11-19 作戦会議をしました
※注意
終盤で胸糞悪い展開になります。
【七色の橋】のギルドホームに集まった、同盟メンバー。【桃園の誓い】に【魔弾の射手】、ソロプレイヤーのリリィ・マキナ・クベラ。PACを除いても、三十二名が一堂に会すると壮観である。
「まず、これまでの状況を確認しよう……今回の和装と刀を購入したプレイヤーが、うちのギルドの名前を騙った件は一先ずの対処は出来た。同盟の皆さんも、ありがとうございました」
ヒイロが頭を下げると、ジン達もそれに続く。
フレイヤ・ビィト・マキナ・クベラと共謀して、ハヤテは掲示板を利用した印象操作を実行した。その甲斐あって、【七色の橋】の立場を維持した上で売買方法の変更を正当化する事が出来た。
購入者を把握する事が出来れば、所属ギルドやアバターネームを把握する事が可能となる。そうすれば、今回の様な偽物騒動はそうそう起こせなくなるだろう。
そんな【七色の橋】の面々に、同盟メンバーは安心させる様に笑みを浮かべた。
「これで完全に解決したかは、解らないけどね。また何かあったら、遠慮せず声を掛けてくれ」
ケインはいつもの穏やかな表情で、そう告げる。その様子から、【七色の橋】を気遣っているのが強く伝わって来た。
「私達も、【七色の橋】への協力は惜しみません。仲間外れにしないで下さいね?」
後半は茶目っ気を出しながら、ジェミーも笑顔を浮かべた。付き合い自体は、【桃園の誓い】よりも浅い【魔弾の射手】……しかしジン達に対する好感は、今回の探索で更に強まった様だ。
「俺も今回の件を受けて、【七色の橋】への協力は惜しまないつもりだ。いつでも声を掛けてくれていい」
「ワイもや。今後は【七色の橋】の販売窓口として協力させて貰うんやし、遠慮せんでええからな」
「私も、皆さんを大切なフレンドさんと思っています。何かあれば、ご連絡下さいね」
マキナ・クベラに続いて、リリィまでそんな事を口にする。リリィは固定パーティやギルドに所属せず、一グループにあまり肩入れしない……という方針を固めているにも関わらずだ。
その理由は、やはり件の偽物騒動……そこで矢面に立った、ネオンだ。彼女は己の考え無しの行動を恥じ入り、自己嫌悪に陥っているのだ。そのせいか、浮かない表情で静かに席に座っている状況だ。
そんなネオンを見て、一人の青年が手を挙げた。
「それで、確証は無いんだけど……俺の考えを話しても良いかな?」
そう切り出したのはマキナだ。彼はネオンと共に、あの人垣の中に立った。そこで感じた事を、この場で伝えるべきだと思ったのだ。
「えぇ、お願いします」
ヒイロの肯定を受けて、マキナはその場に集った面々に視線を巡らせた。今から話す事を、しっかり聞いて欲しいと思いを込めて。
「念の為に強調して言うけれど、これは俺の予想だ。真実とは限らない。それを念頭に置いて……俺の考えでは、今回の騒動は【七色】の悪評を流す事を目的としていた様に思えるんだ」
そんなマキナの言葉に、レンの視線が剣呑さを帯びる。
「……そう思ったのは、何故でしょう?」
その声に込められた温度の低さに、内心でちょっとビビってしまうマキナ。しかし、流石にここで前言を撤回する訳にはいかない。何とか心を奮い立たせ、自分の予測を口に出す。
「偽物本人だけじゃなく……言い合いをしていた相手も、周囲で野次を飛ばしていた奴等もおかしかった。偽物が【七色】だという確証は無いのに、何人かの野次馬まで彼がメンバーという前提で話していた」
その言葉に、ネオンはようやく顔を上げる。
「……た、確かにそうです……」
ネオンがようやく反応を見せた事で、安心するマキナ。しかし、それがプラス方面でないのは重々承知だ。後程、何かしらの形でフォローしようと心に決めて話を続ける。
「その後ネオンさんが名乗り出ても、彼等は偽物だと決め付けていた。【七色の橋】のネオンという名前は、第三回イベント入賞者として公に出ているのに」
ネオンがハッキリと名乗り出た際、マキナは確かに見た……言い合いをしていた偽物と、その相手の顔が「これはまずい」と言わんばかりの表情になった事を。
「あいつはそれを無理矢理、ねじ伏せる様にしてがなり立てた……更に、被害者と思われていたプレイヤーまでそれに加担する様にしていたんだ。これって、不自然じゃないかな」
その言葉に、ヒイロも眉間に皺を寄せて口を開く。
「俺達を目の敵にし、陥れようとしている奴らが居る。そして相手は……一人ではなく、集団で行動している……」
怒りを滲ませたその発言に、マキナは頷く。どうか、怒りに狂って暴走しない様にと祈りながら。
この話をした場合、彼等がどの様な行動に出るか。マキナも、それを懸念していた。しかしながら、単なる一人のプレイヤーによる騒動とはどうしても思えなかったのだ。
故に、この件について……【七色の橋】を狙う者達が、暗躍していると認識して貰う必要がある。
この注意喚起を受けた彼等がどちらに転ぶかは、自分が口を出すべき事では無いが……何とか、冷静に対処して貰いたい。全ては、この【七色の橋】が今まで通りでいられるように……そう祈りながら、マキナは自分の所見を述べる事にした。
「これは放置しておくべき問題ではない……か。対応を考えないといけないな」
ヒイロは努めて落ち着いた声色で、そう口にした。怒りを覚えてはいるだろうが、それをグッと堪えている様に見える。
「……マキナさんの言いたい事は、解りました。何かしら、対策を考える事にします。アドバイスに感謝します」
――大した人だな……俺とそう変わらない年齢なのに、こうして冷静に物事を捉えられる。
マキナは内心でヒイロの態度に感心しながら、頷いてみせた。
……
「トラブルについては、話はここまでにしよう……純粋にゲームを楽しむのが、俺達の基本スタイルだし」
パンパン……と手を叩いたヒイロが、これまでの暗い雰囲気を払拭するように呼び掛ける。
「それじゃあ、今回の探索で得られた情報を擦り合わせようか!」
重い空気を明るくしようと、ヒイロが皆に声を掛ける。そんなヒイロの意図を察し、同盟メンバーも頷いてみせた。
「まずは俺達から……鉱山の中にある、行く手を阻む様にある例の氷の壁。あれはプレイヤーの攻撃では破壊できないけど、ギミックで突破出来るんじゃないかと予想したよ」
ヒイロがそう告げると、共に鉱山に向かったメンバーがシステム・ウィンドウを操作してスクリーンショットを表示する。そこに映っているのは、金属の塊だ。これは採取出来ない、オブジェクトらしい。
「ボイドさんが言っていた、鉱山内にある不思議な金属の塊……やはり、怪しいのはコレですね。リリィさんのお陰で、ある仮説が立ちました」
レンがそう言うと、メンバーの視線がリリィに集まる。
そんな同盟メンバーに照れ笑いしながら、彼女は自分の予想を発表した。
「えっと……多分ですけど、これは光を反射させるギミックじゃないかと」
彼女は元々、ソロプレイヤー。故に自分のマップに、様々な情報を書き込んで行くのが普段のプレイスタイルであった。この謎の金属塊も、何かしら意味があるのだろうとマップに書き込んでいったのだ。
ここで功を奏したのが、彼女の几帳面さ。その金属塊の向きも、しっかりと描き込んでいたのである。
「これがマップなんですが、入口からこう……光が反射する角度に、この金属塊が配置されているんです。その途中にある岩なんかは、破壊が可能なモノでした」
書き込んでいる時には気付けなかったが、マップを縮小した際にリリィは気付いたのだ。そう、ダンジョン入口と氷壁を結ぶ道筋……そこに配置される様に、金属塊が彼女のマップに描かれていたのだ。
「つまりは光を遮る障害物を破壊し、反射した光を氷壁に当てる」
「はい。これが、第三エリアへの道ではないかと」
ヒイロの言葉を引き継いで、リリィがそう断言した。
「おぉ!!」
「凄いや、リリィさん!!」
偶然とは思えぬ、この発見。これを見付け出したリリィに、称賛の声が贈られる。
「となると、日中か。うん、これは試す価値ありだな」
「えぇ、そうですね!」
続いて、南側の探索班。
「こっちは怪しいスポットを見つけたッス」
「潮の満ち引き……やっぱり、これが鍵みたいなんです」
「まずは既出の情報からだね」
ハヤテとヒビキ、ケインがシステム・ウィンドウでスクリーンショットを表示する。そこには、弓兵をモチーフにしたオブジェが映っていた。
メーテルの話に登場した、クラーケンを撃退した弓兵の像だ。これについては、既に情報共有が済まされている。
「弓兵以外にも剣や槍、盾や斧を持ったいろんな像があるんスけどね。で、婆ちゃんの言ってた弓兵の像……この弓兵が狙っているのが、コイツっス」
次のスクリーンショットには、またもオブジェ。こちらは弓の形をしたオブジェになっていた。
「これ、潮が引いた海にあったんです。普段は沈んでいるみたいですね」
「あ……このオブジェ、矢が置かれていないですね?」
ヒメノの言葉に、ケインが頷く。
「俺達もそう思ったんだ。それでこのオブジェに矢を置いたとして、指し示す方向を見てみたら……」
システム・ウィンドウをスワイプすると、次のスクリーンショットが表示された。そこには、水面から少しだけ顔を覗かせた洞窟が映し出されている。
「成程、潮が満ちると水面の下にある……それで気付けないのか」
「あぁ。三つある弓のオブジェ全てが、この洞窟の入口を指してた。恐らく、この先にエリアボスが居るんじゃないかな」
次は東側。こちらは確証が無いのだが、マキナがネオンに発言を促す。
「ネオンさん、例の提案をしてみよう。皆と一緒なら、検証もし易いと思うんだ」
「……はい」
まだ元気が無いネオンだが、このまま黙っていては気分も滅入ったままになる。聞くだけでは無く、会話に参加していれば気も紛れるのではないか……そう思っての提案だった。
「えっと、あの岩を破壊するのはプレイヤーでは出来ないけれど……モンスターを誘導してぶつけたらどうかと……」
そこまで言って、口を閉ざすネオン。まだ本調子ではない様で、最後は小声になってしまった。
そんなネオンを気遣ってか、ハヤテが即座に反応する。
「……そうか、だからあそこには獣系の大型モンスターが多いんスね?」
ネオンの気を紛らわせる為ではあるのだが、実際にそれは一考に値する案だ。ハヤテのレスポンスに、他のメンバーも反応を見せる。
「グレイトバッファローを始めとする、突進攻撃を持つモンスターですね」
「確かに、東ではギミックみたいなモノが見付からなかった。その案は実に興味深いね」
「あいつらを岩の所まで誘導して、突進攻撃を誘う……で、避けて岩にぶつける。試すべきじゃないか、これ」
シオンとクラウド、そしてダイスも発言し、ネオンの案を補強していく。
ここで更に空気を明るくしようと、ジン達も乗り始める。
「ふむふむ、だとすると我等の出番でゴザルな!!」
「ギリで避けるのは、回避盾の得意分野だからな」
「おっ! やるですか? やっちゃうですよ! モンスターを岩にシューッ! するですよ!」
ノリノリの回避盾組は、そう言うとネオンに微笑み掛けた。
――気遣ってくれて申し訳ないけれど、でも……ありがたいな。
彼女を元気付ける為、場を明るくしようとしている。仲間や同盟メンバーの思惑は、ネオンにも伝わっていた。
そんなネオンの肩に、ポンと手が置かれる。
「上手くいくと良いね」
穏やかな声で、ネオンを励ます様に言うマキナ。その言葉と笑顔に、ネオンは不思議な程に心が暖かくなっていくのを感じ……。
「はいっ!」
ようやく、心配してくれた仲間達に笑顔を返す事が出来た。
……
「で、砂漠の方なんだけど……」
フレイヤが話題を切り出すと同時、プレイヤー達の視界が一瞬赤く染まった。
「は?」
「な、何だ?」
「……皆、テロップ!! テロップが流れてる!!」
イリスが視界の上に表示されるテロップを見る様に促すと、そこにはプレイヤー全員に向けた運営からの通知が記されていた。
『西側第二エリア[ヴォノート砂漠]にて、エリアボスの封印が解かれました』
それは何者かが、エリアボス攻略の手段を発見したという事だ。
「あらら、誰かに先を越されちゃったか~」
「やっぱり、あの水精霊のオブジェだったのかしら? 情報が公開されると良いんだけれど……」
レーナとジェミーの言葉を聞き流し、ドラグは内心でほくそ笑む。
――上手くやったか、アレク。
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同じ頃、[ヴォノート砂漠]。そこに、【聖光の騎士団】主要メンバーが勢揃いしている。その装いは鎧は人それぞれだが、着込んでいる服装は青い騎士風の服で統一されていた。
これはアークがガチャで入手した【融合縫製】というスキルオーブを、【聖印の巨匠】サブマスターであるハインツに譲渡したお陰である。それによって各々が手に入れた服系アイテムを、【聖光の騎士団】と【聖印の巨匠】統一の制服に融合させる事が可能となったのだ。
尚、統一感を意識し出した理由は一つ……和風装備や中華風装備、近代的な装備で統一しているギルドの影響である。
そんな統一感のある装備に満足感を抱きつつ、アークは感心したように頷いた。
「ふむ、エリアボスが出現したな。この≪水精霊の石柱≫……よく見付けてくれた、アレク」
そう言って、労って来るアーク。そんな彼を内心では馬鹿にしつつ、アレクは恭しく一礼する。
「いえいえ、ギルドの役に立てて良かったですよ」
無論、そのギミックを発見したのはジン達だ。その情報をドラグが仲間達に流し、アレクが【聖光の騎士団】に報告したのである。
オアシスに設置された≪水精霊の石柱≫に、水属性魔法をぶつける……それによりジンが発見した筒状のオブジェクトにオアシスの水が流れ込み、流砂に向けて放たれる。その放水を受けて、流砂の中から巨大なアリジゴク型モンスターが姿を見せたのだ。
「しかし、この広大な砂漠をよく一人で探索したものだ。大変だったのではないかね、アレク」
労う様なギルバートの言葉を受け、アレクは朗らかに見える様に笑顔を浮かべる。
「【聖光の騎士団】の一員として、当然の事をしたまでですよ」
「ふむ……素晴らしい心掛けだな。うむ、私も君を見習わなくてはならないな」
そんな謙虚な事を口にするギルバートに、アレクは内心で悪態を吐く。
――心にもない事を……まぁ、人の事は言えないがな。
「しかし、流石に第二エリアのボスとなると難易度は跳ね上がっている様だね。第一エリアのボスはレイド3だったが、ここはレイド4だ」
ライデンが唸る様に言う。レイド上限が3ならば最大三十人、4ならば四十人。その差は決して無視できるものではない。
しかしながら、眉を顰めるライデンにシルフィやアリステラが声を掛ける。
「心配要らないさ、ライデン」
「はい。私達だって、あの頃のままではありませんわ」
事実、第二回イベントで優勝を逃した【聖光の騎士団】。次は【七色の橋】に勝つという大目標を掲げ、更に力を付けて来ているのだ。
「そうですよ、ライデンさん! 水魔法なら、私に任せて下さい!」
ルーもここぞとばかりに、やってやりますよ!! と意気込みを口にする。
その姿を晒して、第三エリアへの道を阻む巨大アリジゴク。難敵と思われるそれを眺めながら、戦闘に備える【聖光の騎士団】のメンバー達。
「雨が降って現れたという事は、やはり水属性が弱点だろうな」
「確かに。それでは、私は水魔法をメインにしますね」
「あの牙に捉えられたら厄介そうだなぁ」
「回復薬は足りてるか? 【巨匠】に連絡するから、申告は今の内だぞ~」
それぞれが声を掛け合う様子に、シルフィは満足そうに微笑む。そんなシルフィを横目に、ベイルやクルスもライデンに声を掛けた。
「我々の持てる力を結集すれば、エリアボスを打ち倒す事も出来るさ」
「あぁ、彼の言う通りだ。俺達の力ならば、越えられない壁など存在しない」
そんな言葉に、ライデンは苦笑して頷く。
――あぁ、良い感じだ。僕が不安を煽り、それを幹部達が払拭する様な言葉で味方を鼓舞する。ギルも謙虚になって来たし、ギルドの雰囲気は上々だね。
【聖光の騎士団】は、過去三回のイベントで【七色の橋】の後塵を拝している。この現状を打破するには、やはりトッププレイヤーとしての実績が必要だ。
第三エリア一番乗り……このチャンスを逃す手はない。
――ヒイロ君、ジン君。次のイベントまでに、僕達は力を付ける……今度は負けないからね。
それは相手憎しの対抗心ではなく、相手を認めての競い合いの精神。互いに高め合う、好敵手としての意識だ。どうやら第二回イベントの決勝戦は、敗北を喫したとはいえ良い経験になったらしい。
それはライデンだけではなく、他の主だった幹部メンバーも同じ考えである。
今度こそ、【七色の橋】に勝利してみせる。それは勿論……彼等と同じ様に、正々堂々と。互いに誇り高く、真剣勝負でだ。
ライデンの表情が柔らかくなったのを察したアークは、彼の肩に手を置いて声を掛ける。
「では、ライデン。参戦するメンバーの振り分けを頼む。準備が整い次第、エリアボス討伐を開始する」
アークの力強い宣言に、ライデンは頷いて参戦メンバーの選定に移る事にした。既に頭の中では想定しているが、最善を尽くす為には気を抜かない。
そんな【聖光の騎士団】の面々を見つつ、アレクは心の中でほくそ笑む。今回の行動は、【七色の橋】ばかりが目立つ現状を阻止する為の行動だった。故に【聖光の騎士団】に情報を流し、一番乗りを掻っ攫うという訳である。
それはつまり【七色の橋】に名声が集中するのは、アレクにとって都合が悪いという事だった。
――いつもトップに立てると思わない事だ、【七色の橋】……情報を制するものが、全てを制するのさ……。
他人の功績を掠め盗る事すら厭わない……そんなアレクは、人知れずほくそ笑むのだった。