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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十二章 第三エリアを探索しました
250/573

12-20 反撃の糸口見つけました

 拓真が霧人の脅迫に屈した……と()()()()()()をした、その日の夜。

「さて、それじゃあ作戦を練ろう」

 ギルド【七色の橋】のギルドホーム……通称[虹の麓]。そこに集ったメンバーは、真剣な表情で席に着いていた。ギルドメンバーは勿論、ユージン・リリィ・クベラも同席している。


 ヒイロが切り出した、”作戦”という言葉。それは、何についての作戦か。

「妙な輩が、僕達を狙っている事がハッキリしたけど……その目的は、いったい何だろう?」

 ジンの言葉に、マキナが真剣な表情で頷く。

「彼の言葉だけでは、目的までは解りませんでした……やはり彼に()()()()()()()をして、彼から逆に情報を引き出した方が良いと思います」


 そう、これが本題。

 マキナを脅して利用し、【七色の橋】の情報を得ようとするプレイヤー。カイトの陰謀に対して、自分達はどう対応するか。そしてこの問題をどう解決し、カイトの企みを阻止するか。


 つまりマキナは、カイトに従うフリをしていたのだ。彼は脅迫を受けたその日の内に、【七色の橋】に全てを打ち明けたのだった。


************************************************************


 時間は遡り、拓真が霧人に脅迫された日の夜。


 拓真はAWOにログインするやいなや、【七色の橋】のメンバー全員がいる前で全てを話した。

「僕がクラスメイトに情報を漏らしたせいで……あの大規模PKが起きました。本当に、済みませんでした!!」


――嫌われたくない、失いたくない……でも、僕は皆に救われたから……今度は……!


 土下座で謝罪するマキナの姿に、メンバー全員が言葉を失った。


――今度は……僕が皆を守る。その為なら痛みにだって耐えられる……何だってしてみせる……!!


 霧人から見た拓真は、他人の顔色を伺い、攻撃される事を恐れる少年だった。そんな彼は仲間達の拒絶を恐れ、自分の言いなりになるしかない。そう信じ込んでいたのだ。

 もしもマキナとして【七色の橋】に加わっていなかったら、その展開は有り得たかもしれない。しかし彼はもう、カイトの知る彼ではない。


 例え、仲間達に嫌われても……真実を打ち明け、【七色の橋】を狙う敵の存在を明らかにする。好きになった女の子を……自分を励ましてくれた人達を、守りたい。


 マキナの成長……そして勇気を振り絞った行動。これは、完全にカイトの予想の外だった。人間的な成長を遂げていた拓真マキナは、霧人カイトの陰謀を打ち砕く事を選んだのだった。

 カイトの敗因は、マキナを侮った事。彼の成長に……そして、彼の強さに気付く事が出来なかった事だろう。


「情報を漏らした相手は、僕のクラスメイトです。彼はそれを理由に、僕を脅して……【七色の橋】の情報を探る為の、スパイにしようとしています」

 マキナの告白を受け、ハヤテが目を鋭くさせる。

「……って事は、誰が糸を引いていたか解ったんスね?」

 ハヤテの言葉に、顔を上げたマキナ。彼は真摯な態度で、頷いてみせた。


「リアルネームは、流石に言えないけど……僕を脅した相手のプレイヤー名は……【カイト】です」

 マキナが告げた名前に、ハヤテは目を見開いた。その名前に、聞き覚えがある。ありすぎる。

「【カイト】って……もしかして、あのカイト? ウチで刀を買った、()()()()のイケメンの?」

「刀……あぁ、そう言えばそんな話をしてました。【七色の橋】から購入したって……って、何で彼が三年二組って知ってるんですか?」

 肯定するマキナの返答に、ハヤテはポカーンとしてしまった。


 何かまずい事があったのか……とマキナが不安感を煽られていると、ハヤテがブツブツと独り言を口にし始めた。

「……カイトのクラスメイト? 隣のクラスのアイツの? じゃあマキナさんって、同中オナチュー? 中三だったんか。いやいやマジか、こんなすぐ近くに……本当に世間は狭い、狭いなぁ。狭過ぎるかもしれません」

 ブツブツ呟くハヤテに異様な何かを感じ、メンバーは全員戸惑い気味だった。しかしハヤテは止まらない。


「というかコレ、逆に都合が良い? 良いじゃん? イイじゃん! すげーじゃん! ご都合主義万歳!」

 段々とテンションが上がり始め、最後には大声になるハヤテ。そんな状況に苦笑し、ミモリがハヤテに声を掛ける。

「ハヤテ君、ハヤテ君。クライマックスにジャンプしようとしてないで。ね、何か思いついたのかな?」

「おっと、失礼! いやはや、ある意味これは朗報ッス」

 ようやく正気? に戻ったハヤテは、ニヤリという擬音がぴったりな笑みを浮かべる。


 ハヤテは自分の考えを口にする前に……マキナに、自分の正体を明かす事にした。勿論これは彼が同じ中学の生徒だという確信があり、そして仲間相手だからこそ出来る事である。

「マキナさん……俺、一組の相田。相田隼ッス」

 唐突な自己紹介に、マキナは目をパチクリさせ……そして、驚愕する。

「あ、相田君!? ウチの学年で一番成績がいい、あの相田君!?」

 その反応を見て、ハヤテは今後の対策の見当が付いた。


 マキナとカイトは、ハヤテと同じ中学の生徒。そして浦田霧人カイトが、【七色の橋】を貶めようとしてた集団の一員。

 相手がマキナを、スパイとして利用しようとしている。自分達の仲間を脅そうというのなら、手加減をしてやる必要など皆無。そしてあちらが汚い手を使って来るならば、容赦など不要。


 そんな事をハヤテが考えていると、ジンが首を傾げて問い掛けた。

「あれ? ハヤテ、十位以内とか言ってなかった?」

 気にするのはそこ? と思わなくもないが、ハヤテは苦笑して肩を竦める。

「一位も五位も、十位以内ッスよ。この前は二位だったし」

「いやいや、相田君ってトップスリーから落ちた事無いじゃん!!」

「まぁ、そうッスけど」

 そんな会話を繰り広げるハヤテに、アイネは目尻を下げていた。

「わぁ、ハヤテ君ってやっぱり凄いんだね」

 恋人からそんな視線を向けられると、照れくさい。曖昧に微笑み返すハヤテに、ジン達はニヤニヤしているのだった。最も、マキナは未だ戸惑い気味だ。


「お、驚きだよ……髪型や色で、結構印象変わるんだね。あ、僕は……名井家、名井家拓真だよ」

 マキナが本名を告げた事で、ハヤテが「あぁ!」と頷いた。

「そういや、ジン兄達の文化祭で見かけたわ!! 成程、ネオンさんを助けてくれたの、名井家君だったッスね!!」

「いや、そんな……たいした事は出来なかったし……」

 照れるマキナを見つめて微笑みながら、ネオンは今の会話をしっかりと聞いていた。名井家拓真、その名前をしっかりと心のメモ帳に書き込む。彼の罪の告白を受けても、ネオンの想いは揺らがない様だ。


――マキナさん……拓真さん。私達の為に、勇気を振り絞ってくれたんだろうな。あの時、私を助けてくれたのが……この人で、良かった。


 そんな少年少女達を見守っていたシオンだが、このままでは話が進まない。

「盛り上がっている所、申し訳御座いません。まずは一度、話を順序だてて整理しては如何でしょうか。そろそろ、ユージン様達もお見えになるでしょうし」

 彼女の言葉に頷いて、ジン達はこれまでの経緯を振り返る事にした。


……


 一通り状況を確認した【七色の橋】は、今後の事について相談し始める。当然、焦点はカイトに絞られる……が、それだけではいけない。

「カイトが一人で全てを動かしているとは、到底思えないッス」

「……相手は集団、裏で糸を引いているのも複数人……だな?」

 ハヤテとヒイロの考察を聞いたヒビキも、そう言えば……と頷いた。

「確かに、あの大規模PK……それと偽物騒動が同一人物の仕業だとしたら、()()()がありますね」


 ヒビキが口にした違和感について、アイネも思い当たるフシがあったのか口を開く。

「そうね。大規模PKの主犯は、私達を直接PKしようとしていた。だけど偽物騒動は、【七色の橋】の評判を下げる様なやり口だったもの」

 アイネの告げる違和感の根拠に、レンとヒメノも自分の感じた印象を口にする。

「そうですね。前者は短絡的に過ぎる、稚拙なもの。後者は杜撰ではありましたが計画的だった感がありますね」

「カイトって人は、PKの方に関わっていたはずですよね? だとしたら、偽物騒動は別の人間によるもの……という事でしょうか」


 そこで、ネオンがある点について意見を口にする。

「あと、カイトはマキナさんをスパイに仕立て上げようとした……ですよね? だとしたら、他のギルドにも……」

 スパイが潜り込んでいる……その可能性を示唆され、アイネも同意を示した。

「確かに。以前、ハヤテ君が言ってたよね? 『掲示板で意図的に情報をリークしているプレイヤーが居る』って」


 その可能性を考え出せば、答えは自ずと姿を見せる。ヒメノとセンヤがハッとした表情になる。

「そっか……もしかしたら他のギルドにもスパイが潜り込んでいて、情報を流しているのかも!」

「うん! その可能性は、ありそうだね!」

 ヒメノの推察に同意しながら、センヤはこの先の事について考える。


――だとしたら、多分その人達もカイトって人同様に誰かを騙してるんだ。そんなの、許せないよね!


 カイトの陰謀を打ち砕くならば、その仲間達も放置は出来ない。他ギルドのスパイをあぶり出せないか? と、彼女も真剣に思案し始める。


 一方、陰鬱そうな顔をしていたカノンは溜息混じりの言葉を口にした。

「はぁ……何で、そんな事を……する、のかな……?」

 理解できないというニュアンスを、多分に含んだ一言。その言葉の中には、カイトやそれに与する者達への不快感を募らせている。


――私達は、ただ楽しんでいるだけなのに……相手は、そういう人達を狙っているのかな……?


 カノンの表情は、暗いもの……【七色の橋】に加入する前に、時折見せていたものになっていた。それに気付いたミモリは、軌道修正を試みる。

「さぁ? それを判断するには、情報が不足しているわね」

 ミモリはそう言って、カノンの意識を今後の事に向ける。しかし、彼女も内心では憤慨しきりである。


――こっちはただ、可愛い弟や妹分達と楽しんでいるだけなのに……ほんっと、無粋ここに極まれりね。


 心の中で毒吐きつつ、ミモリは今後について提案する事にした。

「とりあえず自分達の身を守りつつ、相手の情報を得る術を考えるのが先決かしら」

 ミモリの発言に、ヒイロも頷いて自分の考えを口にする。

「表面上はカイトに従うフリをして、彼から目的……そして他に居るだろう仲間の情報を得る。これが大指針で良いんじゃないかな」


――ゲームだからって、やって良い事と悪い事がある。それも解らないヤツなら、手段は選んでいられないか。


 パッと見た感じは冷静だが、ヒイロは静かに怒りに震えていた。感情を押し殺し、ギルドマスターとして冷静な判断を下す必要があると解っているからだ。

 そんなヒイロに気付いているレンは、彼の隣に寄り添っている。彼のリーダーとしての資質は、本人が思う以上に高い。そしてレンは、自分の役割は彼を支える事と定義している。

 そして、レンもまたヒイロ同様に怒っていた。


――私にとって、このギルドはかけがえの無い場所。それを傷付けようとするなら、容赦はしません。


 ギルマスとサブマス、カップルである二人。考え方も随分と、似通ってきているのだった。


 しかし、ヒイロには懸念事項が一つあった。

「ただこのやり方をするとなると、マキナには苦労をかけてしまうけど……」

 イジメに遭っていたマキナだ、この案は彼に負担をかけることになる。しかし、マキナは首を横に振ってみせた。

「僕なら大丈夫です。元より、自分で蒔いた種ですから」


 大指針が決まり、具体的な対策について考える……その段になり、ギルドホームのエントランス側から声が掛かる。

「やぁ、皆。随分難しい顔をしているが、僕達も会話に加わっても大丈夫かな?」

 そこには、今回のイベントにゲスト参加する三人が立っていた。


「ユージンさん!」

「リリィさん、クベラさんも……」

 いつもの和やかな雰囲気と違い、真剣な顔で顔を突き合わせていたジン達。その様子から、リリィやクベラも何事かあったのかと察した様だ。

「皆さん、お疲れ様です……何かあったんですか?」

「随分と難しい顔をしとるな。何かトラブルでもあったんか?」

 三人共、本当に来た所だったらしい。ここまでの話は、聞かれていなかった様だ。


「三人にも、お話しておきます。皆、良いね?」

 ヒイロの言葉に、【七色の橋】のメンバーは頷き返した。三人の事はギルドに誘うくらいに、信頼している相手である。聞かれて困る事は無いし、一緒に戦って貰えるなら心強い。


 こうして【七色の橋】とユージン・リリィ・クベラは、カイト対策について話し合い始めた。


************************************************************


 時は戻り、拓真が霧人に返答をした日の夜。


 今後の作戦を決め終えた、【七色の橋】とソロプレイヤートリオ。作戦は別として、イベントにも備えなければならない。

 そこで彼等が目指すのは、各都市のクエスト消化である。【七色の橋】だけでなく、他のギルドも同様だが……イベント告知以来、ほとんどのプレイヤーは戦力増強の為にクエスト消化を中断していた。だがユージンからのアドバイスによると、実はクエスト消化にもメリットがあるらしい。


「各都市のクエストをクリアすると、ギルドの名声値が上がるんだよ。その名声値に応じて、街の顔役から報酬が貰えるのさ」


 名声値ポイントや報酬が貰えるのはギルド単位であり、内訳は装備品や消費アイテム……名声値が高いと、ガチャチケットも貰えるらしい。

 また名声値が高いギルドに所属するプレイヤーは、NPCの好感度が上がりやすい。つまりPACパック契約クエストが有利になるのである。


 そこでジン達は北側第三エリア[アイザン]へ向かい、現地クエストの攻略に乗り出した。

「住み着いた盗賊かなんかを、討伐するんですよね。対人戦っぽくなりそうです」

「うむ……しかし、ヒメ達は出来るだけ援護で構わぬでゴザルよ」

 討伐……つまり、人の姿をしたモノを倒すという事。グロテスクな表現などは緩和されていても、気分の良いものではないだろう。

 それにクエストの達成目標は、討伐か捕縛。どちらを選んでも、報酬には差がないのだ。


 しかし、ヒメノはそんなジンの言葉を否定する。

「それを言い出したら、第四回イベントには出られませんよ。大丈夫です、あくまでゲームですから」

 確かに、対人戦となれば甘い事は言っていられない。それにそれはいつか必ず通る道であり、決闘形式での対人戦は既に経験しているのだ。


 そんなジンとヒメノのやり取りに、アイネも参加する。

「ジンさん。お気遣いはありがたいですけれど、私達は守られるだけの存在にはなりませんよ」

 アイネまでもがそんな、勇ましい言葉を口にする。


――大切なこの仲間を、守りたいのは私達だって同じ……強力な敵でも、悪意を持ったプレイヤーが相手でも。


 中学生組は、そんなアイネの言葉に同意……と言わんばかりに、頷いてみせた。

 その光景に、もしかしたら女性陣の方が肝が座っているのではないか? などとヒイロは考えてしまった。


「じゃあ問題無しって事で……そろそろッスよ」

 ハヤテの言葉に、メンバー全員が警戒態勢に移行する。[マリアナ]での依頼傾向から、複数パーティによる攻略が可能なのは確認済みだ。


 そんな【七色の橋】と共に歩いていた、リリィとクベラ。ここまで静かにしていたのは、ギルドとしての方針には口出ししない様にという考えからだ。しかし戦闘ともなれば、仲間として肩を並べる事になる。

「支援はお任せを!」

「ワイも少しは、戦闘に慣れんとなぁ……よし、やったるで!」

 そんな力強い二人に続き、ユージンも笑いながら得物を手にしている。

「背中は任せてくれて良い、存分に暴れておいで」

 そんな頼れるゲストメンバーに頷き返し、ジン達は戦闘に適した陣形を組む。


「よし、じゃあ打ち合わせ通りに……行くぞ!」

 ヒイロが号令と共に駆け出すと、その左右を並走するシオンとヒビキ。こういった展開で、真っ先に駆け出すジンは……後衛の少し前を、警戒しながら走っていた。


「あ? おい、野郎ども! 追手だ!」

「ハッ、返り討ちにしてやれ!」

「かかれ! かかれーっ!」

 ならず者NPCが迎撃に移ると、ヒイロは大盾形態にした左手の≪妖刀・羅刹≫で攻撃を受け止める。シオンとヒビキも、それぞれ≪鬼殺し≫と≪護国崩城≫で攻撃を防いだ。

 血気盛んなならず者達は、二十人程。その内、十七名が我先にと襲い掛かって来た形になる。残る三人は、遠巻きに様子を窺っている。


 装備の性能が上がり、≪護国崩城≫という心強い得物を手に入れたヒビキ。敵の攻撃をしっかり受け止められた今の展開に、内心で感動していた。


――まだまだ、男らしくなれていないけど……僕もヒイロさんやシオンさんみたいに、皆を守れたら……!!


 見た目は美少女な彼だが、心の中で男らしくなりたいという思いを常に抱いている。

 とはいえ最前に立ち果敢に戦う彼を、メンバー全員が認めている。華奢ながらも、ヒビキは勇敢で立派な男の子だと。


「そぉれっ!!」

 足が止まったならず者達の頭上に、飛来する複数の瓶。その中に収められているのは、ミモリ特製ポーションだ。その正体は……。

「ぐっ!? う、う……」

 スヤァ……と、立ったまま船を漕ぎ始めるならず者達。


 ちなみにポーションを浴びたヒイロ達も、同様に睡眠状態異常になる……が、そこは支援魔法の出番だ。

「「「【リカバリー】!!」」」

 レン・ネオン・リリィの状態異常回復魔法で、三人は即座に復活。目の前で睡眠状態になったNPC達を見て、頷き合う。


「ちっ、睡眠薬か!」

「退くぞ!」

「あぁ、()()に報せねぇと!」

 襲い掛からなかった三人は、睡眠状態の仲間を見捨てて走り出した。見切りが良過ぎる気もするが、そういうAI設定なのだろう。


 最も、それで逃げ切れるなら……の話。

「疾風の如く!!」

 最速忍者のAGIの前では、彼等の逃げ足など匍匐前進と大して変わらない。一瞬で目前に現れた忍者の姿に、ならず者達は目を剥いた。

「斬り捨て御免……【一閃】!!」

 まず、先頭を走る一人に向けて両手の小太刀による二連撃。流石に第三エリアの敵らしく、それだけでHPが枯渇する事は無かった。


 しかし、目的は達成出来た。一瞬でも、彼等の足を止められたならそれで良いのだ。

「【アサルトバレット】!!」

「【エイムショット】!!」

 ハヤテの弾丸、ヒメノの矢が残る二人を仕留める。ならず者の内、襲って来なかった三人が逃げるのはハヤテとマキナの予想範囲内。そんな逃走者がいれば、ジンが足止めするのは確定事項。それ故の、絶妙なタイミングでの狙撃である。


 同時に、ジンが【一閃】に繋げて武技を発動。【チェインアーツ】による連続攻撃を開始する。

「【スライサー】!! 【一閃】!!」

 装備の更新により、たったの三チェインで相手のHPバーが枯渇した。眼前で、膝から崩れ落ちたならず者。それを見下ろして、ジンは飾り布の下で息を吐く。


 一方、眠ってしまったならず者達。ヒイロ達が距離を取ったと同時に、アイネとセンヤ・マキナ……そしてユージン・クベラにより、ロープで拘束されていた。

「これで良し、と」

「三人は討伐、残りは捕縛。うん、これはこれでアリかも!」

「プレイヤー相手で、この手が使えたら楽ですね」

 こうして、この場での戦闘は終了した。


 実はこの一連の行動は、第四回イベントで有効と思われる戦術の予行演習であった。

「睡眠耐性を相手が持っていたら、難しいわね。その時は、別のデバフが良いけど……」

「……捕縛した、後は……どう、する?」

 まさか、身動きが出来ない相手にトドメを刺すのか? と、カノンは表情を曇らせる。


 そんな彼女の疑問に答えるのは、ユージンである。

「DKCで過去にあったGvGイベントについて調べたんだけど、捕縛後は一定時間が経過すると戦闘不能デス扱いになったそうだ。恐らく、同様のシステムじゃないかな」

 無論、拘束を解いたら戦闘不能は避けられる。また、仲間が救出した場合も同様だ。

「……それなら、まぁ……」

 そんな解説に、カノンもいくらか気分が紛れたようだった。


「さて、それじゃあ尋問タイムッスね。ほれほれ、起きな」

 逆に、トドメを刺す事を躊躇しない……そんなタイプのハヤテは、平然と縛られたならず者の一人の肩を揺らす。

「あ、あ……?」

 一人が意識を取り戻すと、他のならず者達も目を覚していった。そして、周囲の様子から……自分達がどういう状況にあるのかを、察知したらしい。


「なっ! て、テメェら……! ちっ、俺らの負けだ……」

「くそ……ツイてねぇな……」

「煮るなり焼くなり、好きにしやがれ!」

 威勢の良い言葉に、ハヤテは手にした≪アサルトライフル≫を握る手の力を緩めた。


――ん、やっぱ生身の人間と違って往生際が良いね。はてさて……スパイ連中はどこまで、見苦しく吠えてくれるかな?


 このNPC達の様に、あっさりと負けを認めないで欲しい。そうでなくては、仲間に手を出した己の愚かさを実感させてやれない。

 第二回イベントの一件よりも、ハヤテは静かにキレていた。故に……下準備を、入念にしなければと再認識する。

次回投稿予定日

2021/10/25(第十二章の登場人物)

2021/10/30(第十三章)


プロット段階では、カイトの本性暴露に対しマキナは屈して言いなりになる形でした。

しかしマキナを描くにつれて、彼が本当に自己保身でカイトに従うだろうか? という所まで成長してくれました。

予定とは異なりましたが、成長した彼の力をカイトに見せ付けて貰うことにしましょう。


【絵心なにそれおいしいのと真顔で言う作者がマキナを描いてみた】

挿絵(By みてみん)

現実バージョンもいつか書きたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] マキナ君はあまり目立たない普通の男の子って感じだね でもモテそうな外見ではある
[良い点] まさか、前回の話がカイトを引っかけてスパイ達を炙り出す作戦だったとは…。 仲間達の為に勇気を出した拓真君、強くなりましたね。 [一言] マキナー!強いな!いや強くなったんですね。(感涙)…
[一言] マキナ!よくやった!
2021/11/06 19:15 しおりすぐ失くす読書好き
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