11-14 幕間・料理バフ検証班
ジン達が各エリアの探索を進めるその頃、【七色の橋】のギルドホームでは料理バフの検証が行われていた。
「野菜はMP消費の軽減か。これは魔法職にとっちゃ必須だなぁ」
「肉はやっぱりステータス強化やな。予想通りっちゃあ予想通りや」
「お、お肉の……種類で、上がるステータスが……変わり、ます……」
「お米や麺は、効果が同じみたいね?」
「そうですね。最大HPの上昇……これはこれで、重要だと思います」
調理台の上に所狭しと並べられた食材。検証メンバーはそれを一つ一つ食べて、効果を確かめていく。
勿論、確認された効果はメモしていく。
HP回復やMP回復は、料理では得られない。やはり、ポーション系のアイテムがある為だろう。代わりにバフ系統の効果が、多岐に渡る様だ。
また、料理によって得られるバフは変動するらしい。料理の質で効果が変わって来るというアナウンスが、運営から明言されていた。質の良い料理であればある程、高い効果を得られるという事だ。
「素材そのままでわかるのは、これくらいやな」
「そう……です、ね」
「よし、それじゃあ料理を始めていきましょう」
ミモリとゲイル、ディーゴがキッチンの方へと向かう。今までは素材そのもので、バフ効果を確認していたのである。無論、肉などは焼いているが味付けなどもしていない状態である。
ここからは調味料を使用したり、素材と素材を掛け合わせたりと様々な形で検証をするのだ。
「あ、そんならワイも一緒にやらせて貰おかな」
そう言って、クベラが手を挙げた。そんなクベラに、カノンは意外そうな表情を浮かべる。
「クベラさん……お料理、されるん……ですか?」
「いんや、ろくにやらんのですわ。でも、あの三人やと高品質な料理になるやろ? 一品か二品、ワイが作って品質の差を比較するんがええんとちゃうかなと」
どうやら、そういう事らしい。
それを聞いて、カノンはある事を考えた。ミモリ・ゲイル・ディーゴに加えて、クベラも料理をしに行ったら……自分は一人、手持ち無沙汰になってしまうのではないか? と。
それにPACが居るとはいえ、そうなれば一人になってしまう。それは寂しいし、居心地も悪い。
――昔は、お一人様に慣れていたな……。
それは、寂しくもあり……辛くもあった記憶。人見知りが原因で、コミュニケーションが取れずに孤立してしまった頃の事だ。
「せや、カノンさんも一緒にどうです?」
「……え」
屈託のない笑顔で、クベラがカノンも料理をしないか? と誘う。
「どうせなら、皆でやってみたらええんちゃうかなと。折角こうして、一緒にプレイしとるわけやし」
「わ、わた……私、その……そ、そんなに、料理は得意じゃ……なく、て……」
カノンは実際に、料理を作る事はできる。その腕前は、よくも悪くも普通である。
「大丈夫や、カノンさん」
真剣な顔で、クベラがカノンにそんな事を言う。大丈夫という言葉の根拠は、何なのか……そんな事をカノンは思ってしまうのだが……。
「冗談抜きで、ワイは料理は全然なんや。ホンマに、からっきし。せやから、深い事考えずに気楽にやりゃあええんですわ」
ニカッと笑うクベラは、ある言葉を続けて口にした。
「それにやってみたら、楽しいかもしれへんし。せやから、挑戦してみませんか?」
楽しい……という言葉に、カノンはある事を思い出す。
それは始まりの町にある、共用スペースの鍛冶場での記憶。初めて、誰かと一緒に鍛冶をやった時の事。
その後、彼に連れられて……初めてフィールドを探索して。ミモリや仲間達と一緒に、全力で戦って。
未だに、完全には想いを振り切れていない。あの時の、ジンの笑顔がまだ脳裏にこびり付いている。
顔立ちも、年齢も全く違うのに……ジンとクベラの表情が、重なった様な気がしてしまった。
「……たの、しい」
「せや、皆で一緒に」
「それ……は、きっと……楽しい、ですね」
確かに、あれから仲間達とフィールド探索をする事になって……気が付けば、それが普通になっていて。
初めての経験、新たな楽しみ……それが自分の世界を広げる事を、カノンはもう知っている。
「はい……私も、やってみます、ね」
「よっしゃ、じゃあ行きましょか!」
次回投稿予定日:2021/7/15(本編)