11-08 文化祭デートを開始しました
えー、なんと200部分になるんですよね……今回の投稿。
なのでまぁ、特別な回にしようかなと思ったんですけどね?
ここはやはり、ジン×ヒメ祭りでおk?
ジン×ヒメフェスティバルで良いよな!?
需要と供給は一致するはずだよな!?
答えは聞いてない!!
それでは今回も、糖度上げていくぞ!!
準備は良いか!?
【 過 糖 警 報 】
一年A組……そこに現れた十二人の客は、とてつもない混乱を巻き起こした。
クラスメイトである仁と英雄に、恋人が居たという衝撃の事実。それも共に、超絶美少女。
更にその友人である美少女三人のうち、二人も恋人と一緒に居る。となると、美人なスーツ姿の女性と、美人女子大生コンビ……そして、彼氏が居ないっぽい美少女。この四人に男子生徒達の意識が向くのも、無理はないだろう。
ちなみに女子はお通夜ムード真っ只中だ。仁や英雄狙いの女子は軒並み、元気を失くしている。
和やかに軽食とコーヒーを堪能する彼等に近付ける者は、二人しか居ない。当然、人志と明人である。
「アキさんとは、色々と話をしたいっスねぇ! 今度、ホームに遊びに来ません?」
「良いのかい? 僕も隼君とは気が合うみたいだし、色々と話したいなぁ」
「すっかり意気投合しましたねぇ……」
「良いじゃん、仲が良いのはいい事だよ!」
「……その時は、鳴州さんもご一緒にどうぞ」
「い、良いの? そしたら仁に、相談したい事もあったんだよ……!」
「お、良いよー! 良いよね?」
「仁君が良いなら、勿論」
二人はすっかり、【七色の橋】と仲良くなっていた。
さて、そんな目立つ集団だ。向けられる視線は少なくない、むしろ多い。
「……見れば見る程に、悔しいですッ!!」
「突然のザブ●グルやめーや」
「だってよぉ……!! 見ろよ、星波と彼女さんを……!!」
「……ムカつくくらい、お似合い過ぎる……悔しいですッ!! ハッ!?」
「だろ?」
「寺野君と、星波君の妹さん……凄く解り合っている感が凄い……」
「妹ちゃん、ずっと寺野君を意識してるよね……」
「何だろう……こう、見ていて安心する感じ……」
「寺野君寺野君寺野君寺野君寺野君……」
「おーい、誰かー? 根津さんが壊れたー」
「……そっとしといてあげて」
「あれが、寺野君のイトコなんだって」
「隣のポニテの娘、やっぱ彼女さんなのよね……?」
「待った!! イトコが来年ウチに入学すると思うって、寺野君が……!!」
「マジか……!!」
「だとしても彼女居るんじゃあなぁ……」
「あ、あの子……女の子? 女の子だよな?」
「どう見ても男子の制服だ……信じ難い事に」
「あんなに可愛い子が男のはずが……」
「現実を見ろぉっ!! あれは男子だ!!」
「道を踏み外しそう……」
「……うわぁ(引き)」
そんな混乱冷めやらぬ教室内にあって、仁達は普段通りだ。神経が図太い……というか、恐らくはAWOで相当にメンタルを鍛えられている。
「この後はどうする?」
英雄の問い掛けに、恋が申し訳なさそうに自分の要望を口にした。
「折角の機会なので……出来れば、二人でデートが出来たら……」
珍しく、小悪魔ムーブしてない恋様のおねだりである。これには英雄も驚きを禁じえない。
「あ、行っておいで行っておいで。私達は、適当に回るわ。ね、紀子」
「う、うん……昨日の内に、そうしようって、和美と……相談してて……」
「私も、適当にふらっと見て回ろうかと思ってます」
「優様、お一人では何かあるかもしれません。優様も大変、お可愛いですから。私でよろしければ、ご一緒致します」
お一人様勢は、最初からそのつもりであったらしい。これには、四組のカップルは申し訳なさそうなのだが……。
「文化祭が終わるのは四時なのよね? それなら、二時半くらいに合流して残りは皆でのんびりするのはどうかしら」
「えと、良いんでしょうか……」
遠慮がちな姫乃の態度に、提案した和美が満面の笑みを浮かべる。
「本当に可愛いなぁ、姫乃ちゃん! 良いのよ、お姉ちゃん達に甘えなさーい!」
姫乃を抱き締める和美は、本当に楽しそうである。
彼女にとって、イトコの恋人である姫乃や愛……そして恋や千夜・優も妹同然の存在。故に、甘やかすのはお姉ちゃん的にオールオッケー。皆の素敵なお姉ちゃんな和美なのだ、姉を名乗る不審者ではないのだ。
和美だけでなく、鳴子や紀子、優も異論は無いらしい。結局仁達は、四人の厚意に甘える事となったのだった。
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仲間達に後で会おうと約束し、仁と姫乃は二人で校内を回る事にした。
「仁さんの学校……凄く楽しみです!」
「初音女子大付属より、設備も敷地もランクが下がると思うけどね」
腕を組んで歩く二人は、実によく目立つ。周囲の生徒や教師の視線が集中するのも、無理はないだろう。片や杖を突いたスポーツマンっぽいイケメン、片や近未来的なカチューシャ風の物を着用した美少女である。
しかし周囲の視線もなんのその、二人は自然体で廊下を進む。この程度の視線は、AWOで散々向けられて来たのだ。
「ヒメは何か、見たいものとかある? 食べる系とか、遊ぶ系とか」
「そうですねー、ジンさんのクラスで少し食べられましたから、遊ぶ系が見てみたいです」
「オッケー、それじゃあ……あれなんてどうかな? 輪投げだって」
廊下の突き当りにある教室が、輪投げゲームの看板を出している。そこは二年D組の教室だ。そこまで人で賑わっている様には見えないし、周囲を気にせずにゲームが出来そうだ。
教室に入ると、室内はお祭りに相応しい飾り付けがされていた。出し物が輪投げというシンプルなモノだったからか、装飾に気合が入っている様に見える。
「いらっしゃい……ませ! 二名様でしょうか?」
二年の女生徒は、二人を見て一瞬言葉を詰まらせた。杖を突いた少年が、他校の制服を着込んだ美少女と密着といって良いレベルで腕を組んでいれば思考がフリーズしても仕方がない。
しかし、彼女はすぐに笑顔を繕い直して接客に戻る。もしかしたら、接客業のアルバイトでもしているのかもしれない。この女生徒、強い。
「はい、二人で」
「それでしたら、右奥の二人用のスペースへどうぞ! 一人五本まで投げられますよ!」
テキパキと説明してくれる女生徒にお礼を告げて、二人は右奥のスペースへと向かう。そこの担当の男子生徒は、何故か背筋を伸ばして待機していた。
「ようこそ、こちらは二人用の輪投げゲームになっております! そちらの黄色いラインテープの位置から、輪を投げて下さい! 交互にやると、盛り上がりますよ!」
二人用のスペースには、輪投げ用の立てられた棒。その根本に、景品が置かれていた。
その中に、小さなペアのテディベアの縫いぐるみがある。姫乃はそれを見て、ポツリと呟く。
「可愛い……」
「ん? あ、あのテディベア? 確かに可愛いね」
二人の狙いはひとまず、テディベアに絞られた。
輪っかを受け取り、いよいよゲーム開始だ。
「まずは、私が行ってみますね!」
「うん、頑張れヒメ」
黄色いテープで設定されたラインに立つと、姫乃は真剣な表情でテディベアを見つめる。
その後ろ側に居る男子が、姫乃のスカートの裾に視線を送っていたので、仁はそれを遮る様な立ち位置へ。痛いくらいの視線を背中に受けるが、仁はどこ吹く風だ。
そんな事は露知らず、姫乃は意を決し……そして、輪を投げた。遠巻きに眺めていた女子生徒が、その瞬間に姫乃の胸がたゆんっと揺れたのを見て、死んだ魚の目になっているのは気にしない。
「あ」
「……隣だったね」
テディベアの隣にある、ペアのストラップの棒に入った。目的の物とは違ったが、景品ゲットだ。
「でも、うん……景品はゲットですね!」
残念には思うものの、幸いにも景品はゲット出来た。そう気持ちを切り替えて、姫乃は仁に場所を譲る。
「あぁ、交互にやるんだっけ。じゃあ……行ってみるか」
黄色いラインに立った仁は、意識を集中させる。狙いは無論、テディベア。スッと構えて投擲態勢に入ると、手首のスナップを利かせて輪を放り投げる。
「……おっ?」
「わぁ……っ!!」
スポッと、輪っかが棒に収まった。それもドンピシャで。
「おおぉっ!!」
「綺麗に入ったわね、今……凄いわぁ!!」
「一発で一番人気のテディベアを……かっこよー!!」
「さ、流石は忍者……」
スタッフの生徒達や、たまたま居合わせたお客さんも関心しきりだ。というか、約一名……二人用スペースのスタッフ、AWOプレイヤーらしい。仁が忍者だと気付いていた様だ。
「仁さん、凄いですっ♪」
「あ、ありがと……実は、僕が一番驚いているんだけどね……」
別に、輪投げに自信があった訳ではない。自分が一番しっくり来る体勢で投げただけなのだが……思いのほか、綺麗に決まった。
――もしかして、アレかな? AWOで手裏剣の練習しているからかな?
実は、それが要因だった。
仁は現在、主武装である二刀小太刀だけではなく、投擲武器の練習も頑張っているのだ。鋳型を使って鋳造が可能になった、携行アイテムである。使わなければ勿体ないと、姫乃に付き合って貰って練習しているのである。
その練習の仕方は、地道な反復練習なのだ。最もそれは、仁の得意分野である。
一回は、武技【スロー】を使ったシステムによる投擲。次に、その動きを意識しながら九回。それを何度も何度も繰り返して、身体に投げ方を覚えこませるのである。無論、距離や的をこまめに変えながら。
そんな手裏剣や苦無の練習を、現実の身体も覚えていたのだった。
結局その後、姫乃が二回外して景品を三組……仁の輪っかは見事な精度で目標の棒に収まり、五組の景品をゲットした。
「仁さん、凄いですね! 全部、綺麗に入りましたよ!」
「うーん……多分、毎日練習しているアレのお陰かな」
アレと言われて、姫乃も頷いてみせる。仁の手裏剣・苦無練習に付き合っているのは、彼女なのだからすぐに気付いた。
「格好良かったです♪」
「ありがとう、ヒメ」
景品を手にして、仲睦まじく教室を出る二人。その背を見送る教室内の人々は、呆然としていた。
そんな静寂の中、ラブラブな二人を至近距離で目の当たりにした二人用スペースのスタッフ。彼が二人の姿が見えなくなった途端に、口を押えてしまう。
「ジン×ヒメ……リアルでもてぇてぇ……」
そんな言葉に、他の生徒も同意の姿勢を見せる。
「死ぬほど良く解る」
「尊いが過ぎる」
「もう嫉妬する気も起きない」
「異議は無いし異論は認めない」
どこぞの掲示板の様なノリに、客として来ていた人達は引き気味だった。
余談ですが、二人用スペースのスタッフ以外はAWOをやっておりません。掲示板民でもありません。
それでこのノリが成立するというこの事実、仁と姫乃の存在感の凄まじさよ。
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景品をゲットした二人は、そのまま校庭へ出ると出店へ向かう。
「へぇぇ……色々とお店を出してるんですね」
「ねー。たこ焼き、焼きそば、綿あめ、チョコバナナ、焼き鳥……おぉ、鈴カステラまで」
「あ、クレープ屋さん! 仁さん、クレープ食べても良いですか?」
「もちろん良いよ。一緒に行こうか」
そんな会話を交わしながら歩く二人は、実によく目立つ。周囲の視線が仁と姫乃に集中するのも、無理はない。
当然、声を掛けようと思い立つ者もいるのだが……それは出来ない相談だ。
――な、何故だ……何をどうしても、あの子を口説き落とせるヴィジョンが視えねぇ……!!
――無理だ、諦めよう……あんなどっからどう見ても相思相愛の二人の間に、割って入るなんて出来っこない……!!
――相手が悪すぎる……何なの、あの美少女は……!! あんな可愛い子と一緒に居たら、私ごときじゃ太刀打ちできない……っ!!
お邪魔虫にすらなる事が出来ない、モブ生徒達。戦う前から戦意を喪失させられるという、そんな事態に陥っていた。
多分、今の仁と姫乃に割って入ろうとするのは、相当な自意識過剰な人物でなければ不可能だ。例を挙げると、菅池某くらい。
クレープを買った二人は、幸いにも空いていたベンチに並んで座る。
「疲れていませんか?」
「大丈夫だよ。ヒメは、どう?」
「私も大丈夫です♪ むしろ、元気いっぱいです!」
現実で仁とゆっくり過ごせる、この文化祭デート。姫乃的には、最高のひと時らしい。浮かべる笑顔も、これまでにないくらい楽しそうである。
「おぉ……これは美味しい」
「本当ですね、凄いです! もしかしたら、クレープ屋さんでアルバイトしている人でも居たんでしょうか」
「かもしれないねぇ。クレープ屋さんの作ったものと比べても、遜色ないくらい美味しいよ」
そうしていると、姫乃がふとある事を思いつく。
「仁さん、私のクレープ……一口どうですか?」
そう言って、姫乃は自分の手に持っているクレープを差し出してくる。
「良いの?」
「はい! ささ、あ~ん♪」
「じゃあ、お言葉に甘えて……あむ」
躊躇なく、姫乃のクレープを少しだけかぶりつく仁。周囲の人々が、クワッ!! と目を見開く。某PAC並の眼光である。
「うん、美味しいね。僕の方もどうぞ」
自分だけ一口貰うという選択肢は、あり得ない。差し出された仁のクレープに、姫乃は頬を赤くしながら微笑んだ。
「はいっ♪ あ~ん♪」
幸せそうな表情でクレープにかぶりつくと、姫乃はその味を堪能する。間接キスなのだが、言うだけ野暮ですね。
「あ、ヒメ。ちょっと待ってね……」
姫乃の口の端に、チョコレートソースが付いているのを見つけた仁。ポケットからハンカチを取り出して、その手を伸ばす。
「あ……えへ、ありがとうございます」
「ううん、良いんだよ」
「「「「あまああああああああああああああああああああい!!」」」」
どこぞのお笑い芸人の鉄板ネタ(ハンバーグではない方のやつ)の様な叫びが、周囲で巻き起こる。口から砂糖を吐き出しそうな人々が、何やら身悶えしている。
「あ、すんません……激辛のクレープあります?」
「俺、苦い奴で」
「メニューには無いので、一分で開発しますね」
「ごめん、ちょっとそこの唐辛子借りて良い?」
「あいよぉ!!」
二人の振りまくあまーい雰囲気に中てられて、辛い物や苦い物の店に人が殺到し始める。唐辛子入りのクレープとか、誰が得をするのだろうか。
……
「このストラップは、携帯に付けようか」
「お揃いですね♪」
手作りらしいストラップは、ビーズで製作された物だった。仁は青と白のビーズを使った物、姫乃は赤とピンク色のビーズを使った物を携帯に付ける。
「このテディベアはどうする?」
同じくらいのサイズで製作された、小さなテディベア。これも手作りの様だ。
「えっと、こっちの子は私が貰って良いですか?」
姫乃が手にしたのは、胸元にネクタイをしたテディベアである。もう片方は頭にリボンをしているので、こちらがオスなのだろう。
「そっちで良いの?」
「はいっ! 仁さんだと思って、枕元に置いておこうかなって」
そんな可愛らしい事を言われては、仁も異論は言えない。もともと、異論など無いのだが。
「じゃあ、こっちはヒメだと思って大事にするよ」
「えへへ♪」
少しのんびりして、二人は次のデートスポットに向けて歩き出す。
「ほかには、どんなのがあるでしょうか?」
「そうだねぇ……変わり種だと、占いとかあるよ。占い研究会っていうのがあるらしくて」
「わぁ、面白そうですね!!」
この後起こる展開、もう予測できますね?
主に部活動の部室が集まる校舎……生徒達は、部室棟と呼ぶエリア。そこに、件の占い研究会の店があった。
「いらっしゃいまs……」
受付の生徒が、仁と姫乃を見て固まった。二人の外見を見た生徒が、フリーズするのも今日で何度目だろうか。
しかし、原因はそれだけではない。
――ぎゃああああああああ!! 忍者様と御姫様アァァァッ!!
はい、こちらの女生徒は二年生の【浦島 伊栖那】さん。アバターネームは【イズナ】で、AWOをプレイなさっている方でした。しかもこちらのお嬢さん、ギルド【忍者ふぁんくらぶ】のメンバーです。
ちなみに【忍者ふぁんくらぶ】において、ジンは至高の存在として崇められている。そんなジンのお嫁様であるヒメノ……こちらも様付けは当たり前、聖母マリアもかくやというくらいの崇拝対象なのだ。ファンギルドェ……。
「ようこそお越し下さいました!! 今日は占いをしにいらっしゃったのでしょうか!!」
テンションアゲアゲ状態になったイズナさん、ビシッと敬礼しての接客である。忍者というより、軍隊でしょうか。
「え、えぇ……ど、どうかしましたか?」
「いえ、何一つお気になさらないで下さい!! 今日はどのような占いをご希望でしょうか!!」
敬礼モードを崩さない、イズナさん。彼女、相当に鍛えられていそうである。
「あの、どんな占いがありますか?」
可愛らしい笑顔を向けられ、イズナさんのテンションは更に上昇。テンションマックス、めっちゃメラメラだ。どこの魔進だろうね?
「はい、御姫様!! こちらのイチオシはやはり、恋占いです!! 最高の結果が解り切っていようと、間違いなくお二人にオススメするのはこちらです、サー!!」
「ちょ、ちょっと落ち着きませんか?」
「サー、イエッサー!!」
「こりゃダメだ」
ともあれ、興奮冷めやらぬイズナさんの案内でとあるスペースへと案内される二人。
「ヘイ、ヨルっち! 最高のお客さんよ!」
「はぁ、イズ? ここは占いの店なんだから、静かにしなさいよ……はぁ、課金したのに☆3しか……うわあぁ!! 現実の方で最高が来たぁ!?」
はい、こちらの女生徒は【来羅内 夜宇】さん。勿論、彼女もAWOにおける異色のファンギルド【忍者ふぁんくらぶ】のメンバーです。しかもなんと、こちらのヨルさんが第三回イベントで入賞を果たしたココロさんでした。
ちなみに現在、暇を持て余してソシャゲをやってガチャでリアルマネーをスッていたらしいです。そこに仁と姫乃が現れたわけですね。URではなく、URでしょうか。
「こ、恋占いですか!! 恋占いですね!! お任せ下さい、私に全て任せて下さい!! あ!! て、手相行っておきます? オススメです!! 私の手相占いは当たるって評判なんです、イズに!!」
いきなりテンションがマックスになったので、仁と姫乃は引き気味だ。しかし、真面目に占ってはくれるのだろう。
とりあえずは、席に座る二人。イズナはそんな二人の後ろに立っているのだが……受付の人が居なくなっても良いのだろうか。ダメですね。
「で、ではまず、女性の方から手相をですね……左手を出して頂けますか?」
「あ、はい」
姫乃が差し出した手を、ヨルさんは壊れ物を扱うかのように丁寧に取る。ルーペで姫乃の手相を見つつ、ヨルさんの脳は別の事を考えていた。
――デュフ、御姫様の手……やわらかぁ……。
コイツ、トリップしてやがる。しかしそれを顔に出さないので、姫乃は真面目に手相を見てくれているんだろうなぁとしか思っていない。
――うわぁ、スベスベしてる……モノホンの御姫様みたいで、手相も素晴らしい。あぁ、こんなに素晴らしい……すば……あるぇ?
「あれ?」
「え、ど、どうかしましたか?」
ヨルさんが思わず声を出したので、姫乃は不安に駆られてしまう。そんなに変な手相なのかな? と。しかし、逆です。逆なのです。
「イズ、ちょっ……私の見間違いじゃないよね? 見てよ、御姫様の手相……マジで最高じゃない?」
「え? ちょ、ちょっと済みません。ここがこうで、これは……何だ!? この、神に愛されているとしか思えない手相は!!」
「えっ、えっ……あの、手相はその、問題ないんですか?」
混乱する姫乃に、二人はキリッとした顔で頷く。
「問題ありません。あっても無いと言い張るつもりでしたが、その必要もありませんでした。お世辞抜きで、御姫様の手相は最高です」
「いや、ちょっ……問題発言……」
「手相占いの教科書に載せたいレベルですね。唯一、ここだけ気になりますが……」
「こちらは生まれながらに、何か困難を背負うという意味を持ってます。しかし、そこから先がハッキリしていて、更に綺麗な線ですね。そんな困難を、乗り越えられるという意味でしょうね」
そんな二人の批評に、仁と姫乃は顔を合わせる。もしかしたら、生まれつき全盲である事を暗示しているのだろうか。
「さぁ、それでは次は男性の手相ですね! お手を拝借してもよろしいでしょうか!」
「頭領様、さぁどうぞ!!」
「いや待って、頭領ってナニ」
しかし、二人はサッと仁の手を取って見始める。見始めて……再び、二人は感嘆の溜息を漏らした。
「うわっ、何よこのスター線……こんなにキレイに……しかも三本以上……」
「いや待った、スター線の位置!! これ珍しくない!?」
「えぇぇぇ、ちょっ……お二人とも写真撮っちゃダメですか? こんな凄まじい手相、そうそう見れないですよ」
最初のテンションはどこへやら、二人は真剣に手相を見て唸っている。
「一般に、三本以上の短い線が交差して星形のようになっているのがスター線です。頭領様のは、三本以上で……これは、三本以上の効力を齎すそうです。しかも、めちゃくちゃクッキリと濃い。これは凄いですよ」
「おぉ、つまりスーパースター線……」
「ヒメ、なんかそれ目立ちたがりなヒーロー志望者みたい……」
目立ちタイで変身(?)する、自称スーパースターなヒーロー。今の若い人に伝わらないネタを、相変わらず知っている仁さんである。
「えー、端的に申しますと……頭領様の手相は、幸運に恵まれてます。もう幸運があっちからこぞってやって来ます」
「例えば、最高の結婚相手に巡り合うとかですね。えぇ、巡り合います。むしろ、もう巡り会っています」
ぶっちゃけ今既に、隣に居ます。という言葉はかろうじて呑み込んだ、それは事実なのだが占い関係ないので。
そんな評価を聞いて、仁は思わず姫乃を見てしまう。姫乃も丁度、仁の方に視線を向けたので……二人の視線ががっつり合う。
「え、えへへ……♪」
「占い凄い」
照れ笑いする姫乃さんに対し、しみじみと頷く仁さん。最高の結婚相手イコール姫乃という、共通認識。これには占っていた二人も……。
――”尊い”だけでは!! 語彙力が足りない……ッ!! 入信しますッ!!
こちら砂糖を吐くどころか、崇拝していらっしゃる。現実で推しカップリングを目前にしたところを想像して頂ければ、きっとご理解頂けるのでは無いでしょうか。
あと、彼女らは既に【忍者ふぁんくらぶ】というギルドに入信しているといって良いだろう。
「ともあれお二人は、とても素晴らしい手相ですよ」
「相性も、非常に抜群ですね。最高オブ最高!! といって良いです」
そんな二人の占い結果に、姫乃はご満悦。そんな恋人を見て、仁もご満悦。そして推しが幸せそうで、イズナとヨルもご満悦である。
「どうもありがとうございました!」
「AWOでお会い出来たら、声を掛けて下さいね」
二人はそう言い残して、占いの店から去って行った。
「気付かれていた……流石は我らが頭領様……」
「というかリアルジン×ヒメとか、最高過ぎる……生きててよかった……」
去って行く夫婦の背中を見て、二人は思った……ジン×ヒメは至高であると。
次回投稿予定日:2021/7/3(幕間)
「せんせー、壁殴って怪我した人が……」
「またか! 今日、何人目だよ!」