11-05 文化祭初日でした
※2021/6/25 12:18追記
【糖度注意報】
……と、更新前に入れ忘れたので、糖分被害に遭われた方は赦してね←
十一月九日の土曜日、日野市高校は二日に渡る文化祭の開催を迎えた。土曜日は校内のみの公開日となり、本番とも言える一般開放日は日曜のみだ。
仁と英雄の二人は、日曜日のシフト免除の為に土曜日はずっとクラスの店にいる事になる。
クラスメイトのシフト担当(非リア充)からは、難色を示されたのだが……そこに、助け舟を出す二人組が居たのだ。
「二人が日曜のシフト免除なら、俺は土曜のシフト免除してくれよ」
「その分、日曜日はずっと店に居るよ」
当然、人志&明人だ。彼等は特に親兄弟が一般公開日に来る予定も無いし、どっちでも良いのだ。一般公開日に、デートのチャンス? そんな夢を見ては居ない。
それに仁と英雄が日曜日に案内するのは、【七色の橋】の面々。これまで様々なトラブルがあったが、その大半は自分たち【聖光の騎士団】側がきっかけだった。罪滅ぼしにはならないだろうが、彼等のささやかな楽しい時間をサポートしても良いだろう……それが二人で出した結論だ。
そんな二人の後押しもあり、仁と英雄の要望は通る事となった。人志と明人、非常にグッジョブである。
そんな模擬店での役割だが、英雄は女子の満場一致でフロア担当。その出で立ちは、執事服である。執事&メイド喫茶らしい……実に安直。
「星波君、サイコー!!」
「お、お嬢様って言ってみてくれる!?」
「これが……!! 神がこの世にもたらした格好良いの権化……!!」
女子達がやたらと盛り上がっているが、盛り上がりは廊下にまで広がっている。英雄目当てで開店ダッシュをキメようとしている女子生徒達が、行列を作っているのだ。
「……英雄は本当に大変そうだなぁ」
仁も執事服だが、彼はホールも調理もできない。右足の事があるのだから、当然だろう。
故に、仁は会計係となった。むしろ足が悪い仁の為に、土曜日限定で設定された係である。
ちなみに仁の執事服だが、こちらも割と好評であった。男女問わず。
「うわっ! 寺野、結構似合ってね?」
「うんうん、寺野君も良い感じ……ってか、思ったよりもハマってない?」
「あー、寺野って陸上やってたんだろ? 鍛えていたからか、姿勢も良いよな」
「寺野君、写真撮っていい〜?」
今まで、物静かなクラスメイトと思われていた仁。右足の事もあり、クラスメイトもあまり踏み込まない様にしていた。
しかし、英雄達との昼食で見せる素の笑顔……そして文化祭準備で、真面目に取り組む姿勢。それを見て、一部の女子生徒達はロックオンの姿勢を見せているのだった。
……
文化祭初日が開幕すると、教室になだれ込んで来る生徒達。一部の女子が目当てな男子生徒もいるものの、大半は英雄目的の女子生徒だ。
「えー、何で私達の注文が星波君じゃないのよ~!」
「申し訳ありませんが、担当テーブルが決まっておりますので。冷やかしならお引き取り下さいませ~?」
「はぁ!? こっちはお客様なんですけど!?」
「お客様ならさっさと注文をどうぞ!!」
「私はあそこの席が良いの! あそこが空くまで待つわ!」
「他のお客様の迷惑だからやめろ下さい」
「良いじゃん! 私は星波君に執事服でお嬢様って言われたいのよ!」
「そういうサービスはございませんから! あったら私も客側で来るわ!」
「沢渡さん、メイド服似合うね~。写真撮っても良い?」
「すみませーん、写真撮影は禁止にさせて貰ってまして~!」
「良いじゃん良いじゃん、一枚だけだからさ」
「あんまりしつこいと、強制退去ですけど。扉の前に張り紙してんでしょうが、いい加減にしろよ?」
「ひぇっ!」
「寺野くーん、お客様お帰りですー!」
「はーい! こちらの会計までお願いしまーす!」
「はい、寺野君。これ、伝票ね」
「ありがとう、三好さん。えー、コーヒー二つとサンドウィッチですね。お会計五百円になります」
……
満員御礼の仁達のクラスは、文化祭開始から二時間が経過しても賑やかである。しかし、二時間もぶっ通しで働けば疲れも出るというもの。そこへ、人志と明人が姿を見せる。
「うわっ、すげぇ長蛇の列……」
「エグい人気振りだね」
ビニール袋を両手に持った二人は、出口側から顔を覗かせた。
「あっ、コラ! そっちは出口よ! 同じクラスでも、客として来るなら並びなさい!」
「残念、客じゃないんだな。ほら、差し入れ」
「休憩時間にでも、皆でつまんでよ」
二人はどうやら、忙しいであろうクラスメイト達の為に差し入れを用意して来たらしい。
「おー、人志も明人もありがとう!」
「おう! 良いって事さ!」
「休憩は隣の空き教室だよね? そっちに置いとくよ」
一声かけて、二人は空き教室に差し入れを置きに向かった。その背中を見て、クラスメイト達はほぉ……と、関心の姿勢を見せる。
「鳴洲と倉守、最近はなんか人が変わったみたいにイケメンムーブするようになったな」
「ナチュラルに差し入れを……中々にやりおる」
男子生徒達は、ここ最近の二人の著しい変化に驚いていた。これまで、然程目立たない生徒だった二人が、最近はやたらと積極的な行動を見せる様になってきたのだ。
「何か、星波と寺野とツルむようになってからじゃね?」
「……星波のイケメンは、まさか感染する!?」
「それか!!」
その結論に至るのは、どうかと思うが。
対する女子生徒達の反応は。
「前に比べて鳴洲ってマトモだよね~」
「倉守も、以前はただの陰キャって感じだったけど……今は、なんつーか……ちょっと大人っぽくない?」
「やっぱ星波君や寺野君の影響かな。最近は仲が良いもんね」
ここ最近の人志と明人の変化は、どうやら女子からも好意的に見られている様だ。
特別美形でも、格好良いわけでもない二人組。平均的な容姿の持ち主であり、ゲームの話題ばかりしているオタクコンビという印象だった。特に人志は、遅刻はするし宿題は忘れる。授業中は居眠りの常習犯だったのだが……。
しかし最近は、文化祭の準備や先程の差し入れなど、随分と気が利く事をしれっとやってみせる。生活態度も二学期に入ってからそこそこ改められており、そのギャップは結構大きい。
株は順調に上昇しているのだった。
************************************************************
その頃、AWO内。
「いよいよ、明日だね~! 日野市高校の文化祭!」
「ミモリさんとカノンさんは、今頃飛行機かな?」
「だろうね。俺も六時くらいにはログアウトするッス~」
「あぁ、ハヤテさんもジンさんの家に行くんでしたっけ?」
「ウチの親父とお袋が、久々にミモ姉に会いたいっつーからね。多分、そのまま泊まりになるッス」
中学生組withシオンは、ギルドホームでのんびりと雑談していた。というのも探索にしろ生産にしろ、ジン・ヒイロ・ミモリ・カノンが居ないと微妙だよね……という事になったのだ。
「ま、二人を日野市まで案内出来るから丁度いいッスね」
「駅前で集合して、学校に行くんですよね?」
ヒビキの問い掛けに、シオンが頷いて答える。
「学校の前で、待ち合わせをする人は多いと思われますので。それに校門前では、妙な輩に絡まれる可能性もあります。それならば、駅前が無難でしょう」
ちなみにハヤテは寺野家からミモリ・カノンと、ヒビキはセンヤと駅に向かうことになる。アイネ・ネオンはそれぞれ単独で向かい、ヒメノはレン&シオンが迎えに行く事になる。
「アイネと待ち合わせ出来んくて、ごめんね?」
ハヤテはそれが気掛かりだったのだが、アイネは柔らかく微笑んで首を横に振る。
「ミモリさんとカノンさんは、土地勘が無いもの。気遣ってくれてありがとう、ハヤテ君」
理解のある恋人の返答に、ハヤテは「その分、文化祭デートでめっちゃ楽しませよう!」と心の中で気合を入れる。
さて、ここまで会話に加わっていないヒメノとレン。二人はどんよりした表情で、言葉を交わしていた。
「ジンさん、脚が悪いのに今日はずっとクラスの模擬店だなんて……無理してないかな……」
「こうしている間に、ヒイロさんに群がる女性が……」
「そうだね、ジンさんを誘おうとした人に迫られてないでしょうか……」
「学校では人気者だそうですし、悪い虫が付かないか心配で……」
「断ったと言ってくれたけど……ジンさん優しいから……」
「ふふ、これはもう明日は本気を出すしかないですね……」
言葉を交わしていると言ったな、あれは嘘だ。会話が成立していない。
「病んでない?」
「……大丈夫かなぁ」
センヤとネオンの言葉に、否定意見は出なかった。
************************************************************
そんなこんなで、夕方。
「いよっしゃー! 初日終わりー!」
「客が多過ぎて、捌き切れるか不安だったが……やれば出来るもんだな!」
勿論、客が多かったのは一人の男子生徒の影響だ。正直、英雄の人気を軽視していた……それが男子連中の総意である。
「女子の七割くらいが星波狙いだったな……」
「言うな! 悲しくなるッ!」
「寺野君、売り上げはどうだった?」
「それが、こんなもんなんだけど……」
「エグい金額になってる……」
どうやら、英雄効果は金額にも相当な影響を齎したらしい。
「まぁ、途中で材料を買い出しに行くくらいだからね……」
「二日分のつもりが、半日で足りなくなるとはなぁ……」
さて、そんな売り上げに貢献した英雄はというと。
「星波君、この後は何か予定は!?」
「せっかくだから、打ち上げしようよ!!」
「ねぇねぇ、ツーショット撮っていい!?」
「あっ、抜け駆けすんな!」
安定して女子に囲まれていた。今日はずっとこの調子である。
――好意を向けられるのはありがたいけど、上辺だけっていうのはな……。
彼女達が黄色い声を上げているのは、英雄のルックスや人気についてである。英雄の本質を知って、好意を向けている訳ではないのだ。
だからどうしても、比較してしまう……自分を愛してくれる、あの小柄ながら美しい少女と。
「ごめんね、今日はちょっと疲れたし……明日の為に色々とやる事があるんだ。それじゃあ」
いつもならば、優しく丁寧に断る英雄。しかし今日は、強引に話を切り上げて教室を出て行った。そんな英雄を見て、仁は驚いてしまう。
――珍しいな、英雄があんな風に断るなんて。
とはいえ、気持ちは解らないでもない。陸上で好成績を出した直後、仁もクラスメイトからキャーキャー騒がれていた事があった。陸上一筋だったあの頃はそれが中々に厄介で、辟易していたのだ。
「お前らがしつこいから、星波怒ったんじゃねぇの!?」
「アタシじゃないし!! 疲れてるだろうに打ち上げとか言った人じゃない!?」
「はあぁっ!?」
女子達の喧騒をBGMにしてそんな過去に思いを馳せていると、ジンの携帯端末が震える。見れば、英雄からRAINのメッセージが届いていた。
『校門の所で待っているよ』
二人は親友であり、いつも一緒に帰る間柄。だから英雄が待っていてくれるのは、仁にとってもありがたい事だった。
「それじゃあ、僕もこれで……」
そんな仁に、一人の女子が声を掛けた。
「あ、寺野君。あのさ……」
……
校門で待っていた英雄は、昇降口から現れた仁を見て首を傾げる。思いのほか、疲れているように見えたのだ。
「仁、大丈夫? 疲れた?」
「お待たせ、英雄……いや、帰り際にまた、根津さんに……」
根津さんとは、仁を根気強く誘うあの眼鏡っ子だ。その一言で大体の事情を察した英雄は、苦笑しかできなかった。
「それでか……ま、とりあえず帰ろうか」
「だね……」
帰り道の間、仁と英雄は先の事について話す。
「あぁ、成程ね。確かに上辺だけ見られて騒がれるのは、何か違うなって思うよね」
「あぁ……そうか、仁は陸上で……」
「大会で優勝した時とか、やたらと声を掛けられたからね……」
姫乃も恋も、上辺だけを見ている訳では無い。彼等の内面も含めて受け入れ、想いを寄せてくれているのだ。だからこそ、ミーハーな女子達と比べてしまう。
「ま、僕等の恋人は最高って事だね」
「ははっ、間違いない」
そんな事を話しつつ、二人は家路へ。今日はそれなりの時間になってしまった為、仁も星波家に寄らず真っ直ぐ帰宅する。
************************************************************
「いやぁ、和美ちゃんも随分と大人になったもんだ!」
「最後に会った時は、まだ中学生だったかしら?」
「紀子さんも、たくさん食べてねー! 遠慮しないで良いわよー!」
「うん、中々に華やかな食卓だなぁ」
空港から和美と紀子を拾った相田家が来訪すると、寺野家は賑やかな宴会モードに突入した。
「紀子さん、大丈夫ッスか?」
「だ、だ、大丈夫……だと、思う……よ?」
「大丈夫じゃないけど、頑張るって所かしら……ま、無理しないようにね」
「疲れたら、休んで大丈夫ですよ。遠慮は無しで行きましょう」
イトコ組With紀子は、大人組の盛り上がりを他所にいつものペースだ。毎日、AWOで共に過ごしているのだから慣れたものである。
「あ、仁兄。AWO出来るパソコンある?」
「僕のVRドライバーなら行けるんじゃない? 接続端子五つあるし」
「据え置き型……だよね? 良いなぁ……」
「場所取りますけどね」
「私達のみたいに、持ち運び出来ないからね。一長一短かしら」
子供達がゲームの事を話していると、親達が食い付いてきた。
「おっ、例のゲームの話かい?」
仁パパが上機嫌で声を掛けると、紀子の背筋が伸びた。人見知りは軽減されつつあるが、まだ完治には程遠い様だ。
「そういえば、ゲームをしてるってくらいしか聞いてないわね。どんな感じなの?」
「あぁ、そうだね。写真とか無いのかい?」
隼ママと隼パパまでそんな事を言い出すので、四人は顔を見合わせてしまう。見せるのか、アレを。
結局、親(酔っ払い)に勝てなかった仁と隼が携帯端末で写真を表示する。時折、仲間内で撮るスクショだ。余談だが、結婚式のスクショだけは見せないでと仁が必死にお願いしたのでそちらは免れた。
「ほほぉ……和風ゲームなのかい?」
「世界観は、洋風です」
「この子は?」
「プレイヤーじゃなくて、AIで動くNPCですよ」
「……アロハ着てるこの人は」
「友達のユージンさんです」
「……ねぇ、仁はどれ?」
「「「これ」」」
「忍者……!?」
一問一答の様なやり取りをしつつ、仁達の周囲の人達について語る四人。(主に紀子以外)
ともあれ食事も終わり、順番で入浴を済ませた仁達。仁のVRドライバーに自分のVRゴーグルを接続し、四人は揃ってAWOへとログインした。
************************************************************
「皆、お待た……せ……っ!?」
新婚部屋を出たジンは、即大広間へ向かう。すると、勢いよく飛び付いて来る何かが居た。
「お帰りなさい、ジンさんっ」
ジンの胸元に勢いよく飛び込んで来たのは、やはりヒメノ。昼間の姿はどこへやら、ご機嫌である。彼女のアバターに犬の尻尾があったら、盛大にブンブンと振っているに違いない。
「待たせてごめんね、ヒメ。その分、明日はデート出来るよ」
優しくそう語り掛けるジンに、ヒメノは嬉しそうに頷いてみせる。
彼女は無意識だが、その顔に浮かべたふにゃっとした笑顔。それが、ジンにとって何よりも効果的なのだ。
そんなジンとヒメノを見て、中学生組とシオンが安堵の溜息を漏らす。普段は微笑ましく思いつつも、胸焼けしそうな表情を見せるはずなのだが。その甘々なやり取りで。
その理由を知らないミモリとカノンは首を傾げるが、昼間はログインしていたのでハヤテは当然理解していた。
「あの二人を……いや、あっちもか。別行動させるのは最小限にした方が良いッスねぇ」
あっちとは、ヒイロの隣に腰掛けてお茶を飲むレンの事だろう。こちらも昼間とは打って変わって、ご機嫌モードである。
「レン? どうしたんだい、今日は……随分と、グイグイ来るね?」
もう、太腿も肩もピッタリくっ付いている状況だ。ヒイロもその珍しい行動と、何よりもレンの感触や体温を体感してドキドキしてしまっている。
「いえ、恋人なら普通では?」
「そ、そう……? うーん……」
このままでは、レンに主導権を握られっぱなしになる。別にそれは構わないのだが、自分としてもレンの手を引いて歩きたい……レンに頼りにされたいお年頃のヒイロ。
なので、意を決してちょっと肩を抱くようにしてみる。
「……っ!?」
一瞬、レンが余裕の表情を崩す。その頬が、あからさまに赤く染まる。自分からするのは良くても、ヒイロからされるのはまだ少し恥ずかしいらしい。
「うん、ありゃあ今後はコンビ固定。これ前提」
そんなハヤテの言葉に、アイネが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「どうかな? もしかしたら、私も二人みたいになっちゃうかもしれないよ? というか、多分なる」
「怖い事言わないで……」
笑顔を引き攣らせるハヤテに、アイネがクスクスと笑いながら嘯く。
「じゃあ、あまり放っておかないでね?」
そんな恋人の言葉に、ハヤテは苦笑いしか出来なかった。他人事ならばまだしも、我が事となれば本気で笑えない。
「肝に銘じます……」
第二回イベントの決勝で、最凶カップルと恐れられた二人とは思えぬラブラブっぷり。
「ふふふ、実は私も〜?」
そう言って、ニヤニヤとヒビキに流し目を送るセンヤ。口元がニヤけているので、冗談だろう。
しかし冗談とは思わなかったヒビキ、本気で慌て始める。
「センヤちゃん、マジやめて。怖い怖い! さっきは一緒にガクブルしてたじゃんか!」
「ふふっ、本当に皆仲良しだねー」
ネオンは笑って流すが、他の三人……大人組は笑えない。
――甘っ……。
これにはシオンも、ミモリやカノンまで砂糖を吐きそうな顔を浮かべてしまう。
……
ヒメノとレンの機嫌が回復した事で、ようやく本来の調子を取り戻した【七色の橋】。話題は翌日の文化祭の話題になり……その次の話題は、AWOでの話題となった。
「文化祭が終わったら、第三エリアを目指して本腰を入れる事になるね」
ヒイロの言葉に、【七色の橋】のメンバー全員が真剣な表情で頷く。
第三エリア開放から九日が経ったが、未だに到達者は現れていない。その理由は、第二エリアとは違い第三エリアへの道は破壊不能な障害物で遮られている為だ。
破壊不能オブジェクトは、特殊な条件を満たす事で開く事が可能なのだが……その条件が、まだ見つかっていないらしい。
「これだけ時間が経っても、見つかっていないのか……」
「それぞれのエリアに、何らかのヒントがあるとは思うんですけどね」
ヒイロとレンの言葉に、ハヤテが加わる。
「東の[クレイドル大草原]は、道を阻む巨大な岩の破壊不能オブジェクト。西の砂漠には巨大な流砂……この中に入ったプレイヤーが居たらしいッスけど、真っ暗闇で一撃死したそうッス」
実はこの流砂、第三回イベントの素材を集めに行ったケイン達も発見している。流砂の向こうは砂塵で見えにくかったが、建造物らしき何かがあったそうだ。
「流砂……の中に、モンスター? もしかして……」
「エリアボス、かなぁ」
「だとしたらボスはアリジゴクみたいなやつかな?」
予想を口にするものの、実際に現地に行ってみなければ結論は出ない。ひとまずその話は、ここで切り上げる事に。
「南には、障害物なんかは無かったと思うけど……そうなると、やはり海?」
ネオンの言葉に、ヒビキとセンヤも頷いてみせる。
「時間加速によって、潮の満ち引きに遭遇するチャンスが増えましたからね……」
「潮が引いた時に、海に何か出入り口が現れる……とか?」
すると、そこで話に加わるのはシオンのPACであるカームだ。
「南にはクラーケンという巨大なモンスターが居て、船乗り達には恐れられているそうですが……それは、あまり関係ないですかね?」
巨大なモンスター・クラーケン。海のモンスターとしては、やはりメジャーなボスだ
「あ、多分それがエリアボスですね」
ジンがそう言うと、今度はメーテルが首を傾げる。
「クラーケンといえば……海辺はあんまり行かなかったから詳しくないけどねぇ。確か、弓兵を称える像があるはずさね」
弓兵を称える像……その言葉に、ハヤテが食いつく。
「ばっちゃん、それ詳しく教えてくれる?」
「いいよぉ、こんな婆の話で役に立つならいくらでも話すさね」
エリアボスと目されるクラーケンが海辺に現れないのは、かつて南側の町を守護していた伝説的な弓兵のお陰と言われている。
その弓兵がクラーケンの眉間に渾身の矢を撃ち込み、撤退させたいうのだ。その弓兵を称える為に、港には弓兵の像が建てられたのだ。
「……弓兵の像か。ありがと、ばっちゃん!」
「役に立てたかね? それなら良かった良かった!」
何かを察し、ハヤテの口元が緩んでいる。どうやら何かしらの手掛かりを得たらしい。
「最後は北かな? [ランドル鉱山]の最深部」
「氷の壁ですよね」
ヒイロとヒメノは、実際に現地でそれを見ている。
「それも破壊不能で、炎魔法でも溶かせないんだよね?」
「えぇ、そうらしいわ。私やネオンちゃんで魔法を使っても、MPの無駄になりそうね」
ネオンとレンの会話を聞きながら、カノンは自らのPACに視線を向ける。
「ボ、ボイドさんは……あの氷の壁について、何か、知らない……かな?」
カノンに声を掛けられ、ボイドはクワッ!! と目を見開く。カノンの肩がビクッ!! と跳ねる所までが、ここ最近のテンプレである。
「……済みません、親方。私はあの鉱山も何度か行ってますが、特には……」
申し訳無さそうに肩を落とすボイドに、逆にカノンが申し訳無くなってくる。
「い、いい……よ? もし、何かあれば……的な、そういうの……だよ?」
「……はっ!!」
クワッ!! 入りましたー。
「ひぅっ!?」
ビクつくカノンに、ボイドがその厳しい顔を向ける。傍目には、怒ってる? おこなの? と思えてしまうが……本人にとっては、違う。
「ただ、あの鉱山……他の鉱山と違って、壊せない壁が……」
「……壊せない、壁?」
「はい……表面が、ツルツルの……」
そう言われて、ヒイロとヒメノも思い出した。確かに、鉱山のあちこちに鏡の様にツルツルの鉱石があった。
「あれか……確かに、今思うと多かったな……」
「もしかしたら、それが攻略に関係あるのかもしれないですね」
破壊出来ないということは、それが何かしらの鍵を握っている可能性は高い。
「よし……文化祭が終わったら早速、各地の調査を始めよう」
「そうだね。まずは明日、皆で英気を養おうか」
「異議無しッス!」
「楽しみましょう!」
男子四人の言葉に、女性陣も笑顔で頷く。
待ちに待った文化祭デートは、いよいよ明日である。
次回投稿予定日:2021/6/28(幕間)
次は本編の前に少しばかり、空回りする生徒達の様子をご覧下さい。