13-02 幕間・とある人物達のチャット
『【桃園の誓い】に新メンバーねぇ。そいつらの中に、俺達の手駒を潜り込ませられたんじゃないのか?』
AWOでの活動を終え、深夜……PCでチャットをしているドラグは、【桃園の誓い】の増員について報告した。それに対するアレクからのレスポンスは、冷たさを感じさせるものだった。
『済まん。これが一番良いと判断したが、一声くらいはかけるべきだった』
ドラグは謝罪の言葉を打ち込む。しかし自分の判断は間違っていない、そういった自信が見て取れる。
それを察したジェイクが、ドラグに問い掛ける。
『何か理由があるんですか?』
『詳しく言うのは勘弁して貰いたいんだが、【七色の橋】にはリアルでハンデを背負ってるメンバーが数名居る』
そんなドラグの報告に、ジェイクはPC画面を見て何とも言えない表情を浮かべた。
――ハンデ持ち……障害か。しかし、数名? ジンの右足……それ以外にも、何かあるのか? それとも、家庭環境か? まぁ、舵定は口を割らないだろうが……それなら無理もないな。
まかり間違って現実問題を晒しでもしたら、計画どころではない。
そう考えたのはエレナ、ルシアも同様だった。
『もしも潜り込んだスパイ要員が、その情報を迂闊に公開でもしたらマズいって事ね』
『確かにそうね。ここに居るメンツなら、そういった不手際は無いでしょうけど……使い捨ての手駒だと、やらかす可能性が否めないわ』
そう言いつつも、ルシアは内心で約一名はやりかねないけど……と思っている。無論それは、カイトである。
そんな評価を下されているとは露知らず、カイトはPC画面を前にほくそ笑む。
――名井家をスパイとして使えるようにしたけど、それはまだ言わなくて良い。年上だからって、見下されてあれこれ指示されるのはウンザリだ……美紀に一番近いのは、俺。お前らは、ただの取り巻きでしかない……。
そう、霧人はまだ『拓真をスパイに仕立て上げた』と報告していなかった。
全て、自分が手柄を独り占めする為……自分が一番、美紀の役に立てると彼女にアピールする為である。
そして、美紀からそれが彼らに伝わる事は無い。
『成程、理由は理解した。カジ、引き続き宜しく頼む』
現実におけるハンデ……そんな情報を公開でもしたら、公開した側に非難の声が上がるのは必然だ。その結果、美紀にまで飛び火する様な事態は避けなければならない。
舵定以外は『美紀の為に必要な措置』と考え……それを『人道的に必要な措置』とは捉えなかった。愛する彼女の為に、ただそれだけが全てなのだ。
それを感じた舵定は、心の中にモヤっとした形容し難い何かに気付く。
しかし話は既に終わりとばかりに、別の話題に移行した。
『さて……アンジェは、無事にユニークスキルを手に入れましたね』
『しかも、アンジェにピッタリなヤツだろ? これなら、第四回でアンジェがトップになってもおかしくはねぇよな』
『ステータスに関わるユニークスキル……もしかしたら、彼等のユニークと関係あるのかしら?』
そう……アンジェリカは先日、ユニークスキルを獲得したのだ。これは彼らにとって、実に喜ばしい事だった。
ダンジョンの中に割れた宝玉が祀られている祠があり、その総数は三つ。宝玉の欠片を集め、ボス部屋に到達するとエクストラクエストが開始された。
そしてボスを討伐した所で、割れた宝玉は修復され……黒いスキルオーブへと変化したのだ。
この事実は、多くのプレイヤーの知るところとなった。何故ならば、アンジェリカは配信中にエクストラクエストを攻略したのだ。
イベントに備え、全ての情報を開示する事はしていない。これに、特に不満は出なかった。
しかしアンジェリカは、ユニークスキルの情報を一部公開した。その特殊なスキルは、アンジェリカにとって非常に有用なものだったからである。
それはステータスを譲り受ける事が出来る……というものだ。
『アンジェの為なら、少しくらいステータスポイントを譲渡しても構わない……そういうファンの声も、あちこちで見受けられる』
『既に、同接は安定して一万を超えているしな。流石だよ、アンジェは』
『彼女の魅力ならば、当然でしょうね』
一人から一ポイントのステータスを譲り受けても、多少の強化にしかならない。しかしそれが、百や千を越えたらどうなるか? 各ステータスに極振りしているプレイヤーを、上回る事も不可能ではない。
『これが、アンジェのユニークスキル【八咫烏】……俺達の太陽に相応しいスキルだな』
太陽の化身、導きの神……その名を冠する、ユニークスキル【八咫烏】。この力を手にしたアンジェリカは丁度、ライブ配信を終えてログアウトするところであった。
次回投稿予定日:2021/11/3(掲示板)