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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十三章 イベント準備を進めました
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13-10 スパイ対策を進めました

 不正疑惑が拡散され、そして運営主任エリアから【七色の橋】のプレイログを確認すると宣言された、翌日の昼。

 マキナこと名井家拓真は、クラスメイトの浦田霧人に歩み寄る。

「浦田君……ちょ、ちょっと相談したい事があるんだけど……今は時間、大丈夫……かな」

 難し気な顔をする拓真に、霧人は何の件かについて思い当たる。


「あぁ、大丈夫だよ。ここだとなんだし、静かな所に行くかい?」

「あ、ありがとう……浦田君」

 先日の様にビクビクしつつ、わざわざ自分に話しかける拓真。霧人は彼の性格上、自分から霧人に声をかけられないと思っていた。

 そんな拓真に違和感を感じつつ、霧人は屋上へと連れ立って向かっていく。


「……それで? 何の相談だい?」

 不愉快そうな顔を向ける霧人に、拓真は真剣な様子で質問をする。

「浦田君が【七色の橋】の情報を求めていたのって……彼等の、不正……あれを、明るみに出す為だったの?」


――は? 何言ってんだコイツ?


「おかしいと思ったんだ……浦田君が、あんな事を言うなんて……でも、もし僕が所属しているギルドが不正をしてたら……」

 俯きがちに、そんな事を口にしていく拓真。その顔色は悪く、混乱しているのは明らかだ。


――はぁ……もしかして、壊れた? 自分の身の周りで色々起き過ぎて、【七色】と俺のどっちを信じたらいいか解らなくなった? これだからザコは使えないんだよ。


「で、でも! ネオンさんは、違うと思うんだ! 彼女とはよく一緒に行動するけど、そんな素振りは無いよ! ステータスもスキルも、全然平凡なものだと思うし!」

 突然、そう言って捲し立てる拓真。その必死な様子を見て、霧人は合点がいった。


――惚れた女の為か。くっだらねぇ!


「本当なんだ、信じて!!」

「うっせぇな、寄るなクズ!!」

 拓真の肩を突き飛ばし、転倒させる霧人。十分に暴力行為なのだが、霧人はその点に思い至っていない様だ。


「好きな女の為にとか思って、嘘の情報渡したりしてねぇだろうな? 後でどうなるかくらい、足りねぇ頭でも解んだろ?」

 悪びれもせず、倒れる拓真を見下す霧人。

「下らない事に頭使うくらいなら、何も考えずにありのまま情報を寄越せよ。いちいち呼び出すなよ? RAINで送れば良いからよ。ほら、お前はそれくらいしか出来ないんだからさ……なぁ、裏切り者のスパイ君?」

 そう言い残して、霧人は屋上から立ち去っていった。


「いたた、口を滑らしてくれると思ったけど……情報は引き出せなかったか。でもまぁ、後々これも活きるよね」

 身体を起こしてそう言うと、拓真は視線を屋上の塔屋……に居る、隼に向けた。彼の手には、携帯端末が握られている。


――演技は得意ではないと思っていたけど、もしかしたら僕のそれも捨てたモノではないのかもしれない……いじめられっ子の演技なんて、自慢にもならないけどね。


************************************************************


 一方、仁と英雄は友人二人と顔を突き合わせていた。話題はやはり、例の不正疑惑についてだ。

「……運営と繋がっているっていうのは、やっぱり真っ赤な嘘か」

「そうだろうと思っていたけど、こうして二人の口から聞けて安心したよ。後は、運営の調査結果を待つばかりだね」

 二人はあっさりと、仁達の言葉を信用してみせた。


 何故なら彼等は、ゲームでもリアルでも【七色の橋】を知っている。そして目の前の二人が、そういった不正を良しとしない性格だと知っている。

 何より彼等が心の底から、純粋にゲームを楽しんでいるのを知っているのだ。


「しかし俺達に、スパイ行為を仕掛けようとしている奴が居る。【聖光】でも、目を光らせて欲しいんだ」

 英雄の言葉に、明人が視線を鋭くする。

「ウチにもスパイが居ると? まぁ、心には留めておくよ」

 聞き流した……かの様に見えるかもしれない。しかし明人は、二人の言葉を真剣に受け止めている。既に頭の中では、素行の悪いメンバーや怪しい動きをするメンバーの顔と名前を浮かべている。


 そんな明人に気付いているのか、いないのか。人志は、思い出した事を素直に口に出した。

「そういやDKCにも居たな、スパイごっこをする奴らが」

 人志の発言に、明人も頷いてみせる。

「あまりにも幼稚だったから、泳がせて決定的な証拠を突き付けてやったけどね」

 過去にも、そういった者達が居た……それを聞いた仁は、興味を抱いた。


「へぇ……どういうスパイだったの?」

「ギルドのプレイヤー情報を、SNSに流出させたんだよ。レベルとかスキルなんかだけどね」

 やれやれとばかりに、首を横に振る明人。そこで人志が、明人に視線を向けてニヤつく。

「で、我等が軍師殿が策を練ってくれたのさ。スパイ疑惑がある奴に、わざと情報を掴ませた。全員、違う内容のやつね」


 下手人が情報を明かしたら、どの情報を明かしたのか確認する。それにより、情報を得られた者がスパイだと証明してみせたのだ。

 尚、そのスパイはあっさり追放……そのまま、ゲームを引退したという噂が流れたそうだ。


「成程ね」

「それ、参考にさせて貰って大丈夫かな?」

「勿論。他にも色々と手はあるよ、明日までにリストアップしておこう」

 随分と協力的な明人に、英雄は気になった事を聞いてみる事にした。

「でも、良いのか? 友達とはいえ、ライバルギルドになるのに」

 そんな彼の言葉に、明人ではなく人志が答える。


「相手が全力じゃなきゃ、勝っても意味が無い……だろ?」

 それは、第二回イベントの決勝戦……その舞台で、仁が彼等に向けた台詞だ。

「……ははっ、あの時のお返しかな?」

「これで返せるとは、思ってないけどな」


……


 そんな彼らの会話を、廊下から覗く三人の生徒達が居た。

「……チッ、普通に話してんな」

「不正してるくせに、ヘラヘラしやがって……ムカつくぜ」

 あからさまに嫌悪感を顔に出す二人の生徒に、一人の生徒が厳しい視線を向けた。

「おい、ちゃんと考えてモノを言えよ。未だに不正の証拠なんて、どこにも出て来てないだろ」

「でもよ、映真!!」


 そんな三人に、一人の男子生徒が近寄った。

「あの、二年の先輩っすよね? 誰かに用っすか? 名前教えて貰えば、呼んで来ますよ」

 野球部に所属する巣平君が、そう声を掛ける。

「い、いや……大丈夫!」

「騒いで悪かったな、それじゃあ!」

 そそくさと去っていく三人を見送りながら、巣平君は首を傾げる。


 そんなやり取りがされているのは、教室の前側の扉付近。一方、後ろ側の扉では……。

「……頭領様、大丈夫そうね」

「気落ちしてないか心配だったけど……流石、我らが頭領様ね」

 忍んでいる二人が居た。そう、文化祭でジン×ヒメに狂喜乱舞した二人。【忍者ふぁんくらぶ】に所属する、あの占い研究会コンビである。ぶっちゃけ、事情を知らない人が見れば不審者。


 そんな二人に、一人の女子生徒が声を掛ける。忍べてなかった。

「あの、もしかして星波君に御用ですか?」

 彼女は仁達のクラスの委員長で、人志の世話をやけに焼く隈切さんだ。

 星波英雄の外見から、学年問わずに接触しようと訪れる女子生徒。それに声を掛けて退散させる役割は、彼女が率先して行っていた。


 しかし、今回は毛色が違う。

「い、いえ! 滅相もない!」

「寺野く……あぁいや、何でもないの!」

 名字を口にしたので、隈切さんは「あぁ、寺野君のお客さんか」と納得した。

「寺野君、お客さんだよ!」

 見守るだけで良かったのに、憧れの頭領様を呼ばれてテンパる二人。


 ちなみに仁の客と聞いて、根津さんの目がクワッ!! と見開いた。まだ諦めてなかったのね、君。


************************************************************


 その頃、初音女子大学付属中等部。

「……」

 食事をしながらも、携帯端末が気になって仕方が無い様子の優。そんな優に、他の四人は苦笑気味だ。


「RAIN待ちなんだよね?」

「うん……昼休み、カイトと接触するって言ってたから……」

 優は拓真が心配で、気が気ではない様子である。仕方が無いだろう、相手はスパイ行為の主犯の一人。しかも脅迫するような、ろくでもない人物なのだ。


「大丈夫、隼君が目を光らせてくれているから。ね?」

 そう言って、安心させようとする愛。自分の恋人に対する、信頼と愛情の深さが窺える。

「うん……拓真さん、隼さんが無事だと良いんだけど……」

 拓真だけでなく、隼も心配する優。やはり良い子である。


 その時、恋の携帯端末が震える。通知ウィンドウには、RAINのメッセージを受信した事を示す表示である。

「あ、英雄さんからね……うん、【聖光】の二人とは話が出来たみたい」

「そりゃ朗報だね! 大規模ギルドの幹部が信じてくれるなら、だいぶ助かるや!」


 すると、今度は姫乃の携帯端末が震えた。

「仁さんからだ!! えっと……」

 ソワソワとした様子で、携帯端末を操作する姫乃。その仕草から、仁からの連絡が嬉しくて仕方が無いといった感じだ。


――ゲーム内とはいえ、結婚までしてるのに……変わらないなぁ……。


 これ、友人四人の共通見解だった。それだけ、今の姫乃は嬉しそうにしている。

 そうして様子を見ていると、姫乃の顔が変化した……仁への愛が爆発した時に見せる、ふにゃっとした笑顔に。

「可愛いが過ぎる幼な妻……よくよく考えてみたら、幼な妻って響きえっちだよね」

「千夜ちゃん、出てる出てる。オヤジ出てる」

「でも解るな。ヒメちゃんは仁さんが絡むと、本当に幸せそうに笑うよね」

「そうでしょう、そうでしょう。可愛いでしょう、うちの義妹」

 一人だけ圧倒的に気が早いが、笑顔満開の姫乃は仁のメッセージに釘付けだった。


************************************************************


 そして、その日の夜。


 [虹の麓]前でジンと会えた後、そのままギルドホームへお邪魔した新人配信者・コヨミ。その際に他のメンバー(ゲスト含む)とフレンド登録し、次の日もホームに招かれた。

 大丈夫なのかな? 図々しくないかな? 場違いじゃないかな? などと思いつつ、ポータル・オブジェクトを有効化アクティベートする事となった。


 そして招待されたからにはと、ログインして始まりの町[バース]からワープして来たコヨミを待ち受けていたのは……【七色の橋】特製の和装だった。

「う、うおぉ!? わ、私なんかが、良いんですかねっ!?」

 そう、彼女の身に纏う装備……それは、いつも着用している店売り装備では無かった。


 白と赤を基調とし、更に金縁で豪華さを演出した衣服。その下には、一部がシースルー素材を使用している黒のインナーウェア。そして臙脂と金色の彩飾を施された、具足風の鎧。

 どこからどう見ても、ザ・和装である。その名も≪戦衣・快晴四葉≫と≪具足・甲騎闘頼こうきとうらい≫だ。

 しかも量産品ではなくコヨミ専用の、センヤデザインによるワンオフ装備であった。性能? ユニーク程じゃないけど、良いやつだ。一番良いのを頼む。


「良くお似合いです、コヨミ様」

「うん、凄く似合ってます」

「ふへぇ……良い仕事しちゃったぜ☆」

 満足気に頷くシオンと、まだ鍛冶モード故にハッキリとした口調のカノン。そしてデザインを手掛けた、お茶目モード全開のセンヤ。その近くで、他の女性陣も「全面的に同意!」とばかりに笑顔で頷いていた。


 これにはコヨミもテンパってしまい、オロオロしきりである。

「お、おいくらでふか!? 払えるかな!?」

 思わず噛んでしまうコヨミに、ジン達は苦笑。

「お近付きの印の、プレゼントとでも思って貰えれば」

「後は今の騒動が解決したら、それを着て配信でもやって貰えればありがたいですね。和装の宣伝になりますし」

 ヒイロとレンの言葉に、コヨミは目を丸くする。何故、少し顔を合わせただけの自分にそこまでしてくれるのか? と。


 その理由は、彼女の行動にある。

 ジンが止めたとはいえ、彼女は不正疑惑を聞いて[虹の麓]を訪れた。それは他のプレイヤーの様に、【七色の橋】の不正(勘違い)を糾弾する為ではなく……彼等を心配して、駆け付けたのだ。

 そして、心ない言葉を口にしたプレイヤーに憤りを感じる所を、ジンは見ていた。


 この事を聞かされた【七色の橋】の面々は、コヨミに対して強い好感を抱いた。それが、この歓迎に繋がったのである。


「こういう人達なんです……諦めて、受け取った方が良いですよ」

「リ、リリ……リリィさんまで、ギャンカワ衣装だし……!!」

 リリィもすっかり、メイド・イン・【七色の橋】。クールジャパンならぬ、キュートジャパン。この状況に慣れていないコヨミの混乱は、当然と言えば当然だろう。


 ひとまずコヨミが狼狽えつつも和装を受け取って、ジン達は行動開始前のブリーフィングを始める。

「今日も、ホームの前……には、プレイヤーが……集まって、いるんだよね……」

「そうね。運営にあぁ言われたのに、どうしようもないわね」

 通称[虹の麓]の周囲には現在、複数のプレイヤーが張り付いている。騒いでいる訳ではないのだが、それでも気分は悪いと言わざるをえないだろう。


「という事で目立たないように、例によって分散行動だな」

「はぁ……早く解決したい所ですね。こうも身動きが取れないと、実に不便です」

 ギルマスカップルの言葉に、ユージン達ゲストメンバーも苦笑してしまう。

 運営の沙汰を待つ……と思いきや、不便の一言で済ませてしまうのだ。それは勿論、自分達が真っ当にAWOをプレイしているという自信があるからだが。


 そんな時、ヒメノがコヨミに視線を向けた。

「コヨミさんも一緒に行きませんか? 変装セットも色々あるので、それを使えば一緒に探索できると思いますよ!」

「えっ!? ヒメノさん!? いやいや、そんな……どんだけ天使なんですか!?」

 思わずそんな事を口走ったコヨミに、ハヤテがサッと手を出してアピール。

「こんだけ!」

「どんだけ~!?」

 IKK●みたいなネタに走りつつ、コヨミはそのお誘いについて真面目に考える。


――ありがてぇ! ありがてぇけど! トップギルドの探索に、私が付いていけるかな!? それに、私は……私、うぅ……き、聞いてみる……? 絶対、断られると思うけど……。


 新人配信者であるコヨミだが、彼女も第四回イベントに参加したいと考えていた。勿論、視聴者からのお誘いもあったのだが……そのいくつかは、下心をありありと感じさせるものであった。

 その為、最悪は野良で仮設ギルド参加にするか? なんて考えていたのである。

 しかし、今。もしここで一歩踏み出す事が出来れば……そんな思考が、彼女の心を奮い立たせた。


「あ、あの……私、まだレベルも低いですし……お役に立てないと思うんですけど……」

 俯きながら、コヨミは言葉を選びながら紡ぎ出す。しかし、中々勇気が出せずに言い淀み……それでも、ここまで言ったからには言わないとと自分を奮い立たせた。


 そんなコヨミを、ジン達は穏やかに見守る。彼女の言いたい事は、なんとなく予想は出来ているのだ。むしろ、こちらから言い出そうと思っていたくらいである。

 最も今の【七色の橋(じぶんたち)】の現状をしっかり説明し、彼女がそれでも受け入れてくれるならだが。


 そして、数秒の溜めの末に。

「わ、私をゲスト参加させて頂けますか!!」

 ようやくコヨミは、そう切り出す事に成功した。


 そんなコヨミに対する返答など、決まり切っている。こうして、【七色の橋】は四人目のゲストメンバーを迎える事となった。


……


 本日の方針はこのようなもの。


 まず、ジンチーム。メンバーはジン・ヒメノ・ハヤテ・アイネ・リリィ。同行するPAC(パック)は、リン・ヒナ・カゲツ・ジョシュア。目標、新婚夫婦が入手した新たなスキルを試して検証。


 次に、ヒイロチーム。メンバーはヒイロ・レン・センヤ・ネオン・ヒビキ・マキナ・コヨミ。PAC(パック)からは、ロータスとセツナ。目標、新規加入メンバーとコヨミの戦力の底上げ。


 そして、生産チーム。メンバーはユージン・ミモリ・カノン・クベラと、生産系PACパック全員。目標、ガンガン作ろう。


 ちなみに珍しい事に今回は、シオンがレンの側を離れて単独行動をしたいと言い出した。その理由は……。

「【桃園の誓い】のダイス様より、我々を心配してお声を掛けて頂きました。内密に現状を伝え、こちらの作戦を伝える事が出来るいい機会かと」

 そう言いながら髪型を気にしたり、服装を気にしたりするシオンさん。ゲーム内では乱れないのに。


 そんな乙女な仕草を見せるシオンに、レンは真剣な顔で頷いて……。

「いえ、そういう建前は良いので。さっさとGOしましょう、シオンさん。良いですか、押してダメなら押して押して押して押して押しまくってGOしましょう」

「お嬢様、ピンポンダッシュの極意でも伝えたいのですか?」

 本人は真面目にアドバイスしたつもりだが、シオンには真顔でツッコミを入れられた。本当に、仲が良い主従である。


 そんなボケとツッコミに、真っ先に便乗したのはまさかの生産大好きおじさん。

「シオン君、≪深緑紫苑≫を装備していってはどうかな。折角だ、感想を聞いて来るといい」

「隕石級の大きなお世話をありがたく頂戴します、ユージン様」

「あ、頂戴はするんだ……」

「え、そういう事? そうなの!? うわぁ、大人の恋愛!? やば、興奮してきた!!」

「おっ、コヨミのおねーさんは話が分かりそうですなぁ」

「出た、センヤちゃんのオヤジムーブ……」


 好き勝手に囃し立てる若者達にシオンがうんざりしていると、ヒメノとリリィが近寄ってきた。

「シオンさん、ファイトです!」

「私も微力ながら、応援していますね!」

「なるほど、ヒメノ様とリリィ様が天使と形容される理由がよく分かります」

「シオン殿、ダイス殿に宜しく伝えて頂きたく。こちらは元気でやっていると聞けば、安心して頂けると思うでゴザルよ」

「あれ、ジン様も結構な天使では?」

 空気清浄系忍者ですから。


************************************************************


 その頃、【聖光の騎士団】ギルドホーム。ギルバートとライデンは、アークとシルフィと向き合っていた。

 話の内容は、仁や英雄とした会話についてである。幹部全員を集めないのは、ライデンの判断だ。


「……スパイ、ねぇ」

 わざわざVR・MMOをプレイして、スパイ活動をする利点が解らない。そう考えるシルフィは、二人の話を聞いても訝しげだ。

 しかし、アークはそうではなかった。

「かつてDKCで起きた、スパイ事件。あれと同じ事が、AWOで起きている……そう言うのか?」

 実に真剣な表情で、アークは唸るようにそう告げる。


――え、何? 過去にもあったの? そいつら、バカじゃないの?


 シルフィの感想は最もなのだが、実際に起きた事も起きている事も変わらない。

「……ギルバート、ライデン。彼等との情報共有を、より密に行ってくれ。シルフィ、この件はひとまずここに居る者だけで共有する」

 その言葉に、シルフィは不信感を抱く。何故、幹部メンバーに共有しないのかと。そして彼女は、サッパリとした性格の女性であった。

「アーク、そいつは何故だい? 幹部には周知しても良いと思うんだがね」

 その不信感を心の中に抱え込むのではなく、さっさと聞いて理由を聞くタイプの人間だった。


――あ、聞いちゃうんだ。

――流石は姐御、清々しいな。


 ライデンもギルバートも、そんなシルフィに感心してしまう。こういう彼女だから、アークと共に話を聞いて貰ったのだが……これは正解だったらしい。

 何故ならば。アークの口元が、緩んでいるのだ。あの仏頂面がデフォルトの、アークの顔がだ。


「シルフィ、過去にスパイが入り込んだのはウチのギルドだった。そしてその男は、幹部にのし上がった者だった……これが理由だ」

 アークの簡潔な説明で、シルフィはすぐに納得した。過去の事例を踏まえた対策、それが必要なのだろうと。

「成程ね……なぁ、三人共。ウチの弟については、アタシに任せちゃくれないかい?」

 実の弟であるベイルに関しては、自分にも責任がある。そう考えているシルフィは、自らベイルに確認をしようとしていた。


「そうですね、シルフィさんが僕の提案を聞き入れてくれるなら」

 ライデンの言葉に、シルフィはジト目を向けながら素っ気なく答えた。

「内容によるね。それはいったい、どういう提案だい?」


……


 そうしてライデンから語られる、提案。それを聞いたシルフィは、何故そんな事をするのか疑問に思えた。

 しかし大した事ではないと判断し、その提案を受け入れるのだった。


 そうなると、話はその先の対応について。

「まずは、幹部メンバーの方を確認。次に、素行の悪いと思われるメンバー……そして、最近目立った功績を残したメンバーの確認ですね。気付かれない様に、慎重に行きましょう」

 ライデンの言う素行が悪い……というのは、別にガラが悪いとかそういう意味では無い。独断専行が多いメンバーとか、そういう意味だ。


 そして、目立った功績について。

「功績、ね。スパイ活動で、何かしらの利益を得たヤツって事かい」

「そうなると、第三回イベント入賞者か?」

 先の第三回イベントでは、【聖印の巨匠】を中心に活躍したプレイヤーも多い。その中か近くに、スパイ行為をするプレイヤーも居るかもしれない。


 そこでライデンが、その後に功績を挙げた人物について言及する。

「それと、もう一人。第三エリア到達に貢献した、アレクですね」



************************************************************


 同じ頃、【森羅万象】のギルドホーム。アーサーとハルが、ギルドマスター用の部屋を訪れていた。

「シンラさん、来たぞ」

「……お姉ちゃん、疲れてそうだね? 大丈夫?」

 ハルの言う通り、今のシンラにいつもの様な雰囲気では無い。普段ならば笑顔を絶やさぬ彼女の顔からは、笑顔が消えている。代わりに、「超めんどくさい」と書かれている様にも見える。


「もし何なら、クッキーでも焼こうか? 疲れてる時は甘いモンが一番だろ」

 現実・ゲーム問わずに料理が趣味なアーサーは、お菓子作りにも精通しているらしい。そんなアーサーの申し出に、シンラは真顔で頷いた。

「来てくれてありがとう、二人とも。アーサー、クッキーはぜひお願い」


 そんな雑談はさて置き、シンラは本題について切り出した。

「来て貰ったのは、現在のAWOで起きている騒動について……そして、私達がどういうスタンスで動くかについてなの」

 シンラの言葉を受けて、アーサーが不愉快そうな顔を浮かべる。

「あぁ、あのふざけたデマカセの晒しか」

 それは【七色の橋】の不正疑惑を、否定するという意味に他ならない。


「あら……アーサーは、否定派なのね?」

 シンラの言葉に、アーサーは真剣な表情で答える。

「当たり前だろ。俺はジンと、真正面からやり合ったんだ。それに動きからして、スキルや武技を使いこなす為に努力してたのが伝わって来た。あいつらは俺等と何も変わらない、普通の真っ当なプレイヤーだ」


 そんなアーサーの発言に、ハルも続いて自分の意見を述べる。

「私も、アーサーと同じ考えだよ。正々堂々も、フェア精神も口だけじゃないって感じたもん」

 アーサーとは違い、感覚的な言葉だ。しかしそれはシンラとクロードも同感だったので、否定する事なく頷いてみせた。


 そして、シンラはいよいよ本題に入った。

「……アーサー、ハル。私達から、あちらに働きかける事はしない。これは、絶対に守って貰うわ」

 首を突っ込むな……つまり、釘を刺されたのだろう。少なくとも、アーサーはそう感じた。

 しかしシンラの話には、続きがある。


「ただし……あちらからアクションがあるとすれば、話は変わるわ。その時には必ず、あなた達二人のどっちかに連絡が来る」

 つまり、ジン達から連絡が入る可能性がある……シンラはそう言っていた。

「うん。私達はジンさんやヒメノさんと、フレンド登録してるもんね」

 ハルはその言葉の裏に隠された意味に気付いていないが、アーサーはシンラが何かしらの策を巡らせているのだと察した。だから、黙って彼女の言葉を待つ。


「その時、他のメンバーにはその事を報せないで。私とクロード、そしてあなた達二人だけの秘密にして」

 シンラの言葉は、仲間を疑っているという意味合いだ。シンラに甘いクロードも、流石に聞き捨てならないと口を挟む。

「シンラ、それは……」

 しかしシンラは、真剣な表情でクロードの言葉を遮った。

「待ってクロード。理由は言うから、今は聞いて。これは重要な事なの」

「……解った、お前を信じる」

 それから数十分に渡り、四人の打ち合わせが続くのだった、

次回投稿予定日:2021/11/23(幕間)



コヨミ参戦決定。なのでゲスト勢揃いです。

【絵心の無い作者が色々と描いてみた】

挿絵(By みてみん)


左は紹介不要? 生産職人・ユージン。

右は胡散臭さ出てる? 商人プレイヤー・クベラ。

そして既出の、人気アイドル・リリィ。

最後に参戦決定の、Vアイドルを目指す配信者・コヨミです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユージンさんは格好は思ってた通り 髪髭等は白で多少筋肉マシマシでも違和感なさそうだね 声は渋く貫禄がありメガネが鼻に掛ける小さなメガネだと裏とも精通してそうな印象に早変わりだね
[良い点] 今回の騒動で色々と大変ですが、シオンとダイスの仲が少しずつ近づいていってる事は、良かったですよね。(*´ω`*) そしてシオンに、有る意味面白がって色んなアドバイスをする【七色の橋】のメ…
[良い点] 大手ギルドのトップの方々が動き始めましたね。ハヤテ・ライデン他頭脳担当多数からなるアレクご一行様への包囲網が楽しみです [一言] 1年A組に不審者(ふぁんくらぶ・デマ鵜呑み派・デマ否定?…
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