11-04 幕間・アレクの暗躍
スパイを各ギルドに送り込み、情報を探るプレイヤー集団の中でも中心と言って良い人物・アレク。【聖光の騎士団】のメンバーとしての活動はそこそこに、ドラグの齎した情報について思案していた。
まずは彼等のステータスやスキル構成、プレイヤースキルについてだ。
――【七色の橋】はやはり、尖った性能のプレイヤーが多そうだな。
ヒイロは【幽鬼】と、武装を作り替えるスキル持ち。更には【スキル相殺】を可能とする、精確な剣捌き。アークを追い詰めた実力は、無視できないだろう。このギルド内では、バランスが良い構成と思われる。
ハヤテは銃というレアアイテムに加え、先日【一撃入魂】を入手した。更にはジェイクの報告にある、カゲツの【ウィンドボール】を撃ち抜く精密射撃。これはヴェインとの戦闘でも披露しており、中々に侮れない。
アイネはスキル名宣言を破棄するという、正体不明のスキルを保有している。更に見た所、技後硬直も軽減されている模様だ。その薙刀捌きも堂に入っており、恐らくは現実で心得があるのではないかと思われる。
そして、特化型の四人。ジンはAGI、ヒメノはSTR、レンはINT、シオンがVITに特化している。これは、確実だろう。
特化したステータスを押し上げているのは、風林火山陰雷をモチーフとしたユニークスキル。そして、それらは【スター】系レアスキルの上位互換だ。これはケインのユニークスキル【鞍馬天狗】と同種の物であり、複数の魔技を有している。
――ジンの使ったいくつかのスキル……それに、ヒメノの蛇を生み出すスキルはそれだろうな。レンの魔法強化スキル、シオンの得物を分割するスキルもそうか?
他にも生産職として、名前が広く認知されているミモリとカノン。彼女達の生産した品が、【七色の橋】のギルド運営資金になるのだろう。
どちらも腕の良い生産職プレイヤーで、第三回イベントにも入賞し話題となった。これならば、彼女達の作った物は飛ぶように売れる事だろう。
他のメンバー……センヤ・ネオン・ヒビキ。この三人については、情報が然程広まっていない。
ドラグによるとVRを始めて間もないらしく、大した戦力ではないらしい。
そして、刀を入手した際に得られるスキルオーブ【刀剣の心得】……【一閃】という武技と、それを強化するパッシブスキルで固められたそれ。
多様性は他の武技スキルに劣るが、クリティカル発生率とその破壊力は折り紙つきだ。
――【七色の橋】のメンバーは、PACまでもがコレを使える。【桃園の誓い】も同様だ。これまでは、刀を独占する気だと思っていたんだが……それなら何故、刀を売り始めた?
既に【七色の橋】が販売した刀は、数十本に達している。その内の一人が、ハヤテから直接購入したカイトである。彼の刀を鑑定して、アレク達は刀剣の情報を手に入れる事に成功した……それは良い。
問題は、【七色の橋】の行動だ。レアアイテムである≪刀剣≫を販売する……それは、自分達の情報を一部明かすという事になる。
――それが意味する所が解らない様な、考え無しではないはずだ。既に奴らは【刀剣の心得】のレベルを上げ切っていて、アドバンテージは十分と考えたか?
他のプレイヤーは、まだ【刀剣の心得】に手を掛けたばかり。逆に【七色の橋】は早い内から刀を使って来た為、スキルレベルもカンストしているかもしれない。
――もしかしたら、運営から第三エリアで刀が手に入るという情報を得ているのでは? もしそうなら、稼げるのは今の内……か。成程、それなら有り得そうだな。
そう考えて、アレクは視線を巡らせる。これらの推測を立証し、それを公にして【七色の橋】の信用を失墜させる……その為に必要なのは、物証だ。確たる証拠が無ければ、どれだけ声を上げても信用を得る事はできない。
――カイトを潜り込ませるつもりだったのに、うまく行かないもんだ。お陰でアイツはフリー……手綱を握るヤツが居ない。
カイトは”彼女”に最も近しい存在であり、プレイヤーとしての実力も高い。故に重用せざるを得ない。しかしながら、ここ最近の暴走っぷりは危機感を覚えるレベルだ。
――ハヤテ……彼に対する、嫉妬だろうな。
同じ学校、同じ学年の少年。そんな彼が、イベントの舞台で活躍し脚光を浴びた事……そして掲示板でも彼は度々、話題を提供してプレイヤー達から賞賛を浴びている。
その事に対し、嫉妬して暴走しかけているのだろう。
――カイトとアンジェリカ以外、ギルドや集団に所属している……周囲の目がある中で、カイトの手綱を握り続ける事は出来ない……。
アンジェリカの望みの為にも、早く【七色の橋】を失脚させる必要がある。それが一部を除く、アレク達の統一見解。
……
故にアレクは、ある人物にコンタクトを取った。このゲームの中で、様々な情報を取り扱う存在が居る……その人物から齎された情報は、かなり正確だという。
コンタクトの取り方は、公式掲示板にある文面を投稿する事。それは【少年よ、大志を抱け】という有名な言葉である。
その人物の情報は、ルシアから齎された。
彼女が所属している【遥かなる旅路】……そのサブマスターである、トロロゴハン。彼女はその人物とコンタクトを取る事に成功し、情報を得てあるレアアイテムを入手する事に成功したという。
その話は以前から仲間内で話題に上がっていたが、こちらの情報を晒す事を恐れてコンタクトを取る事を避けていた。
しかしながら【七色の橋】の情報はあれど確証が得られず、背に腹は替えられぬという段階に来ていた。
ちなみにその人物は、攻略掲示板にも関与している可能性が高い……とはジェイクの弁。もしかしたら、掲示板を立ち上げた人物ではないかと噂されているそうだ。
そんな事を考えている、その時。
「そこの人、ちょっと済みません……」
さりげなく周囲の様子を伺っていたアレクに、一人の青年が声を掛けた。
「ん? 俺かい?」
アレクが反応すると、青年は申し訳無さそうにヘコヘコと頭を下げる。
「えぇ、ちょっとお尋ねしたい事がありまして……自分、初心者なんですけどもね? レアスキルを手に入れられる[魔獣の洞窟]っていうのは、どっちの方に行けばありますかね?」
「あぁ、もしかして【スピードスター】狙い? もう、手に入らないらしいよ……」
それは、今や話題のスポット。ボスモンスターを倒す際、一定の条件がクリアされていると【スピードスター】というレアスキルを手に入れられる……という情報があったダンジョンだ。
しかし……ある時期以降、【スピードスター】を入手出来なくなったという。
もしかしたら、数量限定……もしくは、【スピードスター】を得られる期間が決められていた。はたまた、別の要因か。それは未だに、誰も突き止められていない。
「そうだろうねぇ……第二エリアのエクストラクエストが、クリアされたからね」
小声で、アレクだけに聞こえるような呟き。青年のその言葉の意味が、アレクには理解出来なかった。
第二エリアのエクストラクエストとは? それと【スピードスター】が、何故関係している? 何故、この青年がそれを知っている?
そこでアレクは気付いた。彼が、探していた存在だと。
「そりゃあ残念だなぁ。でも無駄足踏まなくて済んだ、ありがとう親切なお兄さん。あ、フレンド登録ってやつ、お願いしても良いですか?」
「……!! あぁ、まぁそれくらいなら構わないよ」
『【スオウ=ミチバ】からフレンド申請を受信しました。申請を許可しますか?』
スオウ=ミチバ……聞き覚えの無い名前だった。しかし、まだ誰も知らない【スター】シリーズを入手出来なくなった理由……彼はどうやら、それを知っている様だ。
――それが正確な情報かどうかは、調べなければ。しかし……謎を明らかにする為の取っ掛かりとしては、上々だな。
「ありがとうございます、お兄さん。それじゃあ、俺はこれで~」
そう言うと、スオウは背中を向けて歩き出した。恐らくは、周囲に不自然に思われない様にしているのだろう。
顧客とのコンタクトはこうして取っているのかと、アレクは納得した。恐らくは身に纏っている初心者装備も、ポーズに違いない。
――【情報屋】……成程、中々に使えそうな奴じゃないか……。
次回投稿予定日:2021/6/25(本編)
※2021/6/30、アレクが情報屋に接触する為の行動を起こした記述を追記しました。