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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十三章 イベント準備を進めました
263/573

13-12 公式発表がありました

 あの不正疑惑の晒し行為から、五日が経過した。ジン達はイベントに向けての準備として各々の武器や装備の強化を進めたり、スキルや武技の習熟を進めていく。


 そんな中、貴重な装備……ヒイロとアイネが保有する装備も、グレードアップを果たす事に成功したのだった。

「やはり予想通りだった。ヒイロ君の装備や、アイネ君の装備……これには≪聖剣≫や≪魔剣≫属性が付与されている。同じ属性を持つ武器や防具を素材にして、強化が可能という訳だね」

 ユージンの解説に、ヒイロとアイネは笑顔を見せる。


 神話生物系のユニーク装備と違い、NPC由来のユニーク装備は強化方法が不明のままだった。肝心の元・エクストラボス達も、強化方法は知らない。そしてオリジナルPACパックの三人も、それについては解らないとの事だった。

 これは、本人達が知っている事自体が不自然であるが故の事。何でもかんでも知っている訳ではないらしい。


「恐らく、他ギルドの……アークさんの剣も≪聖剣≫だと思う。そして【森羅】のクロードさんも、≪魔剣≫持ちだ」

「この情報を、あちらも知っている可能性はありますね。だとすれば、差を広げられるのを防げたかもしれません」

 アイネの言葉に、ヒイロは頷いて微笑む。


 VRMMOでの強さを測る要素は、多岐に渡る。その中でも装備の性能は、大きな割合を占める。ここで差をつけられると、不利になる可能性はおおいに有り得るのだ。


「そういえば、コヨミさん。配信の方は、大丈夫ですか?」

 ふと思い付き、ネオンがコヨミにそう声を掛ける。ゲスト参加を果たしてから、彼女は一度も配信をしていない様に見受けられるのだ。

 そんなネオンの言葉に、コヨミは苦笑してしまう。

「今は、配信しても視聴者が全然来ないので……イベントまではお休みかなって。今、AWO配信の視聴者は一人に集中してますから」

 コヨミの発言を受けて、ヒビキがあぁ……と声を上げる。

「アンジェリカっていう人ですよね? ネットアイドルの、伊賀星美紀さん」

「そうそう! そうなんです! 実は私が配信を始めたの、アンジェリカさんの活躍に憧れてなんですよね」


 そうして話題は、アンジェリカのAWO実況配信へと移った。

「実はアンジェリカさん、ユニークスキルを手に入れているんです! 【八咫烏】っていうスキルなんですけど」

 その情報については、ハヤテも確認済みだった。特にユニークスキルに関しては、自分達も無関係ではないので無視は出来ない。

「神話生物系のユニークなんスよね。もしかしたら……ジン兄達のと関わりがあるんじゃないかって、俺は思ってるんスけど」


 既にコヨミにも、ジン達がユニークスキルを保有している事は話してある。とはいえ、現段階ではそういうスキルを持っているという事だけしか教えていない。

 これはギルドメンバーでよくよく検討し、全員で決めた決断だ。決め手はやはり、彼女自身の人柄だった。自分達の為に本気で心配し、身を張ろうとした彼女なら……という事である。

 コヨミも、その事を教えて貰った事で感激。絶対に口外しない事を、全員の前で誓ってみせた。


 ともあれ、問題は【八咫烏】だ。

「でもハヤテ、風林火山陰雷……これでステータス系は、全て出揃っているんじゃないか?」

「そうとも言い切れないよ、ヒイロ君。風林火山陰雷には、続きの文があるんだ」

 そう言うと、ユージンがシステム・ウィンドウを操作する。そして目的のウェブサイトを開くと、ウィンドウを可視化して全員に見えるようにしてみせた。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 ゆえに其疾如風そのはやきことかぜのごとく

 其徐如林そのしずかなることはやしのごとく

 侵掠如火しんりゃくすることひのごとく

 不動如山うごかざることやまのごとく

 難知如陰しりがたきことかげのごとく

 動如雷震うごくことらいていのごとく

 掠郷分衆(ごうをかすむるにはしゅうをわかち)

 廓地分利(ちをひろむるにはりをわかち)

 懸權而動(けんをかけてしかしてうごく)

―――――――――――――――――――――――――――――――


「最後の三つの文は、こういう意味だよ。村里をかすめ取る時には兵を分散させ、土地を広げるときにはその要点を分守させ、万事についてよく見積もりはかったうえで行動する」

 ユージンの解説に、センヤが首を傾げる。

「でもでも、それなら……残り二つのユニークスキルが、他にあるんじゃないんですか?」

 それは当然の疑問だ。しかし、ユージンはそうでもないと考えているらしい。


「基本ステータス以外に対象になるのは、第七ステータスだろう。それぞれのステータスにユニークがあると、モチーフ的に不足したのかな? プレイヤーが保有できるステータスは、七つだけだしね。だから、三本足の【八咫烏】……とういう事なんじゃないかな」

「三行の文面を、一つに纏めているんですか」

「まぁ、予想の域を出ないけどね」


「それで、アンジェリカさんの【八咫烏】は……他のプレイヤーから、ステータスポイントを譲り受ける事が出来るんです。同意がないと出来ませんけど」

「僕もアーカイブを見返して、彼女のユニークスキルについては確認しました。普通のプレイヤーなら、ちょっとした強化で済んだかもしれないですけど……彼女の知名度を考えると、かなり壊れ性能と言わざるを得ないですね」


 ただの一般的なプレイヤーの場合、何かしらの対価と引き換えにステータスポイントを譲渡して貰う。おそらくはそういう想定で、このユニークスキルは作られたのだろう。

 しかしながら、ゲットしたのはVR界隈では有名なネットアイドル。それも熱烈なファンが付いている、大人気アイドルなのだ。


 それを可能とするのが、魔技【譲羽ゆずりは】。ステータスポイントの譲渡を受け付ける特殊なスキルだ。一日に受け取れるスキルポイントは、10ポイントまで。そしてステータスの譲渡は、一人につき一度のみ可能なのである。


 今まで黙って話を聞いていたリリィが、ポツリと呟く。

「彼女はギルドを自ら立ち上げて、第四回イベントに参加すると明言していますね」

 その言葉には、ある感情が込められていた。それは彼女が、ずっと忌避していた事態に発展することを意味するのだ。


 最前線レイドパーティで戦場を共にしたレンも、リリィの考えている事は解っている。彼女がこれまで、ソロである事に拘ってきた理由がそこにあるのだ。

「予想では、第三の大規模ギルドが突然現れる事になるでしょうね。しかしそれが、どこまでギルドとして纏まるかは未知数です」


 アイドルや芸能人などの、有名な人物。そういった人物がどこかのギルドに入ったり、ギルドを自ら立ちたち上げたらどうなるか。そこにファンが雪崩込み、すぐに大集団となるだろう。

 しかし、その統率は取れるのか? そこが一つ目の問題だ。


 そして二つ目の問題……それはギルドから離脱し、彼女のギルドに移籍する者が出る。そういった懸念があるのである。

「アンジェリカさんの人気なら、ギルドを離脱してでも彼女の下に……という人が居ても、おかしくありません。いえ、そうなる可能性が高いと思います。それは、仲間を捨てる・失うという事ですから……」

 しかし第四回イベントを前にして、ギルドから離脱者が出るのを許容するギルドがどれだけ存在するか? イベントに向けて戦力増強を掲げるギルドとしては、決して容易に受け入れられる事ではない。

 そうして、人間関係に亀裂が入る可能性も否めないのだ。


「だからリリィさんは、ソロでプレイしていたんですね……」

 有名人は大変なんだな……といったヒメノの言葉に、リリィは苦笑する。

「私は彼女ほど、突き抜けた人気は無いですけどね」

 リリィはそう言うが、それは謙遜だ。


 VRMMOプレイヤー等、ゲーマーに対して理解を示すリリィこと渡会瑠璃。彼女の人気は、自分が思うよりも高い。

 そして周囲への配慮を絶やさず、それでいて公平に接する。まぁ、現在は【七色の橋】贔屓になっている感は否めないが。

 ともあれそんなリリィは、長きに渡り芸能界で活躍していた事もあり根強いファンが離れずついて来るのだ。


 そんなリリィを前に、コヨミは目を輝かせる。今までずっと、アンジェリカの様になりたいと思っていた彼女。だが今、リリィの見せた思慮深さを目の当たりにして感動していた。


――そっか……有名になればなるほど、周囲への配慮をしないといけないんだ。流石、瑠璃さんだなぁ……。


 ただ自分をアピールする、ただより良いパフォーマンスを披露するだけではいけない。自分中心に物事を考え、周囲への影響を無視してはいけない。

 コヨミはリリィに対する尊敬の念を抱くと同時に、現状について自分もしっかり理解しようと頭をフル稼働させる。


************************************************************


 そうこうして準備を進めていると、夜の八時きっかりに運営からのメッセージが全プレイヤーに送信された。

 五日間の調査を経て、AWOにログインした全てのプレイヤーに向けての運営から公式発表である。


 内容は【七色の橋】にも事前にメールが届いており、想定内の結果である。

 その内容とは、これだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

 アナザーワールド・オンラインをお楽しみの皆様へ、ご連絡致します。


 先日の十二月一日、アナザーワールド・オンライン公式サイトより、本作をプレイしている複数名のユーザーに対し、弊社運営担当者がゲーム情報を漏洩しているという通報がございました。

 また本件については、外部掲示板サイトにおいても書き込まれている事が確認されております。


 弊社はこの事態を重く受け止め、六浦財閥、ファースト・インテリジェンス、宇治財閥より第三者調査員を招いての内部監査を実施。

 また該当プレイヤーのゲームプレイログを精査し、違反行為の有無を確認する調査を実施。


 監査の結果、運営担当者内に上記の行為を行っている者は居ないという結論に達しました。

 同時にゲームプレイログ確認の結果、該当プレイヤーによる不正行為は無い事を確認しました。


 本件において、皆様をお騒がせした事をお詫び申し上げます。


 また、本件において不正確な内容の通報及び外部掲示板への書き込みを、運営業務の妨害及び第三者に対する名誉毀損行為と受け止め、厳格な対応を行う方針を固めております。


 ユーザーの皆様方におかれましては、いたずらに混乱を招く等の行為を避けて頂きたく存じます。


 今後共、アナザーワールド・オンラインをご愛顧賜ります様、謹んでお願い申し上げます。

―――――――――――――――――――――――――――――――


 当然の事ながら、【七色の橋】の不正疑惑は認められないという公式からの発表。これを受けて、掲示板でもちょっとしたお祭り騒ぎが起きているようだ。

 とはいえ、これはあくまでゲーム内のみの調査だという声も少なくない。

 運営と現実で繋がりがあるならば、情報漏洩がされている可能性があるという声が上がっている。


「この書き込みをしている人達は、どうあっても我々が不正をしている方向に持っていきたい様ですね」

 不愉快そうにそう告げるレンに、ヒイロが苦笑して宥めに入る。

「レン、掲示板の情報を完全に鵜呑みにする人は、そう居ないよ。俺達は公式から潔白を証明された、それで満足しておこう……これに関しては、だけどね」

 前半は優しく諭すように、最後の一言は少し温度を下げての言葉。ヒイロもこの騒動が、スパイ行為をしている者達によるものと考えている。


 そんなギルマスコンビを見ながら、ジン達は今後について考えを口にする。

「これでコソコソする必要は無くなったけど……僕達を敵視していた連中が、簡単に手を引くかな?」

 ジンの懸念は最もで、この公式発表だけで全プレイヤーが納得するかは別問題だ。

「難しいッスね。それに興味本位で近寄って来る野次馬も、出て来る可能性はおおいに有り得るッス」

「それに一度植え付けられた悪印象は、そう簡単には拭い去れない……と思います。それが自分達に非があろうと、なかろうと」

 ハヤテとマキナの見解は、誰もが予想していたものだ。しかしそれでも、現状がそうであるという事は心に影を落とす。


「……まぁ、暗い話はここまでにしておこうか。無実が証明されただけで、十分な朗報だろう?」

 ユージンがそう言いながら、人数分のコーヒーを用意していく。

 疑惑が晴れたのだから、堂々としていれば良い。そう気持ちを切り替えるのが、現時点では一番だ。それは全員が解っている。


************************************************************


 無実が証明されたのだから、少し気晴らしがしたい。そんな考えから、ジン達はフィールドへ出る事にした。

 探索メンバーの振り分けについて話していると、執事姿のPAC(パック)……ロータスがふと視線を外に向けた。


「お嬢様、どなたか訪ねて来た様です。ですが来訪者は、当ギルドのメンバーとフレンド登録はされていませんね」

 現在、【七色の橋】のメンバーは全員【ギルドホーム訪問通知】の設定をフレンド外オフに設定している。これは第二回イベント以降から、変わりない。

 理由は言うに及ばず。決闘イベント優勝を果たした【七色の橋】に、人が殺到するのは火を見るより明らかだ。


 そしてPAC(パック)は、ホームへの来訪者に気付く事が可能だ。その際に権限のある者が「八時までは来訪があっても無視しろ」と言えば、その通りにする。

 こういった詳細な指示にまで対応出来るAIが、既に世界の至る所で活躍しているのであった。


 ともあれロータスの言葉に、レンは片眉を上げる。フレンドでもない来訪者など、ろくなものではないだろう。それも無実の証明がされてすぐの事だ。


「そうですか、ありがとうございますロータス。ヒイロさん、どうなさいましょうか」

 判断を仰がれたヒイロは、現状を顧みて真剣に思案する。その結果出した結論は……。

「無視をしておいた方が、今は良い気がするけどね……ろくな用件じゃあ無い気がするし。だが、相手が何者かくらいは確認した方が良いかな?」

 慎重に慎重を期す、というものだった。そして、視線を向けられるのは親友である。


 ヒイロの視線を受けたジンは、頷いて立ち上がった。

 隣に座っているヒメノがちょっと、寂しそうにしているのはご愛嬌。彼女の頭を一撫ですると、ジンはホームのエントランスへ向かいながら手を上げる。


「んじゃ、ちょっと見て来るでゴザル」

 そう言って、ジンはホームから出るとスキルを発動する。

「【ハイド・アンド・シーク】」

 久々に忍者らしく、【隠密の心得】のスキルを活用して姿を消すジン。そのままホームの塀に跳び上がり、塀の下へ視線を向けた。


「出て来いよ!! おいっ!! ふざけんなぁっ!!」

 門の前で喚き立てているのは、一人のプレイヤー。ジンはその顔に見覚えがあった。


――先日の、不審な様子を見せたプレイヤー? もしかして運営メッセージを見て?


 彼の頭上のカーソルを見ると、黄色に変化していた。恐らくは、運営からのペナルティが課せられたのだろう。

 通報内容が不正確だった……これは、まだ情状酌量の余地は残っている。


 しかし彼は、更に外部の掲示板に【七色の橋】の不正を書き込んだ。これによって、【七色の橋】は現在の状態……ゲームのプレイに、多大な支障を来たす事態となったのだ。

 軽犯罪イエローに留めたのは、運営からの厳重注意という意味合いだろう。


 軽犯罪イエロープレイヤーとなった事で、プレイヤーネームの非表示設定は適用されない。それを知るジンは、男の頭上のカーソルを凝視する。すると、数秒で彼のプレイヤーネームがポップアップした。


――名前はグラン、か。おや?


 見ると、グランを止めようとするプレイヤーが数名居る。どうやら、彼の仲間らしい。

「やめろ、グラン!」

「いい加減にしろって!」

「イエローになったり、殴り込みなんかしたり……何があったんだよ!」

 何が何だか分からない……そんな困惑した様子の彼等を見るに、恐らくはグランの独断。


 ともあれ、このまま放置しては更なる問題に発展する可能性がある。ジンはそう判断し、ギルドホームへと一度戻る事にした。


……


 ジンから状況を聞いたメンバーは、晒し行為の犯人と聞いて顔色を変えた。とはいえ、その反応は様々だったのだが。


 まず冷静さを保ちながらも、「あ、キレてる」と解るのがヒイロとレン。流石、ギルマスカップルにして似た物カップル。恐らくはギルド内外の影響などについて、思考を巡らせているのだろう。

 ちなみにシオンもここに分類されるのだが、二人よりも怒気が漏れ出ている。彼女にしては珍しいのだが、事が事だけに仕方が無い。


 次に、やけに良い笑顔を浮かべているメンバー。笑顔は笑顔なんだけど、雰囲気で「これはキレてる」と感じさせているメンバーと言い直すべきか。それが、ハヤテとミモリである。ちなみにゲストメンバーでは、クベラもここに分類される。

 相手をどう処してやろう……そんな意志が、見え隠れしている。一番危険なタイプの面々だろう。


 怒りよりも、不愉快という感情の方が先に来る……そんな嫌そうな表情を浮かべるのは、アイネとカノン・ネオン・ヒビキ……そしてリリィだった。

 比較的、穏やかな性格のメンバーである。故に、理解の及ばない不審者には関わり合いになりたくない……と考えても不思議ではない。


 そして「怒っています!!」と、ストレートに表情に出す面々……ヒメノ・センヤ・コヨミである。感情表現が豊かな三人なので、これは予想通りであった。

 ちなみにヒメノは、更新された弓を手にしているので武力行使も辞さないらしい。止めないと。


 沈痛そうな面持ちを浮かべるのは、マキナである。彼は自分がスパイ側に情報を漏らしてたのも原因と考えており、罪悪感を感じているのだろう。

 それでも「逃げてなるものか」という意思が、その眼から感じ取れた。


 唯一、表情が全く読めないのはユージン。涼しい顔で、ヒイロ達の反応を待っている。しかし雰囲気から、他人事と捉えている様には感じられない。

 恐らくは「【七色の橋】に判断を委ね、自分も最大限の協力をしよう」と考えているのだろう。ユージンらしいといえば、らしいスタンスだ。


「……ジン、ハヤテ。一緒に来てくれるか?」

 ヒイロがそう言うと、すかさずレンが名乗りを上げる。

「あら、私も行きますよ?」

 レンの言葉に、シオン・ヒメノ・アイネまで続いて声を上げる。

「お嬢様が出られるのでしたら、私も参りましょう」

「お兄ちゃん、私も行きます!」

「そうね、私も一緒に」


「……いや、相手が何をしでかすか解らないし……」

 危険な相手を前に、女性陣を連れて行きたくない……そんなヒイロの配慮を知りつつも、女性陣は一歩も引かない構えだ。

「だからこそ、行くんじゃないですか」

「いざとなったら、即座に叩き伏せられますよ?」

 薙刀まで手にして、アイネは殺る気に満ちている。本心では関わり合いになりたくないが、武力制圧は積極的にしたいらしい。流石、最凶カップルの片割れである。


 どう説得するか、という考えのヒイロ。しかし、その肩に忍者な親友が手を置いた。

「ヒイロ、諦めようか」

 説得は不可能、ジンはそう判断したらしい。更にハヤテも、苦笑してFAL型≪アサルトライフル≫を担ぐ。

「ま、ウチのユニーク保有者ホルダー勢揃いッスからね」

 武力的には、何の心配もない。むしろ、相手に同情するレベルだ。


「……仕方が無い、か。ちゃんと、俺達の後ろにいてくれよ?」

 ヒイロが折れるまで、そう時間は掛からなかった。


************************************************************


『不測の事態が発生しています。【七色の橋】のギルドホームに、馬鹿な駒が一人押し掛けました』


 そのメッセージは、【禁断の果実】を動かす面々……その全員に向けて送られた。

『何かまずい事でもあるの、ジェイク?』

 そんなエレナのメッセージに、ジェイクは顔を歪めて返答を打つ。それくらい察しろ……と送りたいのを我慢して。

『恐らくは、あの晒しを行った馬鹿です』


『運営に目を付けられたか。切るしかないな』

 アレクの判断は早かった。

『今、ギルドメンバーと居る。こちらでアカウント削除は危険だ』

『私も同じく』

『こちらも、今はフィールド探索中で厳しいわ』

『俺もだ、ジェイクかカイトに対応して貰いたい』

 アレク・エレナ・ルシア・ドラグと、ギルドに所属している者には対応が難しい状況。それは彼等の役割上、仕方の無い事だ。

 しかし、それでもジェイクは苛立ちを感じずにはいられない。


――どいつもこいつも、使えない。ガキのカイトにやらせるのは危険だ……俺がやるしかない。


 仲間に対して毒吐きつつ、ジェイクは『こちらで処理します』と入力してメッセージを送信。

 続けてシステム・ウィンドウを操作し、【禁断の果実】のサイトを開く。


――幸いヤツの名前は、軽犯罪イエローになったお陰で見る事が出来る。グラン……こいつか。


 AWOでの名前と同じ名前で、アカウントを取得する……このルールを破る者は居ない。ジェイクは管理者権限で、グランのアカウントを削除する。何の躊躇いもなく、無感情に。


――これで良し。後はURLをランダムで更新しておけば……。


 これでアカウント削除を受けた者がそのページを開こうとしても、【404 Not found】と表示されるだけ。

 この措置を受けた者は、二度と【禁断の果実】に触れる事は出来ない様になっているのだ。


 そしてアカウントが残っている者には、ランダム更新された新たなURLが【禁断の果実】から自動でメール送信される。

 処分された人間から、【禁断の果実】が漏れないように……ひいては、アンジェリカに影響が出ない様にする為の措置だ。


 その操作に集中していたジェイクは、ある事に気が付くのに遅れた。その時には既に、【七色の橋】のメンバーがグランの前に現れていたのだ。

「お前ら、よくもノコノコと顔を出せたな!!」

 そんな怒声に、ジェイクは視線を門前へと向けた。そこには、七人の和装プレイヤー……【七色の橋】設立メンバーが揃っていたのだ。


――クソッ、あと数秒遅く来いよ!!


 慌ててその場を離れるジェイク……林の中なので、利用する物陰には困らないのが幸いした。少なくとも、彼はそう思っていた。


 獲物に狙いを定めた、()()()()()()。ジェイクはその視線に、気が付く事が出来なかったのだ。

次回投稿予定日:2021/11/28(幕間)


今回のハイライト。

ジンが忍んだ!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忍ばない忍者ジンが、久しぶりに忍びました。 ジンも忍者らしく忍ぶ事が、有るんですね。(*´ω`*) [一言] 運営の公式発表で【七色の橋】の不正はしていないと正式に発表されました。まぁ、当…
[良い点] ジンが忍者をしていた事 これには忍者FCもニッコリ [気になる点] ジン達側で八咫烏の考察が少し進んだこと 文面三行分ということは特出すべき能力もかなと勝手に思ってます。 ジェイクに粗が…
2021/11/25 17:09 楽しみに待っている名無し
[良い点] あーあ、ジェイクは見つかっちゃいけない人に見つかっちゃった アカウント削除とかの作業は1度離れてやらないと(後の祭り) [一言] ジン君は最近比較的に忍者ムーブしてますし(震え声)
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