11-07 文化祭で合流しました
多くは語りません、大変長らくお待たせ致しました。
お待たせいたしました、お待たせし過ぎたかもしれません。
それでは閲覧者様にツッコまれるのを避ける為に。
【 過 糖 警 報 】
お前も、糖人形にしてやろうか!!
※それ、ただの砂糖菓子人形じゃないの? という冷静なツッコミはご遠慮下さい。
あと、聖〇魔Ⅱの蝋人形ネタを御存じない方には、謹んでお詫び申し上げます。詫びすぎかもしれません。
日曜日の朝、仁と英雄は教室で待機していた。その装いは執事服ではなく、制服だ。彼等の恋人は制服デートをご所望なので、当然と言えば当然である。
「あ、今駅から向かっているって」
「じゃあ五分くらいで着くな。行こうか」
校門前で待ち合わせではあるが、どちらかが校門に着いてから連絡などという愚は犯さない。仁と英雄がそこで待てば、星波君ファンクラブ(仮)の格好の餌食。かといって姫乃達、美女・美少女集団アンド見た目美少女な音也が校門前で待っていたら? まず、ナンパの危険性が出てくる。隼一人であしらい切るのは、困難を極めるだろう。
なので、駅前からは徒歩五分の距離であることを利用した。仁の足だと、教室から校門までは五分程度かかる。タイミングがドンピシャになるのだ。
なので駅を出発する際に、連絡を貰うという段取りになっていた訳だ。
ともあれ二人は、連れ立って外へ向かう事にする。
「それじゃあ、行ってくるね」
「後で顔を出すよ」
教室の友人達に声をかけると、人志と明人が笑顔で声を掛ける。
「おう、楽しんで来な!」
「ごゆっくり、また後でね」
引き留めようと迫るクラスメイトの出鼻を挫くように、教室の扉から出た二人に身を乗り出しながら手を振る。無論、明人の作戦通りだ。
「ぬぬぬ……!! そっちの方から出るしか!!」
「……寺野君、ふふっ……」
「星波君、逃さないっ!!……ゲッ!?」
人志と明人が塞いだのは、出口側。そしてもう一つの扉は、喫茶店の入口側の扉である。そこには、既に行列を作る生徒達の姿。勿論、目当ては英雄だろう。
そんな行列を、一人の女子生徒が整列させていたのだ。
発するのは、強者特有の迫力。その少女の顔は笑っているが、目が笑っていない。
「……ねぇ、あなた達は今日の最初のシフトよね? どこに行こうっていうの?」
彼女の名前は【隈切 小斗流】……このクラスの学級委員長である。超イケメン少年や障害を負う少年、そんな彼等に熱を上げる女子達……加えて最近はマシになってきたが、ゲームオタクと陰キャコンビが集まるクラスをまとめ上げている実力者だ。
「い、いや……委員長」
「あ、あたしちょっとトイレ……」
「ちょっと、親が急に来たらしくて校門へ……」
苦し紛れの嘘で場を切り抜けようとするが、委員長には通用しない。有無を言わさない迫力を醸し出しつつ、扉から出ようとしている女子生徒達を牽制している。
「星波君の後を追う気でしょ? 根津さんは寺野君よね? でも、仕事は仕事だから」
直球で言い当てられて、戦況は不利。しかし、それでもめげない女子生徒達。
「い、いや……ほんと、トイレへ行きたくて……」
「さっき、行ってたじゃない」
「う、うちの親が財布を忘れたらしくって困っているから……」
「まだ一般開放される時間じゃないから、どの道会えないでしょ。ここまで来て貰いなさい」
「は、早くしないと星波を見失うんだよ!!」
「うるせぇ、戻れ」
静かながらも、ドスをきかせたその声。実に、それはもう実に凄まじい迫力だった。
「「「「ヒッ……!? は、はい……っ!!」」」」
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一方、校門までやって来た仁と英雄。既に一般来場者が校門の前で長蛇の列を作り、一般開放の時間を待っていた。ちなみに、これはマナー違反である。
「時間前の待機はご遠慮下さいって、通知されてるんだよね……」
「まぁ、強制力がないからね……最も、ウチのメンツはちゃんと守っていそうだけど」
彼等の待ち人は、一般開放時間直後に到着する様に調整しながら歩いて来ているそうだ。流石は育ちの良いお嬢様学校の生徒、プラスアルファである。
そして、いよいよ時間となった。
『大変お待たせ致しました、一般開放の時間となりました。校内では慌てず、走らず、周囲に気を配りながら楽しんで行って下さい』
そのアナウンスと共に、長蛇の列を作っていた一般来場者達が一斉に敷地内へと踏み込む。
「おっと……離れていようか」
仁の足を気遣って、英雄が一般来場者の群れの進路から外れるポジションへと促す。そんな英雄の気遣いに感謝の言葉を返しながら、仁はそちらへと向かった。
「しかしまぁ、よくもこんなに……ウチの学校、有名人とか居たかな?」
「……仁、自分が陸上界期待の星だった事を忘れてる?」
言われて、そう言えばそうだったなと思い出す。が、彼等の目当ては自分ではないだろうとも思う。
そんな長蛇の列が完全になくなった頃に、待ち人はやって来た。無闇に広がらない様に歩くその一団は、実に目立つ。
初音女子大学付属中等部の制服を着用する、五人の少女。学ランタイプの制服を着込んだ、男子。そして美少女と見紛うものの、そのブレザータイプの制服で男子だと解る少年。
スーツ姿でその後を歩く美女に、過不足無いオシャレな私服を着た女子大生二人。
先頭を歩くのは隼と愛。その後ろに千夜と音也が続き、その後ろに優……和美と紀子がその後方を歩いている。姫乃と恋がその後ろを歩き、殿は鳴子だ。
「やっぱり存在感があるね」
「まぁ、仕方ないよね。人数も多いしさ。ともあれ、合流しようか」
早くしないと、妙な輩が声を掛けたりしかねない。既に多くの生徒や一般来場者が、その一団に視線を集中させているのだ。
仁と英雄が歩き出した所で、和美が二人に気付いた。
「あ、いたいた! お~い!」
笑顔で手を振る和美に、他のメンバーも仁と英雄に気が付いた。視線に無頓着な姫乃は元々穏やかな表情を浮かべていたが、二人の姿を見てそれはもう嬉しそうな笑顔に。そして恋は無遠慮な視線に苛立ちを覚え、真顔だったのだが……英雄の姿を見た瞬間に、AWO内で見せる様な自然体の笑顔を浮かべた。
仁と英雄に歩み寄るその一団は、通行の邪魔にならない様に通路の端に寄る。
「お待たせしたっスか、二人とも」
「いや、一般開放直前に着いたからね。大して待たなかったよ」
「それなら良かったです。それにしても、思いのほか盛況なんですね」
普段の、AWOの中と同じ様に。仁達は穏やかな調子で、会話を始める。その安心感たるや、外部の人間が割り込む隙が無いくらいである。
「仁さん、足は大丈夫ですか?」
そう言って、姫乃が仁の左腕に自分の腕を絡める。それは初音女子大付属中等部の生徒ならば、朝と放課後によく見掛ける光景。しかし日野市高校では見た事が無い、衝撃的な光景だった。
「待ってたよ、ヒメ。足は大丈夫、心配してくれてありがとう」
「ふふっ、それなら良かったです♪」
微笑みながら、姫乃は腕に軽く力を込める。ゲームでは毎日会っているが、生身の仁と共にゆっくり過ごすのは久し振りだ。故に離さないぞと言わんばかりに、仁の腕に密着する。
「英雄さん、お迎えありがとうございます。クラスの方なんかは、大丈夫でしたか?」
「心配要らないよ。今日一緒に過ごす為に、昨日は一日頑張ったわけだしね……だから、ゆっくりデート出来る」
そう言いながら、英雄は恋の髪を撫でる。愛おしむ様に、慈しむ様に優しく。
そんな二人に、周囲の……主に女子生徒から悲痛な声が上がるが二人は一切気にしない。
「いやぁ、この空気感……流石ッスねぇ」
「私達も、人の事は言えないと思う……かなぁ」
しっかりと手を繋ぐ隼の言葉に、愛は苦笑しつつツッコミを入れる。繋ぎ方は当然、恋人繋ぎというやつだ。
「まずはどこから行く?」
仁の言葉に、姫乃と恋がいい笑顔を浮かべて希望を述べる。
「「一年A組でお願いします」」
一年A組……仁と英雄のクラスだ。姫乃と恋の、考えは一致していた……彼等の恋人が誰なのか、知らしめる良い機会だと。
――仁さんは素敵だから、きっと好きになる人も居ると思うし……今の内に、私が恋人なんだってアピールしないと……。
――英雄さんは人気があるとの事ですから、ここらで誰の恋人なのかしっかり認識させないといけないわ。
「……まぁ、そう来るとは思っていたよ。どうだろ、空いているかな?」
「英雄が居ないと解ったら、あの長蛇の列は消えそうだよね……」
「うっ……ま、まぁ確かに……」
お陰で昨日は、休憩時間以外はフルで接客をしていたのだ。英雄の表情が引き攣るのも、無理はない。
そして考えるのは、クラスの面々に恋人の事を明かしても良いのか? という点だが……。
――今日の一般公開日にシフトを入れさせない為に隠していただけだし、もう知られても構わないな。
二人して、全く同じ事を考えた仁と英雄。そして、それを視線だけで語り合う。実に良いコンビである。
「じゃあ、爆弾投下かな?」
「確実に荒れるけど、まぁ良いか」
クラスメイトのミーハー層より、恋人を優先するのは当たり前。それに、言い寄られるのも減るはずだし。
……
皆様、大変永らくお待たせ致しました。待望の阿鼻叫喚タイム、開始でございます。
仁と姫乃が腕を組んで歩くのは、【七色の橋】的には最早デフォ。英雄が恋の肩を抱くのも、勿論デフォ。
しかし、日野市高校的にはちょっとした大事件だ。
「ほ、星波……君……!?」
「誰よあの娘!? わ、私の星波君がぁ……!!」
「あいつ、寺野……だよな? 誰だあの美少女!?」
「う、腕に胸が……羨ましいぃぃっ!!」
話題の渦中となる一組……英雄と恋の距離感は、非常に近い。殆ど密着と言って良い。
「賑やかな学校なんですね」
「恋、解って言っているね?」
「ふふっ、勿論です」
英雄の手は、恋の肩に回されているのだが……これが馴れ馴れしいナンパ男なら、いやらしいと感じるだろう。しかし英雄のそれは姿勢の良さと、恋を見る穏やかな視線から誠実さすら感じさせる。
簡単に言うと、パーティーで女性をエスコートする紳士といった振る舞いだ。これには鳴子さんも満足気。どうやら、彼女の指導によるものらしい。
その親密さは、エスコートの仕方で解る。しかしそれ以上に、相手に対する感情を全面に押し出した穏やかな表情……相思相愛である事は、傍目に見ても明らかだった。
「誰よ、あの娘!! ちょっと可愛いからって……可愛いなぁチクショー!!」
「は、初音女子大付属の制服? ちゅ、中学生なのか……? それにしては、貫禄というか、存在感が……パネェ」
「神は……神は何故、あの二人を巡りあわせたっ!! 勝てねぇ、あんなハイスペック美少女に勝てる訳ないよ!!」
そして、仁と姫乃も大変目立つ。
仁が杖を突いて歩く姿は、既に日野市高校には馴染んでいた。しかし杖を突いていない左側の腕に、大変可愛らしい美少女が密着する姿は非日常だ。
「仁さん、疲れたら言って下さいね?」
「ありがとね、ヒメ。ヒメは大丈夫?」
「大丈夫です! えへ、ありがとうございます♪」
その密着ぶりもさる事ながら、姫乃の表情はいつになくキラキラと輝いている。光エフェクトを発する機能は、VRギアにはありません。つまり姫乃自身の雰囲気だけで、見る者に光エフェクトを幻視させているのだった。
その輝く笑顔は、一人の少年……仁に向けられている。彼は穏やかな笑みを湛えて、姫乃を慈しむ様に見つめている。どう見ても、ラブラブなカップルだ。そのラブ度は千パーを越えちゃって、二千パーも超えていそう。ラブが大革命するかな。
またVRギアのお陰で、見た目は普通の美少女な姫乃だ。そんな彼女は仁に密着しており、その年不相応に育った豊かな胸部装甲が仁の腕に押し当てられている。あててんのよ(無自覚に)。それもまた、男子達の嫉妬を煽る。
「あ、あんな美少女と、腕を組んで仲良く……羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……ッ!!」
「寺野ォ……!! そこ代われぇ……!!」
「当たってる……よな!? あれ、確実に当たってる!! ち、チクショーッ!!」
更に、それだけではない。
「文化祭だと、校舎の中をゆっくり見られるからありがたいッスね」
「ふふっ、来年からはここに隼君も通うんだもんね」
「ま、受験に合格したらッス」
落ちるとは全く思っていないらしく、隼は余裕の態度だ。
二人は仲睦まじく、相変わらずの恋人繋ぎで二組のカップルに続いて歩く。しかしその距離の近さ……それでいて尚、互いに歩きづらいという様子が見受けられない。
「な、何なんだあの二人……あんなに、肩と肩が引っ付くくらいなのに……」
「阿吽の呼吸ってか!? 見せ付けんな、クソが!!」
「うちの店に来いや……ハバネロソースたっぷりのフランクフルトをお見舞いしてやる……」
未来の後輩に対し、男子生徒は嫉妬の視線を向けていた。
「日野市高校って、こんな感じなのか……うん、良いかも……」
長年の付き合い故に、もっとも自然な様子のカップルがこちら。見た目はどちらも美少女だが、今日の音也は男子の制服を着ている為、パット見で男だと解る。
「おっ! 音也も再来年はここの生徒かな?」
「どうかなぁ。でも、うん……それも楽しそうだよね」
二人は軽く腕を組んでいる形で、仁と姫乃ほどベッタリではない。しかしながら、それが逆に二人の親密さを感じさせる。
「あ、あの子は……男子、なのか!?」
「腕組んでる子も可愛いけど……百合ップルにしか見えねぇ……!!」
「む、むしろ男でも良いかも……」
「「「え……っ」」」
更に言うと、英雄と恋には鳴子が……仁と姫乃には紀子、隼と愛には和美、音也と千夜には優がすぐ側に居る。
「紀子さん、朝はゆっくり休めました?」
「う、うん……あ、ありがとう、ね?」
「私も、紀子さんとお泊りしたかったです」
「う、うん……今度、したい……ね」
「英雄様、明日は振替休日になるのでございますか?」
「いえ、明日は片付けです。だから振休は、火曜ですね」
「成程……明日は遅くなりますか?」
「大丈夫、迎えには行くよ」
「和姉、大学とかで学祭はあるん?」
「あ、私も気になります!」
「夏前にあったけど、大体がサークル連中の為のお祭りねー。私達は興味なかったから、適当に回ったわよ」
「……花の大学生じゃないんスか?」
「私と紀子へのナンパが、しつこかったのよ〜」
「優はたこ焼き派? 焼きそば派?」
「お好み焼き派かなぁ。お父さんが時々、作ってくれるんだよ」
「父子家庭だっけ……大変じゃない?」
「大丈夫、慣れたからね。お父さんも優しいし、皆もいるから寂しくないよ」
和やかに話をしながら、間もなく一年A組。しかもその店内には、色々と拗らせた面々が揃っていた。
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「あ、星波……く、ん……?」
英雄の姿を見て、笑顔を浮かべた女子生徒。しかし、その表情はすぐに凍り付いた……なにせ、彼のすぐ側には小柄ながら存在感が半端ない本物のお嬢様がいるのだ。
「お疲れ様。今、入れそうかな? 十二人と、大所帯なんだけど……」
「ダイジョウブ……ハイレルヨ……イマ、オキャクサンスクナイカラ……」
突然、壊れたロボットの様な喋り方になった女子生徒。思考回路がショートしたらしい。
「了解、ありがと。それじゃあ入ろうか」
仲間達に声を掛けて、英雄が教室の中へと歩み入る。恋の肩を抱いたままで。更に、その後に続くは仁と姫乃。がっつり腕を組んで、どこからどう見てもラブラブなカップルだ。
「ほ、し……なみ……!?」
「な、な、な……っ!?」
「て、寺野君……!?」
「そ、その子は……誰……!?」
ザワッ!! と一瞬で、空気が変わる教室内。クラスメイトも、客もである。あまりの衝撃的な光景に、クラス中が動揺してしまう。
そんな中、二人の生徒だけが正常な思考を保っていた。
「すぐ来たんだな、二人とも……おっと、いらっしゃいませ。お席の方へご案内致します」
「テーブルくっつけた方が良いかな?」
「いや、そこまでは大丈夫だよ」
人志と明人、彼等はこうなる事を既に予想していた。故に、このそうそうたるメンツに動揺する事なく対応してみせたのだった。
テーブルは四人がけになっている為、分散して座る事になる。仁・姫乃・英雄・恋のテーブル、隼と愛、和美と紀子のテーブル、鳴子と音也・千夜・優のテーブルとなった。
それぞれ思い思いに注文をすると、明人が一度下がる。そして、人志はそのまま仁達のテーブルの側に立ったままだった。
「えぇと、皆さん。仁と英雄にはちゃんと謝罪したけど……皆さんにはまだだったから……夏のイベントの時、皆さんの大切な仁に酷い事を言って、済みませんでした」
人志の言葉に、仁と英雄は顔を見合わせる。まだ気にしてたのか、人志……という顔だ。
逆に、二人以外の面々からは冷ややかな視線と、怒気が向けられる。こちらもまだ、相当引き摺っていたらしい。
しかし、そういった空気を霧散させる男が居る。イベントの時、彼のお陰でイベントは恙無く終わったと言っても良いだろう。
そう、ここには空気洗浄系忍者の中の人がいるのだ。
「人志は律儀だよねぇ……やっぱり、ナンパやめたらモテるよ」
「その話題はもうやめろ下さい! もう、そういう事してないって言ったじゃん!」
「ぶふっ……仁って、人志だけはイジるよね」
「あ、楽しそうなことしてる。人志イジリ? まぜてまぜて」
「お前ら、俺に対してほんと遠慮しないよね!?」
仲良さげに話し始める四人に、姫乃達は面食らい……そして、納得した。あの夏の一件を経て、彼等は正面から向き合い……その結果、友情を育んだのだろうと。
「……えぇと、兄と仁さんがいつもお世話になっています」
ペコリと頭を下げる姫乃に、二人は目を丸くし……そして、微笑む。
「いえいえ、こちらこそ」
「二人にはいつもお世話になりっぱなしです」
そんな会話を見て、他の面々も納得はし切れずとも矛を収める事にしたらしい。
「つーか、俺等も……えぇと」
「僕? 明人だよ、倉守明人」
「じゃあ明人さんで。あん時は、すんませんした」
あん時とは、ライデン&ヴェイン惨殺試合の件だ。一応、悪いとは思っていたらしい。隼の隣で、愛も頭を下げる。
「あぁ、気にしないで。僕が同じ立場なら、そうしたし。ヴェインも気にしてないみたいだからさ」
そんな会話をする面々を、遠巻きに見ていたクラスメイト達とお客さん。女子の大半の目当てが英雄、一部が仁。そして、男子達は美女・美少女である女性陣に注目していた。
誰か一人が均衡を破れば、一気に崩壊するだろう。それを本能的に避けているのか、誰も触れたくても触れられない。
しかしそんな中、一人の少女が歩み寄る。彼女はお客として来ていた、三年の女子生徒だ。
「あ、あの……星波君?」
「……はい?」
英雄は勿論、何を聞かれるのか理解っている。その上で「なんでしょう?」という様子で返してみせた。
「そ、その娘は……ほ、星波君とは、どどど……どういう、関係……?」
動揺が隠し切れていない三年女子は、ついに禁忌に触れた。
そんな三年女子の質問に、英雄は不思議そうな様子でアッサリと返答する。
「関係? 俺の恋人ですが」
それは議論の余地など一切与えぬ断言。その言葉は大した声量ではなかったのに、教室内にいる全員の耳にしっかりと届いていた。
更に、英雄は恋の肩を抱き寄せる。これには恋も一瞬驚き……そして、頬を染めて薄っすらと微笑む。これはどうも、恋の心の琴線に触れたらしい。
「!?!?!?!?!?」
「■■■■■■ーッ!?」
「○!※□◇#△!」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
女子生徒達の大半が、一斉に発狂を開始。なんという阿鼻叫喚。
「ヌァァァァァァッ!?」
「あんな超絶美少女がッ!! 彼女だとォォォッ!?」
「敵だ!! 星波は俺達のて……良いやつなんだよなぁチクショォッ!!」
「許せん……!! 許すまじ……!! 許……っ……星波じゃ、仕方ねぇか……許す、マジ」
男子は男子で、恋のルックスを見て滂沱の涙を流している。それでも英雄を罵倒しようとして掌クルーするのだから、英雄が男子にも人気があるのが解る。
しかし、そんな空気に逆らう女子が一人。
「ほ、星波君、妹さんを迎えに行くんじゃなかったの!? 私達に嘘吐いたの!?」
お馬鹿さんである。嘘では、無かったのだ。
「こちら、うちの妹」
「星波の妹です、初めまして」
KY女子は、膝から崩れ落ちた。邪魔だから、どいてほしいなと思う英雄は薄情だろうか?
そこへやって来るのは、某眼鏡っ娘・根津さんだ。
「て、て、寺野君……その、娘は……星波君の、妹さん……なのよね……? それだけ、だよね……?」
完全に、目からハイライトが消え失せている。一縷の望みをかけて、「兄の親友に懐いているだけの女の子」であって欲しいという願望。
しかし、現実は非情である。
「あと、僕の彼女だよ」
「………………………………そ、そう……なの……」
この時彼女の脳裏に、姫乃をどうにかしたら良いのではという危険な思考が芽生える。既にお察しの通り、彼女はヤンデレ気味なので。
そのハイライトが消えた視線を、姫乃に向けるのだが……当の姫乃は、不満そうに仁を見る。
――仁さん……お嫁さんとは、言ってくれないんですか?
――ゲーム内での事だから、現実ではまだね? 将来は、そうなるけどね。
――むー、将来まで待ち切れないです……。
視線だけで語り合う人が多いこの界隈だが、極めれば視線だけで意思疎通した上に惚気けられるらしい。
そんな親密さマシマシの様子を目の当たりにして、根津さんはたじろいでしまう。
――なに!? この圧力……!! つ、強い……強過ぎる……ッ!!
別に殺気を受けているとか、そんなんではない。
あえて言うなら、目の前で繰り広げられる恋人同士のやり取り(ゲーム内夫婦)を見てるだけ。付け入る隙の無い、二人の絆をこれでもかと見せ付けられているだけである。
――か、勝てない……ッ!!
敗北を察すると同時に、彼女の目にハイライトが戻って来る。おかえり。仁と姫乃の甘々な雰囲気と、姫乃の純粋な可愛らしさ……それはヤンデレの危険思考すら浄化したらしい。えげつないレベルの天使っぷり。
ちなみに、仁のカミングアウトを受けた男子はやはり発狂した。
「星波妹ちゃんの彼氏がっ!! 寺野だとぉぉぉっ!?」
「あ、あんな、美少女が……恋人ッ!?」
「な、何故だァァァァ!!」
「おぉ神よ……何故あなたはこんな酷い仕打ちを俺に……」
更に、たまたまその場に居合わせた某・陸上部の副部長。
「ウゾダドンドコドーンッ!!」
加えて、たまたまその場に居合わせた某・騎士団メンバー。
「ナマ【七色】ktkr!!」
「くうぅぅっ!! ってかアバターと全然変わらねぇじゃん!!」
「マジで本物だぁ……目に優しすぎる……」
混乱は加速中。
「愉快な学校なんスねぇ」
「愉快というか……変なテンションじゃない? 隼君、私ちょっと怖い」
「きゃー、わたしもこーわーいー! 音也、まもってー」
「千夜ちゃん、超棒読みだよ……」
「「「「「そっちもカップルかよぉぉぉぉ!!」」」」」
ご来場の皆様にお伝え致します。一年A組は只今、非常に混乱しております。混雑ではありません、混乱です。大混乱です。
「先生! 一年A組の生徒達が騒いでまーす」
「昨日も星波目当ての女子が殺到してたろ……放っておけ」
次回は第二百部となります。
なので!
次回投稿予定日:2021/7/1(本編)
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