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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十三章 イベント準備を進めました
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13-19 幕間・語らう者達

 始まりの町にある、有名なギルドのギルドホーム。西洋風の世界観にマッチしたその屋敷には、多くの部屋が設えられている。

 その内の一つ……許可を受けた者だけが入室できる、ギルドマスターの専用ルーム。そこを訪れたのは、二人の幹部プレイヤーである。

「やぁ、アーク。呼ばれたから来たけど、何か用かな?」

「あれ……セバスチャンに、アリステラも?」

 入室許可を得た二人がそこに入ると、応接セットのソファに座るアークとシルフィ。その向かいに、セバスチャンとアリステラが座っていた。


 二人の姿を確認したアークは、空いているソファを勧めながら口を開いた。

「二人から重要な話があるらしい。お前達二人にも、聞いて貰いたい」

 やけに重々しいアークの言葉に、二人は困惑しつつもソファに腰を下ろす。


 そうして集まった六人。口火を切るのは、セバスチャンだ。

「リアルの事ですので、一部の詳細はお話出来ないのですが……【七色の橋】の不正疑惑について、私の考えを述べさせて頂きたいのです」

 唐突な宣言、更にその内容が現在のAWOで悪い意味で話題となっている件。アーク達の表情が硬いものになるのも、無理はないだろう。


「……ふむ。聞こう」

 アークに話を促され、セバスチャンは一つ頷いて話し始めた。

「かのギルドのサブマスターと、その付き人。この二人の会話が、疑惑の根本にあるとの事ですが……」

 そこで一度溜めを作るセバスチャンに、ギルバートは内心で「はよ言えよ」と思う。それが表情に出かけていたので、ライデンがギルバートの腕を軽く小突いた。


 そして数秒溜めたセバスチャンは、ようやく口を開く。

「この二人が不正をする、これは有り得ぬ事かと」

 セバスチャンがそう言うと、隣に座るアリステラがやれやれ……という表情を浮かべながら、話を引き継ぐ。

「サブマスターのレン、メイドのシオン。二人の現実での姿を、私達は存じておりますの……気付いたのは、つい先日ですが」

 そんなアリステラの言葉に、アークとライデンは目をわずかに見開いた。対するギルバート、シルフィはあからさまに「マジで!?」という表情をしてしまっている。


 そんな四人の表情の変化に、セバスチャンは満足そうに言葉を続ける。

「そして運営Sとされる人物……三枝という人物についても存じております。このメンバーだけにはお話しますが、私は宇治財閥に縁のある者です」

「お兄様? よろしいので?」

 宇治財閥……まさかその御曹司とは思っていないだろうが、縁があると言っておけばこれからの言葉に信憑性が増す。

「この先の話を知っている理由、そして信憑性を上げる為に必要な事だ。それだけ、この件は重要なのだよ」

 それに、これはあの女性……初音主任が関わる話なのだ。相手が既婚者とはいえ、恋焦がれた相手。彼女に良い格好をしたい……という下心が、セバスチャンを突き動かす。


 そしてセバスチャンはアーク達に、自分の知る事で明らかにしても構わない事を話す。

 内部監査には、UGIコーポレーションも参加した事。そして……。

「運営S氏は、運営主任エリアの側近です。そしてエリア……彼女は大企業・初音の令嬢です。初音家の人間が、不正に手を染めるなど有り得ません」

【初音】は、世間一般でもよく耳にする大企業の経営者の名だ。そのビジネスは手広く、そして品質・サービスは非常に高い。日本で五本の指に入る大企業……それが、初音だ。


「あの運営主任が、そんな大人物だったとはね。こいつは驚きだよ」

「成程……確かにファースト・インテリジェンスは、ユートピア・クリエイティブの出資者だったな」

「はい。彼女は厳しい教育を受け、そして現在は責任のある立場にいる。その彼女の側近が、不正などするとは思えません」

「その通りですわね。初音家は、本当に厳格な家ですわ。一族の者だけではなく、使用人への指導・教育も徹底されておりますの。エリア様の側近として長く仕えてきたS氏も、同様ですわ」

 セバスチャンとアリステラが、確信を持ってここまで断言するのだ。宇治財閥縁の者がここまで言うのならば、信頼性の高い情報なのだとアークは判断した。


「話は解った。しかし、初音家の話をして良かったのか?」

 アークとしては、その点が懸念事項だった。しかしセバスチャンは、涼しい顔でそれを受け流す。

「公式サイトにも、主だった運営上層部の名前は出ておりますので。勿論、プレイヤーの本名等を無闇に口にすれば……それは流石にマズいですが」

 そんなセバスチャンの言葉の途中から、シルフィが公式サイトを自分のシステム・ウィンドウで表示していた。そこには確かに、運営主任の名前がアバターネームと紐付けて記載されている。


「ふむ……本当だな。初音と……む?」

「なぁ、セバス。運営責任者、これはあのシリウス氏か? 彼も、初音の姓になっているんだけど……」

 二人がそう言うと、セバスチャンの表情が微かに歪む。そんな兄の様子に気付いたアリステラは、ここぞとばかりにセバスチャン弄りを開始した。

「あ、アーク様? シルフィ様? それには触れないであげて下さいませんか? お兄様の古傷が……」

「な、何を言う!? アリステラ!!」

「あら、執事ムーブはよろしいので?」

「ぬ……ぬぬぅ……!!」


 セバスチャンとアリステラのコントじみたやり取りを見ながら、ギルバートは引き攣った笑いを貼り付けて親友に視線を向ける。

「……なぁ、ライデン。俺ってもしかして、かなりヤバかった?」

 初音。それは運営主任と、運営責任者の姓。だが、もう一人……初音という知人が、二人には居る。

 クラスメイトで友人な、あの少年の最愛の彼女。そして【七色の橋】のサブマスターである、巫女で魔法職な彼女である。


「……ジン君が許してくれて、本当に良かったね」

 ライデンの投げやりな言葉に、ギルバートは自分が結構社会的にもヤバかったのにようやく気が付いたのだった。


************************************************************


 一方、現実世界。

 とあるマンションの一室で、料理を作る女性。その表情は、いつになく嬉しそうである。それもそのはず、今日は彼女の夫が帰って来る日なのだ。

 というのも彼女の夫、現在は単身赴任中なのである。


 赴任先は二つ隣の県で、帰って来る事が出来るのは週末。それでも相応に多忙な為、月に二度帰って来られれば御の字という状態なのだ。

 そうなると、夫に会えるのは半月に一度。料理を作るのにも、気合いが入るというものである。


 そうこうしていると、インターホンが鳴る。もうすぐ完成しそうな料理の手を止め、彼女は玄関モニターへと向かう。モニターには、彼女の夫が映っていた。

「今あけるよー!」

『おう、頼む』


 夫の名前は、【新敷あらしき 敦人あつひと】。妻の名前は、【新敷あらしき 風子ふうこ】。半月ぶりの、夫婦の時間である。

「久々に帰って来たな。いつも済まん」

 扉を開けて、荷物を受け取る風子。そんな風子に、敦人は申し訳無さそうに言う。

 しかし風子としては、謝られても困ってしまうのが実情だ。彼は誠実で、風子を何より大切にしている。こうして不自由なく暮らせるのも、敦人が日頃から仕事を頑張ってくれているからだ。

 それに手渡された荷物も、風子と楽しもうと考えていたお酒やつまみだろう。そんな些細な処からも、自分に対する愛情が感じ取れるのだから。


「いいわよ、こうして無事に帰って来てくれたんだから。さて、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」

「メシ食って風呂入ってゲームしてお前」

 真顔でそんな事をのたまう敦人に、風子は照れる事なく笑う。赴任先から帰ると、いつもこのやり取りなのだ。


「ブレないね、アナタ」

「何か最近、やけに子供が欲しくなってきてなぁ」

「わかる。それな」

 二人がそう言うのにも、理由がある。


 というのも、二人は夫婦でVRMMO……AWOをプレイしている。ゲームでも結婚済みであり、ギルドのツートップを担う夫婦なのだ。

 そんな二人のギルドに所属するのは、高校生から社会人と幅広い。

 しかし、ひょんな事から知り合ったとあるギルド……そのメンバーに、とても可愛らしい女子中学生達が居る。

 娘が出来たら、こんな気持ちなのかな……と想像して、子供が欲しくなってしまうのだ。


「でもそうなったら、単身赴任はナシにしないとな。子供の成長は間近で見たい」

 そう言う敦人に、風子は真剣な表情で頷く。是非、そうして欲しいのだ。

「そうしてくれると嬉しいわ、一人で育てる自信はまだ無いから。それに交代しながらVR出来るし」

「それな」

 ゲーマー夫婦なので、子供が出来てもゲームは続けるつもりらしい。その時は、交代制でだろうか。


……


「久々の家庭の味だな。うまい」

 そう言って、風子が作った食事を咀嚼する敦人。その食べっぷりは、見た目に違わず豪快と評して良いだろう。

 作った側としては嬉しいが、よく噛んで味わって欲しい。

「あっちでは、ちゃんと食べてんの?」

「一応はな。自炊しろってお前が言うから、頑張ってはいるぞ」

 そう言うが、一瞬目が泳いだのを風子は見逃さなかった。これは後で、詳しく問い詰める所存。


 そんな久方振りの二人での食事を終えて、食後の一服。敦人はビールを、風子はチューハイを手にしている。

 風子はチューハイで喉を潤すと、彼にある事を相談しようと口を開いた。

「あのさー。ちょっと、AWOの話なんだけどいい?」

「おう、どうした?」

 ゲーム内で話せば良いのに。そう思いつつ、敦人は頷いてみせる。


 それを確認した風子は、サラッと本題を切り出す。

「【七色】の件」

 彼女がそう言うと、敦人は表情を変えた。


「あの子達が晒された時、気になる事があったのよね」

 敦人の表情の変化に気付いていながら、風子は話を続ける。そんな妻に、敦人は待ったをかけた。

「……ちょっと待ってくれ。あの件は一応、解決したんだぞ」

 そう言いながら、敦人は話を強引に終わらせようとする。


 しかし、風子は引かない。

「良いから聞いておくれよ、カイさんや。まだ終わっていない可能性、あるんだからさ」

「……それは聞き捨てならないな、トロさんや」

 カイセンイクラドンとトロロゴハン……独特なネーミングのプレイヤー二人は、トロロゴハンの気になる事について話し合っていった。


************************************************************


 そして、再びAWOの中。

 ギルド【暗黒の使徒】のギルドホーム……そこでは、ギルドメンバー達が神妙な顔をして顔を突き合わせていた。

 彼等もまた、AWOプレイヤー。そして、第四回イベントに向けて戦意を滾らせる者達だ。今回の不正騒動は、彼等の耳にも入っている。


「良いか、お前達。我々が狙う最優先目標は、【七色の橋】だ」

 この決闘専門PKギルドを束ねる、男性プレイヤー……【ダリル】が、重々しくそう呟く。

 そんなダリルの言葉に、メンバー達は「異議無し!!」と唱和してみせた。


 ただし、その原因は不正騒動ではない。では何か?

「合言葉は!!」

『リア充爆発しろ!!』

「もういっちょ!!」

『リア充爆発しろ!!』

「爆発させるのは!?」

『俺達だああああああああああっ!!』

 不正騒動? 何それおいしいの? そんな事よりリア充爆発しろ。それが彼等、【暗黒の使徒】である。


 そんな【暗黒の使徒】に潜入した、アレク一派【禁断の果実】のメンバー……名を、【テリー】と言う。彼は、一緒に唱和しながらも内心では溜め息を吐いていた。


――実力派のPKギルド……そう思って潜入したのに……その実、モテない奴の集いになってるんだよなぁ……。

 

 PKとしての戦術? 真っ向から決闘を申し込み、受領されたら本気で殴る。否定されたら? チッ、と舌打ちして去っていく。それが【暗黒の使徒】である。

 新人がリア充していたら? 育つまで、待て。育ってしっかり実力を付けたら、決闘を挑んで殴る。それこそ【暗黒の使徒】である。

 正々堂々、正面からリア充を殴れ。それがスローガン。そしてリア充以外はどうでもいい。そんな連中が集まったギルドこそ、【暗黒の使徒】なのである。


――実力だけはあるのになぁ……そのせいで、俺以外のスパイ居ないし……。


 企み? そんな事より、リア充(ゲームの戦闘不能的な意味合いで)死すべし慈悲は無い。それ以外に意味は無い。


「幸福なのは!!」

『罪なんです!!』

「幸福なのは!!」

『罪なんです!!』

「幸福なのは!!」

『罪なんです!!』

「リア充ですかぁ?」

『殴らせろ!!』


――くっそぉ……ハズレくじを引いたなぁ……。


 テリーはそう思いながら、イベントが終わったらギルドから離脱しようと決意するのだった。


************************************************************


「おいすー! あれ? アーサーとハルは?」

 ギルド【森羅万象】のギルドホーム、その大広間。多くのプレイヤーが雑談を交わす中、明るい声色の少女が姿を見せた。

 その少女に、多くのプレイヤーが視線を向ける。中には、熱の籠もった視線も含まれていた。それも当然の事で、彼女は優れた容姿の持ち主だ。また、明るく快活な性格であり……何より、下ネタにも寛容である。むしろ、寛容すぎる。

 それが【森羅万象】の聖女・シアの評価だった。


「ギルマスの部屋です。はぁ、最近はいつもこうですね……全くもう、折角のアーサーさんとの逢瀬の時が……」

 そんなシアに返事を返したのは、またしても美少女。黒髪を弄びながら、ブツブツと不満を口にしている。彼女の名前はアイテル……【森羅万象】が誇る、名射手だ。

 アーサーに対する愛が重い、ストーカーじみている、地雷系っぽい……そんな評価が陰で囁かれている。同時にアーサーの幸福を優先する所から、良妻系・一途・尽くしてくれるタイプという意見もある。

 つまり、彼女もギルドメンバーからは大層な人気を集めている幹部であった。


「ブレないね、アイテルは。まぁ多分、例の件じゃん?」

 例の件……その発言から、アイテルは眉間に皺を寄せた。

「【七色の橋】の不正疑惑、ですね。一応は決着を見た様ですが……」

「ゲーム内で運営がメッセージ送ったりするはずないし、やってるなら現実リアルだよね。まぁ、やってるかやってないかは別の話だけどさ」

「……あの異様なスキルは、やはりユニークでしょう。その情報源が運営……というのが、晒したプレイヤーの考えなのでしょうね」

 そんな会話に、周囲のメンバーも聞き耳を立てている。思い込みで断定しないあたり、流石は幹部といったところか。


 そこへ、小柄な少女が歩み寄った。

「……こんばんは」

 帽子を被った、銀髪の美少女……魔法職として【森羅万象】を支える、ナイル。彼女の人気も、決して無視はできない。

 可愛らしい容姿に、大人しそうな表情。そしてぼんやりとした、のどかさを感じさせる声色。こういった面が、メンバーからは癒し系・妹系として人気を博しているのだ。

 同時にある少女同様、決して侵してはいけない聖域の様にも扱われている。聖女より聖女らしい扱いなのだが、まぁあっちは性に奔放というイメージがあるので仕方ない。


「おや、ナイル。いつの間に?」

「ちょうど今だよ……騒動の件?」

 ナイルがそう言うと、アイテルが彼女に真剣な表情で問い掛ける。

「えぇ。ナイルさんは、例の件についてどう思いますか?」

 アーサーを巡るライバル同士なのだが、それ以外の場では協調性があるらしい。こうして、ギルドの事やゲームの事について話し合ったりもする……まぁそうじゃなければ、ギルドの幹部など務まらないだろう。


 そんな問い掛けに、ナイルは表情や声色を変えずに自分の意見を口にする。

「……解んない、けど実力は本物だと思う」

 アイテル・シアを見ながら、ナイルは腰から下げたチェーンにポンと手を置いた。

「私の鎖の輪っか……あそこに刀を突っ込んで、動きを封じたでしょ。あれ、マグレには思えなかった」

 ナイルがそう言うと、二人もあの戦闘……第二回イベント準決勝の戦いを思い返す。


「……確かに。私の矢も、避けられてしまいましたね。死角からの攻撃、絶対に当たると確信していたんですが……」

「まぁ、確かに……それに準決勝では、レンも全力を出してなかったみたいだし。近接も出来るだなんて思わなかったよ」

 情報があろうと無かろうと、純粋なプレイヤースキルにおいても【七色の橋】は優れている。それは、よくよく考えてみれば一目瞭然の事実である。


 そこへ、一人の女性がやって来た。

「あら、皆さん。こちらでしたか」

 少女達に比べて、成熟した色香を身に纏う美女。大学生だという事だけは知られているが、リアルの情報はそれ以外全くと言って良い程明かさないミステリアスな人物。

 細剣使いのエレナ……アーサーが居なければ、彼女こそ【森羅万象】最速と称されていただろう。

「あ、エレナさん」

「こんばんは」

「どうも~」


 三者三様の挨拶に応えつつ、エレナは三人に問い掛ける。

「他の幹部は不在ですか。皆さんは、何のお話を?」

「あー、【七色の橋】の不正騒動。エレナさんはどう思う?」

 その言葉に、エレナは内心でほくそ笑む。【七色の橋】への疑念を煽るのは、イベント直前で良い。その前に、まずは自分が中立的な意見を持つ者だと印象付ける必要がある。

「そうですね……不正をしているとは思いたくない、という所でしょうか。確かに疑わしい部分はありますが、同じトッププレイヤーですし……」

 こういう質問をされた時に、こう答えると予め決めていた。それが最も彼女の作り上げたイメージに沿った、大人の意見だ。


「肯定も否定もしない、かぁ」

「やはり、エレナさんは大人ですね」

「うん、正直憧れる」

 三人の様子から、好感触と判断。そう感じたエレナは、彼女達に苦笑を返す。

「そうでもないですよ、私だってまだまだです。まぁ、運営の公式発表も出ましたしね」

 エレナは彼女達から信頼と尊敬を集め、そして何かと相談を受ける事が多い。主にアーサー関係だが、エレナはそれを快く受け入れている。

 何故ならそういった相談や、こういった雑談から情報が得られるのだから。エレナはそれを知っていた。


「運営S氏って誰だったんだろうね?」

「もしかして、シリウスって責任者?」

「それは無いでしょうね。ユートピア・クリエイティブはセキュリティもしっかりしているという話ですし、運営責任者がそれを破るとは思えません」

「エレナさんの言う通りですね。もしも身内が相手でも、責任者が情報をリークするとは思えません」

「だよねー、知ってた! あはは、言ってみただけ!」

 そうして、エレナは三人と雑談を続ける。彼女は気の良いお姉さんというイメージを、これからも演じ続ける。それは全て、愛する天使の為にであった。


 そこへ、一人の女性が通り掛かる。

「どうも、お疲れ様です」

 長い黒髪を靡かせた、気だるげな表情の女性。背負う杖から見て解る通り、魔法職プレイヤーだ。

「あ、【ヴェネ】さん」

「お疲れ様でーす。ヴェネさん、今度のイベントでメンバー入りしたの聞いてる?」

「はい、聞いてます。どこまでやれるか解らないですけど、頑張ります」

 そう言いながら、再び歩き始めるヴェネ。


「【ヴェネ=ボーレンス】さん……何か、不思議な人よね」

「確かに。今までに居なかったタイプですね」


……


 その頃、ギルドマスターの部屋では。

「で、アーサー? もう一度聞いてみて良いかしら……【七色の橋】の忍者君とお姫ちゃんから、連絡があったのよね?」

「あぁ……」

 シンラからすると、それを待っていた。もし彼女の予測通りならば、ジンからアーサーに連絡があるはず……と。

 そしてアーサーが、ジンから連絡が来たというからその内容を聞いたのだが……彼女の予想とは、大きくかけ離れた内容だった。


「それで? その内容をもう一度教えてくれる?」

 シンラにそう言われて、アーサーは視線を逸らしながら口を開いた。

「……クリスマスパーティーの、お誘い」

「私のも、同じだよ! お姉ちゃん、行っても良いかな?」

「……どういう事なの」

「解せぬ……」

次回投稿予定日:2021/12/10(本編)

※8日投稿の際、誤って12/20としておりましたので修正致しました。


次回は、ご覧下さっている皆様の内、大半の方が待っていたお話になるのではないでしょうか。

折角なので、キャラクターの視点でお届け致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一部抜けてる部分か有ったので追加します。【忍者の嫁ヒメノに嫌われ、その親友の小悪魔少女レン様のに嫌われたら、その家族に…】と書こうと思ってました。
[良い点] ヒメノ達を見て子供が欲しくなった、【遥かなる旅路】のカイとトロの二人。仲良し夫婦です。 (*´ω`*) そして【七色の橋】の不正疑惑で、トロロゴハンが気になった事とは? 【暗黒の使徒】の…
[一言] やっと暗黒の使徒の罪なんですのくだり思い出した! こちら幸福実行委員会ですのだ! ほんとにこいつら面白い
2021/12/17 16:06 しおりすぐ無くす読書好き
感想一覧
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