13-01 新しい出会いでした
東側第三エリアにある、獣人達が暮らす城塞都市[エリアス]。そんな[エリアス]に対し、戦争を仕掛けようとする都市がある。
都市の名は[アクシア]。他の都市に比べると、これといった特徴の無い都市だ。
その戦争を引き起こそうとしていたのは、[アクシア]の治安を担う【アクシア兵団】……の内の、一部の者達だ。
彼等は[アクシア]領主の息子【マサラ】が率いる、【アクシア騎士団】の方が住民に頼られ慕われている事に嫉妬していた。
日頃から、都市内部の治安維持をしているのは自分達。強力なモンスターの討伐だって、自分達に任せてくれればやり遂げられるのに。
そんな不満を抱く兵士は、日に日に増えていった。
そしてついに不満の限界に達した彼等は、獣人の城塞都市[エリアス]が戦争を企てている……という欺瞞情報を流した。騎士は普段は領主邸宅の警護で、この件に関わる可能性は低いと考えたのだ。
自分達が[エリアス]に攻め入り占拠する事で、自分達の方が騎士団よりも優秀だとアピールしようとしていた。
[エリアス]は獣人の都市であり、彼等は昔から人間とモンスターのハーフだと言われている。勿論、そんな事実は無いのだが。
ともあれ[エリアス]ならば、何をやったって良いだろう……それが、首謀者達の考えだった。
これが、[エリアス]のストーリークエストである。
そして今、ジン達はそのクエストを進めていた。
兵団の一員を捕らえて、持っていた密書を入手。兵士ごと領主に証拠を提示し、信頼を勝ち取った。そして騎士団と共に首謀者達を追い詰め……そして、捕縛に成功した所だった。
戦争を引き起こそうとしていた首謀者達だが……内容が内容なので、ジン達はちょっとお怒りモードであった。
苦戦する要素は、当然ながら皆無だ。フルメンバーの【七色の橋】に加え、ゲストメンバーも居るのだ。
ろくなダメージも与えられず捕えられた首謀者達は当然、全員生きている。手加減をする余裕があった、という事だ。
「うまくいきましたね」
「あぁ、後は報告だな。それで、東側のストーリークエストは攻略完了かな?」
ヒイロが視線を向けると、ジンの手には[アクシア]領主から託された[エリアス]宛の親書がある。
「そうだと助かりますね」
そんな風に歩きながら会話する、ヒイロとレン。その様子を、後ろから付いて行く仲間達が見守る。
「ヒイロ君と、レンさん……息ピッタリだし、なんちゅーか……カリスマ性も持っとるし、流石やな」
ポツリと呟くクベラに、横を歩いていたミモリとカノンが反応する。
「レンちゃんは、本物のお嬢様ですから」
「と、時々……どっちが年上か、解らなく……なる時もあります……」
そんな二人の言葉に、クベラは「へぇ……」と感心したような声を漏らす。
言葉遣いや所作から、ただの女子中学生ではないとは思っていた。
しかし改めてお嬢様と聞かされると、自然と納得出来るだけの存在感をレンは持っていた。シオンというメイドも居るし。
そうこうしている内に、【七色の橋】は[エリアス]へと辿り着いた。クエスト完了報告をするのは、防衛隊長のガオルだ。
「おぉ、君達か。一緒にいるのは、仲間か?」
「はい、そうです。戦争を企てていた連中を、全員捕縛しました。既にあちら側に引き渡してあります」
「ガオルさん、これはあちら……[アクシア]領主のガラムさんからの、親書です」
ジンとヒメノが受注したクエスト……故に、パーティリーダーは二人が務めている。そんな二パーティで、同時に攻略完了報告が出来るのはありがたい。
最も、旦那さんと別パーティになるのでヒメノさんは寂しそうでしたが。パーティが違っても、一緒に行動なのに寂しいとは、中々にラブラブが過ぎる。
「腕利きとは思っていたが、君達に頼んで正解だった……感謝する、心優しき異邦人達」
ガオルはそう言うと、手をパッと振る。その手から零れ落ちる様に発生した光の粒子が、ひとりでに展開されたシステム・ウィンドウに入り込んだ。
「これは心ばかりの礼だ、受け取っておくれ」
ガオルのその言葉の後に、システム・ウィンドウにクエスト完了を示す表示が現れた。
「さて、それじゃあ検証しようか?」
そう言って、アロハ甚平姿のユージンが一歩前に踏み出す。
昨日向かった極寒地帯でも、アロハ甚平だった。見るからに寒そうだったが、ユージンはどこ吹く風だ。
「ガオル殿。我々は今後もこの街の問題を解決する、そのお手伝いが出来ればと思っている。その際は、どちらにお声を掛ければ宜しいかな?」
堂々としたユージンは、いつもの陽気なおじさんという感じではない。格好さえ他のプレイヤーと似た様な装備ならば、歴戦の戦士と言われても納得出来そうな立ち振る舞いだった。
「そうかそうか、それは実にありがたい! ならば市街地に居る、ガルマを訪ねて貰えるか。あいつは[エリアス]の隅々まで知っている、頼りになる男なんだ」
ガルマの居場所ならば、ジンとヒメノが遭遇したあの辺りだろう。ジン達は早速、彼を訪ねる事にしたのだった。
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ストーリークエストは、これで南と北・東が完了。残る西に取り掛かる前に、ジン達は一度ギルドホームへと戻る事にした。
その理由は……。
「おっ、あと五分くらいだ!」
「どんな子が生まれて来るのか、楽しみですね♪」
まもなく、≪神獣の卵≫が孵化する時間だからだった。外で孵化時間を迎え、騒ぎになるのはよろしくない。その為、一度ギルドホームに帰還したのである。
「やっぱりアンコクキュウビのSABですし、その幼体なんでしょうか?」
「狐系なのは間違いないんじゃないかな、多分だけど」
「だとしたら、ふわっふわの毛並じゃないかな。モフらせてくれるかなぁ」
「成長したら、背中に乗れるようになったりしないかな?」
「それは素敵ですね! その時は、私も乗ってみたいです」
楽しみで仕方が無いのか、ヒビキ・マキナ・センヤ・ネオンもいつになく饒舌だ。その様子に、リリィも解る解る……という感じで加わっている。
そんな純粋な面々の一方、ヒイロとレンは……ジンとヒメノ、そして二人の前に鎮座する卵を見てある事を考えていた。
「もし人型だったら、ついに二人もパパとママか」
「もう、私達もおじさんおばさんになってしまうのですね……」
勿論、冗談のつもりである。しかし二人の息ピッタリなジョークに、ジンとヒメノは顔を見合わせ……そして、嬉しそうに微笑む。
――あっ、これあてられるヤツだ。
――中高生なのに、もう雰囲気が完全に夫婦ね……。
そんなこんなで、ついにその時がやって来た。卵の殻に、亀裂が入る音がする。
「おっ!!」
「来た!!」
亀裂は徐々に、あちこちに入り……そして、卵が砕け散る。
「……クゥン?」
中から現れたのは、やはり狐型モンスター。赤ちゃんではなかった、残念。
「狐なのに卵から孵るのには、ツッコまない方が良いのかな?」
「その方が良いよ、ゲームなんだし……」
一歩引いた所から、そんな現実的な事を話す最凶カップルはさておき。生まれたばかりの子狐を、【七色の橋】の面々が囲む。
「もうしっかり毛は生え揃ってるね!」
「アンコクキュウビと違って、金色の毛並だー!」
「歯も生え揃っている様ですね。餌はやはり、肉類がよろしいのでしょうか?」
そんな風に盛り上がるメンバーを見渡し、子狐はジンに視線を向けた。しばし彼を見つめた後、ジンに向けて歩き出した。
ジーッとジンを凝視する子狐に、ジンは微笑んで声を掛ける。
「……えーと、僕はジンだよ。これからよろしくね」
優しくそう告げると、言葉の意味を悟ったのか子狐はジンの腕をよじ登っていき……そして、肩に乗ってみせた。どうやら、無事にジンに懐いたらしい。
「ふふ、可愛いですねー」
ヒメノもふにゃりと微笑んで、子狐とジンを注視している。実に平和な光景である。
「主様、この子に付けてあげる名前はお決まりでしょうか?」
「あ、そうそう。色々考えてたんだよね」
生まれて来るのが、どんな存在でオスなのかメスなのかも判断は出来なかった。故にジンは、ヒメノとも相談していくつかの名前を考えていた。
「性別は……おぉ、オスなのか。それなら【コン】っていう名前はどうかな?」
安直な名前……と、大半のメンバーは思う。しかし変に捻った名前にするよりも、呼びやすくて覚えやすいのかもしれない。それに、金色の狐だから、コン。ジンやリンとも名前が似通っているし、そういう意味では良いのかもしれない。
ジンが子狐に名前候補を告げると、子狐はジンの頬に擦り寄った。
「気に入ったみたいですね。それじゃあ、あなたはコンちゃんですね♪」
ヒメノが呼び掛けると、子狐あらためコンは一鳴きしてみせた。その様子を見た他の面々は、これは確定だなと苦笑して見守る。
「あ、そうしたら……コンちゃんの、名前……システム・ウィンドウで、設定してあげないと……だね?」
「確かにそうですね」
カノンに促され、ジンがシステム・ウィンドウを開く。すると、”神獣の卵”と書かれていたタブの表記が”神獣”へと変わっていた。
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■神獣名/レベル
【コン】Lv1
■種族/性別
妖狐/♂
■契約プレイヤー
【ジン】
■ステータス
【HP】50/50
【MP】10/10
【STR】10(+8)
【VIT】10
【AGI】10(+8)
【DEX】10(+3)
【INT】10(+3)
【MND】10(+2)
■スキルスロット(3/3)
【妖狐Lv1】【未装備】【未装備】
■装備
無し
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【譲渡ステータス】
ジン AGI+5
ヒメノ STR+5
ヒイロ MND+1
レン STR+1
シオン DEX+1
ハヤテ STR+1
アイネ MND+1
ミモリ STR+1
カノン AGI+1
センヤ INT+1
ネオン DEX+1
ヒビキ INT+1
マキナ INT+1
ユージン DEX+1
リリィ AGI+1
クベラ AGI+1
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ジンとヒメノはガチャで手に入れた【ステータスポイント+5】を消費し、その全てをコンに譲渡した。それ以外のメンバーは、各々がひとまず1ポイントずつ譲渡。これはヘルプ画面で確認し、後からでもステータスポイントが譲渡出来ると解ったからだ。
更に詳細を確認すると、卵の時には確認出来なかった情報が閲覧出来た。
「神獣は、一つのパーティにつき一匹だけ加入可能……その時、パーティメンバーの枠は取らないらしいな」
「空腹度は、プレイヤー同様に存在するみたいですね」
更にPAC同様に、召喚と送喚が可能。神獣レベルやスキルレベルの強化は、プレイヤーやPAC同様に戦闘などで上げられる。
「で、スキル【妖狐】がこんなん」
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スキル【妖狐Lv1】
説明:神獣専用スキル。神獣の持つ力の習熟度を示す。習熟度が向上すると、新たな技を習得する。
効果:STR+1%、AGI+3%、INT+2。
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獣技【噛み付きLv1】
効果:牙による攻撃。攻撃時、STR+1%、AGI+2%。発動後、再使用まで10秒。
Lv2 【(未習得)】
Lv3 【(未習得)】
Lv4 【(未習得)】
Lv5 【(未習得)】
Lv6 【(未習得)】
Lv7 【(未習得)】
Lv8 【(未習得)】
Lv9 【(未習得)】
Lv10【(未習得)】
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「ふーん、プレイヤーのと違って武技……いや、獣技は取得まで謎なんスね。とにかく、連れ歩いて強くしてあげようと……そういう事ッスね」
「シンプルに解りやすく言うと、そうだろうね」
どことなく余所余所しい空気があった、ハヤテとマキナ。しかしマキナの決意の告白と、同じ学校の生徒という事実が判明した今は違う。
今では互いに敬語が抜け、ありのままの自分を曝け出して笑い合っている。もしかしたらこの二人も、ジンやヒイロの様な唯一無二の親友になれるのかもしれない。
「さて、この神獣の情報はどうしたものか……公開するか、イベントまで秘匿するか」
「間違いなく、話題になるでしょうね」
そんなギルマスコンビの会話を聞いたジンは、ある事について考えを巡らせる。
――僕達って、本当に新要素を真っ先に見付けているんだよなぁ。
エクストラクエスト、ユニークスキル、三人だけのオリジナルPACと、エクストラボスのPAC。そして第七ステータスに、神獣システム。
前人未到の新要素発見には、大体【七色の橋】が絡んでいた。
実際にそれを成し遂げて来た自分達からすると、運が良かった……または、必死に頑張った結果だ。
しかしそれを、外から見るとどう思われるか?
脳裏を過ぎるのは、陸上選手時代……中学生新記録を出した仁に対し、大差を付けられて優勝を逃した選手の罵声。
「ありえねぇ……ドーピングでもしたんじゃないのか!?」
悔しさのあまり、ついつい言ってしまった言葉なのだろう。彼はすぐに自分の暴言を撤回し、謝罪した。
表面上は謝罪を受け入れ、気にしていないと仁は告げた。しかし内心では、自分は不正をしていないのに疑われた事……それが不服だったのを、覚えている。
――もしかしたら、僕達が不正をしている……そう勘違いしているプレイヤーが、居るんじゃないか?
思えば、掲示板にそんな書き込みがあると耳にした事がある。そして……そんな輩が、スパイを使って【七色の橋】の情報を探ろうとしている者達の中に居たら?
「ジン君、どうかしたかい?」
黙り込んだジンに、ユージンが声を掛ける。
「いえ……ちょっと、気になる事があって……」
自分一人で抱え込むよりも、仲間達と共有した方が良いかもしれない。
そう考えたジンは、その仮説について話し始めた。
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その頃、南側第一エリアに存在する【桃園の誓い】のギルドホーム。ケイン達はイベントに備え、新たな仲間を迎えていた。
「ようこそ、【桃園の誓い】へ。君達を歓迎するよ」
表情を引き締めて、ギルドマスターとして挨拶をするケイン。
しかし、すぐにその整った顔には朗らかな笑みが浮かび上がる。
「といった、堅苦しいのは苦手だ。これからはギルドメンバーとして、よろしく」
柔らかい声色に、親しみを滲ませる言葉。そんなケインの挨拶に、新たなメンバーが頷いた。
「いやぁ、こっちとしてもありがたい話だったからな。こちらこそ、よろしくな」
そう言って快活に笑うのは、体格の良い男性。彼の名は【レオン】……何度かアーク主催のレイドパーティに参加していたプレイヤーで、DKCもプレイしていた古参プレイヤーだ。当然、ケイン達とも顔馴染みである。
最初は機会があれば、大規模ギルドに加わらせて貰おうとも思っていた……しかし同じレイド参加組のケイン達の躍進を目の当たりにし、声が掛からないかとソワソワしていたらしい。自ら志願しなかったのは、彼なりの矜持があったのだろう……多分。
続けて一歩前に踏み出したのは、長弓を背負った女性。
「今話題のギルドからの勧誘だもの、喜んで参加するわ……ふふっ」
妖艶な雰囲気を纏う女性……プレイヤーネームは【マール】。レオン同様、最前線に参加していたプレイヤーである。
ちなみに彼女、他のギルドからの誘いを蹴って【桃園の誓い】に加入したらしい。
というのもマールは、ノルマだとか規律だとかで縛られたくないからだ。大規模ギルドや中規模ギルドだと、そういったしがらみが多いのである。
そんな二人に続いて、大学生くらいの青年がニカッと笑ってみせた。
「うぉぉ、本当に【桃園の誓い】のメンバーになれたんか! ありがとな、ダイス! 俺は今、モーレツに感動している!」
「こ……じゃない、ヒューゴ。叫ぶな、うっさい」
長剣使いの【ヒューゴ】、本名は【熱田言都也】。ダイスとは大学で知り合った、仲の良い友人である。
ダイス程の腕は無いが、野良で第三エリアに到達したらしい。その話を大学で聞いたダイスは、ヒューゴを【桃園の誓い】に誘ったのだった。
「おう、ゲイル。腕は鈍ってねぇよな?」
「誰に向かって言ってんだ、更にパワーアップしてるに決まってるだろうが」
強面のゲイルに負けず劣らずの、厳しい顔付きの男性。彼は剣と盾を扱うオーソドックスな戦士スタイルのプレイヤーで、名前は【ゼクト】という。
彼とゲイルは、旧知の間柄。DKC時代から好敵手として、良き友として交流していた相手だ。顔立ちのせいで、初対面の相手にビビられてしまう同士だったりもする。仲がいいのは、その辺のシンパシーがあるからだろうか。
そして、残るは一組の男女である。
「よ、よろしくお願いします……」
緊張でガッチガチになっている、大学生から新卒くらいの女性。彼女はドラグに声を掛けられたプレイヤー、魔職の【ヴィヴィアン】だ。
紫色のローブに、三角帽子……いかにもな魔女スタイルの彼女は、どうやら引っ込み思案らしい。
そんな彼女だが、実はポーション職人として名前が知られている人物だ。その腕を買われて、つい先日まで【暇を持て余した我々の遊び】というギルドに所属していた。
しかしギルドからはポーション製作以外の役割を求められず、苦悩の末にギルドを脱退したのである。
そんな彼女の隣に立つのは、メガネを掛けた一人の青年。その腰には一振りの長剣を差しているが……同時に逆側の右腰に、魔職が使用するタクトを備えている。
「僕は【バヴェル】といいます。よくお世話になっているヴィヴィアンさんに誘われて、このギルドに参加させて頂きました。よろしくお願いします」
礼儀正しい性格らしく、そう言うとペコリと頭を下げてみせた。しかし、どことなく堅い雰囲気を漂わせている。
彼はヴィヴィアンのポーションをよく購入するらしいのだが、その際に彼女が必要とする素材を調達する等してくれるお得意さんらしい。そんな折に【桃園の誓い】からヴィヴィアンが勧誘を受け、彼も一緒に誘われたのだ。
「一気に賑やかになったわねー、よきかなよきかな!」
「折角だ、歓迎会でもすっか?」
イリスとゼクスがそう提案すると、ゲイルやチナリも賛成意見を口にする。
「はははっ、それも悪く無いな」
「親睦も深められるものね」
すると、ゼクトが目を輝かせる。
「おぉ、そうしたらイベントに入賞したゲイルの飯か? いいぞいいぞ、食わせろ!」
そんなゼクトのリクエストに、他の面々も便乗する。
「あ、わ、私も興味あります……!」
「良いわね。貴方達、呑めるクチ? [ミラルカ]で手に入れた、ワインがあるんだけど」
「お、良いっすねぇ! 未成年は……いねーな、よし! 飲もう!」
「俺に料理作らせといて、飲み始めようとすんなよ! 作ってやんねーぞ!?」
「はーいはい、私も手伝ってあげるからさっさと作りましょ」
最後にはフレイヤにやり込められ、渋々と料理を始めるゲイル。
コントロールされている様な気がするが、どっちにしろ料理に集中し始めたら止まらないので問題無いだろう。彼は見た目に反して、凝り性なのだ。
そんなメンバーを見ながら、バヴェルは穏やかに微笑みながらギルドメンバー達の様子を観察する様に視線を巡らせていた。そんなバヴェルに、ケインが歩み寄った。
「バヴェルさんは、初対面だったはずですね? どうぞよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします。それと、敬語も敬称も無しで大丈夫ですよ」
儀礼じみたやり取りをしながら、バヴェルは内心で満足感を感じていた。
――どこかのギルドに参加しろ……だなんて、無理を言い出したから焦ったじゃないか。ポーション製作の素材を提供していたヴィヴィアンさんに、【桃園】が声を掛けたのは僥倖だったな。
彼はどうやら、何者かの指示を受けて【桃園の誓い】に参入したらしい。ともあれ最初の目的は、ひとまず達成した。
――うん、良いギルドだ。さて、指示があるまでは……のんびりやらせて貰おうかな。
彼をギルドに招き入れた事が、どう転ぶのか……今はまだ、誰にも予測することは出来ない。