 動けねぇ!! 待って待って待って……
……あっ。
矢が俺の身体を貫き、そして全身から力が抜けていく。まさか、たった一発の矢で俺のHPをゼロにしたのか?
地面に倒れた俺は、ヒメノの姿を確認する……赤いマフラーと和服の裾を翻しながら、彼女は弓の速射を繰り返す。
あぁ、テリーが射抜かれた。アイツも一撃死か……フォウとライカも、続けて即死させられた。
何事かを口にすると、その手に矢がパッと現れる。そして流れる様な動作で、彼女は矢をつがえ……照準を合わせるのに、大した時間を掛ける事無く放つ。
その身のこなしは軽やかで、美しいと称するに相応しい。
なんてこった、ステータスだけじゃない。彼女はその技術も、一級品だ。これが瞬く間に、トップランカーに躍り出た【七色の橋】か。
それに、何より……畜生、忍者め。本当に羨ましい……あんな素敵な娘と、ゲーム内結婚だと。しかも現実でもカップルという話を、風の噂で聞いたぞ。
チッ、仲睦まじく現実でも仲を深めて大人になったらゴールインし、子供や孫にも恵まれて幸せな家庭を築いて穏やかに年齢を積み重ね二人仲良く老衰で来世に旅立ちやがれ!! 末永く爆発しろ!!
そんな事を考えている内に、俺は戦場から消滅した。
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ヒメノは新たに習得した、弓を寝かせた射法で【暗黒の使徒】の面々を撃ち抜いていく。
それは彼女自身の持つ特性と、アバターのステータス……武器の性能を生かす、対人戦向けの射法だ。
まずヒメノは、全盲故に視覚以外の感覚が鋭い。それにVR技術による疑似的な視覚が組み合わさる事により、空間把握能力もまた高いのだ。
そんな彼女なので、攻撃対象との距離を把握するのが抜群に上手いのである。そして対人戦においては、この射程距離の把握が非常に有効なのである。
この時に弓を横に寝かせる事で、視界を妨げずに済む。更につがえた矢先が見えるので、これが照準となるのだ。
ただし弓を寝かせると、弦の引き幅は短くなる。その分、矢の威力は落ちてしまうのだ。だが、それは木製等の一般的な弓の場合である。
狩猟民族が使用する弓の材料は、動物の角と腱だったり強靭な木を使用したりする。それらの材料を使用する事により、威力の減衰をとどめ十分な殺傷力を発揮する。
それはヒメノの持つ弓にも言える事で、その材料はぶっちゃけレア中のレア素材なのである。
更にその速攻性を高めるのは、新たに習得したスーパーレアスキルである【クイックドロウ】。これは弓職ならば、誰でも欲しがるであろうスキルであった。
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スキル【クイックドロウ】
効果:携行装備に収納されている消費アイテムを、手元に引き寄せる。一回あたりMP5を消費。クールタイム5秒。
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そんなヒメノだが、流石に全員を速射だけで倒す事は適わなかった。AGIに定評のあるプレイヤーが、命からがらに矢を避け切ってヒメノに接近したのだ。
「若くて可愛いからって、調子に乗るんじゃないわよっ!!」
例えば、細剣使いのバーラとか。
「女の子相手に申し訳ないが、リア充爆発しろっ!!」
両手短剣使いのモーリとか。
――この娘の武器は、弓矢と脇差……あと大砲!!
――脇差を抜かせなければ、接近戦は怖くない!!
バーラとモーリは、ヒメノの戦術もしっかり研究していた。もう少しで、自分達の射程距離……そして彼女のSTRは脅威でも、AGIはこちらが上。近接戦闘では、決して負けない自信があった。
しかし、ヒメノは二人の接近を恐れていなかった。むしろ、待っていたと言っても良い。
「【蛇腹剣】!!」
それに対抗する術は、しっかりと最初から握り締めていたのだから。
手にした弓を和弓に例えるならば、上部にあたる部位。その部位を覆っていた布を切り裂き、分割された刃が姿を現した。
「【一閃】!!」
ヒメノはそのまま、二人に向けて弓を刀の様に振るう。
「「はぁっ!?」」
そんなヒメノの攻撃に対応し切れず、二人は自分の射程距離に踏み込む前に斬られてHPを失った。
蛇腹形態への移行で切り裂かれた布が全て剥ぎ取られ、ヒメノの得物がその全容を晒す。弓の上部分は刀の刃、下部分は刀の鞘で形成された弓。そう、弓と脇差≪大蛇丸≫が融合した新武装……それが、弓刀≪大蛇丸≫である。
「う、嘘だろ……!? ゆ、弓と刀が……一体に!?」
「ロ、ロマン武器じゃない!! そういうの大好きです!!」
バーラ、ロマン武器に心を躍らせるタイプの模様。
狩猟向けの射法と、弓刀≪大蛇丸≫。これにより、ヒメノは武器を持ち替える事無く遠近両方に対応する事が可能となった。
――やった……!! 出来た!!
ユージンの合成鍛冶と、カノンの高い技量によって製作して貰った、新装備。そして仲間達に付き合って貰い、実戦に対応可能なレベルまで磨き上げた新射法。
これが対人戦に備えた、ヒメノの新戦法であった。
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■プレイヤーネーム/レベル
【ヒメノ】Lv60
■所属ギルド
【七色の橋】
■ステータス
【HP】 168≪+275≫(合計443)
【MP】 69≪+275≫(合計344)
【STR】133【140%】≪+60≫(合計489)
【VIT】 10【-50%】≪+60≫(合計 65)
【AGI】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【DEX】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【INT】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【MND】 10【-50%】≪+60≫(合計 85)
【LUK】 10【-50%】≪+60≫(合計 65)
■スキルスロット(6/6)
【弓の心得Lv10】【刀剣の心得Lv10】【狙撃の心得Lv10】
【八岐大蛇Lv10】【鞭の心得Lv7】【砲撃の心得Lv5】
■拡張スキルスロット(5/5)
【ゴーストハンド】【採掘の心得Lv4】【クイックドロウ】【クイックチェンジ】
【?????】
■武器
両手武器 弓刀≪大蛇丸・参≫STR+110【破壊不能】
■予備装備
≪四門大砲・桜吹雪≫固定ダメージ50×4【軽量】
■防具
一式装備≪戦衣・桜花爛漫+10≫全ステータス+60【破壊不能】【縮地】
鞄≪大商人のポーチ≫収納上限1000
■装飾品(5/5)
首元≪八岐の飾り布・参≫HP+60、MP+60、【破壊不能】
頭部≪ユージンの付け髪+10≫HP+200、MP+200
腰部≪覇者の矢筒+10≫DEX+20、装填上限100
頭部≪ジンの髪飾り・咲+10≫AGI+20、HP+15、MP+15【HP自動回復(中)】
胸元≪レンの首飾り・咲+10≫INT+20、MND+20
■結婚指輪
≪ヒメノとジンの結婚指輪≫【比翼連理】
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そんなヒメノの戦闘を、影ながら見守っていたハヤテは口元を綻ばせる。
「あーらら、俺等が援護する隙が無かったッスね……それにしても、単独で一ギルドの主力を壊滅させるとは。さっすが、ジン兄の嫁さんッス」