11-10 幕間・とある魔法職の独白
【微糖注意報】
糖分供給源が【七色の橋】だけとは限らない。
来てしまった……いや、ここにあの人が居るかは解らないけど。
AWOの中で、あの人は「今週の土日は文化祭がある」と言っていた。珍しく、現実の事を口にしていたので印象に残った。嘘です、あの人の言葉だから覚えていただけです。
そうしていたら、気になってしまって……気が付けば私は、この県の高校の予定を調べてしまった。だ、だって!! 気になったんだもん!! あの人の住まいが、この県だという事は雑談の中で聞いていたし!!
そしてこの県で今日、文化祭をやっているのはこの日野市高校だけだったのだ。
ヤバい、私ヤバいよね? あの人の事が気になるからって、居場所特定して押し掛けるとか……ストーカーじゃないし!!
や、やっぱり帰ろうかな……?
しかし、朝早くから行動していた私のお腹は正直だった。自分の腹部から空腹を訴える音が鳴り、せめて何かを食べてから帰る事にするのだった。
……
校庭の出店は人だかりが出来ていたので、私は校内の方へと向かう事にした。何だか、変なテンションの人が多いのは何でだろう。
「ほ、星波君に……彼女が……」
「絶望した……!! 今、ソウル○ェム持ったらマッハで真っ黒になる……」
「何故、寺野にあんな、可愛い恋人が……俺なんて、女子にキモがられてるのに……」
あぁ、うん。カップルでも目撃してしまったのかな。
……だ、大丈夫だよね? あの人、彼女とか……居ないよね?
そして私は、とある教室に気が付いた。へぇ、喫茶店かぁ。こういう文化祭の喫茶店は好き。皆で頑張って手作りしたお店の雰囲気とか、努力を感じられるんだよね。
うん、このお店で軽く食べて帰ろう……ストーカーみたいな真似は、もうやめよう……。
と思っていたら何か、目立つ集団が居た。美男美女揃いのその一団……色々ツッコミどころはあるんだけど、私にとってはある一点がすべてである。
そこにAWOにおける、私達【聖光の騎士団】にとって最大のライバルギルドの面々が居た。どこからどう見ても【七色の橋】です、本当にありがとうございました。
え、何でぇ!? い、いや……そうだ、あの人が言っていたじゃない。【七色の橋】のギルマスと忍者さんは、同じクラスなんだと。
あれ? 彼等と話している二人の生徒……え!? ま、まさか……!?
「あ、いらっしゃいませ! お一人ですか?」
ライデンさんっ!? ゲームより若いけど、面影がある!! う、嘘……本当に!? ハッ、黙っていたら迷惑だよね!!
「は、はい! 一人です!」
「では、お席にご案内致します。こちらへどうぞ」
……AWOとは違うけど、やっぱりライデンさんだぁ……。
それにしてもライデンさん達と【七色の橋】以外、お通夜モードみたいなんだけど……。
************************************************************
サンドウィッチとコーヒーを味わいながら、私はライデンさんを見ていた。隣はもしかして、ギルバートさんかな。うん、アバターが派手派手な分、地味に見える。可もなく不可もなしって感じだ。
二人は【七色の橋】と楽しそうに会話していて、第二回イベントの事件は無事に解決したのだと実感出来た。
しばらくして、【七色の橋】の人達が店を出た後。それを見送ったライデンさんとギルバートさんが、笑い合っている。
「明人、ありがとな。お前が居てくれたから、仁達と和解出来たと思うんだ……」
……ギルバートさん、もっとライデンさんに感謝して。ほら!! もっと感謝して!!
そして、ライデンさんは本名はアキトさんって名前なんだなぁ……うん、素敵な名前。いや駄目だ! 今の私、かなりヤバい人だ!
一目見る事ができただけで、満足しよう。名乗り出たって迷惑だろうし、帰ろう……私は彼のネトゲ仲間、それだけで十分だよ、うん……。
伝票を手に、私は会計へと向かう。しかし、会計の人はそこに居なかった。
「あ、あれ?」
私が戸惑っていると、慌ててライデンさんが来た。
「済みません、会計の担当が席を外してしまっていまして……伝票、お預かりしますね」
流石、よく見てるなぁ……ライデンさんは、いつだって視野が広い。パーティやギルド全体を見ているライデンさんと、目の前のアキトさんが同一人物なのだと解る。
しかしながら、よく見ているのはそれだけではなかった。
「……あれ? もしかして、ルー?」
え?……え!? バレた!? 確かにアバターは、リアルからそんなに、弄ってないけど!
私が黙っているからか、ライデンさんはバツが悪そうに頭を下げる。
「あ……失礼しました。済みません」
ノー!! ルーです!! 私、ルーなんです!!
「い、いえ……あの、ライデンさん……ですよね?」
「あ、やっぱりルーだった。奇遇だね、今日は遊びに来たの?」
き、気付いてくれたなんて……!! でも、それまでの経緯を考えると罪悪感が……!!
「え、えぇと……まぁ」
この場でストーカーまがいの事をしたと聞いたら、ライデンさんの文化祭を台無しにしてしまうかもしれない。後で、AWOで会った時に謝ろう……。
「ゆっくりしていってね。今日はずっと店にいるから、何か困った事があったら声を掛けて良いよ」
優しくされたら、泣いちゃいそうです。
「はい……ありがとうございます」
************************************************************
昼休憩の時に少し時間があるというライデンさんと、ギルバートさん。二人に誘われて、私は一緒にお昼御飯を食べる事になった。罪悪感、パネェ……。
「へー、隣の県なのか。しかも同い年とはねー」
ギルバートさんこと鳴州さんがウンウンと頷くが、今までの様な下心を感じない。逆に違和感だけど、本来はこれが普通なんだよなぁ……。
「豊塚さんって呼んでもいいのかな? アバ名だと、ちょっとアレだよね?」
「あ……はい、その……麻衣でも、大丈夫です、ハイ」
明人さん……現実では地味目な見た目だけど、穏やかな口調と態度は大人っぽさを感じる。鳴州さん? うん、まぁ……アバターほど超美形ではないけど、普通な感じ。良くも悪くもない……この評価に、他意は少ししか無いよ。
「でも、わざわざここまで良く来たね。知り合いでも居るのかな?」
「……えぇと、それは……」
口ごもる私を見て、鳴州さんが何かに勘付いたらしい。徐に席を立つ。
「わり、ちょっとトイレ」
そそくさと去って行く鳴州さん……まさか、気付かれたかな。
隠し通すのは、私のなけなしの良心が咎める。素直にバラして、謝ろう……。
「今日、文化祭だって……言ってましたよね」
「あぁ、ゲームでも話してたね。準備とかで、いつもよりログインが遅くなるから」
「……今日この地域で、文化祭をやってるのってココだけで……」
調べてしまった事を、彼は気付いたらしい。
「も、もしかしたら……ライデンさんに、会えたりしないかと思って……その、ごめんなさい」
気持ち悪いと、思われてないかな……嫌われたり、しないかな……。
そんな恐怖を、明人さんが解消してくれた。
「そっか、わざわざ会いに来てくれたのか……会えて嬉しいよ、麻衣さん。良かったら、連絡先交換してくれないかな?」
気持ち悪がられてない? 嫌われてない? 不気味じゃない? 私の不安を拭い去るように、明人さんが優しく微笑んでくれる。
「は、はい……!!」
「ありがと、良かったら連絡してね」
……あぁ、私はやっぱりこの人が好きだ。
次回投稿予定日:2021/7/5(本編)
「あれ? 鳴州と倉守は?」
「昼休憩。流石に一日中、働かせはしないよ」
「ふーん……で、あいつらに彼女が居たら?」
「一日中、みっちり働いて貰うに決まってんだろ?」
「最低だな、お前……」