10-26 私達結婚しました
皆様、いつも大変お世話になっております。
作者です(キリッ)
読者様からのご要望にお応えしまして、こちらを発令させて頂きますね。
【糖度注意報】
タイトルでお察しですね?
掲示板だけで終わらせる? まさかぁwww←
塩分補給は済ませたか?
創造神様にお祈りは?
教会のスミでプルプル震えて砂糖を吐く心の準備はOK?
それでは、お待たせ致しました。
十一月三日の日曜日。東側エリアにある[モルダー村]に、複数のプレイヤーが集まっていた。
「ふおぉぉ……やっぱり綺麗な教会だねぇ!」
「うんうん、それにこの花畑……お花に囲まれた教会、素敵だよね」
センヤとネオンが、周囲を見渡しながら感動している。可愛らしい少女二人が、花畑に見惚れる姿……それだけでも十分絵になるのだが、二人を呼ぶ声が教会の中の方から聞こえて来る。
「二人共、すぐに式を始めるよ。変なプレイヤーに見つからない内にね」
「折角の式が慌ただしくなって、主役の二人には申し訳ないですけれどね……」
ヒイロとレンの呼び掛けに、二人は慌てて教会の方へと駆け寄る。
ちなみに、彼女達はいつもの和装では無い……和風を取り入れたドレス姿だ。当然、これのデザインもセンヤが手掛けた。
「しっかし……凄いメンツが集まったモンッスね」
「本当に、ね……だって……」
ハヤテとアイネが視線を巡らせると、そこには今回のイベントの参列者の姿。
まずは【桃園の誓い】のメンバー……なのだが、ドラグは現実の用事があった為不参加である。
それはさておき、鎧を外した男性陣は揃いのカンフー風の衣装。女性陣はいつものチャイナドレスに、ファーを加えて装備したパーティー仕様だ。
ちなみに今回の件を機に、これまでは冒険者風の装いだったマークとファーファもチャイナ化を果たした。プレイヤー勢と同様の、中華風装備を着用しているのだが……こちらも実に似合っている。
そして、フォーマルなドレスを着込んだ【魔弾の射手】の面々。こちらも残念ながら、クラウドとビィトが仕事で欠席なのだが……それを差し引いても、女性陣のドレス姿は華がある。唯一男性の出席者であるディーゴは、スーツ姿なのだが……ヤンキー風の彼なので、どこぞのヤクザの構成員みたいなのはご愛敬だ。
更に、淡いクリーム色のドレスを身に付けた美少女。アイドルなんじゃないか? というくらい可憐な装いなのだが、本物のアイドル・渡会瑠璃ことリリィだったりする。
今回の催しを受けて、彼女も仕事の予定を何とか調整して出席を果たした。【七色の橋】から贈られたドレスは、そのお礼の意味合いも込められている。
「これだもんね……」
「この光景を見たら、掲示板の連中は狂喜乱舞しそうッス」
そんな事を言うハヤテだが、その懸念は即座に払拭される。
「大丈夫、まだ話題にはなっていないみたいだ」
「折角の晴れ舞台、余計なケチが付かんのはええことや」
掲示板を確認しながら、まだ今回の件が公になっていないとホッとするのはマキナとクベラ。彼等もまた、シンプルながら見事なスーツ姿である。
「それにしても……まさか、お二人まで来て頂けるとは思いませんでした」
ドレスアップしたミモリが視線を向けると、そこには一組の男女が笑顔を浮かべて立っていた。この二人こそ、【遥かなる旅路】のトップ二人。カイセンイクラドンと、トロロゴハンである。
「なぁに、折角お声を掛けて貰ったんだ。ま、ウチの連中には内緒だがな」
「話したら、絶対に参加したがるもの。そうしたら、大騒ぎになっちゃうでしょ?」
この二人を呼んだのは、ジンだったりする。というのも、先日の大草原探索の際に出会った二人が教えてくれたのだ……この、花畑に囲まれた教会を。
「それじゃあ、始めようか……参列者の皆様方、どうぞお席へ」
そう言って促すのは、白い装束を身に纏った男性……神父役の、ユージンである。神父服なのに、サングラス。実にミスマッチ。
そう思っているのは全員一致しているのだが、彼のアイデンティティらしく外す事は出来ないらしい。故に、ちょっと笑いを堪えながらヒイロ達は配置に付く。
ユージンの居る祭壇、そこへ至る道を開ける様に両脇に並ぶ参列者達。
ヒイロはある役目の為に、扉のすぐ側に控えている。彼は花嫁を、新郎の下までエスコートする役目を担っているのだ。
花嫁、そして新郎……それはやはり、あの二人。
今日この教会で催されるのは、一組のカップルが挙げる結婚式だ。
……
「それでは、大変お待たせ致しました。まずは、新郎の入場です」
アナウンス役を務めるのは、シオンである。彼女もフォーマルなドレスに和風を取り入れた装いで、実にサマになっている。
シオンの紹介を受け、マキナとクベラが教会の扉を開く。そこに姿を見せたのは、白いタキシードを着込んだジン。その表情は、幾分緊張気味だ。
ゆっくりと歩くジンは、参列者達の視線を受けて苦笑いしそうになるのを堪える。
――こ、ここまでやる? いや、でもヒメの為だし……喜んでたもんね。
ジンとヒメノがこの教会へ訪れたのは、数日前の事だった。一緒に付いて来た【七色の橋】の面々は、教会を見て口々に言い出したのだ。
「ちゃんとした結婚式をやろう!!」
こんな最高のロケーションでの結婚クエストを、指輪の交換だけで終わらせてなるものか! それが、ジンとヒメノを除く全員の総意だった。
カノンさん? 率先して提案していた。めっちゃノリノリであった。
あれよあれよと構想を練る仲間達を止めるに止められず……そして、横に並ぶヒメノが戸惑いつつも嬉しそうにしているのを、ジンは見逃さなかった。
流されるのは得意です、だから忍者ムーブしているのだもの。それに、自分だってやりたくない訳では無いのだ。例えゲーム内でも。
ジンはそんな事を考えながらも歩き続け、ユージンの前で立ち止まる。ジンはここで、花嫁を待つのだ。
「それでは続きまして、新婦の入場です」
再び扉が開け放たれ、外の陽光を背に立つ一人の少女が姿を見せた。しずしずと教会内に入って来る、純白のドレスに身を包んだ少女。
肩紐の無い、ベルラインのドレス。キラキラと輝くティアラに、純白のヴェール。その随所に和風の意匠が盛り込まれ、【七色の橋】のお姫様らしさを演出している。
珍しく今日は銀色の髪を編み上げており、いつもよりも大人びて見える。
衣装を用意した【七色の橋】の女性陣と、協力者のイリスとフレイヤ、そしてユージン以外はその姿を見て感嘆の息を漏らす。
それだけ、今日の花嫁……ヒメノは美しかった。
妹の晴れ姿に見惚れるヒイロだったが、脇に立つレンが肘で軽く突いた事で正気を取り戻す。気を取り直してヒイロが歩み寄ると、ヒメノはニッコリほほ笑んでその肘に腕を絡める。
ヒイロにエスコートされて、ジンの下へ向かうヒメノ。その視線は、愛しい人を捉えて離さない。
――ジンさん……今、行きますね……。
ヒメノと同じ様に、ジンも視線をヒメノに固定して逸らさない。その表情が驚きの色を含んでいるのは、当然ヒメノの花嫁姿に見惚れているからだ。
――これが……僕のお嫁さんなんだな……。
二人共、これがゲームの中だという事を忘れている。しかし、これがもし現実でも……二人は同じ様に強く互いを求め、視線を交わしていただろう。
きっかけは始まりの町の、小さな道具屋。そこで出会い、兄であるヒイロを通じて繋がった絆。その絆は徐々に強い結び付きになり、二人は恋人となった。
そして、今日この日……二人は、夫婦となる。
ヒイロが立ち止まり、ヒメノに優しく声を掛ける。
「さ、行っておいで」
浮かべる笑顔は、少し寂しそうにも見えた。しかし、それでも二人の門出を祝福して送り出す。それだけ、ヒイロも二人を大切に思っているのだ。
しかしくどい様だが、これはゲームである。別にヒメノが星波家を出て、寺野家に嫁ぐ訳では無い。
ヒイロに頷いて、ジンに向けて歩き出すヒメノ。そして二人の距離が縮まり、ゼロになる。
ヒメノがジンの腕に自分の腕を絡めると、二人はまっすぐ前を向いて歩き出す。歩幅を合わせるのは、共に相手を尊重して歩んで行く覚悟を感じさせる。
まるで現実の結婚式の様であるが、これはゲーム……いや、もうゲームでも良いじゃない。
ユージンの待つ祭壇の前まで歩み寄り、二人は立ち止まる。そんな二人を見据えて、ユージンは一つ頷くと呼び掛けた。
「本職では無いので、略式で失礼させて頂くとしよう。汝、ジンは、ヒメノを妻とし、生涯愛すると誓いますか?」
中々堂に入ったユージンの問い掛け。その視線は真剣で、まるでこれがゲーム内ではなく、現実の結婚式の様にジンは感じてしまう。
しかし、その問いに対する返答は一つ。それはゲームも現実も関係ない。
「誓います」
それはハッキリとした声の、教会中に届く様な宣言。そんなジンの返答を受けて、ユージンはヒメノに視線を向ける。
「汝、ヒメノは、ジンを夫とし、生涯愛すると誓いますか?」
ヒメノに対する問い掛けは、どこか少し柔らかい声色で。そんなユージンの気遣いは、ヒメノにも届いていた。
勿論、ヒメノの返答もただ一つである。
「はい……誓います」
晴れやかな表情で告げるヒメノは、実に幸せそうだ。これまでで一番の、輝く様な笑顔である。
「それでは新郎新婦、指輪交換を」
これが本題。むしろ、これだけで本来は良い。しかしながら、二人にとってはこの結婚式は多くの人に見守られ、祝福されている事を実感出来る大切な場となった。
きっと二人は、この結婚式をずっと忘れる事は無いだろう。
ジンがヒメノの左手の薬指に、ダイヤモンドで出来た桜の花弁が煌めく指輪を嵌める。そしてヒメノがお返しとばかりに、ジンの左手の薬指にアメシストで作られた菫の花が輝く指輪を嵌めた。
【ジンとヒメノが婚姻の誓いを果たしました。これより二人は夫婦となります】
システムのアナウンスも、少し空気を呼んだ内容になっている。クエストだの、システムだのといった文言を避けた内容のアナウンス……AWO運営、中々に配慮が出来ている。
最後に、ジンがヒメノの左手を取り……その薬指で輝く指輪に口付けをする。本来は誓いのキスなのだが、流石に二人が恥ずかしがったのだ。
よって、この様な形に落ち着く事となった。ちなみに、ジン的にはこれでもちょっと恥ずかしいらしい。
そんな彼等なりの誓いのキスが遂げられると、教会内に集まった全員から盛大な拍手が贈られる。
「ここに、二人の婚姻が成立した事を認める。二人の門出を祝うと共に……創世の神の祝福があらん事を」
途端に仰々しい言い回しをするユージンだが、それを気に留める者は居ない。見つめ合う二人の姿に、見惚れているからである。
「それでは、参列者は教会前へ。二人の新たな門出を祝福しよう」
ユージンの呼び掛けに、頷き合ったメンバー達が教会から退出する。すぐに二人を見送る花道が形成される事だろう。
「それじゃあ、ゆっくりおいで」
そう言って微笑むと、ユージンが扉へと歩いていく。
「……何か、照れるね?」
「はい……でも、それ以上に幸せです♪」
そう言って柔らかな笑顔を浮かべるヒメノは、言葉通りに幸せそうだ。
「それじゃあ……行こうか?」
「はい!……あ、ジンさん。一つお願いして良いですか?」
「うん?」
そう言うと、ヒメノは両手を広げる。ちなみに、その片手にはブーケが握られている。
「……いつものあれ、お願いして良いですか?」
いつものあれ……そう言われて、ジンは察した。お姫様抱っこである。それだけで通じるくらい、お姫様抱っこしてんの? と思われるかもしれない。してます。
最も、そんな最愛のお姫様のおねだりを断れるジンではない。苦笑しながら、彼女を優しく抱き上げる。
「さ、行くよ?」
「はいっ♪」
そんな二人を見て、ユージンは優しく微笑んで……そして、教会の扉を開けた。
とある一人の名無しがそれを目撃し、某掲示板は盛大な祭りとなるのだった。