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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十一章 関係が深まりました
193/573

11-01 新しいスタートを切りました

ご閲覧頂いている皆様へお知らせします。


本章では、一部というか大半の方々のご期待に沿えません。(ざまぁ的な意味で)

心よりお詫び申し上げます。


尚、文化なお祭り的なアレがあります、お待たせしました。

あと、意外な彼と彼女の関係が進展します。

名前の由来シリーズも力を込めて描いております。


それでは、今章もお楽しみ頂ければ幸いです。

あ、これ置いときますね。

っ【前半で”微”糖注意報】

 現在、数あるVR・MMO・RPGの中でも特に人気を博している、【アナザーワールド・オンライン】。そんな仮想現実世界の中にある、一軒の和風建築物のとある一室。そこで、一組の男女が何やら作業を進めていた。

「これで出来ました!」

「だね。手伝ってくれてありがとう、ヒメ」

「えへへ、二人で使う部屋ですから!」

 別名、新婚部屋である。昨日、盛大な結婚式を挙げたジンとヒメノ。ゲーム内での夫婦となった二人は、新たな生活を始める為の準備に勤しんでいた。


 アナザーワールド・オンラインでは、結婚システムを導入している。この結婚を行うと、当事者達にはいくつかの機能が開放される。


 その中の一つは、互いのステータスを自由に確認する事が可能な点だ。

 プレイヤーのステータスといえば、まずはやはりプレイヤーレベル。そしてスキル構成に熟練度、装備品……プレイ日数も、登録フレンドも見られるという事である。

 つまり、夫婦間で隠し事は無し……という事なのだろう。


 もう一つは、ストレージ共有化。消費アイテムや所持コインも全て共有となり、夫婦となった二人で使用する。ちなみにアイテムの保有数は所持する鞄に依存するのだが、それも共有となる。

 これで失敗する夫婦も居るのではないか、と掲示板等では良く言われている要素だ。どちらかが多く使い過ぎたりすると、どちらかが損をするのだから当然である。それらを乗り越えてこそ、真の夫婦という事だろうか。


 ここまで突っ込んだシステムにしているのは、安易に結婚するプレイヤーが増えないようにする為だ。

 逆に言うと、それを踏まえても結婚したいというプレイヤーならば簡単に結婚が可能なシステムとも言える。


 そして結婚したがるプレイヤーの大半……そのお目当てはやはり、マイルームの共有化だろう。二人で一つの部屋を、マイルームとして使用する事が出来るのである。

 最も、従来通りそれぞれがマイルームを持つ事も可能だ。ただし、片方がもう片方の部屋をマイルーム同様に使用できるだけである。


 この機能開放を受けて、ジンとヒメノはマイルームを一緒にする事にした。ユージンによって増設された、他のメンバーよりも少し広い部屋……二人の新たなマイルームに、元のマイルームから荷物を運んで来たのだ。

 ちなみにこの新たなマイルームは、ジンの部屋を拡張して用意された。二階に上がる階段もあり、二フロアとなっている豪華仕様である。


「僕とヒメの刀や弓をこうして置くと、何かパワーアップした感じがするね」

 刀掛けに置かれた二人分の装備を見ると、確かに今までよりも豪華に感じられるだろう。しかも置かれている品の大半は、ユニークアイテム。

「ふふっ、だってパワーアップしましたから」

「ん?」

「えと、私達の関係が……です♪」

 そう言ってはにかむヒメノに、ジンはクラリと来てしまう。彼女になった時もであったが、ヒメノが新たな一面を見せるだけで破壊力抜群なのだ。流石はSTR極振り、ジン特攻お姫様。


「これからも、もっとパワーアップして行こうね」

「はいっ♪」

 ニッコリ微笑んだヒメノは、ジンの左側に移動してその腕を抱く様にする。これはヒメノのお気に入りらしい。ジンの右側に居るのも、そうだ。

 何故なら現実では、ジンは左手で杖を突くのだ。そうすると、こうして左側に寄り添う事はしづらい。仮想現実だからこその位置取りなのである。


「そういえば、もうすぐですよね……文化祭」

「うん、そうだね。ヒメと一緒に見て回るのが、今から楽しみだ」

「えへへ、私も楽しみです♪」

 ジンの言葉に、ヒメノはふにゃっと笑顔を浮かべてで頷く。そんなヒメノの表情につられて、ジンも目尻を下げて微笑み返す。

 そうして微笑み合う二人は、どこからどう見ても新婚夫婦そのものであった。


************************************************************


「……という訳なんだ」

 仁はAWO内で結婚した事を、人志と明人にも簡単にだが報告した。というか既に噂になっているらしく、あちらから話を振られた。

 無論、二日経った今でも掲示板で話題になっている。余程人付き合いを避けていない限りは、あちこちからその噂が耳に入るだろう。


「いやぁ、良いね。幸せそうで何より……人志、凄い顔になってるよ」

 明人の指摘通り、人志は物凄い複雑そうな表情である。その内心がどの様なものなのかは、彼自身の口から漏れ出ていた。

「羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましいけど微笑ましい……惚気けんな砂糖吐く、超おめでとうお祝いしたい、壁を殴りたいけど胴上げしたい。妬みたいけど喜ばしい。この感情の行き場が無くて困ってる……」

「ネガティブな方はエリアボスにぶつけてね」

「それだ!! そうする!!」

 流石は明人、人志の扱いはお手の物である。


「くそぉ……俺等も参列できたら良かったんだけど……」

「まだお互いに微妙な距離感だし、仕方がないさ」

 祝いたい気持ちは本物らしく、参列したかった様子の人志。それに明人は苦笑しながら、首を横に振る。

「まだ、俺達以外のメンバーは複雑そうだからね……」

「僕達自身は、もうすっかり仲良しだけどねー」

 第二回イベントの暴言事件は、未だに互いのギルドが引き摺っている……この四人を除いて。


「そう言えば、お前らの周りに変な奴らが湧いたりしてないか?」

 唐突な人志の問い掛けに、仁と英雄は首を傾げる。変な奴ら……とは、どんなニュアンスなのか測りかねたのだ。

「あー、アレだね。最近、掲示板でアンチ【七色の橋】っぽい奴が居るっぽいやつ」

「それそれ」

 二人は、明人の補足で理解した。どうやら、掲示板で自分達を嫌っている連中がいるらしい。


「今の所、問題はないよ」

「うん、平和かな」

「そか、それなら良いんだ」

「まぁ、何かあったら相談に乗るよ」

 微笑み合う四人は、すっかり仲の良い友人として定着しているのだった。


「文化祭も近いし、面倒事は勘弁して欲しいよね……そういえば、【七色の橋】は文化祭に来るのかな?」

「あぁ、大学生組も都合がつくかもって話だし……全員集合かも」

「良いなぁ……その上、現実リアルでも恋人同士なんだろ? はぁ、俺も彼女が欲しいぜ……」

 ぐぬぬ……と、唸りながらそんな事を言う人志。つい思わず、仁は素直に浮かんだ言葉を口にしてしまった。


「ナンパを止めれば良いんじゃないかな……?」

「ぐふっ!!」

「「ブフッ!!」」

 人志の心に、言葉の一閃。これには英雄と明人も、思わず吹き出してしまう。いろんな意味で、こうかはばつぐんだ!!


「誰彼構わず褒めるとか、あまり誠実そうには見えないと思うんだ」

 誠実という概念を擬人化した様な仁にそう言われては、人志も反論出来ない。流石に不憫に思ったのか、明人がフォローを入れる。

「人志も一応、あれからはそういった事はしていないよ」

 そんな助け舟を出す相棒に感謝しつつ、人志は神妙な顔で頷いてみせた。

「ギルドにも、お前らにも迷惑掛けたんだ。当然だろ?」


 そう言う人志を見て、英雄は彼について思考を巡らせる。

 ちゃんとしていれば、別に不細工でもないしそれなりにモテそうである。やはり、かつてプレイしていたゲームで有名になって有頂天になったのがいけなかったらしい。というか、有頂天になった結果が酷かったとも言える。


「普通にしていたら、人志は良い奴だよね」

「うん。もっと早くから、こうして話せたら良かったよねー」

 英雄と仁の言葉に、人志は喜びを覚えると同時に……この人の好い二人ならば、あの美少女達が恋人になるのも頷けると実感した。

「ともあれ、禊はまだまだ続くんだ。その後で、いい出会いがある事を祈るしかないな!」

「ナンパはもう止めた方が良いと思うよ……普通にしてれば、良い感じなんだし」

「ぐふっ!!」

 すっかりと、意気投合した四人であった。


……


 一方、初音女子大学付属……こちらでも、件の結婚式の話題に花が咲いていた。

「やっぱり千夜ちゃんのセンスは凄いね、ユージンさんまで絶賛していたよ」

「むふー! もっと褒めたまへ! って言っても、プロの人にゃあ敵わないけどねー!」

 姫乃……の、アバターであるヒメノが着たウェディングドレスは、千夜センヤのデザインだったらしい。和風を取り入れた斬新なデザインのウェディングドレスは実に見事な出来栄えであり、参列したプレイヤーの反応も上々どころか大絶賛であった。


「鳴子さんが、装備を更新する時はデザインについて相談したいと言っていたわ」

「ふふ、鳴子さんと千夜ちゃんはよく一緒に生産してるもんねー」

 恋と優も、二人が仲良く談笑しながら和装生産に勤しんでいる姿をよく見ている。その為、完全に二人はセットとして考えていた。


 尚、【七色の橋】が生産した和服と刀……これらは毎週月曜日の夜に、十点ずつ取引掲示板に出品している。生産のみに打ち込めば、勿論それ以上の数を作る事は可能。しかしフィールド探索をする時間も確保している為、この様なスタイルに落ち着いていた。

 一般的なプレイヤーからは当然、もっと数を用意して欲しいという要望はある。しかし自分達のプレイスタイルを曲げてまで、売り上げを上げる必要は無い。


「そういう恋ちゃんと優ちゃんも、和美さんと仲が良いよね」

 愛から掛けられた言葉に、二人は否定する事もなく笑顔で首肯する。彼女達は魔法職プレイヤーの為、和美ミモリと共にポーション生産を担当している。

 今では和気藹々と生産をするのが日常となっているので、仲が良いと言っていいだろう。


「で、今後は料理も生産していく事になるんだよね?」

 今日の大型アップデートが終われば、料理バフが実装される。それと同時に、空腹・満腹状態という状態変化がプレイヤーに課せられるのだ。

 空腹ゲージというもので状態が確認出来るのだが、ゲージが三割を切ると空腹状態となる。この状態に陥ると、アバターのステータスが徐々に減少していくのである。ちなみにゲージが完全に枯渇すると、餓死となって戦闘不能になる。この場合、即座に死に戻りだ。


「そうね、料理バフが実装されるから……期待してます、第四位さん。その内、料理も販売する? 愛ちゃんの料理と聞いたら、即完売な気がするわ」

「ハードル上げないでよね、恋ちゃん……あー、第二位はポーション担当だし、隼君も弾丸や砲弾の製作があるし……」


 先日の第三回イベントで、上位入賞を果たした愛と隼・和美。隼は自分で使う弾丸と、ヒメノが使う砲弾の生産がメイン。料理は掛け持ちとなるので、専任ではない。

 和美もポーション生産が主担当で掛け持ち。元々、料理に精通している鳴子も、服飾がメイン。手伝いはしてくれるものの、料理は掛け持ちとなるのだ。

 故に料理生産の専任担当となるのは、愛に決まったのであった。


「やっぱり人手は必要だよねぇ。でも、新規加入者は……」

「そうだね……」

 第二回イベントで優勝した直後、【七色の橋】を待っていたのは野次馬プレイヤーからの熱烈な接触。その印象が根強く、余程の事が無い限りは新規加入者を受け入れるという事は考えない方針だ。


……


 一方、隼の通う中学。高校受験を目前に控えた生徒達が、勉強に打ち込む中……隼はのんびりと、携帯端末を操作している。

 ちなみにこの学校の校則では、携帯端末の持ち込みは禁止されていない。無論、授業中はマナーモードにするか、電源を切って鞄の中に入れておく必要があるが。


――第三エリアにも、きっとエクストラクエストが隠されているはず。仁兄達の為にも、速攻で第三エリアに到達してダンジョンを見付けないと。


 思ったよりも、のんびりはしていなかった様だ。AWO内で書き溜めたメモのスクリーンショットや、掲示板で見付けた意味ありげな書き込み。それらを精査して、第三エリア攻略に向けての情報をまとめていた。


 そんな隼の様子を、廊下からこっそり窺う少年が居た。


――余裕そうにしているな……学年上位の成績だから余裕、って事か。感じが悪いね、相変わらず。


 浦田霧人……アレクの仲間の一人、カイトだ。勉強もせずに余裕の態度を見せている隼を、内心では忌々しく思っているらしい。

 最も、そんな内心を表に出さないのは流石というべきか。あと、感じが悪いのは君の内面の方だと、いつか誰かが指摘してくれないものか。


 そんな霧人に、声を掛ける少年が居た。

「浦田君……どうかした?」

 自信なさげなその少年は、霧人の顔色を窺う様に声を掛けていた。

「何でも無いよ、名井家ないけ君。ちょっと知り合いが居たから、見ていただけさ」

 そう言うと、霧人は名井家と呼ばれた少年に並んで歩き出す。


「今日から第三エリア開放だね……」

「そうだね。名井家君もすぐに目指すんだろう?」

「出来そうなら、かな。エリアボスも強力になっているだろうし、野良パだとキツいかもしれないなぁ……」

 傍目から見ると、それは和やかな会話に見えるだろう。しかしながら、霧人からするとそれもポーズでしかない。


 学校での霧人は、人当たりが良く成績も優秀。そして、友人想いの少年と見られている。教師からの信頼も厚く、クラスメイトからも頼りにされている。更には女子生徒からも人気はあり、後輩の中には彼のファンまでいるらしい。


 しかしそれらは、演技。彼と一緒に歩いている【名井家ないけ 拓真たくま】も、友人として付き合ってはいるが……霧人は彼を友人と認識してはいない。

 彼と懇意にしているフリをするのは、彼がイジメに遭っていた事に起因する。そういった弱者を放っておけない、正義感を持ち合わせた人物……そういう印象を周囲にアピールする為に、手を差し伸べたに過ぎないのだ。

 そして、たまたま彼もゲーム好きという共通点があった。お陰で会話が噛み合うので、ちょくちょく一緒に学食で食事を共にしている間柄となっていた。


「浦田君も、すぐに第三エリアを目指す感じ?」

「そうだねぇ……まずは情報収集して、確実性を上げてからかな」

「流石だね……やっぱり、浦田君は格好良いなぁ」

 そんな名井家少年の言葉に、霧人は気分を良くした。その心の中で、最低な事を考えながら。


――全く……こいつは本当に、良い引き立て役だ。


************************************************************


 その日の夜の事。とあるホテルの会場で、著名人の催したパーティーが開かれた。そのパーティーに招かれた一人の少女は、付き人を伴って早々に壁の花となって溜息を吐く。


――はぁ、早く帰ってログインしたいです。英雄さんに会いたいし……。


 はい、初音さんの恋お嬢様です。

 今日はこのパーティーがあるせいで、この頃の日課であった星波家までの帰路も無かったのだ。更に言うと初音家のお嬢様として見られているので、眼光鋭い良い所のお坊ちゃん達の視線も痛い。


「大丈夫ですか、お嬢様」

 これまでにないローテンションの恋に、流石の鳴子も声を掛ける。

「大丈夫に見えますか?」

「見えません。まぁ、いつもならお咎めしますが……」

 鳴子とて、恋に向けられる視線には気付いている。恋を口説き落として初音家と縁を作るという、政治的な思惑が透けて見える視線である。


 これまでは、そんなモノは無視を決め込んでいた恋。しかし英雄という最愛の恋人を得て、更には親友とその恋人が育んだ愛がある一つのステップアップを踏んだのだ。その場に立ち会い、祝福した身としては比べるしかない。

 今向けられているのは、純粋な愛情とは程遠いモノだ。それはブランド品を手に入れる算段を立てる様な、粘っこい視線。決して、女子中学生に向ける様なモノではない。


 しかも、それだけではない。

「あら、初音家のお嬢様ではありませんか」

「これはこれは、お久し振りですこと……」

「相変わらず、お可愛らしいですわね。以前お会いした時よりも、背が伸びました?」

 妙齢というべき年齢に達した女性からの、社交辞令。若くて容姿も整った恋に対して、僻みのようなものも含まれている言葉。その中には、恋に向けられている有力者の息子等を渡すものか……という、怨念じみたものも含まれていた。


 それを受けた恋は尚更、あの異世界ゲームが恋しくなる。仲間達と過ごす、穏やかなVRMMOライフ。最愛の人と、自然体で寄り添える所。ありのままの自分を晒せる、貴重な世界ばしょ

 早く、あの林の中に建てられた和風建築のホームに行き(かえり)たい……それが、本音だ。


 しかしながら、同時に自分は初音家の次女であるという自覚を捨ててはいない。塞ぎ込んでいた自分を、温かく見守ってくれた家族への感謝の念を忘れてはいないのだ。

「はい、ご無沙汰しております。恥ずかしながら、そこまで中身は変わっておりませんよ。皆様こそ、更に美しくなられて……」

 だから恋は、仮面を被る。愛する家族の名に、泥を塗る事のない様に。


 胃が痛くなるような会話が続くその場所へ、新たに一人の女性が現れた。彼女は恋に向けて、朗らかに微笑んでみせる。

「お話し中失礼します。恋さん、あちらでご家族がお呼びでしたよ?」

 そう言って微笑むのは、黒髪の美女だ。彼女は六浦財閥という有力者の令嬢。六浦財閥は、初音家が経営するファースト・インテリジェンスに並ぶ大企業……そして、AWOを運営するユートピア・クリエイティブの出資者でもある。

「あら、わざわざお声掛けいただきありがとうございます。お話の途中で申し訳ございませんが、失礼致しますね」

 一言断りを入れ、六浦財閥の令嬢とその場を離れる恋。


 十分に距離が離れたところで、恋は六浦財閥の令嬢に笑顔を向ける。その笑顔は作り物ではなく、普段の恋が見せる自然な笑顔であった。

「助けて下さってありがとうございます」

「ふふ、良いのよ。それより()()()()()そこそこ顔を合わせているけれど、こういう場では久し振りね?」

 よそ行きの仮面を脱いだ二人は、和やかに会話を交わす。


「えぇ、私生活が充実しているもので……それに、それはそちらもでは?」

「まぁ、確かにそうかしら?」

 澄まし顔でそう言うと、六浦財閥の令嬢は真剣な表情を浮かべる。

「そうそう、今日のホストに近付くのは最低限にした方が良いわ……ちょっと、面倒なことになりかねないから」

 そんな彼女の言葉に、恋は首を傾げる。


「あら、何かよろしくない事でも?」

 本気で分からないといった態度の恋に、六浦財閥の令嬢は苦笑する。

「やっぱり気付いていなかったのね……今日、開かれているパーティーの主催者。宇治家の令息と令嬢は、【聖光】の二人よ」

 【聖光】……その略された呼称を正確に把握できる人間は、恋と鳴子……そして目の前に居る女性。あとは、当人くらいではなかろうか。


 彼女の言葉に、恋だけではなく鳴子も思わず反応してしまう。主催者の男性……その側に控える、男性と女性に目を向けてしまったのだ。そこでは太ましい男性と会話する、美男美女が居た。

「室千雅さんの様な優秀な跡取りが居て、宇治さんが羨ましいですな! 万咲代さんも更にお美しくなられて、ウチの愚息をだなんて言い出すに言い出せません!」

「ありがとうございます、高嶺さん。まだ至らぬ身ではあるのですがね」

「うふふ、高嶺さんのご子息は若くして立派な業績を挙げておられるではありませんの。私こそ隣に立っては、霞んでしまいます」


 整った顔立ちをした、二十代の青年。その傍らに立つのは、華のある見目美しい女性。髪をオールバックにして執事服を着せたら、間違いなくあのセバスチャン。髪型を縦ロールにして騎士鎧を装着すれば、お嬢様騎士のアリステラ。確かに、【聖光の騎士団】に所属するあの二人である。


 言われなければ気付かなかっただろうが、言われてみれば確かに顔立ち等はアバターそのまま。

「うわぁ、お嬢様と似非執事……」

「私も、さっき気付いたの……だから気を付けるように言おうかと思ってね」

「……世間は狭いですね」

 鳴子の言葉に、恋達は揃って頷いてしまうのだった。

次回投稿予定日:2021/6/18(幕間)


六浦家の令嬢の名前を出していないのは、仕様です。



【ゆるぼのその後】

リクエストを頂いた短編集ですが、この第十一章の後に投稿します。

短編なので、二日に一回投稿で参ります。


※順不同

・英雄×恋のとある休日

・使用人(メイド?)シオンの1日(アレン様)

・イトコ同士のリアルショートRAINバージョン(トロッケンハイト様)

・ジン達がボードゲームやカードゲーム(トランプなど)をする(アレン様)

左利ケイン輝乃イリス、デートする

・最高レベルプレイヤー、アークのとある一幕

・ライデンの苦労話(たつみゆ様)

・アーサーの華麗なる(笑)日常(Ma-kun様、たつみゆ様)

・スパイ達の右往左往(円谷 弾志様、トロッケンハイト様)

・運営雑談(アレン様)


検討中

・イトコ同士リアルショート(トロッケンハイト様)

 時系列的に、年末年始もしくは春先なので、後日改めて。

・七色のリアル集合でキャンプ

 時系列は春先~夏場? また旅行回? だとしたら本編で!!


・【七色】【桃園】同盟の、アレク一派不在オフ会。ゲイル×フレイヤ・ダイス×シオン。(ケイ様)

 時系列がざまぁ後、年末年始もしくは春先?

 トロッケンハイト様のリクエストと併せて、いっそ本編で!!


となると、【七色の橋】&【桃園の誓い】リアルキャンプオフ会!!

妄想が捗ります。←

お二方、如何でしょうか? ご意見ご要望、お待ちしております!


2022.3.3修正 仁の杖を持つ手 ×右 〇左

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前半のいちゃつきのところに「右手で杖をつく」とありますが後遺症がある脚は右であれば杖は左側になるはずです
[良い点] 夫婦になって、よりらぶらぶなジンとヒメノ。かわいい❤ 益々らぶらぶになったジンとヒメノ(ヒイロとレン、ハヤテとアイネも合わせて3カップル)の文化祭デートを、現実で見せられるギルバートの心境…
[一言] リアル集合キャンプ ここに桃園も加われば別の意味でも面白そうに思えるかな?
感想一覧
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