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忍者ムーブ始めました  作者: 大和・J・カナタ
第二章 ゲームをエンジョイしました
18/573

02-04 反撃しました

 キョウカオロチの攻撃を尽く回避していくジンだったが、決して余裕綽々という訳では無かった。

 幸いな事にキョウカオロチの攻撃は火球を生み出し、それを突いて放つというもののみである。集中しているジンならば、そうそう当たらない。

 だが、流石のジンも精神的な疲労が蓄積されていくのだ。当たれば終わるという、緊張感によるものである。精神疲労は、徐々に集中力を奪っていく……ジンも、それを解っていた。


――何か、突破する糸口は無いのかな……!?


 ヒメノ達が頭を悩ませているのと同時、ジンもまたキョウカオロチを倒す為の手段を模索していた。

 ヒメノの物理攻撃、レンやイリスの魔法攻撃でも、キョウカオロチはダウンしない。更には大型モンスター特有のスーパーアーマー状態もあるので、攻撃は中断しない。

 その圧倒的な攻撃力も厄介で、盾職ですら受ければHPが激減する。追撃を喰らえば、一巻の終わりである。


――プレイヤーの攻撃で、ダウンさせられるとは思えない……待てよ?


 ある仮説に、ジンの思考が行き着いた。

 プレイヤーの力でダウン出来ない、ならばキョウカオロチの力を利用すれば良いのではないか? と。

 キョウカオロチが火球を突いて打ち出す様に、ジンもまた()()()()()()()()()()()のではないか?


 もしその仮説が正しければ、キョウカオロチの攻撃方法にも納得がいく。しかし、それは同時にハイリスクな検証であった。

「……失敗したら、終わりだな」

 自分が失敗して攻撃を受けた場合、回避盾役はゼクスが担う事になる。しかし、ゼクスでは全ての攻撃を避けられるかと言われると……正直、無理だろう。

 自分もゼクスも落ちた場合、ヒイロ・シオン・ケインが身を挺して後衛を守るだろう。しかしそうなれば、装備の耐久や三人のHPも削られて防御手段を失う。そうなれば、ヒメノ・レン・イリスも攻撃どころではない。

 自分が失敗すれば、全滅はほぼ確定。それが、決断を鈍らせた。


 火球を避けつつ、ジンは策を練る。脳内でシュミレーションを重ね……ある武技を使う事を検討する。それはウルトラレアスキルである【分身】だ。しかし、ジンは即座にその方針を却下する。

【分身】で召喚するジンそっくりのNPCは、AIで行動する。ジンが指示を出す事で、AIの行動を操作する事が出来るのだ。

 そんなNPCが「敵の攻撃を打ち返せ」という指示を聞いて、その通りに行動できるのか? という懸念があったのだ。


 次に思い付いたのは、攻撃を打ち返した直後に【クイックステップ】で回避する事だ。しかし、これも危険が過ぎる。

 火球を打ち返した直後……それは即ち、火球は目と鼻の先にあるという事だ。そのタイミングでは失敗した場合、回避が間に合わずに自分が火球に呑まれる可能性が高い。そうなれば、一撃で死ぬだろう。

 同じ極振りプレイヤーであるヒメノが、柱に命中した火球の余波で瀕死まで追い込まれた……それは、ジンも見ていた。直撃すれば、確実に死亡状態に追い込まれる。


 そこで、ジンはある事に気が付いた。

 ()()()()、攻撃して【クイックステップ】を発動する。これならば、回避が間に合うだろう。


 それが出来る自信が、ジンにはあった。凶悪な【八岐大蛇】に対して、ジンは【九尾の狐】の力で対抗する手段を思い付いたのだ。

「よし……やってやるか」

 ジンは地面に降り立つとタイミングを見計らう。視線の先では、キョウカオロチが火球を生み出し始めた。


「【空狐】!!」

 迫る火球。それが着弾する少し前のタイミングで、ジンは小太刀を振るった。真空の刃が発生するのは、一秒後。それを待たずに、ジンは足に力を込める。

「【クイックステップ】!!」

 一気に飛び退き、着地と同時に体勢を立て直す。視線は油断なく、キョウカオロチと火球の方へ。

 その瞬間、真空の刃が発生。キョウカオロチの火球を迎え打ち、それを打ち返してみせた。


――ビンゴ!!


 打ち返された火球は、他の首が放った火球を呑み込み……そして、キョウカオロチに直撃した。自分の放った攻撃を跳ね返されたキョウカオロチは、火球に灼かれて悲鳴を上げる。

「ジンさん!!」

 ヒメノの声は、歓喜の感情を滲ませていた。一瞬だけ振り返れば、その表情には安堵の笑みが浮かんでいる。

 ジンは再度キョウカオロチに向き直り、警戒を緩めず……ヒメノに背中を向けたまま、左手でサムズアップしてみせた。


************************************************************


「……攻撃を、弾き返す!? それが、コイツの攻略法か!!」

 声を上げたのは、ゼクスだ。その口元には、笑みが浮かんでいる。

「あの攻撃を弾き返すだなんて、よく思い付いたなアイツ……すげぇじゃん、忍者!!」

 これまで、どこかレンやシオン以外のメンバーを見下していたゼクス。しかし、彼は目の当たりにしたのだ。ジンの、最速忍者の真価を。

「機転、度胸、実行力……ハハッ、良いじゃねぇか!! 死ぬ気で援護してやるよ!!」


 ジンの援護をしようと駆け出したゼクスを見て、ケインは口元を緩めた。

「なんて男だ、ジン君。その勇気には感服するよ」

 自分ならば、そんな攻略法を見出せただろうか? 応えは否。消極的な手段で応戦し、その結果敗北していただろう。

 今ならば解る。彼等がユニークシリーズを手にする事が出来たのは、運でも偶然でも無い。


――ジン君、シオンさん、レンさんだからこそ。そして……ヒメノさん。君にこそ、このエクストラクエストは相応しいんだろうね。


 自分が成すべき事を、ケインは規定した。それは、彼等の攻略の手助けだ。その結果、デスペナルティを負う事になったとしても構いはしない。

 そんな決断を下す位に、ケインはジン達五人に惚れ込んでいるのだった。


************************************************************


「ダウンまでの道筋は見えたな、ジン」

 ジンの横に並び立ったのは、和風甲冑を身に纏った武者の少年だ。

「ごめん、ジン。破れかぶれで突撃でもするのかと勘違いしていた」

「気にしないでよ、ヒイロ。成功するかどうかって意味では、確かに破れかぶれだったし」

 刀を構える二人の視線の先には、己の攻撃を弾き返された事に、怒りを滲ませているように見えるエクストラボス。

「じゃあ、反撃開始か?」

「あぁ、反撃開始だ!」

 両手に小太刀を持った忍者と、両手で刀を握り締める鎧武者。二人は同時に迎撃体勢を取る。


 再び、キョウカオロチから火球が打ち出される。

「「はぁっ!!」」

 二人が同時に刀を振るうと、跳ね返された火球は再びキョウカオロチに命中した。その際、先程の辺撃よりも派手なエフェクトが発生する。

「……さっきより、ダメージを受けていないか?」

 ヒイロの言葉に、ジンはキョウカオロチのHPバーを見る。

「でも、そこまでHPは減ってないね?」

「ダメージは与えてると思うんだが……もしかして、ダウン状態になるまでの値かな?」


 キョウカオロチは火球を生成するだけあり、火属性攻撃への耐性がある。しかし、跳ね返された火球を受ければダウンするまでの値は蓄積するのだ。

 ヒイロは、キョウカオロチが先程よりもダメージを受けた理由を考える。真っ先に思い付くのは当然、ジンとヒイロの二人で打ち返したから。つまり、ジンとヒイロの攻撃が重なったからだ。それならば、適任が一人いる。


「……ヒメ!! 一緒に来てくれ!!」

 ヒイロに呼ばれたヒメノが、慌てて駆け寄る。

「お兄ちゃん、どうしましたか?」

「多分、火球を跳ね返す時のSTR値も関係している! ヒメも一緒にやって欲しい!」

 腰に差した短刀を見て、ヒメノは一瞬迷い……そして、視線をジンに向けた。ヒメノの視線を受け、ジンは微笑みながら頷く。

「一緒にやるでゴザル、ヒメノ殿!」

「……はいっ!!」


 弓を背負い、刀を抜いたヒメノ。リーチの関係上、ヒメノが最も前寄りに立つ。丁度、そのタイミングでキョウカオロチが火球を生み出していた。

「合わせるぞ!」

「うむっ!」

「了解です!」

 放たれた火球を睨み、三人は呼吸を合わせる。

「「「せーのっ!!」」」

 三人同時に弾き返した火球は、これまでにない勢いでキョウカオロチへ向けて飛んでいく。そして、その身体に着弾し……激しい爆発が起きた。


「やった!!」

「うん、やっぱりSTRが絡むみたいだ」

 喜ぶヒメノと、予想が当たって満足そうなヒイロ。その目前で、キョウカオロチの身体が揺れる。

「ヒメノ殿、ヒイロ! ボスが……!」

 今の一撃により、キョウカオロチに蓄積したダメージがある数値に達した……待望の、ダウン状態である。


「レンさん!」

 ヒイロの声を受け、口元を緩めるのは蒼銀の美少女。後方でシオンに守られていたレンは、既に魔法攻撃の手筈を整えていた。その表情は、挑戦的な笑みだ。

「お任せを。さぁ、参ります!」

 右手の《伏龍扇》と左手の《鳳雛扇》を胸の前でクロスさせ、レンはその形の良い唇で息を吸い込む。そして、キョウカオロチに向けて力強い声色で宣言した。

「【サンダーストーム】!!」

 雷属性魔法と風属性魔法を、【魔法合成】したレアマジック。吹き荒ぶ風雷がキョウカオロチに殺到し、その全身を呑み込んでいく。


「私もいっちゃうわよー!!」

 レンの様子を見て、魔法の準備を進めていたイリス。その魔法は、レンに数秒遅れて完成した。

「とっておきよ、よーく味わいなさい!!」

 習熟度がレベルが5に達する事で会得出来る、光属性魔法特有の魔法。それが今、放たれる。

「【シャイニングブラスト】!!」

 それは光の柱。水平方向に放たれた、直径2メートルほどありそうな光の柱を象った”魔法砲撃”だった。まるでマスターのスパーク。ディバインのバスター。要するに、光魔法の真髄的な何かだ!!


 その間に、シオンやケイン・ゼクスも前線へ合流した。

「お三方、僭越ながらお供させて頂きます」

「見事だった。ここからは俺も、協力させて欲しいかな」

「へへ、俺はSTR値はそこまで高くないけどな。居ないよりは、マシだろ?」

 三者三様の言葉に、ジンとヒメノ、ヒイロが笑みを浮かべる。

「とても心強いです! それじゃあ……行きましょう!!」

 ハッキリと返すヒイロが、キョウカオロチに向けて駆け出す。それを見たジン達も、遅れるものかと走り出した。


「先手は貰うでゴザル!! 【分身】!!」

 AGIを駆使してヒイロを追い抜いたジンは、キョウカオロチの背中目掛けて高く跳ぶ。

「”追撃”せよ!! 【一閃】!!」

 召喚したNPC(ジン)に”追撃”の指示を出し、ジンが【一閃】を放つ。それを追うようにしてキョウカオロチへ迫るNPC(ジン)も、【一閃】を繰り出してみせた。


「行くぞ……!! 【デュアルスラッシュ】!!」

 一閃を温存し、ヒイロは通常スキルから攻撃を開始する。ダウンしているキョウカオロチの首の一つに、二筋のダメージエフェクトが奔っていく。


「本気で、行きますっ!!」

 ヒメノは短刀を構えたまま、キョウカオロチに接近する。

「【一閃】!!」

 短刀による攻撃ではあるものの、ヒメノのSTR値の高さを考慮すれば誤差だ。その攻撃はクリティカルとなり、激しい光が弾けた。


 その後からキョウカオロチに迫るシオンが、幅広の大太刀を振り上げる。

「はあぁっ!!」

 そんな掛け声と共に、シオンが大太刀を振り下ろした。目標は、ヒメノが攻撃した首だ。

「【一閃】!!」

 ヒメノの【一閃】で力尽きる寸前だった首の一本。それを狙った大太刀の【一閃】により、キョウカオロチの首が一つ潰れた。


 更に、背後から放たれる援護射撃。

「【ウィンドボール】!!」

 発動の早い風属性魔法、その中で最も早く放てるボール系呪文。

 援護射撃と侮るなかれ、ユニークスキル【神獣・麒麟】によるINT強化という恩恵を受けたレンの魔法だ。その威力は、並大抵の魔法職では太刀打ち出来ない領域へ引き上げられている。

 そんな高威力魔法攻撃が、立て続けにキョウカオロチの首の一つに降り注ぐ。ヒイロが攻撃していた首だ。あっという間にそのHPが全損し、二つ目の首が力なく項垂れた。


「【シャイニングボール】!!」

 レンに倣って、イリスも発動の速さを重視する。(MP)具合からも、連射性能重視の方が良いという判断だ。

 そんなイリスの標的となった首に向かって、ゼクスが短剣を構えて迫る。

「【デュアルスライサー】!!」

 彼の持つ≪ディレイダガー≫に付与された、【敏捷度低下】の状態異常が発生。状態異常の対象となったのは首一本だが、より長くダウン状態になるのは儲けものだった。

 状態異常化した首の前で、ケインは愛用している剣を構える。

「【デストラクトスラッシュ】……はああぁっ!!」

 ゆっくり振り上げる洋風の直剣。頭上で一度構えた後に、渾身の力を込めて振り下ろす。直剣の武技において最も隙が大きく、最も威力が大きい技。それが、【デストラクトスラッシュ】だ。

 三人の連携攻撃を受けた、三つ目の首。そのHPを削り取られた三本目は、力を失って地面に這い蹲った。


「あの時みたいに、連続で……!!」

 両手の小太刀を握り締め、ジンは一歩を強く踏み出す。アンコクキュウビを倒した、あの瞬間を強く思い出しながらだ。

「【スライサー】!!」

 ジンの放った右手の《大狐丸》による【スライサー】が、キョウカオロチを斬り付ける。


 しかし、ジンの攻撃はそれで終わりはしない。自分の中で、最もベストだと思えるタイミング……その瞬間を見計らって、ジンは左手の《小狐丸》に力を込めた。

「【デュアルスライサー】!!」

 それは、武技発動後の硬直を無視した武技の連続発動。その攻撃はすんなりと発動し、キョウカオロチを斬り付けた。


 他の面々が、ジンの繰り出した攻撃を見て驚く。

 ヒイロとヒメノは、有り得ないものを見たという思いからである。しかしレンとシオン、ケイン達は……ジンが【チェインアーツ】を発動した事に対して、驚いていた。

「【ライジングスライサー】!!」

 そんな驚愕する面々を余所に、ジンは三度みたび武技を発動した。


************************************************************


 武技は魔法と違い、名称を宣言する事で即時発動するアクティブスキルだ。魔法は詠唱が必要な代わりに発動後の硬直時間が無い。逆に、武技は発動後の技後硬直が発生するものが殆どである。


 しかし、アナザーワールド・オンラインには“ある仕様”が存在するのだ。

 武技が発動終了する、ほんのわずかなタイミング。その瞬間に別の武技を重ねて発動する事で、武技による連撃を繰り出すのだ。公式には発表されていないPSプレイヤースキルなのだが、プレイヤーはその技術を【チェインアーツ】と呼称している。


 勿論、デメリットも存在する。【チェインアーツ】を発動する事が出来る時間……攻略組等の間で“チェインタイム”と呼ばれている時間は、ほんの僅か一瞬。つまり、単純に難しい。

 そのチェインタイムは、武技を発動すればする程に短くなる。二撃目よりも三撃目のチェインタイムが短くなるのだ。タイミングがどんどんシビアになっていくのである。


 また【チェインアーツ】は技後硬直を後回しにするのであって、キャンセルする訳では無い。発動した武技の分だけ、後でまとめて技後硬直が襲い掛かって来るのだ。

 更に【チェインアーツ】発動に失敗すると、手痛いペナルティが発生する。それは元々発動している武技と、失敗した武技の技後硬直だけが発生する事だ。こうなると、敵に致命的な隙を晒す事になる。


 ジンが【チェインアーツ】を発動出来たのは、彼自身のステータスがまず関わって来る。チェインタイムを伸ばせるステータスが、二つあるのだ。それはAGIとDEXである。

 ステータス値の上昇で延長できるチェインタイムは、ごく僅か。しかし、そのごく僅かな時間こそが大きな要因である。


 更に言えば、ジンの持つ≪大狐丸≫と≪小狐丸≫。この二振りの小太刀も、【チェインアーツ】発動に大きく寄与している。チェインタイムは、武器の種類毎に設定されている。そして、≪短剣≫や≪刀剣≫はチェインタイムが長く設定されているのだ。


 AGI極振りに加えて【九尾の狐】によるステータス強化、そして≪刀剣≫と≪短剣≫の両属性を持つ二振りの小太刀。恐らくジン以上に、【チェインアーツ】向けのビルドはそうそう無いだろう。


************************************************************


 ジンの連続攻撃は、更に続いた。【エイムスライサー】を繰り出した後、クールタイムの終わった【一閃】を放つ。キョウカオロチの首を一本潰した所で、使用出来る武技が尽きた。そうなれば【チェインアーツ】は途切れ、ジンは技後硬直に突入する事になる。

「ぬぅ……っ!?」

 これまで発動した技後硬直が、まとめて来るのである。思う様に身体が動かない事に、ジンは焦りを覚えた。


「ジン!? ボスが復帰するぞ!!」

「ジンさんっ!!」

 解っているのだが、どれだけ力を込めても身体が動かないのだ。返事をする事もままならず、焦りが募って行く。

 ジンの目前でダウンから復帰したキョウカオロチが、真っ先に睨むのはやはりジンだ。口元に火球が生み出されていく。


「【サンダージャベリン】」

 ジンを狙うキョウカオロチの首は、残り五本。その口元の火球に向けて、雷の投槍が飛んだ。雷の投槍が火球に命中すると、火球が盛大に弾けた。

「今のは……!!」

 同時に五本の【サンダージャベリン】を撃てる者など、この場には一人しかいない。


()()()()は、やらせません……!!」

 それは、無意識の内に口にした言葉。レンはゲームを始める時、シオンとしか正式なパーティを組まないと心に決めていた。攻略最前線のパーティに参加するとしても、一時的に行動を共にするだけの間柄でしかない……そのはずだった。

 しかし彼女は今、自分で口にしたのだ……ジンを、そしてヒメノやヒイロの事を()()だと。


 理由は単純明快だ。それは出会って間もない彼等との攻略で、レンの心境に変化が齎されたから。

 見返りを求めず、下心も無く、ただ共に歩む。そんな彼等の関係を、心の奥底で羨んでいたのだ。そして輪の中にはレン達も居るのだと言わんばかりの、三人の態度。

 彼等に対しては、警戒心を捨てられる。ありのままの自分で、接する事ができる。楽しい一時を、共に過ごせる。


「皆さんの背中、私が預かります!!」

 彼等にならば背中を預かり、預けられる。

「レン殿、感謝するでゴザル!!」

「背中を預けます!!」

「レンさん、ありがとうございます!!」

「お嬢様も、決して無理をなさらず」

 四者四様の返答。そのどれもが、心地良い。レンは思う……今ならば、誰にも負ける気がしないと。


「……良いパーティだ。これは負けていられないな!」

 ジン達の様子を見ていたケインが、力強い言葉で仲間を鼓舞する。そんなケインの言葉に、イリスやゼクスも笑みを浮かべて頷き返した。

「もっちろん! やっちゃいましょー!!」

「へへっ……俺もやれるって所を、見せてやるぜ!!」


 ……


 ジンの機転で判明した、キョウカオロチの攻略法。それさえ解ってしまえば、後は簡単だった。

 無論大型ボスは、残りHPによって新たな行動パターンが追加される。しかしこのパーティには、攻略最前線で辣腕を揮ってきたレンとシオンが居る。更に、それに準じる実力を備えたケイン達のパーティが、前線も後衛も補強する形となる。


 注意喚起の声が飛べば、誰もが聞き入れて対応した。

 残りHP半分で、キョウカオロチの攻撃に尻尾振り回しが追加される。ジンとゼクスは避け、ヒイロとシオン・ケインは盾で受ける。ヒメノは下がって、武器を弓に切り替えた。レンとイリスの後方支援に、加わるSTR極振り。弱点が露見したオロチは、ジリ貧になるのも無理は無かった。


 残り三割でキョウカオロチは、口から炎の息吹ブレスを放った。盾役の三人が被弾したものの、攻撃自体は耐えられた。

 その後はジンが回避しながら、攻撃の予兆などを他の面々に確認させた。その際、ゼクスの遅延ディレイ効果が一役買うのだった。そんな二人の奮迅により、攻撃前に尻尾がやたらと動くという予兆を見せる事が判明。そんな攻撃前の予兆を見切れば、後は簡単だ。


 そして残り一割に至った所で、キョウカオロチがダウンした。当然、これはレンやシオンからの指示だ。

 残り一割で発生する、新たな行動パターン。追い込まれたボスモンスターの最後の足掻きは、決して侮れないのだ。だからこそ、そのタイミングにダウンを誘発したのだった。


「全力攻撃です!!」

 自らも魔法の詠唱を進めながら、レンが全員に指示を飛ばす。


「【空狐】!!」

 長い技後硬直を覚悟の上で、ジンは【チェインアーツ】で畳み掛ける。【分身】を既に使ってしまったのが、手痛い。しかし、それでなくともジンの猛攻は凄まじい。

「【スライサー】!! 【デュアルスライサー】!! 【ライジングスライサー】!!」


 そんなジンを横目で見つつ、ヒイロも武技を発動させる。

「【スラッシュ】!!」

 そのまま、ジンのように……そう思いつつも、【チェインアーツ】を発動させようとして止めるヒイロ。感覚的に、気付いたのだ。今の自分では、ジンのような連続発動はマズいと。

 ジンの動きが止まったのが、まとめて後払いになる技後硬直だという事も察していたのだ。堅実と安定がヒイロの持ち味。それを無理に崩す必要は無い。


「【デストラクトスラッシュ】……はあぁっ!!」

 一撃に全てを賭けた、強力無比な一撃を繰り出すケイン。

「起きるなよ、ヘビ公ッ!! 【ラピッドスライサー】!!」

 状態異常の発生率を上げるべく、ゼクスは手数が多い武技を発動して攻め立てる。

「【シャイニングカノン】!!」

 再度発動された光の柱が、キョウカオロチの胴体に直撃する。そのHP減少は、加速する。


「【パワーショット】!!」

 矢を放ったヒメノは再度、弓に矢をつがえる。

「【エイムショット】!!」

 二射目を放った後、ヒメノは背後の様子を見る。一つ頷くと、ヒメノはキョウカオロチに向け駆け出した。

 ヒメノが確認したのは、レンの攻撃タイミング。レンの魔法がそろそろ完成すると悟って、キョウカオロチに最後の一撃を繰り出すべく駆け出したのである。

 それ即ちヒメノがトドメを刺すところまで、レンが持っていってくれるという事。レンに対する、無言の信頼であった。


 そんなヒメノの意図は、レンにも伝わっていた。言葉をかけられずとも解る、ヒメノからの信頼。その気持ちに応えるべく、レンは声を張り上げる。

「【サンダースコール】!!」

 雷属性と水属性を合成した、二属性複合魔法。キョウカオロチに降り注ぐ雨、落ちる落雷。その属性相性は良く、キョウカオロチのHPが一段と早く減少していく。


 ヒメノが”破壊の天使”ならば、レンは”殲滅の女神”とでも称するべきだろう。


「【エレメンタルガード】!!」

 ジンとヒイロの間に立ち、掲げた盾で武技を発動するのはシオンだ。レンの魔法で二人がダメージを負わぬ様、最初から準備していたらしい。

 シオンは、レンと協議しながら【魔法合成】をしていた。レンの事をよく知り、レンの手札を熟知しているシオンならではの対応だ。

「ありがとうございます、シオンさん!」

「助かったでゴザル、かたじけない!」

 ジンとヒイロの声に、シオンは薄く微笑み嘯く。

「メイドですので」

 本職は秘書なのだが、ゲームではメイドですので。


 魔法的マジカルゲリラ雷雨が過ぎ去り、キョウカオロチのHPは枯渇寸前。しかし、キョウカオロチがダウン状態から復帰を果たしていた。繰り出したのは、残された最後の首による噛み付き攻撃だ。

 ヒメノはジンの様に回避する事も、ヒイロやシオンの様に攻撃を受け止める事も出来ない。ヒメノを喰い殺そうとばかりに迫る、巨大な大蛇の口。


「【クイックステップ】!!」

 ヒメノが喰い付かれる寸前、黒い影がヒメノの下へ現れた。紫色のマフラーを靡かせた、漆黒の忍者……ジンである。

 ジンはすかさずヒメノを抱え上げ、脚に力を込める。

「【ハイジャンプ】!!」

 二人分の重みであっても、跳躍に特化した武技ならばジャンプする事が可能だ。ジンにお姫様抱っこされ、ヒメノは頬を赤く染める。


――ジンさん、まるでヒーローみたい……。


 白馬に乗った王子様よりも、黒衣を纏った忍者様の方がお好みらしい。しかし、それどころではないのを思い出して頂きたい。

「ヒメノ殿、今でゴザル!!」

 ジンの言葉で、ヒメノは現状を思い出す。長かったダンジョン攻略を締め括る、絶好の機会が訪れたのだ。

「はいっ!!」


 自由落下を始めたジンとヒメノ。ヒメノは《ユージンの短刀》を振り上げ、眼前に迫るキョウカオロチの最後の首……その眉間を狙って振り下ろす。

「【一閃】!!」

 それが、最後の一撃となった。キョウカオロチのHPバーが黒く塗り潰され、その巨体が力を失い地面に倒れ伏す。


『エクストラクエスト【狂った大蛇】をクリアしました』

―――――――――――――――――――――――――――――――

ユニークスキル【八岐大蛇Lv1】

 説明:侵掠しんりゃくすること火の如し。習熟度が向上すると、新たな武技を習得する。

 効果:STR+50%。他のステータスを−50%。


武技【蛇腹剣Lv1】

 説明:武器を分割し、蛇腹剣に変化させる。≪刀剣≫≪長剣≫≪短剣≫≪大剣≫を対象とする。

 効果:発動中、STR-50%、射程距離+10m。


Lv2 【炎蛇(えんじゃ)(未習得)】

Lv3 【蛇捕(だほ)(未習得)】

Lv4 【氷蛇(ひょうじゃ)(未習得)】

Lv5 【蛇搾(ださく)(未習得)】

Lv6 【雷蛇(らいじゃ)(未習得)】

Lv7 【蛇口(だこう)(未習得)】

Lv8 【風蛇(ふうじゃ)(未習得)】

Lv9 【水蛇(すいじゃ)(未習得)】

Lv10【八岐大蛇(未習得)】

―――――――――――――――――――――――――――――――

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― 新着の感想 ―
無理やり毒で突破したけどアンコクキュウビにも何かAGIが必要な特殊ギミックあったのかなぁ...
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