12-09 情報屋について調べました
謎の女性・オヴェールとゲーム内で遭遇した、その翌日。仁達はそれぞれ学校に通う傍らで、【七色の橋】の周囲で起こるいくつかの出来事について思案していた。
【高校生コンビの場合】
朝早く、まだ誰も居ない教室。そこで仁と英雄は、いつもの様に顔を突き合わせて話していた。その表情は、真剣そのものだ。
「僕達の情報を欲しい人は、まぁ居るとは思うけど……もし本当にそうだとして、情報屋に依頼するなんて考え過ぎじゃないかな?」
「いや、そういう人も意外といるのかもしれないよ? でも、俺もゲーム歴は長くないしな」
仁と英雄の二人は、VRMMOをプレイするのはアナザーワールド・オンラインが初めて。つまりは、VR歴一年未満のプレイヤーなのだ。
故に情報屋プレイがありふれているのか、珍しいのか……情報屋を使った他人の調査はよくある事なのか、やり過ぎなのか……その判断に迷ってしまう。
「……となると、ここは」
「だね。あの二人なら、悪いようにはしないはずだし」
そう、彼等にはクラスメイトが居る。それもVR歴が長く、トップギルドの一角を率いる幹部クラスの二人が。
「仁、英雄! ちょっと相談に乗ってほしいんだけど! 明人が初デートするんだって!」
「ま、待ってよ人志! そんな大声で……待てやコラ!!」
そこへ、丁度良いタイミングで人志と明人が賑やかにやって来た。一学期の頃は、遅刻ギリギリに登校してきていたのだが……随分と、早起きにも慣れたようである。
ちなみに、麻衣との仲も着実に進展しているようだ。良きかな。
************************************************************
【女子大生コンビの場合】
和美と紀子が通う、九州にある[江山尾根大学]……その学食で、二人は顔を顰めていた。
二人が顔を突き合わせて見ているのは、掲示板だ。人気のVRMMOであるAWOのスレッドは多岐に渡り、雑談だけでなく攻略や検証などのスレッドも建てられている。無論、ファンスレもだが。
「ほとんどの書き込みは【七色の橋】に好意的な感じだけど……たまに、妙な書き込みがあるわよね」
「ほとんど……言い掛かりみたいな、ヤツ……だけど、ね」
普段は無視して流す和美と、そういった書き込みを見たくないのでそもそも見ない紀子。しかしここ最近のトラブルを鑑みた二人は、嫌々ながらも掲示板の書き込みを見返す事にしたのだ。
「この辺が、例の偽物騒動ね」
「こことか……不自然、だよね」
掲示板の中には、流れに逆らう様に【七色の橋】の評価を下げる意図を感じさせる書き込みがあった。その書き込みはアーサーとハルの乱入、ジンとヒメノの到着の後からは見受けられない。
「ハヤテ君達の印象操作の時も、食い下がる様な書き込みがあるわね……」
「ここまでする……のは、やはり意図的なもの……だよね?」
「そう考えた方が良さそうね……全く、私達が何をしたってのよ」
和美からしてみれば、自分達はAWOを楽しんでプレイしているだけのユーザーに過ぎない。
とはいえ、【七色の橋】はこれまでのイベントで立て続けに上位入賞を果たしており、目立つ事この上ない集団である。ファンが付くのが当然ならば、逆にアンチが現れても不思議ではない……それが、VRMMOというゲームの傾向だ。
それを知っている紀子だが、和美にその事を告げはしない。内心では、自分もそういった感情を抱いているのだ。
そんな中、別のテーブルで会話している学生二人の声が耳に入った。
「おい、いよいよ伊賀星美紀がAWOのプレイ配信やるってよ!」
「おっ、マジ? いよいよか! 待ちかねたよ」
プレイ配信……それはつまり、プレイヤーによるゲーム動画のリアル配信をするという事だ。
「……伊賀星美紀って、確か……」
「人気の、アイドル……だよね?」
アイドルに興味が無い和美と紀子も、名前くらいは知っている。それくらい、伊賀星美紀は知名度のあるネットアイドルだ。
ネットアイドルである、伊賀星美紀。自分達と同年代である彼女だが、今現在の活躍の場はネットだけに留まらない。デビュー直後から人気が爆発した彼女は、今やTV番組にも出演したりする話題のアイドルなのだ。
人気の理由は、少女らしさと女性らしさ双方を兼ね備えた容姿。グラビアアイドルもかくやという、均整の取れた体型。そして常にファンやリスナーを大切にする、その性格にある。
そんな彼女のメインである活動場所は、ニマニマ動画での生放送だったりゲーム配信。容姿・体型・性格……三拍子揃った彼女の放送は、ファンが多く同時接続数も一万を軽く超えるそうだ。
とはいえ二人にとっては、アイドルがAWOに参入すると言っても騒ぐ事ではない。既に人気アイドルが、AWOに……そして身近なフレンドとして存在しているから。
「リリィさんと、どっちが人気出るかしら?」
「どう……だろう? 私は……リリィさんの方が、好き……かな」
************************************************************
【女子中学生グループの場合】
昼休みになると、いつものように集まって食事を始める姫乃達。すっかりお馴染みになった、いつもの昼食風景である。
しかしながら、雰囲気は普段の和やかさを奪われている。
「情報屋の件……もしかしたら、私達の周りで起きているトラブルにも関りがあるんじゃないかしら?」
愛の言葉に、恋も難しい顔をしながら頷く。
「私も、愛ちゃんと同意見ね。偽物騒動なんて、明らかに私達を狙ったものとしか思えないもの」
そんな二人の会話に、姫乃はある懸念事項について口を出す。
「……ずっと前にあった、【漆黒の旅団】は無関係かな? それと、あと……」
姫乃が言い淀む姿を見て、恋は何かあったのか? と思案し……そして、彼女が狙われたある事件について思い至る。
「ヒメちゃん……あの汚物の件も、もしかしたらって思っている?」
「「……汚物?」」
恋の口から飛び出した、彼女らしからぬ発言。千夜と優が目を丸くするのも、無理はないだろう。
……
恋と愛からマリウス事件の顛末を説明され、千夜と優は納得した。
「そんな事があったのかぁ……」
「それは汚物扱いされても無理はないね……」
女子中学生に対し、ゲーム内で強引に迫る成人男性……アカウント削除措置も妥当な対応だと、二人も頷いているのだった。
「ジンさんが間に合って良かった……」
「本当だね、ヒメちゃんが無事でよかった……」
二人は姫乃を気遣わしげに見るが、当の姫乃は柔らかく微笑んでみせるのだった。
「ありがとう、二人共」
************************************************************
【相田隼の場合】
情報屋が接触して来た……その事実を、隼は無視出来ない事態と考えていた。
それは彼女……オヴェールが、情報屋であると考えた上での思考。隼はその可能性は高いものとして、考えを巡らせていた。
根拠は無いが、彼の勘が「オヴェール=情報屋」と告げているのだ。
――俺達は確かに、秘密が多いギルドだ。それを探ろうとするのは解るけど……最近のトラブルを考えると、それだけじゃない気がする。
バンの件で、隼はその可能性は高いと考えている。
そもそも彼が問題を起こしたのは、和装と刀を装備しての【七色の橋】偽物騒動の為。マキナからの話だと、彼は仲間と共謀して【七色の橋】を陥れようとした。
つまりは共犯者がいた……それも複数、野次馬の中に印象操作要員を潜り込ませるだけの人数が。
――相手は複数名……それも、大人数と考えるべき。それに、もう一つ……。
隼はもう一点気になる事があった。それは、騒動とは別の件だ。
つい先日、自分達が第三エリア到達を目指したタイミングで、他のギルドが立て続けにエリアボスの封印を解いた事があった。それまで足踏みをしていたにも関わらず、同盟チームが動き出した途端に。それも、複数箇所で立て続けにだ。
しかも自分達が、件の偽物騒動で一度引き返したタイミングで……これは、偶然だろうか?
――誰かが、俺達を陥れようとしているのは間違い無い。狙いはやっぱ、トップギルドの座から引き摺り下ろす為か?
考えつつ、隼は携帯端末を操作する。それは勿論、情報屋についての手掛かりを探す為だ。
そうしていると、公式掲示板である単語が脈絡なく投稿されている事に気が付いた。
――これ……もしかして、もしかするか?
************************************************************
【名井家拓真の場合】
「浦田君は、AWOに居る情報屋について何か知っている?」
「……いや。そういうのが居るというだけで、詳しくは知らないよ」
昼休み、学食で昼食休憩をする拓真と霧人。拓真から投げ掛けられた質問に、霧人は動揺を押し殺して平静を貫いた。
――俺達の事がバレた? いや、そういう様子ではない。ここは白を切り通そう。
「そっか……浦田君なら、色々知っているからもしかしたらと思ったんだけど……」
「何かあったのかな?」
「うん、それが……」
……
「成程……確かに、それが情報屋だとしたら怪しいよね。君の所属するギルドは、情報の宝庫だもんね」
納得顔の霧人に、拓真も真剣な表情で頷く。
「やっぱりそう思うよね。だから、誰かが僕達の情報を……ジンさん達の情報を調べようとしているんじゃないかって思うんだけどね」
そんな拓真の言葉を聞き流しながら、霧人は内心で毒を吐いた。
――情報屋……【七色の橋】に直接接触しただと? 何を考えている? なんなの? バカなの?
恐らくは、【七色の橋】と運営の何者かの繋がりを突き止めようと動いたのだろう。しかし、その行動は安易に過ぎる。
――自分が情報屋だとアピールする様なマネをして、奴らを警戒させるだけだろうに……所詮、情報屋と言っても素人の下手の横好きか。
情報屋は使えない……そう判断した霧人は、拓真に問い掛ける。
「しかしジンさん達の情報となると、俺もファンとしては知りたいかなぁ」
霧人は意識して、人懐っこい笑みを浮かべる。普段はそういった表情は見せず、こういった相手の心に訴えかけたい時にだけ見せる表情だ。自分が整った顔立ちの持ち主である事を、十二分に理解している霧人。こうして、彼は今の「誰からも一目置かれる人気者」というポジションを確立してきたのである。
「あはは、浦田君は【七色の橋】のファンだって言っていたもんね」
そして、拓真はそんな霧人の内面には気付いていなかった。そもそも、疑うという意識が無い……なにせ彼は、自分をイジメから救ってくれたヒーローなのだ。
「浦田くんもギルドに加入出来ないかな、皆に聞いてみようか?」
拓真の言葉に、霧人は嬉しそうな顔をする。内心では「さっさとそう言えよ、ノロマめ」なんて毒づいているとは、誰も思わないだろう。
「それは助かるよ。ほら、この前の大規模PKみたいな事もあるだろう? バンみたいな奴が、今後も現れるかもしれないし……俺も力になりたいと思うんだよね」
その言葉を聞いて、拓真は違和感を覚える。しかし霧人は穏やかな笑みを浮かべて、拓真の返事を待つばかりだ。
「……うん、皆に聞いてみる。いい返事を期待しててね」
「ありがとう、楽しみにしているよ」
――コイツをスパイに仕立てるより、自分が潜り込んだ方が早いからな。
――何だろう……今、何かが引っ掛かった気がする……。
************************************************************
【土出鳴子の場合】
昼食を終え、午後の仕事に取り掛かる鳴子。パソコンに向かう彼女は、次々と書類を処理していく。
「……やっぱ土出さん、仕事速いよな」
「あぁ……しかも姿勢良いし、あのルックスだろ? 仕事中ってより、演奏中のピアニストみたい」
「その例えはどうなのよ……いや、でも……うん、解らなくもない、かな?」
男女問わず、鳴子には感心と憧れの眼差しを向けている。それだけ、この部署において鳴子は一目置かれる存在であり、部署の要として重要視されているのだった。
周囲にそんな感想を抱かせているとは露知らず、鳴子は仕事に集中して取り組んでいる。その傍らで、彼女もAWOでの事を考えていた。
――【七色の橋】に嫉妬するプレイヤーが居るのも、無理はない……でも、情報屋を使ってまで接触しようとする?
自分達の立ち位置を客観的に考え、それでも情報屋による情報収集は過剰に思える。そもそも、プレイヤーのプライバシーを侵害する行為では無いか? そう思った彼女は、心のメモ帳に記す……雇い主に会った時にでもその辺りを確認しようと。
しかし、その機会は思いの外早く訪れた。
「つ、土出さん。ユートピア・クリエイティブに出向なさっている、初音様ご夫妻がお見えです……」
緊張気味の同僚に声を掛けられ、鳴子は仕事の手を止める。
「解りました、ありがとうございます」
編集していたファイルを保存し、鳴子は立ち上がった。
……
「忙しい中に呼んでしまって済まないね、土出君」
申し訳無さそうな恋の義兄に、鳴子は笑顔を浮かべる。彼とその妻……恋の姉にして、鳴子の大学時代の先輩。二人は鳴子を部下ではなく、身内の様に大切にしてくれている。それを知っているので、鳴子も素の表情を見せていた。
「御心配には及びません、喫緊の仕事ではございませんでしたから」
大抵の仕事は、あっという間に終わらせられる鳴子である。その優秀さをよく知る初音夫妻は、それでも感謝の言葉を告げる。
そして、本題。
「鳴子……実はAWO公式サイトに、妙な文章が送られて来るのよ。それも、ネットカフェから捨てアカウントで……毎週ね」
そう言った恋の姉は、一枚の紙を鳴子に差し出す。それを手に取ると、鳴子の眉間に皺が寄った。
「……『運営の中に、プレイヤーに情報を漏洩している者が居る』? 何を馬鹿な」
その文面に不愉快そうな表情をする鳴子だが、二人の表情は重苦しいものだった。
「……何か、疑わしい事でも?」
「いや、調べたがその様な形跡は無い。問題は誰か、何故こんな事を言い出したかだ。前者は不明だが、後者については一つの可能性に行き着いた」
二人が深刻な顔をする、その理由……そして、それを鳴子に明かす理由。鳴子もここへきて、ある懸念に行き着いた。
「まさか、恋お嬢様を……?」
恋は現在、【七色の橋】のサブマスター・レンとして有名なプレイヤー。過去三回のイベントでも、上位入賞を果たしたトップランカーである。
そんな彼女と瓜ふたつな姉……彼女は一度、プレイヤー達の前に姿を見せている。運営主任・エリアとして。
レンとエリア、二人が実の姉妹だと勘付いた者が居たら? その人物が、レンがトップランカーになれたのは……エリアに情報を流して貰っているからだと、勘違いしたら?
「……成程、お二人の懸念も理解出来ます。その可能性を考慮してお嬢様を、そして皆様を守る必要がありますね」
そう口にした鳴子は、普段のクールな態度では無かった。口調も、声量も、姿勢もいつも通り。しかし……その眼には、明確な怒りが宿されている。
――土出君が怒るのも、珍しい……というか、俺は初めて見たぞ?
――鳴子、キレた? 何か背後に般若みたいなのが見えた気が……はっ、酒呑童子!?
静かに怒りを滾らせる鳴子を見て、二人は思った……これはメッセージを送った者が本気で恋を狙っていた場合、その人物は酷い目にあうのでは? と。
************************************************************
その夜、ギルドホームに集まった【七色の橋】の面々は、探索の前に顔を突き合わせて会議を開始する。
尚、その場には……
「ふぉぉ……初めて中に入ったぜ」
「中は和風モダンなんだね、良い雰囲気だ」
ギルバートとライデンが居た。言うに及ばず、ジンとヒイロが誘ったのだ……無論、仲間達には相談の上である。
ちなみに【七色の橋】のギルドホームに向かう事については、アーク達の許可も得ている。むしろ彼等が招待される事について、肯定的な反応だった。
余談だが。
「ギルバート、本気でやらかさないでね」
新サブマスのシルフィが、懇願する様な顔でそう言ったのはご愛嬌。
「ここが[虹の麓]と呼ばれている、【七色の橋】のギルドホーム……」
ギルバートの呟きに、ジン達は首を傾げる。[虹の麓]? なんぞ、それ? といった具合だ。
「いや待った、何さその呼称は……」
ヒイロがそう言うと、ライデンが苦笑して解説を始める。
「君達のギルドホームは、一部のプレイヤーにはそう呼ばれているんだよ。第二回の後から、入口はずっと閉めているんだろう? ギルド名から虹を連想して、麓が見えない事からそう名付けられたんだろうね」
「ええぇ……実在しているのに……」
そんな会話に、ヒメノはふにゃりと笑顔を見せる。
「でも、何だか素敵な呼び方ですね」
どうやらヒメノは、[虹の麓]という呼び名が気に入ったらしい。
「俺もそう思ってるんだけどね、ロマンティックでさ」
ウンウンと頷くギルバートに、ジンは苦笑する。最初はガッチガチだったのに、大分リラックスして来た様だ。無論、緊張していたのは自分の過去に起こした暴言事件のせいである。
「で、だ。情報屋の件だけど……二人に聞いた所、何人か実在するらしい」
ヒイロがそう言うと、ライデンが頷く。
「まず【聖光】で把握しているのが、自分のサイトを持つ情報屋……名前は【ライト】。男性で、結構自己アピールをしている情報屋だ。ちなみに、彼の情報はそれなりのモノらしい」
男性……となると、昨日の女性・オヴェールとは無関係だろうか。ジン達はそう考え、ライデンの話に耳を傾ける。
「次に、女性の情報屋だね。魔女っぽいコスチュームを着た、【メル】っていう情報屋だけど……彼女の情報は主観が入っている事が多くて、正確性に欠けるとか……ちなみに、そこそこいい歳らしい」
「そこそこ……?」
お茶を濁していたライデンだが、そこも判断材料かと苦笑する。
「見た感じ、アラフォーじゃないかって……」
昨日の女性は、若かった。声の感じと体格、フードで隠れていなかった口元を見た感じでは、恐らく二十代くらいではないかと思われる。だとしたら、メルという女性情報屋とは別なのかもしれない。
「あとは……実在しているらしいけど、その正体も性別も、何もかも不明な情報屋……スオウ」
「スオウ……」
もしかしたら、オヴェールがそのスオウなのか? と、ジン達は真剣な表情で考え始める。
「依頼人は、スオウの事を口外しないと約束される……って噂だね。ただ彼の情報を買ったプレイヤーは、その情報を元に強力な装備やスキルを手に入れる事に成功したそうだ」
「……でも、どうやって依頼するんだ? そこまで何もかも解らないと、依頼も出来ないんじゃねーか?」
ギルバートの疑問に、ライデンも頷いて見せる。スオウに依頼する方法は、見付ける事が出来なかったのだ。
「そこで、コレッス」
今度はハヤテが、自分のシステム・ウィンドウを可視状態にして全員に見える様に展開する。
「公式の掲示板なんスけど、特定のスレッドに時々あるコメントが出るんスよ……こことか」
ハヤテが指し示したのは、公式サイトにある【初心者向けスレ】だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
188 モズク
どなたか教えて下さい
和服を買いたいんですけどどうしたら手に入りますか
189 ホライゾン
第二エリアに行く為の推奨レベルはいくつですか
190 ドドンコ
>188
和服はショップには売ってないよ
あるギルドが自分達で製作して販売している
今は直売しかしていない
毎週月曜日限定で、[フロウド]サーバーの始まりの町に行ってみると良いよ
ただ品数は少ないから、買えるかどうかは君次第だ
191 アレク
少年よ、大志を抱け
192 コタロウ
>189
第二エリア前のボスの推奨レベルが30だ
しかしレイド前提の難易度になっているから注意するんだぞ
野良パーティでも割といける
野良掲示板でメンバー募集をすると良いぞ
193 モズク
>190
あり
194 レアル
配信したいんだけどやり方がわかんない
195 モズク
>191
少年じゃないし
少女ですしおすし
―――――――――――――――――――――――――――――――
「……これ、かな?」
ジンが指し示したのは、191のコメント。
「少年よ、大志を抱け……うん、コレっぽいよね」
「正解。この文言、いくつか見付けたんスけど……その中に、【旅路】のトロ姉さんの名前もあったッス」
トロ姉さん……とは、ジン達が【遥かなる旅路】のサブマスターであるトロロゴハンを呼ぶ時の呼称である。今もよく、メッセージのやり取りをしているらしい。
しかし、ギルバートとライデンは目を細めて掲示板を凝視している。
「ライデン、どう思う?」
「……思い当たるフシはある。先日の一件、君も覚えているだろう?」
「あぁ、やはりそうかもしれないね」
二人の様子に、ジン達は首を傾げるしかない。
「どうしたの、二人共?」
ジンに声を掛けられ、ライデンはやれやれと頭を振った。
「アレク……彼は、【聖光】のメンバーだよ」