短編 参謀はつらいよ
アナザーワールド・オンライン……多くのプレイヤーを擁する人気VRMMORPGには、いくつものギルドが結成されている。
その中でも特に大きいギルドとされているのが、【聖光の騎士団】と【森羅万象】だ。
その片方、【聖光の騎士団】を率いるギルドマスターとサブマスター……そして、その脇を固める幹部メンバー。その中でも、特に多くのメンバーから信頼を寄せられている青年が居る。
彼の名はライデン、【聖光の騎士団】の参謀である。
――次で最後の第二エリアボスか……中々、良いペースなんじゃないかな。
思い起こせば今の【聖光】は、これまでになく円滑に運営されている。DKC時代含め、過去最高の雰囲気だろう。
――ギルやアークさんも良い方向に変わったし、シルフィさんやアリステラさんも率先してメンバーの面倒を見てくれるし……ベイルさんやヴェインは、僕のスタンスを尊重してくれるしね。それに……。
そんな事を考えていると、ライデンを後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「ライデンさん、お疲れ様です!」
可愛らしい、少女らしさを感じさせる声。弾んだ調子のその声に、ライデンは柔らかな笑みを浮かべて振り返る。
「やぁ、ルー。お疲れ様」
――こんな可愛い子と、親密になれたし……これまでは本当、気苦労ばっかりだったからなぁ……。
……
思い起こせば、DKC時代は中々に大変だった。
力こそ全て、そんなスタンスを掲げてトッププレイヤーとして邁進するアーク。彼は強い者のみが最前線に立ち、弱い者は置いて行かれる。それが当然であり、それがVRMMORPG……ゲームのルール。そういうスタンスの男だった。
そんなアークに加え……意外にも、ゲームに関しては抜群のセンスを発揮した現実の友人。鳴洲人志ことギルバートだ。我が道を往くタイプの二人は、グイグイと最前線に躍り出ては大暴れしていた。
そんな二人に付いて行く為に、ライデンは死に物狂いであった。自分に出来る事を試行錯誤し、必死で喰らい付いたのだ。
そうして確立したのが、今の参謀としての立ち位置だ。戦略面ではアークやギルバート……そしてそんじょそこらのプレイヤーよりも、上手く立ち回る事が出来た。それを自分の持ち味として、特性として昇華したのであった。
そうして徐々に、最前線で名を馳せる様になった三人。彼等はその名声に惹かれて集まった者達を率いて、後に大ギルドと呼ばれる【聖光の騎士団】を結成したのだ。
しかし、ここで問題があった。アークもギルバートも、ギルド運営に関しては全く興味を示さなかったのだ。自然と、その役回りはライデンがやる羽目になった。ちくしょう。
社会人や大学生も含まれた、腕っぷしに自信のある猛者達。そんな彼等に、ライデンが何かを言っても当然の様に聞き入れられる事は無かった。
――僕の采配を無視して突っ込んでいった奴らが、今では従順な部下だもんね……。
それは、DKCにおいてギルドVSギルドの大規模イベントがあった時の事だ。自分の力に酔い、攻略最前線に立つ自分達は最強だ……そんな過信で暴走したメンバーが、敵ギルドの策略に引っ掛かり全滅しかけたのだ。
そこでライデンは、自滅した荒くれ者どもに自分の”力”を示した。彼の真価は、速攻性に富んだ魔法技術だけではない。絶望的な状況から、策を駆使して巻き返し……そして、勝利を収めてみせたのだ。
それ以降、ライデンの指示を無視する者はいなくなった。
――ルーがメンバーに入ったのも、その辺りだったなぁ。そういや、その頃は人志が……。
問1……高校受験を間近に控えていながらも、勉強についていけなかった人志が、無事に日野市高校に入学できた理由を答えよ。
答え……ライデンこと明人さんのお陰です。
ゲームにおいても、私生活においてもギルバートはライデンに足を寝て向けてはいけない。それくらい、彼におんぶにだっこであった。
放課後、家に帰ったら勉強しない事が解っていたので、明人は人志の首根っこを引っ張って図書室で勉強を見ていたのである。なんという面倒見の良さ。
……
「ライデンさん? 大丈夫ですか、お疲れですか?」
過去に思いを馳せているライデンに、ルーが心配そうに声を掛ける。どうやら、ちょっとトリップしていたらしい。
「大丈夫、ごめんね。ちょっと昔の事を思い出して、さ」
その苦笑いから、ルーはある程度の事情を察した。今の【聖光の騎士団】があるのは、このライデンが尽力したから。それは誰もが認める所なのだ。
「何かあったら相談して下さいね! 私、頑張ります!」
「ありがとう、ルー。心強いな」
並んで歩き出す二人を見て、【聖光の騎士団】メンバーは口元を緩めた。
――あー、やっとルーちゃんの気持ちに気付いたのか……。
どうやらルーの想いは、メンバー各位に知れ渡っていた模様である。
次回投稿予定日:2021/8/24