10-19 結果発表【料理部門】
服飾部門の結果発表を終えて、魔王達はそれぞれ立ち位置を変える。今まで進行をしていたチャリスが下がり、スペイドが前に出て来たのだ。また魔王は立ち去らずに、そのまま四天王が用意した椅子に座っている。
『さて、それじゃあ次は料理部門だ……後の方は面倒くさそうだからな』
気怠げに言うスペイドだが、その動きは思いの外きびきびとしている。その理由は、彼自身の口から語られた。
『お前等の献上品の料理な、魔王様が俺達にも分けて下さるって言うからよ。あまり魔王様をお待たせしてもいけないし、ちゃっちゃと進めるからな』
どうやらご相伴に預かるのが、楽しみらしい。その外見も相俟って、ご馳走を待つ幼い少年そのものにしか見えなかった。
……
「次は料理ッスか」
「魔王はどうやら、≪星空の衣≫のままで居るらしいね」
ハヤテとケインの会話に、レンが納得した様に頷いてみせる。
「この流れ、パーティの順序をちゃんと踏襲している様ですね。ドレスアップからの食事、その後に装飾品のプレゼントという形でしょう。武器は、まぁ……装飾品の後でしょうね」
真っ先に服飾部門が来たのには、そんな理由もあったのではないか。本物のお嬢様であるレンは、そう推察している様だ。
「運営さんに、レンちゃんのお義兄さんとお姉さんが居るもんね。その辺りはしっかりしてそうなイメージ」
アイネの言葉に、【七色の橋】のメンバーは確かに……と頷いてみせる。
しかし、【桃園の誓い】にとっては初耳の事実であった。
「え!? レンさんのご家族が、運営に!?」
イリスが真っ先に食い付くと、レンはその勢いに気圧されつつ返事を返す。
「はい、私も先日……第二回イベントの時に、初めて知ったのです」
「へぇ……そうだったのね」
「って事は、ユートピア・クリエイティブの社員なんだろう? 凄いねぇ」
【桃園の誓い】の大多数のメンバーは、レンの言葉を信じて納得する。しかし、ドラグだけは違った。
――運営の関係者……!! こいつらがユニークやレアモノを手に入れる事が出来たのは、それか……!!
彼は、レンが”運営メンバーの身内”からユニークシリーズやレアアイテムの情報を得て、それを手に入れトッププレイヤーに上り詰めたのだと確信する。そして同じギルドメンバーであるジン達も、その恩恵に与った……そう信じて、疑わない。
それは全くの誤解で、レンは本当に運営責任者や運営主任が家族だとは知らなかったのだが……ドラグは、その言葉を端から信用していなかった。
……
そんなプレイヤー側の事情に関わりなく、魔王軍側ではプレゼントの発表へと移行していた。
またも黒子達が一斉に現れ、テーブルの上に料理を並べていく。広いテーブルを埋め尽くす勢いで並べられた料理の数々。和風、洋風、中華風。丼、ラーメン、ステーキ。芳ばしそうなマンガ肉に、フルーツの盛り合わせ、見るからに甘そうなスイーツ。正に、千差万別のラインナップだった。
『さて、料理を批評するには味も確認しないといけないよな。魔王様、今回の料理評価を任された俺が毒見役を務めさせて頂きますね』
『うん、お願いねスペイド』
そんな会話がされた後、ササッと現れた黒子達。皿から小皿に料理を取り分けて、スペイドに差し出す。スペイドに差し出されたのは、一口で食べ切る量の料理だった。
『ん』
スペイドがそれをサッと食べると、口元を少しだけ緩ませた。そして彼が黒子に手を差し出すと、黒子はもう一つ取り分けた皿をスペイドに差し出す。こちらは料理の量も十分であり、スペイドの食べた物が毒見用の分量である事が見て取れる。
『お待たせしました、魔王様』
魔王は行儀よくカラトリーを手に持つと、目前に優しく置かれた料理に手を付ける。
『……うん、美味しいね』
料理を食べた魔王の表情は、とても幸せそうなものだった。その表情だけで、料理を作って良かったと思える程である。
『さぁ、皆も食べよう?』
魔王がそう言うと、黒子達がディスク・スティーブ・チャリスにも料理を差し出す。スペイドはその間に、他の料理の毒見をする。
『ふむ、これは異邦人達の世界の料理か』
『こちらには無い調理法も多いわねぇ』
『中々によろしくてよ』
和やかに食事をする様子から、魔王軍のトップは仲が良いのが見て取れる。
『しかし、こうも食材を揃えるとはな! 異邦人共も中々にやるではないか』
肉を食べながら、そう言って豪快に笑うディスク。その様子に、チャリスが顔を顰めつつも同意の姿勢を見せる。
『口に物が入っている時に喋んじゃないわよ……ま、確かにそうね』
チャリスが上品にスープを口に運んでその味を楽しみ、嚥下した後で口元を拭いながら呟く。
『魔力の乗りも良いし』
魔王軍の面々はその言葉を聞いても、疑問を抱かない。しかしプレイヤー側は違った。
……
「……魔力の乗り?」
「何だろうな、それは……まるで脂の乗りみたいに言っていたが……」
しきりに首を傾げる【七色の橋】と【桃園の誓い】だが、その中でハヤテだけはその意味合いについて思い至った。
「やっぱ、料理バフみたいなのがあるんじゃないッスかね」
得意気に笑うハヤテに、ジンとミモリが笑みを向ける。
「料理部門に参加する時に、言っていた事が当たったんじゃない?」
「さっすがハヤテ君ねぇ」
イトコ二人に挟まれて、頭を撫でられるハヤテ。格好付けたのに、何だか微笑ましい空気が流れ始めた。
「ちょっ、もう子供扱いしないで欲しいッス!」
そんな微笑ましいイトコ三人を見て、ドラグは笑顔を浮かべ……その裏で、ギルドの事について思考を巡らせる。
――何もかも都合が良過ぎる……エクストラクエストの踏破、第一回イベントではギルドメンバーの半分が上位に入賞……親戚やクラスメイトばっかりで集まっているのも、つまりはそういう事だろう。
ドラグは心の中で、【七色の橋】がレンの恩恵で力を付けたギルドであると考えていた。
同じ学校の友人を誘い、ゲームを始めたレン。その中の一人であるヒメノが、兄であるヒイロとその友人であるジンを誘って仲間になった。更にジンが親戚のハヤテやミモリを誘い、ミモリが友人であるカノンを誘って、今の【七色の橋】となったのだと。
そうでもなければ、こんなに身近な人間ばかりが集まるはずも無いだろうと思ったのだ。
そして彼等は、レンの持つ”運営メンバーの家族から齎された情報”を元にして、それぞれが力を付けていった。
一部のメンバーは不自然に思われない様に、目立たない様に水面下で準備を進めていたに違いない。
そうして徐々にレンを中心とする主要メンバーに合流していき、最終的にはトップギルドとして君臨する。
つまりは自分達が圧倒的に有利な条件下に立てる様に、計画的に進められてきた策略なのだろうと推測した。
故にドラグは、ハヤテが言う料理バフも最初から存在を知っている要素なのだと思っている。この場に【桃園の誓い】が居る為、あえてその様な言い方をしたのだろう。
現にドラグ以外のメンバーは、イトコ三人のじゃれ合いを微笑まし気に眺め……そして、料理バフについての話を始めている。
――白々しい、そんな嘘で俺を騙せると思うなよ……。
そう、彼は……実に盛大な勘違いをしていたのだった。
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魔王軍の食事は、思いの外早く終わる。それもそうだろう、単に魔王と四天王が食事をしているだけの光景を眺めなければならないのだ。逆に拷問、飯テロである。
最も、運営ミーティングの直後に発足した魔王軍のファンを名乗る有志達……いわゆる、ファンスレッドでは大盛り上がりだが。
尚、ファンスレッドにはプレイヤーのファンスレッドもある。誰の……とは言うまでも無いだろう、ファンギルドがあるくらいなのだから。ちなみにあります、忍者ファンスレッド。
ともあれ、魔王と四天王による料理審査は終わりを迎えた。残るは、結果発表である。
『よし、それじゃあランキングだな。魔王様と俺で選んだ、トップテンの発表に行くぞ~』
己の職務を全うするスペイドに対し、お腹いっぱい食べた魔王は緩んだ表情で料理の余韻に浸っている。その様子を、カメラで撮影する他の四天王。カメコかな?
『そんじゃ、上位の十品だが……モノはもう無いからな、写し絵で我慢しろ』
そう告げたスペイドは、一枚の鏡をどこからともなく取り出した。このタイミングで出す以上、ただの鏡では無いのは明らかだ。
『まずは第十位』
スペイドがそう言うと、手に持った鏡に何かが映し出されていく。それは徐々に鮮明になっていき、最後には大皿に盛られたスープパスタの実写絵そのものになった。
……
「何だあの鏡? もしかして写真を映し出せるのか? 魔法的なフォトスタンド?」
映し出された料理の実写絵よりも、鏡を気にしているゲイル。そんな大男に、フレイヤが食って掛かる。
「いや、違うでしょうが! ゲイル、良く見なさい! あれ! あれよ!」
「うん……? あっ!!」
ここで彼は、ようやく料理に気が付いた。
『えーと、料理名は≪王鮭のミルクスープパスタ≫だな。調理者は【桃園の誓い】のゲイルだ、おめっとさん』
モニターから響いて来た、スペイドの発表。その意味する所にゲイルが気付く前に、周囲が沸いた。
「やったー!!」
「ゲイルさん、入賞ですよ!!」
「おめでとうございます!」
ゲイルの入賞を祝う、【七色の橋】の面々。あっという間に囲まれたゲイルは、ようやく自分の料理がランクインした事に思い至った。
「お、おぉ……や、やったぞ!!」
「イエーイ!!」
のっけからの祝勝ムードに、【七色の橋】のギルドホームは大盛り上がり。センヤに至っては、ゲイルとハイタッチしている。
……
『肉や甘い物を作ってれば、もっと高得点だったかもしれないのになぁ。しかしまぁ、書かれたコメントを見てな? 俺は結構、良いと思ったぞ』
ちなみに、ゲイルが何と書いたのか。それは『自分が一番得意な料理を食べて貰いたくて作った』という文面だ。こういう所では、中々に漢気を感じさせるゲイルさんであった。
『でも、よく≪ブラウキングサーモン≫を釣れたわねぇ。そっちの大陸では結構、稀少な食材よ?』
スティーブの感想に、スペイドは腕を組みながら頷いてみせる。
『まぁな、そこも評価ポイントだ。後は見た目と、肝心な味だな』
気怠そうな事を言っていたものの、スペイドはやはり真面目に審査をしている模様。もしかしたら、四天王の中では一番仕事に熱心なのではないだろうか。
『さぁ、次に行くぞ。第九位は≪サインバードの唐揚げ≫で、【暇を持て余した我々の遊び】に所属しているジャックの料理だな』
そして、次々とランキングの発表が進んで行く。
八位はフリーランスのプレイヤーである、トランサム。サをザに変えたら、G〇粒子を大量に放出してパワーアップしそうな名前である。そんな彼の作は、≪ラズベリーソースと生クリームのパンケーキ≫だ。
続いて、七位にクレイドルホースの肉で作った≪大草原の馬刺し≫。調理者は、ギルド【レン様に仕え隊】所属のスレイン……まさかの、ファンギルドからのランクインである。
……
「うーん、三人の料理はまだ呼ばれないね」
ネオンが眉尻を下げながら、【七色の橋】の料理班……ハヤテ・アイネ・ミモリを見る。しかし三人は慌ててもいなければ、不安そうな表情でもない。
「大丈夫、手応えはあったもの」
「えぇ、もしかしたら一位も取れちゃうんじゃないかってくらい上手く出来たわ」
アイネとミモリは、自信満々の様子だ。それだけ、自分の料理に自信があるのだろう。
そして、ハヤテ。彼は別段、ランクインする事に拘っていない……といった表情である。
「まぁ俺はどっちかというと、食材の入手場所とかを調べたかっただけで……」
ハヤテは「別に順位は気にしてないですし?」といった態度である……が。
『第六位は≪巨牛のステーキ≫! 調理者は【七色の橋】のハヤテだな』
「いよっしゃあぁ!!」
自分の名前を呼ばれ、先程までのあっさりとした態度から一変。バッ!! と立ち上がって、ガッツポーズまでしているハヤテさんである。めっちゃ喜んでるやん。
「わぁ、同盟から二度目のランクインね!」
「いや、服飾部門がトップだったのも考えると三度目じゃねーか?」
「あ、そうよね!」
そう言いながらゼクスとチナリがハヤテに歩み寄り、手を翳す。その意図を汲んだハヤテは、力強くハイタッチ。大広間に、乾いた良い音が鳴り響く。
……
『この料理に使われた肉は、グレイトバッファローの肉だったんだが……あの巨大牛を倒した労力は、相当なモンだったんじゃねぇかな。調理技術はまだ拙い面もあったけど、それを稀少な素材で補っていたワケだな』
思ったよりも、微に入り細を穿つ評価である。街を闊歩するNPCよりも、魔王軍のAIは高度な思考パターンを実現している様だ。
それはさて置き、スペイドは次の発表に移る。
『よし、次だな。第五位は……』
今はまだ、アイネやミモリの名前は呼ばれるな……という様子で、ジン達はスペイドの次の言葉を待つ。しかし、第五位の調理者の名前を聞いて……。
『グランドボアの肉を使った≪魔猪のカツ丼≫だ。調理者は【森羅万象】のアーサー!』
「「「「「えっ!?」」」」」
驚きの声を上げてしまった。
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一方、【森羅万象】のギルドホーム。
「くそっ……五位だったか……!!」
口惜し気に、そんな事を宣うアーサー君。どうやら、相当に自信があったらしい。しかしそんなアーサーの周囲に座る、あの三人がアーサーに声を掛ける。
「アーサーさん、五位も立派な上位です。ちなみに私の中では、断トツで優勝です」
「アーサー、私もアーサーのカツ丼食べたぁい。ね、ね、作って♪ あ、私への愛情特盛でね?」
「お兄ちゃん……よしよし」
相も変わらずのアーサーガールズに、クロードは盛大な溜息を吐いた。
「んー、思ったよりも戦闘職のプレイヤーの名前が挙がるね?」
アーサーとアーサーガールズの事はスルーして、ハルが小首を傾げる。彼女はもっと、生産系のプレイヤーが上位に来ると睨んでいたらしい。そんなハルに、エレナが声を掛ける。
「恐らく、料理に使う素材の差ですね。料理部門は、他の部門に比べて敷居が低いと感じるのでしょう。戦闘職以外は、おそらく調合職や料理を専門にするプレイヤーでしょうけれどね」
「……え? 調合職さんはともかく、料理を専門にしているプレイヤーさんは有利なんじゃ……」
エレナの言葉を聞いて、ハルは首を傾げるだけだ。
しかし、シンラとクロードは合点がいったという顔を浮かべる。
「あ、成程ねー。レア食材を調達するルートが無いと、始まりの町近辺で取れる食材ばかりになるもんねー」
「……そうか。現地調達できる戦闘職の方が、レア食材にあり付ける。食材差で劣勢になる訳だな」
そんな二人の反応に、「流石ですね」といった表情で頷くエレナ。
「はい。料理職や調合職のプレイヤーは、その大半が第一エリアに留まっている状況です。そして、より貴重な素材を求めるならば第二エリアに到達するのが必須となります」
そんな女性三人の会話に、一人の少年……オリガが疑問を口にする。
「でもさ、これって生産系プレイヤーの為のイベントなんじゃないのか? 素材の差で負けたら、生産職としては面白くないと思うんだけど」
彼の言葉は、決して間違ってはいない。生産系イベントにおいて、生産職が戦闘職の後塵を拝すのは不満の声が上がるだろう。
しかし、それにもしっかりと理由がある……それを、シンラは見抜いていた。
「エレナさんが言った通り、生産職の大半は第一エリア……いえ、始まりの町から出ないプレイヤーが多いわー。それだと運営側としたら、広大なフィールドを用意した甲斐が無いでしょー?」
「……もっと良いものを作りたいなら、冒険しろって事か」
「ま、私個人の予想だけどねー。それに、本当に職人を自称するなら……素材にも拘るものよー」
その言葉に、オリガは重みを感じた。そう、彼女も職人系のプレイヤー……その一人なのだ。
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『さて、それじゃあ第四位だ。第四位は≪ジュエルベリーのショートケーキ≫! 調理者は【七色の橋】、アイネだ!』
ここで、ついにアイネの名前が出た。これで六位から四位まで、第二回イベントで活躍を見せた戦闘系プレイヤーの名前が揃っている事になる。
「やったー!! 今度はアイちゃんだー!!」
「おめでとうございます、アイネ様」
「凄いわね、アイネちゃん! 四位よ、四位!」
更に盛り上がりを見せる、ギルド同盟。アイネに向けて拍手が贈られると、アイネは嬉しそうにはにかんで頷いた。
「皆が協力してくれたお陰だね、ありがとう。【桃園】の皆さんも、ありがとうございます」
礼儀正しくお礼の言葉を口にするアイネに、隣に座っていたハヤテが優しい笑顔を向ける。
「おめでと、アイネ」
「ありがとう♪」
『味も良かったが、このケーキは見た目も凝っていたわね?』
『あぁ、そうだな。製作者のコメントによると、折角だから自分達のギルドホームをケーキで作ってみたそうだ……そういった遊び心も、また良し』
『ちなみにこのケーキに使われている≪ジュエルベリー≫は、凶暴なハチ型モンスターのメイティングワスプの巣でしか採れないんだ。アイツの目を盗んだか、はたまた倒したか……どちらにせよ、ベリーの中では最高級のシロモノだ』
スペイドの解説に、シオンとダイスが顔を見合わせた。
「どうやら、最高の当たりを引いた様です。ダイス様のお陰ですね」
「そうでもないぜ。俺一人じゃ、死に戻ってたさ」
そんな言葉を掛け合う二人は、どことなく以前より距離が近く感じられる。先程の服飾部門でも、そんな気配がしていたが……。
――これは絶対に、何かあったな。
他のメンバーはそう確信を持つのだが……笑い合っている当の本人達は、お互いに意識を集中させていて気付いていないのであった。
……
『さて、いよいよ三位だ。魔王様、ここからは魔王様からもお言葉を……』
ここまでずっと「余は満足じゃ」状態だった魔王だが、スペイドの言葉を受けて我に返る。
『あ、そうだね……ごめんね? 頑張るね』
慌てて佇まいを正す魔王に、四天王はほっこりした様子。
『コホン、では第三位だ。第三位は……』
そうして、鏡に浮かび上がる料理。そこには……皿からはみ出す程に大きな鳥の丸焼きが浮かび上がる。
『【聖印の巨匠】所属のハレルヤが作った、≪古代鳥の丸焼き≫だ!』
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「いよっしゃああああ!!」
始まりの町の丘の上にあるギルドホーム……ギルド【聖光の騎士団】の本拠地である屋敷の大広間に、ハレルヤの歓喜の声が響き渡る。
「ふむ、第三位か」
満足そうに頷くアークに、ハレルヤはハッとした。大広間に集まったギルドメンバー達の前で、我を忘れて大声を上げてしまったのだ。我に返った彼は、恥ずかしさが込み上げて来た。
しかし、アークは彼の態度を咎めない。それどころか逆に、ハレルヤが打ち出したその功績を称賛してみせた。
「見事だ……立派な成績を叩き出してくれたな、ハレルヤ。皆、ハレルヤの上位入賞を称えよう!!」
メンバー全員に届く様に、そう宣言するアーク。その言葉を受けて、【聖光の騎士団】と【聖印の巨匠】が入り乱れて歓声を上げる。
「やったぜ、ハレルヤ!!」
「おめでとー!!」
「俺にも作ってくれよ、あれ!!」
「ハーレルッヤ!! ハーレルッヤ!!」
「ありがとう!! 皆ありがとう!! でもお前、その歌はやめろー!!」
そんなハレルヤ祭りに、壁に寄り掛かって控えていたギルバートは口元を緩める。
この第三回イベントの為に、彼も食材や素材を求めてフィールドを駆け回った。その際は、ヒラ団員や生産職とパーティを組んでの探索もこなした。
そうして気付いたのは、今まで自分がいかに驕っていたか。自分を見つめ直し、第二回イベントの事件以降は謙虚さを覚えたギルバートであった。
――あぁ、良いなぁ。このギルド全員が一体となった感じ。
そんな印象を胸に刻み込む様にしているギルバートに向けて、ハレルヤが駆け寄った。
「ギルバートさん!! ギルバートさんが仕留めてくれたエンシェントターキーの肉で、入賞しましたよ!!」
嬉しそうにそう言うハレルヤの言葉を受けて、ギルバートはフッと微笑む。
「君の料理の腕が、魔王や四天王を唸らせた……それだけさ。おめでとう、ハレルヤ」
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ここへ来て、生産職プレイヤーの巻き返し。そして、いよいよ二位の発表である。
『さて、いよいよ二位だ。料理名は≪巨牛のビーフシチュー≫!』
その料理名に、ミモリがハッとする。仲間達と一緒になって狩ったグレイトバッファローの肉で、ビーフシチューを作ったのは彼女だ。
『【七色の橋】のミモリが作った料理が、二位だ!』
「姉さん、二位だよ!! 凄いっ!!」
「おおおぉっ!! やったぜミモ姉!!」
イトコ二人の賛辞に、ミモリはいつも通りの笑みを浮かべる。
「ふふっ、ありがとう♪」
駆け寄って来たイトコ二人を、抱き寄せるミモリ。相変わらず、甘々お姉ちゃんである。そんなミモリの行動に、彼等の恋人達はヤキモチを……。
「やりましたね、ミモリさん!!」
「おめでとうございます!!」
焼きませんでした。もう、ミモリに完全に慣れています。
すると、モニターから魔王の声が響く。
『この料理、お肉だけがポイントじゃなかったよ』
全員が視線をモニターに向けると、魔王が嬉しそうに微笑んでいた。
『お野菜はね、彼女のPACであるメーテルと一緒に作ったんだって。二人の……ううん、一緒に他の人達も頑張ったから、皆で作った料理なんだよ』
現地人や、仲間達と一緒に作り上げたビーフシチュー。その味や素材もさることながら、一丸となって製作したものである事が魔王の心に響いた様だ。
『さて、それじゃあ第一位だ』
鏡を頭上に掲げ、スペイドはついに第一位の料理を発表する。
『最高の料理を作ったのは……』
誰が一位に輝いたのか? それが気になるので、ジン達も無言でスペイドの発表を待つ。
チャリスよりは短いが、スペイドもそれなりに言葉を溜め……。
『【森羅万象】ギルドマスターのシンラ! 料理名は、≪旬のケーキ盛り合わせ十八種≫だ!!』
スペイドの言葉と同時に、鏡に映し出されたのは……大きなケーキスタンドに盛り付けられた、十八種類のケーキだった。
三段のケーキスタンドには、それぞれ異なるケーキが盛り付けられている。色とりどりのケーキは見た目も実に綺麗であり、一位になったのも納得出来る。
『魔王様の十八歳の誕生日を、十八種類のケーキで表現するアイディア。それぞれのケーキの味もさる事ながら、この十八年間で【ミラルカ・フルーツ大賞】を受賞したフルーツを用いて作られたのも高評価だったぜ』
『これは、本当に凄かったね……それぞれのケーキが、ちゃんと作り込まれていたもの。しかもそれが、十八種類。どれも飽きが来なくて、絶品だったよ』
そんな魔王とスペイドの批評に、料理班の面々は顔を見合わせ苦笑する。【森羅万象】のギルマスの実力には、流石に帽子を脱がざるを得なかった。
次回投稿予定日:2021/5/25
実は何気に、シンラさん好きですわ。
あと、ミモ姉も好き。
お姉さんって良い響きよね。