12-15 新装備ファッションショーでした
女性陣用の試作装備が完成したと聞かされたジン達は、探索を即座に切り上げて帰還する事にした。イベント準備期間に入ったので、ユージンやリリィ・クベラは【七色の橋】のギルドホームを仮ホームに設定する事が可能になっている。リスポーン地点に設定出来るので、その場でログアウトして再ログインすれば一瞬である。
そこで待っていたのは、普段と変わらない装備を身に纏った女性陣。そして、何だか楽しそうな表情をしているユージンの姿だった。
「やぁ、早かったね。それじゃあ揃った事だし、ショータイムと洒落込もうか」
そんなユージンの言葉に、思わずクベラが反応する。
「マジか」
「マジで」
「マジだ」
「「ショーターイム」」
「仲良いですね、二人共……」
見た目三十代前半くらいな割に孫まで居るハワイアン生産職人と、二十代半ばな割にもう少し上に見える関西弁商人。何かしら、通じ合う所があるのだろうか。おじさん勢の、最後の希望でも目指すのか。
「という事は、試作品はこれから見られるわけだ」
ヒイロが問い掛けると、レンはニッコリと微笑んで彼に近付く。
「はい。ふふ、楽しみにしてくれましたか?」
悪戯好きな小悪魔モードの表情を浮かべるレン様に、ヒイロは苦笑する。この展開は、予測済みだったのだ。
「あぁ、レンの新しい衣装を見られるんだ。楽しみで仕方が無かったよ」
そう言ってヒイロは、レンの頭を優しく撫でる。
「……っ!! こ、今回は私の負けですね……」
「いや、勝負はしてないけどね?」
この二人、こうして主導権の取り合いをするのだが……それを繰り返すにつれて、バカップル度合いが加速している。最も、それを指摘する者は居ない……出来ない。
「男性陣の分は、これからになるの。後回しになって、ごめんね?」
申し訳なさそうにしながら、アイネがそう告げるのだが……そもそも「男性分は皆でやればよくない?」と言い出したのは、男性陣側だったのだ。彼女達がそれを気に病む必要は無い。
「男性陣は鎧部分も多いし、大変ッスからね」
「そうそう。僕達が一緒にやった方が、早いよ」
微笑み掛けるハヤテとジンだが、アイネはまだ少し浮かない顔だ。こういう、細かい事を気にするのはアイネらしい……が、どうせ新衣装のお披露目をしてくれるならば、笑顔で居て欲しい。
――ハヤテ、出番だよ。
――アイネちゃんを元気にしてあげて。
――ウッス。
ジンとミモリ……敬愛するイトコ二人から向けられる、視線による意思疎通。それを正確に汲み取ったハヤテは、アイネを見る。まだアイネは、その表情から見るにしょんぼりさん状態だ。
そうなれば、ハヤテがやる事は一つ。
「それに、サプライズも良いけど……一緒に何かするのも、良いだろ?」
優しい声色でハヤテがそう言うと、アイネは顔を上げてハヤテを見る。その表情に、喜色が浮かんでいる。
「……そう、かな?」
「そうだよ。一緒に作る方が楽しいだろうし、側に居られる時間が増えるしね」
そう言ってハヤテがアイネの手を握ると、アイネは俯いてしまった……当然、嬉しさと照れくささで。
「アイちゃん、元気出たみたいですね」
笑顔を浮かべながらジンに歩み寄るのは当然、彼の最愛のお嫁さん。
「だね。ただいま、ヒメ」
「おかえりなさい、ジンさん。お疲れ様でした」
満面の笑みでジンを迎えるその姿、正に新妻。そんなヒメノの様子に、ジンも目尻を下げて嬉しそうである。
「迷宮で、色々と素材を集めて来たよ。装備の更新に使えそうなのも、結構あったかな」
「あ、本当です! 流石ですね、凄いです♪」
システム・ウィンドウを見ながら、ジン達男性陣を褒め称えるヒメノ。その姿を見て、ジンは実感する……帰って来たんだ、と。
思えばこのギルドホームも、随分慣れ親しんだ。正に彼等にとって、もう一つの家。そして、そこに居る最愛の存在。そんな現在が、ジンの胸の奥に温かい感情を沸き上がらせる。
「……? どうかしました?」
ジッと見つめられていたので、ヒメノは可愛らしく小首を傾げてみせる。そんな仕草は、彼女の可憐さも相まってより可愛らしく見える。後はそう、旦那フィルターも働いている。
「うん、こうして皆で楽しくゲームが出来て……恵まれているなって思ってね」
「はい、私もそう思います♪」
そのきっかけは、あの始まりの町のNPCショップだった。【七色の橋】という、今をときめく話題のギルドは……彼女の「忍者さんですか!?」なんて言葉から始まったのだ。
そして、そんな二人を見て……ヒイロ達は、穏やかな表情でその様子を見守る。恵まれている……二人がそう感じてくれている事が、嬉しいのだ。
なにせジンとヒメノは、現実で抱える物が大きい。大企業の令嬢という立場のレンや、人見知りなコンプレックスを抱えるカノン……そして、過去にイジメに遭っていたマキナ。他の面々も、それぞれ何かを抱えている。しかし、ジンとヒメノの背負う運命はそれらよりも重い。
そんな二人が、こうして仲間とゲームをプレイして、心の底からの笑顔を見せてくれている。それが、何よりも嬉しい。
そう感じるのは、彼等が二人の事を大切に思っている事……そして、互いを思いやっているからこそだ。
「さて、場も温まったところで始めるかい?」
そんな【七色の橋】の面々に、ユージンが先を促す。
男性陣の装備も作るから? それもあるが、些細な事だ。この人数で取り掛かれば、そこまで時間を浪費する事は無いだろう。
早く自分達の作った試作品を身に纏った、女性陣を見て欲しいから? その気持ちが無い訳では無いが、自尊心を満たすつもりは無い。
新たな彼女達の魅力を、男性陣に見て欲しい。
それはユージンが生産というプレイスタイルをメインにしている理由であり、【七色の橋】の面々と親密な交友関係を構築した理由である。
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そして、ギルドホームの大広間。そこで男性陣が、大人しく正座待機している。
「それではお待たせしました、これより【七色の橋】女性陣の新装備をお披露目しましょう」
マイク片手に、司会進行を務め始めたユージン。ちなみにこのマイクはガワだけで、彼の素の声量だけで充分聞こえる。
「いよっ!」
「待ってました!」
そんなユージンに合いの手を入れるのは、ジンとハヤテのイトココンビ。ノリが良い親族である。
「本気でファッションショーの様相を呈して来たで?」
「まぁ、楽しそうだし良いんじゃないですかね」
苦笑しているクベラに、ヒイロは同じ様に苦笑して返す。それに、女性陣も同意の上でやっているのだろう。
むしろ新衣装となれば、彼女達だってウキウキしていてもおかしくない。ならば、変に水を差すのは申し訳ないとも思うのだ。
「それに、クベラさんも楽しみでしょう? カノンさんの新衣装」
「そりゃ、そうやけど……あ? ヒ、ヒイロさん? 今、なんて?」
思わず普通に返答してしまったが、クベラはその内容に思い至り……慌て始める。そんなクベラに「大丈夫、解りますよ。解っていますから」と良い笑顔で頷いてみせた。
「あ、さん付けじゃなくて良いですよ?」
「そこじゃなくて! い、今のはどういう……」
「あ、始まりますよ」
ヒビキにそう言われ、大人しく前を向き直すクベラ。流石にこの大イベントにケチを付けるわけにはいかないと、大人の判断をしたらしい。
「まずは【七色の橋】の名デザイナーにしてムードメーカー、センヤ君の新衣装だ。製作した新装備は、名付けて≪戦衣・天真葉薊≫だよ」
そうして姿を現したセンヤは、満面の笑みであった。片肌脱ぎスタイルから左右非対称がデフォルトの形状となり、身に纏うのは今までの意匠よりも装飾を増した軽量そうな改造和服。その胸元、チューブトップタイプのインナーの上に、飾り付けの布地が扇状に配置されている。
「続いてこのギルドの皆を和ませる魅力の持ち主である、ネオン君の新装備。その名も≪法衣・芍薬淑女≫だ」
頬を染めながら姿を見せたネオンは、センヤとは打って変わり落ち着いた様子で歩いている。これまでの衣装よりも肩が晒されているが、それでもお淑やかさを損なわないのは彼女自身の魅力だろう。左右で丈の長さが違う、ロングスカート型の袴もそれを手伝っていた。
「次は調薬の分野で名を馳せる、頼りになる皆の姉貴分。ミモリ君に用意したのは、≪匠衣・牡丹百合≫だね」
ユージンの紹介を受けて姿を見せたミモリは、その優れたボディラインを活かしたデザインの和装だ。牡丹百合とは、チューリップの別名である。
豊かな胸元を覆う布部は、首から下げた紐で吊られている。そして腰から下のタイトスカートにはスリットが入り、それが広がらない様に紐で止められているが……紐の隙間から見える健康的な脚が、逆に色気を増幅していた。
「続いては優れた鍛冶職人にして刀匠、カノン君の新装備だよ。彼女の和装に付けた名は≪匠衣・菖蒲水仙≫だ」
人見知りな彼女らしく、やや緊張でカチコチな様子のカノン。そんな彼女の新和装は、彼女にしては攻めた意匠である。特にこれまではロングスカートで隠されていた太腿が、前垂れと腰布の隙間から見えるのが大人っぽさを醸し出す。
装飾も他のメンバーに見劣りしない装飾が施されており、並び立っても不足は感じさせない。菖蒲水仙という花の名が冠されているのだから、それも当然か。
「それでは次だね。【酒呑童子】の保有者、最硬の盾・シオン君の新装備……≪戦衣・深緑紫苑≫のお披露目だ」
ユージンの紹介の後、いつも通りの姿勢の良さで姿を見せたシオン。これまでの和メイド装備とは打って変わり、華やかながら過剰にならない装飾が施された新・和風メイド服。特徴的なのは、重ねられた二つの掛け衿か。
スカートと前垂れを組み合わせて従来のロングスカートのシルエットを残しつつ、その隙間からブーツを履いた脚が覗く。脚を出すというよりは、女性陣お揃いのブーツをアピールする為の意匠だろう。これは是非、ダイスの感想を聞いてみたい逸品である。
「次は薙刀の使い手、【百花繚乱】の侍少女・アイネ君の新装備≪戦衣・風雅白椿≫」
その言葉の後、凛とした空気を纏いながら歩き出したアイネ。これまでの≪聖装・花鳥風月≫とシルエットは同様……だが、腰に大きなリボンがあしらわれている。これは他の女性陣と同じで、お揃いだ。
そして上半身を覆うトップスは、胸元を開いた大胆なデザインである。その隙間から見える形の良いお臍、そして胸元を覆うインナーが色気を醸し出す構成だ。
「そして【七色の橋】サブマスター、【神獣・麒麟】の保有者にして最高峰の魔法職・レン君の新装備。≪桃花の衣≫を進化させた、≪法衣・桃源花蓮≫だ」
紹介を受けて歩き出したレンは、堂々とした足取りでアイネの横に並ぶ。
シオンと似ているが異なる形で、二重になった掛け衿が特徴的だ。今までの上着を開けたスタイルと似た印象を与えるが、前よりも淑やかさを増している。それに加えて、より華やかなのは他のメンバー同様だ。
「それでは、女性陣がトリに推薦した彼女の番だ。【八岐大蛇】の保有者、色んな意味で破壊力抜群なヒメノ君。その新装備がこちら、≪戦衣・桜花爛漫≫だよ」
最後に姿を見せたヒメノは、ジンにニッコリ微笑みかけてから歩き出した。
彼女の場合は、特筆すべき変化が無い。これまでの装備を、より豪華にした形状だ。
しかしながら、それだけではない。特に目を引くのは彼女のトップス。これまでの物から肩口の布を、大幅に減らしたその衣装。彼女の発育の良さを、際立たせるデザインである。そこから覗く黒いインナーウェアは、金色の刺繍が施されていた。男性陣は、その姿から目を逸らせない……成程、一撃必殺。
「可愛いけど、大胆過ぎませんか」
目と心を奪われつつ、ユージンにジト目を向けるジン。そんなジンに苦笑しつつ、ユージンは頭を振った。
「おっと、犯人は僕じゃないよ? 実は今回、センヤ君のデザインそのままがほとんどなのさ」
どうやら、センヤの趣味らしい。時折顔を覗かせる、心の中にオヤジを飼っているセンヤの。
「というか左右非対称に見せ下着とか、ぶっちゃけ僕とほぼ同じ傾向の発想だね。ただセクハラで訴えられたら負けるから、提案出来なかったんだよねぇ……」
元より、ユージンはこれくらい攻めた衣装を用意したかったらしい。そうしなかった理由が、まさかのセクハラ回避。ユージンにも怖いものがあったとは、驚きである。
「お陰で今回は、飾り部分とネーミングに少し口出した程度だよ。今回のMVPは、センヤ君で決まりだね」
自分に視線が集まるのを感じ、センヤはニッコリと笑ってみせた。
「あっはっは! あれが一番似合うのは、やっぱヒメのんしかいないでしょ! ジンさんも良いと思うでしょ!?」
「……ま、まぁ確かに……」
あどけなさを残す顔立ちと、中学生とは思えないボディラインの持ち主。そのアンバランスさが、衣装とマッチしている。成程、このメンバー内では、ヒメノが最適だろう。
「レンちゃんは大人っぽさと可愛さを、アイちゃんは可愛さとカッコよさ! ミモリさんは大人の魅力全開で、カノンさんは着てて安心できる可愛いやつ! ネオンちゃんはやっぱ、お淑やかさ優先ね!」
それぞれの衣装、そのデザインの方針。どうやらセンヤ、今回のデザインに対して相当の熱意を注ぎ込んだらしい。
「ちなみにセンヤちゃんのは?」
ヒビキが問い掛けると、センヤは良い笑顔でムンッ!! と腕組みしながら答えた。
「動きやすくて、活発な感じ! 私にお淑やかとか、ムリムリ」
「今度着てみなよ、きっと似合うよ?」
「えー?」
ナチュラルにイチャ付き始める、幼馴染カップル。それを皮切りに、他の女性陣も会話し始める。
「どうですか、ジンさん! 可愛いですか?」
「うん、可愛い。すっごく可愛い。可愛過ぎて、他の人に見せられない」
「え、そんなに……?」
「可愛いんだけど、心配もあるかな。インナーを何とか、もうちょい大人しく出来ないかな? いや、可愛いんだけどさ……」
正確には、それを着たヒメノが可愛い。
「似合ってるね、レン……本当に、綺麗だ。前のよりも、装飾が増えてるんだね」
ヒイロがそう言うと、レンはクスリと微笑む。
「はい、センヤちゃんのセンスは凄いですね。それにこの胸元の飾り、ヒイロさん専用のここを隠せて良いですよね」
「ぶはっ!? れ、レン!?」
「……勝った」
「これ、大胆過ぎませんかアイネさんや」
「や、やっぱりそう思う? あ、でもね。胸元は普通のインナーウェアの上に、見せても良いオシャレ用のインナーを重ねて着ているんだよ」
「あ、そうなの? いやしかし、俺等が勘違いしたみたいに、他の奴らも勘違いするんじゃ……うん、お腹までちゃんと隠そう」
「……えへへ、心配してくれて嬉しいな」
「あ、あの……クベラ、さん? ど、どう……でしょう?」
「え? あ、俺!? い、いやもう、ホント……最高です、カノンさん!!」
「え、あ……あの、えと……そう? です、か?」
「ホントに、絶対、間違いなく! メチャクチャ似合ってます!」
「ふふっ……皆、楽しそう♪」
「うん……その、ネオンさん?」
「……はい」
「め、メチャクチャ可愛いです……ほ、ほんと素敵で、似合ってます……」
「あ……はい、嬉しいです。でも、なんか照れますね」
「……同感です」
「若いもんは良いですねぇ、ユージンさんや」
「ミモリ君、僕の前でそれを言うかい?」
「ミモリ様、私が居るのもお忘れなく……」
ユージンは苦笑しながら、シオンは真顔でミモリを見る。
「えー、だって二人とも、そんなに年齢離れてない……いやユージンさん、一体おいくつなんですか?」
「済まないがその質問には答えられないかなぁ……まぁ、君達が思っているよりもだいぶジジイだよ、僕」
「「えぇ……?」」
「それより、シオン君。折角だから皆で、記念撮影でもするかい? それとも、男性陣の装備更新後かな?」
「……何故、私に?」
「なに、友人に写真を送るなり、なんなりあるかと思ってね。個撮でも構わないけどね」
脳裏に浮かぶのは、姉妹ギルドに所属する某槍使いの顔。
「……いえ、イベントでいきなり見せて感想を聞きます。その方が世辞を考える時間を与えないでしょうから」
「……成程」
……
「それでは、この後は男性陣の装備に取り掛かります! 服飾・装飾・鍛冶で分担して行きましょう、宜しくお願いします!」
センヤの号令に、メンバー全員が力強く頷いてみせる。
男性陣のトップス・パンツ・チャップスにブーツは、共通のデザイン。差を持たせるのは、鎧や装飾だ。
「あぁ、それでは一度元の装備に戻しましょう。まだ合成前ですから、装備のバフが得られません」
シオンの言葉を受けて、ヒメノ達はそれもそうかと一時退席。それを見送った男性陣は、工房へ先に向かって準備をする事にした。
「ちなみに、彼女達の服以外も更新しておかないといけないね。鎧もそうだし、武器も調整や更新を進めたいね」
女性陣の鎧は軽装鎧だが、その性能はユージンやカノンの手掛けた物だけあって高い。それが更に強化できるならば、やらない手は無いだろう。
「デザインも変えるんスか?」
「そうだね、新衣装に合わせて……かな。とりあえず、新衣装のデザインが確定した段階で相談しようか」
センヤプロデュースの試作品は、これで完成では無い。細かい点を調整した後で、いよいよ既存品と合成するのだ。
「それと、ユニーク持ちメンバー以外の装備も更新したいね。戦闘時に感じている事なんかをヒアリングして、不満点を解消していこう」
流石は最高峰の生産職人、イベントに備えて必要な点を次々と提案して来る。そんな彼の言葉に、ヒイロも確かに……と頷いてみせる。
「そんなら、材料が不足する可能性もあるかもしれへんな。そん時は、ワイがツテを使って集めるさかい」
相当量の素材を集めたが、それだけで事足りるとは限らない。クベラの意見は最もであり、その申し出は心強いものだった。
「お二人とリリィさんが参加してくれて、本気で心強いです。ありがとうございます」
ヒイロの言葉に、二人は穏やかに微笑んでみせる。
「イベント期間中とはいえ、今この時はギルドの一員だと思っている。一蓮托生だよ、ヒイロ君」
「そういうこっちゃ。力を合わせて行こうやないか」
頼り甲斐のある二人の言葉に、ジン達も笑顔を浮かべて頷いた。
彼等とこうして縁を結ぶことが出来たのは、【七色の橋】にとって幸運な事……そう感じるのは、皆一緒である。
……
そして、各々の装備……その試作品が全て完成した頃に、リリィがログインして来た。
イベント準備期間に入った今、ギルドホームの機能をゲストメンバーも許可を得た範囲で使用可能だ。故にリリィも、直接[虹の麓]にログインして来た。
「皆さん、お疲れ様です。遅くなってごめんなさい」
生産作業の大半を手伝えなかった為、申し訳なさそうな表情を浮かべるリリィ。しかし彼女はアイドルであり、そちらの仕事があるのだ。ならば気にする必要は無いし、そうした点を気に掛けてくれているだけでも十分だった。
「大丈夫ですよ、リリィさん!」
「そうですよー! お仕事お疲れ様です!」
ヒメノとセンヤがそう言うが、リリィはまだ申し訳なさそうだ。
そんなリリィを見て、レンが微笑みながらある和風衣装に視線を向ける。
「それならリリィさん、最後の一着の仕上げをお手伝い願えますか?」
「あ……はい、もちろん!」
それは白を基調とした、女性向けの和装だった。
和やかに会話しながら、和装を製作していくシオン。レンとリリィが、それを手伝い……ようやく、それが完成した。
「はい、これで完成です」
「素敵な和服になりましたね!」
「えぇ、リリィさんが手伝ってくれたお陰です」
シオンと一緒に白い和装を製作したレンとリリィが、良い仕事をしたとばかりに微笑み合う。
「これでリリィさんの分も完成しましたし、全員で試着してみましょうか」
「そうですねー!……え?」
今、レンは何と言ったか? リリィは驚いた表情で、彼女に視線を向ける……その先にあったのは、満面の笑みを浮かべるレン様のお顔である。笑顔三割増し。
「ユージンさんとクベラさんの分も、製作してあるんですよ。性能的には、魔王に贈ったものにも引けを取らない品になっています。今回ゲスト参加して頂く、御礼と思って頂ければ。勿論、着るか着ないかも皆さんのご判断にお任せします」
ちなみにユージンさんのは、ご本人の強い要望で甚平です。これがまた、似合う似合う。
「え、えぇ……?」
確かにリリィは、これまでの装備を強化する形でここまで来ている。しかしながら、そろそろ装備更新もしなくてはならないか? という考えも、確かにあった。
しかし、和装を身に纏う事は【七色の橋】の正規メンバーと思われるのではないか? という考えが頭に浮かび……以前ならばいざ知らず、現状ではそうでもないと気付いた。
現在、AWOにおいて和装を身に付けたプレイヤーの姿が徐々に増えつつある。それは勿論、【七色の橋】が和装や刀を販売しているからだ。
「そういえば【桃園】のイリスさんとフレイヤさんも、衣装を製作しようかなんて仰っていましたね」
衣装製作、そして【桃園の誓い】……となれば、確実に製作するのはチャイナ服だろう。【七色の橋】に倣い、中華風装備のプレイヤーを増やそうという考えの様だ。
それに、もしかしたら彼等の場合は新規加入者を募るという考えもあるかもしれない。クベラに委託しているとはいえ、【七色の橋】が直売という手段を取っているのだ。
ならば姉妹ギルドである彼等が同じ方法を選択しても、他のプレイヤーから文句は出ないだろう。その際に、勧誘できそうなプレイヤーの目星を付けるのも一つの手だ。
「とまぁ、そんな訳です。着る時と場所は、リリィさんが選んで下さって問題ありません。まぁ、折角だから今は着てみて欲しいですが」
「……解りました、ありがたく受け取らせて貰います」
レンの説得に、リリィもついに折れる事にした様だ。
それを確認したシオンから、プレゼント機能でリリィに贈られる和装。リリィ自身も手伝って完成したその衣装は、≪法衣・白姫百合≫である。
トップスの部分は他の女性陣と差別化が図られ、陰陽師の様な印象を抱かせるものだ。これらもセンヤのデザインであり、彼女の持つ特殊装備≪魔楽器・笛≫が神楽笛に似ている所から来ている。
それをリリィが着用して姿を見せると、男女問わず絶賛の嵐となった。そんな仲間達の言葉を、リリィは嬉しそうに受け止めて微笑むのだった。
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一方その頃、【聖光の騎士団】のギルドホーム。アレクはギルバートとライデンから呼び出しを受け、ギルドホーム内の会議スペースに来ていた。
――あの二人から、呼び出されるとは……何の用だ、全く。
内心で悪態を吐いていると、待ち人が部屋の扉を開けて入って来た。
「やぁ、アレク。待たせて済まない、急な呼び出して申し訳ないね」
「実は一つ、君に確認しておきたい事があるんだ……スオウという、情報屋についてだ」
ギルバートとライデンの言葉に、アレクは表面上は平静を装いつつ……内心では、危機感を覚えていた。もしかして、スパイの件がバレたのではないか……そんな事を危惧しているのだ。
しかし、彼等の言葉はアレクにとっても予想外の内容だった。
「先日の第二エリア攻略、君の情報源はそのスオウなのかな?」
ギルバートの質問は、事実ではない。何故自分とスオウの繋がりを得たのか、それは解らない……しかしアレクは咄嗟の判断で、彼等の質問に話を合わせる事にした。
「流石はお二人ですね、バレてしまいましたか」
スオウを使って【七色の橋】失脚の証拠を探している……とは、口が裂けても言えない。勘違いしてくれているのなら、そのまま勘違いしてくれた方が良い。
「仰る通りです。隠していたのは……騎士の名を冠する【聖光】のメンバーが、そういった手段を使うのは褒められたものではない……と、思われるのではないかと考えまして」
「最近は【七色の橋】を始めとする、他ギルドの活躍が目立つからね……巻き返そうと、骨を折ってくれたんだろう?」
「ギルドの為に動いてくれた事、嬉しく思うよ。その報酬額は、ギルドの方が負担しよう。後程、私達にメッセージで送ってくれ。なに、悪い様にはしないよ」
情報屋を使った事を、ギルドの為と誤魔化す。そして、その上報酬をギルドが負担する。これはアレクにとって、渡りに船であった。
――マヌケだなぁ、お二人さん。まぁ、ありがたく頂戴しておくよ……ごちそうさま、ってね。