表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第十章 あなたへのプレゼントでした
183/573

10-18 結果発表【服飾部門】

 長いという者も居れば、短いと嘆く者もいたプレゼント期間。その締切から五日が経過し、二十五日。いよいよ、発表当日となった。

 AWOにログインした【七色の橋】と【桃園の誓い】は、【七色の橋】のギルドホームに集まって発表を待っていた。


「結果発表は、動画配信で行われるんだよね?」

「その様です。運営ミーティングと同じ形式ですね」

 大広間でまったりとしているジン達は、緊張等はしていない。やれるだけの事はやった……という実感があるのだ。


 そんな【七色の橋】と【桃園の誓い】の様子を窺いつつ、ドラグはこの数日間の事を思い返していた。

 二つのギルドが共に行動する中で、いくつかの情報を手に入れる事に成功した為だ。


 一つは、彼等の関係性。少年・少女が多い【七色の橋】と、成人済みの面々が集う【桃園の誓い】。年齢層の異なる二つのギルドが何故、深い交流を持っているのか。

 その理由は、何という事もないもの。単にギルド設立前から懇意にしており、最初から同盟前提でギルドを互いに設立したというだけの事だった。


 そして、他に交流を持つギルドやプレイヤー。生産職人ユージンに、フリーランスのプレイヤーであるリリィ。そして、第二回イベントで猛威を奮った【魔弾の射手】。

 大規模なギルドやパーティとは、ろくに面識も無い状態だった。


 何より、彼等の保有している戦力。これが最も重要だ。

 イベント戦で予想は出来ていたが、その正体はユニークアイテムやユニークスキルによるものと判明した。

 ケイン以外からは詳細を聞き出せていないが、それでもユニークだと解っただけでも大きな前進だった。


――ケインのユニークスキル【鞍馬天狗】……ジンとレン、シオン、ヒメノも同種のユニークスキルを持っている、か。


 ステータス強化系……風林火山陰雷のユニークスキルについて、概要までは把握する事が出来たドラグ。残る”陰”のユニークスキル所有者は突き止められなかったが、DEX系という所までは解った。


――デメリットもあるが、それ以上にメリットが大きい。スター系の上位互換……いや、あっちが劣化版という事か。


 武技や魔技の詳細は未だ不明だが、予想は可能。そして最終武技の条件や、その効果もだ。


――これなら、作戦次第では封殺する事が出来る。後は、あの作戦が上手くハマれば……。


……


 二十一時を迎えた所で、ついに発表の時間となった。

『……ちょっと、早くしなさいよスティーブ。魔王様をお待たせするなんて言語道断よ』

『そう急かさないでくれたまえ、チャリス。もう繋がったはずだ……ほら』

 そんな会話が、今回もヒイロが開いているシステム・ウィンドウから聞こえてくる。そして、真っ暗だった画面に鮮明な映像が映し出された。


 映像の中には、魔王軍四天王の四人……スティーブ・チャリス・スペイド・ディスクの姿があった。しかしながら、魔王が座すべき玉座は空席である。


『ん、んんっ!! 待たせたわね、異邦人共!』

『おーい、チャリス。カメラはこっちだぞ』

 スペイドの指摘通り、チャリスはカメラとは全く別方向にポーズを取っていた。これは中々に恥ずかしい。

『ちょっと、そういう事は早く言いなさいよ!!』

『いや、やったの俺じゃねぇし』

『まぁまぁチャリス、魔王様をお待たせするわけにもいくまい……仕切り直そうではないか。はい3! 2! 1! アクション!』

『待たせたわね、異邦人共!』

 ディスクのフリに、しっかり合わせるチャリス。仲良いな、こいつら。


……


「のっけからグダグダですね」

 溜息混じりのシオンの言葉に、ドラグが苦笑して相槌を打つ。

「前回の放送から、こうなると思っていただろ?」

「……まぁ、確かにそうですね」

 厳格な雰囲気にはなるまい……とは誰もが思っていたので、全員揃ってウンウンと頷いてしまう。魔王軍四天王、実に威厳が足りていない幹部であった。


……


『魔王様の誕生日を祝う、献上品の用意……ご苦労だったわね、異邦人共!』

 非常に偉そうな態度でそう言うチャリスは、目が爛々と輝いていた。

『色々と検品したけれど、中々に興味深い品が多かったわ! やるじゃない、異邦人の割には!』

 どうやら、チャリスが気に入った物もいくつかあったらしい。内心では、自分の誕生日を祝う時にも同じイベントを開催する腹積もりだろうか。


『料理も色々とあったけど、イイ感じだったぞ』

『うむ。俺が担当した品々も、中々に良い物が目白押しであったな』

 スペイドとディスクも、チャリス同様にプレゼントの品々は好印象だったらしい。


 しかし、スティーブだけは苦い顔をしていた。

『……』

 仏頂面で黙りこくるスティーブに、他の三人が視線を向ける。何か言う台詞はないのか? と思っているのは、表情を見れば明らかだ。

『……ぷいっ』

 顔を背けるならまだしも、スティーブさんは自分で『ぷいっ』と言った。子供か。


『おい、スティーブ……』

『べ、別に私より素晴らしい装飾品を作られたからって、嫉妬なんてしてないんだからねっ!!』

 ディスクに声を掛けられ、食い気味にそんなセリフをのたまうスティーブさん。ツンデレ的な言い方ではあるが、萌える要素が一切無い。


『はいはい、それじゃあ進めるわよー』

『ちょっと!? 私の事を無視しないで頂戴っ!!』

 やたらとクネクネし始めたスティーブに、チャリスが盛大な溜息を吐いた。どうやら、これがスティーブの本来の喋り方らしい。

『おーい、オネェ。地が出てるぞー?』

 スティーブ、オネェと発覚。気障ったらしいイケメン魔族かと思いきや、なんとオネェ。これは中々に強烈なキャラクター設定であった。


『魔王様を待たせてんのよっ!! グダグダ抜かすなっ!!』

 そう言いながらチャリスは、その長くしなやかな脚で蹴りを放つ。それがスティーブの尻にクリーンヒットし、鈍い打撃音が響き渡る。

『アッーーー!!』

 年末恒例、長身のお笑い芸人の尻に叩き込まれるタイキックを彷彿とさせる蹴り。次はビンタだろうか。


『馬鹿は放っておいて、まずは私の担当した魔王様のお召し物からよ!!』

 スティーブの事を完全に放置したチャリスは、謎のポーズを取ってそう宣言する。

『実に、実に興味深い品々だったわ!! という訳で、まずは上位百着を一斉に披露するわよ!! はい、カモンッ!!』


 チャリスが手を振るうと同時に、左右から黒子のような者達がカットイン。その全員が、衣装を着たマネキンを抱えている。

 ワラワラと現れては、一糸乱れぬ動きでマネキンを配置。そして、即座にカットアウトしていく。中々に鍛えられた黒子である……もしかして、某侍の末裔の家で鍛えられたのではなかろうか。一筆、奏上。


『まずは自分の用意した衣装が見つかった者は、感涙して頭を垂れなさい! これらは魔王様の御前に並べられるのよ!』

 そうして並べられた、百着の服。そのどれもがオリジナルらしく、実に煌びやかな光景であった。


……


「あっ!」

「あそこ! あの右側の……!」

 ヒビキとセンヤが立ち上がり、モニターの中を指で指し示す。そこには【七色の橋】と【桃園の誓い】が、合同で製作した贈り物が陳列されていた。

「まずは百位には入ったわね」

「まぁ、百位落ちは無いとは思ってたわ」

 イリスとフレイヤはそう言いつつ、真剣な面持ちで自分達も共に製作した衣装を見つめている。


……


『出品数は三百十七……まぁそれなりにはあったわね。その中でも特に、魔王様に見合った品々がこれよ!』

 そこまで告げると、チャリスはその表情を渋いものにする。

『というか、まともなの……ね。あのね、アンタら魔王様に際どい水着とか、布面積の少ない服とか、メイド服とか……舐めてんの?』

 どうやら、欲望の迸るままにプレゼントとしてそんな物を贈ったプレイヤーが居たらしい。そして、それらは当然選考対象外と見做されたようだ。


『全く、ちゃんと百以上はまともな物が揃って良かったわよ……ま、それはそれとして! ここから上位五十位まで数を減らすわ! 自分のが残る様に、精々祈る事ね!!』

 どうやら、徐々に下位の物を省いていく方式らしい。見る側としては、これは中々に緊張する方式である。


 再び黒子が現れては、下位の服を移動させていく。ササッと省かれた服の製作者達は、画面の前で落胆しているだろうか。


……


「残った!!」

「イエスッ!!」

 ガッツポーズをするイリスとセンヤ。ヒビキは安堵で胸を撫で下ろし、フレイヤは余裕の表情に見えて内心ではかなりホッとしている。

 そんな中、メインとして製作に励んだシオン……彼女は真剣な眼差しで、画面を見つめている。


************************************************************


 魔王軍のコントを挟みつつ、更に二十着まで減らされた服飾部門。その中にも、【七色の橋】&【桃園の誓い】同盟のプレゼントは残っていた。

『さぁ、いよいよトップテンの発表よ!!』

 上位十着まで減らされる……と思いきや、現れた黒子達が全ての服を持ち去ってしまう。困惑するプレイヤー達を見透かした様に、チャリスは不敵な笑みを浮かべて仁王立ちした。


『さぁ、メインイベントよ!! ここから先、十位からは……魔王様に、直々にお召し頂く事にするわ!!』

 考えてみれば、それも当然。服とは着る為にあるのだ。つまり上位に入賞した服は、魔王が実際に着用して登場するという事である。


『まず、第十位!! 【ナイト・オブ・ナイト】所属のスバル、≪魔王最強戦闘服≫!! 凄い名前付けたわね、あんた!』

 チャリスがそのネーミングセンスに一言添えつつ、ギルド名とアバター名……そして作品名を宣言した。

 するとチャリス達の後方に魔法陣が展開され、そこから一人の少女……魔王が姿を現した。


 漆黒の革で出来たレザースーツと、光沢を持った真紅の布で出来たインナーウェア……この上に鎧を着込めば、魔剣士といった雰囲気になるであろう。


『この衣装は≪オニキスドラゴンの革≫と、稀少品の≪ミラルカブルクロス≫を使用した一品よ。魔王様のお強さを際立たせる、見事なデザインね』

 チャリスがそう言うと、魔王がポーズを取って立つ。ここはランウェイでしょうか。

『これ、格好良い……ありがとう』

 そう告げた魔王は、クルリと反転して魔法陣の中へと戻って行く。今のが、魔王からの一言……というヤツらしい。


『なお、この服にはギルド【ナイト・オブ・ナイト】全員の連名作となっているわ。一丸となって魔王様への献上品を用意するその気概、実によくってよ!!』

 言葉通りに上機嫌なチャリスは、そのまま次の入賞者紹介に移る。

『では、続けて第九位! 【聖印の巨匠】所属のリアナで、≪紅蓮のバトルドレス≫よ!!』

 展開されたままの魔法陣から、再び魔王が現れた。その装いは先程とは違う、騎士服っぽいドレスを身に纏っている。魔王様の特技は、早着替えだろうか。


************************************************************


 こうして十位から順に、魔王が実際に着用しての結果発表がされていく。

 八位に【森羅万象】のディーンが製作した、≪黒曜のコート≫。七位にギルド【大魔導同盟】所属のフェリスによる、≪フェリスのワンピース≫。そして六位がギルドに所属しない生産プレイヤー、モモンガが製作した≪モモンガのドレス≫。

 そのどれもが、精魂込めて作られた物だと解る逸品揃いであった。


「ま、まだ出ないね……?」

「二十位以内に入っているのは確実ですけれど、他のプレイヤーが製作した物も素晴らしい出来ですからね……」

 緊張した表情のヒメノに、レンが冷静に告げる。上位に入っていると信じているものの、予断は許されない状況なのは間違いない。


 更に五位に、フリーランスプレイヤーのネコヒメによる≪ネコヒメ印の制服≫。ブレザータイプの制服は、実に魔王に似合っていた。ぜひ一緒に、登下校等をして関係を深めたくなる。

 四位に【森羅万象】所属のレスターが製作した、≪レスターのゴシックドレス≫が発表された。こちらはフリルたっぷり、夢たっぷりの可愛らしいドレスだ。過不足無いバランスは、実に目を引く。


「いよいよトップスリーか……」

「くうぅ……緊張する……っ!!」

 ゼクスとチナリが唸る横で、ケインが真剣な表情で口を開いた。

「やはり上位には、≪黒曜の布≫や≪シルクワームの糸≫が使われているね……PACパック現地人(NPC)から得られた情報によるものだろう」

 そんなケインの言葉に、ヒイロが頷く。

「そうですね……そうなると、素材による優劣差はある程度埋まっていると考えていいと思います」


 こういった製作物の優劣を競う要素は、使用した素材と技術……そして、独創性オリジナリティ。特に製作物のアレンジが可能なAWOにおいては、独創性オリジナリティに比重が置かれていても不思議ではない。


『それでは第三位の発表よ!!』

 画面の中で、チャリスが高らかに宣言した。

『上位の献上品の中でも、ここからの三着はどれも甲乙付け難い物ばかりだったわ!! 製作者コメントもしっかりと書かれていて、魔王様にも好印象だったわよ!!』

 製作した品には、コメントが付けられる。所謂、フレーバーテキストに記されている物がそれだ。


『第三位は……所属無し、サルートが製作した≪サルートのパーティドレス≫!!』

 製作者の名を読み上げたチャリスの背後から、魔王が姿を現した。ベルラインの黒いドレスが、魔王の白い肌を際立たせている。ふんだんにあしらわれたフリルは、その全てが手縫いだろうか。


『≪黒曜の布≫で編んだドレスに、≪シルクワームの糸≫を使用した精緻なフリル……!! 素晴らしい技術を駆使して作られた、芸術的なドレスだわ!!』

 興奮気味なチャリスの言葉に頷いて、魔王がうっすらと微笑みを浮かべて口を開く。

『すごく綺麗なドレス……凄く嬉しい。ありがとう、サルート』

 その場でクルリと一回転すると、魔王は画面に向けて一度手を振って魔法陣の中へと戻っていった。

『喜びなさい、サルート。魔王様はご満悦よ!!』


……


「残るは二位と一位……ッスね」

「あの出来栄えなら、上位は間違いないと思うんだが……」

 普段は余裕の表情を浮かべているハヤテも、緊張感からか顔が強張っている。そして意外と繊細というか、ギャップの塊であるゲイルは顔面蒼白で食い入るように画面を見つめていた。


「完成品を見た感じ、二位や一位でも不思議じゃないわ。絶対に、いける!!」

 グッとガッツポーズをしてみせるミモリは、自信に満ち溢れていた。

「うん……仕上げは、みんなで参加したもんね……」

 カノンもオドオドしてはいるが、上位入賞を確信している様子だ。


……


 そして、いよいよ第二位の発表となった。

『第二位は……』

 そこで言葉を切るチャリスは、どこぞのクイズ番組よろしく溜めを作る。

『【聖印の巨匠】に所属する、ハインツの献上品よ!! その名も≪王権のコート≫!!』

 その言葉と同時に、魔法陣から魔王が姿を現した。

 彼女が身に纏う服装は従来のものだが、その上から黒いコートを羽織っている状態だ。このプレゼントは、従来の装備にコートを付け加えることをテーマとした製作品らしい。


『≪黒曜の布≫と≪オニキスドラゴンの革≫で出来た、このロングコート……そして革部分の金色の飾りは、≪金獅子の鬣≫ね。何より、魔王様の元々のお召し物に合わせて縫われた、≪シルクワームの糸≫による模様!! 魔王様の魅力を引き立てるという点を、実に理解していると言ってよろしくてよ!!』

 踏ん反り返って、カメラ目線で指をさすチャリス。踏ん反り返り過ぎて、もう顔が見えない。某有名マンガの、海賊の女王だろうか。


 そんなチャリスの奇行をスルーして、魔王は嬉しそうにコートの裾を摘まみ上げて微笑む。

『代表はハインツとなっているけれど、他にもカミル・ソレイユ・マルコス・レーヴェとの共同だったんだって。皆、ありがとう』


……


「残るは……一位だけ……!!」

「お願い……入ってて!!」

 ヒビキとセンヤが、両手を組んで祈る。

「来い……一位来い……!!」

「行ける、きっと行ける……」

 イリスとフレイヤは、険しい表情でチャリスを凝視していた。


「……」

 ここに来るまで、ずっと無言だったシオン。それはメイド云々は関係なく、ただひたすらに緊張しているせいだろう。横に座っているダイスは、彼女の顔色がどんどん悪くなっていっている事に気付いていた。

 フルダイブVRにおいては、体調不良になるという事は無い。頭痛も腹痛も、熱っぽさも、VRの中ならば感じずに済むのだ。

 つまりシオンの表情が芳しくないのは、精神的な要因。その理由は、やはり緊張からなのだろう。


「大丈夫だ」

 だから、ダイスはその緊張を和らげようと声を掛ける。彼に声を掛けられて、シオンは視線をダイスに向ける。

「あのプレゼントが、優勝で決まりさ」

 専門知識も無いし、ファッションにうるさいわけでもない。そんなダイスではあるが、シオンが代表となって皆で製作した一着は素晴らしい出来栄えだった。

 それ故の、断言だ。


 ダイスの言葉を受けて、シオンの表情に少しだが赤みが差した。

「……ありがとうございます、ダイス様」

「おうよ」

 そんなやり取りを交わしていると、チャリスの言葉が響く。

『さぁ、いよいよ一位の発表よ!!』


……


 服飾部門の頂点、魔王とチャリスが選んだ最高の一着。それが、いよいよ発表される。

『栄えある第一位は……』

 これまでの雰囲気とは異なり、チャリスも真剣な表情である。ジョークも、ネタも何も無い。


 そして、長い長い溜めの末に……。

『【七色の橋】・【桃園の誓い】同盟所属、シオン!! 献上品の名は、≪星空の衣≫よ!!』

 待ち侘びた逸品の名が、高らかに宣言された。


 魔法陣から姿を現した魔王は、柔らかな笑顔を浮かべて歩み出る。

≪黒曜の布≫で織られた黒い着物と、≪シルクワームの糸≫で編まれた白いチャイナ風のワンピースで構成されたオリジナルの和中折衷ドレス。


 膝より少しだけ上の裾となっているチャイナ風ワンピースは、それだけでも十分にドレスとして着られそうな出来栄え。刺繍は控えめにし、過不足の無い絶妙なバランス。

 その上に羽織られたノースリーブの黒い着物は、ワンピースを見せる為に大きくはだけられている。しかしながら不思議とあざとくない、自然な着こなしに見えるのは衣装の妙か。【七色の橋】の女性陣同様に、セパレート型の袖も特徴的な部分である。


 そして、至る所にキラキラと輝く星の様な刺繍がいくつも施されている。照明の光を反射したそれが、正に夜空に瞬く星の様であった。

 それを身に纏った魔王は正に、可憐さと美しさを兼ね備えた美少女。それを際立たせる、見事なデザインであった。


……


「や、やった……!!」

「ほんと!? ほんとにほんと!?」

「よっしゃ!!」

「キタコレーッ!!」

 立ち上がって身を乗り出すヒビキ、その横で口元に手を当てて涙ぐむセンヤ。イリスとフレイヤは、ピッタリ息の合ったガッツポーズを披露してみせる。

 そんな四人に囲まれて、シオンは表情を和らげる。


「やったな」

 短く、ざっくばらんな言葉。しかし、その言葉がシオンの緊張の糸を断ち切った。

「……はい、皆様のお陰です」

 そう言ってシオンは、柔らかな微笑みを浮かべてみせた。


……


『この服は、異邦人達の住む世界における伝統的な衣服……ワソウとチャイナフク? を組み合わせた物だそうね。それぞれワソウやチャイナフクを贈った異邦人はいたけれど……この一着の出来栄えは、群を抜いていたわ』

 噛み締める様に≪星空の衣≫を批評するチャリスは、モニターに向かってビシッとポーズを取る。その言葉に、満面の笑みを添えて。

『貴重な素材、高度な縫製技術……それも評価ポイントよ。しかし! それに加えて二つの伝統を踏襲しつつ、融合させた独創的なデザイン! 実によくってよ!!』


 そんなハイテンションなチャリスに、ディスクが軽く手を挙げながら声を掛ける。

『製作は連名か。イリス、フレイヤ、ヒビキ、センヤ……のう、チャリスよ。この製作者と一緒に書かれている協力者の欄……随分と多くの名前が記されておるぞ?』

 そう……この≪星空の衣≫に記されている協力者の名前は、服飾班だけではない。【七色の橋】と【桃園の誓い】に所属するメンバー、全員の名前が記されていた。

 ちなみに協力者は、一人一品の制限には触れない。それはハヤテが公式に質問して、確認済みである。


 その理由は……。

『ええ、そうよ。この服に縫われている星の刺繍……これは【七色の橋】と【桃園の誓い】に所属する全員で縫われたそうね』

 つまりは全員で一丸となって、この渾身の一着を仕上げたのだ。一人一人が、星の刺繍を丁寧に縫い上げたのである。それはプレイヤーだけではなく、PACパックも同様に。

『異邦人だけでなく、現地人も含めて縫われたこの刺繡!! 魔王様はいたくお気に召しておられるわ!!』


 チャリスの言葉を受けて、魔王は花が咲く様な微笑みを浮かべる。

『一つ一つの刺繍に、凄く心が込められているんだなって感じたよ……全員の名前を呼ぶと長くなってしまうから、代表者にだけ声を掛けるけど、許してね……?』

 胸元で両手を組んで、モニターに向けて……最高の一着を作り上げたシオン達に、呼び掛ける。

『シオン、そしてその仲間達。凄く素敵なプレゼントを、ありがとう。ずっとずっと、大切にするね』

次回投稿予定日:2021/5/20


祝☆一位。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] サスシオ メイドの中のメイド!1位を死守する硬さ
[一言] 祝 「服飾部門」一位おめでとう まさか、スティーブがオネェだったとは、 他のキャラにもまだまだ隠し事がありそうです! ジン達が魔王軍と直接関わることに、 なったらどうなることやら。 ドラグ…
[良い点] シオンさん衣服部門1位おめでとう御座います。いやぁめでたいめでたい。 [気になる点] 話ののっけからドラグウザいですね。しかも着実に情報を手に入れてるし、ケインさんもドラグを信頼して貴重な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ