11-16 幕間・それぞれの探索
【微糖注意報】
ジン達が西側第二エリアの砂漠地帯を探索している頃、他のエリアでもギルド同盟は情報収集に勤しんでいた。
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■[ランドル鉱山]探索チーム
【七色の橋】ヒイロ・レン
【桃園の誓い】ゼクス・チナリ
【魔弾の射手】ミリア・メイリア
【フリーランス】リリィ
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北側の第二エリア[ランドル鉱山]内は硬いモンスターも多い為、二手に分かれる事にしたヒイロ達。
前衛と盾役を兼任するヒイロと同行するのは、主砲となる魔法職のレン……そして、回復役と支援役をこなせるリリィだ。
無論、三人共ローブで変装している。
「変装用とは言え、ただの直剣を持つのがこんなに違和感出るとは……」
そんなヒイロの発言に、レンもリリィも笑みを零す。
「それにしても、先日の結婚式は素晴らしかったですね」
何度も交流をしているので、【七色の橋】にはすっかり慣れたリリィ。アイドルプレイヤーとしての立場が無かったならば、加入しても良いと思っているくらいだ。なので自分から、話題を切り出しもする。
「えぇ、とても」
「やはり女の子としては、結婚式は憧れますよね」
にこやかに微笑むヒイロに対し、レンはその時の事を思い出している様な表情。成程、確かに憧れているようである。
「……あの、お二人も結婚なさるのですか?」
何気ない言葉のつもりだったが、言ってからリリィは後悔した。これは流石に踏み込み過ぎであり、デリケートな話題だ! と。
そんなリリィに、レンは柔らかく微笑み……。
「えぇ、ヒイロさんがプロポーズして下さればすぐにでも」
「ん゛ん゛っ!?」
余裕の表情でそんな事を宣うレンの横で、ヒイロが過剰反応した。これは恐らく、いつ切り出すのかを考えていたのだろう。
「ですが、ジンさんとヒメちゃんが結婚したでしょう? それにあやかるとか、便乗するというのは気に入らないんですよ……と、私が考えているのではないかとヒイロさんは思っているみたいで」
リリィはレンが自分の内心を、ヒイロの意向の様に言っているのだろうか? なんて邪推するが、即座にその考えを棄却した。レンという少女が、そんな事をするとは思えない。それに、レンの後ろでヒイロが顔を真っ赤にして固まっていた。これは図星なんだなと、一見しただけで解る。
「私は構わないのですが、相手の意向を尊重するのも良い女の条件とお姉様が仰るんです。なので、クリスマスあたりがやはりXデーになるのでは? と予想しているんですが……」
「あ、はい。そろそろ、勘弁してあげては? ヒイロさん、顔を覆ってしまいましたよ」
「……ぐぅの音しか出ない……」
肩を落とすヒイロに、これは尻に敷かれるパターンだなと思いつつ……リリィは彼等の結婚式にも参列しようと、強く決心するのだった。
……
一方、【桃園の誓い】&【魔弾の射手】グループ。ゼクスが回避盾を担当し、格闘スタイルのチナリと、剣盾装備のミリアはアタッカー。メイリアは弓矢で支援役だ。
「うーん……男一、女三だとやっぱ肩身が狭えなぁ」
そんなゼクスのぼやきに、ミリアが苦笑する。
「良いじゃないですか。それにこんなに素敵な彼女さんが居たら、目移りなんてしないでしょう?」
「それはまぁなー」
ミリアの軽口に、軽口で返すゼクス。軽い調子ではあるが、その笑顔と口調の裏には本気の色が隠れている。
「……ラブラブですね?」
「ふふ、そうですよー。こう見えて、ゼクスは一途で誠実なんです」
メイリアに言われて、チナリは柔らかく微笑みながら同意する。その表情からは、彼に対する信頼と愛情が窺い知れる。
そんなチナリの態度に、ミリアは笑みを深めた。
「あらら、惚気けられてしまいました」
やはり当初は見知らぬ男性という事もあり、ミリアもゼクスとの間に壁を作っていた。しかし親交が深まるにつれて、その壁は薄く低くなっていった。当初の壁が刑務所の塀くらいだったのに対し、現在の壁は歩道の縁石くらいである。最早、壁じゃない。
なので、ミリアは何気なくある事を口にしてしまった。
「出会った当初は、ただのくノ一好きな人という印象だったんですけどね」
彼女がそう告げると、チナリが足を止める。その一歩前を歩いていたゼクスも、一瞬遅れて足を止めた。
「……その話、ちょっと詳しく」
謎の圧を発しながら、ミリア……むしろ矛先はゼクスなのだが、問い詰めるような言葉を口にするチナリ。
ジンのPACであるリンが、くノ一になった経緯……その事を、ゼクスは話していなかったらしい。
結局、笑顔を浮かべつつ圧を発するチナリに一切合切説明する羽目になったゼクス。悪戯がバレて、母親に叱られる子供の様だとはメイリア談。
「……シオンさんに、くノ一衣装でも作って貰おうかな……?」
説教を受けて「燃え尽きちまったぜ……」状態のゼクスを尻目に、ボソッと口にするチナリ。最後は結局、惚気か……と、ミリアは苦笑してゼクスの復活を待つ事にするのだった。
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南側第二エリアにある[ブラウ海岸]。こちらにも、探索チームが変装してやって来ていた。
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■[ブラウ海岸]探索チーム
【七色の橋】ハヤテ・アイネ・ヒビキ・センヤ
【桃園の誓い】ケイン・イリス
【魔弾の射手】ビィト
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「いやはや、今回は声を掛けて貰って助かります」
そう言ってハヤテやケインに向け、にこやかに声を掛けるビィト。
「いえ、レーナさん達にはいつもお世話になっているッスからね」
「そういう事です。それに皆さんが協力して下さると、心強いですよ」
ハヤテとケインの言葉は、まごう事なき本心。それが伝わったのか、ビィトも笑顔で頷く。
「俺等は、銃装備で統一されてますからね。周囲からの視線は冷たいし、こういう時に頼れる相手が居るのはありがたい事ですよ」
ビィトが所属する【魔弾の射手】は、全員が銃を装備するギルドだ。その格好も現代風で、揃っている場面を見ると特殊部隊の様に見える。
しかしながら、第二回イベントでの彼等の試合を見たプレイヤー達からは……主に、批判が殺到した。運営にまで文句を言うプレイヤーも、多かったそうだ。
そんな状況下であるから、少数精鋭で事に当たる分には支障が無い。しかし強力なモンスターや、大人数で臨む必要があるイベント等には不利なのだ。
だから彼の言葉も、心からのものなのだろう。
「ビィトさんは、普段はお仕事が忙しいのよね?」
堅苦しい雰囲気を緩和すべく、イリスが何気ない話題を振る。そんな彼女の気遣いを感じているのか、ビィトも余所行きの顔をやめて頷いた。
「そうなんですよー。もっとゲームやりたいんですけどね。だから、時間加速は本気で助かります」
気さくに振る舞うビィトに、ヒビキやセンヤも会話に加わる。
「やっぱり、社会人になるとゲームするのも難しいですか?」
「そうでもないよ? 俺の場合は、職種が特殊だからさ……クラウドもそうなんだけどね、残業が多い仕事なのよ」
「うーん、私達もいつかはそうなるのかなー」
「どうかしら、進みたい仕事次第よ? 私は普通のOLだけど、定時上がりがほとんどだわ」
「俺の場合は、と……ゼクスが仕事を溜め込まなければ、まぁ……」
段々と、そんな何気ないリアル会話で話が弾んでいく。
しかし、いつまでもそうしてはいられない。海岸の探索を進めていかなければならないのだ。
「それじゃあ、俺とイリスはあっちの岩場を」
「俺とアイネは、例の迷宮の方に行ってみるッスね」
「俺達は浜辺だね。よろしくヒビキ君、センヤちゃん」
三手に別れる事にした海岸探索班。
……
センヤとヒビキは、ビィトと共に探索を進める。とはいえ周囲にプレイヤー達が多数みられる為、目立たない様に行動していた。
センヤは≪打刀≫ではなく、最大強化した長剣と丸盾。ヒビキも店売りの篭手を装備し、全員がローブを装備している。
ビィトは銃を使えないのでは? という点が懸念されたが、何も銃一辺倒のプレイヤーではないらしい。
「ほあぁ……ハルバートですよね、それ」
斧と槍が一体になった、長柄武器。ハルバードとも、ハルベルトとも呼ばれるそれだ。
「そそ、メイリアちゃんが作ってくれてね。これならそこまで、悪目立ちしないだろう?」
「へぇ~……凄いですね、格好良いなぁ」
外見は美少女にしか見えないが、ヒビキもやはり男の子。格好良い武器などは、心の琴線に触れるらしい。
「俺等はあまり大っぴらに顔を出せないから、自給自足してるんだ。武器や防具のメンテ、弾丸の製作なんかもね。まぁ、最初はユージンさんに教えて貰ったんだけどね」
そういう意味では、同じだな……と言って、ビィトはハルバートを肩で担ぐ。
「さ、こっからはモンスターも出る。張り切って行こうか!」
「はいっ!」
「僕も頑張ります!」
……
その頃、ケインとイリスは連立って岩場を歩いていた。
「最近は【七色】の皆と一緒に行動する事、増えたわねぇ」
「あぁ……楽しいかい、イリスは」
ケインの問い掛けに、イリスは柔らかな微笑みを浮かべて頷く。
「勿論。良い子達ばかりで、一緒に居て楽しいわよね」
「あぁ、俺も同感だよ」
思えばジン達とあのダンジョンで遭遇してから、半年程。ここまで入れ込む事になるとは、思ってもみなかった。
しかし、当然ながらそれは不快ではなく……むしろ、幸運な事だった。ケインはしみじみと、そう思う。
だが、それだけではいられないとも解っている。【七色の橋】との仲が深まり、ジン達の想いが遂げられるのを目の当たりにして……自分もこのままではいられないと、思う様になっていた。
当然、目の前の女性の事である。今までの様に宙ぶらりんでいてはいけないと、強く思うようになっていた。日に日に、その思いは強くなっていく一方。
――踏み出すなら……今だよな。
心の中で自分を叱咤し、意を決して話を切り出す。
「なぁ、イリス……明日の夜、何か予定はあるかな」
「明日? 明日はそりゃあ、皆で探索結果の報告会でしょ」
すっかり、ゲームに没頭している。しかし、そんな所も愛おしいと思ってしまう。
「じゃ、帰る前に少し飯でも食わないか?」
「ん? まぁ、良いけど。奢りなら」
「あぁ、良いよ」
ケインの返答を受けて、ニンマリと笑うイリス。独り暮らしなので、夕食代が浮くのは渡りに船なのだ。
「それじゃ、明日の為にもしっかり探索しましょうか」
「あぁ、そうだな」
並んで歩き、周囲に視線を巡らせる二人。真面目にフィールド探索をしている……してはいるのだが、内心ではそれどころではなかった。
――よし!! 第一段階はオッケー……!!
――え、来た? これ、もしかして来たの!? 落ち着け私、ヌカ喜びになるかも……でも、良いよね!? 期待して良いやつよね!?
はよくっ付けと思わなくもないが、ちゃんと現実で……というのは、お互い考えている事。今日はお二人共、眠れない夜になりそうです。
……
一方、ハヤテとアイネ。こちらは迷宮をさっさと踏破し、例の小島へとやって来ていた。
「んー、成程。これは壮大ッスね」
「ふふっ、気に入ったみたいだね?」
戦闘行動を終えて、一仕事終えた感を出すハヤテ。そんな彼氏を見て、アイネは表情を和らげる。
「ここはモンスターは出ないんだよね? それなら、泳げんのかな」
「どうだろ? この前は全然出なかったけど」
ゲームの中でならば、季節問わず泳げる。オールシーズンで、水着回も可能なのだ。
なのでハヤテはアイネを見て、真剣な表情で言葉を紡ぎ出す。
「出ないなら、今度は自由時間の時にでも二人で来たい」
ド直球なハヤテに、アイネは赤面してツッコミを入れてしまう。それはつまり、アイネと海水浴デートがしたい……という事である。
無論、嫌な訳ではないのだ。嫌じゃないけど、恥ずかしい的な乙女心である。
「……心の準備が、出来たらね?」
「あはは、了解」
「えっちなのは、ダメだよ?」
「それも勿論。ほら、俺等には良いお手本がいるじゃん」
彼がお手本という様な存在など、一組のカップル……いや、夫婦しかいない。
「ジンさんと、ヒメちゃん?」
アイネがそう告げると、ハヤテは素直に頷いてみせた。
「二人はさ、ちゃんと自分達の事を客観的にも見てるんスよね」
「……ほほう」
あのイチャ付き具合で? と思わなくもないアイネは、胡乱気な顔をする。しかしハヤテは、それに苦笑しつつ話を続けた。
「だから、ちゃんと身の丈に合った交際に留めてるんじゃないかな。自分達が、大人や周囲の人に支えられているって自覚してるから」
ジンは高校一年生で、ヒメノは中学二年生。ヒメノはともかく、ジンはお年頃真っ最中である。色を知る年なのだ。しかし、二人は身体的ハンデを抱えている子供。いかにジンが老成していようと、子供なのだ。
極端な例だが、まかり間違って子供が出来る様な事態になったらどうなるか? 二人で育てる事は困難を極めるし、周囲の人々に多大な迷惑を掛けるのは確実である。
だからこそ二人は、周囲の人達を裏切らない様に健全な交際をしている。恋人だ夫婦だといっても、自分達はまだ子供だという自覚を忘れずに。
ちなみに、AWOはそこら辺のセキュリティもしっかりしているので、十八歳未満の彼らがそういった行為に勤しむ事は最初から出来ない様になっている。それもよくよく考えれば解るはずだが、テンパったアイネさんはそこまで考え至らなかったらしい。
「……あの二人らしいね」
「だろ? そういうのを考えたらさ、一時の感情で過ちを犯すなんて馬鹿以外の何物でもないと思うんだ」
穏やかに、アイネの髪を撫でながらハヤテは告げる。愛おしさを込めて、そして彼女に自分の想いを伝えたくて。
「俺は、アイネを大事にする。だから、俺達がちゃんと責任を取れる大人になるまで……我慢する」
二人きりの場でなければ、こんな話は出来ない。そう考えると、今は最高のチャンスだったのだろう。
ハヤテの真摯な想いが伝わり、アイネは愛しい恋人の胸の中に飛び込んだ。
「私も……ハヤテ君を大事にするよ」
日が傾き始め、夕日が水平線に沈もうとしている。そんな最高のロケーションの中で、二人は口付けを交わした。
今は、まだここまで。そう自分達に言い聞かせる様に。
「ところで……さっきの、ジンさんの考えって本人から?」
「ジン兄のママさんから。パパさんとママさんには、ちゃんとそういう話はしてるみたいよ」
「……流石が過ぎる」
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北も南も随分と盛り上がってきた所で、次は東。東側第二エリア[クレイドル大草原]に来たのは、三ギルド混成チームの中でも年齢層が高めの面々だ……外見年齢は、だが。ネオンは、そんな見た目大人勢に囲まれている。
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■[クレイドル大草原]探索チーム
【七色の橋】シオン・ネオン
【桃園の誓い】ダイス
【魔弾の射手】シャイン・ルナ・クラウド
【フリーランス】マキナ
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そんな七人が大草原にやって来ると、何やら賑やかな声が聞こえて来る。
「うわーっ、マジか!! 羨ましい!!」
「くっそー、すぐ売り切れるから中々買えないんだよなぁ!!」
何事かな? と視線を向けてみると、そこには和装を身に纏い刀を腰に差した青年の姿があった。
「あら、うちの商品を買ってくれた人みたいですね」
「はい。有り難い事です」
ネオンとシオンがそんな事を話すと、マキナがフッと口元を緩める。
「シオンさん名義で販売している和装と、カノンさん名義で販売している刀ですね。実は今、競争率が高いんですよ。毎週月曜日は、取引掲示板の周囲に人だかりができるくらいです」
そんなマキナに、ネオンは「そうなんですね~」と反応を返す。ネオンはマキナに積極的に話し掛けるし、マキナもそれに応じているが……どことなく、ネオンを意識しているのは明らかだ。
「さ、どう行こうかね。大草原は広いし、やはりコンビかトリオで分かれるのが良いと思うんだが」
これまでにこやかに様子を窺っていたダイスが、ここだ! とばかりに話を切り出す。そう、今日は親交を深める事だけが目的ではないのだ。
「ダイスさんの言う事ももっともだ。折角なので、混成メンバーで動くのはどうだろうか?」
同じく黙って見ていたクラウドも、そんなダイスの言葉に反応を示す。ここまで黙っていたのは、やはり若者の会話に混ざり難かったのだろうか。
「だなー。バランスも考えると……なぁ、【魔弾】は今回どうすんだ?」
この大人数の前だと、銃は使えないんじゃ? というダイスの無言の問い掛けに、シャインとルナは得物を掲げる。
「無問題です!」
「はい、最初に使っていた装備があります」
シャインは槍、ルナは杖。そしてクラウドも、弓を持ち上げて頷いて見せた。
――成程、銃だけに頼りきりじゃないと。なら、動きやすいか。
大草原は獣型モンスターが多く、動きも俊敏だ。故に槍使いのダイスとシャインはバラける事となる。そこで相談の結果、シオン・ダイス・クラウドの班……そして火力確保の為にネオン・シャイン・ルナ・マキナは四人一組。この、二手に分かれる事となった。
……
シオンは変装用の大盾と、メイスを装備して先頭を歩いている。そんな彼女の背中を見て、ダイスは先日の事を思い返していた。
――……あー、あれからどうしても意識しちまう。
メイティングワスプとの戦いで起きた、ちょっとした甘酸っぱいトラブル。彼女を守る為とはいえ、押し倒す形になってしまったアレの件だ。
その時に見せた、シオンの表情……そして嫌では無かったという言葉が、どうしても気になってしまう。
ダイスはDKCを始めた際、当時交際していた恋人と一緒にプレイしていた。しかし相手に「他に好きな人が出来た」と別れを切り出され、それっきりとなってしまったのだ。
そんな過去が地味に効いており、恋愛に対して臆病になってしまっていた。
一方シオンも、ダイスの事を意識している。まだ学生ながら、頼り甲斐のある姿を見せ付けられてしまい……正直、キュンとしてしまったのだ。
更にその後、結果発表の時。彼の励ましの言葉のお陰で、シオンは取り乱さずに済んだ。ダイス自身はそこまで深く考えていなかったし、ただシオンを励まそうという思いがあってそうしたのだが……シオンは、それでも嬉しかったのだ。
――確かダイス様は、大学三回生……二十一歳。私は二十五……歳が離れていると考えるべきか、そこまで気にする事は無いのか……。
これが中高生か、男性が年上の場合であれば気にするべき事項だろう。しかし男側が大学生とはいえ、二十一歳と二十五歳ならば許容範囲内ではなかろうか。
そんな二人を見て、クラウドは思う。どちらかが踏み出せばいいのに、と。はい、バレバレです。
というのもこの二人、彼の知り合い達にそっくりなのだ。今はおしどり夫婦と呼ばれているのだが、そこに至るまでが大変だった。見ていて相当やきもきさせられたのだ。
――彼等とは、今後も良好な付き合いをしたい。それは他のメンバーも同意見だろうな。
ギルド【魔弾の射手】において、【七色の橋】と【桃園の誓い】のメンバーとの関係を良好に保つのは優先度の高い事項だ。レーナ達の友人という事もあるし、協力関係を結ぶには最高の相手でもある。
しかし今後も付き合っていく場合、この二人の関係性が付かず離れずだと……また、数年前のやきもき感を強いられる事に。
「そういえば、お二人は最前線のレイドパーティにも参加していたそうですね。ギルドとはやはり、大分違いますか?」
とりあえず、会話に花を咲かせよう。柄では無いのだが、無言の空間もまた大変居心地が悪いものだ。
「そうですね、レイドパーティはビジネスライクというか、利害の一致で参加していただけですから」
「やっぱり、気心の知れた相手との方が肩肘張らずに済むってのはあるなぁ」
いい感じに返答が返って来たので、クラウドも言葉を続ける。
「成程、やはりそういう感じですか。そうなると、この同盟関係もギルド寄りになる感じですね」
「あー、そうだなぁ。【魔弾の射手】とも良い付き合いをしたいってのは、間違いないです」
「それは有り難い。うちの若い子達は、皆あなた達と仲良くしたいと言っていましたから。勿論、俺もです」
「それは何よりです。今後共、宜しくお願い致します」
口調は堅いものの、それからの会話は終始和やかなものだった。
……
一方、ネオンはシャイン・ルナ・マキナと共に探索を進めていく。こちらの班では、ソロプレイヤーとして活動しているマキナの知識が冴え渡った。
「この赤く光るオブジェは……」
「それは≪火炎岩≫だよ。破壊すると、爆発するから注意した方が良い」
「あ、怪しい光を発見です!」
「光……? あぁ、あれはモンスターだよ。アイテム採取ポイントに似た光だが、あれは少し赤いだろう? あぁやって、プレイヤーを罠に嵌めようとしているんだ」
「おぉ……マキナさん、凄いですね……」
モンスターや罠ギミックを回避し、着々と情報を集めていく一行。この広い[大草原]の半分を歩き終え、目ぼしい場所は見終えた所だ。
「これといって、エリアボスや第三エリアの手掛かりが無いかな……」
マキナがそう告げると、ネオン達は眉尻を下げる。これだけ探しても、収穫無しなのだ。
「あの大きな岩を壊すしか、無いんでしょうか?」
「しかしプレイヤーが攻撃しても、岩は壊れなかったそうだからね……」
破壊不能オブジェクトの反応は、第三エリア実装のアナウンスが入った後も変わらない。それは情報掲示板で、散々議論されてきているらしい。
「……あ、プレイヤーが駄目なら、モンスター?」
ネオンが思い付くままに考えを口にし、「まさかね」と言葉を続けようとして……他の三人の様子に気付く。
「……その手があるか?」
「モンスターを誘導して、あれにぶつけるですね?」
「試してみる価値はあると思います!」
マキナ・シャイン・ルナが、真剣な表情でネオンの言葉を真に受けていた。
「あ、えぇと……ごめんなさい、つい、何となく言っただけで……」
慌ててネオンが訂正しようとするが、マキナは苦笑して首を横に振る。
「可能性はゼロじゃないよ。それに、思い付きだって立派な閃きさ。間違っていても構わない、最終的に正解に辿り着けば良いのさ」
「そうです! トライアル・アンド・エラーですよ!」
「流石に英語なら間違わないんだね……ネオンちゃん、最初から正解だけを求める必要は無いと思うよ」
三人が優しく声を掛けると、ネオンは戸惑いつつ頷いてみせる。
そんな時だった。
「うるせぇな!! 俺が誰だか解ってんのか!?」
怒声が響き渡り、四人はそちらの方に視線を向けた。そこには人だかりが出来ており、物々しい雰囲気を漂わせている。
「俺は【七色の橋】のメンバーだぞ!!」
その言葉に、ネオンが目を見開き……そして次の瞬間には、駆け出していた。
次回投稿予定日:2021/7/20(本編)
【七色の橋】を名乗る男の正体は!?
皆様はどんな予想をされるでしょうか。
それはそれとして、描きたいものがたくさん描けた回でした。
ゼクスのくノ一好きとか、皆さんが忘れかけた頃に持ってきてみました(笑)