12-05 それぞれの第三エリアでした
南側第三エリア、海底都市[マリアナ]。そこを訪れていたヒビキ・センヤ・ミモリは、ヒナ・セツナ・カゲツという強力なPACと共に都市を練り歩いていた。
「海底都市っていうけど……本当に海の底にあるのねぇ」
ミモリが頭上を見上げると、その先にあるのは空の青ではなく……海中の青。大小様々な魚が泳ぎ、神秘的な空間となっている。
「夏休みに行った、海底水族館を思い出します」
「あ、私もそれ思った!」
ヒビキとセンヤの言葉に、同じことを考えていたミモリも頷く。
「ふむ? 異邦人の住む世界にもこの様な場所があると……」
「それは中々に興味深い……うむ、実に興味深いのう」
セツナとカゲツは、長い年月を生きた存在だ。そんな二人も、この海底都市に来るのは初めてだったらしい。だからこそ海底景色を興味深そうに見ていたのだが、現実世界にも似た様な景色を見られる場所があると聞き、本気で関心を示していた。実に高性能なAIだ。
「ですねー、私も行ってみたいです! あ、ちなみにこの都市は海人族の都市なんですよ」
ヒナはどうやら、この都市についての知識があるようだ。そんな彼女の言葉に、セツナとカゲツは視線を向ける。
「ふむ? 某は初めてここを訪れたのでな。良ければ教授願えるか、癒しの娘よ」
ヒナの説明によると、この海底都市は海人族が治めており、統治する長の力で結界が張られているのだという。そのお陰で、海中でありながら他種族も呼吸が出来るようになっているらしい。
尚、都市部以外は普通に海中である。プレイヤーも、人間族に属するPACも呼吸は出来ない。
「へぇ……でも、何でわざわざ結界を張るのかしら?」
「地上の作物を育てる為だそうです! 海人族は海中で呼吸が出来ますが、作物はそうではありませんからね」
ヒナに詳しい話を聞いたところ、陸の偵察をした海人族が人間族にもてなされた際、地上で採れる作物にいたく感激したのだという。その海人族が海底にその話を持ち帰ったところ、地上の作物への興味……そして、地上に住む他種族への興味を抱いたそうだ。
その結果、海人族の長達が話し合い……結界を張って、陸の作物を育てる事になった。
尚、人間族との交流は続いているらしいが……。
「その国はこっち側ではないですね」
こっち側とは、第二エリア側という意味だろう。つまり、第三エリアの先……第四エリア側に、海人族と交流のある国がある。
「……ヒナちゃん、物知りなのねぇ」
「うむ、わらわも知らぬ事を知っておるとはな。見直したぞ、小娘」
長い年月を生きたエクストラボスでも知らない情報を、何故ヒナが知っているか? それはヒナがある意味で、特殊なPACだからであった。
PACシステムの開放前に、実装された三人のPAC。その一人であるヒナは、いわば特別なNPC。
第一回イベント上位にランクインした三人のプレイヤーが任意に生み出した、特別な存在。
他のPACはおおよそレベル10~30の状態で契約し、そこから育てる形になる。しかし第一回イベントで先行して実装された三人は、レベル1から育てる必要があった。
先行して手に入ったものの、育成の手間が他のNPCよりかかるPAC。望み通りの姿に出来、他のプレイヤーに先んじて連れ歩ける……AWO運営の用意した報酬が、それだけの特典だろうか?
答えは否、三人は生まれたばかりの赤子ではない。むしろ、逆だ。
特別な形で生まれた彼女達は、一般的なNPCが知り得る知識を一通り備えている。つまり、大半のNPCの持つ情報を網羅しているのだ。
無論、NPCが未実装の要素について知りえるはずもない。故に新要素が追加されるたびに、彼女達はNPC専用の情報ファイルをダウンロードするのである。
もっとも彼女達が自発的にその情報を口にするかは、プレイヤーとの好感度によって左右される。逆に言うと、ギルドメンバーに仲間として愛されているヒナ……そしてリン・ロータスは、自発的に情報を【七色の橋】のメンバーに公開する事に他ならない。
AWO初の大規模イベントの報酬は、プレイヤー達が思っている以上の豪華報酬であった。
……
「ほう、あのイカ野郎を! そんならお前ら、≪海人族の友好の証≫を買ってみないかい? なぁに、俺の知り合いに話しを通してやるよ!」
ヒナに勧められるままに行動していると、ミモリ達はトントン拍子に≪友好の証≫取得まで漕ぎ着けた。ちなみに、ミモリ達を迎えた青年は海人族の【ギルバ】……見た目はまんま、人間と魚のハーフといった風体である。
さて、彼の口にした言葉に興味を示したミモリは、更に話を聞こうとする。
「≪友好の証≫っていうのは?」
「あぁ……俺達、海人族はよ、地上の種族とは仲良くしてぇって思ってんだ。地上の食いモンはうめぇしなぁ。しかし人間族にはな、俺等を嫌う奴らも居るんだよ。その最たるものが、[ディヤス]ってぇ街でな」
語り始めた海人族の青年。その内容を耳にしたミモリは、これがクエスト受注の流れなのだと察した。ヒビキとセンヤに視線を向けると、二人も真剣な面持ちで頷いてみせる。どうやら二人も、そういう流れなのだと察したらしい。
「ま、俺達を嫌っている奴らは、≪友好の証≫を身に着けたりしないんでな。逆にそいつを身に着けるのは、俺らに友好的なヤツっていう目印だな! どうだい、お前さん達なら俺のとっておきの知り合いを紹介するぜ?」
「それは素敵、是非お願いできますか?」
ミモリがそういうと、ギルバは破顔一笑して海人族の職人への紹介文を書き上げる。
「ほれ、こいつを見せりゃあ良いぜ」
そうして、ギルバは踵を返そうとする。しかし、その背にヒビキが声を掛けた。
「ギルバさん、[ディヤス]の事を口にした時に……辛そうな顔をしていました。何か、お困りなんですか?」
ヒビキの言葉にギルバは足を止め、そしてヒビキを観察するような視線を向ける。
「……兄ちゃん、鋭いね。しかしこれは、俺らの問題だしなぁ……」
すんなりと要望を口にしない……そんな気配を見せるギルバに、ヒビキはフッと微笑みかける。
「じゃあ、僕達が≪友好の証≫を身に着けて来たら、相談して貰えますか? あなたの親切に、恩返しがしたいんです」
そんなヒビキの言葉に、ギルバは苦笑して話始める。
「わーった、わーったよ。素直に白状するとすっか……ここから北東にある[ディヤス]は、人間族の産業都市でな。様々な技術を扱っているんだが、それは別にいいんだ。でもな……奴らは海に汚れた水を流すんだ。何度も話をしたが、全く改善される気配は無い」
そんなギルバの言葉に、ミモリは眉間に皺を寄せる。
「何それ、環境破壊じゃない……」
生産職である彼女も、他人事ではないと感じたのだろうか。
「なぁ、異邦人のアンタら……俺達に、力を貸しちゃくれねぇか? このままじゃあ、俺達はこの都市を捨てて移住しなきゃいけねぇんだ」
第三エリア、最初の都市である[マリアナ]。そこを捨てて移住されては、この先へ進む事に支障があるだろう。
だが、それ以上に……困っている様子のギルバを目の当たりにして、ゲーム的なメリット・デメリットを勘定するメンバーではなかった。
「良いわ、生産の何たるかを[ディヤス]とやらに叩き込んでやろうじゃない……」
「よーし、殴り込みだね!! いてこましてやるぞぉ!」
「ま、待った!! 気持ちはわかるけど、二人とも落ち着いて!! 今、皆にメッセージ送るから!!」
唯一のストッパー役たりえるのは、ミモリではなくヒビキだった。話題が生産関連だったのが原因なのだが……幸い、ヒビキが居た事でそのまま殴り込みは回避。
メッセージによる報告を受けたハヤテの提言を、ヒイロ・レンのギルマスコンビが承認。【七色の橋】全員で問題解決に臨む形で、話が付くのだった。
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「ふむ……こりゃあストーリー性のある展開ッスね」
「東と南だけじゃなくて、こっちもだけど……ね?」
西側第三エリア、迷宮都市[メイリス]。その地を探索するハヤテ・アイネ・カノン。同行するのは元エクストラボスのジョシュアだ。
四人はその道中で、思いもよらない邂逅をしていた。
「あら、もしかして何か耳より情報かしら?」
そんな事を口にするのは、ハヤテよりも年上……おおよそ、カノンと同年代くらいだろうと分かる女性の声だった。
そんな声の主に、別の女性が苦笑してストップをかける。
「よしておけ。彼は間違いなく切れ者だ、見返り無しに情報を明かす男ではないだろう。こちらから提示できる見返りなど、彼等は既に手にしていても不思議ではない」
ゆるゆるとした雰囲気の声の女性に対し、キリリと引き締まる感じの声を向ける女性。
大規模ギルドのギルドマスターと、サブマスター……AWOプレイヤーならば、声を聴いただけで委縮してしまいそうな存在である。
「そうッスねぇ……おたくらなら、現地に行けばすぐに手に入る情報ッスし。取引するほどのモノでもないッスよ」
そんなハヤテの言葉に、女性達の背後に控えた面々からの重圧が増す。しかし、その程度の重圧に怯むハヤテではない……ないのだが、ハヤテは自分の為ではなく同行する女性の為に釘を刺した。
「あんたら、睨むの止めてくれる? それとも【森羅万象】は、【七色の橋】と敵対するつもりとか?」
その言葉に、更に重圧が増す……のだが、それを止めるのは一人の少年だった。
「やめとけ。俺達は喧嘩をしようと思っている訳じゃないんだ……ハヤテ君、で良いか? うちのギルメンの態度が悪かった、済まない」
場を収めようとする、赤毛の少年……その名は、アーサー。そう、ハヤテ達が遭遇したのは【森羅万象】の中核メンバーだった。
ギルドマスター・シンラ、サブマスター・クロード、そして自他ともに認めるギルドのエース・アーサーである。ハルやアーサーガールズ、そしてオリガ・ラグナ・エレナは不在らしい。
その態度を目の当たりにして、ハヤテも矛を収める。
「こっちこそ、失礼したッス。そちらはもう、迷宮内の調査のクエストは?」
「あぁ、受注済みだ。この[メイリス]が管理している迷宮内で、謎の怪死が連続しているというやつだよな」
ジン達が[アクシア帝国]の偵察クエストを、ミモリ達が[ディヤス王国]の海水汚染問題クエストを受注した様に、ハヤテ達も迷宮調査のクエストを受注していたのだ。
「それと似た様なクエストが、他の第三エリアにもあるってだけの話ッスよ。現地に行けば余程の事が無い限り、普通に受注出来るはずッス。だから、わざわざ取引する程度の内容じゃないって話ッスね」
「そういう事か、合点がいった。説明に感謝するよ、ありがとう」
「いえいえ……アーサーさんには、ウチのネオンさんとマキナさんを援護して貰った借りがあるッスからね。遅くなったけど、仲間を助けてくれてありがとうございました」
「気にしないで良いさ。勝手に首を突っ込んだだけだし、大したことはしていない」
幹部メンバーらしく、冷静にハヤテと会話するアーサー。その姿を見て、シンラはニコニコとしている。また、アーサーの実姉であるクロードは真顔……に見えて、口元が緩みそうになっている。どうやら、弟の成長した姿に感心しているらしい。
そんなハヤテと【森羅万象】の面々の会話を、下がった場所で見ているアイネとカノン、そしてジョシュア。
「なぁ、嬢ちゃん。あいつらも異邦人なんだろ? もしかして、仲悪いのか?」
「可もなく、不可も無く……ですね。顔見知り程度の間柄です。もっとも、あの赤毛の青年はジンさんとフレンド登録を交わしていますけどね。ジンさんは、好敵手と思っているのではないでしょうか」
「へぇ、ジンの坊主と……そいつは興味深いな」
そう言ってニヤリと笑うジョシュアを見て、カノンは表情を引き攣らせる。本当にこの老人はAIなのだろうか? と思ってしまうくらい、人間と変わらない態度や表情をするのだ。
一方、そんなジョシュアを見て、【森羅万象】のギルドメンバーの一人……【クライ】が目を見開いた。
「あ、あのPAC……もしかして……」
そんなクライに、隣に立っていたメンバーの女性……【ヘレン】が声を掛ける。
「どうしたの、有り得ないモノでも見たような顔をしているわ」
小声で問い掛けて来たヘレンに、クライは顔を歪めながら言葉を紡ぎ出す。
「あの老人のPAC……見覚えがある。間違いない、アイツだ……エクストラクエストで戦った、ボスキャラのジジイ……!!」
その言葉に、ヘレンが視線を鋭いものにする。
「あまり見過ぎない方が良いわ、さっきの感じだと敵対する者に容赦はしないでしょうから……勘違いされるわよ」
「あ、あぁ……そうだな」
クライが視線を逸らしたのを見て、ヘレンは口元を笑みの形に歪める。
「ねぇ、クライ? 後でさっきの話、詳しく聞きたいわ」
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そして場所は変わり、ヒイロ・レン・シオン・ネオン・マキナとロータスが向かった北側第三エリア。雪原都市と名付けられた[アイザン]は、プレイヤーでごった返していた。
「防寒系のアイテムを買い占めようという算段でしょうね……それをプレイヤーに高値で売れば、儲けになりますし」
そう、雪原都市[アイザン]は極寒地帯。町エリア以外のフィールドエリアでは、防寒対策をしていないとHPが減少していくという要素が用意されているエリアだった。
その為、防寒対策アイテムは必須なのだが……。
白い溜息を吐くレンの言葉に、マキナが頷く。
「転売ヤープレイかもしれないですね。悪質な場合は、通報対象ですが……」
マキナが口ごもるのは、現時点では通報が困難だからである。今の彼等は商品を買っているだけであり、実際に転売行為を行っている現場を抑えないと通報しても意味が無いのだ。
それに彼等の目的は転売ではなく、第三エリア捜索を優位に進める為の必須アイテムを十分に用意しようと考えているだけかもしれない。
買い占め行為は嫌われる要素ではあるが、規制するのは難しい。何故ならば、このゲームはVR・MMO・RPGである。限られたリソースを奪い合う事を前提としたゲームであり、プレイヤー同士の競争がメインとなる舞台なのだ。
もっとも、悪質転売に関してはその限りではない。当然、販売金額が暴利となっていれば、取引掲示板のスクリーンショットを通報システムで運営に送れば、該当者に厳重注意メールが届く事になる。それでも悪質転売を止めなければ、次は軽犯罪者プレイヤーに落とされるのだ。
さて、プレイヤー達が買い集めているアイテムは、現状ではこの[アイザン]でか手に入らない≪火竜の溜息≫と呼ばれるアイテムである。見た目は透明な瓶の中に、赤い光を発する気体が封じ込められている。
このアイテムの効果は、赤い光が消失するまで極寒地帯でHPが減少しないという恩恵がある。この[アイザン]において、必須アイテムと言って良いだろう。
ちなみにそのお値段は、五千ゴールドコイン。高いか安いか、判断に困る値段である。
そんなプレイヤー達の群れを、離れて見守っているヒイロ達……アイテムを購入できるNPCショップは、満員御礼どころか人垣でNPCに声を掛けるどころではない。
「仕方がありません、MPポーションは【七色の橋】特製のものがありますし。このまま行きましょう」
そう言って歩き出すレンの隣に、同じく歩き出したヒイロが並ぶ。その後ろを、シオン・ネオン・マキナ・ロータスが付いていく。
「結局、レンに頼る事になるのか……悪いけど、頼んだよ」
「ふふっ、任せて下さい」
ヒイロに頼られたからか、嬉しそうなレン様。防寒アイテム抜きで探索するのは自殺行為……なのだが、抜け道があるのだ。
……
「では、【氷衣】」
レンが≪鳳雛扇≫を振ると、パーティメンバー全員の身体が水色の淡い光を纏う。これは雷のユニークスキル【神獣・麒麟】がレベル8に達した際に習得する【術式・衣】の効果だ。
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魔技【術式・衣Lv7】
説明:属性を選択し、パーティメンバー全員に選択した属性への耐性を付与する。
効果:消費MP5。詠唱破棄。持続時間360秒。
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この極寒地帯がプレイヤーに与えるダメージは、氷属性。それは既に、情報掲示板に情報が流れていた。逆に言えば、氷属性に耐性があればアイテム無しで行動が可能となるのだ。
そこで六分の間、パーティメンバーに属性への耐性を与える事が出来るレンの出番というわけであった。
もっともこの【術式・衣】の効果には、デメリットも存在する。それは付与された属性に打ち勝つ属性攻撃が、そのままプレイヤー自身の弱点となってしまう……受けるダメージが、倍加するというものだ。
氷属性の耐性を纏っている現在、炎属性の攻撃を受けると大ダメージになるのである。
「そんなわけだから、今回はレンは温存する形になる。シオンさんはレンの護衛、前衛は俺とマキナさんだ。ネオンさんは砲台として、レンやシオンさんと一緒に。ロータスは中衛で、前衛と後衛のサポートを」
テキパキと指示を出すヒイロに、異論を唱える者はいない。現在の布陣では、それが最高の振り分けである。
「……ふふっ」
そんな恋人の凛々しい姿を見せられて、レンはいつもよりご機嫌だ。その割合を具体的に表現するならば、五割り増し。
「あぁ、今日はいい天気ですね」
「……お嬢様、極寒地帯の猛吹雪をいい天気とは?」
珍しく、レン様は浮かれておいでだった。
そうしてフィールドに出た面々の前に、第一村人……ではなく、極寒地帯最初のモンスターが姿を現す。
「あれが、情報掲示板に遭った【ブリザードベアー】か……」
青みがかった、白い毛並みの巨熊。鋭い牙と爪を見れば、難敵であると窺い知れる。
凍結する様にご注目! という電子音声が聞こえてきそうなのは、何故だろうか。分からない人は、プ□グライズキーでググッてみよう。
既に下調べをしていたマキナが、メンバーに注意を促す。
「あの巨体で分かる通り、パワータイプ。しかもスーパーアーマー持ちで、弱点の炎属性攻撃以外では攻撃が中断されない。ネオンさん、火属性で動きを止める事を優先してくれ」
「よし、マキナさんと俺で引き付ける! 行くぞ!」
駆け出したヒイロとマキナを見たフリージンg……ブリザードベアーは、一鳴きするとその太い足を踏み出した。二足歩行で近付いてくるせいか、巨体が際立っている。
しかし、その程度で恐れを抱く二人ではない。
「【一閃】!!」
マキナが両手に携えるのは、カノンによって作られた短槍だ。その穂先を刀剣の製法で製作されたお陰で、【刀剣の心得】を習得する事が出来た。
そんなマキナの先制攻撃も、ブリザードベアーは応えた様子が無く攻撃を繰り出そうとする。
「【ファイヤーボール】!!」
そこへ飛来する、ネオンの火球。それが着弾すると、ブリザードベアーは動きを止めてネオンを睨んだ。当然、後衛の方がヘイト値を稼ぎやすいせいだ。
そうはさせじと、ヒイロが両手の刀を振り被る。
「余所見をするな!! 【デュアルスラッシュ】!!」
攻撃阻止役のネオンの詠唱と、タイミングを合わせる必要がある。そうすると技後硬直の長い、高威力の武技は使えない。ならば、手数で押すのが一番だ。
ヒイロとマキナの連続攻撃で、ブリザードベアーのヘイトは再び前衛へ。今、標的にされているのはヒイロだ。
唸り声を上げながら振り下ろされた、前足。それに合わせて、ヒイロは得意のシステム外スキルを放つ。
「【一閃】!!」
正確無比な【一閃】で、見事に【スキル相殺】が発動。ブリザードベアーの動きが止まった。
「【アクセルドライブ】!!」
そのチャンスを逃すことなく、ブリザードベアーの背中に向けて放ったマキナの【アクセルドライブ】。短槍の奥義が、ブリザードベアーのHPを見事狩り尽くした。
「行けそうですね」
拳を突き出したヒイロに、マキナは笑みを浮かべて自分の拳を突き出す。コツン、と軽く拳を突き合わせると、マキナがヒイロに躊躇いがちに気になっていた事を提案する。
「ヒイロさん、俺に敬語は要らないですよ。名前も、呼び捨てで大丈夫です」
――多分、ヒイロさんは高校生だろうし……年上に敬語を使わせるのは、やっぱり恐縮しちゃうしね。
アバターは二十代前半くらいだが、実際は中学三年生のマキナだ。年上だろうヒイロに敬語を使わせることに、居心地の悪さを感じていたのである。
そんなマキナの提案に、ヒイロは目を軽く見開き……そして、フッと微笑む。
「了解。じゃあ……マキナ。君も、敬語や敬称無しで良いからね」
ヒイロの言葉にありがたさを覚えつつ……自分にそれは難しいな、とマキナは苦笑してしまった。その表情から、彼の考えを見抜いたヒイロはそれ以上は言わない方が良いと判断。
それならば、先へ進むべきだろう。少しずつ、慣れて行けばいい。焦る必要は無いのだから。ヒイロはそう判断して、マキナの肩を叩く。
「さぁ、マキナ。レン達の所へ戻って……探索を続けようか」
「……了解!」
次回投稿予定日:2021/9/13(幕間)