12-08 幕間・暗い部屋にて
「いつになったら、あの情報屋は仕事をするんだ……どんだけ時間が経ったと思っている……!!」
苦々しい顔で、パソコンのモニターを睨み付けるアレクこと稗田蓮織。部屋の照明は落としており、暗闇。唯一の光源であるパソコンのモニター……そこに表示されているのは、例の情報屋・スオウ=ミチバからの中途報告のメッセージ。その内容は、こうだ。
『【七色の橋】がゲーム内で運営と接触した痕跡は無し。また、運営から情報を得ている確証は未だ得られず』
当然と言えば、当然だ。【七色の橋】が運営メンバーとゲーム内で顔を合わせたのは、第二回イベントの決勝トーナメントの時だけである。
そして運営から情報を得ているというのは、アレク達……元の発端はドラグだが、彼等の思い込みに過ぎない。
ジン達がゲーム内で数々の好成績を叩き出すのは、本人達の努力によるものだ。
効率的な行動や、的確な判断……これも、VRMMOの経験が長いハヤテという頭脳担当が居るからだ。その上、大胆な取捨選択をする決断力を持つレン……そして、彼女に負けじと成長を続けるヒイロが居てこそ。
加えてギルド全体を見守り、何かあればさり気なくフォローするシオンやアイネ。その明るさや行動力、優しさでメンバーをサポートするヒビキ・センヤ・ネオン。新参ながらも、メンバーの助けになろうと全体に気を配るマキナ。
ミモリとカノンの生産コンビの作ったアイテムが売れるのは、その性能や出来栄えの良さによるもの。それを成すのは一途に生産に打ち込み、積み重ねてきたノウハウがあるからだ。
そして、そんなメンバーの中心に居る、ジンとヒメノ。めいいっぱいVRMMOライフを楽しもうと、いつも真っ直ぐ全力で歩く二人。この二人が居るからこそ、他のメンバーもゲームを楽しもうと思えるのである。
そんな【七色の橋】の真実を知らない蓮織は、苛立ちを募らせる。
「もう時間が無いんだぞ……くそっ、使えん奴だ」
口汚くスオウを罵る蓮織に、後ろから声を掛ける存在が居た。
「蓮織、落ち着いて? 蓮織が頑張ってくれているの、私は知っているよ?」
蓮織のベッドに腰掛け、穏やかに微笑むのは一人の少女。パソコンのモニターの明かりだけでも、明るい茶色のロングストレートヘアーが見て取れる。顔立ちは整っており、垂れ気味の大きくパッチリとした目を持つ少女だ。鼻筋もスッと整っており、プルッとした唇は艶がある。
町で擦れ違えば、誰もが振り返る様な美少女。そんな少女が、蓮織に向けて優しく……聖母の様な微笑を向けていた。
「す、済まない……やはり、あんな情報屋に頼ったのが間違いか。よし、また何か手を考えよう……大丈夫、使える駒はまだまだある……」
怒気を抑え込み、努めて冷静に振る舞おうとする蓮織。それは、ベッドの上に座る彼女が怖がらない様に……そんな彼なりの、彼女に対する配慮の表れだ。
そんな蓮織の内心を見通す彼女は、ベッドから腰を上げて蓮織に歩み寄る。
「蓮織、いつもありがとう。私の為に、いつも必死になって頑張ってくれて」
そう言うと、彼女は蓮織の頭を優しく……慈しむ様に抱き締める。暗い部屋、パソコンのモニターの明かりだけでは解りにくかったが……彼女は、下着姿であった。
座っていると分かりにくいが、その身長は平均的な身長である。その胸元の膨らみは形の整った、目を引き付ける過不足のない大きさ。腰はキュッとくびれており、そこから下の臀部はなだらかな曲線を描いている。
「霧人達も頑張ってくれているけど、蓮織はその取り纏めをしてくれているんだもんね。考える事も、やる事も多いんでしょ?」
そんな、蓮織を労う様な言葉に……蓮織は、顔を蒼褪めさせた。
「だっ……大丈夫だ、心配は要らない!! 君は何も気にしないで良い、全部こっちで段取りするから!!」
必死に訴えかける様な蓮織に、彼女はふわりと微笑む。そして蓮織の胸元に、その細くしなやかさを感じさせる指を這わせる。
「そう? やっぱり、蓮織は頼りになるね」
そこから始まるのは、蜜月の時。蓮織の手を取ると、誘い込む様に彼女はその手を引き寄せ……自分の胸元の膨らみに押し付ける。
「それじゃあ、蓮織。ふふっ」
「アンジェ……」
「こら、そっちの名前じゃないよ? 今は……ね?」
そう言って、悪戯っぽく微笑む彼女……アンジェリカを、蓮織は壊れ物を扱うかのように優しく抱き締める。
「あぁ、解っているよ……俺の全て……いや、違うな……」
蓮織は熱に浮かされた様な声色で呟くと、彼女をベッドに押し倒した。
「この世界の全ては、君の為にあるんだ……美紀」
次回投稿予定日:2021/9/20(本編)