短編 最強プレイヤーの今
VR・MMO・RPG【アナザーワールド・オンライン】。このゲームにおいて、トッププレイヤーとして名を馳せる者達。
その中でも、特に有名なプレイヤーの一人……その名は、アーク。
誰よりも早くレベル60……現在のレベルキャップに到達した彼は、新たに入手したマント≪聖衣の外套≫を検証し終えた。
「アーク、まだやってたのかい?」
彼がマントを羽織ったところで、一人の女性が姿を見せた。
「シルフィ。君こそ、こんな遅くまで残っていて大丈夫なのか?」
既に夜中の二時を回っており、他の幹部メンバーはログアウト済みだ。故に、残っているのは二人だけである。
最も、幹部以外のプレイヤー三割は残っている。
「明日は、大学の講義が休講でね。お陰でのんびりしてられる」
そう言って笑うシルフィに、アークは口を噤んでしまう。
――大学生……だったのか。
彼はてっきり、シルフィは社会人だと思っていた。見た目も大人っぽいし、ギルドの運営についてもテキパキとこなしているのだ。
見るからに、仕事が出来る大人の女性……という印象だった。故に、アークは勘違いしていたのだった。
そこで、アークはふと気付く。
「シルフィ、あまり現実の情報を口にするのは避けた方が無難だ。君は女性だしな」
そんなアークの忠告に、シルフィは目を丸くする。
――アークが、そんな忠告をするだなんて。意外っちゃ意外。
彼はあまり、そういった事に頓着していない……正確に言うと、他人のそういった事にだ。自分に火の粉が掛からなければ、それで良いという印象を与えていた。
変化著しい、【聖光の騎士団】のギルドマスター。しかし、そこまでの変化は予想外。
しかし、悪い事ではない。むしろ、好感を強く抱く。なにせ、自分の身を案じてくれたのだから。
「あんがと、アーク。気を付けるよ」
「あぁ……」
短く返事をして、アークは席を立つ。ログアウトするだけならば、この場で済ませてしまえば良い。彼の事だから、検証を済ませた新装備を実戦で試すつもりだろう。
部屋を出る前に、アークは歩みを止める。
「シルフィ……俺も、君と同じ大学生だ」
そう言い残して、アークは今度こそ部屋を出て行った。
「……んんっ!?」
アークを見送ったシルフィは、何を言われたのか解らず硬直し……そして、十秒程経ってようやく再起動を果たした。
「何で、アークは……え、え……何で!?」
……
フィールドに出たアークは、先程の自分の言葉について困惑していた。
――何故俺は、あんな事を……?
これまで自分の現実な情報を、誰かに明かした事はなかった。自分から進んでなど、論外だ。
意図的にしたのではなく、本能的な行動だった。
そんな自分の行動に、アークは頭を悩ませ……そして、最もそれらしい理由付けに至る。
――彼女の情報を聞いてしまったからだな。恐らく、そうだろう。
シルフィが、大学生だという情報。そんな個人情報を得てしまったのだから、自分も教えなければ不公平だ。だから、教えた。
――まぁ、彼女ならば悪用したりはしないだろうし。
ここにもし、ギルバートあたりが居たらこう言った事だろう。
んなわけあるか!! と。
次回投稿予定日:2021/8/16