11-15 砂漠探索でした
【糖度注意報】
ジン達は第三エリア到達を目指し、同盟チームを結成した。そして同盟チームで五つのグループに分かれ、エリア探索と料理バフの検証を開始。
探索チームは、事前に調べていた第三エリアに通じる道……それを塞ぐ障害物。まずはそこに向かう事となった。料理チームは食材を種類毎に振り分け、それぞれが持つ効果と法則性について調べ始めた。
さて、ジンとヒメノ……そして【桃園の誓い】のフレイヤとドラグ、【魔弾の射手】のレーナとジェミーが訪れたのは[ヴォノート砂漠]。その名の通り、見渡す限りの砂漠地帯だ。
砂漠に着いて流砂を確認すると、ジン達は三手に分かれる事になった。本来ならばギルド混合で動くのが同盟的には得策。しかしながら砂漠エリアに限ってはそうも言えない。砂漠は広く、目印も少ない。とにかく足で稼ぐしかないのだ。本来は【桃園の誓い】はゼクス・チナリを配置するべきだったのだが、万が一の場合に備えて回避盾・遊撃役を分散させる必要がある。故に、この布陣となったのだった。
「それじゃあ、行きましょうか」
「了解」
キリッと表情を引き締めて砂漠へと駆け出して行くのは、【魔弾の射手】の二人。いつもの黒い戦闘服を覆い隠す様に、長いローブを身に纏っている。
「それじゃあ、二時間後にここで」
「また後でな」
同じ様にローブで中華風の衣装を隠したフレイヤとドラグは、周囲に気を配りながら【魔弾の射手】コンビとは逆の方向へと向かって行く。
ローブを着用しているのは、強い日射しによる火傷効果を防ぐ為……そして、身バレを防ぐ意味合いもある。無論、ジンとヒメノもローブをしっかり着用済みだ。
「それじゃあ、拙者達も」
「はいっ!」
二人も砂漠へと足を踏み入れ、探索を開始した。
……仲睦まじく、腕を組んで。見ている側が暑く感じそうなレベルで。隠す気、ある?
「こっちに来るのは、ダンジョン攻略の時以来でゴザルなぁ」
「そうですね、第三回イベントではケインさん達にお任せでしたし……」
実はこの二人、というか【七色の橋】のメンバーはこの砂漠を一度探索している。その理由は、ヒメノの有するユニークスキル【八岐大蛇】を強化する為だった。つまりは、エクストラクエスト第二章である。
「あの時は大変でゴザった……第一エリアよりも、攻撃力が上がっていたでゴザルからなぁ……」
「シオンさんのHPが一気に半分減った時は、目を疑いましたね」
雑談をしながら、周囲に視線を巡らせる二人。勿論、腕は組んだままだ。
傍から見たら、イチャついて散策デートしているカップル。しかし二人は雑談しつつ、腕を組みつつもしっかりと周囲に視線を巡らせていた。当然、何か手掛かりとなる物が無いか探しているのだ。
――時間加速のお陰で、ゲーム内で一緒に居られる時間は増えた。それなら今は、探索に集中だ。
――皆だって頑張っていますから、私達も何か手掛かりを見付けないとです。
自分達が手を抜いて、手掛かりを見逃せば仲間達や同盟メンバーに迷惑が掛かる。それを良しとしない二人は、至極真面目に探索をするのだった。
イチャつきながら。
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そんなジンとヒメノを、遠巻きに監視する者達が居た。彼等もまた、アレクの仲間だ。
とはいえ彼等はアレク達が自分達の上役だとも、ドラグがスパイだという事も知らない。とあるSNSを通じて送られて来る指示を受領し、それに従って行動する……そういった工作員なのだ。
そのSNSは匿名で参加できるモノであり、内容を閲覧するにはパスワードが必要となる。
彼等はSNSを通じて、『ジン達がこの砂漠を探索する』という情報を得た。同時にジンとヒメノの会話や戦闘から、情報を引き出す役割を担う事となった工作員だった。故に、互いの顔も名前も知らない。
彼等は全員が、【隠密の心得】を持つ者で統一されている。そうして隠密行動を取りながら、ジンとヒメノを待ち伏せして情報を口にしないかと耳を澄ませているのである。その数、六人。
そんな彼等は今、ジンとヒメノを監視してある事を思っていた。
――空気が甘いいぃぃぃっ!!
だろうよ。
二人は腕を組みながら、和やかに会話しつつ歩みを進める。気になる物を発見しても、モンスターが現れても、腕を組んでいる。
え、モンスター? ジンが動きを止め、ヒメノが一瞬で倒している。
「あ、今度はポイズンスコーピオン……」
「【狐雷】」
苦無を投げ、魔技を発動するジン。苦無を投げる動作も、随分と滑らかになっている。そうして苦無が刺さると同時、ポイズンスコーピオンの身体に電撃が流れ麻痺する。
「【一閃】」
愛刀≪大蛇丸≫を蛇腹剣モードにしたヒメノが、武技を発動しつつ振るう。それが命中すると、ポイズンスコーピオンのHPは一瞬で溶けた。
「で、お兄ちゃんがですね……」
「へぇ、それはレン殿も喜んだに違いないでゴザルな」
モンスターを倒した事を喜ぶでも、誇るでもなく。二人は和やかに会話を再開する。哀れなり、ポイズンスコーピオン。
そんな二人の姿を目の当たりにしつつ、一人の青年は今の一連の動作を見てジンとヒメノの力について考察する。
――苦無を使ったデバフ……ポイズンスコーピオンを倒し切れないって事は、威力は大したこと無いか。麻痺耐性があれば、耐えられる……? 逆に【一閃】とかいう武技は使い勝手が良い。出も早いし、すぐに動き出したって事は技後硬直も短い……やっぱ刀欲しいなぁ……。
中には頭が回る者もいる様だが、これらの情報は既にイベントでアレク達が確認済みだ。その証拠に、件のSNSにも記載がある。
だからこそ、新たな情報を求めて彼等は二人を監視する。するのだが……。
「ジンさん」
「何でゴザルか、ヒメ?」
「えへへ、呼んでみたかっただけです……♪」
「……そうでゴザルか」
「はい……私の、旦那様♪」
「……ッ!!(クリティカルヒット)」
――砂糖吐きそう……!!
二人の会話からは、情報が得られそうに無い。精神的なダメージが募るばかりだった、加糖……いや、過糖方面の。
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そんなイチャイチャカップル……もとい新婚夫婦だが、二人を含めた【七色の橋】のメンバーは事前にハヤテからある事を聞いていた。
それは二日前……各協力者に、メールで協力要請をする直前だ。
「もしかしたら俺等を調査しようと、尾行したりする輩がいるかもしれないッス。既に見せているスキルや武技は良いけど、まだ公にしていないヤツは隠した方が無難ッスね」
はい、対策済みでした。
勿論ハヤテも、そういった輩が来ると確信していた訳ではない。しかしながらハヤテは、近頃の掲示板……意図的に情報を流出したり、アンチ【七色の橋】と思われる書き込みを目にしていた。
ハヤテから見ると、それは明らかに意図的なものだ。スレッドに書き込む人数も、複数と思われる。つまりは個人ではない、グループの仕業。
流石の判断力を発揮したハヤテは、不用意な情報の流出を避けるのが無難と判断した。そう考えるに至った理由も含めて、ギルドメンバーには言い含めている。
ギルドメンバーはそんなハヤテの言葉を信頼し、使用するスキルや武技を意識して戦闘に臨んでいた。言動も、当然それなりに気を付けているのだった。
……
そうとは知らない工作員達は、精神的糖尿病へと邁進しつつジンとヒメノを尾行していく。
ジンとヒメノは一見すると無防備に見えるが……その実モンスターに気を配り、誰かに探られていると意識し、その上で第三エリアへの手掛かりを探しているのである。
そこで、ジンはあるものに気付く。地面を覆う砂が、不自然に盛り上がっているのだ。よくよく目を凝らしてみなければ、見逃してしまいそうなソレ。
――これは、何かあるな。
ジンはヒメノに視線を向けると、彼女の髪を撫でる。
「あ……えへへ♪」
嬉しそうに、ふにゃりとした笑顔を浮かべる新妻ヒメノちゃん。ジンの胸元に、手を当てる。
正に、仲睦まじい夫婦の姿。しかし互いに、相手の真の意図に気付いている。
――髪を撫でた回数が二回、気になる物を発見した合図ですね!
――胸元に手……よし、ヒメも合図に気付いた。
イチャイチャしている様に見せ掛けた、二人の間だけで通じる合図。誰かに探られている事を前提として考えておいた、無言のサイン。
この場所に手掛かりがあるかもしれない……ジンはそう判断した。となると、この周辺を調査したい所である。
しかしながら、コソコソと付いて来ている輩に情報を渡したくはない。なので、ジンは久々に忍者らしく行く事にした。
「ヒメ!」
「はいっ! ミモリさん特製の≪煙玉≫っ!」
ヒメノが丸い球体……≪煙玉≫を地面に叩き付ける。それが破裂すると同時に、周囲に立ち込める白煙。それはジンとヒメノの姿を覆い隠し、工作員達の視界を遮る。
「……ちっ!!」
工作員の内、五人は耐えた。必死に驚愕を抑え込み、自分達が尾行していると気付かれぬ様に踏み止まった。
しかし、一人だけ。工作員六人中一人だけは、それが出来ず……大きな舌打ちをしてしまうのだった。
――馬鹿野郎、気付かれるだろうが!!
尾行している内の一人……舌打ちをした工作員は立ち上がり、ジンとヒメノを探す。しかし、煙が晴れたそこには誰の姿も無かった。
「気付かれたか……!!」
そう言って、地団駄を踏む工作員。
そんな彼に、二人の人物が詰め寄った。広範囲に広がる砂漠……そこから突如現れた、二人の人物。地団駄を踏んだ工作員は、即座に自分のご同輩だと察したのだが……。
「お前のせいでバレたんだぞ!」
「何してくれてんだ、馬鹿野郎!」
初めて顔を合わせる、同じ立場の工作員。そんな彼等に詰め寄られ、舌打ちをした男は顔色を変えた。
「うるせぇ! 煙幕を張ったって事は、その前から気付かれてたって事だろ! 最初にミスったヤツのせいだ!」
そのまま言い合いに発展する三人を、更に二人の人物が宥める為に姿を見せた。
「おい、よせ」
「とりあえず、もう一度奴らを探そう……もう、遠くに行ってしまっただろうがな……」
ジンの速さは、散々見せ付けられている。おそらく自分達に気付いたジンとヒメノが、尾行を撒く為に煙幕を張って全速力で立ち去ったのだろう。
「今回は失敗か……しかも、自分達を尾行していると気付かれてしまったな……」
口惜しそうにそう言うと、一人の青年が付近の町がある方角へと消えて行く。残る面々も、険悪な雰囲気を漂わせたまま散り散りに去って行った。
そうして、誰も居なくなったその場所……一人の青年が、小さく溜息を吐いて動き始める。
――馬鹿一人のせいで、五人居ると気付かれかねなかったぞ……あいつ一人の正体が露見するだけなら、どうでも良かったが……やれやれ。
彼も【隠密】状態で移動を開始した。ジンとヒメノを補足するのは、半ば諦めながら。
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……トン、トン。
細く滑らかな指が、ジンの胸元を二回叩く。それは、ヒメノからの合図。
「では【広域探知】……もう誰も居ないようでゴザルな」
ジンは【感知の心得】を使用し、周囲に何か無いかを調べ始める……六人の工作員が去った、その場所で。
そう、ジンとヒメノは≪煙玉≫を使用した後……少しだけ位置を変え、その場に留まっていたのだ。
煙幕で視界を塞げば、彼等に視認されていない事になる。そして【隠密の心得】ならば、ジンも所有しているのである。
煙幕の中で【ハイド・アンド・シーク】を発動し、ヒメノ共々隠密状態になったジン。そのまま、工作員が居ないか探りを入れるつもりだったのだが……予想通り、工作員が六人も居たのだった。
「ヒメのお陰でゴザルな……流石でゴザル」
「ふふっ、お役に立てました♪」
最初に違和感に気付いたのは、ヒメノだ。
実は先程の「呼んでみただけ」にも、意味があった。それは「違和感を感じる」という、サインだったのである。決して単にイチャイチャしていただけではない。
尚、その後の「旦那様」呼び。それは単に、ヒメノがそう呼びたかっただけ。何のサインでもない、ただのデレである。単にイチャイチャしたかっただけである。
それはさて置き、何故ヒメノが違和感を感じ取ったのか? それは彼女の感覚が、一つを除いて鋭い為だ。
そう、彼女は現実では全盲の少女。VRゴーグルを使い出すまでは、白杖を用いて日常生活を送っていたのだ。視覚を持たない代わりに、聴覚や嗅覚、触覚と味覚……それらが研ぎ澄まされる。擬似的な視覚を得た今でも、鋭い感覚は健在なのである。
工作員がいくら音を立てないように動いても、完全に無音にはならない。いくら息を潜めても、呼吸音は止められない。視覚だけを欺くかくれんぼでは、ヒメノには通用しなかったのだ。
更に言うと、ヒメノは空間把握能力にも長けている。音や臭いを元に、ある程度は対象物がどこにあるのかを把握する事が出来る。
かつて、第二回イベントの準決勝……そこで、ヒメノはアイテルの矢を避けた。【ホーミング】を駆使して、視界の外から飛んで来る矢だ。それを避けたのも、この鋭敏な感覚と空間把握能力によるものである。
最も……。
「拙者のお嫁様は、凄いでゴザルなぁ」
「えへへ、旦那様に褒められました♪」
この二人が一番周囲に甚大な影響を与える能力は、無限の糖製です。アンリミテッド・シュガー・ワークス。
……
「で、気になったのはコレでゴザル」
「あー、確かに砂が盛り上がっていますね……流石ジンさん、よく気付きましたね?」
不自然な砂の盛り上がり方に、ヒメノは言われてみれば確かに……と頷く。
砂ばかりのマップである為、遠目に見ると同じ色の砂に同化して認識しにくい盛り上がり。近付いてよくよく観察してみなければ、気付けないような変化だ。
「もしかしたら、何かしらの手掛かりになるかもしれぬでゴザルよ」
「砂を払ってみますか?」
「で、ゴザルな。では……【狐風】」
左手の≪小狐丸≫を振るい、風の刃を放つと当時に発生する風圧で砂を吹き飛ばすジン。手でやらないのは何故? 右腕にお姫様が抱き着いているからですが、何か?
「これ……は?」
「大砲? いや、違うでゴザルな……」
地面から突き出した、筒状の物体。途中で曲がったソレは、何かに似ていた。
「……帽子と髭がトレードマークな、配管工兄弟のゲームに出てくる土管みたい」
「あー! 赤と緑の!」
狐と狸ではない。
「中は……まぁ、入れないでゴザルな。どこかに繋がっていそうでゴザルが……」
「ジンさん、ここにマークが描かれていますよ!」
ヒメノが指し示したのは、オブジェクトの側面。確かに、意味有りげなマークが描かれている。
二人はとりあえずスクリーンショットを撮り、今回のパーティメンバー……【桃園の誓い】と【魔弾の射手】のメンバーに、パーティメッセージを送る事にする。念の為、身を潜めながら。
『不思議なオブジェクトを見付けました。何かしらの手掛かりかもしれません』
そう記して送ったスクリーンショット付きのメッセージに対し、レスポンスを返したのはフレイヤとレーナだった。
『確かに不思議な形のオブジェクトね。こちらはまだ、特に目ぼしい物は無いと思うわ』
『何だか、土管みたいだね? こっちは、オアシスを見付けたよ!』
レーナからも、砂漠の中にポツンと存在するオアシスのスクリーンショット付きで返事が来た。
「おー、砂漠といったらオアシスでゴザルな」
「はい、綺麗なところですねー」
そんな呑気な感想を口にしつつ、二人は真面目にスクショを観察する。
「あれ、この石像……このマーク、このオブジェクトに描かれているのと同じでゴザルな」
ジンがそう言うと、ヒメノもまじまじとスクリーンショットの中に映る石像を観察する。
「確かに、似てますね……これは、もしかするともしかするかもです」
手掛かりかもしれない……そう思った二人は、オブジェクトを再び観察する。
「これと同じマークが、オアシスの石像に……? もしかしてオアシスのマークと、何かしら繋がってしているんでしょうか?」
これは、オアシスの方もしっかり調べないといけないだろう。
「恐らくはこれとオアシスの石像が、何かしら連動しているギミックでゴザルな」
「そうかもですね……マップに、マーキングしましょう」
システム・ウィンドウで表示する事が可能なマップは、プレイヤーがカスタマイズする事が可能だ。プレイヤーが任意にマーキングしたり、注釈を書き込む事も可能なのである。
ちなみに新たなマップを反映させるには、町で該当区画の≪地図≫を購入する必要がある。ジン達は各主要エリアで≪地図≫を購入済なので、問題は無い。
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ジン達は、一度合流する事に。空腹度を満たす為にも、レーナと、ジェミーが見付けたオアシスに向かう事となった。
そして合流した三組は、互いに発見したモノの擦り合わせを行っていく……のだが。ジンは少々、困っていた。
「確かに、同じマークねぇ」
「オアシスは、三つ確認されているみたいね」
頷くジェミーの隣で、フレイヤが情報掲示板で砂漠の情報を確認している。オアシスと流砂の位置、そしてジン達が見付けたオブジェクトの位置を確認して……それをマップで表示してみせた。
「ジン君達が見付けたのは、三つのオアシスの中間地点。そしてそれが、流砂のちょっと手前ね」
「うん、これは何かしらの関連性があってもおかしくないですね」
フレイヤの見せたマップを見て、ジェミーも真剣な様子で頷いてみせた。しかし、ジン的にはそれどころではない。
「……それは良いんでゴザルが……あの、何で水着?」
そう、女性陣は揃って水着姿でオアシスの水に入り戯れていた。水着回・アゲインである。
「うふふ、砂漠はやっぱり暑いからね。気分的に水浴びがしたかったのよー」
「さぁジン君、ちゃんとヒメノちゃんの水着姿を見るのよ。ほら、目に焼き付けて!」
ヒメノは白と赤を基調とし、和風を盛り込んだビキニスタイル。彼女のスタイルの良さを、最大限に引き出すデザインだった。
水面で反射する太陽の光に囲まれた彼女は、その楽しそうな笑顔もあって輝いて見える。
そんなヒメノと共に戯れるのは、レーナだ。レーナも黒いビキニで、上下共に二種類の水着を合わせたような形状の水着である。
レーナもスタイルが良いのだが、やけに引き締まった身体付きである。相当鍛えなければそうならない事を知っているジンとしては、何かしらの運動をしていたのではないかと睨んでいる。
そしてジンやドラグと会話している、フレイヤとジェミー。彼女達も豊かな膨らみを胸元に備えており、ジンとドラグが忙しなく視線を動かす羽目になっていた。
フレイヤはチャイナ風の水着を身に纏って、岩に腰掛けて足を水に付けている状態だ。
ジェミーは黒と青のツートンカラーの、オーソドックスな水着姿。彼女もレーナ同様に、鍛え上げた身体つきである。
彼女達の水着の製作者? はい、あの御方です。
――ふっ、この姿を見せたら、少しはゲイルも意識するかしら? 今度、試してみよう。
幸い、ホームが海辺のコテージですしおすし。そんな事を考えつつ、フレイヤはキリッとした視線をある物に向けた。
「で、あれが例の石像ね?」
「例のマークが、これですね」
ジンとドラグの動揺をよそに、自然体で石像について話し始めるジェミーとフレイヤ。この切り替えの早さよ。
水着姿のお嫁様と三人の美女による衝撃を何とか咀嚼し、ジンは気を引き締め直す。意識して集中するのは、得意中の得意だ。煩悩退散。
聞けばこの石像は、蔦で覆われていたらしい。意図的に隠されていた……という事だろう。
「んー、やっぱり同じでゴザルな。やはり、あのオブジェクトと連動したギミックでゴザろうか」
描かれたマークをよく見るジンは、これは何か? と予想してみる。何かを表しているのは間違い無いだろうが、これまで特に見た覚えが無い。
「そうそう! こういう時は、PACに協力して貰うのはどうかしら?」
「あ、そうね。この世界の事をよく知るのは、彼等でしょう? ジェミーさん、良い案だわ」
ジェミーとフレイヤのアドバイスに、ジンはハッとする。確かにこのマークの正体を、現地人ならば知っているかもしれない。
システム・ウィンドウを操作し、ジンは己のPACであるリンを召喚する。
「お待たせしました、主様」
相変わらず、くノ一らしさ溢れる第一声。しかし慣れ親しんだ彼女の様子に、ジンは表情を和らげる。そして水着姿ではないリンに、なんとなく安心する。
「来てくれてありがとう、リン。早速で申し訳無いんだけど、このマークを知っているでゴザルか?」
ジンに促され、リンは石像のマークを見て頷く。
「はい、これは水の精霊を表す紋章です。今は光を失っていますので、水の魔力が足りていないのでしょう」
質問に対するレスポンスは、実に迅速だった。流石は最速忍者のPACである。え? 関係ない?
「ふぅん……? つまり、MPを消費して作動させるギミックかしら」
「ねぇ、リンさん? こういうオブジェクトは、あちこちにあるの?」
ジェミーの問い掛けに、リンは頷いてみせる。
「はい、ジェミー様。≪精霊の座≫と呼ばれるこれは、世界各地に存在致します」
やはりこのギミックは、至る所に存在するらしい。
「リン、ありがとう。助かったでゴザル」
「ありがとう、リンさん!」
「うん、本当に助かったわね。ありがとう」
「いえ、お役に立てたようで何よりです」
そんなやり取りをするジンとフレイヤ・ジェミー……そしてリン。その様子を見ていたドラグは、内心である事を考えていた。
――PACはこういう所でも、有効利用できる訳か。使い勝手が良いもんだ……。
仲間達に良い手土産が出来たと思いつつ、彼も会話に参加する。
「そうなると、三つのオアシスでこいつに魔力を注ぎ込めば、何か起きるかもな」
何食わぬ顔で、話を切り出すドラグ。その様子からは、スパイ行為をしている様には見えない。
「そうねぇ、手分けするのが良いかしら……」
「ですが、もしかしたらエリアボスを呼び起こす仕掛けかもしれませんよ」
そのままヒメノとレーナも会話に参加し、各エリアの探索チームと相談した上でギミック起動を試みる……という結論に落ち着くのだった。
次回投稿予定日:2021/7/17(幕間)
ドラグ、スパイの分際でヒメノ・フレイヤ・レーナ・ジェミーの水着姿を目撃。
て〇を「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」
フルーツ鎧武者「絶対ェ許さねェ!!」