11-20 幕間・各ギルドの動き
西側第二エリアで、【聖光の騎士団】がエリアボスの封印を解いたその頃……他のギルドでも、動きがあった。
「エレナさん、それは本当?」
「いえ、まだ確証は無いのですが……しかし、試す価値はあると思いますよ」
大規模ギルド【森羅万象】……そのギルドホームで、幹部メンバーのエレナがとある提案をしたのだ。
「あの巨大岩に、大型モンスターを誘導する……か。成程な」
「プレイヤーでは無理でも、モンスターの力なら破壊出来るかもしれないね!」
「あぁ、面白い案だと思う」
「さすが、エレナさんだな!」
エレナの提案に、幹部メンバーは乗り気の姿勢を見せる。
そんな幹部メンバーを見ながら、柔らかく微笑むエレナ。しかし、その内心は表情とは真逆の事を考えていた。
――単純ね、本当に……私の事を信用し過ぎて、後で泣きべそかく羽目になるといいわ……。
彼女もアレク達と同様に、所属ギルドへの情など無い。目的の為に利用するのに、都合が良い……故に仲間として行動を共にし、信頼を勝ち取って利用しているのだ。
全ては【アンジェリカ】の準備が整った、その時の為なのである。
そんなエレナの内心など、当然気付いていない【森羅万象】のメンバー達。彼等は早速、東側第二エリア[クレイドル大草原]にメンバーを招集する為に動き出した。
しかし、エレナが持ち込んだ情報は有用だが……シンラは引っ掛かりを覚えていた。
――エレナさん、彼女には西側の探索をお願いしていたはずなんだけど……何故、東側のギミックを?
アーサー・ハルが率いる東側探索チームの持ち込んだ情報から、ギミックについて推理した……という可能性もある。しかし心の奥底で何かが引っ掛かり、シンラはこの事をひとまず意識に留めておく。
憶測を口にして、いたずらに不和を与えるのは組織の長失格だ……というのが、シンラの考えだった。
「西側は【聖光】に先取りされたからな」
「あぁ、こっちは東側の一番乗りを目指そうぜ!」
これ以上、【聖光の騎士団】に遅れは取らない。そんな風に燃える仲間達に苦笑すると、シンラとクロードがエレナに声を掛ける。
「本当に、エレナさんには助けられてばかりね」
「あぁ……エレナさん、本当に必要な物なんかは無いのか? 私達で良ければ、素材集めやクエストに全力で協力するのだが」
日頃から、影に日向にギルドを支えている存在……シンラやクロードにとっては、エレナはそんな人物だった。
だからこそ、シンラもエレナを信じて追求するのを止めたのだ。
そんな二人に、エレナは柔らかな笑みを浮かべる。
「いえ、心配なさらないで下さい。私は特別な何かよりも、一芸を極める方が好きで……この細剣で、どこまでやれるか試してみたいんです」
その言葉通り、彼女は細剣使いとしては最高峰の実力者だ。クロードやアーサーと試合をして、良い勝負ができる存在である。現実で、剣術道場に通っていた事がある二人と、だ。
「そう? まぁ、今はそれでも良いわ」
「あぁ、何かあったら相談してくれ。きっと、力になってみせる」
ギルマスとサブマスの言葉に、エレナは柔らかな笑顔のまま頷く。心の中で、毒を吐きながら。
――えぇ、もちろん力になって貰うわ……アンジェの為に、ね。
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その頃、中規模ギルド【遥かなる旅路】。ギルドメンバー全員で、南側の探索を進めているのだが……難しい顔で唸るのは、ギルマスのカイセンイクラドンだ。
「うーむ、潮の満ち引きというのは間違い無いと思うんだが……どれが当たりなのか、解らんな」
海岸を捜索して、見つかったのはいくつかの像。そして、その像が武器を向ける先にある洞窟だった。
「剣を持った像が武器を向けた先にある洞窟……ここは結局、ハズレだったわね」
「あぁ……結局はダンジョンボスを倒しただけで、エリアボスには辿り着けなかったな」
トロロゴハンも、カイセンイクラドンと相談しながら首を傾げる。
そんな二人を遠巻きに見ていたルシアは、内心で唸る。この海岸で、英雄とされているのは弓兵なのだ。それを、どうやってカイセンイクラドン達に伝えたものか。
――あぁ、そうだ。アレを見せてみようかしら。
「何か、ここで手に入れた物に手掛かりが無いでしょうか?」
そう言いながら、彼女はドロップした本を手に取る。それはくたびれた絵本だった。
「……まぁ、こういうのにヒントがありそうだよなぁ……あ? これっ!! ドン!! トロさん!! これ!!」
ルシアから手渡された絵本を見たタイチが、カイセンイクラドンとトロロゴハンに絵を見せる。そこには巨大イカのような怪物の眉間に、矢を命中させた弓兵の姿が描かれている。
「……巨大イカ、ってーと」
「クラーケン、かしら? もしかして、これがエリアボス?」
「弓か! 弓を持った像を探してみよう!」
「サンキュー、ルシア! 大手柄じゃん!」
「さっすがルシアね!」
仲間達の賞賛を浴びながら、ルシアは照れ笑いを浮かべる。勿論、演技である。
――これで【聖光】と【森羅】、【旅路】が同盟に先んじて第三エリアに到達ね。卑怯だとは思うけれど……アンジェの為なら、何だってやりましょう。
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こうして、一夜にしてエリアボス解放のギミックが解かれていく。その翌日、AWOプレイヤーの話題はその件で持ち切りだった。
現実でもAWOをやっている者同士ならば、その件がまず話題に上るくらいに。
それは、とある中学校でも同様だった。
「おはよう、名井家君」
「あ、おはよう浦田君。昨日の件、知ってる?」
「あぁ、勿論。一気に拓けたね、第三エリアへの道が」
その真相を知る霧人としては、目の前の拓真にも礼の一つでも言いたい心境だった。なにせ、彼もギミック解除の手掛かりを探した同盟メンバーの一員なのだから。
とはいえ、それを知っているとはおくびにも出さない。霧人は笑顔で拓真に話し掛ける。
「名井家君も、早速チャレンジするのかな?」
「う、うん……一応、そうだよ」
――【七色】と【桃園】・【魔弾】の同盟か。東と西・南は初到達は分散出来たが、北はまだ……だとしたら、北か? この情報は得ておきたい。
「へぇ、野良パかな?」
「う、ううん……実は、【七色の橋】がレイドに誘ってくれて……【桃園】と【魔弾】も居るんだ。それに、ソロも何人か……」
――知ってるよ、マヌケ。
「へぇ! 羨ましいなぁ、【七色】と組むなんて」
「う、浦田君も参加する? 今日の夜、北側のエリアボス攻略に行く予定なんだ!」
霧人はそれもアリか? と考え……しかし、ある事を思い付いて首を横に振った。その様子は自然体であり、拓真は何も気付いていない。
「そうなの? あぁ、残念だな。今日の夜は、家の用事で……」
「あ、そうなんだ……うん、浦田君と一緒に出来たらって思ったんだけどね」
残念そうな拓真の様子に、霧人は内心で毒吐く。
――情報提供ありがとう、おバカさん。お陰で良い事を思い付いたよ……。
次回投稿予定日:2021/7/30(本編)
クズばっかのアレク一派。