02-05 祝勝会をしました
エクストラクエストをハシゴした翌日、ジン達はユージンの工房を訪れた。尚、ケイン達も誘ったのだが……その日はリアルで予定があるらしく、残念そうな顔で辞退したのだった。
ともあれ、ヒメノとレンが手に入れたユニーク素材。それを使用した、装備の作成をユージンに依頼したのだ。流石のユージンも、一日に二つのエクストラクエストをクリアした事に驚いていたのだが、すぐに気を取り直して製作を請け負った。
そんな訳で、ジン達は現在ユージンの提案で……祝勝会をしていた。
「今日は僕の奢りだから、好きなだけ飲み食いしてくれ」
テーブルの上に並べられた、料理の数々。その量たるや、ちょっとしたバイキングくらいである。これにはレンやシオンも目を剥いた。
「鍛冶と服飾だけでは……無いのですね……」
「これ程の量を、お一人で……? ユージン様、一体何者なのですか……?」
「見ての通り、ただのしがない生産職さ。ほらほら、食べて食べて!」
生産大好きおじさんなユージンは、鍛冶や服飾だけではない。
食事の合間に雑談をしていると、ユージンは料理以外にも精通している事が解った。
「木工とか、調合もするよ。鍛冶みたいにしょっちゅうじゃないから、スキルレベルはそこまで高くないんだけどね」
木工は、木材を加工する技能。木製の弓などは、木工スキルが密接に関わってくる。また、船や木造の建物を製作する事も出来るらしい。
調合スキルは、ポーション等の薬を作ったりする技能だ。ジンが単独でエクストラクエストを攻略した時に貰い受けた《ポイズンポーション》は、ユージンが調合した物である。
どうやら生産大好きおじさん・ユージンは、生産と名の付くモノに関しては一通り手を出しているらしい。
「ヒメノ君とレン君の装備製作は、三日以内に終わらせてみせよう。ヒメノ君は、今の装備に似せた感じで良いのかな?」
ヒメノは現在、ユージンが製作した和装に身を包んでいる。ヒメノ自身がユージンと決めたデザインの為、お気に入りの一品だ。
「はい、それでお願い出来れば嬉しいです!」
「折角だし、後でもう少しデザインについて話そうか。新しい案もあるんだよー」
そう言ってにこやかに微笑むユージンは、実に楽しそうな表情だ。
そんなヒメノとユージンの下へ、レンが歩み寄る。
「ユージンさん、私の装備についてなのですが……」
レンの言葉に、ユージンは笑顔で頷く。
「あぁ、どんな感じが良いかな? レン君が納得がいくまで、相談に乗ろう」
そんな朗らかなユージンの言葉に苦笑し、レンは自分の要望を伝える。
「……ヒメノさんと似たような、和装の製作をお願いしたいのですが」
その言葉に、全員が言葉を失った。レンのお目付け役である、シオンすらもだ。
その理由を知りながら、気付いていない体を装うレン。そのまま、自分の要望をユージンへ伝える。
「今後パーティとして行動を共にするならば、和装が好ましいでしょう。どうせならば、ヒメノさんと、似通ったデザインにして頂けたら嬉しいのです。ヒメノさん……私とお揃いになっても、良いでしょうか?」
それは、レンなりの精一杯の意思表示だった。
シオン以外とは、固定のパーティを組まないと思っていたレン。しかし、彼女は出会ってしまったのだ。ありのままの自分を、地位や名誉で飾られていない自分を見てくれる……真の仲間に。
だから、レンはヒメノとお揃いが良いと言った。彼等と、行動を共にすると言ったのだ。
レンの言葉に、ヒメノは思わず目を潤ませた。レンやシオンとは、行動を共にして間もない。しかし、共に激戦を潜り抜けた……大切な仲間として、ヒメノは認識している。
それはジンやヒイロも同様だ。ジンは笑顔で頷き、ヒイロがヒメノの背中を押す。押されて一歩前に出たヒメノは、レンに満面の笑顔を浮かべて応えた。
「はい!! レンさんが良いなら、是非!!」
感極まったヒメノの言葉に、レンは照れたように微笑みを返す。二人の間に生まれた絆は、まだ出来て間もないか細い糸の様なモノかもしれない。しかし、これから共に過ごす時間が、その糸を硬く強くしていくだろう。
「……ふぅ」
お互いを見つめているヒメノとレンを見て、シオンは息を吐いた。悪感情からではない……二人の様子を見て、ホッとした為である。
――これまで、家族以外に心を開かなかった恋お嬢様ですが……ようやく、心許せる友人に巡り会えたのですね。
レンは家族以外には素顔を見せず、他者との間に線引きをする少女だった。故に、親しい友人と呼べる存在は居ない。そんなレンだから、シオンを始めとする身近な存在は気に掛けていたのだ。
だが今日、彼女は自分から……ヒメノと、そしてジンやヒイロと仲を深めたいと動き出した。それは、シオンとしては喜ばしい事だった。
……
食事をしながら、ユージンが描くデザイン画が完成していく。その間、ジンとヒイロは手持ち無沙汰だ。それも仕方あるまい……女性の服にかける情熱は、男子には未知の領域なのだ。
しかし決して、居心地が悪いわけではない。美味しい料理と、ヒメノ・レンの楽しそうな様子。そんな和やかな雰囲気に、二人の口元に笑みが浮かぶ。
「これからは、五人パーティだね」
「あぁ。賑やかになりそうだな」
これから始まる新しい冒険に、二人は思いを馳せる。
「そういえば、イベントもあるんだよね」
「あぁ、始まりの町を防衛するんだったか……」
先日、運営から通達されたイベントの案内。二人はシステム・ウィンドウを開き、その内容に目を通していく。
「始まりの町の四方向から攻めてくる、モンスターの軍勢を討伐……か」
「ログインしているプレイヤー全員が、参加するイベントだって……始めたばかりの人はどうするんだろう?」
「始まりの町に、閉じ篭っているしか無いかもしれないな。最初の内は低レベルモンスターが来るだろうが、後々は強力なモンスターが襲い掛かって来るはずだ。レベルが低いプレイヤーでは、太刀打ち出来無いと思う」
それはつまり、低レベル帯のプレイヤーが活躍出来るのは序盤という事になる。
最もその間にレベルを上げて、それなりの装備がドロップするならば戦えなくは無いだろう。
しかし、そうはなるまい。何故ならば、このイベントは貢献度という評価規準がある。評価とは、攻撃や撃破・防御や支援等の行動が数値的に評価されるのだ。
その評価ポイントを求めて、序盤から高レベル帯のプレイヤーはモンスター狩りに精を出すだろう。何せ、最初は剣を振れば死ぬ様なモンスターばかりなのだから。そうなれば、低レベル帯のプレイヤーは手出しする前に終わってしまう。
そうこうしている内に、ヒメノとレンの装備もデザインが決まった様だ。彼女達の表情から、満足のいく成果があったのは想像に難くない。
ユージンはユージンで、ホクホク顔をしている。どれだけ生産が好きなのやら。
「いやぁ、実にやり甲斐のある仕事だよ。それに、お陰様でレベル上げにもなるしね」
「生産職の方々は装備等の製作や売買、そしてメンテナンス……これらの行動に対して、経験値が入りますからね」
そんなシオンのコメントに、レンも微笑みながら補足を口にする。
「ちなみにイベントの貢献度も、同様にポイントが入るみたいですね」
生産職プレイヤーは、プレイヤーを支援する事でポイントが入るのだ。
「そうなんだよ。まぁ、【自己修復】が追い付かない時はメッセージで呼んでね。すっ飛んで行くからさ」
ユージンの言葉に、ジン達は笑顔で頷いてみせた。
……
「そうだ、忘れる所だった! そろそろ、ガチャを回しませんか?」
会話をしながらの食事を楽しんでいる中、ジンが思い至ったのは入手したアイテムについてだ。ダテンキリンとキョウカオロチを討伐した事で、五人はガチャチケットを入手しているのだ。
スキルガチャのゴールドチケット、アイテムガチャのシルバーチケットである。
「そうですね、丁度良い頃合いです」
「今度は、何が出るでしょうか?」
レンとヒメノは乗り気だが、ヒイロとシオンは内心で苦笑する。ガチャチケットはレアアイテムであり、そう頻繁に手に入るモノでは無いのだが。
と、そこでジンがある事を思い付く。
「ユージンさん。良かったら僕のチケット、半分受け取ってくれませんか? いつもお世話になっているし……」
「いや、それは流石に申し訳ないよ」
ユージンをガチャ大会に参加させようと思っての発言だったのだが、ユージンは苦笑気味にそれを辞退しようとする。
「じゃあ、支払い分として。買いません?」
それでも諦めないジンは、ユージンにそう切り出した。事実、ユージンへの借金はまだ半分程あるのだ。
「……ユージンさん、ジンは変な所で頑固なんです。多分、首を縦に振るまで食い下がりますよ」
「……うん、何かそんな気がする」
ヒイロの言葉に、ユージンは苦笑いを深めた。だが、それはユージンに対するジンなりの気遣いだ。それは、全員が解っていた。
「解った、それじゃあ買い取らせて貰うよ……ありがとう、ジン君」
観念したように……しかし気遣いをありがたく思ったユージンは、ジンからゴールドチケットとシルバーチケットを一枚ずつ受け取る。
「それじゃあ、行きましょう!」
……
今回のガチャの結果は、前回ほどの大当たりとはならなかった。
ジンのガチャ結果は、素材≪ベヒーモスの体毛≫とスキル【聖魔法の心得】。
ヒイロは≪オリハルコンゴーレムの残骸≫と≪覇者の矢筒≫。スキルは【ステータスポイント+5】と【スキルレベル+1】だ。
ヒメノが≪ミスリルワームの糸≫と、【バーサーク】を出した。
そしてレンは≪聖騎士の短槍≫と【スキルレベル+1】である。
シオンの結果は、シルバーが≪ダイヤモンドドラゴンの鱗≫と≪聖なるメダル≫。ゴールドの結果は魔法スキルである【フロート】と【光魔法の心得】だ。
最後にユージンだが、アイテムは≪壊れた発射機構≫。スキルが【合成鍛冶】となった。
「おぉ……素材系が結構出たね?」
「ユージン様は御存知でなかったのですね。シルバーチケットのガチャは、素材系が出る事が多いのです」
つまりチケットガチャで装備が出るのは、珍しい事らしい。最も、チケット自体がレアなのだ。多人数で何度も回すこと自体が、稀有な事である。ケイン達も、今頃ガチャ大会だろうか。
そんな話をしていると、ジンがある事を思い付く。
「そうだ! 僕が出したこの素材、ヒイロの装備に充てて下さい!」
何の迷いもなく、ジンは素材をヒイロの為に使う事を選択した。そんなジンを見て、ヒメノ、シオンも続く。
「私のも、是非!」
「そうですね、私の素材も使って下さい」
そんな三人に対し、ヒイロは慌てた様子で否定する。
「流石にそれは……俺も素材を出しているし、自分の為に使った方が良いよ」
ヒイロはそう言って素材の受け取りを拒否しようとするが、ジンは苦笑しながらシステム・ウィンドウを開いてトレードを進めようとする。
「まぁまぁ。僕達は、もう装備が揃っているからね。あ、レンさん【聖魔法の心得】要りますよね?」
「宜しいのですか? それなら、私も何かお出ししたいのですが……あ、昨日のダンジョンでドロップした【体術の心得】は如何でしょうか?」
「じゃあそれで!」
そんな様子に、ヒイロは開いた口が塞がらない。レンまでもが、ゆるゆるとガチャドロップ品を交換しているのだ。一応ちゃんとしたトレードになってはいるのだが、普段のレンからは考えられない緩さである。
その後もヒイロは、素材の受け取りを拒否しようと言葉を重ねた。しかしジン達は、それならば直接ユージンへ素材を渡すとまで言う。ヒイロの装備を強化・製作するのはユージンなので、当然と言えば当然だ。
これにはヒイロも折れる事になり、ならばと素材以外のガチャドロップ品を差し出す事にした。
結果、素材四つは全てヒイロが受け取る事になる。
魔法系のスキルは三つあったので、それらはレンへ譲渡。≪覇者の矢筒≫は弓矢使いのヒメノが受け取る事となる。
残るドロップ品の内、≪聖騎士の短槍≫と≪聖なるメダル≫、そして【バーサーク】を扱えるのはシオンのみである。実際に使えるのは≪聖なるメダル≫と【バーサーク】だが、≪聖騎士の短槍≫も念の為所持しておく事になった。将来、取引材料に出来るかもしれないという判断からだ。
残るは【ステータスポイント+5】と、【スキルレベル+1】が二つ。【スキルレベル+1】の一つはヒメノが受け取り、他二つはジンが貰う事で話が付いた。
ユージンの≪壊れた発射機構≫と【合成鍛冶】は、そのままだ。
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武装≪覇者の矢筒≫
効果:DEX+5、装填上限50
スキル【聖魔法の心得】
説明:聖属性魔法の習熟度を示す。
効果:習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
スキル【光魔法の心得】
説明:光属性魔法の習熟度を示す。
効果:習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。
スキル【フロートLv1】
説明:魔法陣を展開し、空中に留まる時間を延長する魔法技能。
効果:滞空時間上昇。1秒につきMPを1消費。最大滞空時間5秒。
消費アイテム≪聖なるメダル≫
効果:HPが0になる攻撃を受けた際、そのダメージを無効化する。効果発動後、≪聖なるメダル≫は消失する。
武装≪聖騎士の短槍≫
効果:STR+5、DEX+5
スキル【バーサーク】
説明:防御を捨て、攻撃に全ての力を注ぐ戦士の力を発動する。
効果:スキル発動時、VIT・MND値が0になる。そのポイントが、STRに反映される。効果持続時間60秒。一日に三回のみ発動可能。
スキル【合成鍛冶Lv1】
説明:二つの装備を合成、融合させる鍛冶職人の秘伝技術。
効果:二つの装備を選択。装備合成を行うと、選択した素材は消滅する。合成の成功率は、スキル【鍛冶】のレベルに依存する。
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「そういえば、以前お預けした≪壊れた発射機構≫ってどうでした?」
初めてのガチャで、ジンが出した≪壊れた発射機構≫。今回ユージンが同じ物を出した事で、ジンはその存在を思い出した。
「あぁ、アレね。やっぱり修復出来る物だったんだよ」
そう言って、ユージンがシステム・ウィンドウを開く。そのままウィンドウを操作して、収納スペースから“それ”を取り出した。
「これって、もしかして……ピストル?」
そう、ユージンの見せるそれは明らかに拳銃だった。
「発射機構という名称は、弾丸を発射する機構だったらしい。今は弾丸をどうするか検討している最中でね」
銃本体だけでは、意味を成さない。発射する弾丸が無い銃では、使い道が無いのだ。
「進展があったら、また連絡するよ」
「はい、お願いします」
同時に、ヒイロがある事を思い付く。
「ユージンさん、これを見て欲しいんですが……」
それは、ケインから受け取った≪古代の腕≫だ。ケインは売却用アイテムと言っていたが、≪壊れた発射機構≫と説明文が似ている。その為、これも素材として使えるのではないか? と思っていたのだ。
「ほう?≪壊れた発射機構≫と同じ様に、修復とかすれば使えるかもね。オーケー、これもヒイロ君の装備と併せてやってみようか」
「済みません、ありがとうございます」
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それから、三日後。ユージンの工房を訪れたジン達は、二人の美少女が、新しい装備に身を包んで並び立つ姿を前にしていた。
「きゃー、レンさん可愛いです!」
「ヒメノさんも、凄く素敵ですよ」
「お嬢様もヒメノ様も、よくお似合いです」
女性陣がきゃっきゃと話し込む中、ジンとヒイロは目を奪われるしかない。既に和風メイド化したシオンも含め、見目麗しい和装美人トリオである、これは素直に見惚れても良いだろう。
まずはヒメノ。彼女は手に入れた≪八岐の飾り布≫が赤色である為、それに合わせたカラーリングだ。
黒いチューブトップタイプのインナーの上に、白いノースリーブの和装トップス。所謂、改造着物だ。
下半身は、膝上までの赤いプリーツスカートから延びる素足が眩しい。また、これまでのプリーツスカートとは違う点がある。左側が和服の裾っぽいスカートとなっており、和と洋を取り入れたデザインなのだ。
これら一式が、≪桜花の衣≫。ジンやシオン同様に、一セットの装備である。
そんな衣装の上に、赤い弓道風の鎧。これはキョウカオロチからのドロップ品で、《八岐の具足》というユニーク装備。見た目は左右非対称の鎧で、右半身の胸元に胸当てがある形状である。年齢に見合わぬ成長を遂げた胸元が、幾分強調されているのも悩ましい。
背中には元より使用していた弓、腰の後ろには矢筒。そして新たに入手した脇差≪大蛇丸≫を、左腰に差している。
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装備≪桜花の衣≫
効果:全ステータス+10。上半身・下半身・足元の装備一式。
スキル:【自動修復】
装飾品≪八岐の飾り布≫
効果:HP+10、MP+10。
スキル:【自動修復】
武装≪大蛇丸≫
効果:STR+10。この装備は≪刀剣≫と≪短剣≫として扱う。
スキル:【自動修復】
武装≪八岐の具足≫
効果:STR+10。
スキル:【自動修復】
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続いてレン。彼女はリボンにした≪神獣の飾り布≫に合わせて、青色がメインだ。
彼女のインナーは、首元から脇までを覆うアメリカンアームホール。その上にヒメノと同じ和風トップスを着ているのだが、ヒメノとお揃いながら外観は異なる。というのも襟部を上腕までずらした形の着方をしており、透き通るような白い肩が露出しているのだ。
更に、着物の二の腕から先に独立した袖を装備。とっても脇巫女感が溢れている。プリーツスカートはヒメノと同型で、色は勿論青色である。
この装備セットの名前は、≪桃花の衣≫。腰帯の左右に差した扇≪伏龍扇≫と≪鳳雛扇≫も、これまでの装備とは異なる所だろう。
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装備≪桃花の衣≫
効果:全ステータス+20。上半身・下半身・足元の装備一式。
スキル:【自動修復】
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二人の衣装はジン・ヒイロ・シオンの物と共通点が多い為、一目でチームだと解るだろう。特に女性三人が揃うと、お揃い感がある。
「ユージンさん、凄いですね……これは凄いとしか言い様が無いです」
「控えめに言って、最高ですね。いやぁ、眼福ですよ」
「ふふふ、今回も力作だよ。まぁ、装備する人が良いというのもあるね。ジン君やヒイロ君含めて、素材が良いからなぁ」
そう言うユージンに、二人は苦笑する。自分達はそんなでも……と言いたいのだが、他のプレイヤーから見れば二人も整った顔立ちをしているのだ。
そのまま三人で並んで記念撮影をしたり、ジンとヒイロも交えて五人で記念撮影したりと盛り上がりを見せる工房だった。
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始まりの町を出る際に、発生するのはざわめきであった。そうなる事を予想した者達は、決して少なくはなかっただろう。しかし、だがしかし。予想するのと、目の当たりにするのでは大違いだと彼等は実感させられた。
紫マフラーの小太刀二刀流な忍者。
藍色マフラーの爽やかイケメン鎧武者。
赤マフラーに鎧姿の巫女風弓使い。
青リボンの巫女か陰陽師的な魔法職。
緑リボンの盾職和風メイド。
目立たない要素? あるわけが無い。
「な、何だ……あの一団は!?」
「っていうかアレ、レン様だろ!?」
「メイドが和風メイドに……うん、アリだな」
「え、何あの鎧武者……カッコいい……」
「い、一撃必殺少女が激しく可愛いんだけど……」
「忍者!? え、なに!? 忍者なの!? ちょっとかわいいかも……」
「忍者と鎧武者ぁ……羨まし過ぎるぞぉ……!!」
「ってか、ファンタジー世界で和風の一団って……」
「レンしゃま可愛すぎる……」
「俺は今、尊い何かを目撃している……」
始まりの町の噴水広場、そこに居るプレイヤー達の視線はジン達に向けられる。流石のジン達も、苦笑するしかない。
「慣れたと思っていたんだけど……やっぱりこうなるよね」
「ジンは一人で、この視線を受けていた事もあるんだったな。勇者かな?」
「忍者だよ」
自分から忍者と断言する辺り、もうジンのキャラクターは完成してしまっている気がする。
「目立つのは慣れているつもりでしたけれど、これは少し面倒ですね……」
「お嬢様は見目麗しく、実力もある事から多くのプレイヤーの注目を集めていらっしゃいましたからね」
「言い過ぎじゃないかしら、シオンさん?」
苦笑いの表情で返すレンに、シオンは真顔で否定する。
「AWOのアイドル的存在と言っても、過言では無いと思いますよ?」
「過言です。真顔で何言っているんですか」
どうやら、レンは自分の人気について把握していないらしい。
レンからすると、アイドルという呼称はある特定人物に向けられると考えている。居るのだ、AWOには……本物のアイドルが。
また、レンは”アイドル”とは周りの人へ笑顔で接し、その人間性で他者の心をときめかせたり癒やしたりする存在だと認識している。そして、レンは周りのプレイヤーに愛想を振りまいた覚えが無いのだ。
そんな自己評価を下しているレンだが、それに反してプレイヤーからの人気は高い。掲示板等で、様付けで呼称される辺りから傾向が窺い知れるだろう。
その気品ある佇まいや仕草、丁寧な受け答えは深窓の令嬢を思わせる。そして、その美しい容姿である。人気が出ないはずが無い。
周囲のプレイヤーからの認識……レンは、高嶺の花というべき存在なのだ。
そんな二人の会話に、ヒメノも参戦する。勿論、シオンの援護射撃でだ。
「そうですか? レンさん美人だと思うんですけど」
思わぬ伏兵に、レンは切り口を変える事にした。
「ヒメノさんこそ、可憐という言葉がピッタリですよ?」
無論、それは反撃の意味合いが込められている。だが、レンの偽らざる本心でもあった。
誰もが可愛らしいと評するであろう、ヒメノの容姿は目を引くのだ。明るく優しい性格も、それに輪をかけている。コロコロと変わる表情は見ていて飽きないと、同性のレンですら思うのだ。
そう考えると、ヒメノもまたアイドルという存在になり得るのでは無いか? なんて事を、レンは考えてしまう。
しかし、それに対するヒメノの反応は二人の予想とは異なる。
照れて否定するか、照れてモジモジするヒメノを想像していたのだが……ヒメノは手を振って、カラカラと笑っていた。
「嫌ですよー、そんなお世辞言わなくてもー!」
これは、本気で冗談やお世辞だと思っている。ヒメノという少女を知る者ならば、誰もが同じ感想を抱くだろう。
「無自覚ですか」
「無自覚ですね」
三人並んで姦しい。しかし、とても楽しそうである。三者共に、その表情は笑顔が浮かんでいた。それが、ギャラリーを盛り上がらせているのだが。
この[フロウド]サーバーのプレイヤー達にとって、ジン達は注目の的であった。
和服チーム完・成☆