11-12 幕間・とあるギルドのホームにて
仁達が仲間内で集まり、打ち上げをしているその頃……アナザーワールド・オンラインの中にある、とある一軒のギルドホーム。そこに、一人の少女がログインを果たした。
「来たか……」
「待っていたわ」
すると男女問わず、彼女を出迎えるギルドメンバー達。どうやら、彼女ともう一人がログインするのを待ち構えていたらしい。
「あの子はまだのようね……会長と副会長は?」
「あぁ、お前達の帰還を今か今かと待ちわびている」
そこへ、もう一人の少女……彼女と現実でもゲーム内でも、行動を共にする相方がログインして来た。
「お、集まってる。待たせた?」
「私もちょうど来た所よ。それじゃあ、行きましょう」
その言葉に従い相方……そして彼女達を待ち構えていた者達が、揃って歩き出す。
行き先は、ギルドホームで一番広い部屋……主に会議の為に用意されたスペースだ。
その上座に、一人の黒髪ロングストレートの女性が正座をして瞑想している。凛々しい顔立ちで、歳の頃は二十代前半くらいか。
その傍に佇む、二十代後半から三十代前半と思しき男性。短く切り揃えられた黒髪に、精悍な顔立ちの持ち主だ。
二人が身に纏うのは、黒い和装である。その背後に置かれているのは、一振りの刀……小太刀だ。
「お待たせしました会長、副会長」
「ただいま戻りました」
二人の少女が声を掛けると、会長と呼ばれた彼女は閉じていた目を開いて二人を見る。
「よく戻ったね、二人とも」
そんな会長の言葉に、男性……副会長も二人に声を掛ける。
「御苦労だったな。予定などは大丈夫だったのか?」
二人に向けられたのは、労いの言葉だった。その言葉の中には、気遣う優しさが多分に込められている。
「私らは大丈夫ですよ、こっちの方が大事ですし」
「えぇ、私達にとってはこちらの方が、優先順位が高いんです」
二人がそう言うと、会長と呼ばれた女性・副会長と呼ばれた男性は穏やかに微笑む。
そして次の瞬間、会長は表情を引き締めた。
「では……報告を頼む」
厳格さを感じさせる声に、呼び掛けられた二人も背筋を伸ばす。
「では、僭越ながら私から。実は……」
片方の少女が重々しい雰囲気を醸し出すと、その場に集まった全員に緊張が走る。
「なんと!! 頭領様とお姫様が、私達の占い同好会の出し物にお越し下さいました!!」
「いよっ!! ドンドンパフパフー!! ココロが占いました!! 私は案内役でしたっ☆」
「「「「「な、なんだってーっ!?」」」」」
「それは真か!?」
「やったではないか!!」
はい、お察しの通りここは【忍者ふぁんくらぶ】のギルドホームでございます。
「リアル頭領様に、リアル姫様……なんと羨ましい」
「それは二人共、最高の一日だっただろうな」
「ですです! 最高過ぎてテンション爆上がりですよ!!」
「ココロ! お、お二人とすぐに解ったのか?」
「頭領様は同じ学校ですから、事前に把握していました」
「げ、現実のお二人はどんな感じだった? あ、言えない事は言わなくていいからな!」
「えーと、頭領様は……まぁゲームとは髪型が違うかな」
「そ、そうね。あ! 御姫様は髪の色こそ違えど、あの天使と見紛う程の愛らしさはアバターそのままです」
「姫様は現実でも天使なの!? マジか!!」
「くくくっ……コタロウ、口調が崩れているぞ? まぁ、気持ちは解らんでも無いがな」
一気に盛り上がる、ギルドメンバーの面々。彼等がホームに待機していたのは、イズナとココロの二人からジン達の文化祭の様子を聞く為であった。
聞いてどうするのか? 決まっている……その話を肴に飲み食いするだけ、つまりジン×ヒメ祭りである。あと、イズナ&ココロの文化祭お疲れ様会。
尚、現実の仁は右足に障害を抱えている……その情報は明かせはしない。それ以外にも元・陸上界期待の星だったとか、言っちゃダメなやつだ。
そうなると、現実のジンはどうだった? という問いに返せるのは、髪型くらいである。
ヒメノに関しては、アバターが可愛いのは弄っているからじゃないよ……というもの。それくらいしか、見た目では判断できないのだ。
「ちなみにココロが占った、お二人の結果はどうだったんだ?」
会長……プレイヤーネーム【レイチェル】がそう声を掛けると、ココロがウットリとした様な顔を浮かべる。
「頭領様は強烈なスター性を示す手相で、御姫様は神に愛されているとしか思えない手相でした」
「ふむ、あのお二人は流石だな」
ウットリしているココロの横で、レイチェルが腕を組んでウンウンと頷いていた。
さて、この会長……つまりギルドマスターを務めるレイチェル。実は彼女、第一回イベントで貢献度19位にランクインした猛者である。
かつてはよく行われており、今ではめっきり減ったアーク主催のレイドパーティにも参加していたソロプレイヤーだった。その頃の彼女は、騎士風の女性プレイヤーとして注目を浴びていたのだが……【七色の橋】が和装や刀を販売し始めると同時に、取引掲示板に張り付いて即購入した強者である。
彼女が何故、【忍者ふぁんくらぶ】を率いる立場になったのか? それは第一回イベントで、運命の出会いを果たしたからだった。
彼女はあのイベントで、南門の戦いに参加していた。そこで目の当たりにした、ヒメノの猛威。しかしそんなヒメノが朱雀に押し潰されそうになった、その瞬間現れたあの人。
そこから始まる、その時点では無名だったプレイヤー・ジンの戦い振り。そして忍者ムーブに、彼女はトゥンク……してしまったのだった。感性がヒメノに近いのかもしれない。
そして、第一回イベントから少し経ったある日、彼女は更に運命の出会いをしてしまった。それがギルド【忍者ふぁんくらぶ】設立者にして、現在は副会長である同志・コタロウだ。
騎士団詰め所で偶然出会い、【忍者ふぁんくらぶ】設立を聞いたレイチェル。その場でギルド加入を希望した際に、コタロウが彼女に提案したのだ。
「俺自身はギルドを率いる程の力量は無い……貴女が率いてくれないか。俺は、それをサポートする」
彼もまた、レイチェルが自分と同じ……同担だと確信。そこで、より実力のあるレイチェルに会長を務めて貰う事となった。
こうしてレイチェルとコタロウ率いる【忍者ふぁんくらぶ】は、日頃の地道な勧誘とジン達の活躍によってメンバーが増え……現在、四十名を突破していた。【七色の橋】より多いというか、もう中規模ギルドじゃないですかヤダー。
実はそんな四十名の中に、実はアレク達のスパイが紛れ込もうとして……失敗していた。
理由は加入希望者からは「ジンに対する敬意が全く感じられないから」というものであった。逆に言うと、この四十人はそれが感じられるという事である。
さて、その敬意とやらだが……。
「このめでたき日に恐縮だが、私から一つの活動成果を報告させて頂きたい! 頭領様の肖像画が完成したのだ!!」
「「「「おー!!」」」」
「素晴らしいではないか、ディルク!!」
「うむ、その肖像画は我々にも見せてくれるのかな?」
「無論!! 無論でございます!! こちらです!!」
ディルク氏が描いた肖像画……実に良い出来だった。
「これは見事!!」
「うむ、ポーズも良いな。頭領様の凛々しさと爽やかさがよく表現されている!!」
「素晴らしいぞ、ディルク!! なぁ、これをそこの壁に飾らないか?」
「よろしいのですか!? 光栄の至り!!」
「ヘルマー、お前のはまだ完成しないのか?」
「頭領様の像か? あと三日もあれば完成するぞ。時間加速様々だな」
「それも楽しみだな、完成したら玄関広間に飾るのはどうだ?」
「そうして頂けると、俺も仕上げに熱が篭ります!! お任せを、副会長!!」
「ふむ……他に何か製作している者はいるか? 全力でバックアップをしようではないか」
「会長! 私は【七色の橋】フィギュアの作成について構想を練っています!!」
「是非、マイルームに飾りたいな!! 言い値で買おう、採用!!」
こんな感じである。
もしここにスパイが潜入出来ても、ついていけなくて音を上げるか……それか、洗脳されて身も心も【忍者ふぁんくらぶ】の一員となるか。恐らく、この二つに一つだろう。
ちなみに余談ではあるが……数あるファンギルドの中で最も活動が盛んなのは、言うまでも無くこのギルドである。
次回投稿予定日:2021/7/10(本編)
作者は脱法■ック聞きながら今回のお話を描いていました。