02-13 幕間・不穏な影
ジン達が、MPKerのルイズ達を釣った三日後。
始まりの町から離れた場所にある広い森の中で、一人の男が盛大な舌打ちをした。
「チッ……あのクソアマ共、ミスりやがったか」
男のプレイヤーネームは【ディグル】……本名は【阿久田国人】。
VR・MMORPGに傾倒し、どっぷりと漬かり切ってしまった男だ。三十五歳ながら親元を離れられず、仕事もせずにVR・MMOをプレイしている……つまるところ、ニートである。
そんな彼も、当初は純粋にMMOをプレイして楽しんでいた。だが、ある事件がきっかけで他のプレイヤーを傷付けて利益を得る事に快感を感じ、PKerの元締めとして君臨し始めた。
AWOの前身であるDKCでもPKerギルドを設立していたディグルは、このゲームでも仲間を集めてPKerギルドを設立した。
自分の欲望に忠実で、PK行為は勿論の事、ゲーム内での犯罪行為を進んで行っている。
正に、VR・MMOの闇そのものと呼んでも良いだろう。
そんな彼が苛立っているのは、自分のギルドに加えた三人……ルイズ達が、失敗して犯罪者プレイヤーとなり討伐された事に対してだ。
「俺のギルドに居ながら、クソみたいなマネしやがって……もういい、奴らは追放だ。使えねぇコマは要らねぇ」
システム・ウィンドウを操作して、ディグルはルイズ達をあっさりとギルドメンバーから追放した。ギルドマスターの強権である。
ディグルは徐に立ち上がり、一人の男を睨んだ。
「で? あのゴミ共を討伐したってのは何処のどいつだ?」
男は内心で冷や汗を掻きながら、ハッキリと報告する。
「はい! 和風装備の五人組と、中華風の装備の三人組……それに、アロハシャツを着た中年プレイヤーです! 名前については、掲示板に情報がありました!」
攻略掲示板の、雑談スレ。そこでは、ジン達はちょっとした有名人だ。他に居ない和風装備や中華装備を手にし、その行動もまた予測が難しい。そんな彼等は、周囲のプレイヤーからしてみれば格好の話題の的。
しかしそれが悪意無き書き込みであったとしても、こうして悪意を持つ者の目に触れてしまう。だからこそ、掲示板やSNSというツールは扱いが難しいのである。
「追放したとはいえ、俺の手下をヤったんだ……その報いを受けさせてやる」
その言葉に、控えていたギルドメンバーの男が問い掛ける。
「殺りますか?」
悪意と殺意に満ち溢れた言葉……自分の側に置いている者が、そういった意欲を見せている。その事実に満足感を抱きながらも、ディグルはそれを否定した。
「慌てんなよ……折角、最初のイベントが明日に迫ってんだ。潰すのは、それからでも構わねぇ」
こうして、ジン達は悪意の塊の様なプレイヤーの標的となってしまうのだった。
次回投稿予定
2020/6/15 1:00(二章の登場人物紹介)
2020/6/18(本編三章)