12-11 幕間・ドラグの判断
ギルド【桃園の誓い】のギルドホーム。その共有スペースの中でも、一番広く快適な広間。
「GvGと来たか……今回は、【七色】や【魔弾】もライバルだな」
「そうねぇ……同盟で参加できたら良かったんだけど」
ケインとイリスがそう話していると、ゼクス達は二人を微笑ましい気持ちで見ていた。
やっと気持ちが通じ合い、カップルとなったお二人なので。
「まぁ確かに残念だ。戦力的にも、同盟の方が安心感があるしな」
実利的な面で言及するダイスだが、表に出していないだけでもう一つ残念に思っている事がある。
尚、そんな彼の内心は……既にこの場に居るメンバー全員が、知っている。それは、何故か?
「ダイスは残念ね? シオンさんと一緒のほうが良かったんでしょ?」
「ちょ……フレイヤ、おま……っ!!」
フレイヤ姐さんに勘付かれ、女性三人で情報がシェアされ、その彼氏に伝わり、その末に全員に共有されたからです。ダイス……生きろ。
「味方として戦うのは良いけど、敵として戦うのは複雑だものね?」
「それ考えると、私らは同ギルドで良かったわー」
チナリ、イリスまでもがフレイヤに乗っかる展開。流石にこれは不憫だと、ドラグが口を挟んだ。
「まぁまぁ。イジりはそのくらいにして、本題に移らないか?」
そんなドラグの言葉に、女性陣はそれもそうかと話を切り上げる様だ。ダイスはドラグに向けて、助かったとばかりに苦笑する。
――やれやれ、早くくっつけば良いものを……。
「さて、それでイベントについてだけど」
ケインが話を切り出すと、メンバー全員が意識を切り替えて真剣な面持ちになる。
「やはりプレイヤーの数が少ないのは、不利と考えるべきだな。応援者のデスペナルティがここまで軽めなのは、その現れだと思った方が良い」
応援者はNPCであり、彼等が戦闘不能になった場合もポイントが減る。しかしプレイヤーのそれが10ポイントであるのに対し、応援者は1ポイント。このポイント設定からして、応援者はそこまで高いスペックではない……と考えて良いだろう。
「最優先はPAC契約……それと、メンバー勧誘かしら?」
チナリがそう言うが、ゲイルは難しそうな顔をする。
「PACはともかく、新メンバーについては厳選しないといけないな。【七色の橋】や【魔弾の射手】……リリィさんとのやり取りもある事だしな」
彼は明言しなかったが、特に【七色の橋】とリリィに関してのそれが懸念される。
大学生から社会人の【魔弾の射手】は、本人達がどうとでも対処できそうではある。しかし中高生が大半を占める【七色の橋】や、アイドル業で顔も名前も知られているリリィに対しては気を配らなければならない。
これは大人である【桃園の誓い】が配慮すべき点、それが彼等の共通見解だ。
「そうだな、それぞれが信頼できるヤツに声を掛ける……ってのが、一番良いんじゃあないか?」
そう提案するのは、ドラグだ。
「このメンバーだと、チナリさん以外は最前線でも活動経験があるだろ。まだどこのギルドにも入っていない、性格と実力に信頼のおけるヤツをスカウトしていったらどうだ? まぁどれだけそんなヤツが居るのかは、当たってみないと解らんが」
最もらしい事を口にしつつ、ドラグは内心で思案する。
スパイである彼にとって、このメンバー加入募集という展開は仲間を潜り込ませる絶好の機会……なのだが。
――確か、レオンがフリーだったか? 今もそうとは限らんが、声を掛けてみるべきか。弓使いのマールは、俺が【桃園】に加入したと聞いて羨ましがっていたな。ヴィヴィアンはどうだろう、所属していたギルドに嫌気が差して抜けたと聞いたが……。
ドラグ、真剣に加入メンバーを吟味している。ちなみに彼が考えた三人は、アレク達とは全くの無関係。普通のプレイヤーである。
というのも、彼は【桃園の誓い】をはじめとする同盟ギルド……その内の一つである【七色の橋】については、細心の注意を払わなければならないと感じたのだ。
戦闘中の為、彼等の口から直接聞いたわけではない。ドラグは同盟解散の後に、イリス達から彼等の現実の事情を聞かされた。
ジンの足の障害、生まれつき全盲のヒメノ……そして、いじめに遭っていたマキナの境遇。これらは決して、公にして良い内容の情報では無い。
そういった情報が不特定多数の人間に渡らない様に、現状は他のスパイを引き入れない方が良い……ドラグはそう考えたのだ。
――アンジェの為でも、これはダメだ。現実の事は、ゲームとは別だからな……。
次回投稿予定日:2021/9/30(本編)
ドラグ、お前「現実とゲームは別」って、レンの家族が運営っていうのもリアル事情……。
この認識のチグハグさが、ドラグの最大の欠点です。