12-17 新装備の試用でした
イベントに向け、順調に準備を進める【七色の橋】。
装備だけではなく、各種チケットを駆使して新たなスキルや装飾品を入手。それらを振り分けて、戦力強化を進めていく。
そんな準備期間は内容も充実しており、ジン達は楽しんでいる。仲間同士で相談し合いながら、一つの目標に向かって邁進するのだ。楽しくないはずが無かった。
「何か、文化祭の準備を思い出すね」
「……確かに。まぁ、あの時よりも楽しいけどね」
特に彼女が居る事をバレない様に気を付けたり、日曜日の一般公開日に一緒に回ろうと言い寄られる事が無い。何より、最愛の恋人がそこに居る。それを考慮すれば、こちらの方が楽しいと感じるのは当然の帰結だ。
ちなみに、ジンとヒイロも既に新装備を着用済み。
ジンの≪夜空の衣≫は、バージョンアップを果たし≪忍衣・疾走夜天≫と名付けられた。ジンにピッタリの名前だろう。
ユージンやカノンの協力を得て、鎧部分も大幅に強化。そして苦無や手裏剣も、使用感をアップさせたリニューアルバージョンである。肩鎧には、誕生花であるスミレがあしらわれている。
ヒイロの新装備は服と鎧で、≪蒼天の衣≫が≪戦衣・蒼穹澄清≫へと進化。そして鎧は≪妖鎧・修羅≫から≪妖鎧・阿修羅≫へと強化されている。
見た目的には、これまでの装備を更に豪華にした様にしか見えない。だが、性能は段違いである。
そんなジンとヒイロが文化祭の話題を出した所で、ネオンは当日の事を思い出す。
「あの、マキナさん?」
「ん? 何かな?」
せっせと素材を仕分けするマキナに、ネオンは思い切って問い掛けてみる事にした。当日、自分をナンパする男子達から救ってくれたのは……彼だったのかと。
「日野市高校の文化祭で……ナンパされている子を助けませんでしたか?」
そう問い掛けられ、マキナは作業の手を止める。
「……やっぱり、あの子はネオンさんだったんだね」
二人の会話に気付いたジン達も、一緒になって話を聞く事にした。
「恥ずかしいな、リアルの僕はあんなだから……でもまぁ、よく解ったね」
「言い方とか、恩着せがましく無い所とか……凄く、マキナさんっぽかったんですよ。それに、私の事をネオンって呼びましたし」
「迂闊過ぎだよ、僕!! ごめん、あんな所でアバ名呼んじゃって!!」
確かに、現実でアバターネームを呼ぶのは場合によっては恥ずかしい事もある。約三名ほど、リアルネームのメンバーが居るが……。
「大丈夫ですよ、気にしないで下さい。気付いて貰えて嬉しかったですし……」
前言はハッキリと、続く後の言葉はつぶやく様に。そんなネオンに、マキナははて? と首を傾げる。
「ごめん、後半がよく聞こえなくて……」
「い、いえ! 何でも無いです!」
そんな二人のやり取りを、ジン達は微笑ましげな表情を浮かべ見守る。早くくっつけば良いのに……と思わなくもないが、二人には二人のペースというものがある。無理に急かすのは、余計なお世話になるだろう。
そしてマキナ……また、ハヤテやヒビキの装備も更新済みである。
ハヤテは、ジンやヒイロと同じタイプの≪戦衣・暁空開天≫。それに加え、これまでの近代的な鎧部分を強化した≪虎視眈々≫である。マガジンや携行品がそのまま装備できる、機能性重視の新装備だ。
ヒビキは、男子共通の意匠である≪戦衣・一心碧天≫にバージョンアップされた。見た目は同様だが、近距離戦闘を行うヒビキ向けに調整されている。主に防御力が高められている状態だ。そして、今は外している新たな篭手と足甲が攻撃と守りの要である。
マキナも同様に、共通デザインの≪戦衣・勁草曙天≫を手に入れた。彼は動きやすさを重視し、ジン同様に軽量性能となっている。しかしジンの様な人外性能を持っていない彼には、鎧がセットになった陣羽織≪不撓不屈≫を製作。こちらも、機動性重視の性能となっている。
こうして更に強力に、そして華やかになった【七色の橋】。そこへ、一人の少女がログインして来た。
「済みません、遅くなりました!」
現役の人気アイドル、渡来瑠璃ことリリィだ。今日もアイドル業に精を出して来たらしい。
「お疲れ様です、リリィさん!」
「いつも大変ですよね、お疲れ様です!」
「はい、ありがとうございます♪ 私もお手伝いしますね、何から手を付ければ良いですか?」
早速、自分も一緒に……と意気込むリリィ。随分と、【七色の橋】に馴染んでいる様だ。
そんなリリィに微笑みつつ、レンが人差し指を顎に当てて考える。
「丁度、あらかた準備は終わったところだったんですが……そうなると、やはり実戦で試しておきたい所ですよね?」
レンが問い掛けたのは、監修役として多大なアドバイスをくれた最高峰の生産職人・ユージン。彼もまた、製作したその先にある物について言及する。
「そうだね、一つ試用といってみたらどうだろう? そろそろイベントも近いし、使用感も確かめておいた方が良いだろう。個人的にぶっつけ本番は嫌いじゃないけど、余計なリスクを負う事も無いだろう」
レンやユージンの提案は、至極最も。全員がその意見に賛成し、どこで試用をするかを検討する。
そして選ばれたのは、エリアボスでした。やっぱりエリアボスは、報われない……。
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全員で行動すると目立つ為、ジン達は分散して行動する事にした。変装した状態でエリアボス討伐の待機列に並び、ボスエリアに入ったら装備を変えれば良い。なにせ、ボスエリアはインスタンスマップなのだから。
振り分けは然程難義せず、【七色の橋】初期メンバー七人とリリィ。追加メンバー六人と、ユージン&クベラとなった。
初期メンバーとリリィで組んだ理由は、試用よりも周回に焦点を当てた為である。装備そのものは大きな変化が無く、強化された八人。故に、戦略も殆ど変更は無し。
使用感や戦略よりも、性能がどの程度強化されたか? エリアボス周回で、それを試す。そういった理由で編成されたメンバーだった。
逆に追加メンバーである、ミモリ・カノン・センヤ・ネオン・ヒビキ・マキナの六人。こちらは、装備が更新されているメンバーが多い。しっかりと使用感を確かめ、イベントに備えておきたいところだ。
そして戦闘に不慣れなクベラも、ギルド戦で足手纏いになるものかと策を練っていた。少しでも戦力となるべく、準備もしている。しかし実戦経験はまだまだ浅く、少しでも戦闘に慣れたいという意思があるのだ。
ユージンは万が一に備えての、フォロー役だ。彼は基本的には手を出さず、アドバイスをする立ち位置となる。この配役は、ある理由から満場一致で可決されていた。
「うん、それじゃあ始めようか?」
ユージンの言葉に、パーティメンバーが力強く頷く。
今回は主砲のヒメノやレン、鉄壁のシオン、「どうやったら攻撃当たんのあの人?」なジンが居ない。これまでの様に、楽な戦いにはならないだろう。
しかし、それはこれまでの話。この準備期間を経て、彼等も更に戦力増強を果たしているのだ。
「っし! やるよ!」
そう言って刀の柄を握るセンヤだが、抜刀はしていない。これは彼女がかねてからやりたい、ある戦術を試す為だ。
「どれだけやれるかな……私も、頑張るね」
ネオンはそう言いながら、手にした物を広げる。それは、誰がどう見ても傘である。和風の傘、番傘だ。
「僕も、精一杯やるよ」
そう宣言するヒビキは、新しい篭手と足甲に視線を向ける。今までよりも大振りなそれは、ヒビキの意向で強化された代物だ。
「ふー……よし、大丈夫。行けるよ」
マキナの装備は見た目こそ変わらないが、その性能は大幅に強化されている。武器強化は最大まで行われ、更に魔札を使った装備スキルを有しているのだ。
「ふふ、こっちもオーケーよ。さーて、新しいアイテムの効果がどんなものか……楽しみね」
ミモリの戦法はこれまでと変わらないが、その手にしているのは新作のポーション。その性能はこれまで使用していた物よりも、えげつない効果を齎すだろう。
「が、頑張る……よ!」
緊張気味ではあるものの、これまでよりも積極性が窺えるカノン。その手にしているのは、勿論ハンマー。それも、殺傷力の高いモーニングスター型である。持ち主の見た目に反し、凶悪な得物である。
「ほんなら、ワイもいっちょ気張るか!」
そう言ってクベラは、システム・ウィンドウを開く。そこに表示されているのは、いくつかの新兵器。これを具現化した時、彼は商人では無く戦闘要員としての役割を果たす事が可能になるのだ。
――まさか、こんな風に俺が戦おうと思うなんてな……少し前の自分なら、想像もしなかったはずだ。
クベラ……本名【梅島 勝守】は、荒事等を避けるタイプだった。ゲーム好きとしてAWOをプレイしつつ、荒事に関わらない為に選択したのが商人プレイヤーという方向性だったのに。
――でも、良い。このまま、カノンさんと……そして彼等と一緒で。いや、違う。一緒がいいんだ、俺は。
だからこそ、自分の貯め込んだゴールド等を消費して手に入れた秘密兵器。これがあれば、カノンや皆を守れる。
自分ではガラでは無いと思っているが、闘志を燃やすクベラの存在感……仲間達は皆、彼に期待を寄せている。知らぬは本人ばかりなり。
今居るのは既にインスタンスマップの中であり、パーティ以外のプレイヤーには目撃される恐れはない。全力を出しても、差し支えない状況。
新装備でどこまで戦えるか? それを測るならば、エリアボス戦は絶好の一線になるだろう。最も欲を言えば、プレイヤーに近い挙動をするNPCエネミーが最適である。しかしながら、手頃な相手は思い付かなかったのだ。
そうして始まる、エリアボス【エンシェントフェンリル】戦。
このメンツでの前衛はセンヤ・ヒビキ・マキナの三人だ。魔法による支援と攻撃はネオン、アイテムを投擲してのバフ・デバフサポートがミモリ。カノンは使い捨てに製作した武器の投擲による、物理アタッカー役である。
そして、クベラ。彼はシステム・ウィンドウを操作し、新たに手に入れた秘密兵器を召喚した。
すると、フェンリルがヒビキに向けて突進攻撃を繰り出す。ヒビキは両腕の篭手を胸元の前で揃え、盾として使用する。
この篭手はヒビキの生存能力を上げる為、ユージンやカノンが考案した新兵器≪護国崩城≫。盾と篭手を【合成鍛冶】を使用して融合させた、攻防一体の装備である。
なんという爬虫類コンボ。ネタ元が解らない人は、コブラ・カメ・ワニのメダルライダーを探してみよう。
性能的にはラウンドシールドの域を出ないが、それでもトップクラスの鍛冶職人によって最大強化が施された逸品。エンシェントフェンリル相手でも、通用するとヒビキは確信していた。
そんなヒビキの篭手がフェンリルの攻撃を受け止めると、フェンリルの動きが停止する。
これが、フェンリル攻略の要。攻撃力の高い突進攻撃を、盾で受ける事で動きを止められるのだ。
「っし!!」
そんな高威力突進攻撃を受けて尚、ヒビキは堂々と立っている。HPも多少減った程度で、まだ戦える。
フェンリルの動きが止まった今が、攻め時。仲間達のこれからの行動を予測し、ヒビキは【クイックステップ】でその場を離れる。
「今よ!」
ミモリがそう言いながら、手にしたポーションを投擲。その数は、澄んだ青色と青白い物の二本だ。
彼女が投げたポーション瓶がフェンリルに命中すると、水と冷気が解き放たれる。
水魔法と氷魔法を込めたポーションが同時にフェンリルを覆い、その全身を凍結させる。氷属性ポーションのみでは触れた部分のみであるのに対し、属性を掛け合わせる事で効果を増幅したのだ。元素反応かな?
そんなミモリの凍結アシストに合わせ、ネオンは番傘を掲げる。石突きの部分には、赤い宝玉……魔法杖に使用される、宝玉が設えてあった。
その宝玉が光を帯びると、ネオンの足元に魔法陣が展開されていく。この番傘は、ただの傘では無い。番傘型魔法杖……それが彼女の新装備≪大善慈錫≫である。
この番傘、実は元々は魔扇だった。レンの魔扇を鑑定し、レシピを手に入れたユージン。彼は作成した魔扇を流用して、新しい何かを作りたいと思っていたのだ。そこへ、ネオンの装備更新の話が出た。魔扇と同じ素材で製作出来、ネオンに合う……それが番傘だったのだ。
つまり≪大善慈錫≫は、ユージンのフロンティア精神の結晶である。
そして、クベラは目前の秘密兵器……移動式大砲≪逢煙鬼宴≫の砲塔をフェンリルに向けた。見た目は和風装甲を施した、アームストロング砲である。
「出番やなっ!!」
ボス部屋に轟く、砲撃の轟音。飛来する砲弾が凍り付いたフェンリルに命中すると、そのHPバーがガクッと減った。
「【ブレイクインパクト】ッ!!」
そう叫びながら、モーニングスターを投擲するカノン。それが命中すると、フェンリルのHPが更に減少した。
勿論、それで終わりではない。カノンの周囲には、多量のモーニングスターが突き立てられている。
これまでのハンマーより、破壊力に重点を置いたモーニングスター。しかし、それだけではない。
最初のモーニングスターが命中してから二十秒後、一つ目のモーニングスターが爆発する。そう、彼女が投擲したのは時限爆弾式モーニングスターであった。
彼女が投擲したモーニングスターは、合計三つ。最初のモーニングスターが爆発すると、残る二つも連鎖して爆発する。
そんな猛攻を受け、フェンリルが膝を折り倒れ伏す。ダウン状態になったのだ。
ダウン後は勿論、前衛の出番。爆発が収まるやいなや、センヤ・ヒビキ・マキナがフェンリルに向けて全力疾走する。
「いくぞぉ! 【一閃】!!」
納刀状態だった刀の柄を握り締め、勢い良く抜き放つのはセンヤ。ライトエフェクトを帯びた刀が振るわれ、フェンリルの右足を深く斬り付ける。
その一撃は【刀剣の心得Lv3】で習得できるパッシブスキル【抜刀】の効果を受け、クリティカル発動率と攻撃時のAGI強化がなされている。
センヤは、前々から居合い斬りをやりたいと考えていた。実は陰で、こっそり練習していたのだ。しかしセンヤの体格は小柄だ。刀の長さと噛み合わず、実用化出来ずにいたのだ。
しかし今回の装備更新を受けて、センヤはカノンやユージンにその旨を話した。二人は文句一つ口にする事無く、センヤの新たな刀を鍛えてくれたのである。
そうして出来上がったのが、センヤの体格にピッタリな居合刀≪勇王舞真≫である。尚、この新たな刀は魔王に贈った≪月虹≫に匹敵する逸品だったりする。
「これは負けていられないな……【アクセルドライブ】!!」
スキル【短槍の心得】の奥義を発動するのは、マキナ。突進からの連続突きでフェンリルの弱点部位を、的確に抉る。
短槍は取り回しが良い代わりに、片手剣や長槍よりダメージ効率が低い。そんな仕様でありながら、マキナが与えるダメージは高かった。
これは手にした短槍≪一煉卓将≫の性能もあるが、マキナの技量の高さが大部分を占めていた。
武技を発動時するとシステムアシストがかかり、その攻撃動作はシステム通りに行われる。【一閃】等の例外はあるものの、大半の武技は同様の仕様となっているのだ。
つまりシステムに助けられ、発動すれば誰でも同じフォームで攻撃出来る。しかし逆に言うと、武技はほとんどシステム通りにしか動けないとも言えるのだ。
そんな仕様の影響下で、マキナは的確な攻撃を次々と命中させる。これは彼が熟練の短槍使いであり、スキルや武技について深く理解しているからこそである。容易に実践出来る事ではなく、彼のプレイヤーとしての実力の高さが窺い知れるのだ。
マキナ同様に前衛として最前線で戦うヒビキは、右拳をグッと握り締めて渾身の一撃を繰り出すべく武技名を宣言。
「【ストレートスマッシュ】……はあっ!」
大きく鈍い音がすると、フェンリルのHPがまたも減少。そのHPバーは、既に半分を切った。
近接戦闘スキル【体術の心得】は他の【心得】系スキルと比べ、リーチが短い。その分クールタイムがやや短く、威力も高めに設定されている。使いこなせれば、ダメージディーラーとして活躍できるスキルなのだ。
そしてヒビキは【体術の心得】を使いこなすべく、日々研鑽に励んで来た。
これまで積み重ねて来た自身の努力と、最高峰の生産職人が手掛けた装備。二つの要素が非常に噛み合い、攻防使い分けが可能な拳闘士スタイルが確立されたのだった。
その有用性は非常に高く、着々と削られていくフェンリルのHPがそれを物語っていた。
「ふむ……装備の出来は良さそうだ」
生産力で【七色の橋】を支えるユージンは、手掛けた装備の出来に満足そうだ。次に彼は、視線をネオンに向ける。
「それじゃあネオン君、フェンリルのダウン明けに魔法を撃ち込もうか」
「はいっ!」
既に魔法の詠唱時間を終え、発動待ちのネオン。その周囲には紫電が迸り、まるで魔法そのものが彼女の発動を待ち切れないと言わんばかり。
彼女の魔法杖……の機能を有する番傘≪大善慈錫≫には、魔札で得た武装スキルを搭載している。それは【チャージング】というスキルで、発動待機時間に応じて魔法威力を増幅するのである。
「前衛、退避!!」
設定されたダウン時間が終了し、フェンリルは脚に力を込めて立ち上がる。その際に冷気を発生させ、周囲のプレイヤーに凍結状態を付与しようとする。だがフェンリルのダウン時間をしっかり把握していたマキナの号令で、ヒビキとセンヤも既に距離を取っていた。
「行きます! 【ライトニングピラー】!!」
フェンリルが再び動き出す前に、ネオンは魔法を発動。待機状態から解き放たれた【ライトニングピラー】がフェンリルに命中し、その全身を電撃が駆け巡る。駆け出そうとするフェンリルだが、その身体は動かない……それは無論、状態異常・麻痺を受けたせいである。
一度のダウンで与えたダメージは、これまでよりも確実に増えている。確かな手応えを感じながら、【七色の橋】の面々はフェンリルとの戦闘を継続するのだった。
……
フェンリル戦を終えた八人は、ギルドホームへと帰還。ジン達が戻るのを待ちながら、今回の戦闘について意見交換をしていた。
「やっぱり対人戦だと、勝手が変わってきますよね」
「それこそギルド内で、決闘試合でもやるしか無いのかな」
大型モンスターを相手にしたPvEや、雑魚モンスターの群れを相手にするPvE……これらはPvP、対人戦と異なる点が多い。相手がAIで制御されているのもそうだし、モンスターは武技を使用しない。
対人戦は武技や魔法スキルの応酬に、高度な心理的駆け引きも加わる。アバターや装備・スキルオーブのレベル習熟度、総合的なプレイヤースキルが戦況を大きく左右するのだ。
そんな会話の中、マキナは迫る第四回イベントについて不安を抱いていた。彼は元より、対人戦が苦手である。イジメに遭っていた過去の経験が、他人の悪意に恐怖心を抱かせるのである。
先日の大規模PKでは、それを押し殺して首謀者であるバンを退ける事が出来た。しかし、それ以降は対人戦を行っていない……それが、不安の種であった。
――そうだ……彼にそれも相談してみようかな。
マキナ同様にAWOをプレイしている、クラスメイトの少年……浦田霧人。イジメから救ってくれた恩人であり、熟練のソロプレイヤー・カイトである。
気掛かりなある件について、彼から明確な返答が貰えたら……彼にPvPの立ち回り方などを教えて貰おう。
休み明け、彼と学校で会った際に……。
次回投稿予定日:2021/10/20(本編)