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短編 とある二人の進展

 十二月を間近に控えた、とある寒い日。国内トップの来園者数を誇る有名なテーマパークに、 一組のカップル……未満の男女が、訪れた。


「学生時代以来かしら、ここ来るの」

「あぁ、大学の時にも一緒に来たよな」

 その時は、同じゼミの仲間達と一緒だった。その中には、普段行動を共にしている青年も居た。


「それじゃあ……デートと行きますか」

「……っ!! そ、そうね!!」

 普段はそんな、思わせ振りな事を言わない青年。だからこそ、彼がこの二人きりのお出掛けをデートと明言する事に意味を感じさせる。

 それが解っているからこそ、彼女は今日こそはと気合いを入れて来たのだ。


――今日こそ、左利に……!!

――いい加減、日和るのはやめだ。輝乃に、今日こそは……!!


 飯田左利と、入間輝乃。またの名を、ケインとイリス。


――告白する!!


 今日こそはこの片思いに……実に両片思いなのだが、この関係に決着を付けようと奮起していた。


************************************************************


「近頃はゲームの中で遊ぶのがメインで、こうして出掛けるのって減ったよな」

「そうねぇ……ゲームで仲良くなったメンツと遊ぶの、楽しいし」

 その筆頭はやはり、先日も行動を共にした同盟チーム。ギルド【桃園の誓い】のメンバー……そして【七色の橋】と【魔弾の射手】、ユージンやリリィ・クベラ達だ。

 彼等と異世界を冒険し、モンスターと戦う日々。新たな発見に満ち溢れた、胸躍る体験である。


「それに、ゲームでしか出来ない事も多いしねー」

「確かにな。第三エリアには驚いた」

 しかし、それはそれ。これはこれだ。

「でも……たまにはこうして、のんびりするのも悪くないけどな」

「同感。それに……ふ、二人きりで出掛けるのなんて、いつ振りかしらねー?」

 二人きり……と口にするところで、多少どもってしまう輝乃。左利と二人きりでの外出を、デートとして認識している為だろう。


「大体、十也が一緒だからなぁ……もう二、三年振りとかになるのかな」

 輝乃のイトコである、入間十也。彼が左利や輝乃と行動を共にすることが多い理由……それは輝乃が左利と二人きりだと緊張してしまうので、一緒に来いと引っ張って来ているからだ。十也も中々に苦労している。


 そんな関係であったから、三人で居る事に慣れ切っていた。しかし、それより先を望んでいるのは左利も輝乃も同様だ。だからこそ、今日こうして二人で出掛けているのである。

「ね、どれから行く?」

「輝乃、絶叫苦手だろ。あの辺は?」

「さっすが、左利は紳士だねぇ。これが十也のヤツなら、日頃の恨みを晴らさんとばかりに絶叫系に走るのに」

「そ、そんな事は……あったり、なかったり?」

 否定できない……それは左利も感じている事だ。それでも一緒に遊んだりするのだから、イトコ仲は良いのだろうが。


「絶対あるって! まぁ、それは置いといて……うん、行こう行こう!」

 はしゃいだフリをして、左利の手を取る輝乃。そのまま彼の前に出て、引っ張る様にして歩き始める。

 そのままご機嫌な様子で歩く輝乃に、左利は苦笑しながら大人しく付いて行くのだが……実は彼女、内心で物凄い達成感を感じていらっしゃった。


――よ、よしっ!! まずは手を繋いだ! 偉いぞ私! 頑張れ私!


 乙女かな? 乙女でした。


************************************************************


 互いに告白の切っ掛けを探りながらも、デートは続く。昼時が近付く為、二人は込み合う前に食事を取る事にした。

「それにしても、ウチも新メンバー増員した方が良いのかねぇ? ほら、【七色】はもう十三人でしょ?」

PACパックを除いて、ね。彼等を含めたら、もう二十二人か……」

 ギルドメンバーが、三十人から五十人で中規模ギルド……五十人以上で大規模ギルドと呼ばれる事が多い。PACパックを含めれば、中規模ギルド一歩手前なのが【七色の橋】である。

 三十人未満のギルドは、一般ギルドとして重視されてはいない。


 とはいえ、【七色の橋】や【桃園の誓い】……そして【魔弾の射手】に関しては、その限りではない。


 例えば【魔弾の射手】は、全員が銃で武装した異色のギルドだ。更に戦闘経験に関しては、他のギルドよりも図抜けている。その様子は、第二回イベントを見るに明らかである。

 難点は一部のメンバーがレベル・ステータス不足である点だが……そこを補う事が出来れば、実に凶悪な実力を伴ったギルドと化すのは間違いないだろう。


 一方、【桃園の誓い】。メンバーはプレイヤー八人にPACパック二人という規模だ。

 しかしその人数だけで判断すれば、手痛いしっぺ返しを食らう事になる。なにせ、プレイヤーは全員が最前線クラスの実力者だ。PACパックであるマークとファーファも、元々は冒険者という戦闘に長けたNPC。バリッバリの武闘派である。


 そして、【七色の橋】。このギルドに関しては、言葉も出ない。第一回イベントで猛威を振るい、第二回イベントで優勝を飾り、第三回イベントでは軒並み上位入賞。なにこれ。


 それだけでも凄まじい来歴なのだが、中身がまた問題だ。メンバーの内、四人はステータス系ユニークスキル……そして、三人は武装・武技・魔力に特化したユニークスキル保有者ホルダー


 契約したPACパックは、イベント上位入賞の報酬であるオリジナルPACパック三名……更に、まさかのエクストラボス三名。


 加入間もない三人も、一般人かと思いきやそうでもない。粗はあるが、ガンガン切り込んでいく青髪の元気少女……穏やかな見た目に反して鋭い判断をする、ゆるふわ桃髪少女。そして見た目の愛らしさから美少女にしか見えない割に……格闘戦でダメージディーラーをこなす、黒髪の美少年。

 その上トップクラスの生産職人が二人に、上級者のソロプレイヤーが新規加入。


 三十人未満? 一人で三十人を蹴散らす実力を備えた、彼等が小規模? 一般? 逸般いっぱんギルドの間違いだろう。

 元々の実力もさることながら、急速に成長を続けていく【七色の橋】。敵対すれば、これ以上の脅威は無いだろう。


 そんな彼等に対し、【桃園の誓い】は、PACパックを含めてまだ十人。この人数は、ギルドメンバー限定の一パーティの上限だ。となれば、メンバー増員を……と考えても不自然ではあるまい。

 しかし……今はそうもいかないのだ。


「でも、今は不穏な動きが目立っているからね。先日の集団PKとかもそうだ」

 偽物騒動を起点に発生した、集団PK。アンチと思われる掲示板への書き込み。悪意を持った人物が、自分達や【七色の橋】に目を向けているのは明らかだ。この状況で、メンバー募集をしたらどうなるか? ろくでもない未来が待っているのは、想像するに容易い。

「そうよねぇ……全く、私らが何をしたっていうのよ」

「めっちゃ目立った」

「それな」


「信頼出来る相手じゃないと、ギルドメンバーには加えられない……それこそユージンさんやリリィさん、クベラさんくらいじゃないとな」

 とはいえ、彼等はギルドに加入しないというスタンスの面々だ。望みは薄い。

「【七色】との同盟が無かったら、苦戦してたわねぇ」

「そうだな」


 左利……そして輝乃は、【七色の橋】の面々について考える。

 彼等との付き合いも長くなり、そして深まっている。互いのリアル事情も、だいぶ教え合っている気がする。

「もしオフ会とか企画したら……来てくれるかな?」

「……俺も今、それを考えてた」

 ただ集まって、一緒に楽しい時間を過ごせれば。左利と輝乃は、そう思う。


……


 夕暮れ時になり、二人は園内を歩いていた。互いに告白は出来ていない。というのも……。


「「あのさ……」」

 切り出すタイミングが、完全に一致。ある意味では相性がいいのかもしれないが……。

 そして、こうなる。

「さ、左利から良いよ?」

「いや、輝乃こそ……」

「「……」」

 このやりとり、今日だけで二十回以上である。


 また、有耶無耶になりそうな空気が流れ始める二人。しかし、左利はそこで輝乃のある点に気付く。

 普段はそこまで化粧っ気のない彼女だが、今日はいつもよりもメイクを施している。更に注意深く彼女を見ると、普段は付けないネックレス等も身に着けていた。


 そんな彼女は、一言で言うと。

「……綺麗だな」

 左利は無意識に、思った事を口に出していた。

「あぇえっ!?」

 ジッと見られて、そんな事を言われた輝乃。奇声を上げて、顔を逸らしてしまう。


 左利はそこで、自分が先の感想を口に出していたのだと気付く。しかし、彼までテンパってしまえばまた有耶無耶になる。


――其の徐かなること林の如く……!! よし!!


 何故、最終武技を発動するキーワードなのか……とはいえ、気合いは入ったらしい。


「……もっと早く言うべきだったな。本当に綺麗だよ」

「そ、そそ……そぉ? へ、へへっ……」

 左利の褒め言葉に、輝乃は照れ笑いをしてみせる。本当に嬉しそうであり、彼女が今日のデートを大切なものと思ってくれていたのだと伝わって来た。


「輝乃。もう一つ、本当はもっと早く言うべきだった事があるんだ……俺と付き合って欲しい」

「うんうん、そうだね……えぇぇっ!?」

 照れ笑いして生返事で返しかける輝乃だったが、その言葉を聞き流しはしなかった。


「あ、あたっ……!! あたし、はっ!! そのっ……!!」

 長年の悲願が、叶う。そんなタイミングで、輝乃は動揺し慌ててしまう。

 しかしそんな輝乃の事を、長年側で見ていた左利だ。彼女がこういう重大な何かを前にすると、テンパりやすいのは百も承知。


「まぁ、一度落ち着こう。返事は急がないから、心配しないでくれ」

 そう言うと、左利は優しく輝乃の手を取った。

「喉乾いてないか? 何か飲もう」

 輝乃が落ち着けるように、気配りをしてみせる左利。そんな彼の優しさに、輝乃は頷いて応える事しか出来ない。


――情けねぇ、この私とした事が……っ!! でも、でも……。


 左利が自分を大切にしてくれる事が、凄く嬉しい。だから、握られた手を……ギュッと握り返す。

「……左利!」

「ん?」


「浮気したらブチ転がすけど、良いよね!?」

「勿論」

「大事にしないと、拗ねてやるからね!?」

「お互いにだぞ?」

「結婚を前提と考えてよろしいか!?」

「望むところだ」


 左利が返してくれる言葉の全てが、輝乃にとって待ち望んでいたもの。

 輝乃は立ち止まり、左利の手を引っ張った。突然の事で、左利はたたらを踏む。振り返って輝乃に視線を向けると、彼女は瞳を潤ませながら顔を近付けている真っ最中だった。


――昔から、負けず嫌いだもんなぁ……。


 やられたらやり返す。そんな輝乃だから、左利に先に告白されて負けてられるか! と考えたのだろう。

 しかしそんな所も好きなので、左利としては一向に構わない。


 唇と唇が重なり、二人の距離がゼロになる。長い間続いて来た、仲の良い友達関係に終止符が打たれる。


「……私も、左利が好きだよ」

「うん……改めてよろしく、輝乃」

 ようやく思いが通じ合った二人は、抱き締め合った。


 二人が、周囲の来園者に見られている事に気付くのは……もう少し、後になりそうである。

次回投稿予定日:2021/8/14

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― 新着の感想 ―
昔男の親友と二人で遊園地行った時休憩しようとベンチ座った瞬間に告白始まった時は殴りそうになった(親友と自分の失恋の思い出をかき消すために行ってた)
[良い点] カップル成立を見せられた周りの人達…家族連れやカップルはおめでとう〜と拍手したり、二人の告白の言葉に顔を赤くしていたりとするでしょうが、恋人が居ない人達はこのリア充が!…となっているでしょ…
[一言] オーケーオーケー、お兄さんたち、ちょっとこっちにきてこの紙にサインしてくれない?大丈夫大丈夫!!ただの婚姻届だから!さあ、こっちに来て早くサインを、、、ぐっへっへっへ、、、、
2021/08/13 19:35 通りすがりのオタク見習い
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