12-07 謎の人物との接触でした
先に探索を終えたはずのジン達が、一番遅くギルドホームに帰還した……それを不思議に思ったヒイロが質問をすると、ジン達はこれまでの経緯について説明した。
「へぇ……で、その配信者とパーティを組んでエリアボスをボコッたと……」
「……これは、掲示板で話題になっているでしょうね……」
ヒイロとレンが苦笑しながら、掲示板の様子を思い浮かべる。相変わらず、次から次へと話題を提供する夫婦だ。
ちなみにもう一方の話題……狐さんセットだが、それを見て自分のパートナーなら何が似合うか? と試行錯誤していた。予想外の展開に至っても、バカップルは健在なり。
「とりま、後でケモ耳尻尾については情報流しておくッス。で、問題は配信の方かな?」
ジン達の行動は確かに目立ってしまう行動であった。だが、それが不利益をもたらすと断じる事は出来ない。特に、この夫婦に関しては。
二人から話を聞く限りでは、道中やエリアボス戦において最低限の協力に徹し、配信者であるコヨミが活躍できるようにお膳立てをする程度のプレイングだった。彼女のパワーレベリングをした訳でも無いし、そもそも善意の協力であり無報酬である。
二人が使用したスキルや武技も一般的なモノのみで、【七色の橋】の重要な情報を漏洩するには至っていない。というか視聴者からすると、ジンはただただ速い……ヒメノの破壊力がエグい、というくらいしか解らないだろう。
しかし、二人は神妙に押し黙っていた。そんな不安そうにする二人に、掲示板を確認していたハヤテとマキナが苦笑いしつつ声を掛ける。
「んー、軽率だったけど結果オーライッスね」
「掲示板、良い意味で盛り上がってます」
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258 名無し
ねんがんのジンさんヒメノちゃんとパーティをくんだぞ!
259 名無し
配信終わってたあぁぁ!!
生視聴したかった……orz
260 名無し
>258
うらやまwww
261 名無し
>259
生視聴は残念だったな
ニマニマ動画のコヨミのページ行けばアーカイブで動画見れるっぽいぞ
262 名無し
動画見た限りだと忍者さんとヒメノちゃんはパワーレベリングとかはしてないね
まぁ野良でPT組んでパワーレベリングしてくれる人なんてそう居ないけど
263 名無し
養殖は地雷生産プレイだからなぁ
分不相応なレベルになったせいでPSが育たない
そうして放逐された彼等は地雷として名を馳せるワケで
264 名無し
その点あの夫婦は流石だな
最低限のフォローでコヨミちゃんの活躍の場を与えていたし
265 名無し
俺もパーティー組んで欲しい!!
あとコヨミちゃんのファンになるわ
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「この通り、好意的に受け入れられてるッス」
「思ったより好評だったみたいですね」
ハヤテとマキナの言葉に、ミモリが笑顔で頷く。
「二人がやったのがパワーレベリングだったなら、叩かれてたでしょうけどね。まぁ、そこは途中加入メンバーのレベリングで理解していたワケだし」
ジン達は当初、途中で加入したメンバー……センヤ・ネオン・ヒビキ、そして生産メインのプレイヤーであるミモリ・カノンのレベルを上げようぜ! みたいな空気になった事があったのだ。
しかし、そこで待ったをかけたのがハヤテ・ミモリ・カノンのVRMMO経験者。
レベルを上げる過程で身に付くプレイヤースキル……養殖プレイでは、それがすっぽりと抜け落ちてしまう。故に、ただ単にレベルを上げるだけではダメなのだと教えられていた。
ジンとヒメノはそれをしっかり覚えていたので、コヨミに経験を積ませる立ち回りを心掛けていたのだ。
「まぁ結果オーライ? かな?」
「あはは、そうかもね」
センヤとヒビキがそう言うと、他の面々も笑顔で頷いた。
「さ、それじゃあ第三エリアのクエストについて情報を擦り合わせようか」
第二エリアの辺境都市を偵察したり、産業都市の海水汚染問題を調査したり、迷宮の異変の調査を依頼されたり。NPCとのやり取りが多くなりそうなクエストが、第三エリアには用意されていた。
「で、北にもそんな感じのが?」
「ええ、ありました。他のエリアと同じく、ストーリークエストっぽいのが」
北側のNPCクエストは、雪山を占拠しているならず者達……それも相当な大人数の悪党NPCを、退治して欲しいというモノだった。
「他のクエストに比べて、あっさり終わりそうですね?」
ヒメノがそんな感想を口にするが、マキナが苦笑しながら首を横に振る。
「他のエリアと同程度の規模のクエストにするのなら、恐らく倒して終わりにはならないですね。例えばそいつらが散り散りに逃走して、いくつかの町に追い掛けたり……あとは、そいつらの黒幕がどこかの町のお偉いさんだったり、かな」
あちこちの町に行かなければならない、そんなクエストになるのでは? マキナはそう考えている様だ。
そんなマキナの推測に、ヒメノは成程……と素直に頷く。
「そうなると、どのクエストも手間が掛かりそうだ。よって、ギルメンみんなで速攻で攻略……そうすれば」
「うん、現地人の好感度が上がって、情報を得やすくなるッスね」
「そして、エクストラクエストを探し出して、皆で攻略……だね」
真剣な表情のジン・ヒイロ・ハヤテ。その様子を見て、マキナは感心する。
――流石。エンジョイ勢とは言うが、動きや考え方にムダが無い。やっぱりメンバーのプレイヤーとしての実力が高いからかな。
あれもこれもと欲張るのではなく、優先すべきものを明確化。それに向けて、行動方針を決めている。
それ以外の探索は、最優先事項をクリアしてから……という事だろう。
この少人数で、生産活動と並行してそれを完遂できるのだから、凄いというほかない。
――それにヒイロさんの決断力や、ハヤテさんの判断力の高さは相当なレベルだし……こういった所も、【七色の橋】がトップギルドと言われる所以かな?
そんな【七色の橋】に新たに加入したマキナ。彼は己もその一員だという自覚を新たにし、自分も仲間達の為に成長していきたいという想いを強めていた。
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早速、ジン達は南側第二エリアにある産業都市[ディヤス]へ向かった。当然、全員変装している。第二エリアとなれば、第三エリアよりもプレイヤーの数は多いのだ。
「へぇ……産業都市っていうからどんな感じかと思っていましたが、港町なんですね」
産業とは言っても、中世風の世界観のAWOの事だ。鍛冶や彫刻、機織り等が盛んな様子で、職人達の作業風景があちこちで垣間見える。
「そこまで海が汚れている感じは無いよね?」
「でも、実際に海底都市[マリアナ]は汚染されてる箇所があったんだよねぇ。それは、私達も確認したし」
「問題は海水汚染の原因が、都市ぐるみなのか……それとも一部の仕業なのか。そこが問題ね」
クエストを受注しているのはミモリとヒビキ、センヤの三人だ。その為、ミモリがパーティリーダーを務めるパーティと、ヒビキがパーティリーダーを務めるパーティに分かれている。
ちなみに【七色の橋】は、主にパーティを組むメンバーがある程度固定されている。なにせ、カップルが多いので。
初期メンバーとしてカウントされるのが、ジン・ヒイロ・ヒメノ・レン・シオンの第一回イベントで猛威を振るった五人。そこにハヤテとアイネを加えた場合、ギルド結成メンバーとなる。
中途加入メンバーの内、親友同士であり生産職として名を馳せるミモリとカノンは生産コンビとしてセットで考えられている。そしてセンヤ・ネオンの二人に、ヒビキとマキナを加えた四人がセットと目されているのだ。
そんな訳で、今回は生産系PACを除く全員でフィールド探索の為、振り分けは容易だった。
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【ミモリチーム】
ミモリ・カノン
ジン・ヒメノ・リン・ヒナ
ハヤテ・アイネ・カゲツ・ジョシュア
【ヒビキチーム】
ヒビキ・センヤ・ネオン・マキナ
ヒイロ・レン・シオン・セツナ・ロータス
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この布陣ならば、パーティ単位でしかクエストを進行出来なくとも問題は無い。盾役は回避盾と要塞メイド、主砲にヒメノとレンが居る。
回復・支援は後方支援専門のヒナと、役割分担を可能とするレン&ネオン。そしてパーティの頭脳担当のハヤテとマキナが、それぞれのパーティに居るのも大きい。
【七色の橋】もマキナの加入を受けて、二パーティ単位での活動が可能なところまで人材が充実してきたのだった。
そんな【七色の橋】は、[ディヤス]を巡り歩きながら思案している。当然、クエストについての思案だ。
「位置的に、クラーケンが居た……海岸から、近い位置だよね……?」
「そうでゴザルな。そうすると、海底都市との位置関係は……」
システム・ウィンドウを開き、マップを表示するジン。そこで可視化設定に変えると、ジンの右側に寄り添うヒメノが一緒になって画面を覗き込んだ。THE・密着である。忍者密着24時。
しかしそれがもう自然な事なのか、ジンは動じることなくヒメノに視線を向ける。
「ちょっと離れるでゴザルな?」
「ですね。[マリアナ]はこっちで、[ディヤス]はここ……少し、距離があります」
そこで、ネオンも意見を口にする。
「そもそも、汚染している原因を突き止めないといけないんだよね……」
「そうだね……この辺りでは、汚染する様な要素は見受けられないな。これは端から端まで歩き回って、現地人の話を聞きながら原因を突き止めないとダメかもしれない。時間が掛かりそうだね」
難しい顔をするネオンに、マキナも同意する。
そんな【七色の橋】の面々に、一人の女性が声を掛けた。
「あ、済みませーん! ちょっと道を尋ねたいんですけどー!」
彼女はフードで顔を隠しており、その容貌は解らない。あからさまに怪しい相手に、プレイヤー全員が警戒態勢になる。
「私、【オヴェール】! 一応、ソロのプレイヤーでして! ちょっと道に迷っちゃったんですけど、エリアボスの居る方向ってアッチで良いんですかね?」
そう言って彼女は、見当違いの方向を指差す。
そんなオヴェールを無視するのは容易いが、それでおかしなことを吹聴されては溜まったものではない。ただでさえ、最近は掲示板でアンチ【七色の橋】らしき者が散見されるのだ。後々、変装した自分達が【七色の橋】とバレないとも限らない。
そう判断したハヤテは、ヒイロに視線を送る。
こういった場面で、ヒイロは彼の判断を求める事が多い。それはハヤテがVRMMOプレイヤーとしての経験を多く積んでいる事を知っているからだ。
意思疎通は、視線だけで成功した。ジンを通じて知り合った彼等も、すっかり仲良しである。
ハヤテの意図を察したヒイロは、笑顔を意識して浮かべながら首を横に振る。
「いえ、エリアボスが居るのはこちらです。海岸沿いの街道を行くと、見えてきますよ。エリアボスに挑むなら、途中にある村で消費アイテムを揃えておくといいですね」
丁寧に応対するヒイロに、オヴェールはヘコヘコと頭を下げる。
「おぉ、これはご丁寧にありがとうございます! アドバイスまで頂けるとは、助かります!」
そんな女性に、ジンは笑顔を浮かべる。
「そんなに頭を下げなくても大丈夫ですよ、プレイヤー同士、助け合いでしょう?」
変装中なので、忍者ムーブは封印中。そんなジンの言葉にオヴェールは頭を上げ、ジンをまじまじと見る。
「助け合いですか、良いですね! 私も頑張って、困った人を助ける側にならないと!」
そうして彼女は、口元を緩めてもう一礼する。
しかし、話はこれで終わり……とはならなかった。
「うん、やっぱり良いね! じゃあ……アドバイスのお礼に、耳より情報をあげようかな?」
そう口にしたオヴェールは、先程までの明るい声ではなかった。
周りにプレイヤーは居ないが、声量を抑えて言葉を紡ぎ出す。
「東南の丘の上……[メルド丘]を目指すと良い事があるよ? ただし、川にはあまり近付かない方が良いかな。汚染された水で強化されたモンスターが、暴れまわっているからね」
汚染された水……その言葉に、ヒイロが目を見開く。
それはまるで、見計らっていたかのようなタイミング。オヴェールが道を尋ねて来たのもポーズであり、本題は今の耳より情報とやらだったのではないか? そう勘繰っても、無理はないだろう。
「……参考にさせて貰います」
そんなヒイロの言葉に、彼女は重々しい態度を崩す。
「あはは、そのくらいが丁度良いよ! 頭から信じ切って、判断を誤るのは愚の骨頂だからねぇ。流石はイベント上位常連、聞いていた通りだね!」
明確に【七色の橋】と口にしてはいないが、オヴェールは変装しているジン達が【七色の橋】と見抜いていたらしい。
「それじゃあ、健闘を祈るよ! あ、都市の兵士に一声かけておくと吉かも? 手間が省けるからね。それじゃあ、また! アドバイスありがとう!」
そう言い残すと、謎の女性・オヴェールは町の雑踏に紛れ込む様に去って行く。
「……何だったんだ、今のは?」
ヒイロの呟きに、ジン達も頷く事しか出来なかった。
……
ともあれ、ジン達はオヴェールが言っていた丘の上を調査する事を決定した。
何らかの罠の可能性はあるが、先日の集団PKの様な大規模なものでない限りは問題ない。
なにせ今はギルド【七色の橋】に所属するプレイヤーはフルメンバーであり、戦力的には中規模ギルド相手でも拮抗できると言える。
そして最速の回避盾・最強の物理攻撃役・最優の魔法職・最硬の盾職が居る。更に魔剣使いの自分に、正確無比な狙撃手・熟練の侍少女。
更にハヤテ・ミモリ・カノン・マキナという、VRMMOに精通したメンバーがいる。不安要素は無い、それがヒイロの決断を後押しする。
その結果……。
「……クエスト、完了かな?」
「原因の汚染水を流してた奴らは、領主に捕まって連行されたッスからね……」
【七色の橋】は滞り無く、海洋汚染の首謀者を突き止める事に成功していた。
この事件の犯人は薬品を研究している製薬業の現地人達で、製薬の際に発生する廃棄物を長年に渡り意図的に川に垂れ流していた。川沿いに民家や農家が無いのをいいことに、だ。
ちなみに製造していた薬も、この都市では違法な薬品として取り締まられている。
ジン達がそれを突き止めると犯人達は激しく抵抗し、武器を持って襲い掛かって来た。
彼等はそれなりのレベルだった為、恐らくは一般的なプレイヤーならば苦戦したのだろうが……相手が悪いにも程がある。ジン達のスペックならば、大した脅威ではなかった。犯人達はろくな抵抗も出来ず、あっさりと倒された。勿論、HPがゼロにならないように加減した状態での事である。
ちなみにオヴェールのアドバイス通り、ジン達は丘に向かう前に街の兵士に「海水が汚染されている為、丘の方へ原因調査に向かう」と声を掛けた。
それを聞き付けたのか、都市を守る兵士達が後から集団でやって来たのだった。恐らくプレイヤーがクエストバトルで苦戦した場合、彼等が応援として合流するというストーリーだったのだろう。
兵士達によって犯人達が連行されるのを見送っていると、一人の男性NPCがジン達に歩み寄って来た。その身に纏う衣服と、兵士が護衛として脇に控えている所から身分の高そうな感じだ。
「この不届き者達の犯行を白日の下に晒してくれた事に感謝する。私はこの都市の領主【エドワード・ヴァン・モリス】だ」
どうやら領主直々に、違法製薬事件の取り締まりに来たらしい。中々のアグレッシブさだ。
「君達はもしや、異邦人か?」
「えぇ、そうです」
ヒイロが頷くと、エドワードは一つ頷いて話を切り出す。
「やはりそうか。実は君達に、一つ頼みたい事があるのだが」
海洋汚染の首謀者を突き止めて、これでクエスト完了……では無かったらしい。
まだ続きがあったか……とヒイロが内心で苦笑していると、エドワードが依頼内容を切り出した。
「この海の中には[マリアナ]という、海人達が住む海底都市がある。そこの領主に、この手紙を渡して貰いたいのだ」
つまり、おつかいクエストだ。しかも、目的地が海底都市[マリアナ]。
もしかしたらこの展開は、クエストがまだダラダラと続くのではなく、トントン拍子に事が進んでいるのではないか? ジン達は顔を見合わせて、そんな印象を覚える。
「……解りました」
「ありがとう、助かるよ」
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海底都市[マリアナ]へ向かうならば、ポータル・オブジェクトを使用して転移するのが手っ取り早い。
産業都市[ディヤス]にもポータル・オブジェクトがあるので、それを利用してジン達は[マリアナ]へ転移。領主に手紙を届ける前に、全員で≪海人族の友好の証≫を購入した。
尚、≪海人族の友好の証≫はいくつかの種類があった。人魚のヒレ、半魚人の水かき、何故かある河童の皿……そして亀の甲羅リュックなのだが、どこかで見た気しかしない。スキンヘッドにサングラスなら、どこぞの仙人そっくりになるだろう。
ちなみに男性陣は水かき、女性陣は人魚のヒレを選んだ。しかし女性陣が手渡されたのは、足に付けるアンクレットであった。
首を傾げる【七色の橋】に対し、アイテムを販売するNPC【ティアラ】が微笑む。
「陸の上や、長の結界内では解らないでしょうね。街の外に出ると、本来の姿に変化するんですよ」
そんな説明に、ジン達も納得。人魚のヒレをしている状態で歩くのは、相当動き難そうだ。そう考えたら、この仕様は理に適っているのだろう。
とはいえ、恋人の人魚姿がお預けになった男子メンバー……そして、ネオンの人魚姿を期待したマキナは苦笑しているが。
それはさておき、クエストだ。ジン達はティアラに感謝の言葉を告げて、領主の館へと向かう。
「流石にこのまま、はいお終い……とはならないよな?」
ヒイロがそんな事を口にするが、ハヤテは真顔で考え込んでいる。普段は口数の多い彼であるから、余計に疑惑は深まる。
困惑気味のメンバーを見て、何かこの空気を払拭できないか……そう考えを巡らせていたマキナは、ある可能性について言及する。
「……もしかしたら、ですけど……あのオヴェールって人、一部のプレイヤーで噂になっている【情報屋】かも……」
マキナの言葉を耳にし、【七色の橋】のメンバー全員の視線がマキナに集まる。
ジン・ヒメノ・センヤ・ネオン・ヒビキの視線は「なに、そんなプレイヤーまでいるの?」という視線。
ヒイロ・レン・シオン・アイネ・ミモリからは、「詳しく説明してくれ」という視線。
カノンからは「あ、あの人が? そうなんですか?」という視線。
そしてハヤテから向けられたのは……。
「やっぱ、マキナさんもそう思う?」
同意を示す視線だった。
「本来なら、今回のクエストはあちこち探索して丘の上が怪しいと特定するまでに相当な時間が掛かるはず」
「そっスね。それにあいつらを捕まえた後、兵士に突き出す必要があったはずッス……そして、[マリアナ]の長宛の手紙を領主から受け取るのも」
「えぇ。それは本来、行ったり来たりして消化していくクエストだったはず」
そこで、ハヤテとマキナの言いたい事をヒイロも察した。
「……俺達がそれを一度の行程で終わらせられたのは……あの女性のアドバイスがあったからだな。そんな情報を知っているなら、彼女は情報屋なのではないか……と?」
「可能性の話ですけどね」
そんなマキナの言葉に、ハヤテも言葉を付け加える。
「情報屋プレイってのは、普通のプレイとは大きくかけ離れるんスよね」
「そうですね。自分でアイテムをゲットしたり、スキルをゲットしたりするのは二の次……その原動力は、ただただ知りたい・明らかにしたい・広めたいっていう知識欲」
何の為に、そんなプレイ方針を選択したのか? その理由は、本人にしか解らないだろう。
ただ一つ解っているのは、先程のオヴェール……彼女がもし本当に情報屋だとしたら、自分達の前に姿を現した理由は一つ。
「情報屋はここに居るぞ……そんなアピールをしに、わざわざ来たって事じゃないっすかね」
「自分の存在をアピールする……? 何故、そんな事をしたのかな」
アイネの疑問は最もだ。
しかし、マキナにはある心当たりがあった。
「例えば、【七色の橋】の情報を探ろうとしている……とか?」
既にギルドに馴染んだ者達は感覚が麻痺しているだろうが、最近加入したマキナにとってはそうじゃない。
「ウチのギルドは、傍から見たら謎だらけのはず。そんな存在を、知識欲の塊みたいな連中が放置するとは思えない。そこで恩を売っておいて、情報を得る為の取っ掛かりを掴もうとしたとか……」
本当に知識欲で動くのならば、【七色の橋】ほど格好の標的は居ない。知り得た情報をどうするかは、情報屋次第だろうが……。
「……もう一つ、考えられませんか?」
そんなハヤテとマキナの解説に、ヒビキが加わる。
「もう一つ? ヒビキ、他に何かあるの?」
センヤの質問に、ヒビキは苦い表情で頷いてみせる。
「情報屋だったら、それを売買して利益を得るはずですよね? だとしたら……」
ヒビキがそこで言葉を切ると、他の面々もある可能性に行きついた。
誰かが【七色の橋】の情報を買おうとしている、と。
次回投稿予定日:2021/9/18(幕間)