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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十一章 関係が深まりました
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11-23 遭遇しました

 北側の第二エリアにある[ランドル鉱山]……この地に集まるプレイヤーは、その大半がエリアボス討伐を目指している。

 とはいえ、まだ第三エリアに到達した者は居なかった。

 第二エリア到達にも、それなりに時間が掛ったのだ。その状況で第三エリアを守るエリアボスを倒すのは、容易ではない。

 故に多くのプレイヤーは後の本番に備え、エリアボスの実力を測る為にデスペナルティを覚悟で様子を見に来ているのだった。


 西側では【聖光の騎士団】が第三エリアに到達し、その情報を公開した。それに負けじと、東側第三エリアに到達したのは【森羅万象】だ。こちらも第三エリアについて、情報を公開している。

 そして、南側の第三エリア到達一番乗りは、【遥かなる旅路】だった。その情報が知れ渡ったのは、ジン達がギルドホームを出発した直後である。


 勿論、公開された情報は当たり障りのないものに過ぎない。クエストや効率の良い狩場の情報等は、然程明かされていないのが現状だ。

 自分の利益となる情報を伏せるのは、VRMMOというゲームの仕様を考えると不思議でも何でもない。そもそもプレイヤーに課せられる義務は、利用規約の遵守。それ以外は、マナーを守るという暗黙の了解の上に成り立っているのだ。


 では、何故北側はまだ誰も第三エリアに到達していないのか? それは単純に、エリアボスが倒せていないから。やはり第三エリアへの道に立ちはだかるボスは、相当な強さという事……と、ジン達は推測した。


 そんな強力なボスが待ち受ける[ランドル鉱山]の入口で、プレイヤー達が動揺の声を上げていた。

「はぁ!? な、何だあのメンツは!?」

「……や、やべぇ」

 そんな反応をするのも、無理はないだろう……彼らの視線の先には、とある一団が居るのだから。


「いやはや、やはり目立ったね」

 そう言って苦笑するのは、紅蓮を思わせるチャイナ風衣装と鎧を身に纏う青年。

「予想はしていましたし、問題はありませんよ」

「まぁ、そうだね」

 そう言うのは、青銀の髪を風に靡かせる少女だ。それに、藍色の具足で身を固めた少年が応じた。

「んー……皆のお陰か、いつもより視線が柔らかい気がするわねー」

 ツーサイドアップにした黒髪を揺らす、黒衣の女性は普段との違いについて言及する。


「な、【七色】と【桃園】はまだ解るが……更に、【魔弾】!?」

「マジかよ……!!」

「リリィちゃんも居る……!?」

「一体何が始まるんです!?」

「第三次せk……いや、普通に考えたらエリアボス攻略だろうよ」

 豪華なレイドパーティに、鉱山に向かうプレイヤー達は思わず二度見してしまった。それくらい、インパクトがある光景だったのだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

【七色の橋】

 ヒイロ・レン・ジン・ヒメノ・ハヤテ・アイネ・シオン・セツナ・ジョシュア・カゲツ


【桃園の誓い】

 ケイン・イリス・ゼクス・ダイス・フレイヤ・ゲイル・チナリ・ドラグ・マーク・ファーファ


【魔弾の射手】

 ジェミー・レーナ・ミリア・ルナ・シャイン・ディーゴ・ビィト・クラウド・メイリア


【混成チーム】

 ヒビキ・センヤ・ネオン・ミモリ・カノン・リリィ・マキナ・クベラ

―――――――――――――――――――――――――――――――


 ギルドメンバーで統一されていないパーティの上限は、最大で八人。ギルドメンバーで統一された場合は、十人となる。つまりジン達が可能な編成は、こうなってしまうのだ。


 ちなみにプレイヤーがレイドパーティ等を組む際、裏技を使えば最大上限である十人に合わせられる。その方法とは、野良プレイヤーを一時的にギルドに加入させる……というものだ。


 ギルド【魔弾の射手】は九人、混成チームが八人。前述の手法を使えば、三人までメンバーを追加出来る。今回の場合、【七色の橋】のPAC(パック)三人となるだろう。

 この場合はフリーランス組を仮で【七色の橋】に二人、【魔弾の射手】に一人加入させる形だろう。それならば、最大人数の四十人によるレイドパーティが成立する。


 しかしその方法を認識しつつも、この同盟チームは誰一人として提案はしなかった。理由はたった一つ……その行為は、ギルドというものを軽視している手段だと感じているからである。


 今回、同盟を組んだ三つのギルド……そして、三人のソロプレイヤー。彼等は、ギルドとは大切なものだと認識している。自分のギルドに愛着を、同盟を組むギルドに敬意を抱いているのだ。そんなに簡単に人が出たり、入ったりして良い集まりではない。

 それがこのレイドパーティの総意……ただ一人、ドラグを除いてではあるが。


――本来なら、四十人で挑んだ方が良いんだが……な。


 彼が【桃園の誓い】に所属しているのは、スパイ行為の為。故に、ギルドに愛着を抱いている訳では無いし、汚い手を使う事に躊躇は無い。

 単に裏技を提案しなかったのは、自分がそういう行為を肯定していると気付かれない為だ。彼は猫を被って、気さくな好青年を演じている。そのイメージに反する行為は、避ける方向性。それだけの事だった。


「あっ……この前の[クレイドル大草原]の子だ」

「あぁ、あの時の……良かった、元気そうだな」

「一緒に居たイケメン兄さんも居るな。ギルメンなのかな?」

 先日の偽物騒動で、顔が知られてしまったネオンとマキナ。しかし、二人に対しての視線は概ね好意的だ。

 やはりあの騒動の中で、ジンとヒメノ……そして【森羅万象】のアーサーとハルが、二人を擁護したお陰だろう。その結果、二人は良くも悪くも【七色の橋】のメンバー……または、関係者として認識されている。


……


 そんなジン達の目的地は、当然ながらエリアボスの座すボス部屋。揃って鉱山に入ると、既に把握しているルートで進んで行く。

「例の光が道標の様でゴザルな」

 ジンの感想に、レーナやゼクスが口元を緩めて同意する。

「あはは、そうだね」

「日中限定だけどな」

 ボス戦前とは思えない、弛緩した空気。しかし緊張でガチガチになるより、随分マシだろう。


 非戦闘職のミモリやカノン……そしてクベラも、リラックスした様子で雑談に興じている。

「ポーチの中なら、重量が無くなる……なるほどなぁ。それで大量に、投擲用の装備を持っていけるんやな?」

「えぇ、私達は近接戦は難しいですからね」

「ハ、ハンマーも、持って……行けます、よ?」

 ミモリとカノンは、ポーチの中に大量の投擲アイテムを収納している。システム・ウィンドウを操作して取り出す必要があるものの、身軽に動けるという利点もあるのだ。


 それを実行するプレイヤーが少ないのは、システム・ウィンドウを操作が問題だからである。操作中は当然、致命的な隙になる。そうなると、モンスターや相手プレイヤーの接近を許してしまうのだ。

 ミモリやカノンがそれを実行できるのは、頼りになる仲間に守られているからだ。


「あのー、ワイも真似させてもろうてええかな? それなら、少しは戦力になれるかもしれへんし」

「勿論、大丈夫です」

「助かるわ、おおきになぁ!」

 律義に許可を取るクベラに、ミモリもカノンも随分と馴染んだ。まぁ、ギルドに勧誘するくらいなのだからそれも当然だろう。


「狼のモンスターなんですよね、エリアボス」

「やっぱり、動きが速いんでしょうか」

 センヤとネオンの言葉に、マキナが首肯する。今回、ソロプレイヤーの彼は【七色の橋】のパーティに編成されるのだ。

「多分、その可能性は高いと思う。動きをよく観察して、攻撃するタイミングを把握しないといけないな」

「成程、攻撃行動が終わって足を止める瞬間とかですね?」

 察しの良いヒビキの回答に、マキナは満足そうに頷いてみせた。


 ボスに限らず、モンスターの行動はAIによって行われている。故に、行動や挙動はある程度一定になるのだ。

 勿論、PACパックの様な超高性能AIも存在するので、絶対とは言えないが。


……


 モンスターとの戦闘は、必要最低限で進んでいく。既にいくつかのパーティがここを通り、ボス部屋へ向かったのだろう……ポップするモンスターの数は、少ない。

 そして、その少ないモンスターはジン達を発見すると同時に……。

「【スネイクウィップ】!!」

 蛇腹剣モードの≪大蛇丸≫によって、そのHPを一瞬で溶かされるのだ。STR極振りお姫様、ヒメノ一人で事足りる。


「弾が節約できて助かるけど……申し訳ないなぁ」

「大丈夫ですよー♪」

 レーナが申し訳なさそうに苦笑するが、ヒメノはふにゃっと微笑んでみせるだけだ。この程度ならば疲労もしないし、自分の矢も節約出来る。≪大蛇丸≫……正確には≪大蛇丸・弐≫は、【破壊不能】という武装スキルを備えている。装備耐久値も一切減らないのだ。つまり、ヒメノにしてみれば何一つとして問題が無いのである。


「その分、ボス戦で頑張るですよー!」

「うん、いっぱい頼ってね」

 シャインとルナの言葉に、ヒメノは嬉しそうに微笑んでみせる。彼女達ともそろそろ長い付き合いで、フレンドとしての交流もそれなりに深まっている。それを実感出来て、嬉しいのだろう。

「はい、よろしくお願いします!」


************************************************************


 そうこうしている内に、ボス部屋まであと半分という所。同盟チームと目的地を同じくするプレイヤー達は、申し訳無さそうに後ろを歩く。

 本来ならば、よそのパーティの後ろを歩いて戦闘を避けるのは褒められた行為ではない。しかしながら、わざわざ別ルートを行くのも微妙な所なのだ。何せ、このダンジョンは道標となる反射した光があるのだから。


「次の戦闘、俺等が前に出るように申し出ようぜ……」

「そうだな……いくら何でも、これは申し訳ないな……」

 彼等は良識あるプレイヤーらしく、同盟チームと前後を入れ替わる方向で話を進める。流石にこのままでは、罪悪感を感じてしまうのだ。


 しかし……。

「その必要はないぞ?」

 そんな声が、背後から掛けられた。


 次の瞬間、交代を申し出ようとしたプレイヤーの身体に叩き込まれた武技。それにより、彼のHPが一気に半分まで減らされる。どうやら襲撃者は、相当な手練らしい。


「だ、誰だっ!?」

 怒りを滲ませた表情で振り返った青年は、次の瞬間には表情を青褪めさせる。そこには、一パーティや二パーティどころではない……数えるのが億劫になる程のプレイヤー達が武器を構えて立っていた。

 その頭上に表示されているのは……赤いカーソル。


「まさか……PKerプレイヤーキラー……!?」

「正解だ」

 PKer達は青年達のパーティをあっという間に取り囲み、嗜虐的な笑みを浮かべる。

「これから死に戻りするヤツにゃ、何も出来ねぇよ……さ、ここでPKされとけ」

 無感情なその言葉を皮切りに、PKer達が一斉に襲い掛かる。


 もしもジン達に救援を要請できる状況ならばそうしただろうが……不運な事に、彼等はジン達の【感知の心得】の効果適用範囲外を移動していた。それはジン達に警戒されたりしない様に、意図的にそうしていたのだが……それがこのピンチに繋がってしまった。

 青年達は必死に抵抗するものの、人数差は覆らず……あえなく彼等は、全滅の憂き目に遭うのだった。


************************************************************


 それなりに広いマップである[ランドル鉱山]だが、光の道標を追って行けばボス部屋まではそう長い時間は掛からなかった。

 最もそれはモンスターの数が少ないからであり、先行したパーティのお陰である。そして数少ないモンスターも、STR極振りのお姫様に掛かれば大した敵ではない。


 サクサクと道を阻むモンスターを殲滅し、ジン達はボス部屋の前に広がるスペースへと到達した。

 そこに待ち受けていたのは……。

「な、【七色】……!? 助け……」

 そこまで言って、地面に俯せになって倒れていたプレイヤーの身体が消滅した。

 その様子を見ながら、ニヤニヤと厭らしい笑いを浮かべていたプレイヤー達……その数、ゆうに百は越えているだろう。


「PKか……」

 ヒイロが刀を抜いて、警戒心を高める。自分達に愉悦の視線を向けて来るプレイヤー達の頭上には、赤いカーソルが表示されているのだ。

「ここで待ち伏せして、ボス戦に挑もうとするプレイヤーを狩っていたのか……?」

「しかし人数が多いですね……PKギルドでしょうか」

 ケインとジェミーも前に出て、各々の得物を構える。それに呼応する様に、ジン達も臨戦態勢に移行していた。


 そんな同盟チームをニヤニヤと見ていたPKer達は、浮かべる表情に嗜虐的な色を濃くする。

「橋崩しの始まりだオラァッ!!」

「ブッ殺せえぇぇっ!!」

「死に戻りさせてやらぁっ!!」

「俺の獲物だあぁっ!!」

「俺が先に決まってんだろうが!!」

 一斉に駆け出したPKer達を見て、ジンは違和感を覚える。


――まるで競争しているみたいだ……仲間じゃないのか?


 彼等がPKerギルドだとすれば、連携してジン達をPKしに来るだろう。そうして手に入れた戦利品は、仲間内で山分けにするはずである。

 しかし彼等の動きは無秩序で、我先にと競い合っている様に見えるのだ。


「ジン!!」

 ヒイロの声に、ジンは意識を引き戻す。今は考察している場合ではない。

「心得た!! いざ……」

 ジンは姿勢を低くし、≪大狐丸≫と≪小狐丸≫を構える。脚に力を込め、目標を補足。

「疾風の如く!! 【クイックステップ】!!」

 AGI極振り忍者が発動する、【クイックステップ】。それは他のプレイヤーが使用するものとは、一線を画す。


 瞬時にPKerの目前に迫ったジンは、その首に≪大狐丸≫を押し当てる。その在り方は寛容と言って良いジンではあるが、他人を食い物にする輩相手に手心を加える程甘くはない。

「【一閃】!!」

 クリティカル発動のライトエフェクトが発生すると同時に、ジンは【クイックステップ】の効果時間が継続している内に駆け抜ける。逆の手に持つ≪小狐丸≫を振るい、PKerのうなじを更に【一閃】で斬り付けた。


……


 ジンの超高速突撃にPKer達が気を取られた隙に、同盟チームは戦闘行動を開始する。

「ほーら、デバフを御馳走してあげるわっ!!」

「お任せッスよ!!」

 ミモリが≪パラライズポーション≫を投げると、ハヤテがそれを上空で撃ち抜く。中身の液体が雨の様に降り注ぎ、PKer達はたちまちスタン状態になってしまった。


「流石だなっ!!」

「乱戦ですね、注意して行きましょう!」

 スタン状態になった敵に向けて、ヒイロとアイネが躊躇う事なく駆け出した。ヒイロは両手の魔剣、アイネは聖剣の力を宿した薙刀でPKerを斬り裂いていく。


 そして、矢を弓につがえるヒメノ。

「行きます……【ラピッドショット】!!」

 PKer程度ならば、過剰な攻撃力は不要。逆に、手数を増やす必要がある。ヒメノはそう判断し、連射の利く攻撃手段でPKerを狙う。


「ぬおぁっ!?」

「く、くそぉ……マジで一撃必殺かよ……!!」

 そんな【ラピッドショット】を喰らったPKer達は、一瞬でHPを溶かされる。力なく地面に倒れ伏し、悔しげに表情を歪めていた。


……


「任務開始、これよりPKerを殲滅する」

『了解』

 ジェミーが冷淡な声でそう告げると、【魔弾の射手】のメンバーが口を揃えて了承の返事をする。同時にそれぞれが銃を構え、PKer達に狙いを定めていた。

 気合いの掛け声も、何も無い斉射。発砲音が響き渡り、マズルフラッシュが薄暗い鉱山内の壁を照らす。


 殺到する銃弾だが、その仕様……固定ダメージという特性は、既に把握されている。故に銃弾に恐れを抱かず、PKer達は接近しようと駆け抜ける。しかし、それは相手が単独だった場合の話だ。


「固定ダメージなんぞ……あぁっ!?」

「こ、これだけ連続で喰らうと……っ!!」

 銃使い九人による斉射、しかも連続して放たれる弾丸。塵も積もれば山となる、固定ダメージを連続して受ければ当然大ダメージになる。

「畜生め、卑怯者がぁっ!!」

 そんな負け惜しみを叫びながら倒れるPKer達だが、待ち伏せして集団で相手を害そうという彼等にだけは言われたくないだろう。


「負けていられないな……【炎天】!!」

 渦巻く炎がPKerへと放たれ、そしてその身を呑み込んだ。

「ダ、ダメージはたいした事……」

「いや……!! 延焼デバフだ!!」

 第二回イベントで披露した、ケインのデバフ攻撃。アークはその技量と聖鎧の力で凌いだが、PKer達にはそれが無い。


「流石はウチの大将だ!!」

「だな、こうなったらとことん叩くぞ!!」

 ダイスがその敏捷性を活かして駆け出すと、手にした≪青龍偃月刀≫が唸りを上げて振るわれる。斬り付けられたPKer達は、その衝撃に転倒してしまう。

 そこへガントレットを装備した、太い腕を振り上げたゲイルが追撃。STR・VIT型のゲイルの打撃力は、決して軽視できるものではない。


「せいっ!! はぁっ!!」

 その長い手足を駆使し、PKer達を叩きのめす美女。ゲイルの妹であるチナリも、見事に戦力となっている。

「こ、のぉ……っ!!」

 武器を盾にして、無理やりチナリを攻撃しようと試みる一人のPKer。しかし、それを許さない青年が居た。


「【一閃】」

 PKerを背中から斬り付け、更に足を引っ掛けて転ばせるのはゼクスだ。倒れたPKerに向けるのは、一切の感情が覗えない冷たい視線。まぁ、恋人を傷付けようとした輩なのだから無理もない。

 ゼクスはそのままPKerを踏み付けて、チナリの援護に戻った。


「野郎、舐めんな……っ!!」

 立ち上がってゼクスを狙おうとするも、それは適わない。

「はーい、お仕置きです」

「……潰れろ」

 PKer相手ならば、PAC(パック)も戦闘に参加できる。【桃園の誓い】所属のPAC(パック)、マークとファーファ……冒険者夫婦の二人によって、また一人PKerのHPが全損させられるのだった。


……


「お嬢様、皆様こちらへ……【展鬼てんき】!!」

 ユニークスキル【酒吞童子】の誇るこの武技は、VIT値を半減させる代償に広範囲防御を可能とする。後衛職メンバーがシオンに駆け寄り、その守護下に入る。


 全面に展開された、絶対堅固の盾。その盾を迂回しようとするPKer達も、当然居る。しかしながら、その行く手を阻む者がいた。

「ふむ、これはこれで楽しめそうだ。しかし……貴様等程度の魂を喰らっても、あまり美味くはなさそうよな」

「悪いがここは通行止めだ。尻尾巻いて帰るなら、命までは取らん」

 右翼の魔剣士、左翼の守護者。セツナと、ジョシュアの二人だ。


「な、何だコイツ……? PAC(パック)か……?」

「構いやしねぇ!! AIで動くNPCなんざ、お呼びじゃねぇんだよ!!」

 その言葉が癪に障ったらしく、二人の視線が険しさを増す。

「良い覚悟だ、ならば散るその瞬間まで吠えてみせよ!!」

「目上の相手に対する礼儀ってモンを、叩き込んでやるとしようか!!」

 迫るPKer達は知らない……彼等がただのPAC(パック)ではない……元・エクストラクエストのボスNPCだったという事を。


 そんなシオンと、二人のPAC(パック)に守られる後衛部隊。その一人であるレンが、魔法職メンバーに声を掛けた。

「集中砲火で数を減らしましょう」

 レンの呼び掛けに、イリス・フレイヤ……そして、ネオンとPAC(パック)であるカゲツが頷く。

「さぁて、派手に行くわよ!!」

「誰を相手にしているのか、思い知らせましょうか」

「わ、私も頑張ります……!!」

「くふふ、目に物をみせてやるとしようか……」


 本来ならば【術式・陣】を使って強化をしたい所だが、パーティを組んでいない相手だとダメージとデバフ効果を与える事になる。

 そう……ボス戦が始まっていない現状では、レイドパーティは成立していない。つまり現在のジン達はレイドパーティではなく、四組のパーティの集合体に過ぎないのだ。

 故に、【術式・陣】は使えない。更に広範囲攻撃が仲間側のパーティ外メンバーに当たれば、イエローカーソルになってしまう。


「よしっ、撃てるよ!」

「レンさん、狙いは?」

「三時の方角で」

「えっと……あ、成程!」

「ふむ……主殿の兄君、やはり速い」

 三時の方角では、敵が混乱の極みにある。その理由は、紫色のマフラーが靡いている時点でお察しだ。


「行きます!! 【サンダージャベリン】!!」

「任せて!! 【ウォータージャベリン】!!」

「それじゃあ……【ファイヤージャベリン】ッ!!」

「私も……っ!! 【ウィンドジャベリン】!!」

「参る!! 【ウィンドジャベリン】!!」

 レンの【サンダージャベリン】を皮切りに、殺到する魔法の槍。


 魔法攻撃が跳んできたのを確認したジンは、周囲のPKerの相手を切り上げて加速する。

「【クイックステップ】!!」

 AGI極振り忍者の真骨頂、目にも止まらぬ高速移動。あっという間に魔法の攻撃範囲から離脱し、次の標的を定める。


「パーティメンバーだけですが……支援、行きます!!」

 リリィがそう宣言し、【魔楽器・笛】を口元に当てる。彼女の言葉通り、その恩恵を受けられるのはパーティメンバーのみだ。

 メンバーは彼女の他に、ミモリ・カノン・ヒビキ・センヤ・ネオン・マキナ・クベラ。最前線レベルの実力者はマキナくらいで、この乱戦は厳しい物があるだろう。

 故に彼女が選択したのは、状態異常耐性と継続回復効果を与える【夜想曲ノクターン】。その回復量は初級ポーション程度の量だが、それが五秒に一度回復される。これでも、十分な性能だ。


「へへ……それやってると動けねぇんだろぉ!!」

「お見通しだぜ、かわい子ちゃん!!」

 デメリットは、リリィが演奏を続けていなければ効果が途切れてしまう事。そして、演奏中は彼女が動けない事だ。


 しかし、それは想定済み。エリアボスと戦う事を想定して、リリィの護衛を務める役割分担を担うメンバーが確立されていた。

「やらせない。【ナックル】!!」

 篭手を突き出した美少女にしか見えない少年が、PKerの一人を殴り飛ばす。顔面にモロに入った一撃で、PKerは転倒してしまう。


「この……っ!!」

 一緒に駆けていたPKerが少年を睨むが、彼の首筋に刀が押し当てられた。

「やらせないよん……【一閃】!!」

 首を掻き斬る様な、容赦の無い一撃。その一撃はクリティカルヒットとなり、PKerのHPを大きく減らした。


「流石、センヤちゃん……!!」

「へへっ、頑張ってレベリングしたもんね。よし、行くよヒビキ!!」

 無名のプレイヤーとして認識されている、ヒビキとセンヤ。しかし二人も……いや、ネオンを含めた三人も【七色の橋】のメンバーだ。

 仲間達に追い付きたい、肩を並べて戦いたい。そんな一途な想いを抱いてレベリングを重ね、スキルレベルのみならずPSプレイヤースキルも磨いて来た。その成果が、ここで発揮されただけの事だ。


「イ……【インパクト】ッ!!」

 武技を発動してのハンマー投擲……真似をしようとしても、コストが掛かって断念するプレイヤーも少なくない攻撃手段。それをイベントの舞台で披露し、今回も活用するのはカノンだ。

「ぐれぼぁっ!!」

 珍妙な悲鳴をあげてそれを喰らったPKerのHPが、ゼロに達した。それを成したカノンは、すぐに次のハンマーを取り出そうとシステム・ウィンドウに視線を向け……。


「させるかよぉ!!」

 そうはさせまいと、PKerの一人がカノンに急接近する。しかし、それも想定済み。

「そりゃあこっちのセリフやっ!!」

 そう言って、クロスボウを向けて攻撃するのはクベラ。今回のエリアボス戦でお荷物にならないようにと、彼なりに考えた結果用意した武器だ。


「た、助かり……ます……」

「はは、気にせんとき! ワイらは仲間やろ?」

 何てことない……そう言わんばかりのクベラの言葉に、カノンは目を見開き……そして細める。

 クベラは仲間として、自分達を見てくれているから。ギルドに加入していなくても、仲間であるという事実は変わらないのだと実感出来たから。


……


 そんな中、ドラグは【桃園の誓い】メンバーの一員として行動していた。戦斧でPKer達の体勢を崩し、同盟チームの攻撃チャンスを作り出すという戦略である。

 そうして戦う中にあって、彼は……焦っていた。


――どういう事だ? なぜ、この同盟チームが狙われた……?


 アレク達から、PKがあるなどという情報は聞いていない。ならば、自分達は関与していないという事だろう。

 そう信じたいが、信じ切る事が出来ずに居る。


――誰が糸を引いている……? PKer達が偶然集まって、この数になるとは思えん。それに……。


 ドラグの不安は、見事に的中している。最も、的中した事が嬉しくはないだろうが。


「今だ!! 掛かれぇっ!!」

 一人の青年が声を上げると、扉の両脇の通路……そして、同盟チームの背後からPKer達が駆けてくる。


「二段構えかっ!!」

 思わず声を上げてしまうドラグに、PKer達が殺到する。

「死ねぇ!!」

「こいつ、動きはそんなに速くねぇぞ!!」

「俺の獲物だぁっ!!」

 囲まれたドラグのHPが、みるみる内に減っていき……。


 その瞬間、苦無が飛んでドラグを囲むPKer達の足元に刺さる。

「【狐火】!!」

 魔技の発動宣言と同時、青い炎が火柱となって吹き上がる。その数、五本。


――これは……忍者かれか!!


 ドラグの予想通り、ジンがその側に降り立った。跳躍してから、苦無を投げたらしい。

「忍者野郎……っ!! おらぁ!!」

「【アサシンカウンター】」

 PKerの攻撃を避け、ジンはその力を遺憾なく発揮する。

「【ラピッドスライサー】!!」

 超高速移動による、連続攻撃。その苛烈な攻撃に、PKer達の足並みが乱れた。


「大丈夫でゴザルか、ドラグ殿!!」

「感謝する……!! 【ハードブレイカー】!!」

 素直に感謝の言葉を告げ、ドラグは態勢を立て直した。疑念はもう、思考の隅。

 今はひたすら、生き残る事を優先して戦うのみ。


……


 そんな乱戦の中にあって、一人の青年が苦戦に陥っていた。それは、ソロプレイヤーのマキナだ。

 これまでのフィールド探索では、高い実力と冷静な判断力でパーティを支えて来た彼。しかし今は、迫り来るPKer達の攻撃を防ぐので精一杯となっている。

「オラオラオラァッ!!」

「くっ……!!」

 PK第二波が加わった事で、更なる劣勢に陥るマキナ。その様子は、いつもの彼らしくないものだった。その理由は……。


――な、何でこんな所にPKが……!! こ、怖い……!!


 モンスターは運営が製作した、AIで動くモノだ。心が無い、ただのプログラムの集合体。故に、恐れる事など何も無い。

 しかし、プレイヤーは別である。その仮想体アバターの中には生身の人間の意志が込められており、善意のプレイヤーは恐れる事はなくとも……悪意の塊の様な、PKer達は恐ろしい。


 それは彼が……【名井家ないけ 拓真たくま】がかつて、イジメに遭っていたせいだ。対人恐怖症まではいかずとも、対人関係について常に不安を抱えている。

 恐怖心から、攻撃を受けるか捌く事しか出来ず……後退して、後衛メンバーはすぐそこという所まで来てしまっていた。


 いつもは広い彼の視野は、PKerへの恐怖から狭まっていた。普段ならば味方の位置を確認するのは、当然の事。攻撃を誘い、自分の考える通りに誘導し、仲間が攻撃する為の隙を作る。

 今は苛烈な攻撃から逃れたい一心で、普段のPSプレイヤースキルが発揮出来ていないのだ。


 だから、彼は気付けなかった。この乱戦が始まった最初の段階からマキナ……そしてもう一人の少女をPKしようと、機を狙っていた男の存在に。

「殺す……ッ!!」

 和服姿で、刀を振り被った男。その男の名は、バン……[クレイドル大草原]で、マキナやネオンと対峙したあのプレイヤーだ。

 マキナの体勢が崩れ掛け、無防備な背中を自分に向けている。その光景を見たバンは、自分の待ち望んでいた瞬間が訪れたのだと確信する。


 全力で駆け抜けて、まっすぐにマキナに迫るバン。その光景を見て、ヒメノが叫んだ。

「マキナさんっ!!」

 ヒメノの声に気付いて、マキナは視界の隅に見覚えのある男が迫っているのを目視した。しかし、解らない……なぜ、あの時の偽物がここに居るのか?

「え……?」

 思考が追い付かず、迫るバンの狂気を孕んだ顔を眺めるしか出来ない。


 そんなマキナの事情など、知ったことではないバン。彼は一切の容赦なく、刀を振り下ろす。

「【一閃】ッ!!」

 その一撃が命中すれば、マキナは体勢を崩すだろう。彼を取り囲むPKer達が、その好機を逃すはずが無い。


 それが、マキナに当たれば……だった。


「うぅ……っ!!」

 衝撃に耐えるような、小さな呻き声。流石に現実で身を切り付けられるような痛みは無いが、感じる不快感は無視できないものである。

 そしてその声を漏らしたのはマキナではなく、少女の声だった。

「ネオン……さん?」

 不調のマキナを気に掛けていたネオンは、彼の危機を見て駆け出していた。その理由が、どんな感情からくるものなのか……それを、朧気ながらに自覚していた。


――マキナさんは……やらせない……!!


「てめぇか、小娘ェッ!!」

 バンが刀を引き戻そうとするが、ネオンが素手で刀を掴みそれを妨げる。無論、その行動でも微弱なダメージを負う事になる。

「はな、せ……っ!!」

 刀を掴んで離さないネオンに業を煮やし、バンは右足を上げた。彼女を蹴り付けるつもりなのは、その表情からも明らかである。


――ネオンさん……っ!!


 その蛮行を止めようと、マキナは踏み出す。恐怖心は、ネオンのピンチを認識した事で忘却の彼方へと飛び去っていた。

「この、ガキィッ……!!」

 しかし、届かない。ネオンは蹲って、襲い掛かる衝撃に耐えようと目をギュッと閉じている。

 他のメンバーは、位置が遠い。後衛メンバーも、銃撃メンバーもバンに狙いを定めようとするが間に合わない。

 誰も、その危地を打破する事は出来ない……。


「【超加速】!!」

 最速の忍者以外は。


 瞬間移動では? と思わせる程の、超高速接近。蛮行に及ぼうとする相手の目と鼻の先に駆け寄った忍者は、片足をバンの顔に向け……。

「【ハイジャンプ】!!」

「ぶべらぁっ!?」

 オリジナル技【ハイジャンプ~ただし跳ぶのは相手~】を繰り出した。

次回投稿予定日:2021/8/5(本編)


【ハイジャンプ~ただし跳ぶのは相手~】の犠牲者

1.マリウス

2.ユアン(※救出の為)

3.ギルバート

4.バン

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 現実の影響で対人戦に恐怖するマキナ、そんなマキナをネオンが庇って傷ついてしまう。 逆恨みの馬鹿の攻撃からは、ジンの【ハイジャンプ〜ただし跳ぶのは相手〜】(笑)が、決まってネオンを助けま…
[一言] マキナ(拓真)くんは漢を見せてくれてもいい頃だと思います! ジンくんのハイジャンプ〜以下略は応用しだいじゃ蹴り技主体の某矢車の兄貴みたいな芸当も出来たりするんですかね?
[気になる点] この「ハイジャンプ~ただし跳ぶのは相手」って両足でそれぞれ別の人踏んで発動したらそれぞれぶっ飛ばせるのかな?
2021/08/01 08:28 しおりすぐ無くす読書好き
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