13-05 幕間・進化する天使
十二月に入り、クリスマスに正月といったイベントが迫る。更に、AWOでは第四回イベントという大型イベントも控えている。年の瀬ともなれば学生は期末試験に、社会人は年末業務に追われる。
だというのに、相変わらずの盛況ぶりを見せるとある人物のゲーム実況ライブ配信。
「みなさん、お待たせしました! 今日もライブ配信やっていくよー!」
ログインと同時にライブ実況を開始する、アンジェリカ。同時接続数は、あっという間に万を超えた。
『わこつわこつ』
『今夜もアンジェリカちゃんに会いに来ました!』
『キター!』
『アンジェちゃーん! 俺だー! 結婚してくれー!』
『始まった!』
『待ってました!』
『このライブ配信が楽しみで生きている!』
流れるコメントの数も、尋常ではない。それもアンジェリカにとっては日常的な光景で、彼女は動じずに話し始める。
「わぁ、今日もコメントの流れが早い! 皆さん、いつもありがとう!」
ニコッと微笑むアンジェリカに、画面の中は大喜び。彼女の配信の様子を遠巻きに眺めるプレイヤーも、大喜びである。
そんな中、一人のプレイヤーがアンジェリカに近付く。
「あの、アンジェリカさん! 俺のステータスポイント、受け取って貰えますか!」
この言葉も、ここ最近は頻繁にかけられる言葉だった。アンジェリカのファンが、彼女の為に自分のステータスポイントを譲渡するという申し出である。
「あの……良いんでしょうか? お返しになるものは……えぇと……」
「お返しなんて要りません! いつも、配信で楽しい時間を貰ってるんです! 俺のポイントがアンジェリカさんの役に立つなら、それだけで十分です!」
そんなやり取りを見て、他のプレイヤー達もアンジェリカに歩み寄る。
「アンジェちゃん、俺のステータスも!」
「私も! アンジェリカさんの為なら、惜しくないわ!」
「ぼ、僕のステポも、是非……フヒッ……」
「私のもあげるよ! なぁに、投げ銭の代わりよね!」
アンジェリカに集まるプレイヤー数は、既に十や二十ではない。一人ずつが1ポイントを譲渡したとしても、アバターのステータスが一気に上がる。それも、飛躍的に。
「あ……ありがとうございます! 贈ってくれたポイント、大事に使わせて貰います!」
ステータスポイントを受け取る際に、アンジェリカは一人一人と握手を交わし声をかける。さながら、握手会の様である。
「が、頑張って下さい! いつも応援してます!」
「ありがとう! これからも応援してくれたら、嬉しいな♪」
「はい、次の方~!」
気付けばアンジェリカにステータスを譲渡した者達が、自発的に列整理係を買って出た。
しかしその狂騒は、少しの時間で終わる。
「はい、上限です! 今日のステポ譲渡はここまで!」
アンジェリカが一日に譲渡出来るステータスポイントには、上限がある。一日10ポイントまで、そして譲渡出来るのは一人につき一度のみ。それがステータス譲渡を受け付ける魔技【譲羽】の効果だった。
……
【八咫烏】入手後は、毎日ステータスポイントを上限まで譲渡されている状態にある。それによって、アンジェリカのステータスはみるみる内に向上していく。
「皆が期待してくれているのが、凄く伝わって来るなぁ……【八咫烏】のお陰、だね」
それも全て、彼女のユニークスキル【八咫烏】の特性ゆえ。そして同時に、彼女自身の知名度と魅力ゆえであった。
「ふふっ、今日は皆のお陰でテンションが上がって来ちゃった! よぉし、今日はダンジョンアタックに行ってみますか!」
『それなら第二エリアの[腐食の密林]がオススメよ』
『常時スリップダメージのクソマップじゃん』
『知らんのか? [腐食の密林]にはエクストラクエストの起点があるんだぞ?』
『なにそれ初耳』
『kwsk』
当然、このコメントは意図的なものだ。アレク一派の掻き集めた情報により、アンジェリカに適したスキルやアイテムを調べたのだ。
先日の[夢幻の墓所]は、友人からのアドバイス。しかし今回は、明らかに初めて間もない彼女が知り得ない。そこで、配信視聴者からの情報提供という形で誘導する。
これも全て、彼女を更なる進化へと導く為のシナリオである。
「へぇ、エクストラかぁ……え、どうしようか。行けるのかな? 正直怖いけど、エクストラ攻略見たいですかー?」
そんなアンジェリカの言葉に、返ってくるコメントは軒並み”是”。その反応を見て、アンジェリカは天使の様な微笑みを浮かべる。
「うおぉ、期待されてる……それじゃあ、皆の期待にお応えしちゃいましょう! エクストラクエスト目指して、出発~!」
……
第二エリアにある、南西の難所[腐食の密林]。そこへ向かう道中で、とあるコメントが流れる。
『アンジェちゃんは、第四回イベどうするん?』
そのコメントを見た視聴者達は、一斉に沸き立った。
『そういや、そうだった!』
『アンジェリカが天使過ぎて、聞くの忘れてたわ』
『ギルド入るのかな? それとも立ち上げちゃう?』
『どっちにしろ、アンジェが居るならそこ入るわ』
『俺もだな。今いるギルドを抜ける所存』
そんなコメントを見て、アンジェリカはフッと笑みを浮かべる。
「第四回には、出たいと思ってます! でも、配信をやってると自分のペースでやりたいから……ギルドに加入するのは難しいのかなって」
アンジェリカはそこで、一度言葉を切る。
彼女の言う通り、既に結成済みのギルドに入るのは彼女に向かない。ノルマなどが存在するギルドもあるし、情報漏洩防止の為に配信が禁止されている所も少なくない。
『まぁ、そうなるな』
『ですよねー』
『アンジェちゃんが入りたいって言ったら、ギルドルール変えそうだけどなw』
『でも、そうなると……え、まさか?』
『やるの? やっちゃうの?』
『wktk!』
視聴者からのコメントが、アンジェリカの意図を察した流れになっていく。それにニッコリと微笑むと、アンジェリカが一つ頷いた。
「そう! ギルドを新しく立ち上げようかなって思っていまーす!」
人気配信者・アンジェリカが立ち上げる、新たなギルド。それは、第三の大規模ギルドが誕生するのでは? と視聴者達は予想。そしてアンジェリカのギルドに参加したい、という声が一気に噴出した。
『マジかよ! 絶対に入るわ!!』
『俺も入れて欲しい!!』
『入れて下さいお願いします何でもしますから』
『私も入りたい!』
『アンジェリカ様! 犬とお呼び下さい!』
『今日は仕えるべき主を発見した、記念すべき日だ』
『芳ばしい奴等が増えてんなw』
『アンジェちゃんのギルド! もう入るしかあるめぇよ!』
『絶対入るわ! ねーねー、ギルド名は何にするん?』
盛り上がるコメント欄を見ながら、歩いていたアンジェリカ。ギルド名を問われた所で、立ち止まってみせる。そしてカメラに向き直ると艶のある笑みを浮かべ……そして答えた。
「ギルド名は、考えてあります! えっとね……私が作るギルドは【天使の抱擁】です!」
次回投稿予定日:2021/11/10(本編)




