11-02 幕間・室千雅の独白
私の名前は、宇治 室千雅……宇治家の跡取りである。
我が宇治家は日本でも有数の企業であり、複数のグループ会社を経営する名家だ。口惜しくも初音と六浦に一歩劣るものの、日本で五本の指に入ると言っても過言ではない。
そんな私は昔、ある人物に恋をしていた……それは初音家のご令嬢だ。
長いロングストレートの黒髪と、整った儚げな容姿。まさに大和撫子という言葉がピッタリの、非常に可憐な女性だった。人形の様に美しいとは、彼女の為の言葉ではなかろうか。
残念ながら、彼女は既に結婚してしまっている。既婚者なのだ。
しかし驚いた……まさか彼女が運営メンバーのエリアとして、AWOに関わっているなどとは思っていなかったのだ。
私はすぐに、エリアが彼女なのだと気付いたが……ゲームのアバターでも、彼女の美しさを表現し切るには足りなかったようだ。いや、美しいのは間違いないけれども。
……いやいや、今はエリアの事を思い出していたのだ。なぜ、不意にシオンとかいうメイドの顔が浮かぶ!!
AWO……アナザーワールド・オンラインは、初音家と六浦家が共同出資したゲーム会社ユートピア・クリエイティブによって運営されているのだったな。
既に名立たる名家がその出資に加わるべく、打診をしているらしいが……我が宇治家も、これに乗り遅れる手はないのではないか。
そう思い、私は父と話をする事にした。妹である万咲代も一緒だ……妹もまた、VRゲームで世俗を忘れて騎士プレイをしている事だしな。
「ヴァーチャルリアリティ技術か……確かに、昨今の主流と言って良いだろうな」
父に話をしてみると、中々に感触は悪くない様だった。
「ゲーム以外にも、身体障害者向けのVR技術は非常に有用ですわね。医療や教育に多大な貢献を齎すだろう技術ではありませんでしょうか?」
万咲代も私を後押しする様に、VR技術への進出を後押しする。
「しかしだな……我が宇治家に、初音と六浦に擦り寄れと?」
私と妹が提案したのは、ユートピア・クリエイティブへの出資と人的支援。主に人的支援がメインであり、VR技術のノウハウをそこで得る事が目的である。
「擦り寄るというのは勘違いです。VR技術はこれから更に伸びる……その最先端技術に触れる事は、我々にとっても有益なはず」
そうして説得しようにも、父は私に怪訝な目を向けてきた。そして父から、痛恨の一言が放たれることに。
「ムロ……お前、未だに初音のお嬢様を忘れられないのではないか?」
グッ……そ、それは……ないとは言い切れないが……。
「……流石に、既婚者相手に懸想など。家名に泥を塗る様な真似は致しません」
そう、既に彼女は誰かと家庭を……何処の馬の骨とも知れぬ男と、家庭を築いているのだ。それにちょっかいを出すのは、流石に……クソッ、だから何であのメイドの顔が浮かぶのか!!
「……………………そういえば、初音家にはもう一人ご令嬢が居たな。まだ中学生だそうだが」
「父上、そんな疑いの目で見ないで頂けますか? 私とて、もう分別の付く大人ですよ?」
彼女の妹であれば、それはもう美しい少女だろうが……流石に中学生では。成人後ならば話は変わるかもしれんが、うん。
「では、御子息か?」
「貴方の中で私はどういう扱いですか、それならまず万咲代の方に目を向けて下さいよ」
拗らせて、同性愛者だと思われていないだろうな? そういった性癖を否定はしないが、私は普通に女性が好きだ。
「ちなみに私の好みではありませんわ。彼は確かに優秀ですが、宇治家の男性ならばもっとこう……活力を感じさせる方でなくては」
はいはい……アークね、アーク。
「……まぁ、良い。確かに勝良もVR技術をモノにすべく、ユートピアに乗り出そうとしているそうだし……考えておく」
ユートピアに乗り出すとは、中々に言い回しが面白い……ふいに、そんな事を考えてしまった。
理想郷を創造する会社によって作られた……異世界。
間違いなく、今のVRゲームの最先端を行くのはAWOだろう。
……待て、だからなぜあのメイドの顔が思い浮かぶのだ!!
次回投稿予定日:2021/6/20(本編)
……殴られて、シオンが気になりだした?
もしかして……Mの、目覚め……?