11-13 同盟を結成しました
文化祭の翌日。仁と英雄は、文化祭の後片付けに勤しんでいた。
「三好さん、このクッションはどうする?」
「持って帰りたい人がいたら、あげちゃって良いんじゃないかなー」
「明人、そっちお願い出来る?」
「了解、せーので行こう。せーの……っ!」
準備同様に、真面目に後片付けをする仁達だが……男子と女子、共に大半は片付けが手に付かなかった。
星波英雄と寺野仁が、彼女持ちという衝撃の事実……それを知った生徒達は、馴れ初めやらどこまで進んでいるのやらを聞き出したい気持ちでいっぱいなのだ。
ちなみに根津さんは高熱を出して、休みである。自宅で魘されているらしいが……その原因は、やはり昨日の衝撃的な光景だろう。
さて、片付けもせずに一人の少年が仁に声を掛ける。その際、勢い余って机の上に置いてあったダンボールに接触。中身の飾りグッズは、床へと派手にぶちまけられた。
「なぁ、寺野!! お前、彼女とどこまで……」
だというのに、少年はそんな事は気にしないとばかりに仁に詰め寄ろうとする。
「狩沼君? そこ、折角片付けたんだけど」
皆でやるべき片付けを、碌に手伝いもしないでそんな事を聞いてくるのだ。更に、折角片付けた物を散らかして無視。これには流石の仁も、少しばかりイラッとしてしまった。冷ややかな視線と言葉を向けても、バチはあたるまい。
苛立つ仁など、初めて見たクラスメイト達。そして、そんな態度をとられた狩沼少年は気圧されてしまう。
「……悪いけど、自分でやったんだからそれお願いね」
強引に詰め寄ろうにも、相手は右足に障害を抱えている。なので、あまり強気に出る事ができないのだった。
逆に、女子達が必死に詰め寄るのは英雄だ。彼を囲む女子生徒達の圧に、英雄……そして一緒に片付けをしている人志と明人、他まともな男子達は引き気味である。
「星波君! 彼女のどこが好きなの! 私の方が、星波君の事を……!」
「年下の女の子も良いけどさ、やっぱり気楽に過ごせるのって同い年じゃない?」
「星波君の事、私のほうがよく解ってると思うの!」
恋よりも自分の方が……と、アピールをする女子達。昨日のアレを目の当たりにしても、諦められないらしい。しつこいと言うべきか、根性があると言うべきか。
しかしながら、その行為自体が間違いだ。恋よりも自分の方が上だとアピールする彼女達に対し、英雄は苛立ちや戸惑いより……怒りが沸き起こる。
恋が彼女達に劣る要素とは何か? 彼女達が、恋の何を知っているというのか?
「少なくとも、やるべき事をやらない人に魅力は感じないよ」
優しく窘めるのではなく、突き放すようなその言葉。それを受けて、女子生徒達は自分達のアピールが逆効果だと気付いた。しかし、時既に遅し。
「それと俺にとって、彼女以上に魅力的な女の子は居ないよ。俺の恋人を、馬鹿にしないでくれるかな」
そんな英雄の言葉と視線に、女子生徒達は黙り込んでしまう。その内の一人は涙を零して俯くのだが、英雄の知った事ではない。
仁と英雄が初めて見せた苛立ちと怒りの様子を見て、二人の生徒が声を掛けた。
「星波君、寺野君。ここまで私達しか片付けてないし、残りは彼らにお願いしましょ?」
「そうそう……それに寺野、足も疲れたんじゃねぇの? 休憩して良いぜ」
そう言い出したのは、仁や英雄に惚れていない【三好 西代】さん(彼氏持ち)。そして野球部に所属する、【巣平 宝留】君(彼女持ち)である。
「良いよね、委員長! ここまで何もしていないんだから、ちゃんと片付けに参加させないと」
三好さんの提案に、委員長の隈切さんは「それもそうね」と頷いた。是非も無し。
「鳴州、倉守ー! 後は、サボってた奴らにやらせんぞー!」
そう声を掛ける巣平君に、人志と明人も良い笑顔で頷いた。
「そう? そろそろ疲れて来たし、助かるかな」
「仁、大丈夫か? あんまり頑張り過ぎんなよ~」
これまで真面目に片付けていなかったクラスメイト達が、渋々と片付けを始める。その様子を見ながら、仁達を含めた十人の生徒が教室の外に出て苦笑し合う。
「そういえばなんだけど、あなた達も星波君にキャーキャー言ってたのに……割と普通よね?」
委員長が視線を向けたのは、二人の女子生徒。【道端 亜里音】と、【猪里 千紗】だ。
「フッ……甘く見てもらっては困るわ、いいんちょ!!」
「私達は勿論、星波君が大好きだけれども!! 大事なのは星波君が、幸せである事よ!!」
彼女達は、何故にポーズを取るのだろうか。中学二年生の病が、尾を引いているのか?
「私達、同担歓迎派ですから!! むしろウェルカム!!」
「あの超絶美少女と共にいる事が、星波君の幸せならば!! それで良し!!」
どうやら彼女達は、穏健派の英雄ファンらしい。そのテンションの高さには付いていけないが、そう言ってくれる存在が居る事で英雄も少し安心したのだった。
「まぁ、なんだ……災難だったな、お前らも……」
そう言う巣平君だが、彼は恋人が居るのを知られていたせいで、昨日は半日ガッツリとシフトを入れられていた。午前中は、彼女とデート出来ていないのだ。それを思うと、仁と英雄は素直に肯定出来なかった。
「巣平君こそ、昨日は……」
「午後は彼女と過ごせたから、大丈夫だよ。昨日一日、ずっと頑張ってた鳴洲や倉守の方が大変だったろ?」
そう言って、爽やかな笑顔を見せる巣平君。良い奴である、とても良い奴である。
ちなみに彼の恋人は、隣のクラスの女子生徒。幼馴染であるらしく、彼の為に野球部のマネージャーを務めているらしい。
「そういえば、鳴洲君も倉守君もめっちゃ仕事してくれたんだよね」
「二人とも、ありがとね~!」
道端さんと猪里さんの言葉に、人志と明人は笑顔で頷く。
「ま、俺は全然ヨユーだったからさ! 気にすんなって!」
「うん、皆が楽しめたみたいだし。頑張った甲斐があったね」
ちなみに三好さんは一年上の先輩とお付き合いしており、幸いな事にそれがバレていなかったので朝と昼過ぎのシフトだけだった。こちらはゆっくりデート出来たらしい。
「……鳴洲」
「ん? どうした、委員長」
いつもは人志に小言を言うのが、この委員長なのだが……今の彼女は、チラッと人志を見ながら口元を緩めていた。
「いや、別に……ただまぁ頑張ってた鳴洲は、カッコよかったんじゃない?」
「マジ? そう言って貰えると嬉しいわー!」
委員長の頬がほのかに赤く染まっているのを、仁達は見過ごさなかった。
――これは、来たね!!
――うん、これは来ているな。
――何だか人志が真面目になったら、やたら事態が好転している気がするよ。
――ふむ、これは面白い観察対象ね。
――ん~、古き良きラブコメの波動を感じる。
――ここはやはり、余計な事はせずに要観察で行きましょ?
――おう、異議なしだ!! 今の鳴洲なら、変な事にはならねぇよな!!
人志と委員長のやり取りに、仁達は視線だけで会話する。グループ通話もできる視線って、何なのだろうか。
************************************************************
その日の夜、AWOにログインしたジン達は来客を迎えていた。
第三エリアへの道を探す事と、料理バフの検証。【七色の橋】はその活動を進めるにあたり、交友関係にあるギルド・プレイヤーへと声を掛けた。
そんな彼らの呼び掛けに応えたのは、【桃園の誓い】と【魔弾の射手】。そしてソロプレイヤーである、リリィ・クベラ・マキナだった。残念ながらユージンは別件で立て込んでおり、今回は参加する事が困難だそうだ。
さて、まず全員が集まったのは【七色の橋】のギルドホーム。全員が共通してポータルを有効化しているという条件に合致しているのが、ここだからだ。
何故、全員が共通して有効化しているか? ヒント、披露宴。
「今回は、我々の呼び掛けに応えて貰って感謝します」
今回の件を呼び掛けたのは【七色の橋】であり、扱いとしては主催ギルドとなる。その為、代表してヒイロが一礼すると、ケインとジェミー……そしてリリィ・クベラ・マキナは穏やかな笑みを浮かべた。
「なに、同盟ギルドとしては逆にありがたいさ」
そう言って、ケインはヒイロにサムズアップしてみせる。
元より彼等は、同盟前提で結成された二つのギルド。第三回イベントでも、協力して参加していたのだ。彼等からすると、【七色の橋】との共同戦線は望む所である。
そんなケインの言葉に続くのは、【魔弾の射手】のギルドマスター・ジェミーだ。
「私達としても、ありがたい話だったのよ。やはり悪目立ちしてしまうから、正体がバレたらちょっかい出されそうだもの」
彼女達のギルドは、銃で武装した異色のギルド。第二回イベントでの戦績を考えると、いらぬちょっかいを受けかねないという懸念も頷けるだろう。そうすると、周囲に味方が居る今回の状況は渡りに船である。
「私もです。第三エリアへ到達するにしても、どこかのパーティに入れて貰うしか方法が無いので……」
「それもそうだね。俺としてもこのメンバーなら、背中を預ける事に躊躇いはないかな」
リリィとマキナはソロプレイヤーなので、どこかのパーティに混ぜて貰う必要がある。その際、やはり重要なのが信頼できる相手か否か。
この点は特に、リリィにおいては死活問題となる。女性であり、アイドル活動をしているのだから知名度は当然高い。そんな彼女を……なんて考えを抱く輩が相手ならば、一大事だ。
マキナはマキナで、ソロプレイヤーとしての活動が長い。故に、信用ならない相手と組むのはごめん……という考えらしい。
そんな彼が最初からこの合同探索に乗り気なのは、やはり呼び掛けた主催者……【七色の橋】というギルドを見て、知り合い、信頼するに値するギルドだと確信したからだろう。
「それに【七色】に声掛けて貰うって事は、少しは信頼して貰えとるからや思てなぁ。そんなん、断る手は無いっちゅーこっちゃ」
クベラの言葉に、他の面々も笑顔で頷く。
この【七色の橋】は、過去三回行われたイベントにおいて優秀な成績を残し続けている。そんなギルドからの呼び掛けを、フイにするのは勿体無い……そういう意識が働くのも、無理はないだろう。
更に言うと、ジン達は身内で結成したエンジョイ勢。その結束力は、他のギルドとは一線を画すと言って良いだろう。
そんな相手から、協力要請を受ける……それが意味する所はつまり、自分達と【七色の橋】の間に信頼関係が成り立っているという事に外ならない。
「それじゃあ、メンバーの振り分けについて相談しようか」
「エリア探索は基本的に、一パーティで行動するのよね?」
ケインとイリスが、この先の活動について話を促す。すると、マキナやリリィもそれに応じ始める。
「あとは念の為、コンビやトリオ単位での行動も出来る様にした方が良いのでは?」
「各方面に八人前後を配置するのが、得策でしょうね」
それにヒイロやレン、ジェミーも続々と発言する。
「そうですね。あと、今回は料理バフの検証もしなくては……」
「そっちのメンバーについても、話し合いが必要ですね」
「じゃあ、各ギルドの代表者……それとソロの人達で話し合って、担当を決めるのはどうかしら」
パーティメンバーが一つのギルドに統一されていない場合、その上限人数は八人。故に重要になってくるのは、バランスだ。
それらを上手く振り分ける為に、ヒイロ達は意見を出し合っていく。
……
メンバーの振り分けは、話が長引く事が予想される。故に、代表者がギルドホームの会議室で打ち合わせをする事になった。
【七色の橋】はヒイロとレン、【桃園の誓い】はケインとイリス。【魔弾の射手】からは、ジェミーとクラウドが代表として参加。そしてソロプレイヤーのリリィ・クベラ・マキナである。
その間に、ジン達は探索やバフ検証の準備を進めていく。
「今の内に、耐久が下がっている装備の修復をしたいんだが……」
「あぁ、俺もお願いしたいな」
一部のプレイヤー以外は、装備の耐久値という物が存在する。それを放置すると、装備が壊れてロストしてしまうのだ。
「は、はい……う、う、承り、ます……」
「あ、私、手伝いますね……」
カノンとボイドに加えて、メイリアが装備メンテナンスに名乗りを上げた。三人で分担し、次々と装備を修復していくのだが……。
「あ……」
「はい、これですね」
「あ、ありがとう……」
年下であり、かつ物静かなメイリアだ。威圧感などは無く、カノンからすると一緒に作業をする事が苦痛ではない。
更に周囲をよく見ているのか、カノンが次に欲しい物をサッと用意する。カノンも最初は萎縮していたが、想像以上に作業がしやすい。
同時に、探索班が必要とするのはポーション等の消費アイテムもである。そしてハヤテとケイン・ゼクス、【魔弾の射手】が使用する弾丸。ヒメノが使用する砲弾も、しっかりと用意しておかねばなるまい。
なので【七色の橋】の工房では、皆で分担して消費アイテムの準備に勤しんでいた。
ポーション製作は魔法職メンバー、弾丸と砲弾製作は銃持ちメンバー。他のメンバーは料理バフ検証用の食材や、消費アイテムの素材を準備だ。
そうこうして、ゲーム内の時間としては一時間が経過した。工房で作業しているメンバーを、ヒイロが呼びに来たのだ。それはつまり、メンバーの割り振りがついに確定した事を意味する。
―――――――――――――――――――――――――――――――
■[ヴォノート砂漠]探索チーム
【七色の橋】ジン・ヒメノ
【桃園の誓い】フレイヤ・ドラグ
【魔弾の射手】レーナ・ジェミー
■[ランドル鉱山]探索チーム
【七色の橋】ヒイロ・レン
【桃園の誓い】ゼクス・チナリ
【魔弾の射手】ミリア・メイリア
【フリーランス】リリィ
■[ブラウ海岸]探索チーム
【七色の橋】ハヤテ・アイネ・ヒビキ・センヤ
【桃園の誓い】ケイン・イリス
【魔弾の射手】ビィト
■[クレイドル大草原]探索チーム
【七色の橋】シオン・ネオン
【桃園の誓い】ダイス
【魔弾の射手】シャイン・ルナ・クラウド
【フリーランス】マキナ
■料理バフ検証チーム
【七色の橋】ミモリ・カノン
【桃園の誓い】ゲイル
【魔弾の射手】ディーゴ
【フリーランス】クベラ
―――――――――――――――――――――――――――――――
実に、他意のある……むしろ他意しか感じられない編成である。これは会議の場で、あのお嬢様が率先して発言したからではなかろうか。小悪魔ムーブ、健在なり。
ちなみにパーティ単位で行動する場合は、各自がその時に適したPACを召喚する事で対応する方針だ。
ちなみに料理バフの検証については、ある程度メンバーが確定していた。
まず【七色の橋】において料理専任担当となるアイネだが、同時に彼女は立派な戦力だ。そこで、ミモリとカノンがある提案をしたのである。
「アイネちゃんは前線に出て貰って、検証は私達がやる方が良いと思うの」
「も、元々……生産職だから……」
との事だった。メンバー内で協議した結果、料理バフの検証はミモリとカノンが引き受ける事となった。料理部門第二位という快挙を成し遂げたミモリならば、適任。それも理由の一つであった。
そして【桃園の誓い】は、参加させるならばイベント入賞者のゲイルが良いと話が付いていた。
こちらも納得の人選なのだが……レンとしては、フレイヤと組ませたかったのが本音である。それを一切顔に出さないのは、流石というべきか。
【魔弾の射手】からは、ディーゴ。彼がこの役割を担うのは、ギルド内で最も料理に精通しているからだそうだ。彼も料理部門第十一位という、あと一歩の所まで来ていた。それを説明されると、照れくさそうに視線を泳がせていたのだが。
そして更に、クベラも料理バフ検証班に名乗りを上げた。商人プレイヤーである彼は、食材の情報も多く持っているからだ。
一方、探索チームのメンバー振り分けはそれなりに難航した。
ギルドとしてのバランス、そしてコンビ・トリオとしてのバランス……最終的には、八人一組のパーティとしてのバランスを考えなければならないのだ。
そこで代表者達は、メンバーが担う主な役割をある程度固定した上でメンバーを割り振る事にした。
分散するとはいえ、いざとなったらパーティ単位での行動になる。そうなると、パーティに必須の役割があるのだ。攻撃役、盾役、回復役だ。これらが偏らないように配慮しなければ、いざという時に全滅も有り得る。
勿論、攻撃役や盾役も複数種類が存在する。物理攻撃と魔法攻撃、通常盾と回避盾も分けて考えなければならない。
そうしてヒイロが考えた草案を、他の会議参加者が補足・調整。こうして振り分けが完了したのだ。
「これで、どうだろう?」
代表してヒイロが問い掛けるが、誰からも反論意見はない。
「うん、異議無しみたいだね」
「それじゃあ、これで始動……で良いかな?」
ケインとジェミーの言葉に、全員が頷いた。これでいよいよ、第三エリア到達に向けて行動開始である。
……
さて、このメンバーの中に一人紛れ込んだスパイ・ドラグ。彼はこの三ギルド(+α)の情報を得るべく、常々目を光らせていた。
プレイヤーレベルや、ステータス構成。所有するスキルに装備、レアアイテム。それらを暴き、情報を本当の仲間達に送る。そうして過ごして来たのだが……今回は、そううまくはいかないようだ。
――今回の探索だと、俺はフレイヤとコンビか……本来なら、【七色】か【魔弾】と組みたいんだがな。しかし今更、他のメンバーと組みたい等と言う訳にも……。
既にここまで話が進んでいる中で、メンバー入れ替えを申し出る。それはつまり、更に探索時間が減るという事に他ならない。更に言うと、組まれたメンバー構成は理に適っていると言わざるを得ないのだ。
ドラグもそれを理解している為、NOとは言えなかった。しかし内心は別で、他のメンバー……特に【七色の橋】と【魔弾の射手】の情報を、自分の目で確かめたいというのが実情である。
――せめて、策がハマってくれたら良いんだがなぁ……。
次回投稿予定日:2021/7/13(幕間)
【七色】【桃園】【魔弾】という豪華メンバー。
エリアボスの冥福を祈ってあげて下さい。