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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第一章 VRゲーム始めました
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01-02 フレンド登録しました

 記念すべき初戦闘を終えたジンは、日付が変わりそうな事に気付いてログアウトする事にした。

 パネルを開いて指でログアウトのボタンをタップすると、ジンの視界が光に包まれる。


 そして、気付けば真っ暗闇だった。頭部に付けているゴーグルの重みに気付き、元の自分の部屋に戻って来たのだと気付く。

「……思いの外、楽しかったかも」


 VRドライバーのゴーグルを外した仁は、寝る前に用を足そうと立ち上がろうする。立ち上がろうとして……右足の感覚が鈍い事に気が付いた。

 それはトラックによる交通事故以来感じていた、奪われた夢……それを実感させる、絶望の感覚だ。


「そうだよ、これが現実なんだ……あの世界は、作り物じゃないか……」

 楽しかったと言っておきながら、すぐに訪れた現実の厳しさと虚無感。それは、仁の心に暗い影を落とした。

 仮想現実で思うままに走る事が出来ても、現実世界に戻ってしまえばこの通り。自分は夢を断たれた、哀れな男子高校生に逆戻りする。


 ベッドに横になりつつ、仁は眠れずにいた。久し振りの充実感と、その後に訪れた虚無感の板挟みになってしまった。

「……もう、良いかな」

 思わず呟いてしまうも……部屋に鎮座するVRドライバーから、仁は目を逸らせなかった。


************************************************************


 翌朝、眠れなかった仁は、早めに家を出て高校に登校した。別段、早起きは苦ではない……陸上をやっていた頃、仁は毎朝の朝練も欠かさずにやっていたのだから。しかし眠れぬ夜を過ごし、結果的に徹夜状態の仁の気分はどん底だった。


 陰鬱な気分で登校すれば、既に登校しているクラスメイト達が何やら賑やかだった。普段は誰よりも早く登校する仁だが、今日は精神的なモノもあってゆっくり歩いたせいだろう。

「マジかよ、羨ましい!!」

「でも、あそこのダンジョンってそんなに旨味ないじゃん」

 会話しているのは、クラスでも特にゲームやアニメに精通している二人組の男子だ。


 そこへ、一人の男子が近寄る。

「もしかして、AWOの話?」

 彼の名は【星波(ほしなみ) 英雄(ひでお)】。クラスで一番のイケメンで、友達も多い人気者。誰にでも分け隔てなく接する、心優しき少年だ。

「ほ、星波君!? まさか、アナザーワールド・オンラインやってるの!?」


 その単語に、仁は反応した。

 アナザーワールド・オンライン……昨夜、仁が熱中してプレイしたゲームだ。AWOというのは、アナザーワールド・オンラインの略称として好んで使われる言葉である。


「うん、実は俺もやっているんだ。何かのアイテム情報なのかな?」

「そ、そうそう! 掲示板で情報見たら、始まりの町から南の海に向かう間にあるダンジョンで、レアアイテムをドロップしたんだって!! それも、AGIが1.5倍になるらしい!!」

 英雄に向けて熱弁するゲーマー男子。その圧に苦笑いしつつ、英雄は首を傾げる。

「俺もダンジョンボスまで行ったけど、レアアイテムは落ちなかったな。試行回数いるのかな?」

 そんな英雄に、もう一人のクラスメイト……倉守という名字の少年が頷いてみせた。もう一人の少年に比べて、落ち着いた雰囲気の生徒である。

「もしくは、特殊条件かもしれないね。例えば、ソロ討伐とか?」


 AGIアップと聞いて、仁は興味を惹かれた。そういったアイテムを手に出来れば、”ジン”は更に最速を目指せるだろう。

 しかし、ログアウトした時の喪失感を思い出す。あの虚しさに侵された仁は、大人しく席に座る事にした。


 すると、英雄が仁に気付いた。

「おはよ、寺野君。今日は遅めだったんだね」

 にこやかに歩み寄ってきた英雄に、仁は普通に返す。

「おはよう、星波君。ちょっと、寝付きが悪くてね」

 実は彼と仁は、同じ中学の同級生だったのだ。


「毎朝大変だよね、大丈夫?」

 松葉杖に視線を向ける英雄に、仁は苦笑する。彼はよく、こうして仁の事を気遣ってくれるのだ。

「ありがとう、大分慣れて来たよ。早起きはキツイけどね」

「何かあったら相談してね。ほら、同じ中学だけあって家は近所だしさ」

 そこまで交流は深くなかったが、仁の事故の事を聞いて真っ先に見舞いに来たクラスメイトが英雄だった。それ以来、二人はこうした雑談くらいはする仲である。


 しかし、今日はいつもと何かが違った。

「……寝不足って言う割に、今日はいつもよりも顔色が良いね?」

「……そう?」

 理由は明らかだった。昨夜のVR体験が、仁の心にいくらかの影響を与えていたのだろう。


 そんな仁を見て、英雄は意を決したように口を開いた。

「寺野君、ゲームとか興味は無いかな? 面白いVRゲームがあってさ」

「……さっき話していたやつ?」

 既にプレイしていると、何となく言い出せなかった仁。それは、未だに続けるか止めるか悩んでいるからだった。


「そうそう。その……俺もやっているんだけど、さ。もしよかったら、一緒にやらないかな?」

 何故、そんなに自分を気にかけてくれているんだろう。ただ、身近に存在する不幸に見舞われた存在だ……ただそれだけなのに。

 しかし、同時に感じるのは彼の気持ちだった。彼に悪気が無いのは、仁にも解っている。憐憫でも同情でも無い。まるで”仁と一緒に遊びたい”といわんばかりの、純粋な感情の様に映る。


 そんな事を内心で考えていると、英雄は周囲の様子を気にしながら話を切り出す。

「うちの妹、実は生まれ付き目が見えないんだけど……」

「えっ!?」

 その言葉に、仁は面食らった。

「VRって、脳に直接作用するから。妹も、VRゴーグルを使うと普通に物を見る事が出来るんだ」

 英雄の言う”VRゴーグル”とは、VR技術を医療に転用した物の事だ。ゴーグルが検知した映像を、インターフェースから脳に信号を送る事が可能なのである。類似した医療器具として、”VRイヤホン”という物も存在する。

 これによって視覚や聴覚に障害をもつ人々が、普通に生活出来るようになった。VR技術は、ゲームだけに用いられている訳では無いという一例だろう。


「知らなかったよ……」

「誰にも言ってないからね。妹は、ゴーグルを外すと最初はガッカリしてたけど……自分の目が治った訳じゃないからね。でも徐々に、前向きになったんだ。『VR技術なら出来る事があるんだ』って、さ。何か、妹と寺野君が重なっちゃってさ。なんとか、力になれないかと……」

 そっちの方がデリケートな話題じゃないか、そう言いたいのをグッと堪える仁。

 しかし、英雄の意図も解った。人によっては大きなお世話だろうが、プライベートな事まで明かして元気付けようとしてくれた事には感謝すべきだ。


 そして、彼の妹の言葉。

 そう、仁はまた走る事が出来るのだ……そう、VRドライバーがあれば。

「ありがとう……考えとくよ。あれ、高価だし」

「あ……そうだね、確かに。まぁ、もしやれそうなら一緒にやろうよ」

「うん、いつか」


 英雄は良い人だ、仁はそれを疑っていない。

 だから、いつか彼とアナザーワールド・オンラインで共に冒険するのも良いかもしれないと思った。


************************************************************


 その夜、仁は帰宅した父親を出迎える。

「おかえり、父さん」

「あぁ、ただいま……どうだ、調子は」

 気遣わし気な表情に、仁は笑顔を向ける。

「うん、大丈夫」

 その柔らかな笑顔は、両親も久し振りに見るものだった。何かに耐えるような、無理矢理に作った笑顔ではない。


「そ、そうか」

 何があったのかと、両親は困惑する。それに対する解答は、すぐに仁から齎された。

「父さん、あのゲーム。ありがとう……だいぶ、気分が晴れたよ」

 その言葉に、両親は目を見開き……そして、破顔した。

「そうか、それなら良かった」

「うん、ありがとう。あ、ちゃんと成績も落とさない程度にするよ」

「そうね、それなら文句は無いわ。楽しみなさい、仁」

 両親と約束し、仁は自室へと戻る。


 ……


「……まずは、と」

 仁は一つ頷いてVRドライバーへ向かう。そのリクライニングシートに腰掛け、コンソールを叩く。VRドライバーは、パソコンとしても使用できるのだ。

 探しているのは、AWOの情報掲示板だ。それは、すぐに見つかった。

「あ、これかな。AWOネット? 色々なタイトルがある……スレッドってやつか」

 仁は様々なスレッドの中から、アイテム情報のスレッドを見付ける。それを開くと、学校で話題になっていたAGI強化アイテムの情報を探した。

「……あった!!」


 始まりの町と南の海の間にある、洞窟型のダンジョン[魔獣の洞窟]。そこで手に入るらしいレア装備品だ。

 それをゲット出来た人が、入手した経緯をスレッドに上げていた。

 何でもボスを討伐した際に、宝箱が出現したそうだ。その宝箱は、普通とは違う豪華な装飾の宝箱で、そこからAGIが1.5倍になるアイテムを手に入れたらしい。アイテム名は≪妖狐のブーツ≫というそうだ。

 ジン的には、是非とも手に入れたいアイテムである。


「お、初心者向けのスレッドもある」

 ゲーム知識の無い仁には、必読のスレッドだろう。仁はそのまま、情報を流し読みしていく。

 仁はここで初めて、昨夜の状況が自殺行為だと気付いた。また、ステータスポイントの振り分けについても事細かに解説するプレイヤーが居た。これは実に、ありがたいアドバイスだ。

「とりあえず、スキルや装備を買うのか。初心者セットを購入? 最初の所持金が半分は飛ぶんだな……装備で、STRが上がる。これは是非買っておかないと」

 ブツブツ言いながらも、仁は今後の予定を考える。

 目指すは件のダンジョンだ。目的はレアアイテム狙い。その前準備として、初心者セットを購入する。余ったお金で、掲示板では必須とされるスキルを獲得できるアイテムと武器の購入だろう。

 仁はゴーグルを装着して、VRドライバーを起動する。


――こうなったら、とことんやろう! ステータスは全部AGIに注ぎ込む! 目指すは最速!


 そして、仁は再び仮想現実世界へと潜っていった。


……


「……二日連続でゲームやってるよ」

 今までの自分からは、想像も出来ない事だった。

「さてと、まずは初心者向けのアイテムやスキルを買いに行く所からかな」

 ジンは最初に、冒険の為の装備を整える所から始める。むしろ、昨晩済ませておくべきだったのだが……完全初期装備でフィールドに出るだけならまだしも、遠い場所まで駆け抜けて格上モンスターと一戦やらかすのは自殺行為だとようやく理解した。


 ジンは早速、道具屋に向かう。店員らしきNPCの女性に話しかけると、NPCは興味深そうな顔を作って話しかけた。

「この辺りではお見掛けしない顔ですね。旅人でしょうか? よろしければ、私の方から色々とご説明しますよ?」

 女性の言葉が終わると同時に、あのパネルが目の前に浮かび上がった。そこには『チュートリアル・買い物を進めますか?』という文字があった。ジンは一つ頷いて、OKのボタンを押す。


 すると、NPC女性店員はスラスラと話し始める。

 ジンは、挙動や表情が人間とそう変わりなく見えるのに驚いた。技術の進歩ってすごい、と内心で感心している。

 ちなみに説明の内容は、ゲーム内通貨とリアルマネーが別という事、購入や買取が出来る事くらいしか解らなかった。ついでに、他にもチュートリアルがあるというメタ発言があったくらいか。

「他のチュートリアルを受けられるならば、広場の掲示板を見るとよろしいですよ。それでは良い旅を!」


 そうして、買い物のチュートリアルは終わったらしい。

「あ、いや。買い物をしたいんですけど」

「いらっしゃいませ! 今日は何かお探しですか?」

 さっきまで話していたのに、とジンは苦笑した。これがNPCかと納得し、買うと決めていたアイテムを購入していく。


 ……


 初心者セットと二つのスキル取得アイテムを購入し、ジンはフィールドへと向かった。

 購入した初心者セットの中身は、≪HPポーション(小)≫と≪MPポーション(小)≫がそれぞれ三本。それと≪毒回復薬≫と≪麻痺回復薬≫だ。


 課金アイテムという物にも目を通したが、そこにはスキル取得支援アイテムだとか獲得経験値増幅アイテムというものがあった。ジンは課金を控えるつもりでいるので、手は出さなかったが。

 結果、残った金で購入できたのは≪鋼の短剣≫だけである。


―――――――――――――――――――――――――――――――

≪鋼の短剣≫

 効果:STR+3

―――――――――――――――――――――――――――――――


「これでもSTRが13なんだよね。まぁ、仕方ないか。さてと、スキルは……」

 ジンが購入したスキルは、一つが補助系のスキル。もう一つは攻撃系のスキルだ。

 スキル取得アイテムは青い水晶玉の様な物で、スキルオーブと呼ぶらしい。掲示板ではスキル、またはオーブと略されている。どうやら、そのどちらかで通用するようだ。


 初心者である今のジンが装備できるのは、三つまで。スキルオーブをセットする、スキルスロットという物が三つしか無いので、これは変える事は出来ない。

 既に【短剣の心得】と【体捌きの心得】を装備しているので、装備できるスキルオーブはあと一つまでだ。


 だがAWOには、予備スキルスロットという項目がある。予備スキルスロットに入っているスキルは、そのスキル効果を使用する事は出来ない。だがスキルスロットに装備しているスキルと入れ替える事で、習熟度はそのままにスキルを有効にする事が出来るらしい。

 スキルスロットや予備スキルスロットから外したスキルオーブは、習熟度がリセットされてしまう。故にどのスキルを育てるのかは、慎重に選ばなくてはならないのだ。


「よし、じゃあ……」

 システム・ウィンドウを操作して、スキルオーブをスロット欄にセットする。すると、脳内にアナウンスが流れた。

『スキル【感知の心得Lv1】を取得しました』


―――――――――――――――――――――――――――――――

スキル【感知の心得Lv1】

 説明:感知の習熟度を示す。習熟度が向上すると、新たな技能を習得する。

 効果:フィールドに存在するオブジェクトを能動的・受動的に察知する。


武技【気配察知Lv1】

 説明:視認していない敵対モンスターの存在が察知できるようになる。パッシブスキル。

 効果:対象範囲、半径5メートル。

―――――――――――――――――――――――――――――――


「よしよし、だんだん解ってきた! じゃあ、次はこっちか」

 もう一度、同様の手順を繰り返す。もう一つのスキルオーブは、数ある初心者向けスキルの中でも最もジン好みのスキルだ。しかし、今はまだスロットの数が足りない。残念ながら、予備スキルスロット行きである。


―――――――――――――――――――――――――――――――

スキル【投擲の心得Lv1】

 説明:投擲の習熟度を示す。習熟度が向上すると、新たな技能を習得する。

 効果:投擲による攻撃時、STR+1%、DEX+1%。


武技【スローLv1】

 説明:装備またはオブジェクトを投げる。

 効果:投擲時STR+1%、DEX+1%。武技発動後、次の投擲体勢まで30秒。

―――――――――――――――――――――――――――――――


「よし。これで更に色々出来そうかな。あとは、ステータスポイントの振り分けか」

 そう言いながら、ジンはパネルを開く。このパネルの正式名称が”システム・ウィンドウ”だという事も、昨夜学習した。

「今のレベルが4で、ステータスポイントが6? レベルが上がるとポイントが2貰えるのかな。まぁ最速を目指すから、AGIに全部注ぎ込むんだけどね」

 ジンはAGIに全てのステータスポイントを振り分ける。所謂、極振りだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――

■プレイヤーネーム/レベル

 【ジン】Lv4

■ステータス

 【HP】56/56

 【MP】13/13

 【STR】10≪+3≫

 【VIT】10

 【AGI】21

 【DEX】10

 【INT】10

 【MND】10

■スキルスロット(3/3)

 【短剣の心得Lv2】【体捌きの心得Lv3】【感知の心得Lv1】

■予備スキル(1/5)

 【投擲の心得Lv1】

■装備

 ≪初心者のチュニック≫

 ≪初心者のパンツ≫

 ≪初心者の靴≫

 ≪初心者の革鎧≫

 ≪初心者のポーチ≫収納上限50

 ≪鋼の短剣≫STR+3

―――――――――――――――――――――――――――――――


「ふーん、HPとMPは勝手に上がっていくんだ。HPはレベルアップごとに2で、MPは1かな? この辺の計算、レベルが上がっていくと面倒くさそうだな……」

 ブツブツ呟きつつ、ジンはフィールドへ出る門の前に立った。

「うん、基本的に当たれば死ぬ。ヒット・アンド・アウェイで行こう」

 昨夜のサーベルウルフとの戦闘と同じだ。


 方針を決めてフィールドに視線を向けると、そこかしこでプレイヤー達がフィールドへと駆け出して行っている。誰も彼も、楽しそうな表情だ。

「よし、僕も行こうかな」

 さぁ、二度目の冒険である。ジンは意気揚々と、フィールドへ向かって駆け出した。


************************************************************


「【スライサー】!!」

 武技名を宣言する事で、スキル【短剣の心得】の武技は淀みなく発動した。身体がシステムのサポートを受けて動き、鋭い斬り付け攻撃をモンスターに叩き込む。


 ジンが相手取っているのは【グリズリーラビット】というウサギ型モンスターで、その体格はジンより大きい。本来はウサギらしい素早さと巨体故の一撃の重さで、初心者を苦しめる強敵である。

 しかしジンは【クイックステップLv5】と【スライサーLv2】を駆使したヒット・アンド・アウェイで、グリズリーラビットにダメージを蓄積させていく。


 ついにグリズリーラビットのHPバーが0になり、その巨体が地面に倒れ伏す。

『≪ウサギ肉≫を入手しました』

 脳内アナウンスに、ジンは微妙な顔をする。アイテムというより、食材だったのだ。

「うーん……まぁまぁ? なのかな?」

 そうそうレアアイテムなんてドロップしないさと、気持ちを切り替えてジンは走り出す。


 ジンは、獣型で尚且つ群れていないモンスターを中心に倒していく。理由は単純、硬くないからだ。

 途中で見かけるモンスターの内、外殻が硬そうな甲虫類モンスターは無視である。STR不足で長期戦になるのだ。


 与しやすいモンスターを倒しながら、ジンは南の海がある方角へ走る。その道中、丘の上に辿り着いたジンは足を止めた。

「VRって凄いな、こんな景色まで再現出来るんだ」

 遠目に見える海。海上……そのずっと上空に浮かぶのは、島だった。空を飛ぶ島だ。現実にはあり得ない景色を眺めてみると、フッと笑みが零れた。


 見惚れているジンだったが、背後から草をかき分けるような音が聞こえた。

――モンスターかな?

 咄嗟に身構えると、草むらから一人の人物が姿を見せた。

「……お、こんにちは」

 その人物は、一言で言うと胡散臭かった。上半身はアロハシャツ、下半身は白いハーフパンツ。黒い髪はオールバックにし、顎には無精髭を蓄えていた。トドメに、黒いラウンドサングラス。胡散臭さ全開である。


「どうも、こんにちは……」

 とりあえず、挨拶は返しておく。

「初期装備っぽいね、新人さん?」

「えぇ、まぁ……」

 なんとも、妙な人物だった。モンスターが出没するフィールドで、こんな風体の男が現れるとは思わなかった。そもそも、武器の類を持っていないし。


「僕は【ユージン】って名前でプレイしてるんだ。色々な物を製作する、生産職でねー」

「生産職……? 鍛冶とかですか?」

 このゲームでは、そういう楽しみ方も出来るのだと思い出したジン。

「他にもやってるよ。鍛冶も調理も、ポーションの調合や服の制作も」

「幅広いですね!?」

「あはは、やってみたら楽しくてねぇ。今日はさ、素材集めでちょっくら外出」

 どうやら、素材を集める為にフィールドに出て来たらしい。強そうには見えないので、恐らくモンスターからは走って逃げているのだろう。


「何か作って欲しかったら、声かけてよ」

 そう言って笑うユージン。胡散臭い風体ではあるが、悪い人物には見えない。

「えぇ、その時はよろしくお願いします」

 ジンは素直に頷いた。

「うんうん……あ、どうせだしフレンド登録しておくかい? フレンドなら、メッセージを送り合えるから」

 初フレンド登録だ。折角だからと、ジンは誘いを受ける事にした。


「ジン君か。いいね、カッコいい名前だ。今日はどこかの探索?」

「えぇと、南の海エリアの手前にある[魔獣の洞窟]を探してて……」

 その言葉に、ユージンは一つ頷く。

「それならこっちだよ。良かったら案内しよう」

 そう言って怪しげな風体の男は、案内を買って出てくれたのだった。

吹っ切れるジン君、胡散臭いオッサンに出会うの巻。

星波君とその妹さんも、物語に絡んできますのでご期待下さいませ。



修正:2020/7/3

内容:仁と英雄の会話に、VRゴーグルの記述を追加しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み始めました。 面白そうなので、どんどん先を読んでいきたいです。 [一言] あれ、トーラムオンラインってゲームに似てない?って思ったら、まさかの作者もやってらしたとは,,,  A極S振の…
[気になる点] スキルと武技スキル?付属スキル?が分かりづらいので 心得ースキルとか スキルーアーツとか オーブースキルとか 違う名前に分け、もう少し付属が分かりやすい書き方をされた方が 読む側は混乱…
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