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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二章 ゲームをエンジョイしました
25/573

02-11 MPKerを釣りました

 作戦会議の翌日、ジンとヒメノは初心者に扮してMPKerモンスタープレイヤーキラーを釣るべく行動を開始した。初期服を着るのは勿論だが、日頃から目立つ服装をしている二人である。バレない様にカツラを装備している。ちなみにジンは、≪小狐丸≫と≪大狐丸≫を外し、懐かしき≪鋼の短剣≫を装備。ヒメノも≪初心者の長剣≫を装備している。


 そんな二人は、離れた場所から仲間達に見守られている。

 MPKerが釣られやすいように、ヒメノが刀を大事そうに持っているのがミソだ。初心者が刀を持っていたならば、誰かに貰ったと判断する可能性が高いだろう。まさか、それが譲渡不可能なユニークアイテムだとは夢にも思うまい。


 尚、ヒメノは実際に刀を手に入れた事を喜んでいた。ジンやレン・シオンとお揃いの、ユニークアイテムなのだ。

 ヒイロがユニークアイテムを未入手な為、ヒイロの前では露骨に喜ばないようにしている。つまりヒイロが側に居ない時には、手に入れた脇差《大蛇丸》を見て喜んでいるのである。最も、刀持ちという点では同じなのだが、それならば≪ユージンの短刀≫も持っていたので前からである。


 そんなジンとヒメノは、会話しながら歩くこと三十分で当たりを引いた。その間の会話ややり取りは、当然MPKerの関心を引く為のお芝居……なのだが、ヒメノは純粋にジンとの会話や行動を楽しんでいた。ジンもヒメノの可憐な容姿にドギマギしているので、初々しい事この上ない。


 とはいえ、これは作戦である。ジンが習得している【気配察知】で、MPKerを釣るのが目的だ。

 似たようなやり取りを繰り返し、三度目。ジンの【気配察知】に引っ掛かる反応があった。ジンは会話を聞いたMPKerが、自分達を尾行し始めたと判断する。


 ……


 獲物が掛かったと判断したら、ジンはヒメノをさり気なく促してフィールドへ向かう。これは、仲間達と事前にそういった取り決めをしていた為だ。

「……よし」

「準備をしましょうか」

「かしこまりました」

 ヒイロ達は、ジン達よりも先にフィールドへ向かう為に動き出す。普段の格好だと目立つので、全員が同じく変装中だ。


 事前に選んだ作戦ポイントに到着すると、シオンはシステム・ウィンドウを操作して動画撮影を開始する。この動画を証拠として、運営に通報する為だ。反対側では、ケインが同様の行動を取っているはずである。

「それにしても、ヒメノさんは楽しそうですね」

「ジン様の表情が、硬すぎるだけでは?」

「いやぁ、ジンのあれは照れからでしょう。ヒメは本気で楽しんでますね」

 ヒイロの言葉に、レンは満足そうに……シオンはそんなものかと頷く。


「……お二人は、いつからお付き合いを?」

 レンの質問は、単なる好奇心からだった。つい先日までは、顔見知り程度の存在だったヒメノ。彼女に恋人が居るか居ないかなど、気に留めたこともなかった。

 しかし、今はもう友達だと互いに認識している。友達の事を知りたいと思うのは、不思議でもなんでもないだろう。

 最も深層心理では、恋人という関係性に対する憧れもあった。恋バナに興味くらいありますとも、だって女の子なんだもん。


 だが、レンの言葉を聞いてヒイロは苦笑してしまう。いつか来ると思っていたのだ、この質問が。

「あの二人、まだ付き合っていない、オーケー?」

 何故かカタコトなヒイロの言葉に、レンが目を見開く。信じられない……という表情だ。

「あれだけ、距離感が近くてですか……!?」

 そう、二人の距離感は近い。めちゃくちゃ近いのだ。兄であるヒイロとの距離と、そう違わない距離感なのだ。


「勿論、ヒメは誰に対してでもあぁじゃないよ? むしろ距離を取るというか、壁を作ると思うし」

 確かにこのゲームで会うまでは、レンも同じ印象を抱いていた。相手に深く踏み込まないよう、踏み込まれないような印象。それはもしかしたら、全盲であるという事に対するコンプレックスなのかもしれない。


 そんな彼女が、ジンに対しては積極的に関わろうとしている。

「……これは、面白くなりそうですね」

 恋バナ、大好き。年頃の乙女ですもの。こんな至近距離に、素晴らしい観察対象が居ればガン見したくなるというもの!!


「その意見には、全面的に同意するよ」

 あっさり同意したヒイロの言葉。レンは思わず冷静さを取り戻し、ヒイロへ視線を向ける。

「寂しくは、ないのですか?」

「多少は感じるけれど……相手がジンだからね。俺はヒメにも、ジンにも幸せになって欲しいんだよ。それに、ジンが義弟というのも面白そうだし」


 そこまで言って、ヒイロは自分の口調に気付いた。

「っと、タメ口で話してごめんなさい」

「……いえ、構いませんよ。むしろ、そのままで良いのでは? ヒイロさんは、年上ですもの」

 レンはそう言って、嬉しそうにはにかんだ。他の男性にタメ口で話し掛けられた場合、不快な思いをするかもしれない。

 しかし、ヒイロにそうされた事に対しては不快じゃない。むしろ、嬉しいかもしれない……ヒイロとの距離が、一歩縮まった気がするのだ。


「ヒイロさん、是非そのままで。私からの、お願いです」

 そこまで言われてしまえば、ヒイロも断る訳にはいかなかった。

「了解、じゃあ今後はそうするね……シオンさんに怒られないかな?」

「大丈夫だと、思いますよ?」

 自分の名前が出た事で、シオンはようやく口を挟む。振り返ったその表情は、満面の笑みだ。

「……先程からのお二人の会話は、動画に入っているのですが如何が致しましょう?」

「「あっ……」」


 その後、二人に懇願されたシオンはテイク2の撮影を開始。しかし流石はシオンさん、テイク1の動画は消さないのだった。


 ……


 ケイン達も同様に、離れた場所でジンとヒメノを見守りつつ……MPKerと思われる女性プレイヤーを確認していた。

「名前は【ルイズ】だね、レベルは13」

 そう告げたのは、今回の作戦に同行を申し出たユージンだ。生産職人である彼は、【鑑定】スキルを所有している。【鑑定】スキルの中には、【人物鑑定】という技能も存在するのだ。それを駆使して、MPKerの正体を暴こうと考えたのである。

 最も、それで解るのは名前とレベルくらいなものだ。ステータス等は、許可された相手でなければ鑑定する事は出来ない。


「そこまでレベルが高いわけじゃねぇのか」

「しかし見たところ、装備品はそれなりのモノが多いね。恐らくMPKモンスタープレイヤーキルされたプレイヤーが、デスペナルティでドロップしたモノを回収しているんだろうさ」

 デスペナルティによるドロップは所持金と、装備・収納しているアイテムのドロップだ。アイテムのドロップはランダム要素が強い。

モンスターを相手にした場合のデスペナルティ時は、ドロップ数が最低でも五個。PKプレイヤーキルされた際のデスペナルティの場合だと、ドロップ数は最低でも三個だ。モンスター相手よりも少ないのは、PK(プレイヤーキル)のうま味を減らす為である。


「奴らは、MPKで集めた装備で強くなる……そういう魂胆かしらね」

「MPKなら犯罪者レッドにならない、そう踏んだんだろう」

 イリスとゼクスも、不機嫌そうに呟く。汚い手段で強くなろうという、その性根が気に喰わないのだ。

 そんな仲間達に苦笑すると、ケインは鋭い視線をルイズに向ける。

「自分達が狩る側……そう思っていられるのも、今の内だ」

 ケインがそう言うと同時に、状況が動いた。

「来たわ!」

 イリスの声に反応し、ケイン達は森の方へ視線を向ける。そこには、プレイヤーが二人。その後ろには、森の奥からトレインして来たモンスター達の姿があった。


「レベル11の【ジャック】、レベル12の【ビート】。モンスターのトレインを確認した」

 ユージンの声に、ケイン達は最初のハードルをクリアした事を確信する。ここまでは、予定通りだ。

「後は、彼らがMPK目的だという証拠が欲しいのだが……」

 ケインの苦々しい表情に、ユージンが肩を竦める。

「なに、あの表情ならすぐにでも……あ、ほら」


「オラオラァ!! 轢き殺されちまえ!!」

「初心者のガキなんざ、町で大人しく震えてなー!!」

「はははっ、逃がさないよ!! さぁ、デスペナルティ初体験ツアーへご招待っ!!」

 案の定、ルイズ達はMPK目的である事が明らかな台詞を大声で吐いた。


「いい台詞だ、感動的だな、だが無意味だ。MPK行為を確認っと」

「じゃあ、援護に……あれっ?」

 ジンとヒメノを助けようと、腰を上げかけたケイン。しかし一瞬、目を離した隙に二人の姿が消えていた。

「え、何処へ? まさか、逃げ切れずに……」

「ケイン君、ケイン君。上だよ、上」

 ユージンの言葉に、ケイン達三人は上を見る。そこには黒い装束に着替えて、紫色のマフラーを靡かせるジン……そして、その腕で抱き上げられて弓具足を装備した巫女なヒメノの姿があった。


************************************************************


 ジンとヒメノが地面に降り立つと、MPKerの三人が驚いた表情を見せた。

「……忍者野郎!?」

「一撃必殺少女!?」

「マジ!? 噂の娘!?」

 男二人は何故か嬉しそうだが、ヒメノの視線は厳しい。それはそうだろう、彼等はレーナ達にもトレインによるMPKを仕掛けたのだ。普段は温厚なヒメノも、大切なフレンドを傷付けられたとあっては怒る。


 この場で彼等を倒したいのは山々だが、彼等はグリーンカーソルのままだ。グリーンカーソルのプレイヤーを攻撃したら、自分達が軽犯罪者イエロー犯罪者レッドになってしまう。


 だから二人は怒りを堪えて、モンスターに攻撃する事にした。

「いざ参る!! 【一閃】!!」

 瞬時にモンスターの側へと移動したジンが、その両手の小太刀を振るう。発動したクリティカル攻撃によるヘイト値の増加で、トレインされたモンスター達のターゲット判定がジンに変わった。

「行きますっ!!」

 ヒメノの放った矢がモンスターに刺さった瞬間、その身体が硝子細工の様に砕け散った。今のヒメノのSTRならば、この程度のモンスターに武技は不要だ。ただの射撃でも、致命的なダメージを与えられるのである。


 ジン達が攻撃を開始して、一分程度。あっという間に、モンスターは全滅した。

「……な、なに……っ!?」

「こいつら……強い!!」

 慌てる手下達に冷めた視線を向けつつ、ルイズは頭をフル回転させた。


――大丈夫、アタシ達は犯罪者レッドじゃない!! アタシ達を攻撃すれば、あいつらが逆に犯罪者レッドになる!!


 挑発して攻撃させ、ジンとヒメノがレッドカーソルになれば良い。そうすれば、彼等を攻撃しても……更に言えば、殺しても犯罪者レッドにならずに済む。

「へ、変な格好している割には、やるじゃない。忍者に巫女とかダサダサだけどね!」

 まずは怒らせる。その為に、ジンやヒメノを揶揄する言葉を吐くルイズ。攻撃された時は、手下を盾にすればいい。

 ルイズは気付いていなかった……既に、自分が狩られる側に回っている事を。


「アンタ達のMPK行為は、しっかり動画に収めさせて貰った」

 ルイズ達の背後から、姿を現したユージンとケイン達。その反対側からは、ヒイロ達が歩み寄っている。その姿を見て、ルイズ達は表情を引き攣らせた。

 皆が皆、変装用の装備から着替え済みだ。和装プレイヤー三人に、中華装備プレイヤー三人。その中で唯一、ハワイアンなユージン。


 ケインは黒い中華風の衣装の上に赤銅色の鎧《鞍馬の鎧》を身に着け、長刀≪天狗丸≫を装備していた。

 ゼクスは黒いカンフー風の衣装に、二本の≪ユージンの中華剣≫を装備している。鎧などは身に着けず、速さを重視したスタイルだ。

 イリスは白い光沢のある改造チャイナドレス姿。肩紐の無いビスチェの様なトップスで、背中は大きくはだけている。ドレスの腰から下は腰辺りからスリットが入っており、インナーウェアの黒い紐がチラリと見えてしまっている。一言で言うとエロい。


 三対九。流石に不利を悟ったルイズは、この場をやり過ごすべく反論した。

「な、何かの勘違いじゃないかしら? アタシ達は、モンスターに追い掛けられて困っていただけよ? マナー違反は謝るけれど、故意じゃないわ」

 そんなルイズの言い訳に、残る二人も乗っかる。

「そ、そうそう! 助かったよ、お二人さん!」

「いやぁ、アイツ等を倒してくれてありがとう!」

 苦し紛れの言葉を吐く三人に、ジン達は冷たい視線を向けるしかない。


 黙ったまま、シオンがシステム・ウィンドウを操作する。

『オラオラァ!! 轢き殺されちまえ!!』

『初心者のガキなんざ、町で大人しく震えてなー!!』

『はははっ、逃がさないよ!! さぁ、デスペナルティ初体験ツアーへご招待っ!!』

 シオンが撮影した動画の音声が三人の耳にも届くと、一気にその表情を青褪めさせる。

「既に運営には通報済みです。じきに、然るべき処分が下るでしょう」

 冷え切った声色で紡がれた言葉に、ルイズ達の表情が凍り付く。


「クソッ……!!」

 忌々しげにジン達を睨むルイズだが、状況は変わらない。踵を返して立ち去ろうとする九人の背中を見て、ルイズはある事を思い付いた。

「ジャック、ビート! あいつらを殺しなさい!」

 ルイズの言葉に、二人は耳を疑った。ルイズは二人に犯罪者レッドになれと言っているのだ。


「あ、姐さん……!?」

「そんな事したら、俺達は……!!」

「お黙り!! 散々いい思いしてきただろう!? どうせ犯罪者レッドになるなら、アイツ等をブッ殺して犯罪者レッドになってやろうじゃないか!!」

 大声で捲し立てるルイズに、手下二人は言葉を失ってしまう。

 そんなやり取りに、ジン達は呆れるしかなかった。そもそも、多勢に無勢でどうしようというのか。


「ほらっ!! 行きなっ!!」

 興奮気味に、ルイズが武器を振るう。彼女の武器は鞭だった……趣味嗜好が透けて見える。恐らく、サドっ気の強い女王様タイプなのだろう。

「ひ、ひぃっ!!」

「あ、姐さん!! 勘弁してくれぇっ!!」

 逆に、鞭を振るわれた二人はマゾっ気が強そうだ。力関係がハッキリしているらしい。


「あっ、軽犯罪者イエローになった」

「何回プレイヤーを攻撃すると、犯罪者レッドなんですか?」

「スリーアウト制だよ」

 手下二人を攻撃して、軽犯罪行為と見做されたルイズ。頭上のカラーカーソルが黄色に変化したのだが、当人達は気付いていない。


「くそっ!! こうなったらヤケだ!!」

「あ、姐さんの為にやってやらぁっ!!」

 二人は手下らしく、ルイズの意思に従うらしい。彼女に反撃しようという発想は、浮かばない模様。ゲーム内とはいえ、関係を持ったのも理由の一つだろう。


「ジン、一人は俺が相手をするよ」

「解った。ヒメノ殿、下がっているでゴザル」

「はい……二人とも、気を付けて下さいね」

 彼等は気付いていない。ジン達の、本当の狙いに。


「死ねぇっ!!」

 ジンに向けて振り下ろされた剣。ジンはそれを、最小限の動きで回避する。

「おらぁっ!!」

 一方、ヒイロに向けて突き出された槍。ヒイロはそれを大盾で弾いてみせた。

 ジャックとビート……彼らもこれで、軽犯罪者イエロープレイヤーとなったのだ。


 ジンはジャックの攻撃を回避しつつ、その頭上のカーソルを見る。黄色だったカーソルが、赤に変化したのだ。そう、三度目の攻撃による変化である。

「野郎ぉぉぶっ殺してやるぁっ!!」

「え? 野郎オブクラッシャー?」

 どこかで聞いた様な言葉に、ジンは足を止めた。それを好機とみたジャックが、武技を発動する。

「【デュアルスラッシュ】ゥゥゥッ!!」

 放たれた二連撃を、ジンは難なく回避する。一撃目は屈み、二撃目はバック宙返り。

「はっ!?」

 ジンの動きに、ジャックは目を疑い動きを止めた。それは、戦場では致命的だ。


 一方では、ヒイロとビートの戦いが始まっていた。

「このっ!! てめっ!!」

 必死になって槍を突き出すビートに対して、ヒイロはそれを大盾で受け止めていく。槍を使う相手と戦うのは初めてのヒイロだが、冷静に対処していく姿は頼もしさすら覚える。

 すると、ビートのカラーカーソルも赤く染まった。これで、彼も犯罪者レッドプレイヤーである。

「おめでとう、これで君も犯罪者レッドプレイヤーの仲間入りだ」

 そう言うとヒイロは、ビートに対して初めて刀を振るった。ヒイロの刀によって、大きく弾かれたビートの槍。追撃を阻むものは無い。


 そして、ジン達の目論見通りに犯罪者レッドとなった彼等……これで、詰みであった。

「「【一閃】!!」」

 ジンとヒイロが、同時に《刀剣》の武技を放つ。二人の攻撃は共に、クリティカル判定となり手下二人に大ダメージを与えた。

「はぁっ!?」

「このっ!!」

 ジャックとビートは反撃しようとしたが、力が入らない。そして、徐々に全身の力が抜けていく感覚を味わった。そう、【一閃】が二人のHPを根こそぎ刈り取ったのだ。


「嘘だろ、たった一発で……!!」

「い、嫌だ!! 嫌だっ!!」

 喚きながら、二人の身体は地面に倒れ伏した。このまま六十秒以内に救援が無ければ、二人の身体は消滅する。


 普通のプレイヤーならば、始まりの町に強制転移(しにもどり)するだけだ。しかし、彼等はもう犯罪者レッドプレイヤーである。死んだ際のペナルティの一つは、強制ログアウトだ。更に、一日のログイン不可が課せられる。


 更に、通常プレイにも支障が出る。

 例えば軽犯罪者イエローならば町にも入れるし、通常グリーンプレイヤーに戻る事も出来る。しかし、犯罪者レッドとなった場合は別だ。町には入る事が出来ず、二度と通常グリーンには戻れない。


 そして、最大のペナルティ……それはアイテム・スキルが全てドロップする事である。また、所持しているゴールドコインも全てドロップする。

 それこそが、ジン達の目的だ。他のプレイヤーをMPKして奪った全てを、リセットさせる事であった。

 レベルは残るものの、全てのスキルやアイテムが無くなるのである。これはプレイヤーとしては大打撃だ。


「……くそがっ!! 殺られてたまるかっ!!」

 ルイズは、一目散に逃げ出した。手下達を見捨てて、だ。しかし、そんな行動は予測済み。レン達は四方を囲み、ルイズの逃亡を阻む。

 囲まれているルイズは舌打ちをし、見た目的に最も突破しやすそうな少女に向かっていく……その少女がこの中で最も高レベルプレイヤーだとは、夢にも思わなかっただろう。

「あら、こちらでよろしいのですか?」

 そう言って微笑んだのは、レンである。


「邪魔すんじゃないよ! 小娘ェッ!! 【ハードウィップ】!!」

「それは不許可です」

 ルイズが武技による攻撃を放つと、レンの前にシオンが立ちはだかる。防御も何も無い棒立ちだ。ルイズの【ハードウィップ】が、シオンに直撃する。

「邪魔しやがって……はっ?」

 毒吐いて追撃を加えようとするルイズだが、異様な事実に気が付いた。シオンのHPバーが、全く減っていないのだ。


「はぁっ!? ふ、ふざけんじゃないよ!!」

 ルイズは動揺して、ガムシャラに鞭を振るう。武技を使う事も忘れ、ただただシオンに憎しみをぶつけるように。


 そうして、ルイズがレッドカーソルになったのを確認したシオンが不愉快そうに口を開いた。

「……痛くも痒くもありませんが、気分の良いものではありませんね。お嬢様、お願い致します」

 ほんの一ドットもHPは減らないのだが、一方的に攻撃されるのは気分が悪い。


 シオンの言葉にレンも頷き、《鳳雛扇》を翳す。

「貴女の様な最低の人間には、最も威力の低いこれで十分ですね……【ウォーターボール】」

 放たれた水の玉。特殊効果がある代わりに殺傷能力が低い、水属性魔法……その中でも、最低威力の魔法だ。

 だがしかし、レンのINTは全プレイヤー中最高位。彼女が【ウォーターボール】を放てば、魔法専門職が放つ中級魔法と遜色ない威力となる。


「はぁっ!?」

 自分のHPが一気に枯渇する光景を目の当たりにし、ルイズは驚愕に顔を歪めた。仰向けに倒れたルイズの顔が、怒りと憎しみで染まっていく。

「ふざけんなよ!! お前ら、ふざけんなよっ!! 必ずぶっ殺してやるからな!! 覚えていろよ!!」

 その言葉に不快感を抱いたレンとシオンは、ルイズを無視する事にした。二人の犯罪者レッドを倒したジンとヒイロの元へと、歩き出す。

「終わりましたね。では、行きましょうか」

「あぁ、そうだね」

 レンの言葉に、ヒイロが頷く。ケイン達はその様子を見て、苦笑していた……出番無しだったからだ。


 しかし往生際の悪いルイズが、触れてはならないモノに触れてしまう。 

「クソがっ……!! 許さねぇ!! おい、忍者野郎っ!! 覚悟しとけ!! テメェの足を切り落として、二度と走れないようにしてやるからな!!」

 それは、決して口にしてはならない禁句。ヒイロ達、ジンにちかしい者達ならば到底許容する事などできないタブー。


 その言葉が耳に入ったジン以外のパーティメンバーが、動きを止めた。

「……レンさん、回復して貰えますか?」

「……あぁ、成程。良いでしょう……【ヒール】」

 レンが即座に発動したのは、回復魔法。一気にルイズのHPが最大まで回復された。

「……へ?」

 何が起こったのか理解していないルイズは、間の抜けた声を出す事しか出来ない。まさか、回復されるだなんて思ってもみなかったのだから当然だ。


 その瞬間、ヒメノが刀を抜く。

「【蛇腹剣】」

 ヒメノの持つ脇差……《大蛇丸》が分割される。ヒメノはそれを、鞭を打つようにルイズへ向けて振るった。

「なっ!?」

 《大蛇丸》の一撃は、ルイズの首を捉えた。そして再び、一瞬でHPが消し飛ぶ。あまりの事に、ルイズは言葉を失い……次いで、これから何が起こるのかを理解した。


「貴女は、どれくらいまで耐えられるのでしょうね? それでは、【ヒール】」

 再びHPを強制的に回復させられたルイズ。その直後、すぐ近くまで歩いて来ていたヒメノが刀を振るう。

「ひやあぁっ!?」

 顔に向けて振るわれた《大蛇丸》。それを見たルイズは、悲鳴を上げて身をよじろうとする……が、当然それは適わない。またもHPが一瞬で消し飛んだ。


 力無く、うつ伏せに倒れるルイズ……そんな彼女を見下ろして、ヒメノがようやく口を開く。

「ジンさんの事を知らないとはいえ、貴女の言葉は許せません。私、怒っていますから」

 底冷えする様な声色で告げる、真顔のヒメノ。その前に転がるルイズは、全身に怖気が奔り……懇願した。

「わ、悪かった!! に、二度と言わねぇ!! だから、許してっ!!」

 当然、それは上辺だけの言葉。誰の目で見ても、明らかだ。そして……キレたヒメノがそんな言葉を聞き入れるか?

「駄目です」

 当然、答えはノーだった。


「……恐っ」

「……おこなの? 激おこなの?」

「絶対に、ヒメノさんを怒らせないようにしないとな……」

 ヒメノのお仕置きを見つめるケイン達は、背筋に冷たいものが走る感覚に身を震わせる。


「ブチギレ状態だな、ヒメ。俺も初めて見た」

「普段大人しい子ほど、怒ると凄まじいものさ」

「当然です、ジン様を侮辱したのですから」

「私も、ヒメノさんの気持ちは解りますね。さてと、【ヒール】」

「そ、そんなに怒らなくても良いのでゴザルが……」

 自分の為に怒ってくれた事は、ジンもよく解っている。それでも、怒り過ぎじゃね? と思わざるを得ない。

 しかし、やり過ぎとは思っていないヒイロ・シオン・ユージンが止める気配はない。


「あっ、手下二人の分がドロップしてる」

「回収してしまおう」

「折角です、有効活用するとしましょう」

 ヒイロとユージン・シオンが手下二人のアイテムを回収し出したので、ジンもそれに続く事にした。


 こうして始まりの町付近で悪意を振り撒いたMPKerは、トラウマを身に刻み付けられて討伐されたのだった。

普段優しい子ほど、怒ると怖いよ。


次回投稿予定日:2020/6/13

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 装備変更時に下着姿になるって設定じゃありませんでしたっけ?
[一言] アイテムはともかくスキルもドロップしちゃうのペナルティきちぃww
[気になる点] レッドの処罰重くない?相手もやろうとしたみたいに、先に手出しさせるとかその気がなくても赤くする手段がある割に・・・ゲーム終了級すぎると思った。 後は、単なるマナー違反を運営に通報して…
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