10-07 打ち合わせをしました
第三回イベント……魔王への誕生日プレゼントを用意するという、生産系イベント。その報酬は武装用のスキルオーブを得られる、≪魔札≫というチケットだ。
十位以上にランクインする事で一枚、七位以上で更に一枚。四位以上でもう一枚が手に入り、一位になれば更に二枚。つまり、一位になると≪魔札≫が五枚貰えるという事だ。
このイベントに参加する事を決めた、ギルド【七色の橋】。
ちなみにプレゼント可能なアイテムは、一人一つまで。二つ以上はプレゼント出来ないという事だが、例外として誰かの製作するアイテムに連名という形はありらしい。
「やはり、カノンさんは武器を?」
ヒイロの質問に、カノンは珍しく澱みない口調で答える。
「そうだね……実用性もあって、見た目が良い武器を作ろうかな」
そもそも魔王のメインウェポンが何かを知らないので、迷う所だが……それでもカノンは、やる気を滾らせている。こんなカノンを見るのは、初めてかもしれない。
「俺も、この四つの中では……うん、武器かなぁ」
「私も武器にしようと思います!」
星波兄妹は、カノンと共に武器製作で参戦する事に。装備に関わるユニークスキル持ちのヒイロと、STR極振りのヒメノならば納得の選択だろう。
「シオンさんは、どうするんですか?」
レンの問い掛けに、シオンはいつも通りの落ち着いた様子で返事をする。
「はい、料理と縫製で迷っていたのですが……折角【縫製の心得】がレベル8になりましたので、服部門で行こうかと」
その分、自身のPACであるカームは料理部門に参加するメンバーに同行させる事にする。料理人の彼を腐らせるのは、大きな損失なのだ。
「あ、私も服飾にする! 料理よりは、こっちのが向いてるし」
そう言って、シオンの横に並ぶセンヤ。彼女は生産作業ではシオンと共に、和服の量産を担当している。その為、縫製の師匠であるシオンとの関係も良好だ。
「うん、納得の選択かも!」
「そうね、センヤちゃんって現実でもお洒落さんだし」
ヒメノとアイネの言葉に、センヤは嬉しそうな表情を浮かべる。快活でボーイッシュな印象を受けるが、彼女もれっきとした恋する乙女なのである。
「成程……私は、今回は装飾で行こうかなと思います。自分でINT強化の装備品が作れるなら、今後の為にもなるでしょうから」
魔法職らしいレンの選択に、ネオンが同調した。
「そっか、そういう考えなんだね。そうだなぁ……それなら、私もそっちに行ってみようかな」
ネオンも魔法職として、更に成長したいという思いがある。こうして二人は装飾品担当になった。
「お婆ちゃんの畑の野菜も、ちょうど収穫時期だし……私は料理に行こうかしら」
「この中だと、私も料理で行こうかと……」
ミモリは自身のPACであるメーテルの事を考慮、アイネは四つの部門で一番慣れ親しんだものを選択。
そこで、ハヤテが手を挙げる。
「あ、俺も料理担当を希望ッスね」
ここで、ハヤテも料理班への参加を表明。しかし、予想外だったのでジンが首を傾げて尋ねた。
「ハヤテって、料理好きだったっけ?」
普段は弾丸製作を行っている為、どちらかと言うと細かい作業が多い装飾のイメージだった。
しかし、それにはハヤテなりのちゃんとした理由があるのだ。
「ゲーム的に考えて、いつか新要素の追加が有り得そうだからッスね」
「……新要素?」
首を傾げるアイネに、ハヤテは真剣な表情で答える。
「ほら、料理を食べる事でバフを得られたりとかありそうじゃないッスか。今の内に良さ気な食材とかの場所を押さえておけば、新要素が実装された時にスタートダッシュが切れるッス」
どうやらゲーマーとして、先を読んだ結果の選択だったらしい。ハヤテらしいと言えば、らしい理由である。
「うーん、僕はどうしようかな……ジンさんは、もう決めました?」
ヒビキの問い掛けに、真剣な表情で何かを考え込んでいたジンがハッとした顔になる。
「あ、ごめんなさい! 考え事の邪魔しちゃいました?」
「ううん、大丈夫。スキル的には武器なんだけどね……ちょっと、装飾にも手を出してみようかと思って」
その返答に、他の面々は意外そうな顔をする。現在の【七色の橋】の生産において、ジンは基本的に鍛冶作業に没頭していたのだ。
「何か、作りたい物があるんですか?」
レンの質問に、ジンは苦笑しながらも頷く。そんなジンの表情の理由をレンは一目で察し、ヒメノをチラッと見る。視線を向けられたヒメノは、何故見られたのか解らないがレンににっこり笑い返す。
――成程、成程……先を越されてしまうけれど、でもまぁこの二人なら……ふふふ、楽しいイベントになりそうね。
「解りました、協力し合って頑張りましょう」
「私も色々、調べてみますね!」
「うん、よろしく。一緒にいい物を作ろう」
チーム装飾班は早速、団結。それを少し残念に思うヒメノとカノンだが、ジンのやりたい事ならば応援する。それが二人の、共通の思いだ。
「うーん、それなら僕は……」
「ならヒビキ、一緒に縫製やらない? 楽しいよ、結構!」
最愛の恋人に誘われては、ヒビキもノーとは言えない。それにセンヤと共に何かをするならば、それは絶対に楽しい……それは確実だ。
「そうだね……何か、いい感じの物が作れたらいいな」
こうして、全員が何のジャンルに挑戦するかが決定した。更にそこへ、PACをサポートとして振り分ける。
武器部門はヒイロ・ヒメノと、大本命のカノン。サポートするのは、鍛冶職人PACのボイド。そして、STRの高さを見込まれたセツナとジョシュアだ。
装飾部門はジン・レン・ネオン。こちらには、自らサポート役を志願したリンと、カゲツが参加する。
服部門にシオン・センヤ・ヒビキ。三人は、連名で一つの物を作るつもりらしい。そこへ日頃からメンバー生産活動でサポートに手慣れている、ロータスとヒナのコンビが加わった。
最後に、料理部門がハヤテ・アイネ・ミモリ。こちらには料理人PACのカームと、農作業PACのメーテル。
こうして第三回イベントに向けた、【七色の橋】内での基本的なチーム分けが完了したのであった。
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チーム分けを終えたジン達は、まずはそれぞれ製作したい物を考える事にする。何を作るかが決まらなければ、必要な素材も定まらないからだ。
鍛冶班は工房、料理班は厨房へと向かっていく。縫製班と装飾班は、大広間に留まったままだ。
「さて、装飾品は貴金属が必要になる訳ですが……鍛冶で消費して、品薄ですね」
「縫製に使用する布も、どうせならより良い物を使用したい所です」
レンとシオンの言葉に、他のメンバーも頷く。最近はフィールドで素材集めをするにも、周囲のプレイヤーに囲まれたりで捗っていないのだ。
「そこで、取れる手はいくつかありますが……その内の一つはこれですね」
レンが取り出したのは、第二回イベントで手に入れたチケット。≪ゴールドチケット≫と≪シルバーチケット≫が一枚ずつ。そして≪プラチナチケット≫二枚だ。未使用の≪オリハルコンチケット≫は、所持者のマイルームに保管済みである。
いざという時の為に、溜め込んでいたチケット。そして素材を手に入れるには、まず≪シルバーチケット≫……そして、二枚の≪プラチナチケット≫を使用するのが手っ取り早い。
「ですが……その顔を見ると、皆さんも使わないんでしょうね」
「そう言うレンさんもでしょ?」
苦笑するレンに、ジンも似たような苦笑いを向ける。シオンも同様の表情だ。
「チケットを使えばレア素材を得る事は可能ですが、それでは競い合う条件が対等ではない……でしょう、ジン様?」
「過去にスキルや装備を、いくつか手に入れています。だから全体的な視点で見ると、完璧なフェアなんて不可能なのは理解してます」
そこまで言って、ジンは困った様な顔をする。
「でも、僕に合わせる必要は無いんですよ? 皆は皆で、自分のチケットは好きに使って貰った方が……」
ジンの方針である、フェアな条件での競い合い……これはジンの、元・陸上競技選手としてのプライドがあるからこそだ。それに他のメンバーが付き合う必要は、どこにも無い……と、ジンは考えているのだが。
「ジンさんが準決勝・決勝の場で、フェアプレイ精神を公言しましたよね?」
「その為、それが【七色の橋】というギルドの方針と捉えられているはずです。よく聞く、ギルドカラーというやつですね」
レンとシオンの言葉を聞いて、ジンは表情を歪める。自分の言葉が、仲間達にまで影響を及ぼす可能性にまでは思い至らなかったのだ。
「ごめん、僕のせいで変な制限が……」
「おっとジンさん、謝っちゃ駄目ですよ?」
ジンの言葉を遮って、センヤがチッチッチ……と指を振る。
「良いじゃないですか、正々堂々! 私は賛成ですよ!」
そんなセンヤの言葉に、ヒビキとネオンも同調する。
「私もです♪ むしろ、そんなジンさんだから良いんですよ」
「僕も、ジンさんの考えに賛成です! ジンさんのスタンス、憧れます!」
三人の言葉に、ジンはホッとした表情になる。
そんなジンに、レンとシオンも声を掛けた。他の三人が感情論でジンを安心させるならば、現実的な面で彼を安心させようと思ったのだ。
「それに私達は、第一回・第二回共にイベントで上位に入ったギルドですからね。そういったギルドカラーと認識されるのは、むしろ好印象を与えるはずです」
「逆に卑怯な手を使うと、悪質なプレイヤーに目を付けられたりします。それを避ける意味でも、ジン様の方針に合わせるのは良い事かと」
既に変な輩に目を付けられてはいるのだが、それについては華麗にスルーだ。それを考え出したら、キリが無い。
ちなみに変な輩とは女性陣を口説こうとしたり、トップギルドである【七色の橋】に加入させろというプレイヤー達の事だ。
優勝騒動はある程度沈静化したが、未だにそういった輩はちらほら現れる。
無論、それが功を奏するかと言うとそんな訳がなく……ジン達が通報したプレイヤーの数は、そろそろ三桁に達しそうなのだった。
ちなみに言うと、通報イコール即座にアカウント凍結や削除では無い。今回の件に関して言うと、アカウント削除はゼロだ。内訳としては凍結が十名余りであり、それ以外は運営アバターからの厳重注意で済んでいる。
ともあれ、ジンのプレイ方針は【七色の橋】全体で支持されている。その事にホッとした表情をするジンに、仲間達から温かい視線が注がれる。
コホンと一つ咳払いをし、ジンが話題転換を試みる。
「となれば、素材に関しては現地調達か取引掲示板ですね」
「掲示板の方は、同じ事を考える人が既に買い占めに走っていそうですよねぇ」
生産系イベントとなれば、これまで日の目を見る事が無かったプレイヤー達が意気込んでいても不思議では無いだろう。既に、主だった素材は完売していても不思議ではない。
「それも踏まえて、製作したい物を明確に決めておいた方が良さそうです」
……
装飾班の三人は、イメージが固まるのは早かった。
レンが製作したいのは、首飾りだという。その理由は、単純明快だった。
「首飾り系のアイテムは、魔法職のプラスになる効果が付与しやすいんです。いずれ、自分用の物を作りたい所ですね」
彼女の言う通り首飾り系の装飾アイテムはバフ効果を与える物やINT強化、MP強化等の効果を与える物が多い。自分に適した物を製作する為に、魔王への贈り物をテストケースにしようという辺りがレンらしく強かさを感じさせる。
一方、ネオンは頭用の飾りを考えているらしい。
「魔王っていうけど、容姿はお姫様みたいに綺麗だったから……それなら、ティアラみたいなのが似合うんじゃないかと思って」
そんなネオンの言葉に、レンが何故かフッと不敵な笑みを浮かべて目を閉じた。他の面々は首を傾げるだけだったが、付き合いの長いシオンだけはその理由が分かった。
――お嬢様、淑女が「お前には負けたぜ……」みたいな顔をするのはどうかと思います。
レンの笑みは要するに、ネオンに対する賞賛からだったらしい。意訳すると「君の女子力に完敗」みたいなものだろう。
そして、ジンだが……彼は、ある事に付いて考えていた。
「えぇと、ゆ……いや、腕輪を作ろうかなって」
指輪……と言い掛けた所で、レンとシオンがニマニマと笑みを浮かべたのは華麗にスルーだ。
「腕輪なら、近接戦の邪魔にもなりにくいし……あとは、えーと、うん。オシャレだし! ね!」
珍しく、必死な表情のジン。ヒビキ・センヤ・ネオンは「……ん?」と首を傾げるだけであり、レンとシオンは「解ってる、解ってるから……」というやけに優しげな笑みを浮かべるだけだ。
――魔王には腕輪を贈る事にして……そのノウハウを活かして、ヒメに贈る指輪を作ろう……!!
結婚システムに基づいてプレイヤー同士が結婚する場合、まず必要になってくるのが指輪。結婚する者同士で各町にある教会に行き、祭壇の前で指輪を左手の薬指に嵌める事で結婚は成立するのだ。
その際に必要となる指輪は、プレイヤーが用意する必要がある。そして結婚の際に嵌めた指輪は、後から別の物に変える事は出来ないのである。
そうなると、必要になって来るのは金属。数ある金属の中で、どれを使って製作するか……それを選定する必要がある。
ジンがシステム・ウィンドウを開き、可視化。それをレンやネオンに見せる様にして、三人は素材について情報掲示板で情報集めを行う。
「今、手に入る金属で一番貴重なのは……≪アリージャ鉱石≫かな?」
「そうですね……とはいえ、他に何か貴重な素材が存在する可能性は否めません。公になっている情報が、全てではありませんからね」
そして装飾品は、金属だけで成立するとは限らない。より美しい物を製作するならば、飾り用の宝石も必要だ。鉱石の次は、宝石についても情報を集めていく。
「へぇ、≪ハレリオ宝石≫。これは綺麗だね」
「本当ですね、ただ加工にはそれなりのDEXが必要かもしれません」
一方、服飾班。
「やはりここは、他のプレイヤーの期待に応える形で和装を製作しましょう」
シオンの言葉に、ヒビキとセンヤが満面の笑みで頷いた。最も他のプレイヤー云々のくだりはジョークであり、二人もそれは理解している。
「和装は他に作れる人が限られていますから、競争率も低いと思いますし!」
「やはり、珍しい物に興味を持つ可能性は高いですよね」
中世ファンタジー世界をベースにした、このAWOである。用意されている服系アイテムは、洋装が主だ。魔王達も洋装だったので、和装は珍しく興味を惹く可能性が高い……三人は、そう判断した。
「布と糸が必要ですね……どんな物を使います?」
「糸は【シルクワーム】というモンスターのドロップする糸が、現在では最も高級な品ですね。取引掲示板では、相当の値段らしいです」
澱みなく答えるシオンに、ヒビキとセンヤは難しい顔をする。
「同じ部門の人達が、こぞって買い集めに走るとなると……」
「はい、更に値が吊り上がっているかと」
そんな服飾班の言葉を聞き、ジン達は顔を見合わせる。
「やっぱり、現地調達が手っ取り早そうかな?」
「そうですね、多分ですが他の班も同じ結論でしょう」
取引掲示板はチェックするものの、今回はあてに出来ないだろう。となれば、自分達で採取するのが最も良いはずである。
そこへ、調理班が顔を見せる。
「皆、少し相談なんだけど……」
苦笑いしているミモリとアイネの表情から、言いたい事は伝わっている。
「現地調達ですね?」
スパッと相談内容を言い当てるレンに、ハヤテがニヤリと笑う。やはりその結論になるよね……と顔に書いてある様だ。
更に鍛冶班も合流し、鉱石・宝石と布・糸……そして食材集めをする事に。
「鉱石と宝石は北側が無難かな。そういえば、料理は何を作るんだ?」
ヒイロの問い掛けに、ハヤテがピッと指を立てる。
「魔王の好みを考慮して、俺はステーキを作るッス」
「で、私がビーフシチューね」
「私はスイーツにしようと思っています。やっぱり、誕生日ですからケーキが良いですよね」
メイン・スープ・スイーツと、被らないように分けたらしい。ミモリとアイネは、単純に得意分野がその料理だそうだ。
「武器は……結局、連名にする事に、したよ……」
カノンの言葉に、ヒイロとヒメノが笑顔を浮かべて頷く。
「入賞の確率を上げる為にも、一つの物に素材や人手を費やそうかなと」
「専門家のカノンさんが中心です♪」
これは三人が議論し合い、貴重な素材を使用すると必要数がとんでもない事になると懸念したからだ。
また三人が製作したい物が、共通していたのも理由の一つである。
「やっぱり、刀だね?」
「ま、俺達といったらそこだよね」
ギルド【七色の橋】の特徴といえば、和装と刀。これはAWO全体における共通認識と言っても、過言ではないだろう。
「それに、刀は美術品としても……高い評価を、得ているから……」
日本刀が、海外で美術品として評価されているのは、今も昔も変わらない。それを踏まえて、三人は最高の刀を鍛えようという結論に達したらしい。
こうして必要な素材について、全員で共有する【七色の橋】。いくつかのグループを組んで、素材集めの担当を決めていく。
そこへ、一通のメールが届いた。
「おや? 【桃園の誓い】からだ」
ギルド【桃園の誓い】……【七色の橋】の姉妹ギルドとして結成された、ケイン達のギルドだ。
「……ふふっ、成程。良いかもしれないな」
「ケインさん達、何だって?」
楽しげな表情のヒイロにジンが声を掛けると、彼は全員に視線を巡らせて言葉を発した。
「ギルド【桃園の誓い】から要請があった。今回のイベント、同盟として参加しよう……だってさ」
次回投稿予定日:2021/4/13
姉妹ギルドとして結成された【七色の橋】と【桃園の誓い】。
和風&中華ギルド同盟、いよいよ真価を発揮する時です。