13-17 情報を整理しました
ギルド【白狼の集い】との対話が終わり、奥に引っ込んでいたメンバーが戻って来る。今回、PAC達はそのまま奥で作業。神獣のコンは、部屋でお昼寝である。
引っ込んでいたのは、ユージン・リリィ・クベラ・コヨミのゲストメンバー。そして人見知りのカノンに、ミモリが付き添いである。
引っ込んだ理由は、この【七色の橋】にゲスト参加する面々。特に生産職の頂点に立つユージンと、有名アイドルのリリィ・新進気鋭の配信者なコヨミである。余計なトラブルを避ける為にも、この三人の情報はイベントまで秘匿したい。
「さーて! それじゃあ始めるッスか!」
全員が揃った所で、ハヤテが話を切り出す。そして視線をヒイロに向ければ、彼は頷いてその言葉を引き継いだ。
「今回の件で色々と解った事について、情報を纏めよう」
晒し行為を実行したプレイヤーに、彼の口にした情報……これらは、今後の対策において重要なものだった。
「まず晒し犯はあのグラン、これは確定ッスね」
その件に関しては、疑問の余地は無い。彼の言動に加え、運営主任エリアの言葉からもそれが窺えるだろう。
「で、レンさんとシオンさんの会話内容を知っていた……多分、アイツはヒイロさんグループを尾行していたはず」
晒し行為が起きる直前の会話内容なので、その可能性は非常に高い。そうなると偶然その場に居たか、あるいは尾行していたかだ。そして彼の言動から、そういった情報が自分の手元にあるのは確実。
「それもヒイロさん達に気付かれない様に、だよね?」
「この三人に気付かれないって、相当ですよね?」
センヤとヒビキが、件の三人を見てそう言う。そんな二人に、ヒイロは苦笑して首を横に振った。
「少なくとも、俺はそこまで勘が鋭い方じゃない……と思うぞ?」
ヒイロとしては、それは本音だ。FPSで慣らしているハヤテ、【感知の心得】持ちのジンとアイネ。そしてVR慣れしているマキナならば、実際に気付けたかもしれないという思いがあるのだ。
そんなヒイロを横目に、レンが意見を口にした。
「私もですね。ですがシオンさんは、別です。初音の使用人ですよ? ある程度、警護の訓練は受けています」
レンの言葉に、シオンも頷いて肯定した。
「はい。ですので、そこらのプレイヤーならば気付ける可能性は高いかと」
初音家の使用人に課せられる、警護訓練……と聞いて、半分以上のメンバーが厳しそうだな。という印象を抱く。
実際に初音一族の身の回りを世話する者達は、相応に厳しい訓練を積んでいる。シオンこと鳴子も学生時代にはスポーツをしていたが、合格基準に達するまでに一年近くかかっている。
ともあれ、そんなシオンですら気付けなかった相手。しかも、あの迂闊さが透けて見えるグランだ。そこにはシステム的な種がある……と考えるのは、当然の帰結だった。
「となると、相手は【隠密の心得】を使っていたんじゃないかな」
「だと思う」
「多分、そうだろうなぁ」
マキナの言葉に、ヒイロとクベラも同意見を示した。
ここで問題なのは、わざわざ【隠密の心得】を使用して尾行をしていた事だ。
「【隠密の心得】を使っていたという事は、恐らく計画的な犯行よね」
「だろうね。という事は、俺等がマキナさんを通じて流した情報……ウチのメンバーの行き先を、知っていたという事になるッス」
探索する全メンバーが変装していたのでは、よくよく見なければ【七色の橋】の一員だとは解らない。それを知っていたという事は、【七色の橋】のメンバーの行き先が情報として伝わっていたからだろう。
「つまり……彼はカイトの仲間。もしくは駒、という所か」
マキナ経由で流した情報を知るのは、カイトと繋がる者……そして、その人物から情報を受け取る事が出来るプレイヤーのみ。
これで少なくとも、カイトの単独犯では無いという確証が得られた事になる。
そこで、ハヤテが軽く手を挙げる。
「あと、一人……さっきの門前での騒動で、あやし~いヤツを見付けたッス。そいつ、俺と会った事のあるヤツなんスけど」
さっきの騒動の場に居た、怪しい人物。しかも、ハヤテと会った事がある。その言葉に、全員が真剣な表情で耳を傾ける。
「ジェイクっていう、情報掲示板の構成員ッスね。カゲッちゃんのクエストをクリアした時、ずっと観戦していたヤツなんス」
「え、そうなの?」
カゲツと対峙するエクストラクエストを攻略し、ユニークスキルと素材を得ていた事は知っていた。しかし、そんな人物が居たとは知らなかった面々。
言うのを忘れていた事を恥じつつ、ハヤテは真剣な表情で自分のユニークスキル【一撃入魂】について思案を巡らせる。
「俺のユニークスキルの、初期段階はヤツに知られているッス」
「攻撃にMPを込める、だね」
ユニークスキル【一撃入魂】は、攻撃にMPを注ぎ込んで特殊能力を発動させるスキルだ。その初期段階となるのは、魔技【填魔】。これに関しては、カイトにも情報を流している。
しかしアイネの【百花繚乱】同様に、ハヤテの【一撃入魂】はそれだけのユニークスキルではない。
「という事は、手の内はすべてはバレてない?」
「そうッスねぇ。それにユニーク装備は、その時はまだ素材だったッス。だから、隠し玉はバレてはいないッスね」
複数の魔眼を発動可能な、≪魔ノ眼≫。魔力を消費してHP回復が可能な、≪魔ノ炉心≫。そして呪い属性の魔弾を発射できる≪魔ノ指輪≫。これらの情報は、カイトもジェイクも知らないのである。
ともあれ、ユニークスキルの情報操作については問題は無い。となると、問題になるのは……。
「それで、ハヤテ。その人が、あの場に居た……でも、それだけじゃないんだよね?」
「何か、怪しい挙動をしていたって事かな」
ヒイロとマキナの言葉に、ハヤテは満足そうに頷いてみせた。
「はい、ヒイロさんマッキー正解! アイツ、ウィンドウを弄って何かしていたんスよ。それが終わったら、俺らに気付いて……で、逃げる様に去って行った」
そう、ジェイクは気付かれていないと思っている様だが……しっかりと、ハヤテはその姿を認識していた。見覚えのある背格好に、情報掲示板メンバーの赤い布。それを忘れるハヤテではない。
「あの場に居てウィンドウを弄るだけなら、掲示板に書き込みとかでしょうけど……」
「逃げるように去った……これは、その場に自分が居るのを悟られたくないからですよね」
ミモリとリリィの会話を聞いて、ジンが予想を口にする。
「もしかしたらグランの行動は、ジェイクにとって予想外だったんじゃないかな」
そんなジンの意見に、全員が視線を彼に集中させた。
「グランのあの様子からして、計画的な感じは無かったと思うんだ。それでジェイクは、予想外の事態が起きているのを仲間に報告していた……とか」
やけに鋭いジンの指摘に、クベラとコヨミが「おぉ……!!」と声を上げた。
「それは、確かにありそうやな」
「確かに!」
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その頃、ジェイクは掲示板を見てほくそ笑んでいた。
――不正疑惑を否定する者もいるが……一度根付いた疑惑は、そう払拭できませんね。グランの独断専行でどうなるかと思いましたが、駒を使って【七色の橋】に集中攻撃をさせる策は成立するでしょう。
自分が最凶の銃使いにロックオンされている事など、全く想定していなかった。
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グランとジェイクについては一通り話がまとまり、次の問題点に話題は移る。
「そういえば、グランが口を滑らしていたよね。準決勝で、不正があったとか」
そう言うヒイロに、レンも頷いてみせる、
「はい。それに、【聖光】にも何かありそうな感じの事を」
「【聖光】は解らないけど、準決勝は俺ら以外。【聖光】か【森羅】、【魔弾】ッスね」
対象が自分達ならば、グランもあの場で声高に訴えただろう。そもそもグランの言葉など、身に覚えのない事なので一笑に付すしかないのだが。
ともあれグランが不正を訴えたのは、その三つのギルドの内のいずれかだ。
三つのギルドのどれか? と仲間達が首を傾げていると、ジンが口を開いた。
「もし何かやったのなら……多分、【森羅万象】だと思う」
そう言うジンの目は、確信している事を感じさせるものだった。
「あの時アーサーが僕に、どの試合に出るのかって聞いたよね? その後で、クロードさんが大将戦にアーサーが出るって宣言した。その時クロードさん以外が驚いていたんだけど……あれ、ちょっと引っ掛かってたんだ」
ジンの説明を聞いて、ヒイロも同じ可能性に行きついた。
「ジンがどれに出るのか、それをアーサーが聞いたのは単純な対抗意識。だとすると……」
「クロードさんが、配置を入れ替えた……だろうね」
あの時、アーサーが大将戦に出ると宣言したのはクロード。つまり彼女の判断で、出場者を直前で入れ替えたのだろう。
とはいえ、そうしたくなるのも無理はない。他のメンバーと違い、ジンに対抗するには前提条件があるのだ。
「ジン君の、速さに……対抗するには、同じくらい、速くないと……だよね?」
「まぁアーサー君も、ジン君があそこまで速いとは予想していなかっただろうけどね」
あくまでこれは推測であり、今となっては確証も得られない。第一、準決勝を制したのは自分達だ。
「まぁこれについては今更だし、別段騒ぎ立てる事ではない。問題は、それを知っていた理由だ」
「運営すら知らなかったその事を、【森羅万象】でもない彼が知っていた……だろう?」
ユージンがそう指摘すると、リリィも眉間に皺を寄せて唸る。
「イベントに参加している十人しか、その真実は知らないはずですよね?」
あの時、決勝トーナメントに進出した十人。フレンドのメッセージ機能を使用する等しなければ、同じギルドメンバーであってもその情報は得られない。
そしてギルドのサブマスターの不正など、同じギルドメンバーでも吹聴するとは考えにくい……ある可能性を除けば。
つまり【森羅万象】の幹部メンバー十人の中に、スパイがいる。ジン達は口に出しはしなかったが、同じ結論に至っていた。
だとすれば、それは誰だろうか? それを考えるにしても、内情を詳しく知らない自分達には判断が付かない。
「これについては、置いておきましょう。他ギルドへの干渉は、避けるべきですしね」
レンの言う通り、答えの出ない問題に時間を浪費する訳にはいかない。そこで今度は、もう一つグランが口を滑らせた事について触れる。
「それとあの人は、【聖光】の情報を口走ろうとしましたね」
その内容までは口にしなかったが、【聖光の騎士団】について話そうとした事実。これが重要な事である。
「これは恐らく、【聖光】にもスパイが居ると考えて良いかと」
レンの言葉に、全員が異義無しとばかりに頷く。
「大規模ギルドに入り込んだスパイ、か」
ヒイロが腹立たしげに呟くと、ヒビキが真剣な表情で頷いて言葉を引き継ぐ。
「何を目的にしているのかは、スパイを捕まえて尋問でもしないと解らない……とは限らないんですよね」
そうして、視線はマキナへ。マキナも鋭い目つきで、クラスメイトの事を考える。
「カイトだね。彼から、うまく情報を引き出せれば……」
自分を利用し、仲間を貶めようとしたカイト。彼を逆に利用する事に、躊躇は無い。
そんなマキナだが、躊躇していなくとも心情的には苦しいものがある。
彼も他のメンバー同様、その性格は善良なプレイヤー。そして他人と協力する事はあっても、騙して利用したりといった行為には忌避感を感じるのだ。
しかしそれをやる以外、自分や仲間の身を守る術はない。
そんなマキナの苦悩を察して、ネオンがかねてから気になっていた事について問い掛ける。
「その……カイトっていう人は、どんな人なんですか?」
ゲーム内でもフレンドとして面識のあるマキナ、刀の売買を行ったハヤテ。この二人以外、カイトの事は名前と概要くらいしか知らない。
「マキナさんを脅す様な人ですし、ろくでもない人っぽいですよね」
コヨミの言葉に、彼女とマキナ以外のメンバーがウンウンと頷く。マキナはそんな仲間達の表情から、自分の為に怒ってくれているのだと感じる事が出来た。
仲間達の怒りに申し訳無さと、喜びを感じつつ……マキナはカイトについて語り始める。
「そうだね……僕が昔、イジメられてたって事は話しましたよね? そのイジメっ子から、僕を助けてくれたのが彼だったんです」
イジメの事を知らなかったコヨミは、目を丸くして絶句した。それ以外のメンバーは、黙って話に耳を傾ける。
「彼は成績も良くて、運動神経も抜群で……それに、誰にでも分け隔てなく接する人だったんです。イジメられていた僕の事も、気遣ってくれていた」
そこまで話す間、マキナの表情は穏やかなものだった。しかし、それもここまで。
「本当に、そういう人だと思っていたんです」
自慢の友人を紹介する様な口調と表情は、沈痛な面持ちに変わる。
脳裏に浮かぶのは、本性を現した霧人の顔。夕日に照らされた嗜虐的な笑みが、記憶にこびり付いている。
マキナが黙ってしまい、沈黙が訪れる。そのままでは、マキナも辛いだろう……そう思い、レンが口を開く。
「多分、そういうキャラを演じている……って事でしょう。自分をよく見せる為に、人が好む行動をするんです」
そんなレンの気遣いに、シオンも便乗する。
「そしてその良い人の仮面の裏で、平気で人を陥れる……中学三年生と考えると、かなり危険な人物になると思われます」
「私が中三の時なんて普通にテレビ見てゲームして、友達とワイワイやって遊んでましたよ……いや、今もですけど」
コヨミの言葉に、マキナもフッと表情を緩めて顔を上げた。少しは気分が楽になったのだろう。
……
「ここで一度、状況を整理してみようか」
ユージンがそう切り出し、ヒイロに視線を向ける。彼は自分の立ち位置を変えず、【七色の橋】が主導で話を進める事を暗に促している。ヒイロもそれには気付いており、ユージンの配慮に感謝しつつ頷いてみせた。
「【七色の橋】を狙っていると思われるスパイ集団、彼等は他のギルドにも潜伏している可能性が極めて高い」
そのヒイロの言葉に、マキナが続く。
「ですね。その情報は、スパイ集団内で共有されている……そして、目的はまだ不明」
スパイ行為の目的が不明なのは、無理もない事だ。しかし、それが解らないからこそ不安や嫌悪感が募るのも事実。
スパイ集団の概要は、そこまでしか解っていない。なので、次にスパイ集団のメンバーについて。
「スパイとして確定しているのが、カイト・バン・グラン。疑わしいのは【森羅万象】の幹部、情報掲示板のジェイク」
前者三人は、盛大な自爆で疑惑の余地は無い。後者はまだ、確定材料が無い。
「それと、第三エリアラッシュ……あれが、私達の調査内容が漏れていたなら……」
ヒメノがそう言うと、リリィも首肯して意見を口に出す。
「はい、【聖光の騎士団】と【遥かなる旅路】も怪しいですね。あと、北のギミックを解除した【暗黒の使徒】も」
「そして、その場合……あの時の三ギルド同盟に、スパイが紛れ込んでいた事になる」
ジンの言葉に、全員が息を呑む。その可能性は既に、シオンから説明されていた。だから言葉の内容について、驚いたのではない。
ならば、何に驚いたのか? それは、ジンにだ。
「ゲストメンバーはこの場に集まっているし、信頼できる。だとしたら、【桃園の誓い】か【魔弾の射手】に……カイトの仲間がいる」
珍しい事に、ジンの口調には苛立ちが滲み出ている。その視線も鋭く、彼が本気で怒っているのだと全員が察した。
そして【七色の橋】結成メンバーは、ジンの本気の怒りを一度目の当たりにしている。
ヒメノが襲われた、マリウスの蛮行。その場には立ち会わなかったが、アークとシルフィとの対話でもジンは本気でキレていたのだ。
ジンの怒りを察して、ヒメノが自分の左手を彼の右手に重ねる。その行為で、ジンはハッとした表情になる。
「仲間を疑いたくないけど……ね」
そう言って、ジンは苦笑して目を閉じた。少し、クールダウンする必要があると考えたのだろう。
不確定要素は一度脇に置いて、ヒイロは確定している点について話し始める。
「この中で、バンとグランは……恐らくは、指示を出す様な立場の人間じゃないな」
「そうッスね。行動も言動も、何もかも迂闊過ぎッス」
つまり、スパイ集団全体を動かす力は無い。末端のメンバーという事だ。
逆にカイトは、マキナをスパイとして利用しようとしていた。それを考えると、指示を出す側と考えられる。
……
「今日はもう、探索という雰囲気では無さそうですね」
「まぁ、この状況だとね」
レンとヒイロの言葉に、誰からも異論は出ない。折角の公式発表で無実が証明されたのに、台無しにされた気分なのだ。
そんなメンバーに向けて、ユージンが提案をする。
「今日は休養日にして、明日から再始動と行くのはどうだい? 今の内に、色々と心の中の整理を付けた方が良いだろう」
「そうですね、そうしましょうか」
そう言って、ヒイロが腰を上げる。それに続いて、他の面々も席を立った。
ヒメノと共に、部屋に戻ろうとするジン。しかし、そこでハヤテが声を掛けた。
「あ、ジン兄! ちょっと相談があるんスけど……ほら、もう時期が時期だし」
「ん? うん、良いよ……二人だけの方が良い話っぽいね?」
既に、クールダウンは完了済みらしい。この切り替えの早さは、流石というべきか。
「あー、うん。そうッスね」
「解ったよ。ヒメ、部屋に居るコンが心配だから先に戻ってて貰えるかな?」
ジンがそう言うと、ヒメノはふにゃりと笑って頷く。
「はい、先にお部屋で待ってますね!」
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ジンとハヤテが訪れたのは、庭の菜園。見晴らしが良いこの場所ならば、誰か近くにいれば解る。その為、他のメンバーに会話を聞かれる心配は無い。
「で? クリスマスに向けての相談?」
十二月だもんね、と付け加えるジンに、ハヤテは苦笑を浮かべる。
「それもあるッス。ただ、一つ聞いておきたい事があるんスよね」
「……何かな、ハヤテ」
ハヤテがこのタイミングで、聞いておきたいと言う事。スパイ集団関連の話題だと察したジンは、再燃しそうな怒りを押し留めながら話を促す。
「ジン兄は、どっちが怪しいと思う?」
言葉少なな問い掛けだが、ジンはハヤテの質問の意図を正確に汲み取った。
「……【魔弾】は多分、無いと思う。元々、リアルの知り合いで集まったギルドらしいし」
レーナ達のやり取りを見れば、互いを信頼し合う関係が築かれているとすぐに解る。それはゲームでも、現実でも変わらない。自分達も同じだから、それが解るのである。
だとしたら、スパイが居る可能性が高いのは……姉妹ギルドである【桃園の誓い】。そこまで口には出さないが、ジンとハヤテは同じ認識でいる。
「で、一番怪しいのは……」
「……ドラグさんだ」
「同感ッス」
「ドラグさんは、いつも一歩引いた感じがする。決して馴染もうとしていない訳じゃないし、馴染みにくいという訳でもない……あえて、線を引いている。そんな気がするんだ」
――ジン兄は、陸上選手時代に色んな人間を見て来た。そのお陰か、人を見る目も鍛えられている。頼りになるよ、本当にさ。
「それに第三エリアラッシュ……あん時、【聖光】だけやけに早かったッスよね? あれも西側探索メンバーが、現地から仲間に情報漏洩したと考えれば辻褄は合うッス。そうなると……フレイヤさんか、ドラグさん」
――ハヤテはそこまで推理していたのか。全く、我がイトコながら流石だよ。
互いに互いを心の中で称賛しながら、二人はこの件について話し合う。
「この事、まだ全員には言わない方が良いッスね。皆、素直だから顔に出るし。相手に察知されたら、尻尾は掴めなくなる」
特に中学生組に関しては、そうだろう。しかし、この二人だけで共有するのは悪手だ。
「ヒイロとレンさん、シオンさんには話しておいても良いんじゃない?」
「それは、俺も同意見ッス。ジン兄から、ヒイロさんに伝えられるッスか?」
ジンは首肯し、更に手を打てないか考える。
「で、ジン兄? 何か考えてるッスよね?」
ジンが何かしらの考えを持っているのは、ハヤテには筒抜けだった。しかしジンは、まだその考えを話すつもりはないらしい。
「もしかしたら……程度なんだけどね。で、クリスマスの方は?」
「あ、はぐらかした……まぁ、うん」
こうなったジンの口を割らせるのは、無理だ。経験上、それを知っているので追求を諦めるハヤテ。
そして、クリスマスの相談内容なのだが……。
「俺も、ちょっとね? アイに、こう……指輪なんぞをね?」
指輪。それはつまり、結婚用のアレだ。
「やっぱりか。ヒイロもたまに何か言いたげだし……うん、でもそれなら後で、男子全員で集まったらどうだろう。ヒビキやマキナも、多分色々と考えてるだろうし」
クベラも巻き込もう。ジンとハヤテは言葉にしないが、そう決心する。
「あぁ、成程。それもそうッスね。んじゃ、あっちのメンバーに一声かけとくッス!」
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