10-22 幕間・ある人物達のやり取り
第三回イベント……生産系イベントの結果発表がされた直後の、深夜。
AWOからログアウトした、とある人物達はSNS……RAINを用いて情報交換を行っていた。
『……という訳だ。確証はまだ無いがな』
彼……【益井 舵定】は、この数日にわたるプレイの中で得た情報をこの場で報告していた。AWOとは関係ない、身内だけのSNSならばいつでも連絡が取れる。更に言えば、ゲーム内で不審がられずに済むのだ。
『へぇ……本当か、ドラグ?』
そう、彼のアバター名はドラグ。【桃園の誓い】に潜入した、スパイである。
勿論その内容は、レンの身内に運営メンバーが居る事。そして彼女達がユニークアイテムやユニークスキルを所有しているのは、その運営メンバーから情報を得たお陰……という可能性がある事、だ。
無論、大きな間違いである。
『やるねぇ。そんなオイシイ情報を得られたとは、僥倖だ』
即座にレスポンスを返したのは、【稗田 蓮織】という男である。彼こそ、【聖光の騎士団】に所属するアレクであった。
『確かにレンを通じて運営から情報を得ていたならば、これまでの大立ち回りも納得がいくが……しかし、やはり確証が欲しい所だな』
蓮織のレスポンスに対し、新たな人物からのメッセージが送られる。
『やはり情報収集は、内部に潜り込むのが一番だな。これだけでも、公にすれば十分な効果を発揮するんじゃないか?』
それは隼と同じ学校に通う、浦田 霧人のメッセージだ。希望的観測を述べる内容に、蓮織や舵定は苦笑いしてしまう。
『まぁ焦るなって。失敗は許されないからね。確実性を上げて、ここぞという時に情報を公開する。これが一番効果的なのさ』
楽観的なその言葉に、蓮織はやんわりと諫める内容のメッセージを返した。
そんな蓮織に同調する者も、当然ながら居る。
『えぇ、これは有益な情報です。しかしハオの言う通り、使い所は選ばねばなりません』
それを送ったのは、【佐田 貴志】という男である。
『決定的な証拠を突き付けるのが、やはり一番でしょう。相手には、言い逃れをする隙を与えない様にしなければなりません』
『だな。しかしまぁ、噂程度には流しても良いかもしれん……だがまぁ、腑に落ちるよなぁ。【聖光】が負けたのも、納得だ』
『それに【森羅万象】も……ね』
蓮織の言葉に同調したのは、【稗田 実子】。彼の双子の妹であり、そのアバター名はエレナ。【森羅万象】の幹部であり、その実はスパイという女性であった。
『それにしても、卑劣な手を使うわね。あれだけ正々堂々を謳っておきながら、その裏では運営から情報を流して貰っていただなんて』
そんなメッセージを送るのは、【芝和田 滴】。中規模ギルド【遥かなる旅路】に潜り込んだ、【ルシア】という女性プレイヤーである。
その言葉は、スパイ行為をする様な人間が口にして良い言葉では無い。ルシアはそれを承知の上で、忌々し気な言葉を書いてみせた。
そんなルシアに、エレナこと実子がメッセージを送る。
『まぁ私達だって、スパイ活動をしているから大きな事は言えないわ。勿論、狡いとは思うけれどね』
滴の言葉を頭から否定するのではなく、同調しつつ宥め賺す。
『それもそうね。ごめんなさい、感情的になってしまったわ』
『いいえ、構わないわ。気持ちは解るもの』
『それと彼等の持つユニークスキルについて、概要だけでも判明したのは幸運ですね。【桃園の誓い】のケイン以外に、【七色の橋】の四人……』
彼等には、既に【鞍馬天狗】の情報が流されている。そして、同種のユニークスキルを持つジン・ヒメノ・レン・シオンの事もだ。
『そして、【七色の橋】のハヤテ。彼のユニークスキルは、少々厄介かもしれませんよ』
そんなメッセージを送るのは、貴志。彼はハヤテの持つ、ユニークスキルの正体を知っている。彼のアバター名はジェイク……ハヤテとカゲツの戦いを観戦していた、攻略掲示板の構成員である。
『【一撃入魂】……銃弾の固定ダメージを、MPを消費して強化する事が可能なユニークスキルか』
『確かに、えげつない組み合わせだな。戦う時は、最優先で狙うべきだ』
蓮織と舵定のメッセージに、霧人が同調する。
『そうだな、アイツは真っ先に潰した方が良いと思う』
それは同年代ながら、スタープレイヤーとして称賛されているハヤテに対する嫉妬心が含まれていた。しかし、それを咎める者は居ない。
『その時は、カイトにお願いするのかな?』
そのメッセージを送ったのは、これまで会話に参加していなかったメンバー。その人物のメッセージに、他のメンバーが一斉に反応する。
『お疲れ。今、終わったのかな?』
『忙しいみたいだな、お疲れさん』
『大丈夫? 無理はしてない?』
『この前、貴女用の装備を確保出来ましたよ。計画の際に、お渡ししますね』
『こらこら、一斉に送らないの。レスは良いわよ、忙しいんでしょ?』
そんなメンバーのメッセージに向けた返答は、可愛らしいスタンプとメッセージだった。
『あはは、ありがとね!』
唯一メッセージを送っていなかった蓮織が、彼女に向けてメッセージを打つ。
『もうすぐ準備が整うよ、【アンジェリカ】』
次回投稿予定日:2021/6/3(掲示板)